○島上善五郎君 私は、日本社会党を代表して、ただいま上程されました
公職選挙法の一部を
改正する
法律案につきまして、鳩山総理大臣に、重要な二、三の点について質問を試みんとするものであります。(
拍手)
法案の具体的な
内容につきましては、あまりにも問題点が多く、質問すべきことが多いので、
太田長官に対しては後日ゆっくりと質問をいたすことにいたします。(
拍手)
総理に伺いたい第一点は、今回の
公職選挙法改正と憲法
改正との関連性についてであります。鳩山総理は、かねてから、憲法
改正を自己の最大の
政治的任務とし、これを悲願として、その実現に努めておることは、周知の事実であります。(
拍手)そのために、前国会にも、今国会にも、憲法
調査会法案を
提案しているのであります。しかし、たとい、憲法
調査会法案が
政府の予期通りに通過し、この
調査会がまた総理の期待する結論を出したといたしましても、
衆議院において三分の一以上の憲法
改正反対者が現に存在している今日においては、
改正の手続すらできないことは、総理もよく承知しているところであります。そこで、憲法
改正の悲願を達成せんとすれば、その前提として、衆参両院における
反対派を三分の一以下に押えるということが、
政府の立場からはどうしても必要なのであります。ところが、もし
現行法のままで
選挙を行うと仮定しますれば、昨年いわゆる鳩山ブームの絶頂にあった当時と比較して、失政と失言、黒星続きで、
国民から非難と失望を浴びておりまする今日では、保守党が激減して革新派がふえるであろうということは、これは公正な第三者の一致した観察であります。(
拍手)これでは、いかに悲願だと言って力んでみたところで、憲法
改正はできない。そこで、憲法を
改正するには小
選挙区制をとらなければならないということが、
政府の方からは当然考えることに相なるのであります。すなわち、今回の小
選挙区制は憲法
改正の前提であり、その地ならしであるということは、明々白々たる事実であります。(
拍手)
鳩山総理は、このごろ、ひどい健忘症にかかっておるので、思い起せと言っても無理かもしれませんが、去年、新聞記者会見で、憲法
改正は私の悲願である、そのために小
選挙区制に改めたい、こう記者会見で語っております。(
拍手)また、ここには持ってきておりませんが、自由民主党、あなたの方の党の幹部が、武士の情で名前は言いませんけれども、大新聞のアンケートに、憲法を
改正するには小
選挙区制を
採用する以外にありませんと、ちゃんと答えているのであります。(
拍手)
国民は、ことごとく、憲法
改正のための小
選挙区制であると信じ切っておる。新聞や雑誌も、みなそう書いている。特に、憲法
改正を熱心に要請しておるアメリカさん——ニューヨーク・タイムスでは、憲法
改正のために小
選挙区制をとるのは当然であると、大いに鳩山
内閣を叱咤督励しているではありませんか。(
拍手)しかるに、ただいま
提案の
理由を伺いましても、あるいは鳩山総理や与党幹部の最近の言動を見ましても、極力両者の関連性に触れることを避けて否定し、弁明これ努めているのでございます。一体、何がゆえに、一番大事なこの問題に触れることを、さながら悪いことでもするように否定するのでありましょうか。
私は、ここで憲法
改正の是非を論じようとは思いません。しかし、憲法
改正是なりと鳩山総理大臣が確信しているのであるならば、そして、そのために
衆議院の三分の二以上を占めなければならない、こうお考えであるならば、このことを堂々と
国民に訴えたらよろしいではないですか。(
拍手)あるいは、きょうの答弁でも、憲法
改正とは
関係ありませんと、紋切り型のお答えをするかもしれません。しかし、それでは、私が納得できないばかりではなく、
国民が断じて納得いたしません。(
拍手)二大
政党制による
政局安定、
選挙費軽減による
政界の
浄化などと、もっともらしいことを言っておりますが、かの一昨年六月、国会の
混乱した直後に、自粛三法の
一つとして、
選挙法改正が取り上げられたこと、そうして大幅な
