○都留
公述人 私に課せられました問題は、財政
経済一般ということでございまして、非常に範囲が広うございますので、適当に問題を幾つかに限定して私の見解を述べさせていただきます。
第一には、
予算全体のワクでありますが、これがほぼ一兆円の中におさめられたということは、何はさておきけっこうなことだと存じます。三百四十九億円ほど超過いたしておりますが、国民
所得に対する比率は一四・八%でありまして、
昭和二十七年度が一七・九%、二十八年度が一七・五%であったことから
考え合せますと、来たる三十一年度の
予算案は、
国民経済の基盤との
関係におきまして、大体妥当な線であるということが言えると思うのであります。その点非常に政府及び与党の皆様方がワクを守るということに御尽力なさいました点には敬意を表する次第でございます。しかし同時にそれだけのワクにおさめるために何とかつじつまを合せようとして、かなりの無理があるということを
指摘せざるを得ません。たとえて申しますと、三十年度の
予算との比較をいたしますためには、
財政投融資と民間資金活用見込み額を
予算額に合せて比較するのが妥当かと思いますが、そういたしますと実は三十年度よりも千百二十二億円ほど多くなっておりまして、国民
所得に対する比率も前年度の一九・七%に対して二〇・五%になるのであります。また内容の上から申しましても、予備費といたしましては、ぜひとも百三十億円くらいは必要だということを、大蔵省の方々は以前から言っておられましたのに対し、八十億円に減らされましたし、国債費のクッションをかなりの程度まで使っておりますし、幾つかの項目を三十年度の補正
予算の方に回しておりますし、また歳入の中には罰金や過料、没収金等の収入を七億円水増しいたしておると見られますし、さらには国立大学演習農場でとれまする
農産物の売り上げ代金までを数億円見積っておりますし、さらには閉鎖機関であります旧朝鮮銀行及び台湾銀行の資産の清算収入を三十五億円見積っておる。特にこの旧朝鮮銀行の資産につきましては、韓国の側にも言い分があるかに伝えられておりまするやさき、それを
予算の歳入面に計上するという点については問題ないわけではないと思われます。このようにかなり無理をいたしておりますために、もしも何らかの必要上歳出の補正を必至といたしますような場合には、当然補正
予算が出ることが予想されるのでありまして、そういうことを
考えますと、表面の数字の上では一兆三百四十九億となっておりますが、その内容として盛られております幾つかの項目の中には、昨年度よりややインフレ的な要因を含んでおるといわなければならないものがあるのではないかと思います。しかし総額から申しますと、現在のフランスなどが年々赤字を続けておりますのと比べると、きわめて健全というべきでありまして、その点だけに関する限り私は大いに敬意を表しております。
予算は必然的に
政策を反映するものでありますし、またすべきであると存じます。従って
予算を検討することは、どうしても
政策を検討することであるのでありますが、個々の
政策をあげつらうことは本日の私の任務ではございません。ただ
日本が当面している
経済上の
課題との
関係において、今度の
予算に盛られている事柄が、どのような
経済的
効果を持つか、従ってどの程度国民の税金をそれに充てるに値いするか、また相互の項目の間の評価の
関係から、つり合いが妥当にとれているかどうか、そういう点を検討することが、本日私に課せられました財政
経済一般についての
意見を述べるという仕事の範囲内にあるものと解釈いたします。
そこでただいまのような
観点から、以下時間がもし許しますならば、五つほどの問題について私の
意見を申し上げます。第一は賠償費、第二は防衛
関係費、第三は
経済五ヵ年
計画との
関係、第四は科学技術振興
予算関係、第五は食管特別会計についてであります。
第一の問題点であります賠償
関係費でありますが、これは昨年末の大蔵省の原案として新聞に発表されましたところでは、防衛
関係費と一緒になっておりましたために、内訳がはっきりいたしませんでしたが、間もなく防衛
