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野村吉三郎君 第二には、ただいまは
野党に対する態度について御所見を承わったんでありますが、今度は
国民に対してのところに対して御所見を承わりたいのであります。こんなような
質問を今繰り返すのは、ここに私は強い過去の経験からして理由を持っているのであります。それは太平洋
戦争の起った原因は、
昭和十二年、満洲事変もありましたが、
昭和十二年シナ事変が発生した。当時の
内閣はこれを局地解決することができなかった。無能と言わぬですが、よくしなかった。それで漸次拡大した。かつシナの商売は、私はシナを回りましたが、シナの商売は漸次
日本で独占しておった。それから三国同盟をやった。そうして新秩序の建設、東亜共栄圏をうたって、欧米その他の国をことごとくシナ大陸から排斥した。これが
戦争の遠因であったと思います。しかしながら直ちに原因ではなかった。直接の原因は、
昭和十六年七月、仏印南部に
日本が出兵した。その結果、米英その他の国が連合して
日本と経済断交をやったためと私は思っております。当時の
日本は、生産部面においては米一国に対して一割、十分の一程度であったと思いますが、経済断交によって油が来なくなったことは非常な痛手でありまして、漸次乾坤一擲のギャンブリングに突入することになり、真珠湾攻撃というようなところになったと思います。
政治家は、彼を知り、おのれを知らねばならぬが、私は帰朝後いろいろの人に接する間に、作戦の高級
責任者をもってして、私らは米国をよく知らなかったという述懐も聞いたことがあるのであります。この
戦争になるまで、当時の
政府、議会、
国民は、各国の
情勢をどれほど検討しておったか、そういうことについて私は疑問を持っておるのであります。
日本は将来かかるあやまちを繰り返してはならない。繰り返しては大へんである。私は今日の国際環境で直ちに大
戦争になるなどとは予想しておるものでもありません。また憲法九条にある
戦争放棄の部分にも、
戦争放棄そのものには賛成しております。現に
鳩山さんが書記官長をやっておられた田中
内閣、これは
昭和の初めでありますが、不戦
条約に加盟しておる。
パリスで調印して、その後枢密院でいろいろ議論になったのですが、これは批准されております。しかし、さりとて未来は、単に高遠なる理想の
通りいって、一切他国を侵略するものがないとか、経済圧迫を加えて来るものはないとか、ただしは口に平和的
交渉、他国に不干渉を唱えて、そうして実際干渉するものがあるとか、地下工作を試みるものがあるとかいうような点においては、いまだ世の中は楽観すべきほど進歩しておるとは思わぬめであります。ついては自衛手段は持たねばならぬ。
現在
日本の貿易は私は
日本の死活問題になっておると思う。ライフ・ラインになっておると思う。九千万人の食糧の二割以上、去年は豊年だといわれますが、やはり食糧は相当輸入せねばならぬ。油も一千万トンか輸入しておる。製鉄原料は一千数百万トン輸入しておる。木綿等の原料、重量で総計三千数百万トン、一万トンの船で三千隻以上で輸入しておる。合せて総体で三千隻以上です。米ドルで二十数億のものを輸入しておる。またこれにほぼ相当する金額のものを輸出して、ようやく
国民生活ができるのであります。今や交通通信は発達しておって、至るところ近くなりましたからといって、かつて唱えた善隣友好主義を拡充して、あらゆる国と親善を保って、そうして貿易を拡大していかねばならぬ。そうして
国民生活を豊かにせねばならぬということは申すまでもないのです。しかしながら、現状において
日本が輸入しつつある必需品、これは主として自由諸国よりでありまして、共産圏よりはわずかしか入ってこないと思います。また入る見込みはないのです。従って貿易上、共産圏をもって、自由圏に変えるというようなことは不可能であります。もちろん、私は賠償問題をなるべく早く解決し、東南アジア方面へ時期を失せず経済的に進出すべきだと思っております。これらの点をよく考慮した上で、私は自由諸国との密接な
関係は、まさに
日本のライフ・ラインと言って間違いないと思っておるのであります。ややもすれば西洋では、
日本はクロス・ロードにあるということを言っておりますが、私は以上の
考えを持っております。もしこれらの事実を閑却して、感情にまかせて米国その他の国に対して極端な排斥運動を始めるということになると、またまた経済圧迫を受くる危険が全然ないとは申されぬと思います。万々一そういうことになれば、またまた一合五勾の配給、木炭自動車、人力車、牛馬車全盛時代にならぬとも限らない。私は今度の
戦争のあやまちを繰り返してはならぬと思っております。太平洋
戦争前に勢いに乗じていささか理性をうしろにした感があって大戦に突入いたしました。そのあやまちを避くるためには、英国はよい例になると思っております。英国人一般が、自国の生命線たる貿易路、トレード・ルートのことをよく
承知しておりまして、軍縮
会議その他においては絶えずこの問題を根本にして議論しますが、保守党も労働党もこれを守るに
意見が一致しておるのであります。その他、国策の根本においてもほとんど差異ない
考えを持っておる。
こういう点を
考えますと、
日本もこれらの点にかんがみまして、
国民に真実を語り、真実の情報を普及せしめたならば、
日本の文化はかなり進んでおるのだし、
国民一般も常識を持っておるのであるからして、ばかなことはしないであろう。平和を保ち太平洋
戦争を繰り返さぬためにはそういう手段をとられるのが必要である。私はその必要を痛感して種々の場合にその必要を説いておるのであります。ある外国人は、その人は
鳩山さんも御存じの人ですが、その人が申すのには、英国はこういう
目的のために巨額の金を出しておる。従って
国民はイギリスは貿易によって生活をしておるということをよく
承知しておる。それで
国民は共産党の実体までもよく
承知しておる。
日本政府はこういう点に無関心で一向金を出さないと不審がっていましたが、私はもっとものことだと思います。新聞があります。新聞はややもすれば、気に入ることはどんどん報道しますが、気に入らないことはあまり出さぬというようなところもあるように思いますが、まあこういうところを
考えてみねばならぬと思います。
私がアメリカに在勤中に、フランクリン・ルースヴェルトが――この人は口も達者なせいもありましょうが、その人の好みでもあろうと思うのですが、大統領のときにはよくラジオへ出てファイアサイド・チャットといって、
国民に報告をしておるのであります。言葉はきわめて簡単な言葉で、そうして何人にもわかる。漢語を使わないのです。(笑声)むずかしいことを言わないで
国民によくわかるのであります。ユア、ガヴァンメント、こういう
考えを持っておりまして、皆さんの御
期待に沿うように
努力しているから、まあ安心してくれというわけなんです。私は
政府としては、昔のような、よらしむべし知らしむべからずというような態度と逆に、
国民に真実を告げられ、真実を語られ、その真実の知識を普及せしめる
責任があるのじゃないか。機密を保つことは、これは特殊のものに限っておるのですから、これはまあ別でありますけれども、こういう点において、先の
戦争ではむやみに強がって、いわゆる躍進
外交で
戦争に突入した躍進。もけっこうですけれども、とんでもないところへ突っ込まれては困るのでありますから、こういう点において
国民に真実を語られるように、
総理大臣の方において何かお
考えになっておらないか、そういうところの御所信を承わっておきたいのであります。