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佐竹晴記君
日本社会党を代表し、総理大臣に対し、自衛隊と
憲法違反の問題に関しお尋ねいたしたい。
第一、首相は今月八日、参議院予算
委員会において、亀田
議員の
質問に対し、「私は
憲法の成文には、自衛隊を持つということは、
憲法の成文には合致しないと思います。この疑いがある。」と答え、他面、
日本が独立
国家となった以上、正当防衛権を持っている、その防衛のための自衛隊は合法的である、自衛隊法が成立した後は
憲法違反にはならないと解釈を変えた、と述べております。一体、首相の真意はどこにあるか。自衛隊を持つことは
憲法の成文に合致しないというのは、明らかに自衛隊は
憲法違反であることを答えたものと言わざるを得ません。(
拍手)しかるに、他面、自衛隊は合法的であり、
憲法違反でないと解するというのは、あまりにもはなはだしい矛盾撞着であります。(
拍手)
憲法の成文に合致しないで、しかも合憲的なものがあるというのは、いかなる
趣旨であるか、
国民の納得のいくまで説明されたい。(
拍手)
第二、首相は、参議院において、秋山
議員の問いに対し、「国が基本の権利として自衛力を持つと思います。そういう解釈によって、
憲法九条が、そういう解釈が優先するというように解釈をするようになったのです。」と述べております。この、自衛力は
憲法九条に優先するとは、いかなる意味でありますか。参議院においては、総理大臣は「優先するというのは、つまり
憲法九条は禁止をしていないという意味だと申すのであります。」と述べております。さらに、「私は
憲法九条を、自衛隊を持てないように思っていたんです。ところが、一国が独立をすれば自分の国を守るという、その自衛権というものは、
憲法に書いてあっても書いてなくても、どんな国でも持っておるものと思います。」云々、「
憲法が否定をしていないという解釈の方が一般に認められたと私は思う。で、自分の解釈を変えたのであります。」と述べております。この
答弁で明確な
通り、首相は、当初、
憲法九条は戦力たる自衛隊を禁止した規定であると解しておった。
日本は自衛隊は持ってはならないと思っておった。ところが、よく考えると、自衛権は
国家固有の権利で、
憲法第九条はこの自衛権を禁止した規定ではない、だから、
憲法第九条にかかわらず、これに優先し、戦力たる自衛隊もこれを持つことができると解するように解釈を変えたのであるというのであります。これは実におそるべき解釈でありす。(
拍手)首相のこの考え方は、自衛力そのものと自衛権行使の方法を混同いたしました謬論であります。
総理大臣は、参議院において、かように述べておる。個人に正当防衛権があると同様、
国家にもまた正当防衛の権利があると説明されております。まことにその
通りであります。それで、
諸君によく聞いてもらいたい。個人についてこれを見るに、お互いは刑法三十六条によって正当防衛権を持っておるが、しからば、正当防衛のためならば、常日ごろからピストルと銃剣を用意いたしていいかといえば、これは許されません。(
拍手)銃砲火薬類取締規則に従って許可を受けなければ所持することができない。これに違反すれば罰せられます。一般通常の場合には禁ぜられるというのであります。すなわち、正当防衛権があるからといってその防衛のための手段方法が無制限に許されるものではありません。しかし、その防衛の手段方法に制限を加えられたからといって、正当防衛権そのものが否定されたものではありません。また、その制限は正当防衛権の存在と抵触するものではありません。そこで、
国家の場合もまた同様であります。
憲法第九条に「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権はこれを認めない。」と規定いたしましたのは、まさにその手段方法に関するものであります。すなわち、自衛権は
国家固有の権利であり、これを禁止することのできないことが当然であって、
憲法第九条がその自衛権そのものを禁じた規定でないことは、これまた一見明瞭であります。しかして、
憲法は国権発動に関する基本法でありますから、自衛権発動の場合といえ
ども、国権行使に関する基準を定め得ることは理の当然でありますから、
憲法第九条のごとき制約をいたしましても、何の不都合もございません。(
拍手)しかして、
憲法第九条には、自衛権行使の場合には適用しないとの除外例はどこにも設けておりません。(
拍手)この条章がすべての場合に働くことは多言を待つまでもございません。結局、たとい自衛権行使の場合といえ
ども、軍隊や兵力を保持しない、交戦権は認めないというのであります。軍隊や戦力にならない範囲で防衛せよ、戦争は許さないというのであります。この規定のために自衛権が否定されるわけでもなく、また、この制約があるために自衛権の存在と相いれないものでもありません。断じて抵触するものでもない。総理の自衛権優先論は、この根底において誤まっておるものと思うが、いかがでありましょうか。(
拍手)第三に、いわゆる自衛力優先論が、自衛権の存在そのものに限らず、その手段方法にまで及び、自衛権行使の場合は
憲法第九条の制約に従うの要はないというのであったら、それは実にゆゆしき重大なる問題であります。まず、そうなると、
憲法第九条は全く無用の空文となります。(
拍手)総理自身口をすっぱくしておっしゃっておる
通り、
わが国の自衛隊は防衛のための自衛隊だというのでありますから、その自衛隊以外に別の兵力や戦力のあるはずはございません。そこで、その自衛隊に
