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1956-05-10 第24回国会 衆議院 法務委員会 第32号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十一年五月十日(木曜日)     午前十時五十二分開議  出席委員    委員長 高橋 禎一君    理事 池田 清志君 理事 椎名  隆君    理事 福井 盛太君 理事 猪俣 浩三君    理事 菊地養之輔君       犬養  健君    小島 徹三君       小林かなえ君    世耕 弘一君       林   博君    花村 四郎君       古島 義英君    松永  東君       眞鍋 儀十君    三木 武夫君       横井 太郎君    横川 重次君       神近 市子君    戸叶 里子君       細田 綱吉君    山口シヅエ君       吉田 賢一君  出席政府委員         警  視  長         (警察庁刑事部         長)      中川 董治君         法務政務次官  松原 一彦君         検     事         (刑事局長事務         代理)     長戸 寛美君         厚生事務官         (社会局長)  安田  巖君         労働事務官         (婦人少年局         長)      谷野 せつ君  委員外出席者         労働事務官         (婦人少年局婦         人課長)    高橋 展子君         参  考  人         (警視庁防犯部         長)      養老 絢雄君         専  門  員 小木 貞一君     ————————————— 五月九日 委員横井太郎君、戸叶里子君及び福田昌子辞任  につき、その補欠として松田竹千代君、古屋貞  雄君及び風見章君が議長指名委員に選任さ  れた。 同日  委員松田竹千代辞任につき、その補欠として  横井太郎君が議長指名委員に選任された。 同月十日  委員風見章君及び古屋貞雄辞任につき、その  補欠として細田綱吉君及び福田昌子君が議長の  指名委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  売春防止法案内閣提出第一七一号)     —————————————
  2. 高橋禎一

    高橋委員長 これより法務委員会を開会いたします。  本日は売春防止法案を議題とし議事を進めます。  質疑の通告がありますので、順次これを許します。池田溝志君
  3. 池田清志

    池田(清)委員 私はこの際売春防止法案関係をいたしまして総論的な数項についてお尋ねをいたしたいと思います。  その第一点、世の中の風俗壊乱実情についてであります。宮城二重橋前のあの外苑は、昼間は丸の内に勤めておられる方々が、少しばかりの時間を割愛せられまして、軽い散策をとられ、いこいを楽んでおられる場所であります。また、全国から集まりまする観光団が、必ずここをたずねまするところの聖地でもあります。しかしながら、夜ともなりますと様相が一変をいたしますることは御承知通りであります。すなわち、宮城外苑のあちこちの樹下石上に、男女が、あるいは座し、あるいは伏し、何事か語らい、何事か楽んでおる夜の花咲く魔境と化する次第であります。さらにまた、銀座のまん中にいたしましても、昼間内外の男女が腕を組みまして闊歩いたし、一目見て春をひさぐ婦女であるということがわかる実情にあります。さらにまた、赤線区域青線区域ともなりますと、夕方から脂粉あでやかに美装しておりまする婦女方々が街頭に並ばれまして、道行く方々の腕を引き、言葉をかけ、帽子をとり、あるいはまたカバンをとり、さらにはまたからだもろとも屋内に拉入するという魔窟さえも実現しておる次第であります。さらに、新聞紙上等にも散見いたしますることは、中学生高等学校生徒の間におきまする桃色遊戯でありまするとか、さらにまた、乱発をされまする出版物等におきましても、これら風俗壊乱に資するようなものが非常に多いということを私は憂えておる一人であります。  二、三申し上げましたこれらの実情は、その程度の差こそありまするけれどもわが国の都会といわず、いなかといわず、至るところに現われておる風俗壊乱実情であると思います。こういうような状態は、申すまでもなく人としての尊厳を害し、健全なる性道徳を破壊し、ひいては善良な風俗を乱しておるわけであります。しこうして、こういうような風俗壊滅実情は、終戦後とみにその度合いを増してきたと思う次第であります。このことにつきまして、政府におかれましてもこれらの認識を深くしていただいておると思いますが、戦後における風俗壊滅壊乱の実態、及び、ことに先ほど申し上げましたところの魔窟に身を投じておるあわれむべき婦女方々についての数字的動態等がありますれば、この際お尋ねいたしておきます。
  4. 長戸寛美

    長戸政府委員 ただいまお尋ねになりました戦後における風俗壊乱実情の問題でございますが、これは仰せのようにはなはだ遺憾な実情にあるわけでございます。これに関しましては、私どもといたしまして、この売春あるいは性犯罪に関する取締りを行なって参っておりまして、ただいまお手元に御配付申し上げました婦女に淫行をさせる行為関係ある犯罪人員調をごらんになりますと、大体におきまして年間二万六、七千の人たちを検挙しており、また、一般の学生間の桃色遊戯、さらにそれが進んでいわゆる輪姦というような事態になりましたものに対しましては、厳重にこれを取り締っておるわけでございます。しかしながら、これは取締りのみをもっては解決のできない問題でございまして、性道徳の高揚と申しますか、あるいは性教育の徹底というようなことが必要になって参る、かように考えます。この対策審議会の前にできました政府部内の連絡協議会におきましても、行政措置として、文教その他の面にわたりまして、これら風俗壊乱防止についての措置を話し合ったことでもあります。また、青少年問題対策協議会におきましては、ただいまお話しの悪質な書籍あるいは映画、そういうようなものの追放についていろいろ協議をしておる、かような対策を立てておる次第でございます。
  5. 池田清志

    池田(清)委員 第二点、こういうような風俗壊乱原因についてであります。この原因はいろいろあろうかと思いまするが、私、思いまするのに、終戦によりまして国民精神というものの緊張さが一ぺんにゆるんできた、弛緩してきたということをあげたいのであります。戦争が終了に至りますまでは、わが国は勝たなければならぬと、いわゆる一億一心いたしまして、わが国の戦勝のために国民こぞって協力をいただいたのでありますが、一たび国民が予期しないところの敗戦と相なりまするや、いつしか緊張感はゆるんで参りまして、一ぺんに国民がやけくそ的になってしまった実情にあると思うのであります。さらにはまた、戦争のために非常に犠牲を受けました。経済的の犠牲ばかりでなく、家族的、家庭的、人類的の犠牲を非常に受けたのであります。たとえて申しますと、父兄をなくいたしましたり、子供をなくいたしましたり、だんなさんをなくいたしましたりするような家庭が非常に多くあったことも、この原因であろうと思います。さればこそ、そういうようなみじめな家庭婦女方々が、子供を養育するために、あるいは父兄に孝養をするために、あるいはまた自分の病夫を療養するために、わが身を魔窟に投じて働いておられるような実例の方々もいらっしゃると思うのであります。こういうような方々に対しましてはまことにお気の毒に思っておる次第でございます。さらにまた、大きな問題として取り上げますと、占領政策そのものがこういう結果を来たすもとになったのではないかと思うものであります。占領政策は、御承知のように、占領目的を達成すればよろしいという建前から行われておりますので、わが国におきましては、主権というものも、実在はいたしましても、潜在して実効を表わすことができない。占領当局の言いなりほうだいになって参ったと思うのです。占領政策目的日本弱体化にあったことは御承知通りであります。さればこそ、占領当局は、日本国憲法を初めといたしまして、いろいろなる法制を発布するとともに、日本国民指導するについて、物質を尊重して精神を軽視するというようなことも知らず知らずの間に行われて参ったと考えるものであります。ここにおきまして、精神文化を尊んでおりましたところの日本国民がいつしか物質文明偏重考え方に変って参っておると思う次第であります。その他いろいろ風俗壊乱原因はあろうかと思いますが、くどいことはよしにいたしまして、私が考えますに、右三、四点というものが著しい原因ではないかと思うのでありますけれども政府におかれましては、この点についていかなる御認識をお持ちか、お尋ねしておきます。
  6. 松原一彦

    松原政府委員 池田委員の御見解に全く御同感申し上げます。戦争に負けることがないと思っていた国民が、負けて、今日まで持っておった誇りも希望も一ぺんに失なってしまった。この大きな頓挫、——中国のように、戦争には負けるものと心得て、また負けてもくたびれないような、そういう図太い精神日本人は持っていなかったところに、今度の敗戦によって受けた衝撃は強過ぎたと思います。度を失ったというのがほんとうの姿ではなかろうかと思います。幾ら本能的な衝動が強く刺激しましても思慮分別というものをはさんで行動に移して参った国民が、ただいまでは衝動が起ると直ちに行動に移す。ことに、性的衝動のごときは、御承知のように、動物を気違いにし、血みどろにするほどの強いものでありますが、その性的衝動を直ちに行動に移そうとするところに、今日の風俗壊乱、特に性道徳乱れがあると思っております。アメリカ人男女間の交際の姿などは、きわめて自由でありますが、自由の中にも一つ制限があると思います。日本人は、そういうことをひどくきらって、男女七才にして席を同じうしなかった時代のものがなお続いておったのに、急に解放せられて、すべて、中学生から手をつないで遊んでよい、それがほんとう、だといったような、形だけを急に見覚えて、そこに心の余裕がなく、制限がなかったところに、私は今日の乱れがあると思う。また、生活の不安を池田委員が仰せられましたことも、全くその通りで、急に生活がこわれましたために、生活に対する用意のなかった一部の階級の人たちは、働くに仕事なく、不安の心から、ついやすきを求めてこういう職業に陥った者も多いと思います。  今回の売春防止法が、もう一ぺんこの原因を探求して、もとに戻って、あらゆる総合行政措置のもとに、一方においては生活指導を与え、さらに資金の供給をも考え職業に対する指導をも行なって、立ち直りを中心としてやろう、保護更生中心であって、刑罰は第二と考えてこの法律を作りましたのも、そこにあるわけでございます。ただ、根本は何と申しましても性道徳の確立ということにある。性道徳崩壊しますれば、幾ら生活の安定があっても意義をなしません。スエーデンが御承知通り売春婦のない国として有名であります。私、昨年行って現状を見て参りましたが、売春婦はおりません。どこを探してもいないということは、政府も言い、外国の公館でもそう言っておりますが、ほんとうにいないようであります。しかし、性道徳は極度に崩壊しておる。これは、案内書にまで書いてある通りに、ひどい性道徳崩壊が参って困っておるのは周知の通りであります。生活に不安がなければ売春はなくなります。しかしながら、内にささえるところの性道徳あるいは純潔教育といったようなものの心がまえが内から個人の行動を支配せざる限り、売春婦がなくなり性の問題が解決するものではない。むしろ、金の問題を抜きにして、そこに自然放らつなる性行為が行われておる現実があるのであります。今池田委員のおあげになった宮城前の混乱のごときもその一つの姿である。あれは断じて売春ではないが、性道徳崩壊から来ておるところのいわゆる解放せられたる原始状態である。羞恥心を忘れた本能的行動があそこにあふれ出ているのであって、私は日本国民の堕落を表現するものだと思う。こういう点につきましては、単に今回の売春防止法くらいで片づくものでないということを痛感するものでございます。
  7. 池田清志

