○山田長司君 私は、ただいま
議題となりました
地代家賃統制令の一部を
改正する
法律案に対し、
日本社会党を代表して
反対の
討論をなさんとするものであります。(
拍手)
本
法律案は、敗戦後の
昭和二十一年、経済の混乱期に、物価
政策の一環といたしまして、国民の住居生活に役立ってきたのであります。今回行わんとする
改正は、要約いたしますと二点があげられるのであります。その第一点は、建坪三十坪以上の家屋の地代家賃の統制を解除しようというのであります。第二点は、三十坪以下の住宅で、坪当り二千円以上の修繕費をかけたものについては、都道府県知事の認可により家賃の増額を認めるというのであります。この
法律案は、一見いたしますと、小さな問題のように見えますけれども、実は、わが国住宅
政策並びに民生安定の見地から検討いたしますならば、国民生活に実に重大な影響をもたらす
法律案でありまして、断じてわれわれは承服するわけにはいかぬのであります。(
拍手)
そもそも、この
法律案は、忌憚なく申し上げますならば、
改正ではなく、統制令の廃止であります。
政府の住宅
政策の貧困を——家主と借家人に
責任を転嫁しようとするごまかし
法案でありまして、時代逆行もはなはだしいものと断せざるを得ないのであります。(
拍手)われわれをして言わしむるならば、むしろ、守り得る統制令の
改正を行なって民生の安定をなし、今日まで家賃や部屋代、敷金等、あまり守られておらなかった面を統制令によって守ることの可能な
法案に変化せしめてこそ、遅々として進展しない鳩山内閣の住宅
政策が幾らかでも補われる結果になるのではないかと思うのであります。(
拍手)
しからば、何ゆえにわれわれは守られる統制令の
改正をすることを要求するかと申し上げますならば、御
承知のごとく、現在の住宅不足は二百八十万戸と推定されております。年々火事や大暴風、水害あるいは老朽による減少等々で、これが年間二十五万戸と推定されており、このほか急激な人口増や、新たに世帯を持たれるために必要になってくる四十万戸等を加えますと、実に六十五万戸の不足があるありさまで、鳩山内閣の住宅
政策による四十三万戸建設目標は数字の羅列にひとしいようなものであるけれども、それでも毎年二十二万戸の不足を生ずることになり、住宅不足は実に二百八十万戸の驚くべき推定数と相なるのであります。(
拍手)無能な鳩山内閣にしては、とうてい、今までの
政策では、奇跡でも起らない限りにおいては、この解決は不可能であります。
建設省では、昨年八月大規模な住宅事情調査をやった結果、
日本の住宅難が、かねて
政府が想像していた以上にひどかったことを発表しております。住居に困っておる世帯数が六百九十万世帯であると発表しておる。
新聞の社会面を見れば、連日住宅不足から起る親子の不和、少年の不良化、あるいは、六畳の部屋で七人の家族が寝ておって、乳飲み子を圧死させたとか、あるいは、起きて半畳寝て一畳といわれる工員住宅のひどさ、いまだ壕の中に生活しておられる人たちや、倉庫その他に居住する人を入れて十四万世帯になるといわれております。住宅の不足は、当然、これによって、賃貸借に、高いやみの敷金、あるいはまた高い家賃、あるいは高い部屋代、領収書を発行しないようなやみの礼金、こういう問題があるばかりでなしに、さらに、一年ないし二年ぐらいの短かい期間が満了すれば、契約の更新、そのほか権利金または礼金等が取られるというような状態で、こう検討をいたしますならば、戦後十年を経た今日、国民生活は一向住宅については小康を見ていないのが現実の姿であります。(
拍手)
このときに当って、もしも統制令が解かれるということになりまするならば、すでに償却済みのものと推定される全国の借家五百万戸、さらに、これに住まっている二千五百万人の人たちに法の適用がなされることになりますので、家主と借家人との間に一大借家争議が起らないと何人が断言できるでありましょうか。(
拍手)そればかりでなく、民事事件の八割までがこの賃借争議であることを考えまするときに、統制令の
