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参考人(
杉村章三郎君)
東京大学教授の杉村です。
私が本膳にお招きを受けましたのは、おそらく
行政審議会の
委員をしておりました
関係で、その間の
科学技術庁の問題についての従来の経緯というようなもの、あるいは
法案の内容というものについて
意見を聞きたいということであろうかと存じますが、この点は先ほど
池田さん、茅さん、御両方から詳しく御説明がありましたが、結局
科学技術庁の問題が起りましたのは、正式にこの
審議会の問題になりましたのは
昭和二十七年の第一次の
行政審議会のときであったようであります。で、当時政界の一部で言われておりました
科学技術庁の
設置問題につきまして、
日本学術会議の代表者を招きまして、問題の経緯あるいは
学術会議の意向を確めて問題を
検討したことがあるのであります。しかしこの第一次の
行政審議会においてはこの問題は
答申にはなっておりません。その後
国会方面におきまして、この
科学技術庁を
設置するという運動が非常に
強化されまして、超党派的な議員連盟というものが作られ、
政府でも何らかの
結論を出さなければならないという段階になりまして、第二次の
行政審議会、これは第二次鳩山内閣のときでありましたが、このときに
科学技術庁の問題が主として取り上げられまして、そうして先ほど
池田さんがおっしゃいましたように、昨年の十一月の初旬に
答申を行なった次第であります。なお、この問題は単に議員連盟の
方々ばかりではなく、
経団連を中心とした財界におきましても取り上げられておりましたことは、これは
池田さんのおっしゃる
通りであります。どういうわけで
科学技術庁を特別に
設置しなければならないか、これは申すまでもなく、戦時戦後にわたるわが国の
科学の著しい後退というものをあとへ戻そうということ、それから、しかもまた貧弱な資源あるいは貧弱な
国家予算というものを最も効率的に利用する、そのためには通産省を初めとしまして、運輸省、農林省、建設省その他にばらばらに行われておりますところの
科学技術関係の
行政機関というものを、やはり統一して総合した方がいいのではないか、こういうような
考え方が出てきたものと思われます。しかし当時におきます問題としましては、先ほどこれは茅
会長からお話のありましたように、
科学技術庁を
設置した結果として、時の
政府の政策によって
研究がまげられはしないかという点。それから第二点は、自然
科学の保護という方に偏重を来たして、人文
科学の奨励というような点がなおざりになりはしないか、こういうような点。それからさらに、各省の技術
機関というものは、各省それぞれの業務の実体と結びついているのでありまして、これを切り離して一ところにまとめるというようなことは困難ではないか、こういうような点が問題になったわけであります。しかしながら一般の趨勢といいますか
国会内の空気というものは、やはりこの
科学技術庁の
設置の方向に向ったわけでありまして、それで先ほどの
行政審議会におきましても、その線に沿うて
答申を出したわけであります。この
答申と、それから今提出されておりますところのこの
法案というものを比較してみますと、先ほ
ども池田さんのおっしゃいましたように、かなり後退した線が出ておるように
考える次第であります。まあこまかい点は省きまして、一番大きな問題は、やはり
科学技術庁が
科学技術関係の
予算についての
総合調整をなすという権限を重視しなければならないのでありますが、この点
答申では、
科学技術関係の「
予算に関する各省の見積の
方針につき
調整を行い、
予算の要求は、各省みずから大蔵省に対して行う。」のであるけれ
ども、「大蔵省は、右の
予算査定に際しては
科学技術庁の
意見を尊重するものとする。」こういう
答申が出ておるわけであります。しかしこの点は
調整を行うと、それから各省
予算の要求は各省みずから大蔵省に対して行うということは認められておりますけれ
ども、大蔵省はその
予算の査定について、
科学技術庁の
意見を尊重するという規定は入っておらないわけでありまして、この点がまあ
一つの後退しておる点であろうかと思われます。
それから
科学技術庁の権限の問題でありますが、これは大体において
答申の線が出ておるのでありますが、すなわち技術庁は総理府の外局であり、長官は国務大臣をもって充てる。で、技術庁長官の権限としましては、要するに各省の
