○左藤義詮君 無謀の戦いに敗れた
わが国が、
戦争中に与えた損害及び苦痛に対して、連合国に賠償の
責任を負わされましたことは、残念ながらまことにやむを得ざる宿業でありました。従って、
関係国と一日も早く賠償の
協定を結び、国交の回復と
貿易の伸長をはかるべきは
国民当然の要望でなければなりません。吉田
内閣は、さきにビルマとの賠償条約を
締結しましたが、これと相並んで、フィリピンとも、いわゆる大野・ガルシア
協定までこぎつけながら、先方の都合によって、妥結寸前に流産のやむなきに至りました。日比両国ともに、東亜の民主
主義国家として長き親善の歴史を有した
関係から、両国国交の増進は、東亜、いな
世界の平和に裨益するところ甚大なるものがあると信じます。鳩山
内閣成立以来、対比賠償の
解決に忍耐強き折衝を続け、五カ年におたる長き陣痛の後に、ようやくその成立の見通しを得るに至ったことは、まことに欣快の至りであります。しかしながら、みずから莫大なる戦災の惨禍に悩み、狭隘なる国土に九千万の人口を擁する
わが国にとって、賠償の十字架がいかに重く、かつ苦しきものであるかは、今さら申すまでもありません。第一次大戦後のドイツに課せられた賠償のくびきが、後々までも西欧、いな全
世界の動揺と
混乱の原因となったことは歴史の示す
通りであります。さればこそ、サンフランシスコ条約においても、「存立可能な経済を維持すべきものとすれば、
日本国の資源は、
日本国がすべての前記の損害及び苦痛に対して完全な賠償を行い且つ同時に他の債務を履行するためには現在充分でないことが
承認」せられておるのであります。ただいま御
報告の対比賠償案が、実に二十年の久しきにわたって私どもの子孫に対する負担を残すという点から見ましても、その内容について十分の検討を加えるべき
責任を感ずるのであります。私はここに自由民主党を代表して、以下数点につき外務、大蔵両
大臣に質疑を試みたいと存じます。
第一に、賠償の総額でありますが、かつての大野・ガルシア
協定が四億ドルであったのに比べまして、五億五千万ドルというのは相当の増額でありますが、そのかおり、これが支払いの期限及び条件については、極端な無理にならぬよう十分考慮されておると思いますが、その内容を比較して
国民の納得の行くように御説明をいただきたいと存じます。
第二には、五億五千万ドルの内訳でありますが、マグサイサイ大統領が昨年八月十三日付書簡をもって総理に示された試案によりますと、五億ドルが資本財、二千万ドルが現金、三千万ドルが役務ということでありました。前に引用いたしましたサンフランシスコ条約の趣旨によって、「
日本国は、現在の領域が
日本国軍隊によって占領され、且つ、
日本国によって損害を与えられた連合国が希望するときは、
生産、沈船引揚げその他の作業における
日本人の役務を当該連合国の利用に供することによって、与えた損害を修復する費用をこれらの国に補償することに資するために、当該連合国とすみやかに交渉を開始するものとする。」ということを定めました。さらにまた「原材料からの製造が必要とされる場合に臓、外国為替上の負担を
日本国に課さないために、原材料は、当該連合国が供給しなければならない。」ということを規定しております。この趣旨に基いて、どこまで現金や資本財が減らされて役務の比率が増加せられておるか、いわゆるペソキャッシュは完全に落されておるかどうか。原材料の供給について十分の確保が得られておるかどうか。さらにまた、先方の
要求する直接賠償取り立て方式に関連して、外交特権の認められる在日賠償調達官とわが方
商社との間に
紛争が起った場合の裁判管轄権はどうなのであるか。すでに本日午後には、ト部・ラヌーサ間において仮調印が行われるという段階にさし追っております以上、
国民の最も心配する五億五千万ドルの内訳について、この議場から詳細の説明を承わっておきたい。
第三に、二億五千万ドルの経済開発借款について。これは純粋の商業ベースによる彼我
商社間の話し合いによるものであって、
政府はこれに対して何らの
責任または義務を持つ必要がないものでありましょうか。たださえ資本の蓄積が乏しく金利の高い
わが国から、国際水準の低金利で
