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公述人(山口末一君) 私はこの四月まで札幌南
高等学校の校長をいたしておった者でございます。ずっと新
教育が行われてから続けておりますが、一部中学校の、新
制度の中学校の
教員もやはり、大部分は高等、学校の教壇、校長として従事いたして、今回退職いたした者であります。私はさような経歴から、法理論とか哲学的な深いことはよくわかりませんので、私の北海道の実際のありさまを申し上げて、この法案御
審議の御参考に供したいという念願でございます。で、全く個人であり、一
国民の声としてお聞き願えれば、まことにけっこうだと存ずる次第でございます。
現
教育委員会法が制定されてその
実施を見ましてから今日に至るまでの
教育委員会の足跡、その多大な効果というものについては、非常によく認識をしておるものでございますが、また一面、その理想がなかなか実現しにくいところ、あるいは一面弊害でないかと思われるようなところもやはり現われてきておるように私は感じで参りました。で現実に即して理想になるべく近づけようというわけで、いろいろと
国家の御当局においても研究調査等いたされまして、現行の
教育委員会制度の一部行き過ぎておるではないかというようなことを是正していこうという案が、今日拝見しておりますところの
改正法案であろうと
考えるのであります。
で、やはりそうしますというと、今の
日本の民主的な発展の現状におきましては、大体において、現段階においては、今日のこの
改正法案というものが
改善の一歩をたどるものとして適切なものと私は
考えておるのでございます。やはり根本から変えるというようなものではなくして、私の
考えでは、やはり民主主義の
教育を促進、伸展せしめるのが根本にありまして、決してこれが、この法案そのものが
実施されたとて、
戦前の
教育への逆コース傾向をたどるものであるとは、私としては
考えることはできないのでございます。やはり地方分権のことも、民意の反映も自主性も
相当に、
相当と申しましては相済まぬのでありますが、促進されていく。で、国として相対的に
一体性をもって
教育の水準維持、発展を期する、こういうことがやはり非常に大切なものでございますから、そういう点にも考慮を払われた案であると私としては
考えております。
この法案をずうっと拝見し、また昨日来傍聴をさせていただきまして、この法案の問題点とするものは何であるかというと、
教育委員を
公選制でなくして、
任命制にしようということと、必要措置の要求、こういう点が一番大切な問題点としてよく論議され、
公述されたところであろうと
考えているのは同じことでございます。で、この
教育委員の
任命制は、いろいろ論ぜられたように、やはり私としては間接
選挙の本質を持っているものだと、こういうふうに思っているのでありまして、この
改正法案によりまして、よりよい人材を選出するにいいのじゃないか。特に、私は
自分の郷里であるところのことを申し上げるということは、はなはだ遺憾ではありますけれ
ども、北海道においては確かに、
任命制が、今日の
状態からすればよりよくなる、こういうふうに
考えられますものですから、北海道の実情を御参考に申し上げたいと存ずるのであります。現在の公選によって構成された北海道
教育委員会は、私の見るところによりますというと、
一つの大きな
組織活動によって、どうも一方に偏した
委員が選出されてきていると
考えるのであります。すなわち現在は、六人の公選
委員のうち、五人はその
組織の推薦によるものであります。それから一人は、中立の
関係に立っていられるところの方であります。それで五対一という状況でありますが、この六人の
方々すべてが
教員の前歴の
方々ばかりであります。それから道議会からお出になっているところの
委員の方は、社会党の所属の方であります。で、この北海道の状況、その
組織の状況を見まするというと、公選
委員は
先ほど申しますように職域が同じであるのであります。こういう
組織でありますからして、その
運営されるところがどうも私たちとして見ておるところによりますというと、
政治的とばかりいうわけでありませんが、中立といいますか、
中立性というようなものの維持がどうしても困難な状況にあるのだ、こういうふうに思われます。そうして今後この
公選制をなお持続していくならば、さらにこの傾向が強化されるような趣きが見られるのであります。すなわちほとんどすべてが、一方の
組合の推す候補によるところの
委員が選出される、こういうような状況になることは、今までの状況から推し、現在の状況から察知して、将来を卜することができるのであります。こういうふうに実際のところからして、どうしても私の郷里においては、一方に偏したところの
委員の構成を是正するには、
任命制がよろしいと
考えるのであります。
任命制といっても、
先ほど申しまするように間接
選挙の実体のものでありまして、そうしてそこには、法案によりますというと、いろいろの規制するところの方途を講じてあります。それでありますから