科学技術についての
調整権限というものが重要視されるわけでありまするから、
関係行政庁長官に対して資料の提出なり説明を求めるという
権能は与えられておるわけでありますし、また第二点としては、
関係行政機関に対する
勧告権を与え、まあ往々にしてそういう
勧告というようなことは実際において行われないというのが通常でありますので、
勧告に基いてどういう措置をとったかということについて、長官にその措置を報告をしなければならぬ、そういう義務を課しておるのであります。この点は大体
答申と同様であろうかと思います。
ここに
一つこの
法案で特色のあるのは、
科学技術庁長官の権限の
一つとしまして、長官が
関係の
行政庁長官に
勧告をした場合に、その
勧告中に特に重要な
事項について、特に必要と認めた場合においては、総理大臣に対して内閣法第六条の規定による処置をとるように
意見具申をなす、そういう権限を認めた点であります。これはやはり先ほ
ども申しましたように、
勧告をするけれ
ども、そうしてその報告を徴するという権限を認めるけれ
ども、さらにそれに加えてもっと長官の統制権というもの、統制権といいますかその権限を
強化するし、またその
意見が実行されるように
内閣総理大臣に一定の
意見具申をするという権限を認めたものと思われます。この内閣法第六条の測定というものがこういうように使われた例というものは、私、寡聞にして存じないのであります。これは内閣法の問題といたしまして、こういうような
意味のことができるかどうかということは問題であろうと思います。元来内閣法の第六条というものは、最高
行政官庁としての内閣自身の権限を規定したものであり、総理大臣というものはその長として、いわばこれを代表するという権限をもつ、それが内閣法の規定に現われておるわけであります。ですからしてこの規定をもって総理大臣に何か強権発動ができるような印象を与えるということは、これは内閣法の問題でありますけれ
ども、疑問であろうかと、ですから、従ってこの規定が置かれたということによって、どれだけ長官の権限が
強化されるかということは、私は非常に疑問に思っておる次第であります。
それからもう
一つ、別の問題でありますけれ
ども、前に
行政審議会で
答申を出しましたときにおきまして、その
答申のうちにおきまして、従来こういうような
科学技術その他の
調整機能を持った
機関、あるいは
企画機関というものの位置といいますか権限というものは、
行政の実施
部門を持たないそういう
企画官庁というものは非常に弱いものである。こういうことが従来から立証されておるのでありまして、従いまして
科学技術庁をして真にその真価を発揮するためには、やはり一定の
範囲の実施
機関を持たなければならないと私
どもは
考えておるのであります。その点につきまして、この
答申においては、なるべく広い
範囲において、
関係行政機関の
試験研究機関というものを総合して、技術庁の補助
機関にするという案でありまして、かなりいろいろなものを取り入れておったのでありますが、あるいは地質
研究でありますとか、あるいは電気
研究所、機械
研究所というような通産省の
機関をだいぶ取り入れておるのでありますが、今度の案ではただ
航空技術研究所とそれから
金属材料研究所ですか、そのほか将来設けらるべき
原子力関係の
機関をここに取り入れてあるだけでありまして、従ってその点でやはり
答申よりは一歩下っておるもののように
考えられるのであります。
それからこの
法案におきましては
STACを廃止しておるわけでありますけれ
ども、そうしてその
科学技術庁に対する
答申、
STACの
答申、
勧告というものはこの
企画調整局の権限としておるのでありますけれ
ども、しかし
STACは元来単に自然
科学だけではなく人文
科学も入っておるのでありまして、その点こういうような権限を与えるとすれば、やはり
科学技術庁が自然
科学のみを取り扱うものではなくなりまして、ある程度人文
科学もその権限となってくるようなことになりはしないかというふうに
考えられるわけでありまして、従って
STACの廃止というものはこの点多少そういうようなことで問題となるのではないかというふうに
考える次第であります。
大体私のちょっと気がつきました点はそのくらいのことで、これで終りたいと思います。