○
三宅正一君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、
衆議院解散要求に関する
決議案の
趣旨弁明をいたしたいと思います。(拍手)
まず、
決議案文を朗読いたします。
衆議院解散要求に関する
決議案
主文
衆議院を速かに解散すべし。
右決議する。
理由
一、政府は、小選挙区制を中心とする
公職選挙法の一部
改正案を先の総選挙において何らの公約を行わず、今国会に一方的に提出した。同法案のごとき
わが国民主政治の将来に重大な影響を及ぼし、
国会構成の基盤に
一大変革を加えんとする
重大法案は、
主権者たる国民の総意に問うべきである。
一、第三次
鳩山内閣は、
反対党として対決せる
民主党及び
自由党の合同した
自由民主党を基盤とする内閣であって純然たる政権の
たらい廻しによって成立した内閣である。
政権の移動は総選挙を通じて行うべきであり、政府は直に
衆議院を解散して民意に問うべきである。
右が本
決議案を提出する理由である。
鳩山首相並びに
政府首脳幹部各位は、折に触れて、二大
政党対立による
議会政治の確立を主張しておりますが、果して二大政党による
議会政治の根本義を理解しているかどうか、はなはだ疑いなきを得ないのであります。(拍手)昨年、われわれ
社会党の統一に続いて
保守合同による
自由民主党が成立したことは、久しく
小党分立の形にあった
わが国議会政治の一歩前進として、心から喜ぶものであります。しかしながら、これは単に二大
政党対立の形式が整えられたにすぎないのであって、二大
政党対立による
議会政治運用の真価は、これを今後の実績に徴するのほかないといわざるを得ないのであります。(拍手)しかるに、前二十三
臨時国会並びに今二十四国会を通じて政府並びに与党の動きを見るに、われ
ら国民とともに多大の危惧なきを得ないのであります。(拍手)
そもそも、
議会政治運営の
基本原則が
多数決原理にあることは言うまでもないが、この
多数決原理は、
少数意見を圧殺し、
国民世論を無視して強行さるべきではもちろんなく、
少数意見の尊重と
国民世論への考慮の上に行われて、初めてその意義を発揮するものであります。(拍手)かかる考慮を経ずして行われる
多数決は
民主政治に名をかる多数の独裁にほかならないのであります。(拍手)かかる点において、
鳩山首相初め
政府与党幹部の認識はきわめて憂慮にたえないものがあるのであって、私は、この点、かかる前提の上に、次に国会を解散すべき理由を逐次申し述べたいと考えるのであります。(拍手)
まず、
国会解散を要求する理由の第一は、第一次
鳩山内閣の成立をもたらしました昨年の総選挙において、国民の比較的多数は、当時鳩山氏の率いる
民主党を支持して、議席百八十五を与えて第一党といたしたのでありますが、当時国民が鳩山氏の
民主党を支持した理由は、その後
鳩山内閣の政策の変化によって、全くその根拠を失っておるのであります。(拍手)当時、
鳩山民主党が国民に約束し、国民もまた大きな期待をつないだものは、外交上の問題としては、
日ソ交渉の促進、
日中国交の回復と、国内問題としては、
防衛費の切り下げによる住宅その他民生問題の解決であったのであります。(拍手)しかるに、
日ソ交渉は、後に述べるごとく、
鳩山構想はその後大きく歪曲せられ、しかも、その妥結の見通しは、その後一年有余の今日何らこれを得ざる状態であって、むなしく決裂して、
松本全権を引き揚げさすという致命的な失敗を見んといたしつつあるのであります。(拍手)全国民は、政府の
外交方針が首尾一貫せず、しかも、二重外交、
三重外交の矛盾をあえてしておるのに、はなはだしく憤激をいたしておるのであります。さらに、
国内政策に至っては、
防衛費の削減どころか、逆にこれを増加し、その他不
生産的支出の増額と相待って、
民生費は逆に圧縮を余儀なくされるという現実に直面して、さきに鳩山氏の
民主党を支持した一部の国民は完全に裏切られたものでありまして、かくて、
鳩山内閣は、パンを求めた国民に石を与えたものといわざるを得ないのであります。(拍手)今日においては、
鳩山内閣は、国民の比較的多数が
鳩山内閣を支持すると主張する何らの理由をも有しないのであります。ここに
鳩山内閣があらためて国民の信任を問う理由が存在すると存ずるのであります。(拍手)
国会解散を要求する理由の第三は、当時、鳩山氏の
民主党は
憲法改正、再
軍備促進についてはほとんど触れるところがなかったのであります。しかるに、一たび政権の維持に成功するや、総選挙当時の公約はむしろ軽視せられ、国民に対してさらに訴えることのなかった
憲法改正、再
