○山本經勝君 私は日本社会党を代表して本案に対し反対の意を表するものであります。
本
委員会で問題になって
審議をして参りました労働審査官及び
労働保険審査会法に関しましては、しばしば審査の途中におきましても申し述べて参りましたが、この
法案に対しましては、全く労働者の立場に立ちまして反対の
意見を表明するものでございます。
まず審査の際にしばしば繰り返し御
質問を申し上げ、またあわせて要望等を強調して参りましたが、この立法の
目的、あるいは立法の
趣旨というものが非常に問題であります。労使ということは、労働者と使用者という
関係の中から出発して参りますので、労働者が作業場におきまして作業中業務上の障害をこうむった。これに対する保護の立法が基準法並びにあるいは労災
保険法等について明確に
規定をされて、しかしながらその災害に対してどの
ような取扱いをするかということについての問題がしばしば起って紛糾いたして参ったわけでございます。で、これに対しまして労働者、直接労働者という立場で同じ組織やあるいは
関係の中にありまして直接身をもってこの苦痛な労働並びに労働による災害というものに経験を持つたものと、それからまたこの労働者を使用して生産を営み企業を盛り立てて参っております経営者、使用者という立場とが現実の問題として労使の
関係はやはりあたたかい血の通ったものでございます。従いましてそうした両者とこれに加えまするいわゆる学識経験者、第三者的立場に立ちましてた人々の御協力をいただいて、今日まで三者構成によるこれらの問題の審査やあるいは不服の申し立てについて懇切丁寧な調査取扱い等が行われて参ったことは、単に労災の問題あるいは失業、職業安定の問題、あるいはけい肺の
審議会、こういった問題だけではございません。おしなべて申し上げまして、労働
関係の諸問題につきましては、労働者、使用者それに公益という三者の構成による
機関が協議決定をする。そのことは労働者みずからも
責任をもってやっていくということでございますし、また納得ずくで問題を処理するという非常にいい
制度でありしかも民主的な
機関である。こういう
ような
機関が廃止されて、中央は労働
大臣の推薦の
委員が国会の同意を得て内閣に属する官制の中に織り込まれ、そうして審査
委員という名においてやる最終決定をする
機関。さらにその下にそれぞれ都道府県別の
地方に審査官と称するいわゆる官職を配置する。そこでこれらの人々が今度は労使双方の代表二名ずつそれぞれ指名された人々が参与をしてやっていくというのでありますけれども、これは従来こういう三者構成による協議決定ではなくて、いわゆる特権を持った官制の中で、職制に従って運営される官吏の手でもって実際上イニシアティヴをとっていく、こういうことになりまして、
条文の中にも明記されております
ように、労使双方の
意見を聞くというだけにとどまって、
先ほど局長並びに
大臣の方から御
答弁をいただきました
ように、政令でもってこれらの問題を円滑に
運用面で合理的にやっていく、こういうふうに言われておりますけれども、実際は一たびこれが職制の中に入って官制でもって押えていかれる、こういうことになりますというと、労働者の現実的な利益は私はどうしても完全に守れるというふうに考えられない。しかも三者構成による民主的な協議決定
機関がそうした官制に切りかえられるということについてまず第一点大きな不満を持つものでございます。しかもこの頃向は単にこの労災審査会のみではございません。本
委員会でせんだって通過成立を見て衆議院に送り、すでに衆議院でも成立をいたしましたが、公労法の問題におきましても、調停、仲裁あるいはあっせん等をやって参りましたそれぞれの
委員会を統合して、あの
ような公共企業体等労働
委員会の設置を見たわけでございますが、その労働
委員会はよろしいといたしましても、労使双方の同意を基礎にした公益
委員の任命
手続が、これがまた抹殺されまして、単に
意見を聞くという範囲にとどめて、国会の同意を得て総理
大臣が任命をする、こういうふうな切りかえ方が行われております。しかもしばしば
質疑等の途中におきましても、
大臣の御
答弁にもございましたことでございますが、労働
委員会、つまり労働組合法に基く労働
委員会、これにいたしましてもいわゆる公益
委員は従来ありました労使双方の同意を基礎にした構成、任命、
手続、こういうものを廃止して、むしろ公労法の場合の労働
委員会と同様に、国会の同意を得て総理
大臣が任命する外局の、つまり特別職の国家公務員という形に切りかえ
ようとなさる
意図があることを伺っておる。こうして考えて参りますというと、今日まで終戦後十年間いろいろな
意味で貴重な経験を積み、しかも単に
法律の
条文というよりも、労働
関係の
一つの自然のルールとして打ち立てられて参ったこうした民主的な機構が
一つ一つ削り取られていくという姿がまざまざと見せつけられる次第でございます。こういう点から申しまして、どうしてもこういう
ような
法案については御賛成申し上げるわけには参りません。それからさらに私は審査の途中でこれまたしばしば申し上げたことでございますが、
