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公述人(
田中壽美子君) 私は、一人の婦人有権者といたしまして、今回提案されております
公職選挙法の一部を改正する
法律案の中に含まれております小
選挙区制に対して、
反対の
意見を述べたいと存じます。
反対の第一の
理由は、小
選挙区
制度が実施されましたときに起りますところの事態を具体的に
考えてみますと、
一般選挙民の意思を十分代表しないのではないかという点にあるのでございます。
一般選挙民とは、今日有権者の半数以上を占めておりますところの婦人有権者を含んでおりますわけでございまして、婦人有権者は、昨年度の人口調査によりますと二千五百六十七万でございます。男子が二千三百五十五万に対して二百万ほど多いのでございますが、この小
選挙区
制度を抽象的に
考えます場合には、非常にいろいろの長所があるように言われております。で、自治庁
選挙部でお出しになりました資料によりましても、小
選挙区
制度の長所と欠点と両方があげられておりますが、その中にも、たとえば長所としては、多数代表となり、二大
政党の対立をもたらす、それからまた欠点に死票増加の傾向があるということが述べられ、また
候補者の人物、識見は徹底させやすいが、
選挙運動が過激になりがちである、長所と欠点と両方載せてございます。また
選挙運動費用は比較的少額で足りる、
選挙違反の監視及び取締りが容易であるという長所があげられておりますかと思いますと、また地方的勢力家に有利となるというような欠点もあげられておりますわけですが、こういうことは抽象的に
考えました場合には、長所と欠点と両方あげられますけれども、現在の日本の情勢に当てはめます場合には、非常に欠点の方がたくさん実際問題として起ってくると思われるのでございます。
第一に死票の増加という点でございますが、二大
政党の対立による
政局の安定ということを口実にして、小
選挙区
制度をしかれることを提案されておりますのでございますが、この中では少数
意見を二大
政党の口実のもとに無視しやすい、つまり
民主主義に反すると思われるのでございます。で、今日の自民党と社会党以外の小党の票は、今日の中
選挙区
制度によってまあ全区にわたって集めた票が多いのでございます。で、婦人の
議員なんかが得ておりますところの票などもそういう性質のものが多いのでございまして、二大
政党の名のもとに少数者の発言を封じてしまう心配がある。各全国にわたっての
選挙区に、こういう少数者の
意見が代表されない心配がございまして、非常に非民主的になる。で、私はこの二大
政党による
政局の安定ということを盛んに第一の
提案理由にされておりますけれども、果してこれをだれが望んでいるのかという点に疑惑を抱いておりますわけでございます。
次に
選挙運動が激しくなるということは、これは牧野法務大臣がかつて朝日新聞紙上に社会党の人と二人対立した
意見を述べておられました中にも、買収が非常にふえるだろう、それから小
選挙区になるので花輪
議員や香典
議員がふえるだろうということを言っておられますが、そういうことは十分起るだろうと思われます。また地方的勢力に有利になるということですが、これなんかもほとんど男性ボスなんでございまして、婦人有権者は目下
政治への正しい参加ということを、
選挙権を得て十年の間に訓練されております最中でございます。で、現在の
制度においてすら地方では部落投票のような、つまり本人の意思を生かすことのできない投票が起りがちでございまして、婦人なども団体的にそういうボスの勢力に左右されることがあるのでございますが、目下そういうことをなくすために自覚した
選挙民となる訓練を一生懸命でしております最中でございますが、それがさらに地方的なボスの勢力が強くなって参りますと、地方の利益に結びついて、つまり地方に暮しております婦人にとりましては、どうしてもそういう人たちの勢力下に入っていきやすいのでございます。そういう
意味で弊害が出て参る。実はこういうふうに抽象的に理屈づけました際の長所の方を強調されますけれども、小
選挙区制をしかれますほんとうのねらいは、むしろもっと党略的なものにあるように思われますし、また非常に
議員本位であるように思われます。私ども有権者の立場から見ますと、こういったいろいろの議論がずいぶん
議員本位で勝手な言い分のように思われるのでございます。