軍備促進に血道を上げるに至ったことは、これまた
民主党内閣の国民に対する大きな裏切りといわなければならないのであります。(拍手)当時、鳩山氏
ら民主党の
幹部諸君は、大衆に比較的不人気な
憲法改正や再
軍備促進はこれを国民に訴えることなく、ひたすら、
鳩山首相の唱道する
友愛革命と
日ソ交渉の仮面に隠れて、その
反動的意図を巧みにカムフラージュして、国民を欺瞞し去ったのであります。しかるに、選挙において比較第一党の票を獲得するや、
憲法改正、再
軍備促進の意図を露骨にし、さらに
自由党との合同によって、いよいよ公然とこれを強行せんとしておることは、国民を愚弄するの最もはなはだしいものといわざるを得ません。(拍手)もし
鳩山内閣があくまで
憲法改正、再
軍備促進を強行せんとするならば、あらためてここに国会を解散し、公正なる世論の審判に訴えることが、
議会政治確立を念とする者の当然の責務といわざるを得ないのであります。(拍手)
国会解散を要求する理由の第三は、
保守合同による
自民党の成立が国民の意思を無視して行われたという事実であります。前回の総選挙において、
自由党と
民主党とは、同じ
保守政党でありながら、ともに天をいただかざる犬猿の間柄をもって国民に臨んだのであります。(拍手)その政策においても、たとえば
日ソ交渉のごとく、相当相反した政策をもって臨んでおるのであります。しかるに、総選挙の結果、
民主党の議席が
過半数にはるかに及ばず、政権の担当が困難視されるに及んで、にわかに
保守合同を唱え、政策は二の次の野合をあえてしたことは、われらの最も不可解とするところであります。(拍手)このために
鳩山内閣の性格は大きくゆがめられ、
日ソ交渉のごときも、旧
自由党内の
強硬意見に左右されて、
鳩山首相が初めに唱えた
早期妥結は雲散かつ霧消し、
日ソ交渉停滞の
最大原因となっておることはおおうべからざる事実であります。(拍手)
かれこれ考えるとき、
鳩山内閣の性格は
保守合同を前後して大きく変っておるのである。本来、政権の移動は総選挙によって、
主権者たる国民の審判を経て行わるべきものであって、選挙において
反対党として相争った政党の合同、現実に野党、与党の
対立関係にあった政党の合同により、党の性格も政策も選挙の際と根本的に変ったのに、そのまま第三次
鳩山内閣として政権の
たらい回しをはかるがごときは
憲政運用の
ルールをじゅうりんする行為といわなければならぬのであります。(拍手)
鳩山首相は、
政権たらい回しの批判にこたえて、政権の基調は変らないと強弁しておるが、これは一片の空語にすぎないのであります。国会の解散は今からでもおそくはない。
政権移動の
ルールを守るためにも、
国会解散の勇断に出られたいのであります。(拍手)
以上は、今日まで
鳩山内閣が国会を解散して国民の審判を受くべきであった事由の説明でありますが、当面の
解散要求の理由は、今回政府が提案した
選挙法改正の重要性に基くものであります。選挙が
議会政治のよってもって立つ重要な基盤であることは言うまでもないのであります。従って、
選挙法の改正は、この重要な基盤に変革を加えんとするものであって、現に選出されておる
国会議員の都合だけで勝手にこれを左右することは厳に慎しまなければならぬところであって、(拍手)謙虚に世論の動向に聞き、国民多数の承認の上に行わるべきものであると思うのであります。いわんや、
国会内部において、相手の政党の意向を無視し、多数派のみで押し切らんとするがごときは、最も戒むべきところであるのであります。(拍手)私は、政府がこの峻厳なる世論にすなおに追従して、この際いさぎよく本案を撤回されることを警告するものでありますが、もし不可能ならば、小選挙区制の可否を、特に
世界選挙制度史上最悪の
党略案たる
政府案の可否を、総選挙によって国民の審判を経て後、国会に諮るべきものであろうと信ずるのであります。(拍手)
権威ある東京の
有力紙が、その社説において、「選挙区制の改変は、政党にとってだけ重大なのではない。同時に
有権者にとっても重大な関心事だということを忘れてはならない。前回の総選挙では、
保守政党は
憲法改正は口にしたが、小選挙区制を公約したものは恐らくなかったろう。国民が、まだ小選挙区制がよいか悪いか、深い考えも持つ暇もない間に、しかも党略の露骨な案を出し抜けに提案するなど、この点からいっても、時期を得た提案とは決していえない。」「いったい、
自民党は絶対多数党ではあるが、まだ
自民党として総選挙の審判を受けていない政党である。
鳩山内閣も、その意味で
暫定政権の性格を持っている。それで
鳩山内閣としては、「早期に国民に信を問うべきが