改正が行われたことは、皆さんも御存じだと思う。当時は、いわゆる五党分立、
政界は不安定、疑獄、汚職事件で
腐敗、堕落その極に達しておった。もし
政局の安定、
政界の
浄化ということを
理由とするならば、そのときこそが最も必要な当時であった。しかるに、その自粛三法の
一つとして
公職選挙法改正が取り上げられたとき、諸君の中からは、小
選挙区制にしようということを、ついに一言も言われなかったではありませんか。(
拍手)そして、昨年重光・ダレス会談を行なって防衛六ヵ年計画を本格的に推進しようとしておりまする今日、急に、何ものかに追い立てられるように、小
選挙区制、小
選挙区制と言っておることは、客観的にも、憲法
改正、本格的な再軍備のための小
選挙区制であるということが、りっぱに証明されておるのであります。(
拍手)鳩山総理大臣、総理大臣は、今までは保守党の
政治家の中では比較的率直であると、
国民に思われておりました。そこで、私は、率直にお答えになる方が、鳩山総理のためにも、
政府のためにもなると、友愛精神をもって警告して、率直なる答弁を求めんとするものであります。(
拍手)
次に総理大臣に伺いたいのは、今回の
政府提案の
公職選挙法の
改正の基本的な考え方についてであります。
提案されました
法律案の文書によりますと、「議会
政治の健全な発達を図るため、
衆議院議員の
選挙について、小
選挙区制を
採用し、
候補者の
公認制度を確立し、あわせて
選挙の際における
政党の
政治活動の
規制を合理化し、もって民主
政治の基盤を
強化する」、こういっております。もし議会
政治の健全なる発達と民主
政治の基盤
強化ということがほんとうであるならば、私は
選挙法改正の際に最も大事な基本的な問題として、第一には、人民の
意思、
選挙民の
意思を、より多く、より的確に
政治に反映させるということが考えられなければならない、(
拍手)第二には党と党が公正に争うルールを確立し、尊重するということでなければならないと思う。(
拍手)そして、先ほどわが党の鈴木
議員も申されましたように、一面において、不正
腐敗の
選挙を徹底的に排除するとともに、他面においては、
政党も
国民も、公然の場において、自由闊達に
選挙運動を行い、あるいはこれを受けることができるようにすべきものであると考える。
選挙法改正は、党略を離れて、このような高い見地から検討すべきものであると考えます。同時に、また、国会構成の基礎を定める重要な
法律でありまするから、主権者たる
国民の
世論に聞きまして、各党の公明な話し合いをもととして慎重になすべきものであると考えます。おそらく、私は一般論としては、鳩山総理大臣もこのような考えを否定されることはあるまいと思いますが、これに関する総理の御所見を承わりたい。(
拍手)
次に、総理に、いま少しく具体的な点について伺いたい。その第一は、小
選挙区制は、
死票が非常に多くなり、
国民の
意思をより多く
政治に反映せしめるという民主主義の原理に反するものであります。もし
候補者が一対一である場合には、五一%の票が生き、四九%の票が死んでしまう。三人の
候補者で争う場合には、四〇%の票が生きて、六〇%の票が死んでしまう。現に、一九五一年の
イギリスの
選挙において示しましたように、得票数においては多い労働党が、議席の数では二十五議席も少いというような矛盾した現象をしばしば生むのであります。その上、
あとで述べますが、勝手にきめました狭い
区域に制限されるということは、
選挙民にとって、
候補者選択の自由が著しく制限されることになりますから、当然棄権が増大するのであります。
国民多数の
意思が
政治に反映しない。棄権が増大する。ですからこそ、西ドイツにおけるがごとく、小
選挙区制を
採用する場合といえども、
死票を生かすための比例代表制が加味される方式が最近行われるようになったのであります。
死票と棄権の増加によって
国民多数の
意思が
政治から除外されてしまうというような、こういう民主主義に反する事実に対して、