関係費が明瞭になりましたところから逆算いたしますと、約二百四十億円を予定されておったようであります。それが次の一月になってからの大蔵省の第二次原案では、九十二億ほど削られまして、百五十億円になりました。さらに今度国会に提出されておりまする
予算案では、この賠償
関係費は百億に削られております。現在の鳩山総理はかねてから賠償問題を早急に解決するということを言っておられましたし、ごく最近鳩山首相の特使として東南アジアを回られました三木特使も、去る二月四日帰刺されました後の新聞記者との会見で、賠償問題の解決がいかに重要であるか、東南アジアの貿易振興の目的一つを
考えてみても、現在賠償が停滞しておることが、どれくらい障害になっているかということを力説されております。その点につきましては、私もかねてから同感でございまして、過去三年間ほど毎年のように東陶アジアの諸国を旅行して、いろいろな人たちと
意見を交換する機会を持ったのでありますが、そのたびごとに痛感いたしますことは、
日本が賠償問題について一刻も早くほんとうに誠意を示して、初めて妥当な線でもって解決をはかるということ、これがわれわれの貿易をあの地域に伸ばすことだけのためにも重要である。それ以上にさらに、
日本がかっての侵略戦争において犯しましたいろいろなる私たちの罪過を償うという面において、何よりも重要であるということは明瞭だと思うのであります。そして昨年末の大蔵省原案は、現在進行中の対ビルマの賠償、おそらく三十一年度中には実施予定の対フィリピンの賠償、それからタイ特別円債務などを含めまして、当初二百四十億円と推定したものと思われるのでありますが、次にこれが百億円に削られてしまっておるということは、もしも対フィリピンの賠償が三十一年度から実現することになるとすれば、そのためには補正
予算を組むことが必至であるということを
意味するものでありまして、特にこの対外債務の問題といたしまして、現在政府が賠償問題については早くから誠意を示すという態度を示されておるのにかんがみまして、予界の上に当然予定さるべき対フィリピンの賠償が計上されていないということは、まことに残念に思うのであります。
第二に私が申し上げたいと思いますのは、防衛
関係費であります。防衛
関係費につきましては、高碕長官がかねてから固会において、この項目については国民
所得の二・二%ぐらいが適当だと思うということをたびたび言っておられます。二・二%ということは、別に学問的に深い根拠は私もないと思いますけれども、国民
所得のうちの約二%の金額のものが国の防衛のために使われるということは、一般的に申しますると、ほぼ妥当な線だと
考えるのでありまして、もしも二・二%という線をほんとうに貫き通して守られるならば、私は大いにその点で敬意を表したいと
考えるのであります。
私はかつて賠償と防衛と両方を合せまして、国民
所得の二%ということを妥当な線であるということを提唱したことがございます。なぜ賠償と防衛の両方合せたものを国民
所得の二%に限定することが望ましいか。つまり両方を合せて二%というふうに
考えることの重要性について、一言したいのでありますが、元来賠償と再軍備とは無
関係ではないのであります。昨年もいわゆる砂田放言というのがございまして、その際にある外国人が東京の英字新聞に一文を寄せまして、
日本の政治家は
日本軍がフィリピンやシンガポールや中国で、戦争中どんな残虐を働いたかを忘れてしまったのかと詠嘆したことがありますが、まさにその通りだと思います。しかるに
日本政府は、賠償がまだ糸口につく前から再軍備を始めておったのでありまして、対外的な
意味におきますと、賠償と再軍備とは単に無
関係でないといというだけでなく、お互いに反発し合うものを持っていると思われます。と申しますのは、賠償に誠意を尽すという態度は、現在の
段階においては軍備拡張を許さぬ
立場に通じるものであると思いますし、軍備拡張を急ぐような
日本は、賠償交渉そのものをおのずから自分の手でむずかしくするものだと思います。賠償を受け取る相手方にしてみれば、それだけ再軍備に金や資材が使えるのなら、なぜもっと賠償額を多くしないのかということを言い出すのは当然でありまして、性格上この賠償と再軍備