政党政治の常道なのである。自党に有利なように小選挙区制を作って、然る後に総選挙をやって多数を占めようなどというには、その資格を欠く内閣であり、それでは余りにも虫がよすぎる。二大政党の門出に、身勝手な
区割り案を作るなどはこの内閣としても、
自民党としても、国民をはばからないせんえつな話といわざるを得ない。吉田前内閣は、
指揮権発動などの暴挙をあえてして、国民の非難をかったが、
自民党の見えすいた今度の行動は、事柄の相違こそあれ、見ようによっては、それ以上の
横暴ぶりと称してよい。」と痛撃いたしておるのであります。(拍手)この批判を天の声と聞いて、撤回か解散か、その一つを選ぶべきが
鳩山内閣と
自民党のこの際とるべき方策であることを忠告申し上げたいのであります。(拍手)
政府は、昨年五月以来、
選挙制度改革のために、内閣に
選挙制度調査会を設置し、十カ月にわたって熱心にこれを審議させながら、その答申を全然無視して、露骨な
党利党略案を
政府案として提出した責任をいかに考えておるか、私は承わりたいのであります。ハトマンダーといわれる
党略案を合理化するための隠れみのに
調査会を使ったのだとすれば、その心事の陋劣なる、政治的にはもとより、道義的にもこれを許すことはできません。これは、単に
選挙制度調査会の
委員諸君を愚弄するのみならず、国民を愚弄するものであって、断じて許すことはできないのであります。(拍手)
最も熱心に
学者委員として起草に努力された
選挙制度調査会起草小委員長の
矢部貞治博士が、完全に利用され完全に黙殺された
ドン・キホーテ的役割を自嘲しつつ、某
有力紙に発表された感想を読んで、良心を持たざるマキアヴェリストに対し、国民はしんから怒りを感じておるのであります。(拍手)矢部氏は言われる。「与党と政府との間で調整された案は、
調査会案を党略で勝手にゆがめたというよりも、むしろそれを「黙殺」して、全然別個に作られた案というに近いもののようである。その二十にのぼる二人区などは、
社会党の
有力候補がいて、一人区では与党に望みがないとか、または与党内の候補の地盤がかち合って、どうにも調整がつかないとかいう理由で設けられ、さらに一人区でも、
党内特定候補のために作られたゲリマンダリングの疑いが濃厚である。
与党幹部が、党略の入らぬ
区割りはないとか、これで落選する
与党候補は、よほどかい性がないとかいっているというのは、それを裏書きしている。」「それのみならず、
調査会でもっとも熱心に討議されたのは、
連座制の
徹底化、取締りの
公正化、
政治資金規正の強化、公営の拡充などをふくむ選挙の
公正確保に関する事項で、これらは要綱ではあるが答申にもふくまれており、これらの点では
社会党の委員も大体一致したことである。」「これらの事項が
骨抜きにされ、または黙殺されているようである。これもはなはだ不愉快だ。「
社会党が怒るのも当然である。」(拍手)「我々としても、かくの如く無視され、都合のよい部分だけを党略に利用されただけでは、すこぶる憤まんにたえない。これでは
区割り作業の過程で
政治的圧力があったら、あくまで抗争しようと考えた私の決意など、あまっちょろいヘロイズムであったのだ。」と嘆いておるのであります。(拍手)
友愛精神を説く鳩山さん、罪なことをして恥かしくありませんか。三木さん、甲らを経た大ダヌキでも、こんな罪な化かし方はいたしませんよ。天を恐れたまえ、民を恐れたまえと、私は警告いたしたいのであります。
矢部博士が痛憤されたごとく、
連座制の強化、公営の拡充、
資金規正の
強化等、小選挙区制の弱点を補う選挙の
公正確保の事項が
骨抜きにされたのみでなく、選挙の自由が奪われている点も糾弾されねばならない点でありまして、いわゆる所論の公正を期するために、また
有力紙の社説をかりて、この点をも指摘、糾弾しておきたいのであります。
選挙はできるだけ自由であることが理想であるはずであるのに、小政党や
無所属候補の
選挙運動を著しく制限しておる一方、民衆にとってようやくなじみ深くなってきた
公営立会演説会を廃止し、その上、選挙に熱心な
青年団や
婦人会などが主催する
立会演説会まで禁止するなど、およそ選挙の自由とは逆行する点が少くないのであります。(拍手)、そのくせ、選挙に際して最も警戒せねばならぬ買収や供応などには関心が薄く、
連座制の強化も
公民権停止の強化もすべて
現行通りとして、何らの措置も考えていない。五十名以下の政党は認めないというが、
選挙法改正に名をかりて
政党活動の自由を拘束するなどは、ファシズムの態度であるといわなければならないのであります。(拍手)二大政党は自然に育つべきで、二大政党の布石などといっても、労組、
文化団体、
青年婦人団体等の
