○
我妻参考人 この
法案を拝見いたしますと、
二つの
要点を含んでおるように思われます。
第一は、
借地権者が
土地の
接収中に
期間が
満了いたしまして
更新することができなかった場合または
建物が滅失して
対抗力を欠く場合、かような場合に
借地権者を
保護しようとするのが
三条ないし十一条、それから、
借家人が
接収中占有を失って
対抗要件を欠いた場合の
保護が十
三条ないし十五条でありまして、
接収中の
借地人と
借家人を
保護しようとするのがこの
法案の第一点のように拝見いたします。
第二点は、これとは全然
関係のない、違った問題でありまして、これは
疎開建物の敷地の
借地権者を
保護しようというのでありまして、十二条において
三条、
四条を準用する、これが第二点でございます。
そこで、この
二つの点について私の
結論を
最初に申し上げますと、第一点については大体賛成いたします。それに反し、第二点には遺憾ながら賛成いたしかねるのであります。
まず第一点から申し上げます。大体賛成すると申しますのは、
借地期間が経過いたしましても、
建物が存在する限りは
借地権の
更新ができるということは、
借地法四条その他で
規定しております。また、登記のある
建物がなくなっても
対抗力を失わないということは
臨時処理法で
規定している
通りであります。この
二つの点、
接収されていたものだから
更新をするチャンスを失ったとか、あるいは
建物がなくなったものだから
対抗力を失ったというのは、いわば
不可抗力で
権利の保全ができなかったことになるわけでありますから、それについて何らかの措置を講じて
保護しようとすることはもっともなことだと考えられます。それが賛成すると申し上げる
理由であります。しかし、大体と
制限をつけましたのはまた
理由があります。それは、ただいま申しましたように、いわば
不可抗力で押えられていたのでありますから、その
接収中は
借地権の
期間の
進行を停止する、あるいは
接収解除になったら一定の
期間だけ猶予して
建物保護法の
適用をしてやるというような
立法をする方が一そう適切ではないだろうか。いわば時効の停止の形式というような考え方でいく方がより適当なのではなかろうか。言いかえますと、今日ではすでに
立法はおそきに失するのではなかろうか。もう
接収解除が徐々に行われておりまして、
最初に
解除されたときからは相当時期が経過しておるように存じますので、ここで
規定するということはいささかおそいのではないかという感じがいたします。それから、おそくなったということは、つまり
第三者が
利害関係をその上に築き上げている
可能性が多いだろう。それを一挙にくつがえすといなことが、つまりおそきに失するというように考えられます。それから、この
法律はなかなか読みにくい
法律でありまして、私どものように
法律をしょっちゅう
専門にしておる者でもなかなかわかりにくい。これは
臨時処理法を踏襲しておられるのですからね
臨時処理法がわかればこっちもわかるはずだということになるかもしれませんが、
臨時処理法は戦後の
混乱時代の
立法でありまして、相当不明瞭にできておるようであります。それをそのまま踏襲しておりますので、なかなかわかりにくいのです。たとえば、優先して賃借し得るという
文字は、一体その前の
抵当権に優先するのかどうかというような点で相当疑問だと考えられます。それから、
建物保護法の第一条二項との
関係も相当問題になりますが、しかし、あまりこまかな点に入るとかえってわからなくなると思いますから略しますが、要するに、
規定がはなはだわかりにくくて、また疑問の
余地が非常に多い。もし
法律にするなら、もう少し
文字を練って
規定すべきではないか。
臨時処理法は、ただいま申しましたように、戦後の
混乱時に作られたのでありますから、それに反して今日は相当
関係がはっきりしておると思われますので、いろいろな場合を研究した結果、もう少しはっきりした、疑問のない
条文を作ることが適当ではないか。もっとも、私が一方ではおそきに失すると言いながら他方ではもっと練ったものを作れと申しますことは、
一見矛盾であります。確かに
矛盾であります。
矛盾でありますが、それならどうしたらいいかといえば、現在どれだけ
必要性があるのかという問題だと思います。この第一点についてどうしても
争いが多くて
法律を作らなくちやならぬというのなら、多少不備でも早く作らなくちやならぬということになるかもしれません。しかし、そうした事例がそれほど多くないというのなら、もっとゆっくり
法律を作ったらいいじゃないか。とにかく、この
法律は、一応
合理性を備えているけれども、
条文としてはなはだ不備な点が多いということは事実でありますから、もっと練り直すか、それとも、あえてそれをやるかということは、今日の
必要性によりて決定することだと考えられますので、その今日の
事情をあまりよく存じておりません私には、最後の
結論は出ないのであります。それで大体において賛成申し上げる、こう言ったわけであります。
次に、第二点でありますが、第二点、すなわち本
法案の十二条に
規定しておるところには賛成いたしかねる、こう申したのでありますが、これはなぜかと申しますと、この
法案の十二条は、
臨時処理法第九条を受けておるのでありますが、この
臨時処理法第九条というものがすでにはなはだしき
特例だと私は考えておるのであります。この第九条は、御存じだと思いますが、前の
大正十二年の
大震火災のときの
