○荒木正三郎君 私は
日本社会党を代表いたしまして、ただいま上程せられました
地方教育行政に関する二
法律案に対しまして
質疑をいたさんとするものであります。
吉田内閣の当時、大運
文部大臣は、
教育の
中立性を確保するためと称して、教員の政治活動を全面的に制限する
法律案を
国会に提出いたしたのであります。その際われわれは、
中立性確保の美名に隠れて革新勢力の進出を押え、保守勢力の温存をはかり、憲法改悪を促進しようとする党利党略に基くものであるとして、強い反対をいたしたのでありますが、このたび、鳩山内閣によって提出せられました
教育行政に関する
法案は、
教育二法にも劣らない悪法でございまして、
教育から
民主主義を奪い、
教育を
政府の統制下に置こうとする野望から出たものであって、われわれの断じて許容できないところであります。(
拍手)
第一に指摘しなければならないのは、
教育委員の
公選制を
廃止して
任命制に切りかえようとしている点であります。戦後の混乱の中にあって、
教育復興のために、
教育委員会が果して参りました役割は、高く評価されなければならないと私は考えております。特に、久しきにわたりまして
教育界にはびこっておりました官僚主義と政党の介入を排除して来たことは、
教育委員会の
公選制がもたらしました大きな収獲であったと信ずるものであります。官僚独善の弊が取り除かれるにつれて、
教育界は非常に明朗になって参ったのでございます。今日どこの
学校へ行っても、戦前のように、役人の前に直立不動の姿勢をとらなければならないような先生の姿を見ることはなくなりました。また、ごちそうをしてごきげんをとらなければならない校長さんも全くなくなったのであります。これは、
教育界にとって非常にうれしいことであります。また政党の介入が、いかに
教育界を毒したかはここに述べるまでもないことであります。(
拍手)教員の
人事が、政党人によって左右されたと申しても決して過言ではなかったのであります。それとともに、
教育は上から与えられるものでなく、
国民自身の
努力によって築き上げて行かなければならないという
自覚が力強く起って参りまして、今日PTAの活動はきわめて活発であります。戦前の
教育後援会の役員は、ごく一部の人に限られていて、その
人たちは寄付金を出すのが一番大きな任務でありましたが、今日では各階層の人々が参加して、みんなが協力して
教育を守って行こうとする涙ぐましい
努力が続けられているのであります。父兄が
学校の先生と一緒になって、ときには
教育委員とも一緒になって
学校の施設の
改善のために、あるいは教材教具の
整備のために、
知事や
市町村長に働きかけて、
教育予算獲得のために立ち上っているのが今日の姿であります。
教育が
国民のものになってきている何よりの証拠であると私は考えるのであります。(
拍手)この父兄の立ち上りを最もおそれているのは
政府であります。再軍備優先の
予算を組んでいる
政府には、
教育に回す金がないからであります。
国民が子供の
教育のために立ち上ってきたのは、教員組合の活動と
教育委員の
公選制がもたらした大きな
成果であると信じます。しかるに
政府は、
公選制を
廃止して
任命制に切りかえようとしていることは、再び
教育界に官僚主義の復活をはかり、政党の介入を許すことになるのでありまして、反動文教政策と言わなければなりません。(
拍手)そこで私は、
総理大臣にお尋ねをいたしますが、その第一点は、
公選された
教育委員会が今日まで果してきた業績について、
総理はどのような評価々しておられるか。
総理の
見解を聞きたいと思うのであります。第二点は、
任命制に切りかえることによって、官僚主義の復活、政党の介入について、何ら心配するところがないと考えておられるかどうか。第三点は、
教育基本法第十条に、「
教育は、不当な
支配に服することなく、
国民全体に対し直接に
責任を負って行われるべきものである。」と
規定されておりますこのことは、われわれが太平洋戦争という悲惨な体験を通して、学問の自由は守らなければならない、思想言論の自由は守らなければならないと、かたく決意するとともに、
教育を政治権力の
支配のもとに置いてはならないという大きな
自覚を持つに至ったからであります。この
教育基本法の
精神をそのまま受け継いで、
教育委員会法第一条にも同
趣旨のことが書かれているのであります。ところがこのたび
政府が
提案いたしました
法案には、どこにもこの
趣旨が
規定されておらないのであります。
教育委員を
任命制に切りかえることは、
教育基本法第十条の
趣旨に私は反すると思うのでありますが、首相の
見解を伺いたいと思うのであります。
第二に指摘しなければならない点は、文部省の
権限を拡大強化して中央集権化をはかっていることであります。この
法案の
内容を見まして、まず気づくことは、
都道府県の
教育長は
文部大臣の
承認を経なければならないと
規定されております。さらに、
教育委員会の
組織、
運営に関し、
指導及び助言を与えると
規定されております。次に最も驚くべきことは、校長、教員その他
教育関係職員の研究集会、講習会その他研修に関し、指揮及び助言を与え、または主催することができるというふうな
規定まで挿入をいたしておるのであります。かくては
教育委員会は、文部省の出店にすぎないという哀れな存在になるのであります。自主的な独立した
教育行政をやることは不可能であると思うのであります。過去の
わが国の
教育行政組織が、文部省のもとに中央集権的、官僚的な
教育行政組織を確立し、それが
国家主義的な教学の樹立に努めてきたことは、われわれの苦い
経験として想起するものであります。特に私は教員の行う研究集会に文部省が
指揮監督するということは、思想統制を行わんとするものであって、許し得ないことであると思うのであります。(
拍手)申すまでもなく学問の自由、思想の自由、集会の自由は憲法の保障するところであります。