費用とが反発し合うものであるとするならば、
予算の上でこの両者が競合的に互いに競い合う形で仕組まれているということは、理にかなっているものとは言えないでありましょうか。もしそうだとすれば、
防衛費をふやしたければ賠償費を減らさねばならず、賠償を早く片づけようと思えば、再軍備はあと回しにせねばならぬという
関係が、そこからは自動的に生まれてくるのであります。
そこで私は、両者合せて国民
所得の二%をもって妥当な線とするということを提案したゆえんでありまして、三十一年度の国民
所得、大蔵省による推定を基礎にいたしますと、その二%は一千三百九十四億円になります。その中で、最初大蔵省が原案として予定いたしました賠償費二百四十億を差し引きますと、防衛
関係費は一千百五十億円ぐらいが、ほぼ現実的な
意味において妥当な線であるといえるかと思うのでありまして、今度の
予算はそういうような計算から申しますと、二百五十億円ほど多過ぎるのであります。
次に、かりに防衛
関係だけについて高碕長官が言われるように、国民
所得の二・二%に押えるということを言われたといたしましても、政府は果してこのワクを守り通すおつもりであるかどうか。今までに発表されましたところの
経済五ヵ年
計画や、あるいは新聞に報道されておりまする防衛六ヵ年
計画等から判断いたしますと、私たち局外者には非常に怪しくなるのでありまして、
昭和三十五年度に防衛六ヵ年
計画において予定されております
費用は、
国家予算で二千百五十億円でありますが、
経済五ヵ年
計画の最終年度であるその年の国民
所得は、八兆と予定されておりまして、その二・二%というのは千七百六十億にすぎないのであります。従ってここにおいてすでに高碕長官の言われる二・二%というものが守り通せるかどうかということに対し、私たちが疑問を抱くのは当然といわなければならぬ矛盾が露呈しておるのであります。しかしいずれにいたしましても、政府の責任の方が、防衛
関係費は国民
所得の二・二%に押えるのだということを言っておられますので、私たち国民としてもまじめに今後の推移を見守りたいのであります。なぜ私がこういうことを申し上げるかといいますに、今度の
予算編成過程におきまして、少くとも新聞の報ずるところによりますと、防衛庁費だけは当初の大蔵省の査定八百九十億円が、防衛庁と大蔵省との話し合いで九百六十四億円に落着しましたあと、さらにいかなる理由によってか、それが千億円をこえるところまではね上ったりしておるのであります。新聞にはかなり極端な表現を使いまして、防衛
関係費の治外法権性を論じておる向きもあるのでありますが、私たちにはしさいな点はわかりませんけれども、どうもこの防衛
関係費が他の項目とのつり合いということと、ある程度無
関係にきめられていく状態を見守っておりまして、もしそういう性格のものであるならば、高碕長官の言われるような国民
所得の何パーセントというような線をはっきり打ち出して、それを守り抜くという態度にも一理あるものと解するのでありまして、従ってそういう態度がどの程度貫き通されるかということについては、まじめに私たちも見守っていきたい、かように申し上げたわけであります。
本日再軍備の問題それ自体を論ずることは、その場でございませんので、私は詳しい点については申し上げたくないのでありますが、そのための
費用を、他の
予算項目と一緒にはかりにかけてみるということは必要であろうと思います。そういう点からただいままでの点も申し上げたのでありますが、この再軍備
関係の
費用に関しましては、三木特使がやはり今度帰られましてから、ビルマの指導者の言葉として、次のようなことを言っておられることは、十分に味わうべきものと私は解しております。そのビルマの指導者の言葉というのは、アメリカ、ソ連のいずれか一方と結ぶからこそ、他方がそれを排除にやってくるのである、ビルマのようにどちらとも結ばなければ、冷たい戦争の被害者になることはない、このようにビルマの指導者が語ったということを三木さんが述べておられます。そういう言葉を私など、現在の
日本の防衛