知事の党派のいかんを問わず、いろいろの党派の党籍がある人にしても、党籍を異にしておる方が出られるでありましょうし、職域においても同じ職域からばかり出るということがないようになると思いまして、北海道の現状から見まするというと、
任命制によって、この欠陥を是正していくことができると
考えております。この北海道の状況に似た所が、やはり全国にもありはしないか、私研究が足りませんのでよく存じませんのですが、そういうふうに察せられるので、
一つの地方の例ではありますが、北海道としては、
任命制をこういうことから必要であると
考えております。
なお、これを具体的に、それではどんなふうに、この構成
委員が一方に偏しておったために、その決定が偏したのではないかと思われる例を、
二つだけ具体的なものを申し上げて御参考に供したいと存じます。さきに給与二本建の問題というものがありました。そうして
国会において法案が成立し、そうして国法となったのであります。この場合に地方においては、国の法に準じて
実施するように要望もされ、またそれが当然であろうと
考えられておるのでありましたが、北海道の
教育委員会においては、これを否決いたしました。すなわち北海道においては、これを
実施せず、こういうふうに決定を見ました。ところが道の議会においては、
教育委員会の
実施せずという決定にもかかわらず、道議会はこれを
実施することに決定いたしました。その
教育委員会が
実施せずとするところに、ずいぶん裏に
考えられるようなものがあったというふうに、私たちはその当時まことに遺憾に
考えておりました。もう
一つの問題は、北海道においては非常に大きな問題となり、新聞、ラジオ等によく報ぜられた問題でありますが、
高等学校における入学者選抜の件であります。この問題は非常に長い間の問題でございまして、私は
高等学校長協会の理事長といたしまして最後のところを務めましたし、その以前にも副理事長その他で札幌におります
関係から、この問題について非常に苦心をして参りましたが、この
高等学校の選抜問題ということは、この
委員の公選云々のところへ話がいくのでございますが、ちょうど毎年のことでございましたが、ほんの三カ年の工合がどんなふうに推移したかを
ほんとうに簡単に申し上げてみます。二十九年度に
実施したのは、このことについて、その前に協議会ができていろいろと検討に検討を加えまして、そして二十八年の十月十四日に
教育長は校長その他
関係者、代表を招集いたしまして、そして説明会を開くということ旭ありました。その席において
教育長はこの案は今の事務局の総力をあげて、
言葉が少し違うかもしれませんが、
意味はそういう
意味です。総力をあげて長い間練りに練って、諸般の状況を勘案して現段階においては最良の案と思って提出するのである。作った。そのときの、よくあとから言われた
言葉でありますが、全知全能をしぼった案である、こういうことでありました。ところがこの全知全能をしぼった案というのは、
文部省の方からも通達になっておるところの二本建の案というのであります。すなわち中
学校長の
報告書と、
高等学校における選抜のためのテストと、両方総合判定するという原案でありました。ところがこれからというものは非常なこの原案に対して
圧力が加わりまして、その当時私たちも驚いたのでありますが、ほとんど全道にわたって保護者の
方々が同意されました。そうして毎日毎日非常にたくさんの
人たちがこの二本建の案の
実施に
反対する陳情等をなされたようであります。私もその状況によくぶつかりましたのでありますが、そういうわけでありまして、その発表になりましてからも、わずか二週間ばかりの間にこれは完全に
反対な
立場になりました。すなわちわれわれは百八十度の転換と申しておるのでありますが、
報告書一本による選抜ということになったのであります。これが二十九年度に
実施されるに至ったものの状況です。それから三十年度のは、これはやはり
審議会を開き、中学長から五人、
高等学校長から五カ月地方教委から一名、市の教委から一名、それから学識
経験者として大学の先生が加わりまして協議会を開いて、慎重協議をいたしました。私もその
委員でありました。そうして答申といたしまして、その答申に基いて
教育委員会の事務局は慎重にその答申を骨子として作った案がこれが提示されました。それはやはり二本建ての原案でありました。ここに原案も持っておりますが、二本建ての案であって答申に基いたものでありました。ところがこの案がまた事務局としてはもう最後までこれを守り抜くということをわれわれにも明言しておき、なお地教委との
関係において経費負担のこともありますので、地教委の代表者に対しても必ずこれを変えないということ、今そのことが雑誌の中に印刷になってもおります。絶対に変えないというのでありましたが、それがまた一本建に変化してしまいました。この三十年度ができる際には、まことに困難ないきさつを経過いたしたのであります。しかしながら、とにかく事務局の案というものは、また