    池田(清)委員 第三点、従来の風俗維持に対する対策の問題でありますが、ただいま松原政務次官から風俗壊乱原因につきまして先生のかねがね抱懐しておられます根本的なお考えをお伺いできまして、まことに幸いと存じます。終戦風俗がとみに壊乱をしたという事実は、先ほど来お話を申し上げ、政府におきましてもこれが対策について御努力をいただいておるのでありますが、どうしても、わが国といたしましては、健全なる性道徳を維持するために、善良なる風俗を保持するために、この風俗壊乱実情をそのまま放置することはできないのであります。政府は、ここに留意せられまして、過去終戦後十年の間においても、文教的あるいは道徳的あるいは法制的施策を総合してこれが対策を実行しておられることと思うのでありますが、さて、文教道徳の面は別にいたしまして、法制的にいかなる処置をして、いかなる効果をあげてきておられるかということをお尋ね申し上げます。
  8. 松原一彦

    松原政府委員 この法制的の取締りといったようなことにつきましては、昨日この法案提案の理由のときにも申し上げましたように、今日までいろいろその場限りの間に合せの法律を出して参っておるので、総合的な組織的な取締りもしくは指導保護施設というようなものが一貫していないのであります。ここに大きな欠点がありましたので、今回は法律面からは一応一本に取りまとめて、地方条例等の不備を除き、これを基本にして、広く各行政面と関連して予算的措置をも加え、婦人相談所その他更生保護機関を充実することによって、一面には悪に陥らんとする者を予防し、陥った者を救済する、これが法律面における私どもの今後の取締りの方針でありますが、重ねて申しますけれども、これはまことに限度があるのであって、何と考えましても、私は、池田委員がさっきお話しになりましたように、もう少し背骨の入った道徳観が確立されなければいかぬと思う。旧道徳は権威を失って、新道徳いまだ興らずというときであります。まねてならないアメリカの軽挑浮薄な行動を学び、捨ててならない日本の伝統的なよいものを捨てておる。保守すべからざるものを保守しようとし、保守しなければならないものを捨てて、新道徳なお興らないという現状でございますから、今回の立法を機会としまして、この性立法をいよいよ完全にすると同時に、教育面からも、衛生面からも、あるいは特に宗教面からも、——戒律の重大なる要件としてキリスト教では取り上げておりますが、こういう面に力を入れてもらいたいと思うのであります。法律としましては、今回を一つの総合的なスタートとしまして、将来整備をはかりたいと思います。
  9. 池田清志

    池田(清)委員 第四点、審議会答申売春防止法案との関係についてであります。昨年の七月二十一日、わが衆議院におきまして一つの決議をいたしましたことは御承知通りであります。すなわち、政府内閣に強力なる審議機関を設けまして、国会審議を要するものについては次の通常国会に提出せよという趣旨のものであります。政府におきましては、今国会におきまして審議会法案も通過をいたし、審議会を設立いたしまして、審議会にこの問題を諮問し、その答申に基いて売春防止法案提案となったと思うのでありますが、私がここでお尋ねいたしたいのは、審議会における答申の大要、及び、この法案審議会答申との間に相違点がありまするならば、その違った点をお示しいただきたいと思います。
  10. 長戸寛美

    長戸政府委員 ただいまお話のございましたように、本法案は本年四月九日対策審議会から第一回の答申としてなされたものに準拠いたしまして作案いたしたものでございます。ただいま、その審議会答申とこの法案とどういう点が差があるかというお尋ねでございましたが、概略において同一でございます。ただ、罰条について申し上げますと、立法技術の上から、その答申言葉とやや異なるような表現を用いたことはございますが、その趣旨においては私は全然同一であると考えております。なお、私どもといたしましては、これを第一回のスタートといたしまして、さらに対策審議会の第二回、第三回の御答申に従いこれを整備して参りたいと考えております。
  11. 池田清志

    池田(清)委員 第五点、男女間の性交、性を交える問題についてであります。男女間の性交は神聖であって厳粛であると私は考えます。ことに、民族を永遠に保続いたしまするために必要欠くべからざる人類の行為であります。しかしながら、その性交性道徳律によって秩序が維持されなければならぬことは申すまでもありません。こういう観点からいたしまして、私は性交そのものについては法律介入すべき分野ではないという根本的な考え方を持っているものであります。もしそれ、この性交ということに法律介入をいたしまして、いわゆる取締りというようなことの対象といたしまする際においては、予期しないところの人権じゅうりん等の問題を惹起することをおそれている次第であります。さればこそ、売春防止法案におきましても、売春という定義を定めてはおりますけれども本法にいう売春不法行為としないで、つまり刑罰をもって臨まないで、他の方法によってこれが粛正をしようという考えのもとにでき上っていると思うのであります。でありますから、本法にいう売春以外の単純売春とかいわゆる売淫とかいうようなことについても、本法介入せず罰しないという仕組みに相なっておるのであります。こういうようなことにいたしまして、果して、性交というようなことに法律介入をしないで、しかして不純なるところの性交を除くことができるか、絶滅することができるかということにつきまして、政府の所信をお尋ねいたしておきます。
  12. 松原一彦

    松原政府委員 性交の問題は実にむずかしいので、私なども研究が足りませんから、お答え申し上げかねますけれども池田委員のお説の通りに、これは生物のすベてに伴う本能でありますが、同時に厳粛に行われねばならぬものであって、露出すべきものでない。動物人間との違いはそこにあると思います。人間には薄恥心というものがある。これは神から与えられたるもの、人間のみの特有のものだと私は思う。いかなる生物動物にもそれはない。羞恥心というものがあるがゆえに露出しない。露出しないところに、乱交もなければ社会的秩序もまた破られないで保っていかれるのだと思う。性交そのもの犯罪であるかどうかということは、御承知通りに、たくさん学者の意見もあります。売春行為根本でおるその性交を金にするというところに今日法律の問題はありますが、今回はそれが処罰の対象になっておらぬ。たとい正当の夫婦であろうとも、性交そのものが露出し、白日のもとにさらされれば、これは犯罪であります。今日現行法において処分せられる犯罪であります。公けなるわいせつの罪として処分せられます。そういう点から考えまして、私どもは、どこまでも男女間の性交というようなものを厳粛に取り扱い、そうして道徳的にも、純潔の面からも、いわゆる宗教的戒律の面からも、人間としての品性の保持、人格をみずから尊重する意味において深く反省すべきものであって、これは教育道徳宗教、総合して行われねばならぬものであって、その最底限度をばこの法律によって支えていこうとする。法律万能でもってこの問題が解決できないことは先刻からたびたび申してある通りであります。私どもは、そういう意味におきまして、性行為をば厳粛に取り扱っていく。そうして、すべての人々がみずから省みてこの行為に対する自律を失わないように、一面においては法律がその許し得る範囲を認め、許すことのできない範囲においては厳重に取り締るというよりほかには道がないのではないかと考えておる次第でございます。
  13. 池田清志

    池田(清)委員 第六点、保護更生施設の問題であります。婦女方々がみじめな売春の道に入られないようにするということ、及び、すでに入っておられる方々につきましてはこれを善導いたしまして早く転換するということが何よりも必要なことだと思います。ここに着眼をせられまして、本法においては保護更生施設に重点を届いてあり、しこうして、それを一年早く、すなわち来年の四月一日から施行するということも原案による説明によって伺っておるのであります。私はこういうような行き方に対し大いに賛意を表するものであります。しこうして、この法律にありまするところの保護更生施設といたしましては、都道府県婦人相談所及び都道府県婦人相談員の設置を強制的に命令をいたし、そしてまた、都道府県婦人保護施設を任意設置することができるようにし、さらにまた、市に婦人相談員を任意設置することができるようにするということに相なっておるのであります。これだけのことで、先ほど来申し上げましたところのいわゆる転落防止並びに職業転換というこの大きな仕事ができるかどうかということにつきまして、私は不安なきを得ないのであります。でありますから、この際、保護更生施設内容並びにこれに所要いたしまする予算等につきまして、来年度の予算のものでありますけれども、すでに十分なる御計画があると思うのでありますが、ぜひそれで十分に一つ予算を編成してもらうようにお願いしたいという気持から、この施設内容及び予算関係の御説明を願います。
  14. 松原一彦

