○国務大臣(石橋湛山君) 今日
わが国の財政
経済に課せられております最大の任務は、一面において
インフレーションの発生を防止しながら
経済の
自立発展をはかり、
雇用をできるだけ急速に
増大して、理想としては失業の絶滅を期することであると存じます。これがためには総合的かつ
重点的に
経済を
運営し、その
目標に向って一歩一歩着実に前進していくことが必要でありますが、
昭和三十一
年度におきましては先般策定を見ました
経済自立五カ年
計画の初
年度といたしまして、最近ようやく
達成せられました
経済安定の基調のもとに、積極的に
経済規模の拡大をはかっていきたいと考えております。かような見地から
通商産業省といたしましては特に
貿易の
振興、
産業基盤の
強化、科学技術の高上及び中小
企業の育成という四点に重きを置きまして、諸般の施策を総合的に推進をいたしていきたいと考えております。
まず
貿易の
振興でございますが、幸い
昭和三十
年度の
国際収支は
輸出貿易が前
年度に引き続きまして終始好調裏に推移いたし、総額約二十億正千万ドルになりまして、昨
年度に比べ約四億五千万ドルの著増を示す見通しでございます。従って
輸入総額が約十九億ドルとなりまして、約二億ドルの
増加が見込まれておるにもかかわらず、
貿易外収支を含めまして約三億八千八百万ドルの黒字を記録し、手持ち外貨も十四億ドルをこえるものと推定をいたされておる次第であります。
しかし、このような
輸出の好調は一直におきましてはもとより一昨年以来の
経済健全化政策の効果にもよるところでございますが、実は主としては海外
経済の未曾有の好況に負うところがきわめて大であったとこう考えなければなりません。従って
海外景気の今後の動向いかんによりましては、三十一
年度と同様の
状況が継続するというようににわかに楽観はできないのであります。従って
わが国といたしましては目前の
輸出の好況に幻惑されることなく、
わが国産業の実力を養い、さらに
輸出の
振興に総力をあげて努力していくことが肝要であると考えておる次第であります。
これが根本的な対策といたしましては、まず基礎産業と
輸出産業とを充実整備いたしまして、
わが国産業の国際的競争力を培養すると同時に、
輸出の
振興上直接必要な施策を講じていきたいと考えております。
第一に、
経済外交をさらに強力に展開して、
通商航海条約の締結を促進いたしますとともに、ビルマに引き続きまして、東南アジア諸国との賠償問題等の早期かつ合理的な解決をいたす、そして正常な
通商関係の確立をはかりたいと考えます。また、
わが国の重要な
輸出市場でありますところの東南アジア、中南米等の諸国との国際
経済協力を
強化し、海外
投資、技術援助、プラント
輸出等を通じましてその
経済開発に積極的に協力いたすことが、
わが国の
貿易の
発展上きわめて有意義と考えられますので、
日本輸出入銀行による円滑な
輸出金融を確保いたしますとともに、あるいは技術指導、技術相談等に関する海外施設を拡充いたしますとともに、新たに海外
投資保険制度を創設して、これが促進をはかる方針でございます。
また、対共産圏
貿易、特に中共との
貿易につきましては、国際的協調の範囲内におきまして、できる禁輸品目の緩和に努力いたしますほか、今般設立されました
輸出入組合の
運営を通じまして取引態勢の整備、決済条件の
改善等をはかりまして
貿易規模の拡大均衡をはかりたいと考えております。
次に、今後における
貿易自由化と国際競争の激化の
趨勢に対処いたしまして商社機能の
強化をはかる必要がありますが、これがため
輸出承認品目の
整理、自動
輸出承認品目の拡大、
輸入割当品目の買付先制限の緩和あるいは商社外貨保有制度の拡充等、
貿易為替管理制度の簡素化、その運用の機動化についてさらに一そうの工夫を加えたいと考えておる次第でございます。
同時に、最近
海外市場においてますます激化しておりますところの
わが国の商社間の無用の競争が、
わが国の
貿易条件を無益に悪化させておることにかんがみまして、またこれが相手国側に
わが国輸出品に対する反発的傾向をも惹起しておるような事態にかんがみまして、先般改正をみました
輸出入取引法の逆用により