憲法第九条の適用がないといたしましたならば、
憲法第九条は一体何に適用なさるのでございましょう。(
拍手)何のなめに
憲法九条は存在しておるものであるか。(
拍手)全く無用の空文となるでありましょう。これ明らかに
憲法第九条抹殺論であります。(
拍手)
憲法否認論であります。
次いで、自衛隊に
憲法第九条の制約を加えないというのは、ひっきょう、
国家固有の自衛権に抵触するから
国家存立上許されないというのでございましょう。これ明らかに自衛権の前には
憲法第九条はその効力を持たないということになります。これはまさに
憲法の条章無効論であります。(
拍手)
法律が
憲法に違反するという議論はしばしば聞きますが、
憲法抹殺論や
憲法無効論は、いまだかつてこれを聞いたことはない。(
拍手)
憲法順守の義務を負う一国の宰相が堂々と
国会においてかようなことを論ずるということ、実に意外千万であります。(
拍手)首相は果してこのような言説をなおも維持なさるのであるかどうか、もしも、首相が依然としてこのような説を維持し、自衛隊には
憲法第九条の制約を加えることはできないということになりまするならば、自衛隊の行動は一切自由となり、自衛のためならば何をやってもかまわないということになるのでありましょう。そうだといたしまするならば、現
憲法のもとにおいても、宣戦布告も、徴兵令施行も、海外派兵も、気のままに、あなたの手一つでできるということになりますが、総理大臣、本気でこれをお認めになるのかどうか。(
拍手)
第四に、自衛隊法が成立したので
憲法に違反しないと解釈を変えたというが、今日もなおこれを維持されるのか。前段にるる述べたように、総理大臣は、独立
国家である以上、自衛力を持つことは、
憲法に規定があってもなくても、当然のことである、従って、そのために、自衛隊はこれまた当然持ち得る、
憲法違反でないというのでありますから、そうだとしたならば、自衛隊法の成否を合憲、非合憲の引き合いに出す必要がいずこにありますか。自衛隊法の成立によって合憲的になったと解釈を変えなければならないということは、自衛隊法の成否いかんが合憲、非合憲の分れ道であることを明白に自認したものといわなければなりません。(
拍手)そうだといたしましたならば、自衛隊を持つのは
国家固有の権利で、当初から合憲的であるとの
見解と正面衝突をいたします。一体、どちらが正しいのか、その矛盾をいかに解するか。
さらに、自衛隊法が成立したならば、その後の自衛隊は合憲的であると解釈を変えても不都合ではないというのは、それ以前は
憲法違反であったことを自白するものであります。(
拍手)自衛隊法成立で合憲的になったと解するのは、
法律が
憲法に優先し、
法律で
憲法を変更することができることを認めるものであります。(
拍手)このようなことは断じてあり得ません。もしこれを許せば、
憲法違反の事実があるときは、これを
法律化することによって容易に合憲的なものにすることができるでありましょう。そうだとしたら、何を苦しんで
憲法改正の困難な手続を踏む要がありましょうか。このような不合理なことが許されよう道理はございません。総理は一体何とお考えでありますか。
第五に、オネスト・ジョン、B57など原爆機を持ち込み、三十万に近くなる陸上部隊の増強をなさるのは、一体何のためであるか。総理は、おそらく、防衛のためだと簡単に片づけようとなさるでありましょう。しかし、オネスト・ジョンやB57などより受ける
国民の印象は、侵略の恐怖であります。首相は、二月二十九日の参議院の予算
委員会において、
戸叶武君の問いに対して、
日本を侵略してくる飛行機の基地を粉砕しなければ
日本の防衛ができないというような場合に、その基地を侵略してもよいとおっしゃいました。これは単なる失言ではない。総理の心底に存する
信念のひらめきといわなければなりません。(
拍手)このことが、さらに、自衛権優先論となって現われ、自衛のためならば何をやってもかまわないという考えに発展いたして参っております。これは実におそるべき考え方であります。この考え方のもとに、オネスト・ジョンやB57など持ち込んでおるといたしましたならば、
日本の将来は一体どうなるでありましょう。防衛に名をかりる侵略戦争へりの進展とならないと、だれが保障いたしましょう。(
拍手)
次いで、二十万に近い陸上部隊を持つことは、防衛のためいかなる役割を果すのであるか。国内暴動に備えるためにはあまりにも多過ぎる。不必要である。しからば、
日本を侵略せんとする敵の部隊が
日本本土への上陸作戦をする場合に、これを防止するためでありますか。もしそうだとしたらば、今日、原水爆の時代に、そのようなことが一体考えられるでありましょうか。言うまでもなく、
日本をやっつけようとするならば、原水爆の三発か四発で、ぴかりどしんとやれば、一切事済みであります。何を好んで、多くの人命と多大の兵器、弾薬、多額の費用を犠牲にいたしまして、上陸作戦に出てくる必要がありましょうか。こう考えると、上陸作戦に備えるための二十万ではなくして、それはおそらく外地派兵のために用いられ、傭兵的役割を果すような結果になりはしないかと思うのであります。(
拍手)そうなると、前述の首相の侵略論や自衛力優先論と相待って、海外派兵、侵略戦争参加の構想がその片りんを現わしたものと見ざるを得ないのであります。そのような大それたことが、
憲法改正もしないで、自衛権優先という首相独自の解釈で勝手にやられた日には、
憲法も
国会も民主主義も吹っ飛んでしまいます。首相は一体何とお考えになりますか。(
拍手)
〔
国務大臣鳩山一郎君
登壇〕