反対な
立場になってしまいました。それから今度は三十一年度、今年のであります。今年のは、去年から今年の春までかかって推移しておりますが、非常に慎重にいたしまして、
審議会というものが
組織されて参りまして、正味九日間、非常に長い時間かかって、九日と思いますが、九月の二日から十月の何日かまでの間、非常な真剣な
審議をいたしました。しかしながら、ここに結論をとうてい得ることができなかった。それには学識
経験者も、地教委も、それから
高等学校側も、中学校側も、それからPTAの方も中学校側、
高等学校側と加わりまして、そうして慎重
審議をいたしたのでありますが、その結果
高等学校側の主張に賛成する者が十三、それから中学校側の主張に賛成する者七という状況に明らかになりましたけれ
ども、それでも満場一致でなければならないということがありましたので、ついに答申をし得ずして解散になりました。しかしながら大勢はよく道教委の事務局において見まして、それから前からの状況を十分に勘案し、すでに
文部省からの通達もありますので、それらを勘案いたしまして、原案を
教育長が作成したのであります。そして十一月の二十四日には公開
審議によって決定するということでありました。ところがその決定は延期になりまして、その直前に延期になって二十五日に延ばし、二十五日がまた延びて、そして二十六日午後の八時十分ごろから、いわゆる新聞等で非難しておりました五分間会議とか十分間会議とかいうようなものによって決議されましたが、それは全くまた原案とは、
教育委員会の事務局の
教育長原案とは違った方向の、
報告書のみによって選抜するというのでありました。でこの
教育長原案なるものはないということを議会においても証言されておりましたが、この問題が非常にこんがらかりまして、ついに地方裁判所に法的の見解をただすことになって提訴したときに、法廷において原案のあったことが明らかになったのでありますから、
教育長原案というものはあったのであります。すなわち
教育長原案というものが没却され、それから全国において
報告書一本による選抜というものはどこにもないのであります。そういう全国の情勢、それから
高等学校側が、あるいは父兄とともに多年の要望も入られず、
文部省の
指導、助言という通達にもよらず、それから
審議会の十七対三という多数の
意見にも、また、新聞等の論評、世論にも反して、そうして
報告書のみによって選抜をするということがきまったのであります。こういうようなところを察しましても、その
委員の構成を御賢察願うというとわかるのでございます。もちろん、この
委員のうちには、終始道民の代表という
立場から、厳正なる
教育問題として、私たちから見ると厳正なる
立場をおとりになった方もあるのでありますが、この構成の状況からしてどうしても最後のところに至ると、ほかにはないところの例が
実施されるような状況になります。なおまた、このことがき
まりましてから、私たちもそれでは公正妥当な選抜ができないから、何とかしてこの修正方をしていただきたいということを陳情に陳情を努めたのでありましたけれ
ども、それはできなかった。できないところのうしろには、非常に大きな力が存在しておった。その力の一例をあげますと、私たち傍聴いたしたのでありますが、
教育委員会の席に
団体交渉と称するのでありましょうが、こういう
言葉があります。一たんきまったこの通達を一字一句ですか、一字一句でも修正してはならない。修正をしたならば混乱が起きる。混乱が起きなければ、混乱を起してみせる。こういう
言葉があったと私は記憶しております。それほどでありまして、そのとき父兄の代表たちもそれを心配して傍聴いたしましたが、それから解散後にもう非常に悲しみました。というのは、
教育委員会がこのような力を及ぼされて、そうして所信を断行できないというようなことでは、北海道の
教育をどうしようかということで非常に憂い、前途に暗い影を持ったように感じております。これは以上申しました給与二本建の
反対の決議になり、入学問題が非常にむずかしい問題でありますが、本年に至っても、なお全国に
一つも例のない
報告書一本による選抜というようなふうに、年々事務局の原案の
趣旨が通らずして、
教育委員会によって全く変った方向に向いていくということを申し上げるのは、その構成員の一方に偏することがいけない。それよりも
任命制によってこれを是正することが、北海道においては特に大切であるということを、強調したいがために申し上げた次第であります。以上は
任命制のことでございます。
それから
文部大臣の
権限のことでございますが、この入学問題について、
高等学校の保護者も私たちも非常に痛切に感じたのは、今
文部省からは通達というものが出て参りますが、これを問い合わせたり、いろいろしましたが
指導、助言である、こういうことであります。
指導、助言であるから、聞いても聞かなくてもいい、結局私の郷里の北海道においては、聞かないことになって、ずっと通ってしまいまして、まことに遺憾に存じます。何とかして