政府からの援助や補償もなしに借款に応ずる民間会社があり得るでしょうか。先方から借款の返済期限の最短期間や利率などの規定が
要求されてはいないでありましょうか。真に純然たる民間借款であるならば、何の必要があって
政府と
政府との間で
協定をいたすのか。
政府が保証しないで取りきめるというならば、一体いかなるものを取りきめようとするのか。もし
政府において何らかの保証をするというならば、どの程度までの保証をするのであるか。たとえば
日本輸出入銀行の借款基準で利率や償還期間などが拘束されぬよう何らかの特別措置が必要とされるのではあるまいか。将来、借款についての
紛争が起った場合の処置はどうなるのであるか。タイ国との特別円の処置につきまして両国間に重大なる見解の対立を示しているようでありますが、二億五千万ドルにも上る膨大な民間借款について、あとで見解の相違を生じたり、実施に当っての
紛争を起すようなことがありましたら、それこそ両
国民の長き不幸と申さなければなりません。こいねがわくは将来に禍根を残さぬよう、
日本人の役務及び
日本の
生産物による民間借款の内容について、できるだけ詳細の御説明が願いたい。
第四点、ただいまの御
報告に、本問題の
解決は、両国の国交正常化に必要なばかりでなく、これによって通商
貿易の増進もまた期待せられると仰せられましたが、耐えがたきを忍んで賠償に応ぜんとする私どもの希望もまた実にこの点にかかるのであります。鳩山首相の特使として
日本商工会議所の会頭たる藤山愛一郎氏を派遣せられましたのも、これに重点を置かれたものと存じますが、この
国民の要望に対してどれだけの見通しが立てられたか。この両
協定と同時に通商航海条約並びに通商
協定が
締結せられて、両国間の最恵国待遇が保証せられんことを念願いたしますが、もし同時にというわけに参らぬとすれば、できるだけ早い機会に
貿易の拡大均衡を目途とする条約の実現を見るべきだと思いますが、
外務大臣のお見通しはいかがでございましょう。現にフィリピン中央銀行は三月二十七日付告示で
輸出規則を改めまして、対日
輸出はCIF建、すなわち運賃、保険料込みの到着港渡し契約でなければ許さないと決定しております。従来フィリピンからの輸入は、輸送がほとんど
日本船なので、木材、鉄鉱石を初め、大部分がFOB建の契約でありますが、これが全部CIF建となりますと、積み船の選択権をフィリピン側にとられ、かつ運賃収入が減ることによって、わが方、特に海運界にとっては非常な損失となることは申すまでもありません。特に賠償交渉中にその告示の出たことは
国民の一人として懸念にたえません。今後二十年の長きにわたる賠償の実施が
一般の通商
貿易を阻害しないよう十分の工夫があるかどうか、戦前における対比
貿易の実績等から見て、将来どれほどの
輸出入が見込まれているか、あわせて御
答弁願いたいと存じます。
第五にお伺いしたいのは、本
協定が、さきに
締結せられましたビルマとの条約や、次に交渉さるべきインドネシアとの
協定に対し、何らかの
影響を及ぼすことがないかどうか。ビルマにおいて賠償額及び借款額の均衡上、再検討条項が取り上げられるようなおそれはないかどうか。インドネシアに対しましては、
わが国が現在相当の焦げつき債権を持っておりますが、これが来たるべき賠償交渉に借款の重荷にならぬかどうか、右の両国との
関係について、
政府は十分の考慮が払われ、最善の措置が講ぜられているかどうか、念のためにお伺いしたいと存じます。
最後に大蔵
大臣にお尋ねいたしますが、去月二十七日成立いたしました本年度予算においては、その原案作成の途上において賠償実施費が大幅に削減せられた経緯もございまして、今、対比賠償が成立するとして、果して十分にこれをまかない得るかどうか、本年度内において補正の必要が生じないかどうか。役務の労賃にいたしましても、物資調達の支払いにいたしましても、これが重なりますと相当インフレ促進の要因と見られますが、さらにまた、ガリオア、イロアの返済その他も加わりまして、財政経済の前途は、はなはだ容易でないと案ぜられるのでありますが、これらに対する大蔵
大臣の明快なる御所見を承わりたいと存じます。(
拍手)
〔
国務大臣重光葵君
登壇、
拍手〕