提案理由としてあげられております二大
政党対立による
政局安定ということでございますが、これなども、二大
政党を作って安定するというふうに言われますのは、一種の自己満足のような気がいたします。さっきも申しましたように、少数者の
意見が無視されまして、非常に少数者が不満を抱きますことは、
政局を果して安定することになるかどうかと
考えますし、また当然だれでもが予想いたしますように、現在の
状態で小
選挙区
制度をしきまして、自民党が圧倒的な多数を占めて、そうして社会党がずっと議席が減っていく、革新系のものがずっと減っていく場合に、果して二大
政党の対立による
政局安定と言えるかどうか、非常に権力によったところの安定、つまり力による安定をもって二大
政党の対立による
政局安定というふうにおっしゃっているように思われます。で、
選挙民の側から申しますと、これを望んでいるか望んでいないかということはわからないわけでございます。これはただいま自民党が合同されましたけれども、これも
選挙後のことでございまして、そういう合同された安定勢力を望んでいるかどうかは、解散によって民意を問わなければわからないことではないか、それを勝手にそういうふうに言われて、それを提案の第一の
理由にされているということを非常に
選挙民としては不満に感ずるわけでございます。それから
公認制で乱立が防げるというようなことを言われておりますけれども、これなども
選挙民の側から言うよりは、むしろ
議員たちの問題なのです。それから費用が少いというようなことも長所として非常にあげられておりますけれども、これなどもまた
議員さんの側からのことでございまして、まして
衆議院では
修正されましたけれども、
区割制の問題なんかにつきましては、非常な
議員本位のものでございまして、
選挙民から見ますと、全く何でこのようなことを今日しなければならないのか、非常に不思議に思われるわけでございます。ですから、
選挙民にとっては非常に押しつけがましい改正であるように思われます。
なお、今日言われております二大
政党と申しますのは、私は二大
政党というふうには
考えられないのでございます。アメリカやイギリスの二大
政党は、これは二つの
政党がほとんど勢力伯仲して、そうしてお互いに牽制し合うところの、
民主主義の
ルールに乗ったところの
政党でございますが、今日の二つの
政党を二大
政党対立という形では
考えられないのでございます。私は、むしろ今の
制度のままで少数
意見者の
意見も代表されて、そうしてむしろ不安定な形で、たびたび解散が行われたびたび
選挙が行われることの方が望ましいように思います。これは金がかかるからということでよく言われますけれども、たびたびやればやるほど新人も出て参ります。それから金がもう続かなくなって、金がいらなくなるようになってほしい。それから
選挙公営をやってもらうことによって、そういう点を補っていけると思います。
それからその次に、私は憲法との関連で、この小
選挙区制が一そう民意を反映しないという点について申し上げたいと思いますが、小
選挙区制実施の結果、当然
一般に予想されておりますことは、
衆議院の三分の一以上を革新派が掌握することは不可能であろう、保守系が三分の二以上とりますと、憲法改正の発議をする権限ができてくるわけでございまして、このような重大な変化をもたらしますところの
制度を——この前の
選挙のときに公約で掲げられたものではなくて、しかもこのように重大な変化をもたらします
制度を——出されますことにつきましては、非常に民意を反映していない点で、私は
反対なのでございます。
なお最後に、婦人有権者は、特にこの憲法改正に対しましては
反対者が多いのでございます。第一番に平和を望む気持から、また特に今日の憲法が基本的人権を保障しておりまして、あの基本的人権の保障に基いて今日の婦人の地位はございますので、非常に大切な憲法をさわることのできる権限を与えるような結果を生み出すところの小
選挙制に対しては、非常な疑惑を持っておりますので、この点でも婦人有権者の意思を無視するものと思われますのでございます。今年の二月初めに全日本婦人
議員大会が東京で開催されまして、地方
議員初め五百人ばかり婦人
議員が集まりましたけれども、この席上で超党派に——この人たちの中には保守系の無所属の方が最も多かったんでございますが、この人たち全部が超党派に決議いたしましたことの
