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政府委員(高田正巳君) 一部
負担を支払わなかった場合に一体どうなるかということにつきましては、いろいろと
法律的に問題があるわけでございます。私
ども省内並びに法制局等とも相談をいたしまして、その問題の
法律的な解釈につきまして実はかように考えておるのでございます。いずれにいたしましても、いわゆる
医療保険というものは、そこに
保険とか何とかということに先行して、
一つの
医療が存在しておるわけでございまして、
診療行為というものがあるわけでございます。従って原則的に申しますれば、この
診療がどういうふうなことになるか。
診療をしなければならないときには
保険にもちろんかぶさっていく。
診療をしなくてもいいという解釈になりますれば、
保険の方も
診療がないのでございますから
保険の給付もないというふうな
関係に相なるかと思うのでございます。それで、従いまして
医師法の
診療の義務というものとの、
規定との関連が一番問題になってくるわけであります。私
どもの考えておりまするところでは、一部
負担が払われない場合という場合におきまして、まあ能力がない、能力がないから払いたいけれ
ども払えないというふうな場合と、それからもう幾ら自分は金持ちであっても一部
負担みたいなものはもう絶対に払わないのだという場合と、
法律的に分けて考えれば二つの場合に分れるかと思うのです。それでさような場合を
医師法との関連におきまして考察をしてみますると、
医師法の十九条の第一項では「正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」ということになっておりまして、この
医師法上の正当な事由というものが一体どういうことになるのかということに関連をして参るわけでございます。今日の
医師法の解釈におきましては、本人が貧乏だから、経済力がないからということをもって
診療を拒むということはこの正当の事由として認めがたいというふうな解釈になっておりまするし、従いまして、さような能力がなくて一部
負担金が払えないというふうな場合におきましても、やはり
医師としては
診療をしていただかなければならないというこの
医師法の
建前になりまするので、従いまして
保険といたしましても、
診療が行われた場合におきましては、それにかぶさって給付をしていくということに相なるわけでございます。ところが、そうすると一部
負担が払えない者についても
診療をしてやらなければならぬということになると、それは
医師に対して非常に何と申しますか、酷な制度ではないかということに次に疑問がわいてくるわけでございまするが、私
どももそれは非常にお気の毒なことであると私も考えまするけれ
ども、しかし、それは
保険のシステムの問題ではなくして、むしろ
医師法の
建前の問題でございまして、自由
診療の場合におきましても同じような
関係が出てくるわけでございます。
言葉を返して申せば、
医師というものの何と申しますか、職業的な
立場を
医師法という
法律はさような
建前で
規定をいたしておるということに相なるかと思うのでございます。それから第二番目の、いや自分は能力がなくて払えないという場合でなくして、能力はあるけれ
ども、もう払わないというふうな場合におきましては、これは自由
診療の場合におきましても同様でございますが、おれはもうお医者さんに金を払うのは、代金を払うのはいやなんだというふうなものまで
医師に
診療の義務を課するということは、いかに医が仁術と申しましてもこれは酷でございます。今日の
医師法の解釈におきましてはそこまでを求めることは酷であろうと存じまするので、さような場合には正当の事由あるものとして
診療を拒否されてももちろんこの
医師法の
規定の
違反にもならないということに解せられると存じます。従いまして、その場合には
保険診療というふうなものもそこで起って参らない。すなわち
言葉をかえて申せば、
保険医の方は
診療を断わっていただいてもこれはもうやむを得ないということに相なってくるかと思うのであります。
以上、場合を二つに分けて御説明を申し上げましたが、しかしこれは平常の場合でございまして、いわゆる瀕死の重病人というような、あるいは交通事故でそこいらのお医者様にかつぎ込まれたというふうな緊急な場合は、当然この
医師は
診療をしなければならないということはもちろんでございまして、さような場合におきましては、
診療が行われますれば、
保険といたしましては、それにカバーする形で給付が行われる、かようになるであろと思います。