公認推薦も禁止あるいは制限されるから、この点から見ても、
社会党その他に打撃を与えることができる。
自民党の
考え方は、要するに、
自民党にはきわめて好都合の、虫のいい案だと言わざるを得ない。
小選挙区制が採用される場合、最も懸念されるのは買収や供応などで、
連座制の規定は一そう強化すべきだが、
自民党試案はそれには全くほおかむりなのも不可解である。また、開票区は
現行通りとあるが、小選挙区となれば、地域が狭くなり、
投票所の数も少い。従って、投票を一カ所に集め、混合して開票することも不可能ではあるまい。地方の実情を見ると、小さい村落などでは、無
記名投票ではあっても、ボスには住民のだれがだれに投票したか見当がつくとさえ言われておる。それをおそれて自由な投票ができにくいという例も少くない。それで、
開票所を一カ所にして、各
投票所の投票を混合して開票すれば、だれがだれに投票したかが全くわからなくなる。従って、ボスが半強制的に
特定候補に投票させるといった弊害も救われ、村八分を心配しない、自由な投票が行われる。
自民党案はこの点を考慮したであろうか。かかる案は
保守政党は喜ばないというのであろうか。選挙に多数を制することだけが大切か、選挙をよくし、
政党政治の将来の発達を期し、国民の信頼を得ることが大切か、
自民党は大いに反省をすべきであると警告しておるのであります。(拍手)かかる大それた改悪を
選挙民に無断でやるべきではないという意味において、われわれが解散を主張するのも、けだし当然といわなければならぬと思うのであります。(拍手)
今回の小選挙区制の意図するところはもはや何人も看破しているごとく、一気に
社会党の勢力を三分の一以下に減少せしめ、
アメリカに奉仕する再軍備を公然と行い、かつ
徴兵制をしくための
憲法改悪を行い、
保守政権の
永久化をねらわんとする、きわめて悪らつなる陰謀から出ていることは明白であります。(拍手)これを、政府並びに
自民党は、いとももっともらしく、二大政党の対立による政権の授受と政局の安定、
選挙費用の縮減による政界の浄化と刷新という看板を掲げ、これに伴うもろもろの利点をあげておるのであります。すなわち、政策と政策を争う高度な
選挙戦が行われ、
党内対立が解消する、多額の
選挙費用がかからない等々、いろいろな利点を述べているが、これは全く白を黒と言いくるめる詭弁であります。(拍手)より多くの致命的な欠陥を知らないのか、あるいは故意に隠しているのか、いずれかわからないが、非常に多くの欠点や、小選挙区制によって起る弊害について、何ら触れておらないのである。現実の段階ではもし小選挙区制を強行するならば、事実は、これらの理由とは全く逆な結果が現われることは必然であると断言してはばかりません。(拍手)従って、今日においてはかかる理由によっては小選挙区制案を提出する根拠が全くないのであります。
すなわち、第一の理由とする二大政党の対立でありますが、
社会党が、昨年十月、
国民大衆の要望をになって完全に統一し、これに刺激され、
保守党も、大急ぎで、曲りなりにも合同をいたしたのであります。すなわち、二大政党の対立は、小選挙区によってできたのではなくして、われわれが、自発的に、国民の要望によって小選挙区以前に完成したという事実を忘れてはならぬのであります。(拍手)もし、二大
政党制を促進するためという口実のもとに、現在の
自民党が考えておるがごとき
政府案をもっていたしまして、三木君が岐阜における談話のごとく、選挙区制をいじることによって五分の四の多数を、定員を不当に五百人にふやしておいて取るがごときことがあれば、二大政党ではなくて、一
党独裁の二大
政党破壊の法案がすなわちこの小選挙区法案であるといわなければならないのであります。(拍手)
政局の安定とは、一体いかなることを意味するのであろうか。諸君の言う政局の安定は、常に
保守党の絶対多数下における政局の安定であって、逆から言うならば、
社会党勢力の
徹底的縮減を望んでいることなのである。いかに強弁しようと、これが憲法の改悪に通じていることは、何といっても明白であって、今日、現在、絶対多数党で、なおかつこれ以上の多数の勢力を得ようというのは、すなわち、
保守政党が
憲法改悪をねらい、保守の
永久政権をねらうところの大きな陰謀であることは明白であると、私は考えるものであります。(拍手)
次に、政界の刷新と選挙の浄化であるが、日本の政界の現実というよりは
保守党の現在のままでは、小選挙区にしたからといって、決してこれが実現できるものでないのであって、まさに諸君のたわごとであるとしなければならないのである。
私は、少しく詳細に、かつ具体的に、この非現実的、非論理的、不合理な小選挙区制の