    松原政府委員 この問題は、ここに御担当の厚生省から社会局長が見られておりますから、社会局長からお答え下さいますが、私どももまたこの点にも一番力を入れたいと思うのでございまして、売春婦人刑罰対象でなく保護救済対象といたしております。また、この法は、刑罰を最後にして、まず保護更生の道を講ずることを先行さしております。保護更生の道は来年四月一日からこの法律において先行する。これによって対象婦人がだんだん減っていく、対象業者がなくなっていく、これに関与しておる人々がだんだん減少して、一年後刑罰法を施行するときにはその数が非常に減少しておるであろうことを予想し、希望し、熱望しておるものであります。従って、これがかぎであって、生活保護がうまくいくかいかないかによって、この法案は生きるか死ぬかの境目にあるのだと思います。刑罰目的でない。刑罰なからしむることを目的として立案せられたものでございます。この婦人相談所あるいは婦人相談員その他の施設は、単にそれだけでもって私どもは能事終れりとは思っておりません。これは、先刻から申し上げますように、関係行政措置の総合的な推進、生活保護法も、母子生活資金貸付も、世帯更生資金貸付も、福祉事務所援護的措置の強化も、あるいは児童福祉法社会福祉主事児童委員等の強力な活動、その他数え上げますとたくさんのものがありますが、こういう人々があたたかい手を差し伸べることによって、この社会悪のもとを断ち切るように、総合的に努力してもらいたいということを期待いたしておるのであります。厚生省がそのうちの一部を予算としてとられます関係上、すでに具体案を持っておいでになるようでありますから、この点につきましては厚生当局からお聞き取りを願いたいと思います。
  15. 安田巖

    安田(巖)政府委員 お答え申し上げます。  保護更生の基本的な考え方につきましては、ただいま松原法務政務次官から御説明がありました通りでございます。現状を申し上げますと、現在十七個所の保護収容施設主要都市にございます。それから、本年度の予算といたしまして四千万円か計上してございまして、これは半年分でございますので、十月から設置されることになりますが、婦人相談所を六大都市の所在の府県と北海道及び福岡に各一個所、それから婦人相談員を四百六十八名、全国の主要の都市に配置をいたしたいと考えております。  この法律案通りますと、ここに書いてありますことは、第一が各府県に婦人相談所を設置するということが第一の問題でございます。これは、一時保護施設を併設をいたしまして、そして、いろいろ転落の防止でありますとか、あるいはすでに転落をいたしております者の更生につきましてここで相談をいたす。現状で申しますと、警察でありますとか、福祉事務所でありますとか、あるいは検察庁でありますとか、その他関係機関でそういう者を発見し、保護しようと思いましても、送るところがない、すぐその晩から泊めるところがないので困るというようなことでございますが、一応総合的な窓口といたしまして婦人相談所ができますならば、そこに送っていただくならば何とか解決ができるという考え方に立つものでございます。そして、そこでできるだけ、うちに送り返せるものなら送り返す、保護者を呼んで引き渡す、あるいはそこで就職のあっせんができればあっせんをする、病気である者はそれに必要な治療の措置をとってやる、そうして、なお、収容施設に入れております間に本人の性行その他を観察いたしまして、さらにより適切な措置がとれるという考え方でございます。そして、そこでもしどうしても行くところがない、あるいは簡単にはなかなか更生できないというような人につきましては、あとで出て参りますところの保護施設に収容いたしまして、そうして、大体一年に一回転するくらいの目標で、そこでいろいろ生活訓練なり簡単な職業指導、さらにいろいろと更生策をとって社会に出していこう、こういう考え方でございます。  婦人相談員は、大体のところ、大きな各都市福祉事務所に置きたいと思うのでありまして、福祉事務所にそういうような相談につきましての専門家がおるということによりまして、相当従来よりも能率が上るというふうに私ども考えておりますが、なおまた、新しくできますところの相談所なり保護施設との専門の連絡にも当れるという点で、非常に便利な、そしてまた有効な役割を果してくれることを期待いたしております。  それから、保護施設でございますが、これは各府県に置きたいと思っておるのでございますけれども、しかし、各府県いろいろ事情が違いますので、そういった売春関係等をにらみ合せまして、——なおまた、先ほど松原政務次官お話にもありましたように、この国会でこの法律が成立いたしますと、なお一年有半の猶予期間がございます。その間になるべくなしくずしにさばいていくということになりましたならば、果してどの程度の数が保護収容施設に入ってくるかというようなことも、まだはっきり予想がつかないような状況でございます。そういったような事態がだんだん明らかになるに従いまして、そういった施設を設置して参りたい、こういうふうに考えておる次第であります。
  16. 池田清志

    池田(清)委員 第七点、刑事処分の問題についてであります。売春防止法案における中心点は、今も松原政務次官及び安田政府委員から御説明がありましたように、保護更生施設であって、これによって婦女売春への転落防止及び転換ということを率先して行う建前である、すなわち、一年間の指導期間、つまり今から申しますと二年間の指導期間を置いて、しかる後に刑事処分は昭和三十三年の四月一日から発足する仕組みであるということにつきましては、私もごもっともであると思う次第であります。そこで、お尋ねいたしたいのでありますが、刑事処分の法定刑を一覧いたしますと、最高限度が過酷に失するのではないだろうかという意見を有する方もおられるようであります。現行法でありまする勅令九号と比較をいたしてみまするに、勅令九号におきましては、困惑させて売淫させた者について三年以下の懲役、一万円以下の罰金、こういうのに、本法におきましては、三年以下の懲役、十万円以下の罰金と相なっており、さらにまた、勅令九号において、売淫をさせることを内容とする契約をいたしました者については一年以下の懲役、五千円以下の罰金というのに、本法におきましては三年以下の懲役、十万円以下の罰金、こういうことに相なっております。さらにまた、売春をさせる業者に対しまして、一たび違反をいたしますと、十年以下の懲役、三十万円以下の罰金、こういうことに相なっておるのであります。先ほど政務次官も趣旨を述べられましたように、刑罰をもって臨むのはよくよくのことであるというお話はよくわかります。従いまして、これは法定刑でありますから、個々の案件につきましての刑の裁量は裁判所でもって適宜やれることもよくわかるのであります。しかしながら、この刑罰処分の最高限度を一覧いたしました場合に、重過ぎやしないかという感じがありますことについて、他の刑罰法規との比較考量の結果こういうことになっておるとは思いますけれども、一応の御説明をお願いしたいと思います。
  17. 長戸寛美

    長戸政府委員 御説ごもっともでございますが、この法定刑を定めますにつきましては、現行の各法令との均衡を考えまして定めたものでございます。たとえて申しますと、業者に対する処罰は十年以下、それに罰金を併課することにいたしておりますが、現在の刑法二百二十五条の営利誘拐罪は一年以上十年以下の懲役というふうになっております。また、児童福祉法の三十四条六号違反につきましては、これは十八才未満の児童に淫行させる行為についての処罰規定でありますが、十年以下の懲役、罰金というふうになっております。また、労働基準法の第五条の違反につきましては、一年以上十年以下というふうにされております。また、職業安定法の六十三条の違反、これは公衆衛生上有害な職業にあっせんする行為についての処罰規定でございますが、これについては、一年以上十年以下、それに罰金、こういうふうになっておるわけでございます。このように、人身売買なりあるいは婦女を搾取するという形の犯罪につきまして、最高刑十年というふうなものが盛られておるわけでございます。それらとの比較考量から、この十年という刑を出してきた次第でございます。また、私どもといたしましては、もとより刑罰が主でなくて、業者に対しましても三十二年三月末までの完全なる転廃業をこいねがうものでありまして、その間に政府としても転廃業促進の措置というものがとらるべきというふうに考えておりますが、その猶予期間を経てもなおこれを行うというふうな者に対しましては、やはり国としてこういうふうなものの存在を認めないという態度にいする以上は、これに対して他の関連する法定刑と少くとも同様の刑を盛らなければならないというふうに考えた次第でございます。  また、先ほどお話しの勅令九号との関係はもとよりお話通りでございますけれども、勅令九号の出ましたのは昭和二十二年でございまして、そのころの状況と現在とはおのずから異なるものがあり、また、やはり、これらに対しましても、約二年にわたる猶予期間を設けて後の刑罰施行というふうに考えますならば、ここに盛られました刑くらいが相当であるというふうに私ども考えた次第でございます。
  18. 池田清志

    池田(清)委員 第八点、業者の転換の問題であります。婦女方々の転換の問題につきましては、先刻来伺っております保護更生施設の拡充及び指導によってその目的を達するというのでありますが、今日現存しておりますところのいわゆる赤線区域青線区域において、家屋を持って、あるいは占有してそこに婦女を住まわせて、そこにおいていわゆる売春をなさっておられる業態の方々につきましては、本法の刑事処分施行と同時にそれが犯罪となるということになるわけであります。憲法におきましては、第二十二条において職業の自由を肯定しております。もちろん、この法条におきましては、公共の福祉に反しない限り職業の自由があることになっておるのでありますが、本法が施行されることによりまして、公共の福祉に反する、こういうことになって参るのであり、従って、それがために業者の方々は転換をせられなければならないと思うのであります。しかしながら、転換をせよと申しましても、二年間の猶予はありますものの、実際の問題としてはなかなかむずかしいことであると思います。たとえば、その家を改造せられるにつきましても、改造に要する資金が必要である。あるいはまた、他に移築をされるにつきましても、これまた資金が必要であるというようなことは、実際問題としてあげられなければならないのであります。これらの業者の転換につきましては、政府はあたたかい気持をもってこれに協力をいたさなければならないと思う次第でありますが、この問題について政府においてはいかなるお考えをお持ちか、お尋ねを申し上げます。
  19. 松原一彦