関係費が年々ふえていく状況と比べ合せまして、十分にかみしめるべきだと
考えておるのであります。
第三の問題点といたしまして、
経済五ヵ年
計画との
関係を簡単に述べさせていただきます。
経済五ヵ年
計画は安定
経済を基調として、
経済の自立と完全雇用の達成をはかるという目標を掲げております。この目標に関する限りはまことにけっこうでございまして、
日本の政府が真剣にこの
計画達成のために必要な施策をとられることを期待するのでありますが、残念ながら
予算の上には、この
計画がそれほどはっきりと反映していないように思います。二、三の例を申し上げましょう。
第一は
食糧増産関係の
費用でございますが、
経済五ヵ年
計画では、これが年平均三百四十億円を予定しておるのに対しまして、今度の
予算ではそれよりも百億少く、二百四十七億円を見ているにすぎません。
経済自立と申しますのはもちろん自給自足ではなくて、外国との間に有無相通ずる貿易をするということは当然前提いたしておりますが、
日本で
経済合理的にできる限りのことは
増産もし、
産業構造の改変も行うということを合意いたしておるものと解釈されるのでありまして、その
観点から見ますと、やはりある程度の
食糧増産ということは、私たちも正しい
政策と
考えておるのでありまするが、
経済五ヵ年
計画で予定しておられるような
食糧増産計画が、その第一年度である三十一年度において年平均三分の二しか見積られていないということは、これはやはりどこか五ヵ年
計画と
予算との間に調整がとれていないのではないかと
考えられる節があるのであります。
第二に
産業鋳造の適正化あるいは
産業基盤の強化というような言葉でもって表現されております問題、すなわち
日本としては国際収支のバランスをとる必要上から、もし
日本の
国内資源でもって有効にかつ合理的に私たちの必要とする、たとえば繊維製品のようなものが化学繊維の形で供給し得るならば、綿花や羊毛の輸入を減らして、そういった種類の化学繊維
産業を振興するとか、そういう
産業構造の上において合理的な政変を行うということが五ヵ年
計画の
課題でありますが、そのためにどういう措置を講じておられるかということを探してみますと、やはりそのための資金はあげて民間に期待しておられるようであります。民間の営利的なる
観点からなされる
投資が、果して長期の
計画の線に沿った
日本経済の求める
産業構造の改変を行い得るかどうか、その点については歴史の経験に徴しましても、私はかなりの程度において疑いを持たざるを得ないのであります。
第三に、五ヵ年
計画との
関係において何よりも大事だと思いますことは、雇用
対策であります。しかるに三十一年度の鉱
工業生産、つまりマイニング、製造
工業の
生産は三十年度に対しまして七・二%の増加を
経済計画では見込んでおられ、同時に
生産性が四・五%ふえるとされておりますので、雇用人員は約二・六%ふえることになるのであります。絶対数から申しますと、それは約二十五万人ということになりまするが、他方就業者
人口は八十八万人の増加が
経済計画の中で見込まれており、しかも同時に完全失業者は二万人減らすという見込みでおられますので、そのうち二十五万人だけが鉱
工業に吸収されるのでは、他の大部分が商業サービス部門
関係に吸収されざるを得ないことになります。
経済企画庁で出されました五ヵ年
計画の第一年度、三十一年度に関する
計画案の中にも、新しい雇用の大部分が商業サービス部門で吸収することになるのであろうと書いておられますが、そういう態度は私にはやや安易に過ぎるのではないかと思われます。現に商業サービス部門の雇用が、かなり過剰の状態になっておるということは、昨年行われました事業所調査報告、それを三年前の事業所調査報告と比較してみましても、だいぶん商業サービス部門には人間がだぶついておる。特に中小
規模の商業においてはそうであるということが明らかになっておるのでありまして、そういうところへしわ寄せをするというような必然性をはらむ
計画であるという点は、もう一ぺん
考え直して、もう少し強くこの雇用
対策というものを
