○山本經勝君 先般の本
委員会の
理事会で議題になっております
労働保険審査官及び
労働保険審査会法案につきまして、
審査に資するために調査をいたしました。それで御指名をい
ただきまして、私参りました。で、この調査の概要をまず冒頭報告を申し上げます。
労働保険審査官及び
労働保険審査会法案の
審査に資するために、埼玉県及び福岡県における労働
基準法及び労働者災害補償保険法の施行状況を調査いたしましたので、その結果の概要を御報告いたします。
まず、埼玉県については、労災保険の適用事業場は約九百件でありまして、これらの適用事業場に働く労働者は十七万名強であります。二十九年度中に支払われた各種補償の総額は一億三千九百万円に達し、その件数も一万六千六百十六件の多きに達しているわけでございます。その産業別補償費の内訳を見ますと、製造工業が全補償費の六〇%を占め、次いで建設事業の二二%、それから貨物扱い業の約六%立木伐採業の五%、こういう大体の順になっておるようであります。さらに遺族補償費について見ますというと、建設業の二十二件、七百八十万円が最も多く、次いで製造業、林業その他の事業となっておる実情でございます。建設業は二十八年度はわずか五件であったのに対しまして、二十二件という飛躍的な増加を示しておる点は全国的な傾向であると
考えられるのでありますが、将来建設業に対しては効果ある安全施策の実施の必要が痛感される次第でございます。
次に障害補償費の内訳を見て参りますと、補償件数は五百五十一件で、減少の傾向にあるのに反しまして、補償費は四千七百九十万円と、前年に比べまして約千八百万円の増加となっておるという点、これは
賃金の上昇等による点もあるのでありましょうが、障害の
程度が高くなったものと、こういうふうに想像されるわけでございます。この件数は産業別に見ますと、最高が金属工業の百二十三件、次いで機械器具工業、製材、木製品工業、こういう順になっております。以上は二十九年度の労災保険の支給の概要でありますが、三十年度も大体以上の
程度のものと推定されておる実情でございますが、正確な
数字は出ておりません
以上のごとく、本県の労働災害は建設業の例外はありますが、適用事業場及び労働者の数に比較して強度の災害は比較的少い。従って保険料の収入に対する支出の収支率も七五%
程度であります。全国
平均に比しましてやや下回っておる、こういう実情でございます。なお災害発生の最近の傾向を労災保険のメリット制の実施状況から見ますと、適用事業場の増加の傾向にあるにもかかわらず、漸減の傾向にある。すなわち料率の変更のないものは毎年約十カ所
程度であり、料率の上ったもの、これは災害の増加した事業場でありますが、二十六年から三十年にかけて毎年四十カ所
程度であるのに反しまして、料率の下ったもの、これは災害の減少した事業場でありますが、これは二十六年の六十六事場業であったのが逐年増加いたしまして、二十九年から三十年にはそれぞれ百四十事業場となっておるような次第でございます。
次に、保険
審査官及び
審査会に対する
審査の請求の状況を見ますと、昭和二十九年度には
審査官請求は十一件、うち決定は八件、
審査会へ再審の請求をなされたものが
審査請求事件数にいたしまして三件、うち決定が二件となっており、三十年度は
審査官請求件数は十八件で、決定は十五件、
審査会に
審査の請求をされたものが三件で、決定が三件となっており、請求件数も比較的少いのでありますが、処理も大体円滑にいっているように見受けられる次第でございます。しかしながら、
審査官決定を
審査会決定によって取り消し、あるいは変更されたものがあることは注意を要する点と存じます。
次いで川口市における従業員八十五名の冷蔵庫並びに精米機等を製造する渡辺鉄工所の視察をいたしましたが、当工場は労働時間、残業、休日出勤等に対する割増給に関する違反等、労働
基準法及びその他関係諸法規の違反が枚挙にいとまがない実情であります。かつ最近には年少の見習工に重大な災害が発生いたしております。当地は鋳物業等
中小企業の多い地域であるのでありますが、
基準法などの違反はきわめて多いものと推測をして誤まりがないと
考えております。労働者保護の万全を期するためには、さらに一般の監督強化及び使用者の遵法精神の涵養が必要かと痛感される次第でございます。さきに労働
大臣が全国労働
基準局長会議の席上、訓示をなさった言葉を引用いたしますなれば、「これを単なる法の
解釈、適用の問題として判断処理することなく、
中小企業全体に対する労働対策ないし経済諸施策との関連において解決されるべきものと
考える」と言われておるのでありますが、この意図がどのようなものであったかということは一応別問題といたしましても、労働
基準局は労働者の保護を
建前とした労働
基準法を完全に適用し、あるいは実施させるような指導なりあるいは監督業務の強化による推進が必要かと
考える次第であります。
次に福岡県につきましては、主として労災保険
審査官及び保険
審査会に対する
審査の請求の実情等を調査して参ったわけでございますが、
審査機関の活動状況は、昭和二十八年度におきましては、
