○
参考人(
金沢良雄君) 私はただいま
委員長からお話がございました本
改正法案のうちで、特に
下流増利益の
調整に関する点につきまして申し上げたいと存じます。その場合に主として
法律論的な
立場から申し上げたいと思います。
そこでまず第一に
下流増利益の返還ということにつきましての一般的な
法律的な根拠というものが、どういうところにあるのかというところを一般論的に申し上げてみたいと思います。
第二にはこの本
改正法案における
下流増利益返還の措置の
性質がどういうものであるかということ、それが
法律論的に可能であるかどうかということについて申し述べたいと思います。
第三に立法技術上本
改正法案についての若干の
問題点を申し上げたいと思います。で、最後に多少関連する事項についても時間があれば申し述べたいと思います。
そこでまず第一に
下流増利益返還の
法律論的な根拠でございますが、これは当事者の
話し合い、つまり契約ということであればそれによって
解決せらるべき問題であろうと思います。ところでその契約ができない場合、あるいは契約を当事者の
話し合いにまかしておくことが適正でないというような場合にどうなのかということだろうと思います。そこで
考えられますのは、二つの点があると思います。
その
一つは、民法上の不当利得の返還の
考え方、ここによりどころを求めようという見方。それからもう
一つは、公法上の
受益者負担というところによりどころを求めようという見方になってくると思われます。
そこで最初の不当利得返還ということでございますが、この点につきましては、現行民法上の解釈といたしましては、多少困難な点があるのではないか、つまり現在の民法の不当利得についての成立要件を十分に満たし得ない場合があるように思われます。ただここで
考えられますことは、いわゆる公平の
原則に従いまして、多少その成立要件を欠けているとしても、その
利益の返還を認めてもよいのではないかという
考え方が出てくると思われます。これはちょうど不法行為による損害賠償に対して無過失損害賠償責任を認めるような、いわばその裏返ししたような形で不当利得返還の要件を満たさない場合でも、
利益の返還を認めるということも可能になるのではないかということが
考えられると思います。もしそういうような
考え方が出てくるとすれば、それは最終的には裁判所で争われるということになりますが、立法論的には、たとえば鉱業法における
鉱害賠償の
規定のようなものを何らかの措置で設けるということも
考え得るわけであります。しかし現在の情勢として、そこまでいろんな判例もございません場合に、いきなり立
法的措置をやることが、立法政策的にどうかということは疑問として残るだろうとは思います。
次に
受益者負担という
考え方でございますが、これは御
承知のように、公用
負担の一種とされておりまして、特定の
公共性のある
事業から特別の
利益を受ける者がある場合に、その
公共性のある
事業の適正な運営をはかるために、その
利益を受ける限度におきまして金銭的給付
義務を課する、こういうことが
受益者負担というふうに一般に解せられておるわけであります。これが課せられる場合には、
法律で
規定すればそれが課せられるわけでございますが、この
下流増利益の返還というものも、一応この
受益者負担として
考えることができるのではないかと思います。それはやはり
電力事業という
公共性ある
事業につきまして、一定の特別の
利益を受ける者に対して、その
事業の適正な運営をはかるために、
利益の返還を行うことでございますから、その限りにおきまりては、これを
下流増利益の返還を
受益者負担として
考えていくということは可能であろうと思われます。ただそこで若干御疑問になる点があるかと思うのでございますが、それはこのたびの
改正法案では、第六条の二におきまして、「
電気事業者又は
電源開発株式会社」というものが
受益者負担特権といいますか、公用
負担特権を与えられるという点でございます。つまり、ということは、私企業にも公用
負担特権が与えられる
規定になっているという点でございます。しかしこの点につきましては、公用
負担特権というものが一般に私企業についても、それが
公共性ある
事業である場合に、その
事業を運営して行くに当って一定の
負担を課することを認めるということが妥当である限りにおきましては、やはり私企業といえ
ども、この公用
負担特権を与えられてよいと
考えております。
そこで第二に本
改正法案における
下流増利益の
調整の措置の
性質でございますが、本
改正法案の第六条の二は大体においてこの
受益者負担の
性質を有するものと