政治的陰謀について論破してみたいと思うのである。(拍手)
小選挙区制と二大政党の問題については、よく
イギリスと
アメリカの例を引き合いに出して参りますが、果して
イギリスや
アメリカが小選挙区制によって二大政党の関係が生まれたでありましょうか。
イギリスにおいて小選挙区制がとられたのは、十九世紀も末の一八八五年であった。それ以前には、定員一名のところと二名のところとあり、さらに、大選挙区で
連記制の時代もあった。それにもかかわらず、
イギリスではすでに一六八〇年以来ずっと二党制が存在したのであって、二党制ができて、そのあとに小選挙区ができたくらいのことは、諸君といえどもよく御承知のところであろうと存ずるのである。(拍手)また、一方、
アメリカにおいても、十九世紀の半ばに至るまで、各州によって選挙区はまちまちであったが、初めて全州に小選挙区制がしかれたのは一八四二年であった。ところが、二党制は、それから半世紀前の、
ワシントン大統領執政当時から存在をいたしたのであります。かように、単純に小選挙区制は二党制を生むという
考え方は、根本的に間違いであることが明白なのであります。
しかも、小選挙区制度の
致命的欠陥ともいうべきものは、死票が多いということであります。つまり、総得票において負けた方の政党が、かえって議席の数では多数を得て勝つという現象が起り得るのであります。現に、
イギリスの一九五一年の総選挙では、総得票において、
労働党が一千三百九十四万八千六百五票、
保守党が一千三百七十一万七千五百三十八票を得て、
労働党が
保守党より二十三万票も
得票数が多いにかかわらず、議席数においては、
保守党三百二十一、
労働党二百九十六で、二十五名も少い結果が現われて、
労働党は破れているのであります。これは小選挙区制では死票が多いからである。これは小選挙区制の防ぐことのできない決定的な欠陥であります。(拍手)国民の多数の支持する党派の持つ議席が支持の少い党派よりも少いというところに、私どもは致命的な欠陥があることを指摘しなければならないと存ずるのであります。(拍手)
小選挙区では定員一名で、
単記投票の方法によって比較多数を得た者が当選するのでありますから、それ以外の
候補者に投ぜられた票はことごとく死んでしまうのであって、死票が非常に多くなるのである。これが一選挙区に候補が三名以上となると、いずれの
候補者も
過半数の投票をとることができず、少数のものを代表する者が当選することが大いにあり得るのであります。たとえば、
有権者十九万人を一単位とする選挙区ができるとして、
A候補は六万票、
B候補は五万票、
C候補は四万票を獲得したとすれば、
A候補は六万票で当選し、B、C両候補の得票合計は死票となり、その六万の少数が九万の多数を支配するという不合理を生ずるのである。(拍手)かような不合理が全国的に現われたとするならば、
得票数が四〇%であっても、議員数が六〇%を取るという結果が生まれるのであって、国民の意思を正しく国会に反映しようとする目的にそむき、不自然にして不合理なる多数党を作り、民主主義の原理に相反する結果になるという重大なる
致命的欠陥を有しているのであります。現に、わが国において大正八年前に大選挙区で選挙を行なったとき、平均して、死票は有効投票の二割二厘であったのであります。大正八年の小選挙区採用後は三割四分五厘に達しておる点から見ても、小選挙区制は民主主義の精神をじゅうりんする最も望ましくない制度であるといわなければならないのであります。(拍手)
言うまでもなく、死票とは、その票によって表明された選挙人の意思が、議会、従って実際政治の上に反映しないことを意味するものであって、民主主義の精神に反するものであります。この死票の多いことから、
イギリスの実例について述べたように、ある政党が、総得票において他の党よりも多数であっても、議席の数においてはより少いということが起るのであります。かかる場合には、議会の多数党といっても、それは
有権者から見れば
少数意見を代表するものなのであります。大正十四年普通選挙が実施されて以来三十余年実施されてきた現在の制度を一気にぶちこわしてかくも重大な点において改めることのできない欠陥を持つ小選挙区制にしなければならないという強引な政府の態度は全く民意を無視したものなりといわなければなりません。(拍手)
次に、小選挙区制の致命的な欠陥の第二は、
有権者にとって
候補者選択の自由が不当に制限されることであります。これはあらためて言うまでもないことでありますが、
国会議員の仕事は国の全域を包含しておるのであるから、
