○木下源吾君 私は日本社会党を代表いたしまして、ただいま
議題に供されております
自衛隊法の一部を、また
防衛庁設置法の一部をおのおの
改正する
法律案に対して、反対の
討論をいたします。
この
法律案は、ただいま
委員長からの説明のように、防衛庁の定員を一万九千百九十三人ほど増加して、二十一万五千三人に改める。こういうような定員の増加を
内容としているものであります。そしてこのうち約一万人は陸上自衛隊を増員し、一個混成団と特科三個大隊の新設を行います。また、海上自衛隊は約三千三百人を増員いたしまして、艦艇七隻の建造、航空機また四機を新たに購入するとか、米国からも艦船を借り入れたり、航空機の供与を受ける、こういうようなことで充実するという
意味であろうと思うのでありますが、いずれにしても、このたびの三千三百人の増員は、海上自衛隊としての増強であります。航空自衛隊は約四千余名を増員して一個航空隊の新設を行うほか、なお米国から飛行機の供与を受け、さらに新しく飛行機を調達する。いずれも陸海空の各自衛隊の増強をはかるものであります。
よって、これに反対いたします第一の
理由は、
憲法違反であるし、そうして本格的軍隊を作る地ならしをするものである、これが第一の
理由であります。第二には、アメリカの傭兵、そうして国土を守るという建前の目的を持っている。がしかし、実際は本土は危険にさらされる、これが第二の
理由、第三の
理由は、平和への逆行であるということであります。第四は、予算の乱費、国民生活の圧迫、大体以上のような
理由、これで反対するのであります。
第一の違憲であるということは、今までしばしば論議されておるところで明らかではありますが、
政府みずからも確信を持って、これは
憲法に沿っておるものであるということをなかなか言っておらない。それは今日までの
経過を申し上げればわかりますように、
昭和二十一年六月の吉田
総理の時代においては、
憲法第九条二項において、一切の軍備と交戦権とを認めない結果、自衛権の発動としての戦争も、また交戦権も放棄したものであります。従来、近年の戦争は多く自衛権の名において戦われたのであります。満州事変しかり、また大東亜戦争しかりであります。こういう吉田
総理の
答弁から始まりまして、
鳩山総理は、三十一年の三月八日の参議院予算
委員会において、私は
憲法の成文には、自衛隊を持つということは合致しないと思います。この疑いがある。こういうように申されております。ところが
自衛隊法が通過したというので、三十一年三月の九日、参議院の予算
委員会で、これは
鳩山総理大臣は、
自衛隊法ができたからして、国会を通過したから違憲だとは私は思わない、こういうことを言っております。また、第二十二国会では、
鳩山総理は、自衛のためということは国土を守るということでありますから、国土を守る以外のことはできないと私は思うのであります、飛行機でもって飛び出して行って攻撃の基地を粉砕してしまうということまでは、今の条文ではできないと思いますと、こういうことを言っております。ところが今回、ただいま
委員長報告にありますように、敵基地をたたくことができる、こういうことを言っております。また
委員会において、わが党の
委員から追及されまして、今回は、実際はそういうことはやらない、こういうようにまた取り消しておるわけであります。
で、この成り行きを見ればわかりますように、全く支離滅裂であります。これは何よりの
憲法に違反しておるという証拠であります。で、このような
憲法違反、そうして今のような状態を毎年々々繰り返して参りましてですね、どこまで行ったらこれが完成するものやら、ますます迷路に入って行くようなわけでありまして、国民の不安は増大の一途をたどっております。
委員会におきまして、わが党の
委員から、一体本年度のこの一万九千何ぼの増員というものの根拠を明らかにしてもらいたい、こういうように追及いたしましても、これは一向に明瞭にならぬわけであります。何か六カ年計画があるかのごとく、ないかのごとく、次年度にまたどれだけのものをやるということも、これは明らかにならない。三十五年度にはこうなりますというようなことを言っておる。で、これでは国民は何を信用してこの
政府におまかせしておくことがいいのか悪いのか、判断することができない。われわれも全く
法案の審議は無用であるかのごとく
考えたんである。で、こういうわけでありまして、