審査官請求は前月末残を含めまして八百十二件の多きに達しております。うち決定を見ておるものは五百六十三件であり、この決定中請求が容認されたものが二十七件、一部容認されたもの二十六件となっており、さらに保険
審査会請求は、前月末残を含めまして三十九件で、うち決定を見ておるものは二十二件で、請求が容認されたものは四件となっている。また補償
審査会に請求されたものは一件あります。これは容認をされております。
次に昭和二十九年度について見ますと、
審査官請求が前年末残を含めて千十件の多きに上っておるのであります。このうち決定を見ましたものは七百十八件であります。そのうちでさらに請求の容認されたものは四十三件、一部容認されたものは三十三件となっておるような次第でございます。保険
審査会については、請求は前年末残を含めまして四十八件で、うち決定を見ているものは二十四件あり、このうち容認されたものは四件、一部容認されたものは二件となっている。補償
審査会は二件でいずれも決定を見たわけであります。
次に昭和三十年度については、
審査官請求は二十九年末残を含めまして千百六十二件でございます。うち決定を見ているものが八百七十九件あり、このうち容認されたもの四十五件、一部容認されたものは五十一件。さらにそのうちで保険
審査会へ再審の請求をしたものが二十九年末残を含めまして七十六件で、うち決定を見たものは三十一件あり、そのうち容認されたもの一件、一部容認されたもの二件となっております。補償
審査会については三件ありますが、いずれもいまだ解決を見ておりません。
以上が
審査機関の上に現われました
数字でありますが、件数は逐年増加の傾向があり、三十年度は
審査官請求件数は千百件をこえ、保険
審査会請求も七十六件の多きに達しておりまして大体
審査会に請求するものの一割に相当する状況でございます。請求
内容はほとんど傷害等級の変更を求めるものであり、ついで業務上の決定を求めるもの、再発の確認を求めるもの、及び給付制限の取り消しまたは変更を求めるもの等となっておりますが、事務処理は現在審益官の手で円滑に行われておるといって大体誤まりがないと
考えます。
次に、
審査決定の
内容を見ますと、
審査官請求及び
審査会請求の一割強は全部または一部容認されておる。特に注意を要することは、
審査官の決定をさらに再
審査した
審査会が請求の一割強を全部または一部容認しておるという点であります。これは
審査会が現地において三者構成の妙味により、労働者の保護の万全を期し得たものであろうかと思われます。
なお、福岡県においては、
審査会に要する費用等について十分実情を伺ったわけでありますが、それによりますと、年間
審査会に要する費用が四万円
程度でありまして、しかも
審査会では七十件から八十数件に上る多数の事件を取扱っておる、こういう実情が明らかになって参ったわけであります。また、今回の
審査官法では、
審査官の職権を特に強化しておられる点がおもなものでありますが、今回の調査の範囲内では
審査官が事実の
審査を行うに当って労使とも十分協力をいたしておりまするし、それからさらに
審査会の活動が非常に円滑に進行しております関係上、新しい提案になっております法案のような実情ではなく、むしろこの点では現在のような三者構成によってやられることの方が実態に即した労働者を救済するという法の
趣旨にも合致するものであるということを
基準局
自身で言われております。
最後に、今回の
審査官法は労働
基準法第八十六条の労働者災害補償
審査会を廃止いたしまして、
基準法のみ適用される労働者の補償に対する
審査の請求は
審査官どまりとなっておりますが、この点は特に保護の必要な五人未満の零細な企業に働く労働者の取扱いに著しい不
均衡になるのではないかというふうに憂慮をされております。先ほど申し上げました
通り、福岡県においても毎年二件ないし三件の補償
審査会請求が出ており、さらにその請求が容認された事件が多い実情でございます。
以上、今回の調査の概要を御報告いたしましたが、具体的事件の
内容その他問題点につきましては、
審査官法案の
審査の過程におきまして、関連してこれを解明して参りたいとかように
考えます。
ただつけ加えて申しておきたいことは、今回の調査に当って埼玉県と福岡県という形になったのは、埼玉県は大体
中小企業が非常に多い、しかも何といいますか、零細企業を含む
中小企業が、福岡のように大資本による基幹産業、鉄鋼、石炭、化学、こういったような大工場、大資本による大企業のもとに下請けをやった
中小企業という形でなく、主として独立された零細な
中小企業が散在している、こういうような
状態のところと、福岡のところで申し上げましたように鉄鋼、石炭、化学、こういった基幹産業でしかも代表的な大企業がございます。従って
中小企業はありますけれ
ども、これが多くはこれらの大資本の大企業の下で下請といったような関係で、
一つの関連性をもっているというところの相違性があると思います。そういう点を特に考慮に入れまして、以上の
通り調査をいたし、御報告を申し上げる次第でございます。
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