    松原政府委員 これはまことに言うべくして非常にむずかしい問題だと思うて、私どもの思い悩んでおるものの一つでございます。この法律を実効あらしめるためには、一日も早く赤線業者の転廃業を希望せざるを得ないのでございます。中国のように命令をもつて一気にやらせることができきれば、これは大へん楽でありますが、日本ではそういうわけには参りません。そこで、今ごくわずかな実例を見ましても、調布とか八幡とかの転廃業者が難儀して困り抜いておる例を見ましても、なかなかむずかしい。心ある業者はすでに転廃業を考えておりますように聞いておりますが、あれほどの資本を入れ、あれほどの大きな家を持っておるのでありますから、二年間に果して全部が片づくかどうか疑わしいものがあると思いますので、この問題につきましては——というてこれは許されないのであります。公共の福祉にそむく違法の業態を持つ以上は許されません。泣いてもこれを切らざるを得ない。そこで、売春対策審議会の方はなおずっと続けてあれは研究をしていただくことになっておりますので、この問題も審議会でもっと十二分に研究をしてもらうように、すでに議題になっております。やがて適切なる御答申があるであろうと期待いたしますが、私どもも心がけまして、どうかなめらかに転換のできますような手段を講じたい、かように思っております。ただし、じんぜん法を無視して居すわるということは断じて許されないものであるということは、はっきり申し上げておきます、
  20. 池田清志

    池田(清)委員 第九点、本法と条例との関係であります。憲法九十四条は、法律範囲内で地方公共団体が条例を制定することができる旨を明らかにいたしております。従来、地方公共団体の中には、売春等の取締り関係に、条例を定めて施行しておるものが多数あるのであります。本法の附則の四項におきまして、それとの関連の一部を解決するやのことが規定されてあると思います。すなわち、本法におきましていわゆる売春ということを処罰にいたしております関係上、国の方針かそうであるからというので、条例において売春及び売春の相手となった者を罰しておるところの条例の処罰の規定は効力がなくなる旨を明らかにいたしております。これは当然のことであろうかと思いますが、いわゆる本法にいう売春以外の行為、たとえば売淫をしいる行為とか単純売春を罰するとかいうような条例がもしありとするならは、これにつきましては本法は何ら問うていないやに思うのでありますが、この点いかかでございましょうか。
  21. 長戸寛美

    長戸政府委員 ただいまお尋ねの点につきましては、昨日逐条解説の際に申し上げたのでございますが、本日御配付申し上げました逐条説明書の末段にもこの点を掲げてございます。この法律におきましては、その附則においし四項、五項の規定を置きましたが、売春を助長する行為を初め売春をする有の勧誘行為等を本法で広く処罰することにし、これによりまして、この法律に規定する行為はもちろん、売春をしまたはその相手方となる行為その池元春に関係する一切の行為はすべてこの法律によって取り締ろうとする国の意思が明らかになるわけでございます。従いまして、国のこの意思に反することとなるいわゆる売春条例の規定は当然に無効となる、その当然のことを念のために附則で規定する、こういうふうにいたしておるのであります。従いまして、この附則の四項におきまして「売春又は売春の相手方となる行為その他売春に関する行為を処罰する旨を定めているものは」云々というのは、売春に関する限り一切の行為本法で処罰する趣旨である、従ってそれに異なる条例はすべて無効となる、こういうふうな宣言的なものを持っておると考えております。ただし、昨日も申し上げましたように、売春に該当しないところの性交類似行為取締り対象としておる条例のその部分は生きておる、かように考えております。
  22. 池田清志

    池田(清)委員 第十点は、検察当局、厚生、労働、警察、そういう関係当局におきまするところの人員並びに予算の問題であります。本法を施行いたしまするというと、保護更生施設の拡充をはかることから、万が一法を犯した者については刑事処分をもって臨む、こういうのでありまするから、本法を施行されまするというと、これらの事柄に関係を有しておりまする検察、厚生、労働、警察、こういう諸官庁におきましては、これに要する人員並びにその人員に要する予算というものが必要であることは当然であります。これらのことについては、それぞれ準備をされて、法律の改正すべきものは改正し、予算のとるべきものはとるようにだんだんに準備が運ばれておると思うのでありますが、私は、本法を施行してその効果をあげしむるために、どうしても力を入れてやっていただきたいという考え方からいたしまして、関係当局における人員並びに予算のことについて大いに御努力を願って、本法の効果があがるようにしていただきたい、こういうふうに考えておる次第であります。これにつきまして、御準備等がありまするならばお聞かせを願いたい。
  23. 長戸寛美

    長戸政府委員 ありがたい仰せでございます。法務省といたしましては、この予算関係におきましても、やはり処罰よりもその保護に重点を置くというふうに考えております。厚生省、労働省御所管の保護更生措置のほかに、法務省といたしましても、現在東京地検の更生保護相談室で行なっておるように、本法の第五条で勧誘等によって処罰される女子、こういう人たちは、悪質なものは刑罰対象として起訴することももとよりございますけれども、なるべくはこれを猶予いたしまして、それを保護の方にまかせるというふうにしていきたい。現在東京地検で行なっておりまする更生保護相談室というふうなものを、少くとも全国の主要地検には設置いたしまして、保護その他の関係を緊密にしていきたい、かように考えております。ただ、仰せのように、悪質なものに対しては売春環境の助長者その他に対しましては処罰を行うということになりますので、右干の人員増加を考えまして、目下部内及び関係当局と折衝中でございます。ただ、私どもといたしましては、保護更生措置を先行せしめる関係からいにしまして、その転廃業または更生の実がいかにあがるか、その状況ないしはその見通しによってなるべくは保護更生の方を円滑にするという意味で、厚生、労働両省の御予算を主にし、また、われわれとしても、矯正あるいは保護、人権というふうなところの予算というものについて重点を置いていきたい、かように考えております。
  24. 高橋禎一

    高橋委員長 猪俣浩三君。
  25. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 人類の性活動は生物の存続本能でありまして、これは生存の基本的な本能でありますが、さればというて、人類社会におきましては、この性本能が自由奔放に活動することはできない、必ずや何らかの社会的抑制があるのであります。この社会的抑制はその社会の文化の程度においてその方式も違いまするか、現在の文明諸国におきまする社会的抑制は、いわゆる一夫一婦制度となって、これが性のモラルとなっておるのであります。かくして、社会秩序を維持し、なおよりょき次の世代を生み出しておるのであります。そこで、売春というものは、この性のモラルに対する反作用であり、挑戦であります。されば、この売春に対する対策は人類の非常なる一つの文化闘争として現われておると思うのであります。そこで、この性のモラルを確立すべく、もちろん道徳の高揚が切に要望せられるものでありまするが、なお、そのほかに、国家がこの性道徳の維持をはかり、これに対する破壊作用を鎮圧するための法律規制というものも必要であろうかと思うのであります。  売春法等の処罰の中心課題を日本社会党はそこに置いているのでありまするが、その点からこの政府案を見ますると、いささかわれわれが合点できない法案ではなかろうか。政府案におきましても、この第一条におきまして性のモラルを強調いたしまして、「売春が人としての尊厳を害し、性道徳に反し、社会の善良の風俗をみだすものであることにかんがみ、」云々と書いてありまして、売春が人としての尊厳を害し性道徳に反するとして、社会の善良の風俗を乱す売春の不道徳性に対しまして遺憾なくその点を明らかにしておると思うのであります。なお、第三条におきまして「何人も、売春をし、又はその相手方となってはならない。」、ここにも規定が置かれておるのでありますが、その一条と三条の厳とした規定にかかわらず、これの裏打ちがないのであります。されば、この第一条の目的に反し第三条の行為をした男女に対していかなる制裁を加えるのであるかということになりますると、何ら規定しているところがない。そこで、売春の不道徳性を攻撃し、性のモラルを確立する意味におきましての法規定というものが、何か裏打ちがないのではなかろうか。どういうわけで、第一条及び三条を置きながら、これに対する処罰規定を置かなかったのであるか。これは社会党の提案しておりまする売春に関する法案との根本的な大きな差異の一点でありまするがゆえに、これに対しまして、政府心御所信を、概括的には松原政務次官、法規的には長戸政府委員から御答弁か願いたいと存じます。
  26. 松原一彦

    松原政府委員 この問題が私ども一番むずかしい問題で、お尋ねに対してのお答えはまことに苦しいのでございます。が、社会党の御提案によりましても、第一条の違反者に対しての刑罰は三千円以下の罰金、科料、拘留となっておって、非常に軽い。三千円といえば、こういう人たちが一夜の収入にすぎないのであります。軽くともここに一応の区切りをつけておいでになるのでありますから、昨日も参議院で画龍点睛を欠くと言われましたが、一応の区切りをつけることは私どもも必要かと思います。ただ倫理規定として、道徳的な罪として刑罰上の犯罪としないところには合点のいかないものがおありになることを私は少しも不思議と思いません。しかし、この性の問題は、さっきからいろいろお話もありましたように、性交そのもの犯罪性というものはなかなかむずかしいのじゃないか。正しい夫婦間における性交でも、これは、さっきも申し上げましたが、露出すれば公然わいせつ罪となる。また、秘密に行われれば、夫婦関係がなくとも、合意上の行動に対しては処分のしようがない。これが取引のもとにおいて行われるというところに問題があるのであります。私もこういうものの取扱いについては全く知らないのでありますけれども、それぞれ専門家の意見を聞きますと、略式裁判では一応本人の自白によって認めるか、公判廷に回ると自白だけでは立証できない。無罪になってしまう。と申して、現行を押えるということはできません。今日、人権を重んずる時代に、昔のような現場に踏み込むわけにはいきません。いろいろ挙証のむずかしいというようなことも専門家の間においては論議せられております。学者の間のいろいろの性立法根本の問題はまずおくにしましても、取締り対象として一応のけじめをつけるという社会党側の御意見も、私どもはごもっともだと思います。ただ、ただいま申しましたような挙証関係等から、性の処罰ということを公然わいせつとなった場合に取り締るところの法律にまかせ、かくのごとき行為に陥っていく前提条件である引っぱること、くどくこと、並んですわってその姿態を示すこと、さような行為を外郭的に処分の対象とし、そのほかに隠微の間に行われるものはどうも刑罰対象ととり得ない。やむを得ずここに道徳的、倫理的規律に待つことにいたしたわけでございます。一応私どもはこの立場からこの法案を妥当と認めまして提案いたしたものでございまして、なお、世界的立法例を見ましても、性交そのものを処分する例はあまりたくさんないように聞いておるのでございます。が、しかし、大胆不敵なことは申し上げられません。私どもは、まずこの程度においてこの法案の成立を認めていただいて、将来において徐々に足らざるところを補っていきたいと思うのでございます。
  27. 長戸寛美