政府案は何らの考慮をも払われておりませんが、総理大臣はこのようなことに対してどうお考えになっているか、伺いたい。(
拍手)
次にお伺いしたいのは、少し痛いところにさわるかもしれませんが、党と党が公正に争うルールの問題であります。議会
政治の健全な発達、二大
政党制による
政局の安定とは、今回の
提案の最大の
理由であります。そのためには、党と党が公正に争うルールを打ち立てるということが何よりも必要であります。総理は、今までしばしばフェア・プレーということを言いました。また、十二月二日のこの議場における施政演説の中で、こういうことを言っております。「民主
政治は断じて力による
政治であってはなりません。」「新
内閣は絶対多数の上に立ちながらも、少数党の意見を十分聞いて民主
政治を守り、どこまでも謙虚な態度で
国民の声に耳を傾けまして、
国民とともに歩む明朗な
政治を行う決意にあふれております。」こういうのです。総理大臣は、よもや、これをお忘れになっていないと思う。
そこで、伺いたいのは、今度の
政府案、特にその
選挙区割り、これが一体公正なルールということに相なりましょうか。(
拍手)どうして与党の現職
議員の
当選を確保するか、どうして社会党の強い地盤を分断して保守党の落選者の復活をはかるか、このような党利党略によって貫かれておりますことは、歴然たる事実であります。(
拍手)
選挙制度調査会の
区割りが大幅に
変更されましたのは、いわゆる党内調整のためであります 党内調整とは何ぞや。この郡をおれの方へくっつけてくれ、この市を二つに割ってくれ、おやじの生まれた村をこっちへくっつけてくれ、こういうような、いわゆるゲリマンダリング以上の、ハトマンダリングとこのごろ言っておりますが、ハトマンダリングがこの
区割りを作った思想ではありませんか。ひょうたん型を作ったり、飛び石型を作ったり、たんざく型を作ったり、いろいろの不自然な
選挙区を作る。先ほど、
太田長官が、
選挙区割りの幾つかの
原則を述べられましたが、あの
原則なるものは、実にでたらめ、出ほうだいといわざるを得ません。(
拍手)私は、いずれ、あのりっぱな
原則に照らして、
選挙法の
委員会において、完膚なきまでに党利党略を
国民の前に暴露しようと考えておりますが、そのときにどんな顔をして答弁するか、今から楽しみにして待っております。(
拍手)
また、小
選挙区制としての筋を通すのでありますならば、当然、全部一人区にすべきものであります。われわれは小
選挙区に
反対でありますが、理論的には当然一人にする。ところが、二十も二人区を設けた。この二人区を設けた
あとを見てごらんなさい。福岡や北海道の炭坑地帯、神戸市内、その他、革新派が強くて、一人区にすれば全部社会党に取られてしまう、こういうところに無理に二人区を作る。それから、岩手、広島、秋田、ああいう不便なところに、わざわざ郡を四つも五つも六つも合せて二人区を作る。小澤君と椎名君の二人の調整がつかない、高橋君と重政君の調整がつかない、こういう
理由から二人区を作ったことは、諸君が何と弁解しても、これは動かすことができない事実であります。(
拍手)東京などは、行政区を二つにも三つにも分けて、区会
議員よりも狭い
選挙区を作った。そして、いなかでは、峠を越えて、よその
選挙区を回らなければならぬ。島の一部を割って、こっちの対岸の郡とくっつけた。こういうような、あきれ果ててものが言えないような党利党略が今度の
選挙区割りであります。(
拍手)
総理大臣はスポーツがお好きのようでありますが、一体、野球のルールが一方のチームによって勝手に変えられたり、相撲の土俵が横綱の都合のよいように変えられたりということが許されてよろしいことでしょうか。(
拍手)もし、このように、国会構成の基礎である
選挙法、特にその
選挙区割りが、多数派の都合のよいように、いつでも勝手に変えられるといたしますれば、そのようなもとにおいては、二大
政党制も、民主
政治も、もはや存在の余地がないのであります。(
拍手)一九二二年、ムソリーニが政権を取って第一にやったのは