考えてよいのではないか。それは以上申し上げましたような理由によりまして
法律的には立法として可能であるということが言えると思うのであります。
次に第三に立法技術上の若干の問題について触れたいと思います。
その第一点はこの
受益者負担を認めます場合は、政令で定めるところの一定のものについて認められるということでございます。第六条の二の一項、それから四項あたり、これがどういう意味を持つかということでございますが、おそらくこの
下流増利益の返還を認めなければならないというような場合は、
一つの水系につきまして、それが総合的、
計画的な
電源開発を行う必要があるというような場合に、特に
受益者負担的な構想によりまして
下流増利益の
調整をはかるということが必要になってくるのではないか、いわば
受益者負担を課する場合の要件としての公益性というものを今言いましたような場合にしぼって
考えて行く必要があるのじゃないかということは、うなずけると思うのであります。その限りにおきましては、政令で一定のものについて定めるものについて適用するということも、大いに意味があると思います。ただその場合に運営上の問題でございますが、できるだけ今申しましたような公益性というものを公平な基準から判断して選んで行かなければならないのじゃないか。
受益者負担がある
部分については課せられ、ある
部分については課せられないということが不当に行われないように注意する必要があるのじゃないかということが
考えられます。
それから次に第二といたしましては、この
改正法案では
負担額は協議によって定められるということになっております。ところでこの協議ができないとき、あるいはそれが整わないときにはどうなるのかということについての裏づけ的
規定がないという点でございます。大体従来の例によると、行政庁の裁定あるいは裁決というようなものによりまして最終的な
解決がはかられるということになっておるのでありますが、その点について多少立法技術上疑問が残るわけであります。ただ、しかしこの
受益者負担特権というものを、いや失礼いたしました、
下流増利益の返還というものを認めるということにつきましては、先ほど申しましたように一方ではその公平の理念に基いてできるだけ臨時的にものを
解決していこうという、いわば当事者の
話し合いによって
解決していこうという
考え方があるということを思いますと、この場合に協議によってできるだけ事を運んでいこうとされるところの趣旨は大いにけっこうであろうと思うのであります。
それからなお多少関連する問題といたしましては、
上流部
施設の持ち分とか管理権というようなものが
受益者負担を課せられるものにも認められるかどうかということでございます。この点につきましては本来この
下流増利益というような問題が生じます前に費用振り分け、コスト・アロケーションの面で
解決がつく場合も多いと思います。もしそのコスト・アロケーションの面で
解決がつきました場合には
受益者負担という問題はもはや生ずる余地がないということに理論上
考えられるわけであります。ところで持ち分とか管理権とかいう場合にはその費用振り分けに入っておるという場合に初めてそこに持ち分、管理権というものが生ずるのが
原則であろうと思われます。つまり管理権はやはり
所有者に属するというのが
原則的な
立場であろうと思われます。従いまして
下流増利益に対して
受益者負担が課せられる、
受益者負担としてこれを
考えていく場合にはあるいはそういう措置をとった場合にはこの持ち分はもちろんのこと、管理権も
負担を課せられるものには
原則として認められないということになるだろうと思います。ただその場合に当事者の
話し合いによりまして
上流部の
ダムの操作というものについて協議ができればけっこうなことだろうと思います。もちろんそれは当事者の
話し合いでできることでございますから、そういうことがもし行われるならばそれでけっこうなことだろうとは思いますが、
原則論的には当然には
負担を課せられるものは管理権を持つということにはならないということでございます。ただ、まあ当事者の
話し合いでその管理の問題が
解決すると申しましても、最終的には先ほど申しましたようなふうに
下流増利益の返還を認めます場合というのはおよそ
一つの水系につきまして総合的
計画的な
電源開発を行う必要がある場合というようなことになってくると思いますので、むしろ管理権に対しては国が十分の監督を行うということが必要になってくるだろうと思われます。大体私の
下流増利益の返還に関する
法律論的な
立場からの
意見は以上でございます。
—————————————