貿易取引秩序の確立には万全を期したいと考えております。
さらに、
わが国商品の
海外市場への進出の道を開拓し、かつこれを維持していくためには、綿密な
海外市場調査、活発な海外広報宣伝を絶えず行なっていく必要がありますので、
政府といたしましては引き続きこれらの事業を積極的に援助、助長をいたしたいと存じております。
以上申し上げました見地から
昭和三十一
年度予算案におきましては、プラント
輸出の
振興に必要な
輸出入
資金として、
日本輸出入銀行に財政
資金として二百四十五億円を計上し、自己
資金を含めて総額五百四十八億円の運用を予定いたしましたほか、
貿易振興予算として海外広報宣伝の
強化のため一億五千万円、国際見本市に積極的に参加するため二億円、
貿易あっせん事業の拡充のため一億七千万円、重機械
振興技術相談事業の
強化拡大のため一億八千万円、農
水産物
輸出振興事業の育成をはかるため一億一千万円、
海外市場調査事業の充実のため一億円等を計上いたしまして、総計十億七千九百万円を予定をいたしておる次第であります。
次に、
わが国の
国際収支の均衡を真に安定した基礎の上に
達成していくためには、以上申し上げましたごとき
輸出振興策を強力に推進すると同時に、
わが国産業の基礎を
強化安定し、
輸出産業の国際競争力の
強化をはかることがきわめて重要であります。
しかしてこれがため第一に、
輸出産業及び基礎産業の設備の近代化、
生産体制の整備及び
生産性の向上をはかることが必要と考えます。
まず、これを特に重要な若干の産業について見ますると、機械工業につきましては、
わが国産業の国際競争力
強化と、産業構造の高度化の要請から、その合理的再編成と近代化が焦眉の急になっておりますので、
生産分野の確立、
生産技術
水準の向上、
生産設備の近代化等所要の合理化措置を総合的に実施したいと考えまして、これがため必要な
資金の確保をはかるほか、立法措置も講じたいと考え、目下慎重に考究中であります。
次に、
輸出産業の大宗であります繊維産業については、設備の登録制と過剰設備の処理を実施いたしまして、その安定をはかり、繊維製品
輸出の円滑な運行を確保する方針であり、これがため
昭和三十一
年度予算案には、織布部門等中小繊維工業の設備調整の助成のため一億二千万円の予算を計上するとともに、繊維工業臨時措置法案を本国会に提出いたして御
審議をわずらわしたいと存じております。
石炭鉱業につきましては、第二十二国会で成立をみました石炭鉱業合理化臨時措置法の有効適切な運用によりまして、石炭鉱業の
生産体制の集約化、縦坑開さくを
中心とする工業の実施等を強力に推進するとともに、他方低品位炭の利用による石炭
需要の開拓にも配慮いたしまして、基幹産業としての石炭鉱業の健全な
発展に極力努力して参りたい考えでございます。
鉄鋼業につきましては、
わが国産業の国際競争力
強化の上から、その合理化と価格安定が強く要請されておりますので、第一次合理化
計画による
投資効果の拡大に留意いたすとともに、本
年度から開始された第二次合理化
計画を強力に推進いたしまして、圧延部門を
中心とする設備の近代化をはかる方針であります。さらに鉄鋼価格の低位安定を期し、製銑能力の拡充と鉄鋼原料の確保に格段の努力を払って参りたい考えであります。
次に、産業の合理化を促進し、
産業基盤の
強化をはかるためには、個々の
企業または産業内部の合理化をはかるばかりでなく、産業立地条件を
改善するため、鉱工業地帯における港湾、道路、水道等の産業関連施設を
計画的かつ総合的に整備することが必要でありますが、
昭和三十一
年度におきましては、さしあたり工業用水道施設の整備に着手することといたしまして、工業用水道事業費補助として一億八千万円を予算に計上いたしました。それとともに、地下水源洞渇の弊害が著しく現れております。工業地域につきましては、地下水源の合理的利用を確保し、その用水
事情の悪化を防止するため、工業用地下水の汲み上げについて、ある程度の規制を行う等の措置について法律の制定を行いたく研究中でございます。
さらにあらゆる産業を通じてその合理化を促進するためには、
生産性の向上に対する認識と熱意が
基本的
前提になるものと考えられますので、この
意味で
生産性向上の