選挙法改正で、比較多数を取った党が議席の三分の二を占めるという、べらぼうな
改正をやった、そして、ファッショ独裁の基礎を築きました。この事実を思い合せますならば、今回の
政府提案はムソリーニの思想と共通的なものがある。(
拍手)まさに保守永久政権を目ざす一党独裁であり、クーデターにひとしい暴案であると断ぜざるを得ません。(
拍手)総理は、一体、民主
政治の名のもとに、このような党利党略、得手勝手が許されてよいとお考えになるかどうか。
おそらく、これは案であるから、国会で十分に御
審議を願いたい、その過程で間違いがあったら修正をしましょうと、こう言われるかもしれませんが、それは三百代言にひとしい遁辞にすぎません。「民主
政治は断じて力による
政治であってはなりません」「新
内閣は絶対多数の上に立ちながらも、少数党の意見を十分聞いて民主
政治を守り、」この言葉を思い合していただきたい。この昨年十二月の言葉を思い合していただきたい。民主
政治は
世論の
政治であります。今回の
政府案に対する
世論を、総理はどのように判断しておるか。
最近の大新聞、地方新聞の論説は、筆をそろえて、痛烈に
政府案を非難しております。(
拍手)ある新聞のごときは、民主主義の名に隠れた強盗
行為である、こう言っております。(
拍手)強盗——あんまりありがたい名前でもなかろうと思う。一昨日の文化放送の、わが党の淺沼書記長が出ました街頭
討論会のごときは、東京では、六百人の聴衆の中で
政府案に
賛成する者たった一人、(
拍手)大阪では、四百人の中でたった二人。(
拍手)
選挙制度調査会の
委員で、
政府のために一生懸命働いた。小
選挙区に
賛成する
委員諸君の中でも、その多数は、あまりにもひどい
政府案に対して、
政府は
撤回をして練り直せ、こう言っているのであります。(
拍手)
世論はごうごうたる非難で、
政府案はまさに四面楚歌の中にあると言ってもよろしい。(
拍手)どこまでも謙虚な態度で
国民の声に耳を傾けますと言ったこの総理大臣が、このような
世論の動きに耳を傾けて考え直すのが当然ではないかと私は思います。(
拍手)総理は、この
世論の前に考え直す
意思があるかどうかを、はっきりとお答え願いたいと存じます。(
拍手、「時間々々」と呼ぶ者あり)
われわれがこの
法案に
反対しておりますゆえんのものは、世間の一部が言うように、単に社会党に不利だからという、そういう小乗的な
意味ではありません。このように
世論を無視し、眼中に国家
国民なく、党利党略、私利私欲、このような暴案がおくめんもなく国会に出されて、多数を頼んで国会を通過するということになりましたならば、日本の民主
政治が根底から破壊されてしまうから
反対であります。(
拍手)われわれは、民主的な方法によって日本の
政治の改革をなそうとしております。
国民もまたそれを望んでおります。しかし、この民主的な道がふさがれてしまいましたならば、そのあ
とは一体どうなると思いますか。民主主義の残骸の上にテロが横行し、
国民互いに血を流すというような暗たんたる事態を想像することは、容易にできることであります。総理大臣は、それとも、総理大臣がかって文部大臣として進歩的な学者を弾圧したり、
国民が、特高警察のもとに、言論も集会も出版、結社の自由もことごとく剥奪されておりましたあの暗黒時代、あの暗黒時代を、夢よもう一度と待ち望んでいるとでもおっしゃるのでございましょうか。(
拍手)
総理大臣、総理大臣は、総理としての
政治的生命は、どう考えても、あまり長くはありません。人のまさに死なんとするとき、その言やよし。(
拍手)どんな悪人でも、最後には
一つくらいよいことを言ったり、したりするものであります。(
拍手)鳩山ブームといわれて
国民に親しまれたあなたが、最後に天人ともに許さないこの暴案を押し通して、反動
政治家としての不滅の悪名を残すということは、あなたのためにも国家のためにも断じてとらざるところであります。(
拍手)
私は、最後にもう
一つだけ簡単に伺いたい。それは、
内閣の諮問機関である
選挙制度調査会の
答申についてであります。