政府がやっておることは、一口に言うならば全く自主性はありません。独自性はありません。で、そういうことを追及いたしますと、自主性も独自性もあるという御
答弁でありますけれ
ども、真実は、この自主性も独自性もないというのがほんとうであります。
当初、
警察予備隊ができましたのは、朝鮮戦争のあの勃発した結果でありまして、これは明らかに当時のマッカーサーの要請によってできたのであります。その後これに便乗して、わが国の軍国主義者の衣鉢をうけておるようなそういう人々から、どんどん再軍備の気勢があおられてきた。
政府はこれに便乗して、次々と軍備を拡張をして行く、どこにも根拠がない。で、先にはこういうように軍備を拡張して、自衛隊などを拡張していっておることは、アメリカの軍隊に早く帰ってもらうためだというようなことも申しておりましたが、昨今ではこれを拡張していって、どこまで行ったならばアメリカの軍隊に帰ってもらえるか、そんなこともはっきり
答弁しません。で、かかる状態でありまして、国民は非常に不安を感じておる。しかし意図するところは大きい軍隊を完成するための地ならしを、一歩々々既成事実を築いていって、国民の目をごまかし、そうして
憲法を踏みにじって、そうして実際には軍備を拡張して行く、再軍備を完成しようという意図にほかならない。かかる
意味で、第一の
理由、いわゆる違憲であり、地ならしであるということで反対を表明するものであります。
かかる自衛権の限界を混乱せしめて、国民に多大の不安と危惧の念を抱かしめているのがこの実情でありまして、先般
委員会におきましても、わが党の
委員から、一体どういうときにこの自衛権を発動するのであるか、
自衛隊法の七十六条によってやるように言っておりますが、
自衛隊法七十六条には、侵されるようなおそれのあるというようなきわめてあいまいな文句があると、わが党の
亀田委員から指摘されまして、この解釈をはっきりせいと言いましても、なかなかそれははっきりできない、これも不明瞭のまま、
委員会で明瞭にできなかった。でありますから、私
どもは、この
法案は何といっても、目的なしに、アメリカの要請によって、そのつどそのつど増強して行っておるものということを断ぜざるを得ないのであります。現在この日本は条約や協定の示すように、従属的
関係が強いということは、これは
鳩山総理大臣が完全な独立を唱えておるということだけでも明らかであります。それでありますために、今後行政協定二十四条で、事あるときは相談をすると、こう言いますけれ
ども、これはアメリカの支配的な力が強いのでありますから、この相談は当然アメリカの意図するようにきまるということは想像される。想像じゃない、もうそれにきまっておる、きまっておるのだ。でありますから、そういうように二十四条で相談するんだから、今そんな心配は国民は要らぬと、こう言われましても、なかなかそういうわけにいかぬ。なぜなれば、これもわが党の
委員から追及されたのでありますが、日本の自衛隊は、日本の
憲法や法律に従ってやるんだから、決して間違ったことはやりませんと、こう言っているけれ
ども、アメリカは、日本の
憲法を守る必要はありません。一緒にやっていて、そうしてアメリカがどんどんと敵を攻撃する。必ずここには報復的な爆撃があるということは当然であります。日本の軍隊は日本の区域内においてのみ云々、こう言って、今このことをやっておりますけれ
ども、実際問題にぶつかれば、アメリカそれ自身は、まあ、やりなら穂先の方で、日本の軍隊はもとの方で、一本であります。もとの方は日本の国土におっても、やりの穂先の方は向うへ行っておる。向うは危険だから、これを防ごうとする。日本の報復爆撃は当然であります。こういうようなことがわが党
委員によって追及されましたけれ
ども、やはり日本の国土を守るんだと一点張りで、何もこれに対して明らかな
答弁が行われておらない。日本の国土を守るということが看板である自衛隊が、逆に日本の国土を危険にさらす導火線になるという状況に置かれておる。こういう点は、私
どもどうしても明瞭にならないので、この
法案がますますもってわれわれは
賛成ができない。
第三の
