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参考人(
青木貞治君) 私は
青木と申します。
北海道の
独航船の
船主であり、
独航船の固まりの
団体である
北海道漁業協同組合の
組合長であります。
北洋の
サケ、
マス漁業につきましては、当国会におかれまして非常なる御関心を持たれ、累次重要なる御
会議を催されまして、私
どもこの
漁業の一端に携わる者としましては、常に
感謝を申し上げておるのであります。ただいま
藤田さん、
小林さんの両
参考人から
お話がありましたので、ほとんど言い尽されておりまするが、いささか私
ども独航船の立場におきます見方というものを補足的に申し上げて御
参考に供したいと考えます。
この
北洋漁業につきまして御認識を深めていただきたいことは、
日本の
水産業においてこの
北洋漁業は
水産業中一番大事な
事業であるということなのであります。下関、
長崎等におきまする
以西底びき
網漁業は
一つの
遠洋漁業、その次に三崎、清水、
焼津等を
根拠とするところの
太平洋、インド洋の
マグロ漁業、これが第二の
遠洋漁業、第三には南極の
捕鯨漁業とこうなっておりまするが、この四番目の
北洋漁業なるもものはこの四つの中の第一に位するものと考えております。ただいま
母船側から
お話がありましたので、その
母船式漁業の形態なるものの全貌を御
承知でありまするが、
独航船側から申しまする
一つの特質とでも申しまするか、これについて申し上げますが、まず
分布状態、
母船、
調査船等約六百隻のこの
船主、
経営者、
従業員この
分布がどうなっておるかと申しますと、この
漁業家は石川県から始まりまして富山県、新潟県、山形、
秋田等、それから
太平洋面は千葉、茨城、福島、宮城、岩手、青森に至り
北海道を含めまして、実に
関東以北の全
日本の半分の地域にわたりまして、
経営者、
船主、
従業員がこの
北洋漁船で
生計を営んでおることなのであります。これがいよいよ四月二十八日を期しまして
函館に集まりまして、
函館から一斉に十二
船団、その付属するところの三百十五隻というものが出帆する
準備を着々整えて、私
どもは勇躍出帆することになっておったのでありまするが、はからずも三月二十一日のあの
ソ連の
声明がありまして、われわれ一同全く暗やみに突き落されたごとく感じまして、それぞれの各県の
漁民大会、また
北海道各地の
漁民大会、ひいては東京における
漁民大会というものを催しまして、昨日も
総理大臣閣下に陳情申し上げた次第であります。
ソ連の言うごとく、かの東経百七十度二十五分の線から西の方においては外国の漁師は二千五百万尾以上とってはならぬ、とることを
制限するという
声明通りわれわれが守らなければならぬものとしまするならば、一体いかなる
影響があるかということが重大な事柄でありまするが、昨年
東アリューシャン沖合いにおきまして
独航船一そうの
漁獲数量は、
平均しまして約十五万尾となっております。その十五万尾でもって二千五百万を割りますると百六十六そうという数が出て参りますので、本年
予定の
出漁船五百隻からそれを引きますと、
残り三百三十四そうというものが余って、結局着漁できない、全休もしくは全廃ということにならざるを得ないのであります。かりに全船五百そうが
出漁しまして、途中で二千五百万尾になったからお前たち帰れと、こういうようなことになりますというと、
予定の収獲の二割か二割五分でもって切り上げて、
独航船もまた
母船も大きな赤字をしょって泣く泣く帰らざるを得ないというような
事態に当面することになりましょう。私
どもあの
声明を聞いて非常に憂慮にたえず、あらゆる運動を起しましたわけですが、幸いに昨日来
河野大臣が全権として、
代表として行かれるということでまず一応の胸をなでおろしました。いかようなることに進みますか知りませんが、切にこの
日ソ漁業交渉の成立することを期待して念願してやみません。この際私一個と申しますか、
組合全体の考えではありませんが、
資源愛護ということについて一体何らかの考え、あるいはまた
ソ連のこの
制限措置について何かいい論議の
根拠はないのかということが大事なことと考えますが、
ソ連の言うところの、自分の国に上ってきて産卵する大事な
資源は愛護しなければならぬ、沖でとるところの
日本人も
協力せよということは、これは
藤田さんまた
小林さんの
お話の
通り、私
どもも愛護のことについての
協力については実に何らの
協力を惜しむものではありません。現に私
どもは
北海道における
サケ、
マス養殖
事業に大いに
協力すべしとして、われわれの
組合費の実に一割に及ぶ
金額を寄付してその
事業を助けておるようなわけでありまして、全くこの
資源愛護については全面的な
協力を惜しまないものであります。ただソビエトなるものが自分の川に上るのであるから、自分のところはまずなんぼとってもよろしいのだ、沖でとることはまかりならぬのだ。なんぼとってもよろしいということではないでしょうが、とにかく領海内においての
漁獲は
制限しない、沖合の方だけ
制限するということについては大なる不満を抱くものであります。私はこの
太平洋、
オホーツク海における
サケの回遊は、
一つの大きな牧場であると考えるものであります。
サケは五カ年でもって成魚となって川に上って産卵するのでありますが、最初の半年、一年はいわゆるソビエトの領海、あるいは千島列島、あるいは
北海道の川等で育ちまするが、あとの四年は海洋で遊泳して索餌をして成長するのであります。その牧場の管理者はわれわれ
日本人であるといって過言でないと考えますので、もし
資源を、育て上げた魚をお互いに分けようではないかというならば、ソビエトはむしろその五年間の中の一年分をとって満足すべきでないかと考えるのであります。少々勝手な議論かもしれませんが、一説としてお聞き取りを願いたいのであります。
それからソビエトはわれわれ
日本の漁師がむやみにとり過ぎるということばかり言っておりますが、この
サケ、
マスの外敵を取り除くということについては、知ってか知らずか、知らぬ顔をしておる点があるのであります。それはアリューシャン列島、コマンドルスキー諸島、それから千島列島、樺太の海豹島にオットセイ、アザラシ、海馬というようなものが最近は四百万頭もの大群が生息しておる、繁殖しておるということでありますが、これは一体
サケ、
マスについて何らの外敵ではないという観察をしておるのでありましょうかどうか。よく私は動物学者でありませんから、一体海獣が一年に
サケ、
マス類を何匹食うかということは私はこれをきわめておりません。しかしながら、その四百万頭がかりに一日に半匹の
サケ、
マス類を食い殺すのでありまするならば、一日に二百万尾、十日で二千万尾、百日で実に二億尾というものを食い殺すということになるのであります。もとより一年中
サケ、
マスばかり食っておるわけではありません。が、
日本人にわずか二千五百万尾しかとることを許さぬ、そういう海獣の大群には二億尾も食ってよろしいということはあり得ないと考えるのでありまして、この
日ソ漁業交渉に当りましては、切にそういうことも大いに論拠の種にしていただきたいと考えるのであります。
先ほど北陸、東北、
北海道の一万数千名の漁師がこの
独航船の
経営者であり乗組員であると申しましたが、すでに御案内のごとく、
日本内地、
北海道もそうでありますが、
漁業者は実に生活上の苦難の境地に陥っております。そのところに、このたよりにしておりまするところの
北洋漁業に大
制限を受けて、ソビエトのいうごとく、
北洋の利益に均霑できぬというようなことが万一にも起りまするならば、いわゆる
関東以北の漁民の
生計はまことに哀れな
事態に陥ると考えまする。どうか諸先生におかれましてはこの点をよく深刻にお考え下さいまして、われわれ
独航船北洋漁民のために御
協力あらむことを切にお願い申し上げます。