文部大臣に今この
法律にあります措置要求、われわれは今度の入学者選抜の問題なんかは、確かに妥当性を欠くものである。
ほんとうに妥当性を欠くものであったならば、措置要求というものができればいいなあと、措置要求というのは、その当時は知らない
言葉でありましたが、今度知ってみるというと、
ほんとうに適切な
文部大臣の力であるということが大事であるというふうに痛切に感じて参りました。それで今
文部大臣の
権限強化という
言葉で申されておりますが、これは決して法全体から見まして、また民主的な今日の
状態から見まして、不当な干渉をしようという
意図とは私は思われないのであります。
それから都道府県、特別市の
教育長の
承認、との
教育長の
承認ということについていろいろと論議されましたが、私この
承認ということを私だけの気持ではそれほど重く、
国家統制に向うところの大事な問題というようなふうに私は感じておらないのであります。大学では大学の自治権が認められておるが、その学長の
選挙は大学においてするがやはり
文部大臣の
承認というのでしょうか、
承認と言うのでありましょうし、あるいは学位授与についても大学においてきまるけれ
ども、やはり
文部大臣の
承認といいますか、そういうものを必要としておるのだが、それがために何にも大学の自治が阻害されたというようなことはないと思っております。そのようであります。少し違うかもしれませんが、私はあ
まり強く干渉を受けるところのそれが道になるとは
考えておりません。なおまた、今日民主的に徐々に、徐々にといいますか、急速に発展していっているところの
日本の
状態において、これをもって
国家権力を導入するところの不当干渉の
文部大臣の
権限とされるなんということは世間も許さず。いわんや
国会においてもお許しにならないところだろうと
考えております。
それから調査
報告等のことは、これは国の文教の最高機関として全
国民に
責任を負っておるところの
文部大臣としては、必要に応じてしなければならぬのはこれは当然じゃないかと、こういうふうに
考えております。
それから各首長との
権限の調整ということも、法案を拝見し、また皆さま方からの御
意見も拝聴して私もよく了解いたしました。それでこれはやはりすなおに私としては
考えて、円満に
調和的に
一体的に相協力していく態勢のもとにいくのには、やはりこれでいいのでないかというふうに思っておるのであります。
予算とか条例の
提案権といいますか、それも今度の法案にはなくなっておるのでございますが、これもいろいろ論ぜられたように、私はやはり無用の摩擦を省き得る、それでそれぞれの首長が、
自分のことのように重大な協力をしなければならないという
責任観念から、ますます熱意を持って
教育のことを思ってくれるであろう。今までの実情を、私の狭い範囲におきましては、
教育委員会は
教育委員会のことであるというようなふうに、何かよそごとのようにとられておったのじゃないかというようなふうに
考えるところがあります。それが今度は首長そのものが一生懸命やらなければならない。また、その府県の住民がよくその首長の
教育に対する熱意というものを監視しておるというような状況下にあっては、回そう
責任をもってよくやってくれるのじゃないか。
教育委員になられた
方々は、その原案
送付の
権限がなくなっても、
自分たちは使命を帯びて
教育委員という重責に立っている。ことに
国家再建の大切な時期に青少年の
教育に当っておるのであるからという使命観からして、熱心に熱意をもってその首長と折衝をし、りっぱな
教育予算なり、りっぱな条例が作成され、公布されるように努力をしていかれるようになったならばいい。要は人の問題、
運営の問題にあると
考えるのであります。
それから第三十三条の
教科書以外の
教材取扱い、これは論議の的になった
一つのものでございます。で、このことについて、校長を長らくやってきた、
教員を長らくやってきた私の
考えからして、これにめんどうな、すなわち、詳細な制限を加えるということは、これはもう最もよくないことであります。しかしながら大きな副読本にするとか、あるいは視聴覚の問題ですか、というような、まあいろいろありましょうが、そういうごく大きなものです。良識をもって
教師が判断をし、また友人や校長あたりと話をしてみて、まことに穏当なものであり、これが
ほんとうの
子供を愛するがゆえに、
子供の能力を進展させるがためにこれがよいと判断されるものがあったならば、どしどしこれを活用していく、そういう自由の裁量の範囲は、当然
教材扱い、届出認可という点においても考慮されて、地方の
教育委員会が規則を作る際にしなければならぬと
考えます。
まことに原稿を書くいとまもなく参りましたので、非常に粗雑な
言葉で申し上げました。なお、また、私はほとんど教壇を離れず、一学校に終止したような者でございまして、見解も識見も足りませんが、北海道の実情を御参考に申し上げまして、この
国会における本法案の御
審議の幾らか参考になりましたらと存じまして申し上げた次第であります。