一つに、家族
制度復活の
反対がございました。で、憲法改正の中の
一つの要点として家族
制度問題を含んでおりますので、なおさら婦人有権者の立場からはこの憲法をさわられるような結果を生じる
選挙法の改正には
反対なのでございます。
で、もう
一つ最後に、小
選挙区制になりました場合に、婦人の進出が非常に押えられるだろうということを、婦人はおそれておりますので、その点をつけ加えたいと思います。一人一区で男女が対立します場合に、まず第一に
公認制度が確立されました場合、婦人を
公認するということが非常に少いということは当然予想されることでございます。現在でも婦人の
候補者が
党内で
公認候補となりますことは非常にむずかしゅうございます。現在
衆議院には八人、参議院に十五人の婦人
議員がおりますが、これらの数が戦後第一回の
選挙から今日までに、たえず
衆議院の方では婦人
議員が減っておりますことにつきまして、これは婦人に
政治的能力がないのだというような簡単な言い方でやっつけていられる方がございますが、実はそういうことよりももっと重大なのは、次第に
政党の中で
公認の
制度が実施されて参りまして、婦人を
公認候補として選ぶことが非常に少いということでございます。これは長い間
選挙権も何もなくて
政党活動の経験もない婦人が、
党内で
公認される、それだけの実績を上げるということは非常に困難で、従って
公認されることが少い、これを、
公認も革新系の方には比較的多いのですが、保守派になりますと、なお勢力家が多いものですから出にくい、それから
選挙に地盤とかお金とかいうものが非常に要るようになり、地方ボスとの連絡が密になって参りますにつれて、
あとから出て参りましたところの婦人や新人が出にくいのは当然でございまして、そういうことが一緒になって婦人
議員の減少をもたらしたと思われます。これに比べまして参議院の方に比較的たくさん出ておりますのは、これは参議院の
選挙区が大きい、そしてことに全国区というようなものを持っておりまして、婦人は全国区の方から出やすくなっているようなんでございます。それらの点から
考えまして、小
選挙区になりますと、婦人が非常に進出しにくいだろうと思われます。これは諸外国の例から見ましてもそうでございまして、イギリスやアメリカのように
民主主義が非常に発達していると言われております国において、婦人
議員の進出が非常に少い。これは全
国会議員の三%余くらいしかアメリカもイギリスも出ておりません。これはユネスコの資料によったものですけれども、それに比べてイタリアだとか西独あるいはフランスの方がはるかに多い。さらにスウェーデンとかフィンランドとか、ルーマニアや、あるいは中国、ソ連になりますと、婦人
議員の進出が多い、その大きな
理由として
考えられますのは、イギリスやアメリカが一人一区、
政党公認制である、そういう小さな
選挙区から女がほとんど進出できないという
状態でございます。そういう点から
考えましても、婦人としてはこの点を非常に心配するわけでございます。で、日本では私
考えますのに、まだ特に婦人の進出は要請されなければならない時期だろうと思っております。なぜならば、婦人は今日まで権力の地位にありませんでしたので、すべての革新的なあるいは民主的な勢力として青年や婦人はその役割を果しておりまするのでありまして、そういうものに対して
政治的な進出を育成されなければならないと思っております。それに、婦人は有権者としてだけではなくて、有権者としての婦人の票は男子の
候補者たちも非常に一生懸命にこれを期待されるわけでございますが、間接的な、投票をするという
政治への参加だけでなくて、積極的に
政治家として婦人が進出することも十分の
権利があると思いますし、またそれは、日本が民主的な国として発展、進歩して参りますために最も必要な要素であると
考えております。そういうわけで、長い目で見て、その小
選挙区制を実施して四回も五回も
選挙しているうちには、だんだんよくなるということをおっしゃる方もございますが、そういう長い経過を待つよりは、今そういう逆行を防いで、何年、何十年の進歩の上に損失をしないように、その損失を防ぎたいと思っております。憲法改正
反対に連なっておる革新派や民主的な勢力、婦人の進出を何年分も後退させるような結果を生じると思われます小
選挙区制に対しまして、私は以上のような
理由から
反対の
意見を述べさせていただきました。