有権者が自分の住んでいるところを中心とした狭い範囲の地方から立候補している者に対してのみ投票を制限されるという理由は出てこないのであります。ほんとうは、どの地域から立候補しておる者に対しても投票することができていいはずであります。しかし、それではあまりにも技術的に不便であるので、もつぱら便宜上、全国を幾つかの選挙区に分けて選挙しておるのであります。それゆえに、技術的、政治的に不便のない限り、選挙区はできるだけ大きくして、
有権者をして
候補者選択の余地をできるだけ大ならしめることが望ましいことなのであります。今日の政治は複雑多岐で、りっぱな議員たるには、高い識見、深い、しかも広い知識、正しい人格を備えた人物でなければなりませんが、そうした人物が、ちょうど都合よく、五百近くの選挙区に一人ずつおるわけのものではありません。議員の品位と識見については、現在ですら、とやかく言われておる状態であります。全国を五百にも区分すれば、ある区には比較的りっぱな人物が二人も三人もおるが、他の区には
国会議員にしたいような人物は一人もいないということが必ず起るのであります。(拍手)こうしたとき、一区定員一名では、りっぱな人物を落して、つまらぬ者をみすみす議会に送ることになります。
有権者の方からいうと、りっぱな人物に投票したいが、それができなくて、心ならずも、くだらぬ人物に投票するか、棄権するほかに方法がないのであります。民主主義の最も大切なことは民意の暢達ということでありますが、小選挙区制はこの点で、まさに民主主義の原理を破壊するものといわなければならないのであります。(拍手)
さらに、小選挙区制の
致命的欠陥の三つは、地方的利害の代弁者たる地方的人物が国会に送られるということであります。小選挙区では常に地盤の培養が行われ、その結果として、地方的因縁や情実が大きく働いて、地方的利害の代弁者が議員となる可能性が多いのであります。ところが、周知のごとく、これからの政治は外交においてはもちろんのこと、国内政治においても、広く国際的視野に立って国全体の観点から論議しなければならないことが非常に多いのであります。(拍手)よし、それが一見地方的問題であっても、国全体の立場から考えなければならぬことがはなはだ多いのであります。そのときに、単に一地方の利益のみを考える地方的人物を国会に送ったならば、どうなるでありましょう。国会の討議は、その水準が著しく低下し、見聞するにたえないものとなり、内外からの信を失うことは必然であります。現行制度ですら、追加予算をおいか予算と読み、元内閣総理大臣たるわが党の片山哲君を片山おりぐちと読み、笑い話の種を提供した人物が現におったのであります。(拍手)かくて、その次に来るものが何であるかは、説かずして明らかでありましょう。
さらに、小選挙区制に伴いやすき
致命的欠陥の一つはゲリマンダリングであります。すなわち、党利党略のために選挙区を割り、飛び地、回廊等、自己に有利な
区割りを強行することであります。死票の多い小選挙区制では総投票数において少い党が議席の数では多数を占めるということの起る理屈を応用して、不当に選挙区を
区割りしたひどい例がゲリマンダリングと呼ばれる歴史的先例でありますが、今回の政府提案は、その典型的なものと言えるでありましょう。(拍手)
社会党の票の集まっているところを、縦に割ったり、横に割ったり、飛び地を作ったりして、そのため、円形なり長方形になるべき選挙区が正円形になったり、星形になったり、ひょうたん型になるというようになって、地形も経済的、行政的あるいは民情的条件を全く無視した選挙区を作ってしまったのであります。ゲリマンダリングなる言葉は、米国マサチューセッツ州で、知事デリーが、サラマンダー、すなわちトカゲの形に似たマサチューセッツ州を勝手な選挙区に区分したことから出たのでありますが、今、日本では、
保守党により、タヌキ型、キツネ型、ハト型、ネズミ型に分断され、(拍手)ハトマンダリングが白昼行われんとしておるのであります。
私は、この際、先般物故せられました緒方竹虎氏が、今から二十数年前、すなわち昭和四年、朝日常識講座の「議会の話」という叢書において、比例代表制と小選挙区制の長短を比較して小選挙区制が死票の多いことと、時の多数党により勝手に選挙区がいじくられる不合理を指摘せられておる一節を御紹介して、諸君の猛省を促したいのであります。(拍手)
緒方氏は、ジョン・スチュアート・ミルの、有名な、真の平等の
議会政治デモクラシーでは、すべての階級の人々は比例的に代表せられねばならぬという言葉を引用し、比例代表制と一口にいえば、ミルの言葉のごとく、国民の意思をその相異なるに応じて比例的に議会に反映せしむると同時に、投票をしてなるべくむだなからしめんための制度である、小選挙区制はこの反対の制度であるが、その第一の弊害が死票の多いことであると、