考えなければならぬのではないかと私には思われるのであります。
第四に、やはり五ヵ年
計画との
関係において、住宅建設
計画の点について一言申し上げたいのでありますが、昨年の二月総選挙の前に、いわゆる選挙管理内閣でありました当時の鳩山内閣が、住宅四十二万戸建設という公約をなされました。私も最初それを新聞で拝見いたしましたときには、ほんとうに四十二万芦新しく政府が何らかの援助をして、あるいは直接にお作りになるのかと思ってびっくりしたのであります。と申しますのは、それよりわずか前のこと、たしか
昭和二十七、八年のころかと思いますが、当時の吉田内閣がその当時の住宅の下足数を建設省の調査によって三百十五万戸と推定されまして、どうしても二十年かからなければこれだけの
不足を補うことはできないというので、二十年
計画でもつて住宅
対策というものを発表されたことがあったのであります。そのときでも年間の政府の直接
関与するところの住宅建設は十万戸、十五万戸程度であったと記憶いたしておりますために、四十二万戸建設
計画ということを伺いましたときは、実はびっくりしたのでありますが、よく調べてみましたら、四十二万戸というのはその半分が――正確に申し上げますと半分以上がいわゆる民間自力建設というのでありまして、二十四万五千戸というのがそれに当るのであります。しかもその民間自力建設の中にも単なる――単なると言っては失礼でありますが、増築、改築の分も含めて、さらには政府の
関係いたします公団住宅におきましても、その大部分が増改築を予定されたものであるということを伺いまして、それならば四十二万戸もできるであろうかと
考えるに至ったのであります。現在までの実績を政府の報告ないしは新聞の報道等から拝見いたしますと、去る二月三日のこの
予算委員会では社会党の伊藤議員がその点を質問されましたのに対し、鳩山首相が、私が聞いているところでは四十二万戸は建つという御返事をしておられますので、私などよりは正確な資料をお持ち合せの内閣の方の御
発言であれば当然だろうとは思うのでありますが、しかし同じく政府が発表しておりますいろいろな資料によりますと、たとえば公団住宅は十二月末でもって三六%が入札済みになっただけであるということが報じられております。特にこの公団住宅につきましては手続が非常に煩瑣で、なかなかうまくいかないのだということが、新聞の投書などにもたびたび出たことでありますが、その点を今度は改善されまして手続をやや簡素化されたということは、私はたいへんけっこうなことだと
考えております。また公庫住宅は十二月末で七三%が着工されたにすぎない。公営住宅は八五%が藩主されております。民間自力の方は実は推計が非常にむずかしいらしいのでありまして、私などにも資料の収集はなかなか困難でありまするが、建設省で出しておられます建築動態統計によりますと、それに増改築分をある程度のサンプル調査に基いて加えますと、十二月末でもって約七割の着工ができたようであります。この一、二、三という冬の時期に、どれくらいあと着工が始まりまするかわかりませんが、少くとも公団住宅については、現在の予定は満たされないだろうと言って、私はそれほど間違いではないと思うのであります。
さて今度の新
予算では、四十三万戸の建設を
計画されておりますが、その計算の基礎になっておる点について一言申し上げたいのであります。
昭和二十七年の建設省の調査では、当時の絶対
不足が三百十五万戸ということでありましたが、今度の
計画をお立てになる際には、その
不足が二百五十万戸程度に減っているという計策になっております。果してそれだけの、つまり約六十五万戸の新設補充ができたかどうか疑問だと思うのでありますが、一応現在の
不足二百五十万戸というのを正しいといたしまして、政府は十年間で
不足分をカバーする、従って最初の五年間は、半分だけをカバーするという
計画になっております。年々の老朽、
災害による損失、新しい世帯、すなわち
人口純増による住宅の需要増加等をそれぞれ計算いたしまして、政府は五年間に二百三十二万戸の新築が必要であるという計算をしておられ、その中にかなりな程度増改築を入れておられるのでありますが、そのうち