理由は、平和の逆行である。これは一昨年七月、ジュネーヴの話し合いでヴェトナムの戦争が休戦になりました。このことは非常に歴史的に平和を愛好するものにとっては愉快な事実であります。ところが、また昨年の七月はふたたび巨頭会談が行われまして、ますますこの平和への波が高まって参ってきた。自来、世界の空気は平和という平和共存への方向が、次々の具体的な事実によって強まって参っておるのであります。かかる際に、日本だけがどうして一体平和
憲法を踏みにじってまでも、こういう軍隊の増強をしなければならないかという
理由は明らかになっておりません。原水爆を禁止してくれという声は全世界に満ちております。軍縮もやらなければならぬ、軍備縮小もやらなければならぬという声は、いつでも世界のすみずみから起きているではありませんか。なぜ一体、日本だけがこういうことをやらんならぬか。すでに封建的天皇の軍隊は滅びたのである。そういう軍隊は滅びたのである。これをゆり起してみたところが、もとのものにはならない。歴史はそういうところに逆転はいたしません。アメリカは、今や資本家を守るために、資本主義を守るための一切の軍備を持っておるかもしれません。日本の実情は、アメリカとは違うではありませんか。でありますから、陸軍だけ、封建的な軍隊だけを適応する場所で使おうとする意図にほかならないのであります。私
どもはかかる世界的な平和の高まりが大きいときに、日本だけがこの軍隊を増強するということは、
意味をなさないばかりではなく、封建的な軍隊もまた育成しようとする、そのむだを、これはほとんど後世の歴史家から見たならば、ほんとうに笑われるような状況にならないか。先般、船田長官に対して、わが党の
委員から、いわゆる戦争の性格、防衛の本質を追及しました。大東亜戦争はあなたはどう
考えておるかということに対して、船田長官は、あれは悪い面もあったが、いい面もあったというようなあいまいな
答弁、後世の史家のみがこれを評価するであろうと、暗に大東亜戦争をあたかも理論化したような御
答弁がありましたが、私はかかる日本の指導者、今日まで日本に与えておる創痍というものに対して、損害というものに対して、何らの反省もない指導者によって指導されておる国民は、まことに残酷ではなかろうかと思うのであります。まだ戦争の創痍はいえておらないばかりでなく、未帰還者はたくさんおります。それで今、ここにふたたびそれを繰り返そうとするようなたくらみは、国民あげてこれに反対しなければならない。わが党はその先端に立って本案に反対しておるゆえんであります。
昨今、北洋漁業の問題が非常にやかましく言われておる。これはもちろん当面は魚族の保護ということでございます。日本のとり方が、国交回復しておりませんから、往年のように沿岸で定置的な漁業が行われない。昔は定置的なカムチャッカの沿岸で漁業を行なっておって、そうして産卵のために上るサケ、マスは、その川の
一定区域だけを禁漁しておった。従って幾らとりましても、魚族の保護というものは、これは完全に行われておった。ところが、今日どうでありますか。あの母船には五百という大きい独航船がついて行っておって、一々の独航船が延長二里にわたる網を持っております。向うに言わせると、エブリ・デイ、エブリ・ナイト、毎日毎晩、千里の網があの産卵にくるサケ、マスを遮断してしまっておる、こういうことをはっきり向うは
報告しておるではありませんか。話し合いによって国交を回復すれば、往年のような漁業ができまして、なお漁獲量も今よりは、昨年よりももっとたくさんとれるではありませんか。しかるにそうではなく、
政府の
方針によって必然的に、これは漁業者が悪いのではない。
政府の
方針によって、公海の略奪的乱獲をやっておるというのが今日日本が当面しておる非常なこの困難な漁業問題ではありませんか。平和共存の話し合いによって解決して行こうという道が開け、そうして進めば必ず解決するに違いがないけれ
どもが、何のために一体これをなさないか、そうして漁業家を苦しめ、漁民を苦しめておるか。私はここにも、いわゆる平和に逆行するわが日本
政府の政策がこれをここに至らしめておると断言せざるを得ないのである。どうか
諸君、本
法案を葬ることにおいて、平和をかち取る右手で握手を、手を長くして求めようではありませんか。そして、左手に隠しておる劔は直ちにこれを捨てることをしたらどうでありますか、国民の利益のために。
第四は、予算の乱費と国民生活の圧迫であります。防衛費は、御
承知のように逐年増大の一途をたどっているに反しまして、社会保障費、民生
関係費は、これに比例いたしまして次第に圧迫されておる。よく