国民運動の中核体として、かねて設立されました
日本生産性本部の活動に対しては、多大の期待を寄せている次第であります。最近ようやく労使双方の理解、支持とが高まりつつある
状況にかんがみ、この機会をとらえてこの運動を積極的に育成していきたいと考えております。
昭和三十一
年度におきましては、これが補助として七千五百万円の予算を計上するほか、余剰農産物見返り
資金十億円の運用利益を
生産性本部の運動に充てる予定であります。
産業基盤の
強化をはかるための第二の方策は、エネルギー資源及び地下資源を
計画的に開発し、その利用度の向上をはかることであります。これがため
生産規模の拡大に伴う電力
需要の
増大傾向に即応して、前
年度に引き続き電源開発
計画の実施を促進していく考えでありますが、特に今後の水力電源の開発は、大
規模貯水池式に
重点を置き、開発に伴う電力原価の高騰を極力抑制するとともに、電源コストの低減及び石炭資源の有効利用の見地から、新鋭火力発電所及び低品位炭による発電方式の拡充に
重点を置きたいと存じております。
次に、国内資源の活用をはかるためには、未利用地下資源を急速かつ
計画的に開発することが肝要と考えられますが、石油資源については、先般設立されました石油資源開発会社に対し、三十一
年度予算において、産業
投資特別会計から七億円の出資を予定しております。さらに天然ガス、砂鉄、磁硫鉄鉱、ゲルマニウム等の新資源及び銅、鉛、マンガン等の新鉱床の探査開発を促進するため、
相当額の経費を計上いたしますとともに、三十一
年度の新規予算としてウラン鉱、トリウム鉱の探査費用一億円を計上いたしておる次第であります。
なお、資源活用策の一環といたしまして、低品位炭の有効利用、石油化学工業、合成繊維及び酢酸繊維工業、木材利用合理化等のいわゆる新規産業については、引き続きこれが
重点的かつ
計画的な育成に当って参りたい所存であります。
以上述べました諸施策を実施するためには、有効適切な
相当量の投融資が行われることが必要でありますが、
資本蓄積のいまだ十分でない
わが国産業の現状におきましては、財政投融資の果す役割は依然重要でありますので、予算の許す範囲内で財政
資金の最も効率的な使用をはかることであります。
昭和三十一
年度におきましては、開発銀行については、財政
資金八十億円と自己
資金二百八十億円を合せて計三百六十億円、電源開発会社については、財政
資金三百一億円と、自己
資金六十三億円を合せて計三百六十四億円の運用を予定いたしておりますが、このほか
貿易関係、中小
企業関係を含めた
通商産業者
関係全体としては、財政
資金七百八十八億円、自己
資金を加えて総額千五百八十九億円の運用を予定いたしておる次第であります。なお、最近における金融情勢の緩和と金利の低下傾向によりまして、
相当多額の
民間資金の活用をはかることといたしたいのでありまして、
資金総量としては、所要の
投資額は充足できるものと考えておる次第であります。
以上述べました
貿易の
振興、産業の合理化、資源活用等の諸施策を推進していくためには、その基礎的条件として、科学技術の
振興に待つところがきわめて大であることは申すまでもありません。しかるに
わが国の工業技術は、戦時、戦後を通じて欧米諸国に比し著しい立ちおくれを示しております。そこでこれをすみやかに向上回復させ、諸外国における技術の進歩に拮抗いたさせるためには、新技術の研究及びその研究成果の活用と普及等に画期的な措置を必要とするものと考えられますので、国立研究機関の研究態勢の整備
強化、
民間試験研究の助成、新技術工業化のための
資金確保等に関し、総合的な技術
振興策を講じて、これが克服に努力していきたい考えであります。特に原子力の平和利用につききましては、これが
わが国の資源、産業、民生に与える貢献の重大性にかんがみまして、その研究開発の推進には格段の努力を払う方針でございます。
このような見地から、
昭和三十一
年度予算案の編成に当りましては、科学技術
振興関係予算の充実にはできるだけの配慮を加えた次第であります。
通商産業省所轄の国立試験研究所の特別研究費といたしまして六億二千四百万円、これは本
年度の約二倍でございます。原子力