借地借家臨時処理法をさらに踏襲しておるようであります。ところが、
大正十二年の
震災のときに
一つ非常に大きな問題が起きた。それは、あの当時
東京都内、ことに
繁華街では、
土地所有者と、それからその
土地を借りて家を建てている
借地人と、それからその
家屋を借りている
借家人と、
一つの場所に
地主と
借地人と
借家人と三当事者が
関係していたわけであります。ところが、
大震火災で壊滅に帰しましたので、
地主は
もとより
借地人もぼう然としてなすところを知らなかった。ところが、
借家人だけは、やはり
自分の生活に
関係するものであるからすぐ焼け跡に帰っていって
バラックを作った。ところが、
借家人は
家屋に対する
権利は持っておりますけれども
土地に対する
権利は何も持たないわけでありますから、そこに
バラックを作るということは
法律では許されないはずであります。そこで、しばらくしてから
借地人が出て参りまして、ここはおれの
借地だから、お前の
バラックを取り除けということを申しまして、
借地人と
借家人との間に深刻な
争いが起きまして、その当時学者の間に盛んに論争された焼け跡
バラック問題といういうのがあるのであります。そこで、ちょうど
借地借家調停法などがありましたので、いろいろ調停いたしまして、その
解決策はおよそ
二つあったようであります。
一つは、
借地人の方で、
事情を察して、
借地権を
バラックを作った
借家人に譲ろう、そうして
バラックを認めていこう。それから、もう
一つは、
借家人の方で作った
バラックを
借地人に移転しまして、そしてそれを借りる、
自分の作ったものだけれどもそれを借りるという格好で
解決したところもあります。しかし、どちらの
解決をいたすにしましても、いろいろ
法律問題を生じました。そこで、
臨時処理法の最も大きなねらいの
一つは、そういう場合に、
バラックを作った
借家人の
権利を認めていこう、あるいはそれによって
復興を急いでいこうというのであったと思います。要するに、
大正十二年の
臨時処理法でかような
特例を設けましたのは、
復興を急ぐ、
大震火災の跡を、
復興意欲のある
借家人あるいは
借地人によって
日本を
復興していかなくちやならぬ、そうした緊急の
目的のために、
法律の原則に多くの例外を認めた
特例ができたのだと言わねばならぬと思います。そこで、
戦争のあとで
罹災都市の
臨時処理法ができまして、
大正十二年の
震災後の
臨時処理法を踏襲いたしましたのも、おそらく同じような
事情があると言えるだろう。
戦争で焼けた焼け野原の地所に
建物を建てて
復興しようとする者は、やはり
借家人が一番強い
意欲を持つだろう。そこで、その
借家人の
権利を
保護することによって
復興をさせよう。もっとも、
借地人が
自分で
復興するというのなら、その方を優先しよう。とにかく、
借家人なり
借地人なりの
復興意欲に拍車をかけて、戦後の
復興をしようというのが
臨時処理法の大きなねらいであったと考えております。言いかえますと、必ずしも
借家人あるいは
借地人自身を
保護しようというのではない。
地主は高い地代を取っているからけしからぬとか、あるいは家主は高い家賃を取っているからけしからぬ、
借家人、
借地人を
保護しようということだけが当面の
目的ではない。結局においては
借家人、
借地人を
保護されることになりましょうけれども、しかし、もっと大きな
理想は、
日本の
戦災跡の
復興というところにあった。そういうところにあったればこそ、あの
特例が是認されるのだと私は考えているのであります。従って、今日この
法案の第二点を見ますと、事後は全く違うのではないだろうか。もう戦後十年、わが国の経済も相当安定しております。このとき、特に
借地人を
保護して、そうして
復興させねばならぬという
日本の必要はないのではないかと私は考えます。そうして、その大きな
理想がない限りは、この
特例をここに承継してくるべきではない、承継してくることは不穏当だと言わざるを得ないと思うのであります。ことに、この第二点のねらっておりますのは、
疎開のときに相当の
補償を得て譲ったのでありますし、
借地権がそのときになくなった、
借家権もそのときになくなったということが明瞭なのでありますから、それを復活させるということは、ますます不穏当になると考えるのであります。もっとも、御
承知の
通り、この
臨時処理法は、二十五条の二で、今日ときどき起る大きな
火災とかあるいは暴風の
災害に見舞われたところにも
適用するようになっております。しかし、私は、あの二十五条の二でこの
法律の大
部分をそうした
災害地に
適用していくということ自体、はなはだしく疑問を抱いております。もう少し何とかやりようがあるのじゃないかと思いますので、二十五条の二があるからこの
法案の第二点が是認されるというわけにも参らないと思っております。
要するに、第二点は賛成いたしかねる。と申しますのは、繰り返して申しましたように、この非常な
特例を承継するだけの根拠がない。この
特例をあえてしてまで
日本の
復興をはからねばならないという
事情はない。従って、その半面において
第三者を害するというおそれが非常に多い。この場合はむしろ常道を進めるべきではないか。なるほど、
権利金を払うとか、あるいは
補償を与えるということでいろいろ
第三者をある程度まで
保護してあるようでありますけれども、そうまでして復活させなければならないという
理由は発見し得ないというふうに考えるわけであります。