政府は若干の増額をせられておると言っておりますが、対象が増大しておることを隠してそういうことを言っておるにすぎない。実際において民生
関係費は非常に圧迫されておるのであります。
総理大臣が第二十四国会の施政
方針演説で、国民の経済は安定した基盤のもとに拡大発展の方向をたどって喜びにたえません、こういうことを言っておる。また大蔵
大臣も、これを裏づけするがごとく、三十年度は前年度よりも鉱工業生産が増加しておることを指摘したり、輸出の貿易が増大しておることを指摘したり、国民所得の大幅の増加を指摘して、そうして三十一年度予算を組んでおるのであります。ところが、ほんとうに国民の側の経済が安定しておるかどうか。私は安定しておらない証拠を二、三申し上げてみたい。
すなわち、労働省の本年一月三十一日、閣議に
報告した資料によりますると、完全失業者が昨年一カ年平均六十七万人に達しておるのであります。これは前年の同期に比べて二五・五%を増加していることになっておる。また職安の求職申込者の数は、同じ
期間において百三十万人に上っておって、一一・七%前年の同期からふえておる。不就労労働者の数も百五十万人で、同じ
期間において三五・九%の増加を示しておるのである。日雇労働者は、
昭和二十五年の平均四百七十四万九千人から、同じ三十年の十一月には七百五十八万人に急激な増加をしておるのであります。一方においては生産性向上の運動や、合理化政策、オートメーション、いろいろこういう政策によって労働が強化され、賃金の相対的切り下げが行われているし、現在潜在失業者の数は一千万をこえると言われておる。かかる政策は、
政府は大資本の利益を擁護する政策を勇敢に行なっておるが、その遂行の途上において、労働者や中小企業者を圧迫、苦しめておる政策を行なっておるにほかならない。中小の業者の不渡り手形の状況をみまするというと、過去一カ年間の件数は、金額においても、あるいは手形の数においても五〇%の増加を示しております。すなわち百二十五億円に上っておるのであります。不渡り手形が。しかも、大資本家はますます利潤を増大して安定しておるというのが実情であるのであります。
かかる現象は、
政府は防衛産業は勇敢に育成強化をいたします。大資本を擁護しております。しかしながら、平和の産業、こういう方面に対しては、きわめて冷淡である。中小企業に対する対策も、労働者に対する対策も、労働者の昇給昇格からベース・アップの問題は、しばしばここで論議されたのでありましょうが、過去数年間くぎづけであるし、全くこの待遇というものは
政府によって何ら
考えられておらない。なお、防衛費の乱費、汚職、明確な分だけでも四億円に達しておる。予算の不正当支出については、すでに本国会の予算、決算、
内閣委員会において取り上げられていたところであるが、審議をすればするほど、国民の血税が乱費されている実情には何人も憤りを感じないものはないのであります。この点は、再軍備に
賛成される
諸君、また反対する者にかかわらず、
与党、野党を問わず、たれ一人としてこの実情に対して重大な関心を持たない者はない。しかも、これが過去のこととして捨て去ることができるならばよろしいが、今後なおこれが完全に是正されるという確証はどこにも見当らない。二十九年度の会計検査院の批難
事項に対して、防衛庁当局のとった処分のうちで、免職はたった一人、
責任者たる幹部は平然としてなおその職にとどまっておるし、国会の
答弁さえ乗り切れば、あとは何ら恥るところがないという
態度であるのであります。はなはだしきに至っては、検査院の批難
事項も、必ずしも全部がそうであるわけではないなどと反駁しておる者があるのです、これでは、防衛庁から汚職をなくすることは百年河清きを待つと同じであります。
これを要するに、本案は自衛隊の任務である平和と独立、国土を守る、いずれも達成することはできないばかりでなく、これを阻害しておるものである。かかる
意味において、わが党は断固本案に反対し、断固反対する国民とともに、議場のすみずみまで国民の声を盛り上げ、そしてかかる
法案を粉砕することにわれわれは決意を持っておるのであります。伺とぞ満場の
諸君も、国民を真に思うならば、御
賛成あらんことを真にお願いするものであります。(
拍手)
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