関係研究費二億一千五百万円、これは本
年度の二・倍であります、を計上いたしましたほか、
民間に対する鉱工業技術助成四億五千万円、発明奨励に関する補助三千万円、工業標準化事業に関する経費四千万円等、総額十四億九千五百万円の予算を計上いたしております。これは本
年度に比べ約五割の
増加に当るのであります。これによって技術研究の飛躍的向上を期待したいと存じております。
なお、科学技術の画期的
振興を期し、
昭和三十一
年度から科学技術行政に関する中枢的機関として、科学技術庁を設置するという考えで、その法案も準備しておるような次第であります。
中小
企業につきましては
わが国経済、なかんずく
輸出及び
雇用に占める重要な地位にかんがみまして、この際新しき認識に立ってその育成
強化をはかる方針でありますが、これがため中小
企業の組織化及び安定化を一そう推進して、その
経済的地位の向上をはかるとともに、
輸出産業を
中心とする設備の近代化、技術の向上、経営の健全化を促進助成してその質的
改善をはかり、さらにまた、中小
企業金融に対する
資金を確保してその運用の
改善をはかって参りたいと考えております。すなわち中小
企業の組織化をはかり、その団結を
強化するためには、中小
企業等協同組合法及び中小
企業安定法の運用に一そうの
改善を加える必要がありますが、特に協同組合につきましては、さきに法制化されました中央会の設立完了を待って、これを緊密な連係のもとに、その活動を指導助成していく方針であります。
次に、中小
企業の合理化につきましては、中小
企業者の
自立意欲を高めることを主眼といたしまして、従来顕著な効果をおさめてきました
企業診断制度を一そう拡充
強化するとともに、中小
企業の機械設備の近代化及び協同組合の共同施設の設置につきまして引き続き助成を行うことといたしまして、三十一
年度予算案には四億七千万円の国庫補助を計上いたしておるのであります。さらに、一般零細
企業の経常指導に関し適切なる助言を与える機関として設けられております中小
企業相談所については、その顕著な業績にかんがみ、三十一
年度においては本
年度より二千万円増額して五千二百万円の予算を計上いたし、その機能の拡充
強化をはかりたいと存じております。
なお、繊維製品、雑貨等の中小
企業製品が
わが国輸出貿易に占める重要性にかんがみまして、これら
輸出適格中小
企業の合理化、近代化が特に強く要請されていますので、品質の
改善及びコストの引き下げのための技術研究の助成、デザインの向上と創案の促進、新規
輸出品の試作助成等につき、三十一
年度におきましては、本
年度に引き続き助成を行う方針であって、これがために約四千万円の予算を計上いたしておる次第であります。
次に、中小
企業金融につきましては、
昭和三十一
年度予算案において、中小
企業金融公庫については財政
資金百三十五億円に自己
資金百六十五億円を加えて、計三百億円、商工中金につきましては財政
資金二十億円、
国民金融公庫につきましては財政
資金百二十五億円に自己
資金四百億円を加えて、計五百二十五億円の運用を予定しております。いずれも本
年度以上の貸付を行い得るように
資金源の充実をはかっておる次第でありまして、さらに中小
企業信用保険の保証
限度につきましては、小口保証保険の保証
限度の引き上げ及び包括保証保険制度の創設によりまして、保険料率の引き下げと填補率の引き上げをはかる考えでありまして、必要な法案を本国会に提出する予定でございます。
最後に、中小
企業の置かれております
経済的地位にかんがみまして、その育成
強化をはかるためには、その事業分野を確保するとともに、大
企業との間の取引
関係を適正に調整することが必要と考えられますので、この見地から本国会には百貨店業者と中小商業者との間の事業活動を調整するための百貨店法案を提案する予定であります。このほか大工業の中小工業に対する下請代金の
支払いを促進するため、できれば法的措置を講じたい考えで目下慎重検討中でございます。
以上今後における
通商産業省の施策の概要を申し上げた次第でありますが、本
委員会に対しましては、今後逐次種々の法案を提出して御
審議をわずらわす次第でありますから、どうぞよろしくお願いいたす次第であります。