イギリスにおける一九二四年の総選挙において政府党たる
保守党が七百六十万票で四百十三人の議席を得、野党たる労働、自由両党が、八百六十万票と、
保守党より百万票の多数をとって、議員は百九十二人の、半数もとれなかった不合理を指摘されまして、多数国民の同意の上に政治を行うという
議会政治の原則は、実際の数字上において破られているのであると、小選挙区制の不合理を説いているのであります。(拍手)
さらに、小選挙区制の最も大なる欠点ともいうべきは、そのときの多数党の便宜に従って選挙区が区画され、将来長く自然に変遷すべき政党勢力が、これによって故意の支配を受けることである、この故意の区画をゲリマンダリングと言うが、その実例は、市会の場合ではあるが、近く福岡県八幡市で行われたと実例を示し、区画をいじくることにより、五人の定員のうち四人を多数党が占め得ることを示し、しかも、かくのごとき一党または一階級勢力の得手勝手が
議会政治の信用の上にいかなる影響をもたらすかは、あらためて述べるまでもありますまい、と結んでおるのであります。(拍手)
死せる緒方氏の二十数年前の警告に対し、諸君粛然としてえりを正して反省されんことを望むものであります。(拍手)
昨年二月の総選挙において、保守両派が二千三百万票を得て三百の議席を獲得し、
社会党両派を中心とする革新派が千二百万票を得て百六十余の議席を占め、得票と議席がほぼ均衡して死票のない事実を見るとき、現行の
選挙法を変革すべき理由は何もないといわなければならないのであります。もしこれを強行せんとするならば、事前に解散すべきことは当然の話であると考えます。(拍手)
次に、一言触れておかなければならない重大な問題は、小選挙区制においては、
選挙費用が逆に多額に上り、悪質なる選挙違反が増加し、警察の選挙干渉が不当に行われ、婦人や青年の政治的進出が極端に妨げられるという事実であります。小選挙区論者は区域が狭くなるから費用は少くて済むと言います。しかし、これほど現実を無視した詭弁はないのでありまして、それは諸君みずからがようく御承知のところであろうと存ずるのであります。(拍手)
一体、
保守党の諸君法定費用で選挙をやっておる者が何人おるといわれるのでありましょう。はなはだしい者になると、法定費用の十倍も二十倍も金を使っておる者があると伝えられておるのであります。これは、饗応、買収その他あらゆる不正なことに金がばらまかれているからであります。しこうして、これが、大部分は、現在でも選挙区の全体にわたって行われておるのではなくて、
候補者と特に親しいつながりのある一定地域において行われておるのであります。従って、小選挙区になったからといって、こうした不正の金の使われることが決して少くなるものではなく、いな、むしろ、ふえるものと予想されるのであります。(拍手)町村においては、小選挙区になったら、必ず買収、饗応の悪質な違反が非常に多くなるだろうといわれております。すなわち、
候補者と
有権者とが親しい間柄では、監視が行き届くどころか、反対に、ごく隠密裏に買収、饗応が行われるからであります。しかも、狭い地域でこれが行われるので、必然的にそれは激烈となり、かくて、小選挙区においては、むしろ、金がよけいかかるということになるのであります。(拍手)
その上、小選挙区になると、そこから出ている議員や、議員に出ようとする者は、常に平素から選挙地盤を培養していなければならないことになります。学校を建てるとか、橋をかけるとか、道路を普請するとか、公民館を建てるとか、補助金を取ってくるとか、火事だ、葬式だ、子供が生まれた、レクリエーションだと、寄付はおそらく莫大なものとなり、しかも、これが競争で行われ、(拍手)他の区と比較されたら、さらに輪をかけて激烈となり、どんなりっぱな人物でも、このようなことをやらなければ当選はおぼつかないということになるでありましょう。ここから、果して政策と政策の争いの
選挙戦が生まれるでありましょうか。結局は、汚職や不正が再び行われて、政界腐敗の救いがたい泥沼を現出せしめないと、何人が保証することができるでありましょうか。(拍手)
大正十四年に小選挙区制から現行の中選挙区制に改正する際の政府提案の理由は、国務大臣の答弁として、若槻礼次郎氏が、小選挙区になると、どうしても競争が激烈になり、ときによると力によって選挙の上に影響を及ぼさんとするものが出たことは、御承知の通りであります、同時に、なかなか費用も多くかかる、小選挙区制は決して大選挙区の害を除いておらないのである、と言っておるのであります。(拍手)まさにこれは日本でも実験済みなのであります。