災害による損失についての計算が、五年間で十五万戸となっております。これは非常に少な過ぎる数字ではないかと私は思うのでございまして、建設省で出されました国土建設の現況というパンフレットの六十二ページには、建設量と
災害による滅失量との比率が、
昭和二十一年度から二十九年度に至るまで九年間について出ておりますが、その平均はちょうど二〇%であります。建築量の二〇%が火災、風水害等によって滅失するという統計であります。もし過去九年間くらいの状態が今後もほぼ続くものと
考えますならば、
災害による滅失は五年間十五万芦ではなくて、おそらく少くとも四十万程度になると
考えられるのでありまして、絶対
不足に関する調査の数字が、
昭和二十七年度のころよりなぜか急に少くなっておるということなども勘案いたしますと、たとい増改築を含めた数字とはいいながら、四十三万戸の建設では、向う十年間に
不足をなくすということはできないのであります。もう少し率直に住宅問題についての現況を見つめてみるということが私は必要ではないかと思います。
食糧、繊維品、衣服等については、私たち国民もかなりの程度まで生活が豊かになって参りまして、いまだに困っておる人もたくさんあるにはありますけれども、全体の
水準から申しますと、よほど戦争直後よりはよくなっておるのでありますが、住宅については非常なアンバランスがございまして、銀行、大会社等の寮に泊れる者、社宅に泊れる者、公務員住宅を利用できる者 そういう人たちにとっては非常にわずかな家賃で生活ができるのに対して、そういう便法のない人たちにとりましては、住宅費というものは非常に高価なものになっております。畳一畳千円というのが大体東京の相場でございます。しかるにたとえて申しますと、大銀行の独身寮などでは、一月二百円という家賃しか取っておらないという状態でありますので、このアンバランスを生ぜしめた基本的な原因である住宅の絶対
不足の問題、それに対処するために私たちがどれくらいのことをしなければならぬかというその
課題の大きさ、そのためにどれだけの資材が要る、資金が要るかという計算、火災を減らすということがいかに重要かということの自覚、そういう点も含めまして、白書ばやりの世の中ではございますが、政府が住宅白書ともいうべきものを公けになさいまして、私たち国民に住宅問題の実相を伝えると同時に、その
対策の重要性についても教えるところあっていただきたいと
考えるのであります。
その次に、大きい順風の第四といたしまして、科学技術
関係の
予算について一言申し上げたいと思います。この点につきましては、詳しく申しますると非常に時間のかかることでございますので、簡単に申し上げます。
日本人は、私の理解する限り、非常に科学技術という面で、本来すぐれた才能を持っている国民だと思うのであります。その才能を十分に生かすことができるならば、決して外国には負けないと私は
考えております。私の専門外ではありますけれども、たとえて申しますと、フェライトとか、現在使っておりますような交流バイアス方式によるテープレコーダーとかいうのは、元来その原理を
日本の学者が発明いたしまして、それを実用化することができなくて、その後たとえばフェライトの場合にはオランダのフィリップス社に特許をとられまして、現在はそのフィリップス社の特許を
日本が買っているというような状態になっております。
日本のすぐれた科学技術の才能を全面的に伸ばす態勢を強く打ち出すということについては、私は全く同感であります。その点で、総額としては科学技術
関係の
予算が、今度ふえておりますことは慶賀にたえないのでありますが、ただ原子力偏重と申しまするか、その点が私には不安に感ぜられるのでありまして、科学技術の性格から申しまして、何と申しましても、基礎から広げて、ちょうど富士山のように、すそ野の広いところに初めてりっぱな技術も育つのでありまして、一見したところは何かむだなことをしているようでありながら、実は結局において何かの科学技術を生かすことになるような研究というものが至るところにあるのであります。原子力の平和利用という、どちらかといえば、この流行的な
