○稻村隆一君 私は、ただいま議題となりました
憲法調査会法案に対し、
日本社会党を代表して
反対の意見を表明せんとするものであります。(
拍手)
提案者の
諸君は、現行憲法の平和主義、民主主義、
基本的人権尊重の原則は正しいと言いながう、ただ、占領中最高司令官の要請によって制定されたるものであり、
国民の自由
意思よるものではないかう
改正しなければならないと言うのであります。しかしながら、主権在民の憲法が実現されるまでには、人類の自由のために戦った幾多の
人々の血が流されたものであり、従って、この民主憲法なるものは、人類共通の遺産であって、外国のものも
日本のものもないのであります。(
拍手)か
つてイギリスにおいて暴君チャールス一世を倒したるクロンウエルの兵士が、憲法なるものは人民の協定なる旨
宣言し、君主主権の憲法より永遠に訣別して以来、アメリカの独立戦争においてこの言葉を引用し、世界において初めての主権在民の成文憲法が制定されたことは、御承知の通りであります。(
拍手)しこうして、フランス革命における共和国憲法はアメリカ憲法を模範として作成されたるものであり、続いてナポレオン戦争は、プロシャを除くほとんどの西欧国家が、君主の
意思に反して人民主権の憲法を採用せざるを得ない結果になったのであります。
わが国の自由民権運動の志士仁人は、
かくのごとき主権在民の憲法のために血を流したのであります。かかる歴史的事実は、自由なる思想と学問と真理には国境がないことを証明するものであり、もし
日本に敗戦という悲劇がなかったならば、
国民は主権在民の憲法を与えられなかったでありましょう。すなわち、今なお、
日本国民は、言論、集会、結社の自由の抑圧のもとに、治安維持法、治安警察法の弾圧のもとに、軍閥
政治の奴隷となっていたでありましょう。(
拍手)かかる
意味において、終戦後の
日本国憲法こそは、
日本の災いを転じて福となしたるものであり、断じて擁護すべき憲法なりと確信するものであります。(
拍手)何人の示唆によるとも、真理は真理である。しかして、この
日本国憲法こそは、
日本歴史始まって以来初めての言論、集会、結社の自由のもとに、金力と権力の干渉なく、
国民の自由なる
意思によって選出されたる真の代表者によって、
国会において自由に
審議され、決定されたものであります。(
拍手)かかる憲法が、いずこに押しつけられたる憲法であるか、押しつけられたるもの、干渉を受けたるものは、
日本の民主化の方向に
反対し、
ポツダム宣言による
国民の
基本的人権を抑圧せんとして、明治憲法の残存形態を保持せんとしたる
人々のみであります。(
拍手)終戦後、
日本の
国民大衆は、歓呼の声をあげて、この
国民主権の憲法を喜び迎えたのであります。(
拍手)しかるに、
日本国民を奴隷状態より解放したるこの憲法を、ごまかしの憲法、にせの憲法と称して侮辱するがごとき
総理大臣ありとするならば、それは憲法をじゅうりんする許すべからざる行為として弾劾されなければならないのであります。(
拍手)
鳩山首相のごときは、
日本国憲法
改正に当り、その平和主義、民主主義の基本原則はあくまでも尊重する、ただ自衛軍に持つために憲法第九条を
改正するのだと言っておる。そらかと思うと、憲法を
改正せずとも自衛軍は持てるという、何が何だかわけのわからぬ矛盾したことを言っておるのであります。(
拍手)もし九条を
改正せずとも自衛軍を持つことができるとするならば、鳩山論理に従っても、いずこに憲法
改正の必要があるのであるか。(
拍手)
かくのごとき矛盾きわまる言動の裏には、この近代的民主主義憲法を根本より
改悪ぜんとする陰謀が隠されているものと疑わざるを得ないのであります。(
拍手)すなわち、旧自由党、旧改進党、自主憲法期成議員同盟の憲法
改正草案を見るならば、すべて天皇を象徴より元首にせんとしております。また、
法律をもってしては
国民の
基本的人権は制限しあたわざる現行憲法の基本原則を、
法律をもって制限し得るように
改悪せんとしているのであります。(
拍手)もし
法律をもって
国民の基本的権利を制限し得るとするならば、か
つての帝国憲法と
一体いずこが異なるであろうかといわざるを得ないのであります。(
拍手)しかして、われわれ
日本国民は、かかる憲法の
改悪によって、旧帝国憲法治下におけると同一の抑圧を邪悪なる権力者より受けること必至であります。
さらに、再軍備問題を
考えまするならば、現反動政権の誤まれる政策は一そう露骨に現われておるのであります。この祖国
日本には、実に七百にもわたるアメリカの軍事基地が置かれ、これらはすべてアジアにおけるアメリカの対ソ、対中戦略の最前線基地としての役割を果し、一朝有事の際は、原子力の発達せる今日、まさに
日本は全滅の悲運にあるのであります。ゆえに、
日本の防衛の最善策は、外国の軍事基地の撤廃であり、傭兵的再軍備を拒否することにあることは、小学生といえ
ども理解できる明白なることであります。(
拍手)しかるに、現
政府は、自衛権に名をかりて、