    長戸政府委員 お尋ねの点は最も重要な点でございますが、私どもが第三条におきまして「何人も、売春をし、又はその相手方となってはならない。」、こういうふうな倫理規定を置きましたのは、売春が悪であることを国の意思として明らかにしたいというふうに考えたからでございます。しかしながら、これに対しまして刑罰を課するかどうかという点につきましては、少くとも現段階におきましてはこれを処罰の対象としないことが妥当であるというふうに考えたのであります。もとより売春行為そのものについて現行のままでよいというのではなくて、これを刑罰対象とすることにつきましてはなお慎重に検討を加える必要がある、こういうふうに思うのであります。たとえば、売春婦につきまして申しますならば、違法性の面におきましては彼女たちは処罰に値するというふうにいたしましても、責任の面では処罰するに忍びないものが現状においてはあるというふうに考えるのであります。また、単なる売春行為それ自体は極度に立証困難な事項でありまして、これを徹底的に取り締るということになりますれば、人権侵害の非難の生ずることも考えられますので、対策審議会答申にもありましたように、将来の問題として残しにわけであります。そのようなことで売春防止目的が達成し得るかというふうなお尋ねもあろうかと思いますが、もちろん法律だけで売春防止目的を達成するとは考えられませんけれども、単なる売春行為を処罰する規定を欠きましても、売春環境を助長する行為の一切を処罰することにし、また、売春婦自体につきましても、外に現われる風紀違反の面におきまして第五条を活用して取り締まるということになりますれば、相当程度目的を達し得る、——今後売春環境の回りから攻めて参りますれば、必然的に売春婦は外に出ざるを得ないというふうに考えられます。そこで、第五条によりまして、勧誘等によって処罰する、こういうふうに考えられる、かように思っております。
  28. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 松原政務次官から、性交そのものを一体犯罪と見るかどうか、非常に困難なような御説明がありましたが、私どもも、性交そのもの犯罪対象にするとかどうとかいう意味ではないのであります。この第一条に書いてあります、人としての尊厳を害する、性道徳に反する、社会の善良の風俗を乱す、かような売春、一般の性交対象としているのではなく、憲法の保障いたしました人の尊厳、民主政治の基本でありますところの人格の尊厳、これを害するということは大なる反社会的行動である、反民主的行動である、そうして、今、よりよき社会の秩序、よりよき社会を生み出すためのモラルとして樹立せられております性道徳を完全に破壊せんとする行動でありますがゆえに、これに対する一つの文化闘争としての立法がこれであると思うのであります。ですから、普通の犯罪行為ならば売春婦自身が主犯であります。そういう売春の設備をしたとか周旋をしたとか勧誘をしたとかいうのは、これはある場合は共犯でありましょうし、ある場合は教唆扇動、そういうことになるので、ほんとうから言えば主犯ではないわけであります。ただ、この売春婦そのものは、いろいろ社会の実情から、あるいは政治の貧困から、お互いの共同責任として生まれたものであるがゆえに、この売春婦のみに責任を転嫁するような考えを捨てて、社会連帯意識のもとに処理しなければなりませんから、刑罰もはなはだ軽くすべきものであり、なお保安処分を強調すべきものであるけれども、悪であることには変りはない。ただ、刑罰として何ほどかの刑を課するかという場合には最小限の考慮を払うことは、もちろんそうあらねばなりません。との哀れな犠牲者にのみ責任を負わせるわけではありませんけれども売春行為自身がこの性道徳に反し、個人の尊厳を害し、社会の善良の風俗を乱すものである限りにおいて、今ここに法律を作るとするならば、何らかこれに対して刑罰を課して、これは国家においても犯罪と見るんだということをやはり一般予防主義においても示さなければならぬのではなかろうか。御説のように、これを犯罪対象とした場合には、ことに捜査というものを考えますと非常に困難な問題でありますけれども、私は、法の威信のために、一般予防主義のために、そうして性のモラルに挑戦いたしますこれらの行動に対しまして、国家が厳然たる態度をとり、その態度の陰におきましては、刑事政策上いろいろの寛大な処置、彼らの更生できる道を開くということは、それは当然考えなければならぬことでありますけれども、国家から見て悪であり、犯罪であり、これは処罰されるべきものであるということを、一般予防的にも私は掲ぐべきものではなかろうか、こういうふうに考えておるものであります。しかし、なお、技術的に考えまして、普通の犯罪形態からすれば、主犯に相当すべき売春行為そのものを犯罪としないとするならば、被疑者としての捜査ができません。それをすれば、今政府委員のおっしゃったように、それこそ人権じゅうりん問題が起るのであるが、一体、その主犯的立場にありまする売春婦及びその相手方、この者を刑罰対象にせず、被疑者とすることができなくては、捜査というものは困難となるのではなかろうか。被疑者となるならばいろいろ調べることもできましょうが、犯罪者ならざる者を一体どういうふうにして捜査するのであるか。それこそいろいろ問題が起りはしなかろうか。私は、真のねらいはこの哀れな犠牲者を食い物にする業者、勧誘者、ブローカー、そういうものを打倒することが目的であったといたしましても、それに入りまする捜査の段階といたしましても、この売春行為をした者、その相手方、その者を被疑者として調べられない法制のもとにおいては、より一そう困難を来たすのではなかろうかと思う。さっき政府委員が言った人権じゅうりんを起すかもしれぬというのは、法規において被疑者ならざる者を強制的に取り調べるということになれば、なおこれは人権じゅうりんに相なるかと思うのでありまして、その人権じゅうりんをおそれているならば犯罪の検挙そのものができない。そこで、やはり、売春婦及びその相手方を被疑者として合法的に取り調べる権限を官憲に与えなければ、その多くのものに踏み込むことができないのじゃなかろうか。こういうことに対しまして、政府委員はいかようにお考えになりますか。犯罪捜査の技術上どういうものであろうか、お尋ねいたします。
  29. 松原一彦

    松原政府委員 これは大へんむずかしい面をお突き下さいますので、非常にお答えにも困難しますが、この点は一つ明らかにしておいていただいた方がいいと思いますから、技術面につきましては専門家の局長代理からお答えすることにしますが、私ども考え方は、第五条によって売春婦を罰するのであります。売春婦刑罰対象であります。第一に、公衆の目に触れるような方法で人を売春の相手方となるように勧誘すれば、これはもう刑事罰があるのであります。また、第二に、売春の相手方となるように勧誘するため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとえば、これまた犯罪であります。さらに、公衆の目に触れるような方法で客待ちをする、店に並んですわっておる、または広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方となるように誘引する、これも刑事罰になるのであります。こういう行動は全部取り締るのであります。また、宿を貸した者も、ポン引きも、前貸しをした者も、業としてその場所を提供した者も、あるいは、いわゆる今日の赤線業者そのものもすべてなくするのであります。残るところは、きわめて個人的な自分の意思で、どこかで何がしかと何かの取引が隠微の間に行われる、だれの目にもっかないところで行われることだけは想定がつくのです。これが犯罪対象になるかならぬかというところに問題があるのです。私どもはいわゆる売春なる行為の外郭一切を犯罪として取り締る。性行動そのものを寝床の中に踏み込んで現場を押えるということだけをしない。それをしなかったならばこれはこの法律に画龍点睛を欠くという御主張はある。私もそう思う。そういうふうに考えられますが、この点につきまして、どうも私もよくわかりませんけれども、挙証困難であり、かつ踏み込む行動そのものに人権侵害のおそろしいものがある。至るところに人権侵害が起る。人権を尊重するがゆえに今こういう立法をしようとするのに、罪のなき人々がふだん宿屋に泊りその他いろいろな場所において脅かされることになると、逆の効果がくるのではなかろうか。こういうところが社会党の方々の三千円の罰金をもついにわれわれに取り入れることをちゅうちょせしめたゆえんであります。この技術上の問題につきましては、一つ専門の方からお答えさしていただきとうございます。
  30. 長戸寛美