課題のために
予算が傾斜されて使われるということは、
日本の幅の広い科学技術の振興という点から申しますと、やはり一考すべき点ではないかと思います。
現在科学技術
関係で外国への依存は依然として
相当大きくございます。いわゆる甲種技術援助契約と申しますのは、契約期間が一年以上のものでありますが、そういうものだけで
昭和二十九年度には、
日本は四十七億円外国に払っております。他方国立の研究機関、それを自然科学
関係だけを合計いたしますと、二十九年度はちょうど四十七億円でありまして、
日本の自然科学
関係の国立の研究機関全体に払っている金額と同じものを甲種技術援助契約と称する部分だけで、外国に払っている状態なのでありまして、おそらくこのままにいたしますと、この種の援助契約に基く
費用は今後ふえることが必至でありまして、一刻も早く元来
日本人の持っておりますこの科学技術の才能を生かす上に、もっと万全の均斉のとれた措置を講じていただきたいと思うのであります。特に技術者養成ということは、東南アジアの貿易その他を今後振興いたしますためにも非常に重要な点でありまして、ソ連とアメリカ、イギリスとの
競争題目の一つが、ますますこの技術者養成という点にかかってきたことは、新聞雑誌等の報ずる通りだと私も
考えております。しかるに技術白書と通称いわれます通産省で出しました文書によりますと、民間の研究員の一人当りの経費は、現在
日本で七十七万円であるのに対しまして、国立では四十八万円にすぎないのでありまして、そういう例があるために、なかなか国立の研究機関にすぐれた研究公務員という人が残らない。そういう状態がだんだん続きますと、率直に申せば、二流の人が国立の研究機関に残って、一流の人がどんどん金の入るところに行ってしまう。そういうような態勢になることは望ましくないのでありまして、特に研究施設を十分に与えることによって、せっかくできている国立研究機関として、政府及び国会が認めておられるものであるならば、十分の研究ができるように、そうして新しい技術員の養成が豊かにできるように、十分の配慮をしていただきたいと私は
考えるのであります。自衛隊の一人を養うのに百万円を必要とすると称しますが、この自衛隊員を二万人ふやす
計画を立てられる間に、科学技術の研究員をもしその金でふやすとすれば、とてつもない大きな数、現在一人当り四十八万円といたしますと、実に四万人の科学技術者が養成できますが、現在の
日本にたとえて申しますと、工学
関係の科学者というのは、
日本学術会議の有権者として登録されておりますのが、ちょうど四万人程度でありまして、それくらいでしかないのであります。それを少くとも二倍にすることができるのであります。それだけの金を自衛隊の増加のためにお使いになるのであるならば、少くともその半分くらいを科学技術者の養成のためにお使いになるならば、かえって
日本の自衛、
日本の民生の安定という点からいって、はるかに大きな
効果があるのではないかと私は愚考いたしております。
最後に
食糧管理特別会計のことについて、一言申し上げたいのでありますが、これは私たちの台所に直接つながる会計でありまして、一番国民としても関心の深い特別会計なのでありますが、なぜか昔からこの特別会計は非常にわかりにくいのであります。私たち専門の
経済学者が調べましても、容易にその真相をつかむことができないのであります。この点でも、ついででありますが、食管特別会計白書というものでもお出しいただいて、国民にわかりやすく、一体この
食糧管理特別会計というのは、どういうことをやっているのかということを教えていただけるならば、非常に幸いだと思うのであります。現在大蔵省で出しておりまする国の
予算というような膨大な調書などにやや詳しく出ておりますのを、四苦八苦して私などは数字をいろいろ計算してみておりまするけれども、なかなかその実態というものがつかめない。この実態がつかめないということに対して私は異論と申しますか、反対の
意見を持っておるのであります。と申しますのは、この食管特別会計では内地米及び外米、
小麦ないしは