現に、この議席にもおられると存じますが、現在の文部大臣清瀬一郎君は、昭和二十九年の六月、都道府県選挙管理委員会連合会が発行した「選挙」という雑誌に、中選挙区制を捨てて小選挙区制の昔に返すべきやという論文を掲げられ、その中で、冠婚葬祭は言うに及ばず、入学、就職、借金の保証、建築、納税軽減、神社の玉垣、お寺の屋根がえ、警察のもらい下げ、あるいは夫婦げんかの仲裁、何でもかでも持ち込まれると、事こまかに例証され、(拍手)さらに、血みどろの戦いとなり、政治家は至高国家政策を研究考察するいとまなく、終始選挙区の世話に忙殺されることとなる、忙殺はいまだ忍ぶべし、そのための経費は莫大なものとなる、と言うておられるのであります。(拍手)清瀬君は文部大臣の重責におられますが、この間こういうことを書いておいて、今、平気で、また小選挙区法に賛成されるところに、私は、清瀬君の人格自体についても、大きなる疑念を抱かざるを得ないのであります。(拍手)
さらに、小選挙区は日本の現状においては、婦人の政治的進出と新人の輩出を全くはばんでしまうのであります。全国民の半数以上の
有権者を持つ婦人の進出を事実上ふさいでしまうことも、これまた、民主主義の原則の上から、ゆゆしき事柄であるといわなければならないのであります。過般開かれました、各党を網羅した婦人議員団全国会議の席上で、満場一致この小選挙区制反対の決議がなされ、
保守党の婦人議員も、ともに、これを強力に推進することを約されたのであります。しかも、この決議が、内閣に、代表から手交されているはずであります。すなわち、言いかえるならば、全国の
過半数の
有権者の代表が、小選挙区制に正式に反対の意思表示をしておるということであります。(拍手)にもかかわらず、政府は全くこれを無視しておるのであります。全
有権者の半数を占める婦人の反対を無視しておるという一点においても、国会を解散して、まず世論に問わなければならぬことは、当然といわなければならないのであります。(拍手)
鳩山首相は、去る二月神田の共立講堂において開かれた自主憲法期成同盟の演説会に臨んで、珍しく興奮して壇上をたたきながら、
憲法改正はどうしてもやらなければなりません、そのためには
社会党の勢力を減殺するように皆さんの御協力をお願いいたします、と結んでおるのであります。いかに強弁しようとも、小選挙区制は
憲法改悪の陰謀であることは、まぎれもなき事実なのであります。(拍手)すでに
憲法改悪の準備法ともいうべき憲法
調査会法案を提出しておるのであり、かつ、しばしばの失言からも、これが証明されているのであります。われわれは、今日、この際、小選挙区制が制度としていいか悪いかということを別にいたしまして、憲法を改悪し、そうして再軍備を強行し、民主主義の基本的権利を、教育からも、労働者からも、農民からも、国民からも奪おうとする、婦人の権利もこれを略奪しようとするこの大きな陰謀に対しては、自由と民主主義を守るために、死をもって戦わなければならないと信ずるのであります。(拍手)
諸君、私は最後に、先輩の言葉を引いて皆様に申し上げたい。選挙の神様と言われました安達謙蔵氏が、小選挙区制の弊害を嘆かれまして、小選挙区制は干渉、買収がふえるほかに、選挙区が狭く、対立するから、親威も、友人も、同窓、親子等すべてが敵味方となり、深刻なる対立感情は地方の一体性を分裂せしめるものであると言われた故事を引いて、私は、天下のごうごうたる非難の中に、かくのごとき不合理なる案を強行されんとする諸君の良心に訴えて、これを撤回されんことをさらに要望しなければならないと存ずるのであります。(拍手)
諸君、三木武吉君はその不公正なる選挙
区割りによって五分の四の議席を取ると、岐阜において豪語されておるのであります。万一そんな結果となりましたならば、二大政党の対立は一党の独裁となり、不自然な多数党は横暴と腐敗と汚職を招くことは、政治史の昭々として証明しておるところと私は思うのであります。(拍手)
諸君、自由をほんとうに愛しておるフランスが、ナポレオンの故事にこり、ドゴールの台頭にこりて、政治の能率は多少おくれておっても、その一党の不自然なる膨大さを来たすことによって人民の自由と基本的権利が押えられることをおそれて、比例代表制による多数党政治をやっておりますことは、われわれ日本において、東條その他のファシズムの大きなる犠牲の上にひどい目にあったわれわれが、ここに大きく関心を払わなければならない点であると考えるのでありまして、不自然な多数党が横暴を働き、腐敗と汚職を起し、議会主義を壊滅せしめるがごとき危険のあるこのハトマンダリングをこの際撤回するか、しからざれば、まず
主権者たる国民に問うて後、総選挙の後これをやるべきことを主張して
国会解散要求の
趣旨弁明といたす次第であります。(拍手)