    長戸政府委員 先ほども申し上げましたように、売春行為自体を処罰の対象とするかどうかにつきましては、非常に有力なる御意見があるわけでございます。ただいま猪俣委員からも仰せになりました。対策審議会といたしましても、売春行為自体はさしあたり刑事処分の対象としないけれども、将来の問題として引き続き調査検討を加えるものとする、かようになっておるわけでございます。私どもは、ただいま仰せのように、普通の犯罪でありますれば、売春が本犯であって、場所の提供とかその他はすべて幇助犯あるいは教唆犯というふうなものとして考えられるのでありましょうが、この売春に関する犯罪につきましては、売春行為それ自体が処罰の対象となる場合におきましても、処罰体系はそれとおのずから異なるものであるというふうに考えております。私は、売春婦に寄食して不正の利をむさぼるような者、そういうふうな売春婦を搾取する、あるいはその管理下に置くというところに反社会性を独自に見るべきものであるというふうに考えております。現在までの法令におきましても、御存じのように、先ほど申し上げました児童福祉法では、十八才未満の児童に淫行をさせる行為、こういうふうにしまして、児童を被害者として扱っております。また、刑法におきましても、「淫行の常習なき婦女に姦淫せしめた者」として、やはり被害者的に扱っておるわけであります。このように、従来婦女子を被害者として扱ってきたものを、この際にこれを犯罪の主体とするかどうかという点は相当の問題である。また、世界の立法例を見ましても、売春婦女を罰します場合には多く浮浪罪その他によって外表に現われたところで処罰しておるように見受けられること、その他の点を勘案いたしまして、現在のところにおきましては、これを売春行為それ自体を刑罰対象としないというふうにしたわけでございます。  それから、取締りの問題でございますが、確かにこれは猪俣委員の仰せのように問題がございます。私どもといたしましては、当然のことでありますが、売春婦またはその相手方となった者等を参考人として任意に取調べをすることによって傍証を固めていくという態度、あるいは五条の勧誘等の犯罪の被疑者として取り調べ、それをその他の犯罪の立証に役立てる、こういうふうな態度で臨んでいきたい。もとより、それについては相当の苦労も伴うわけでありますが、それはわれわれとして努力していきたい。ただ、末端において、ただいま猪俣委員の仰せのように、法的な行政措置によらない取調べについて人権じゅうりんのおそれというふうなことも考えられますので、四条において特にその点も規定を置いておる、かように考えております。
  31. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 この売春業者あるいは勧誘者、周旋者等、婦女子に売春させることによって搾取して不正なる利益を得ている場合、これが反社会性を持っていることは当然であります。だから、これはその反社会性において処罰されるでございましょうが、しかし、その反社会性も、根本的に考えれば、売春行為そのものが性のモラルに反して反社会性があるからである。なぜなら、われわれから言うなら、資本主義そのものは搾取制度であります。いかに暴利をむさぼっても、それ自身犯罪にならぬ。今決算委員会で問題になっている中古エンジン、まだ調べてみないからわからないが、えらい何千万円ともうけてやっているけれども、それ自体は直ちに犯罪にならない。非常な搾取だと思うのです。収奪と思います。けれども、その行為自身は反社会性なしという現在の資本主義制度になっております。ですから、売春行為そのものが正当な業務であるならば、それからどんな搾取をやっても、それ自身は反社会性にならぬと思う。ただ、今この第一条に書いてありますように、売春行為そのものが性のモラルに反するところのはなはだ許しがたい行為であるがゆえに、さような行為をさせることによって利益をむさぼる者ははなはだけしからぬということになるわけです。その売春婦のやる行為が許さるべき行為であるならば、それが当然の行為であるなら、どんなにもうけたって、もうけた者を処罰することはできないという論理も立つのであります。そこで、さっき私が申しましたように、売春行為そのものが悪であるがゆえに、その悪を周旋したり勧誘したり、設備を貸した者がことごとく悪になるんだという私の論理も立つと思うのです。しかし、それは、あなた方の考えられるように、かかる搾取者が最も憎むべき反社会性のものであることはわれわれ異論がありませんから、今その点についてこれ以上申し上げません。要は、やはり売春行為そのものが文明社会における性道徳に対する反逆である、その行為それ自身を実行するものに対してこれを処罰するのが原則である、ただ、いろいろの条件を考えまして、最も手厚い保護とともに、刑罰はごく軽くせらるべきものであるというのが私ども考え方なんです。実際捜査の段階においても、これは容易ならぬことが起ると私は思うのです。なぜならば、第四条に厳として国民の権利の侵害を防ぐような規定がある。これは当然のことでありますが、正しい令状もなしに人を尋問し、あるいはどうこうするということは、これを厳重に守るとすれば、なかなか容易じゃない。ところが、さような場合において、果してこのねらうところの業者その他に対しての捜査が十分にでまるか。これも非常に困難だ。ことに、今次官は第五条等によって売春婦も処罰するじゃないかと言われたが、第五条等は今の軽犯罪法でも相当やれるんです。現存の軽犯罪法においても相当やれると思うのです。ですから、第五条のようなものは問題がないのです。第五条を強化いたしますと、これはもう街頭に現われないでしょう。もうすでに、この法律を予期して、それぞれ彼らは身の振り方を考えて、みなうちにこもる工作をしていると聞いております。街頭へ出る者はたやすいのですが、街頭へ出るような者は影をひそめまして、みな隠れるでございましょう。ことに、今の赤坂だの、あるいは柳橋だの、銀座、新橋なんといわれておるところの芸者は、ほとんど九分九厘はみんな売淫をやっています。私どもは経験がないからわかりませんが、経験のある方は多数あろうと思う。現に、売淫をしいられて、訴えて今刑事問題になっておる赤坂の芸妓もある。さようなわけで、この芸妓の売淫なんというものはほとんど取り締られなくなる。そうすると、結局において、上流社会の遊蕩あるいは浮気、性道徳に反する行動はほとんど隠密に行われて、これに対しては何らの処罰の対象にならぬ。ほんの労働者や青年その他の着たちの遊び場所だけが問題になるというようなことも考えられるのでありまして、今最も家庭を破壊いたしておりますのは相当富裕な身分の人たちであり、この人たちがいかに遊蕩をやっておるか、それがために家庭がどんなに惨たんたる状態に陥っておるか、その実例は多々あります。私どもは、こういうものに対しても何らかの伝家の宝刀を持っておって、あまり乱になるならばやられるぞという、やはりこの法それ自身に威厳の備われるところを持たせたい。そうして日本の紊乱したる家庭生活を粛正したい。もちろんこれは法律のみでできることでないことは明々白々でありますが、最低の道徳の基本線として法律というものが存在することもまた明らかであります。道徳ほんとうの最低のささえはやはり法律であります。法であります。処罰である。私は、さような意味におきましても、かようないわゆる売春そのものを処罰する必要があるのじゃないかと考える。松原政務次官は、中以上の人たちの間に行われている、ことに芸妓などの売淫行為につきましてどうお考えになるか、それはどういうふうにして取り締られるのであるか、御意見を承わりたい。
  32. 松原一彦

    松原政府委員 大へんむずかしいお尋ねでございまして、お答えに苦しみますが、実は、私、けさ東京地検の更生保護相談室へ行って参ったのであります。そして、送って参っておる名簿を見せてもらって参りましたが、東京は地方条例で売春そのものを罰しておるのであります。ほんとうに罰しておるかどうか、どうしてつかまえるかということを見ると、客引きというのが非常に多い。たまに売春というのがある。どうしてこの売春をつかまえたかというて聞きましたら、これは青カンだということでありました。青カンというのはどういうものか私は知りませんけれども、(「そう謙遜するな」と呼ぶ者あり)いや、そう言いますから、青カンというのは何かと言いましたら、露天だと言います。そんなら、もう今日条例を設けずとも公然わいせつ罪がある。それは夫婦でもいかない。あにひとりの売春のみをとがめんや。金をとろうととるまいと、売ろうと買おうと、そういうことに関係なしに犯罪は成立するのであります。たまたまそれがある。それから、宿屋から出てきたのを捕えるのがあるということをけさ聞きました。お調べ下さいますとわかります。ところが、これは挙証ができないというのは、もう私どもの方の専門家の一致しておる意見であります。公判廷に持っていったらどうしても挙証ができない。犯人の自白が刑事訴訟法上の証拠にならない。無罪であります。法律にはそういうふうに一面に落度がある。法律は万能でない。万能は、人格的自律、社会的制裁、その国の風紀の程度にある。民俗の最近における著しい反省を欠いた堕落状態はまことに慨嘆にたえないが、これはその間から発生しておる事実であって、単なる法律によって取り締るということの至難さをしみじみ思わせられるのであります。私もどうもこの辺についてはすこぶる不安でございますが、仰せの通りに、何とかそれを取り締る方法があればいいと思います。しかし、審議会からの御答申も、一応この程度を妥当とする、こういうことでございまして、なお後日の研究に待つということでございますから、どうぞ、御了承の上に、御批判を賜わって、できるならば過程としてもお認めを願いたいと思うのでございます。  それから、資本主義のもとにおいては金持ちだけが隠微の間にぜいたくをしておるということ、これは通則でございますから、それを今私どもに芸者をどう取り締るかと言われましても、ちょっとお答え申しかねますが、これは、宿を貸して売春の事実があるとするならば、これはこの中に幾多の取り締る法規が、ございますが、というて、それがなじみとかなんとかいう関係で無料でやったら一体どうするか。性行為男女の合意において行われる限り、私は非常にむずかしいもの、だと思う。私は、これを処罰の対象にすることは、芸を売っておる者が、あとの、いわゆるなじみといいますか何といいますか、そういうような合意における行動を、どうも処分の対象にすることはできなかろうと思う。それじゃ一体どこに証拠を押えるかというときに、私は押える挙証はむずかしいと思う。出てきたところをつかまえたところで、一晩じゅうマージャンをやっておったと言ったら、どうもしょうがない。私は決して弁護するのじゃないのですが、そういうふうに専門家の諸君の説明を聞くと、手をあげざるを得ませんので、一応私のような経験の浅い者はこれに服従しておるわけでございます。どうぞ御検討を願いたいと思います。
  33. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 売春そのものを処罰しないということになっておりますから、そこで、何回も何回もやる常習売春者、これは、たしか他国には五回か六回やけば常習とみなして処罰するような規定があるのじゃないかと思うのです。私は前に本で読んだような記憶があるのです。何回も何回も参考人として呼び出され、それは犯罪じゃないから処罰されないでしょうが、そういうことを何回も重ねても、なおこれを処罰するのかしないのか。常習者をどういうふうにお取り扱いになるのか、それをお伺いいたします。
  34. 長戸寛美