飼料その他を購入いたしまして、今度はそれを国民に売るのでありますが、買って売る過程において値段がいろいに変るわけであります。中には間接税的なものをそこに課することもございましょうし、中には
補助金的なものを課する結果になることもありましょう。現に、四年前には食管特別会計は四竹四十五億円の蓄積利益を持っておりましたが、三十年度には御承知のように六十七億円の赤字が生じまして、これを埋めるために、今度の補正
予算の一部をさいておるような状況であります。約四年間に五百億円の金がいつの間にか食管特別会計でなくなっておるのであります。これは何も私は不正をしてなくなったというのではもちろんないのでありまして、その真相を追及してみますと、一方においては、外米の値段がその間どんどん下っておりますから、外米の買い入れ値段は安くて済んだはずでありますが、
国内の米の
生産者
価格はかなり上昇いたしております。私たちも聞いて初めてびっくりするのでありますが、現在の
日本の対米為替率が三百六十円一ドルとなりましたのは、
昭和二十四年四月でありますが、その二十四年の秋の米の
生産者
価格は現在の、つまり昨年産米の
生産者
価格の半分以下なのであります。米の値段が二倍になっている間に、
日本の為替率は三百六十円で一定に押えられて現在に来たっているのであります。そういう状況から申しましても、
生産者
価格がいつの間にか上ってきた、そのこと自体はある面ではけっこうなことであります。
農民の勤労が償われるということはけっこうでありますが、その
生産者
価格が上った程度には
消費者価格を上げていない。すなわち内地米についてはある程度の
補助金的なものを見ておる。外米につきましては最近は間接税的なものをそこに含ませております。そういうことが食管特別会計の中のやりくりで行われておると私たちには見えるのでありますが、特別会計のやりくりで行う性質のことではなくて、これは国会の
政策として国民がはっきりと伺いたい。どういう趣旨でこれをなさるのか。内地米については
補助金を出すとか、外米については間接税を取るとかいうようなことは、もう少しはっきりと外に打ち出して私たちに教えていただきたい。食管特別会計の中のやりくりだけで処理するというようなことはしないでいただきたい。そうしておったがために、四年前に四百四十五億円ありました蓄積利益が、遂に三十年度には赤字六十七億円を生むようなことになって非常にあわてて、私には
予算措置上は全く例外であると思われます砂糖業界からの三十億円のものを国庫に対する寄付という形でもって、補正
予算を組三なければならぬということになっておるのであります。
私が財政
経済一般という観心から、今度の
予算について特に申し上げたいと思いましたことは以上の五点でございますが、最後に、国民の一人といたしまして、今度の
予算編成の過程について一言申し上げさしていただきたいと思いますことは、昨年の国会において、政府の提出しましたものが、当時の自由党の希望によりまして自由党、民主党の両者で話し合いの上で修正されて、国会を通ったわけでありますが、その修正のときもあったことでございますけれども、今度の
予算編成過程においては、国会へ出ますまでの間に、少くとも私たちが新聞紙上で見る限り、どの程度それが正しいかを私は正確には把握いたしておりませんが、国民としては非常に不安を抱かざるを得ないような新聞の報道がございました。一言で申しますと、
予算をあたかも何かぶんどり合いをする対象であるかのごとく
考えておられるのではないかという、そういうような報道が一部にもございまして、国民には
予算編成過程について非常に残念なことだと
考えている人が多いと思われるのであります。そういう点につきましてはだんだん改善されることと私などは期待しておりましたのに対し、特に今度のように保守合同で絶対多数を取っておられる与党が、内閣を持っておられます状況のもとでは、もっとそういう点の国民の期待が報いられると
考えておりましたのに対し、かえって裏切られた思いをいたしておるのでありまして、その点がきわめて残念であったということを一言つけ足して、私の
公述を終りたいと思います。(拍手)