改正は、これらの人々に対して、直接、間接に、経済上の影響は実に大きいものがあると申さなければなりません。(
拍手)
この
法律案に対する
政府の答弁の重点は、現在の借家所有者が他の物価と比較して採算上無理があるというのでありますが、
法律は国全体の情勢を勘案した上で決定すべきもので、この
改正案なるものは、立法の趣旨である国民生活の安定をはかるという趣旨に反するものといわなければなりません。しかるに、
法案通過後必ず国民の間に紛争の起ることを予期しながら、何らの
審議機関も設けず、単に届出によって知事に家賃の値上げを申請すれば、それでこの値上げができるというような、まことに
政府みずから国民の間に相剋摩擦を生ぜしめるような結果をもたらすということは、われわれは断じて承服できないところであります。(
拍手)
政府は、口を開けば、物価が安定したという前提のもとにこの
法律の趣旨を
説明しているが、これらは大きな間違いで、現在の給与と物価の均衡は決してとれておりません。加うるに、現在、全国に、登録失業者は七十五万、潜在失業者は実に六、七百万の多きにあると言われておるのであります。実に、勤労階級や庶民階級の人々にとっては、不安きわまりない社会状況にあるのであります。かくのごとき世相の中において統制のワクをはずされるということは、足の悪い人から松葉づえをもぎ取り、歩くことの困難な人から手押し車を取り除いて、健康な人の歩く速度に歩かせようというような、まことに暴挙きわまりないものといわなければならぬと思うのであります。(
拍手)
かく論ずるとき、静かに方途を一考いたしますならば、まず、われわれは、二、三の点をあげて住宅緩和の方策にいたしたいのでございます。
第一点は、
昭和二十一年以前と三十五年までと、さらに、最近の公団のできるまでであります。何となれば、二十一年ごろまでの借家借地の実情は、現在の実情と全く異なった社会情勢にあったという点であります。さらに、二十五年に出された統制令の一部解除によって、住宅を除く事務所、店舗、市場、倉庫等々の借地借家賃の値上りが行われており、その後は、住宅金融公庫、住宅公団等の機関により、かなり従来と異なった形ができておりまするので、当然統制上三段くらいの方途を講じてこれをなさなければならぬと私は思うのであります。(
拍手)
第二の点は、住宅街の建設と都市の不燃化、高層建築化という問題であります。都市の不燃化は、言うことはやすいけれども、これが実行の段になると、なかなか困難であります。これをどうしても政治の力によって強行しなければならないと思っております。第三の点において申し上げることは、住宅建設費の低廉化の問題であります。これには、建設用材の価格の暴利取締り、地価の統制等でありまして、老朽住宅対策、これらについても当然住宅金融公庫から融資をして、家主や借家人の犠牲にならぬように
措置すべきものではないかと思うのであります。(
拍手)
一たび、世界の敗戦国の同じ
立場に置かれておりますフランスやイタリア、あるいは西ドイツ等におけるところの家賃の統制令の状態を見ましても、これらの国々におきましては、戦後いまだに統制令を解いておらない。この事実をわれわれは見なければならぬと思うのであります。御
承知のごとく、
日本においては、諸外国と異なって、
政府よりも民間の自力建設の方がはるかに多いありさまで、どの見地から論及いたしましても、絶対量の不足している
日本の住宅でありまして、どうしても統制令を解く以上は、われわれは断じてこれは許せない状態にあると思うのであります。そういう点で、統制令を解く以上は、以上述べました二、三の点について当然これが実行されて後に、しかるべく講じられなければならぬと思うのであります。
最後に私は申し上げたいのでありますが、今回の
改正は、無計画の中で統制の解除を行われるものでありまして、これから起るであろうところの借家争議は、これ全部
政府の
責任であると私は断せざるを得ないのであります。そういう点で、この
法案に対しましての
反対の
討論を終ろうとするものであります。(
拍手)