    長戸政府委員 売春行為それ自体に関する限りにおきましては、一回の行為も、常習的な行為も、ともに刑罰対象としないという態度でおります。ただ、そういう場合におきましては、実際問題としては五条のようなものに触れるというような者もあろうかと思いますが、観念的には、常習の者もこの法律では処罰の対象にしておりません。
  35. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうしますと、自分でささやかながらも家を一軒持って、そうして売春を自分自身でやっておる婦女、——その周囲からもほとんどそれが明らかに指摘せられる、また、その女は何らの職業についていないから、それによって生活しておることは明らかだ。そこで、いろいろな問題で、そういうことがたびたび問題になった。しかし、今のこの法律では、明白に自分みずからが売春宿を経営し、自分みずからがからだを売っておるものを、これは処罰することができないということになるかと思うのですが、かようなことが一体社会の一角にあっていいか。ことに、密集した住宅地帯の中にそういう宿があって、あしたに平家、晩には源氏を迎えるような女がおる、飯たき女か用心棒か一人かかえ込んでそういう生活をやっておる者があっても、そうしてそれはほとんど十目の見るところ一致しておっても、この法律では取り締られないということになるのでありますか。それでいいかどうか。
  36. 長戸寛美

    長戸政府委員 売春行為それ自体に関する限りにおきましては、常習売春の場合におきましても、われわれが心配しておる問題は同一でございますので、この法律では処罰の対象といたさなかったのであります。ただ、そういうふうな常習売春者にしても、あるいは一、二回やったにすぎない売春者というふうな者にいたしましても、そういう者に対しましては、これは観念的には売春を行うおそれのある女子というふうに考えられる次第でございますので、この法律としてそれを保護更生対象としていくという考え方に立っております。それから、もう一つは、個人で家を設けて売春をいたします場合に、五条の三号によって、公衆の目に触れるような方法で客待ちをし、または広告その他これに類似する方法によって誘引するというのに当る者もあろうかと考えております。
  37. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 私は実はまだたくさん質問があるのでありますが、代議士会が始まりますので、この辺でやめたいと思いますが、一点なおお尋ねすることは、この前の第九条の逐条説明のときに、売春させる目的で前貸しその他の方法により人に金品その他の財産上の利益を供与した者は、これは未必の故意だけでは足りないのだという御説明があったようであります。第九条の売春させる目的は未必の故意だけでは不足だ、未必の故意だけならばまだ目的罪としての構成要件を備えないということ。そうすると、これは実は社会党の案にもこうなっておりますが、実際問題として、未必の故意で足りないということになると一あなたのような解釈だとすると、立証問題上ほとんど立証が困難になるのではなかろうか、こういうふうに思われますが、この点の御見解はいかがでしょう。
  38. 長戸寛美

    長戸政府委員 御説のように、本日御配付申し上げました売春防止法案逐条説明書十二ページにその由を書いておきました。これに対しては売春が行われることを希望ないし意欲しなければならないというふうに申してございます。実際問題といたしましては、これまた御配付申し上げました売春行為関係ある判例要旨集に、売淫させることを内容とする契約の意義、または児童福祉法における淫行させる行為の意義、そういうことにつきましてかなりの判例がございますが、その判例などを見ますと、実際問題として取締りに特に困難を感ずるということはないように思っております。
  39. 高橋禎一

    高橋委員長 午前中はこの程度とし、午後は二時から再開することとし、それまで休憩いたします。    午後零時四十二分休憩      ————◇—————    午後二時三十四分開議
  40. 高橋禎一

    高橋委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  売春防止法案について質疑を続行いたします。世耕弘一君。
  41. 世耕弘一

    世耕委員 政務次官が他へお出かけになるようでございますから、政務次官にまずお尋ねいたしますが、この法律を作る前に、いろんな風紀取締法とかあるいは刑法の勅令等の規定で一応取り締れると思うんだが、特にこういう法律を今出さなくちゃならぬというのは、何か特殊な理由があったのかどうか、世間がやかましいから出したのか、一つその根本的なことを簡単に最初にお尋ねいたしたいと思うのであります。
  42. 松原一彦

    松原政府委員 これは昨日提案趣旨を申し上げときにもほぼ述べておきましたが、もともと法律のできから申せば、従来も法律はそのつどそのつどぽつりぽつりと思いつきのようにできたものであって、これで取り締れないとは申されませんけれども、首尾一貫いたしておりません。量刑の問題から申しましても、全体に統一のあるものではございませんし、また、大部分が地方条例にゆだねておりますので、地方条例がまちまちになっておる。五十五の地方条例中売春そのものを取り締るのは二十五といったような工合で、非常にまちまちになっておりますので、それをばとにかく一貫したる法律にまとめ上げたのがこの法律でございまして、政府の意向はもちろんでございますが、しかし、一方においては、国会における、立法の府における御要求に基いて行なったものでございます。
  43. 世耕弘一

    世耕委員 事務当局も今の答弁でよろしゅうございますか。
  44. 長戸寛美

    長戸政府委員 ただいま政務次官からお答えになりましたように、見方によりましては、現行の法規でも取り締れるのではないかというふうな考え方もあるわけでございますけれども、現在あります関係法規は、それぞれの制定の時期とか、制定の目的とか、それがいわばばらばらでございまして、それ自体に盲点が残されておりますばかりでなく、それにもまして、売春業者なり人身売買なりの取り締りをねらいとした全体的な体系ができ上っていないという点が一番大きな問題であろうと思うのであります。従いまして、その総合的な立法という意味で本法案提案したような次第でございます。
  45. 世耕弘一

    世耕委員 御趣旨は一応わかりましたが、実は、従来ある法律を実際は実施していなかったのではないか、こう私は考えておる。そうして、またこんな法律を作って世間を騒がすだけで、実施する意思のない法律を作るということはむだのことではないか、むしろ法の権威を失墜しはせぬか、こういう議論が成り立つのではないかと私は思うんです。まあ、それはしかし、あとで事務次官もおいでなさるということを約束して下さいましたから、私はそれ以上突っ込んで御返事を伺うことを避けておきます。  先ほど来他の委員からも売春の問題についていろいろ論議されましたが、売春が社会の話題になるようになった原因はいろいろある。いろいろあるが、まず国家権力で取り締る前に道徳の高揚ということが非常に必要じゃないか。性道徳の高揚、これは松原政務次官もるる述べられたところであります。道徳の高揚、性倫理の向上ということに対して、政府ははたして誠意をもってやっておるかどうか、私は非常に疑わしいと思う。その点に関しまして、あるいは私の考えと当局の考えとは違うかもわからぬから、ここに例をあげて御意見を伺っておきたいと思うが、最近発行された「太陽の季節」という芥川賞をもらった本がございますれ。それからまた、今月も出ましたが、中央公論に谷崎氏の第三回目の「鍵」という連続的な日記体の記事が出ました。あれをどう見ますか。あれをどういうふうに御判断になるかということであります。まずここから私はお尋ねしておきたいと思います。ああいうこと自体が、いわゆる熱情にかられ青春の気に満ちた青年をどこにかり立てていくか。この解釈をまず基礎にしてから出発していかないと妥当な見解はできぬのじゃないかと思うのですが、それはいかがですか。
  46. 松原一彦

    松原政府委員 えらいむずかしいお尋ねでございまして、実は、私、老人で、「太陽の季節」の方はまだ読んでおりません。(笑声)あとのは中央公論にありますものですから、ついのぞいてみて、実は驚いているのでありますが、老人たちが文芸の名のもとにああいういたずらをすることについては、私は遺憾を感じます。ああいうものを一番先に飛びついて読むのはおそらく青年であろうと思う。老人たちは苦笑いをして読むにすぎまいと思うのでありますが、思春期の青少年が、今日旧道徳を失って新道徳のまだ確立しない際に、男女共学の教育を受け、今までと違った風俗習慣の中にさらされる。進駐軍が持ってきた男女間の行動等が露骨にさらされるこの際に、ああいうもののはんらんすることは、私は少くとも遺憾千万だと思う。ある種の春画を文章に読むようなものがおくめんもなくさらされておることが、いい影響があるとは思われません。遺憾であると思います。
  47. 世耕弘一

    世耕委員 政務次官の御趣旨はよく了解いたしますが、政務次官は道学者としてのお説であって、これをいかに事務的に取り扱うかということについて、事務当局から何か所信があるはずだと思いますが、いかがですか。
  48. 長戸寛美

    長戸政府委員 石原慎太郎氏の「太陽の季節」、それから谷崎潤一郎氏の「鍵」、こういうふうな問題につきましては、事文学そのものに関連する問題でございますので、思想表現の自由との関連において慎重に考えなければならないと思うのでございます。法律によって規制する、——これがいわゆる春本とかそういうふうなものでありますれば、事比較的簡単でございますが、文学として現われたものにつきまして、これを考える場合に二つ考え方があろうと思うのであります。いわゆる刑罰によってこれを規制するというふうな行き方と、まず第一段階といたしましては、文学界なり映画界なり、そういうところの自粛によって、あるいはお互いのそこに自律的な規制というふうなものにまず第一によってやる、こういうふうな考え方であろうと思うのであります。従って、われわれとして、もとより無関心ではございませんけれども、映画につきましても、映画倫理委員会等の自粛あるいは規制というようなものをまず要望したいというふうに考えるわけでございます。また、文学、映画等に関する問題といたしましては、これを規制する場合に、全面的に規制するというよりも、青少年にそれをまず読ませない、あるいは見せないという点から規制していくというふうなやり方があろうかと考えます。これに関連いたしましては、青少年の保護育成に関する条例が幾多出ておりまして、ある程度の規制を行なっておりますが、それでも、これまたいわゆる思想表現の自由との関連において憲法上むずかしい問題がございます。われわれとしては、法律をもってそういうふうなものを作案すべきではないというような御意見もあり、またその面の検討を続けているような次第であります。放任する意思ではございません。
  49. 世耕弘一