局長の御
答弁の中に非常にはっきり言われたことは、何のためにこうした
法律を制定する必要があるのか、現在の基準法のもとでもって総括的に申しまして十分運営ができて参る、しかもそれに重大な故障がある、あるいは正当な、なるほどとうなずける
ような改正の
理由がないではないかという
質問に対しましては、
局長の方からの御
答弁は同一の事案が地域によって変った審査会に諮られ、そうして変った決定がなされるために本来一本である
法律の解釈適用という面で非常に不都合があったということを言われておりますが、私はこのことはむしろ当然なことである、あるいは同じ懸案にいたしましても、また医者の診断等におきましても医者の能力にも相違がございましょうし、あるいはそのときどきのいわゆる患者に対する見方が変るということもあり得るわけでございますから、むしろそうした事案が画一的に法規の解釈適用上統一するということ
自体の方がはるかに無理があることであるというふうに考えざるを得ぬわけでございます。でありますから申し上げます
ようないわゆる改正の
理由というのは、決して
局長がおっしゃる
ようなものではないのでございます。むしろそのほかに
意図がありゃしないかということも追及いたしたわけでございますけれども、これについては明快なお
言葉がございません。
先ほども申し上げまし。た
ように、むしろそのことは労働慣行として、あるいは法令として今日まで
運用をされて参りました不都合のない
制度を変えて、いわゆる法規の解釈、適用の事務的処理によって簡単に問題を処理したいというだけの望みの
ように、あるいは
目的の
ようにうかがわざるを得ぬわけでございます。でありますから、こういう状態において
法案改正を次々となさることによって、労働
関係諸法の中から民主的な協議決定の
機関が、話し合いによって問題を処理するという
機関が消えてなくなっていくということを指摘せざるを得ぬわけでございます。そこでこれは具体的な内容に入って一言申し上げますなれば、
先ほどの政令の中で具体的取扱いを明確にして
運用面で十分やると言われますけれども、少くとも労使双方の代表が参与としてやっていく、この状態についてその参与の度合いがどの
ようなものであるか、こういう点について非常に問題がございます。なぜかと申しますと、
条文には
意見を聞くとなっております。あるいは
意見書を
提出するとなっております。ところがそれはただ
提出するものであり、
意見を述べるものである。それに従ったりあるいはそれを取り入れて検討をする必要があるという
義務づけはございません。そうしますと、これは勢い官制の中にございますから、どうでもいい、事務的に早く処理すればいい、こういう結果に陥ることは火を見るよりも明らかなのでございますが、もしただいま出されました付帯決議の内容等にもとり入れられております
ように、
運用の面で少くともそのことが労使双方から出た代表の参与によってほんとうに円卓会議、ひざを交えて話し合って、真に立法
精神である労働者の救済に最も適切な措置が講じられる、こういうことに期待がかけられるかと申しますというと、必ずしもそうではないと思う。
大臣は
大臣の任期中においてこの
ような、さらにこの問題の改悪やあるいは政令の変更などあわせてやる
ようなことはないと言われますけれども、倉石労働
大臣が永久永劫に労働
大臣としておられるものではございませんし、あるいはまた、よしおられたといたしましても、やはり
大臣の所属される自民党という政党に所属されて、
政治情勢の変化や客観情勢の変化とともにそれらの改正が果して
大臣の言われる
ような保証ができるかどうか、これは全く疑問でございます。そうして考えてみますというと、この改正につきましては、私ども徹底的な反対を叫ばざるを得ないわけであります。もし将来この政令によりまして、運営の面でほんとうにこれが合理的にしかも的確に
運用されてゆくということでございまするなれば、われわれがいろいろな角度から今後この運営を見て参るのでありましょうし、また必要に応じ十分
意見も述べると考えますが、特に下部末端におきます基準局の実情を伺いますと、現在ある三者構成の協議決定
機関が非常に好都合である、しかも経費の面から申しましても、何ら不都合がないということを言っておる。むしろ今後この
法律の制定と同時に、紛糾が審査官を中心にしてそれぞれ各
地方において労働者が押しかけて何とかしてくれ、これは不当であるというので不当性を鳴らしてむしろ抗議する、あるいはいろいろな
意味での紛争がむしろ惹起する種になるというふうに断ぜざるを得ないわけでございます。
以上の
ような
趣旨から結論づけますならば、この
法案に対して私どもは少くとも運営の面でいかに合理化するという
言葉がありましても、それが保証ができるかどうかということに疑問を持っている。従って力をもって極力審査官の審査あるいは審査
委員会の審査、こういう場合に労使代表の参与を通して強力に戦わなければならない、こういう課題が新しく提起されたものと解せざるを得ぬわけでございます。
以上申し上げました
趣旨に立ちまして反対をいたすわけでございます。