教職員の自発的に行う研究集会に、文部省が介入し、指揮し、
監督するということは憲法違反の疑いがあると思うのでありまするが、首相の
見解を明らかにせられたいのであります。なお、
日本教職員組合は、教員の全国的な研究集会を今日までに五回にわたって開催して参りました。その
成果は年々上りつつあります。本年二月に行われた松山における集会には、教員を初め
教育委員会関係者、あるいは子供を持つ父兄の方々、一万人に近い人々が集まって、日常当面している
教育上の諸問題について真剣な討議が行われたのであります。現場の教員が、父兄が子供の
教育のために、いかに苦しんでいるかということは、おそらく
文部大臣はおわかりにならないと思うのであります。こんな
法案を作る前に、一度でもよろしいから、この研究集会に出席されることを私はお勧めをいたします。
文部大臣は、この日教組主催の研究集会に対して、どのような認識を持っておられるか、
所見を伺っておきたいと思うのであります。
第三に指摘しなければならない点は、これだけの
教育行政上大きな変革を加えようとしているのに、
政府は、なぜ各
方面の
意見を聞こうとしなかったかという問題であります。
文部大臣の諮問
機関として中央
教育審議会が
設置されております。なぜこの中央
教育審議会に諮問をして
意見を聞こうとしなかったのであるか、その
理由を明らかにせられたいのであります。中央
教育審議会は、今日まで
教育上の幾多の問題について、
文部大臣の諮問にこたえて
意見を述べてきているのであります。大連
文部大臣の際におきましても、
教育二法を
提案する際に、一応中央
教育審議会の答申を求めておるのであります。清瀬文相の態度は、中央
教育審議会を無視するものといわなければなりません。第三次鳩山内閣が成立してからもすでに四カ月を経過しておるのであります。その間十分余裕があったはずであります。あるいは中教審に諮問すれば、
教育委員の
公選制廃止というような答申が得られないという事情にあったので、中教審に諮問しなかったのであるかどうか、その間の事情を明らかにしてもらいたいのであります。
なおこの際、鳩山首相にも伺っておきたいと思いますが、
政府は本
国会に、臨時
教育制度審議会
設置の
法案を提出しておられます。
教育制度の改変という重大な問題は、慎重を期するためにも、また一党独善に陥らないためにも、広く
意見を聞くことは当然なことであると思われます。
政府はこのために臨教審の
法案を出しておると思うのでありまするが、臨教審の成立を待って十分な検討を加えたのち、
政府の態度を決定してもおそくないと思うのでありますが、この点、
総理大臣の
見解を聞きたいと思います。特に先ほど
笹森順造君からの質問に対しまして
総理大臣は、
教育基本法についても臨教審に諮問をして、そして
改善を加えたい意向のような御発言がございました。
日本の
教育の基本は、申すまでもなく
教育基本法に
規定されておるのでございます。この
教育の基本である
教育基本法さえも
改正するというような
意思を持っておられるならば、ましてこの
教育基本法から出ておる
教育行政の問題を先に決定するということは、私は本末転倒であると思います。(
拍手)われわれは、今日
教育基本法改正に対しては、何ら
改正する必要は認めておらないのでございますけれども、もし鳩山
総理がそういう意向であるならば、まず
教育基本法の問題を検討してしかる後、
教育行政の問題に及ぶべきであると思うのでありますが、この点あわせてお答えを願いたいと思うのであります。あるいは
教育委員の任期が本年の十月であるということから、間に合わないというお考えであるかもしれません。しかし
教育委員の任期をさらに一年延ばすということも考えられるのであります。多数をもって押し切ればいいというのであるならば、何を好んで臨教審などを設けようとせられるのか、
政府は党利党略に基いて
教育を道具に使おうとしておるという非難を受けても答弁の
余地はないと思うのであります。(
拍手)
私は、以上三点にわたりまして
質疑をいたしましたが、この際特に
清瀬文部大臣に対しまして一、二の質問をいたしたいと存じます。
清瀬文部大臣は、民主党の政策
審議会長をしておられた当時、民主党は
地教委廃止という態度を決定しておられます。ところがみずから
文部大臣になられるに至って、この態度を一擲して、そうしてみずから今度の
法案を出しておられるわけであります。このように態度が豹変したのは、
一体いかなる
理由によるものであるか。この際明らかにせられたいと思うのであります。なお自民党の三大
教育政策の中に、
教育の
中立性厳守ということがあります。今日
教育の
中立性が侵されているという事実があるのかどうか。またこの
中立性厳守ということは、今後どういうふうに具体化しようと考えておられるのかどうか。この際所信を明らかにせられたいのであります。少くともわれわれの考えでは、吉田内閣当時に作られた
教育の
中立性に関する二
法案ほど
教育に関する悪法はないと信じておるのであります。今こそ大英断をもって、この二
法案を
廃止すべきであると思うのでありまするが、
見解を伺いたいと思うのであります。
最後に、最近、新聞あるいはラジオ放送によりますると、教員組合から校長を除外するというような報道が伝えられております。これは組合の弱体化をはかるものでございまして、私どもの容認できないところでございますが、
文部大臣はいかようにお考えになっておられるか、この点もお答えを願いたいと思うのであります。
要するに、このたび鳩山内閣によって
提案せられました
教育行政に関する二
法案が、再び
日本を
国家統制の戦前の昔に引き戻すものであり、民主的な
教育行政を妨げるものであって、私ども鳩山内閣に重大な反省を求めなければならないと考えております。
以上を申し上げまして、私の質問を終りたいと存じます。(
拍手)
〔
国務大臣鳩山一郎君
登壇、
拍手〕