日本ならぬアメリカ防衛のための再軍備に狂奔し、重光外相のごときは、昨年渡米の際、
海外派兵の意図きえほのめかしておるのであります。また、最近、鳩山首相、船田防衛庁長官等は、急迫不正の際における敵基地爆撃は自衛権の発動であって、憲法第九条もこれを禁止せずという、驚くべき解釈をなしているのであるが、過去のいかなる侵略戦争も、自衛権の発動なる美名のもとに行われたのであります。しかして、今日の軍事科学の段階においては、いかなる自衛権の発動たる戦争も、必然に、局地戦といえ
ども全面的原子戦争に発展し、これに関係せる
国民は全滅しなければならないのであります。(
拍手)しからば、憲法第九条を順守して、一切の武力的国際紛争に参加しないことが最大の防衛であることを銘記しなければならないのであります。(
拍手)すなわち、自衛または防衛は、必ずしも武力を
意味するものではありません。
私は
一つの例として申し上げるのであるが、か
つて、アインシュタイン博士は、ガンジー翁を二十世紀における最大の天才的な現実
政治家であると言いました。愚かなる者は、彼の無抵抗、非
協力なる論理を宗教的空想であると笑ったのであります。しかしながら、武力を持たざるインドの独立運動は、力によって対抗するときは、はかり知るべかちざる悲惨なる結果を生じたのであります。そこで、抵抗はしないが、イギリスには一切
協力せずとの方針が実行されたのであります。このガンジー翁の政策こそは、アジアに共通せる偉大なる精神であって、軍事的に無能力なるアジアの民族が西欧帝国主義の羅絆より解放されたる政策でありました。これこそ、弱き者の自衛権の発動であります。(
拍手)いかなる暴虐者といえ
ども人間の魂の自由を奪うことができないからであります。(
拍手)そして、今や、世界平和のかぎを握る者は、力の政策による米、ソ、西欧の当局者にあらず、戦争に
反対するこれら国家の大衆と、か
つては西欧帝国主義のためにしいたげられたる、軍事的には無力なるアジア、アフリカの民族であります。(
拍手)
日本がこの民族と運命をともにしてこそ、すなわち、世界の第三勢力としてアジアと西欧のかけ橋になることが、アジアにおける近代的先進国家として成長せるわが国を世界の大国としての地位に再び押し上げる道であります。(
拍手)しかるに、アメリカ共和党
政府の、誤まれる、成功の見込みなきアジア政策の犠牲となって再軍備するがごときは、
日本を再び破滅せしむるものであり、私は、
かくのごとき
政治的短見に対し、
日本のために真に悲しまざるを得ないのであります。(
拍手)
要するに、この憲法
改正の企図は、憲法第九条を改めて、
国民の血税をしぼって不相応なる再軍備を
強行し、それに
反対する者を弾圧するために、
基本的人権を制限せんとする国際戦争勢力の策謀であり、かつ、利己的なる利潤追求のために労働運動の自由を抑圧せんとする独占資本の陰謀にほかならないのであるます。(
拍手)
また、この
憲法調査会法案は、明瞭に憲法違反の
法案であります。もともと、主権在民の憲法は、
政府の権限を制限する目的をもって制定されたものであります。しかるに、制約されるはずの
政府がみずから原案を作成するというがごときは矛盾もはなはだしいものであって、これを擁護する学説のごときは、窃盗罪の法文をどろぼうが作成することができるというのと同じ笑うべき理論であります。(
拍手)憲法の歴史、本質、精神からいって、憲法
改正の原案を提案することができるのは、
国会であって、内閣ではないのであります。(
拍手)しかるに、内閣がこれを提案することは、明らかに憲法第九十六条の違反であって、これに賛成する議員は
審議権をみずから放棄することと同様であります。(
拍手)
世界における議会
政治の先進国たるイギリスのごときは、不成文憲法であるがゆえに、明確な規定はもちろんないのであるが、憲法的規定の重要
法案の制定は、
国会の中に特別委員会を設置するのが慣例であって、内閣は絶対に関与しないのであります。(
拍手)これは三権分立の精神より当然であって、内閣が憲法上の規定の変更に
法律をもって関与するがごときは、民主
政治の本質を乱るものであります。(
拍手)提案者並びに鳩山
総理大臣が、憲法第七十二条と内閣法第五条によって、
政府にも提案権ありというがごときは、憲法違反の三百代言的暴論といわなければなりません。(
拍手)
特に、われわれが
国民各位とともに黙過し得ないことは、
政府及び自民党の
諸君が、理不尽なる小選挙区制の
強行により憲法
改悪の野望をたくましゅうせんとしていることは、
世論のひとしく非難するところであります。(
拍手)しかしながら、かりに
諸君が小選挙区制により、いかに多数の議席を獲得しても、
日本国民の
政治的良心は、
国民投票において必ずや
諸君の野望を粉砕するであろうことを予言いたします。(
拍手)自民党の
諸君におかれましても、思いを深くここにいたされ、かかる非立憲的なる提案を
撤回されんことを切望いたしまして、私の
反対討論を終る次第であります。(
拍手)