    世耕委員 今私がお尋ねしたら、谷崎氏の文学、芥川賞をもらった石原氏の「太陽の季節」を、松原政務次官は忙しくて読んでないという話ですが、最近の日本の社会の先端をいく性の問題を取り上げる上においては、政務次官は不粋な方でも(笑声)ぜひ読んでおかなくちゃならぬ問題だと思います。私は文学の価値判断をここで論議しようというのではありません。端的に批評してみるならば、石原君の「太陽の季節」は青少年層を代表しており、いわゆる二十代を代表している。それから、谷崎氏のは老人層を代表していると私は見ている。二つ読むと性の問題がおのずからわかってくるわけであります。これも私は後日もっと突っ込んでお説を承わることにしますが、事務当局からの、文学論に関係があるからしばらく検討したいというその答えについては私も同感でありますけれども、本来の性の問題を取り上げて直接われわれはあしたからでもこの法律と取り組まなければならぬ。場合によったら刑事事件の犯人とならなければならぬ。そういう問題が論ぜられているときに、文学論だから後回しにしていいということがどうして言えるか。ここに私との判断の食い違いがある。それと、もう一つは、今日の性をかくのごとく挑発せしめた原因は、映画演劇、文学にあると断じていいと思う。いいか悪いかは別ですよ。かり立てた原因です。松原政務次官はおそらく「チャタレー夫人」も読んでないでしょう。(笑声)私は読んでいます。かような実情でありますから、性それ自体の問題は重大な問題なんです。だが、しかし、今町にはんらんしている性に関する映画、演劇、文学を野放しにしておいて、こんな法律を作ってどうするか。犯罪人をふやすばかりだ。根を断とうとしてない。ここでお聞きしたいのは、軽犯罪法の第一条二十号には、公衆の目に触れるような場所で公衆に嫌悪の情を催させるような仕方で、しり、もも、その他身体の一部をみだりに露出した者は軽犯罪法にひっかかるという規定がある。これはどうしたことです。これにかかりそうなことは町にはんらんしていますよ。もう一つありますよ。刑法の百七十五条に、わいせつ文書頒布等ということがある。その規定には、「猥褻ノ文書、図画其他ノ物ヲ頒布若クハ販売シ又ハ公然之ヲ陳列シタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ五千円以下ノ罰金」とある。これに該当しないかと言うのです。この中央公論に書いたのは、この雑誌はこの法文の解釈から言って該当しないかと私は言うのです。私は、少し潔癖かもしら山けれども、該当するような気がするのです。こういうことが差しつかえないのだというなら、人が合意の上で、金をやろうがもらおうが、いいことをするのに干渉する、しかも国家権力によって干歩するなんということは、この人たちの論法から言えば、時代おくれもはなはだしいというものです。われわれ国会の連中はよっぽど封建的な頭の持ち主だと、もの笑いの種にたる。  なお、この機会に私は委員長にお願いしておきますが、実は、前の委員会のときに、こういう問題を真剣に文芸的にあるいはいろいろな角度から研究されておりまする、いわゆる知識人といい、文化人といい、文芸人と称する文士の方数名を参考人に呼んだことを記憶いたしておりますが、病気、旅行その他で一人も出てこなかったと私は記憶している。今度はぜひ、こういう本を書いた人たちがどういう気持で書いたのか、一つ参考人として呼び出していただきたい。その人たちの意見、これは重要なことであります。そして、その人たちほんとうに文芸価値を向上せしめ人間性のあり方を指示するためにするとするならば、その人たちの意見に基いてこの法律を作るべきだ、かように私は考えておるのであります。  そこで、あとへ戻りましてお尋ねいたしたいことは、今申し上げたように、刑法百七十五条並びに軽犯罪法のこの規定から言って、現在の映画、演劇、文書、図画がこれに該当しないのか、これを一つ聞かして下さい。
  50. 長戸寛美

    長戸政府委員 一般に行われております映画またはショーなどで非常に露骨なものに対しましては、ただいまお話のありました刑法のわいせつ罪等によりまして取締りをしておるわけでございます。事文学にわたるものにつきましても、われわれとしては、特に公然と申しますか、わいせつにわたるものにつきましては、あえて起訴しておる。ただ、問題が芸術と思想表現の自由に関しますので、一般の新聞などに比べて慎重な態度によって臨むということにいたしておる、こういう次第でございます。
  51. 世耕弘一

    世耕委員 少しお答えが不徹底なように思いますが、重ねて突っ込んでお聞きすることを私は避けます。ただ、最近の映画に、あれは舟橋聖一氏が書いた原作による映画の場面に、愛情のない結婚は売春だということをせりふに使っております。愛情のない結婚は売春だ—。そうすると、今ここに規定している売春というものとよほど差がある。解釈が違う。飛び飛びで申しわけありませんが、これは松原政務次官にお聞きした方がいいかと思いますが、これは当局の若い人よりもあなたの方がおわかりだろうと思うが、あなたは恋愛の経験があるかとお聞きしたい。これは大事なことです。恋愛とは何ぞやという問題であります。これは売春関係があるのです。おれは恋愛したことはないとおっしゃれば、これは別であります。
  52. 松原一彦

    松原政府委員 恋愛というものならば私も経験がございます。
  53. 世耕弘一

    世耕委員 恋愛をしない人は人間的価値がないと、私はこう言いたいのだが、さすがに政務次官は経験ありとはっきりおっしゃっていただいたから、私も意を強うする。それなら、お尋ねいたしますが、実は今具体的なことを言うことをなるべく避けたいのですが、アメリカへ日米関係で花嫁として渡っておる人がかれこれ三万人あるのです。その人たちの過去はどういうことから出発をしたことであろうかということを、私、まじめに考えてみたい。これは最初から見合い結婚であったか、あるいは恋愛に陥ったから家庭生活に入ったかどうかということ。簡単ではありますけれども、むずかしい問題です。初めから好きだ、一目見て好きになったという人はまれです。よほどきれいな人か特殊な関係にある人です。お互いにお茶を飲んだり、散歩したり、あるいはまた旅行したり、少し経済的に恵まれた人は洋服の生地を買ってやったり、あるいは時計を上げたり、または小づかいを上げたりしておるうちに、情が移って、ここに結婚生活が出てくる。同棲もしようかという気持が出てくる。それが私は花嫁になった結果ではないかと思う。初めからほれたのではない。初めから恋愛が成立したのではないと思うのです。そこなんです。今日の恋愛は、経済関係を切り離して恋愛は成立するかと言うのです。それはよほど純真な人なんです。よほど純朴な人たちはそういうことができるが、そんな時代ではありません。もっと深刻だということを考えていただきたい。ロマンス・グレーという言葉が出てきた。それは何を意味するか。松原政務次官も私も、白くなったから、ロマンスから少し遠ざかってきました。問題はそこにある。非常に大切なことなんです。私は実はこの法案を見ながら悩んだ。これをどういうふうにして解決するか、下手をすれば罪人をよけい作る、しかも青年婦女子をしていたずらにひねくれた根性にまた追い込んでいくのではないか、こう考えた結果は、実はこれはもとを正していかなければならぬ。もともと彼らの好む文学、あるいは映画演劇等を考えていくと同時に、世界の動きということも考えてみなくちゃならぬ。日本だけの取締りではいかない。欧米各国の映画も盛んに入ってきている。私は、できるだけ若い人の気持を知るために、一週間に二回、ひまがあれば三回ぐらい映画を見ているが、まともに見られない映画がかなりの数上映されている。それを野放しにしている。そこへ持っていって、この文芸がいい悪いということは批評しませんが、こういうような著書をそのままほうっておいて、そうして、お前ら色ごとしては悪いぞ、したらこういうような処置をするのだということが、果しておとなの立場として正しいのか、こう考える。その点についてお尋ねするとあるいは無理になるかもわかりませんから、もう一つ私は例を申し上げておきます。  もう一つの例は、明治十年ごろ坪内迫遙博士が書いた小説。かなり当時として進歩的である。いわゆるぬれごと師とかなんとかいう言葉がちょいちょい出ておる。その時分はまだハンケチという言葉日本になかった時代であった。文学者はある意味において先端を行くという点も考えてみなくちゃならない。なお、明治十四、五年ごろでございましたか、大阪毎日新聞の小説のさし絵の問題で事件になって、第一審、第二審とも風紀を害する事項を新聞に載せたものとして罰したけれども、大審院は、男女両性が握手し、相抱擁し、相接吻することは世界の風潮だから、そう神経質に取り締ることは適当にあらずというて、それを無罪にした。当時の大審院の人はどなたであったか、まだ調べておりませんが、今の言葉で言えばよほど粋な人であります。時代に目ざめた青年男女の気持をよくのみ込んでやったことじゃなかろうかと私は思う。われわれは後世に笑われるような法律をここに作りたくない。接吻すること、抱擁することは、日本の古い道徳からいけばきたないことである。けれども、今日世界の文化があらゆる形において日本に怒濤のごとく流れ込んでくるこの状態から見て、それを防ぎ切るということは私は不可能だと思う。それを適当に調和させる方法を考えていかなくちゃならぬのだが、それを法律にのみたよろうというところに矛盾があると思う。  もう一つは、今ある法律を使わないで、その上にまた作ることは、法律の氾濫であって、意味をなさぬ。ほんとうに取り締る腹ができているのか、ここのところに大きな問題がある。性の問題はもう少し掘り下げて考えてやるべきではないかと思う。人間の基本的人権、憲法上の問題である。社会の秩序は、法の権力だけでは維持できるものではないのだ。道徳という良心の背景があってのみ完全になる。ことに性道徳においてなおさらではないか。どなたか、先ほど、二重橋前が何か非常に異常を呈しているようなことをおっしゃっておられましたが、あれを、ただ一面だけ見ないで、根本に掘り下げていってみるべきじゃないか。そうしなければ断つことはできない、こう考えるのであります。  おしゃべりしても尽きませんから申し上げますが、先ほど事務当局からお話がございましたが、性に関するそういうような文書、図書あるいはその他のことについて研究なさった数並びにその内容等について御発表あれば願いたいのと、現在の状況、今検挙されておられる文書、図書、演劇は、今研究中に属するのか、あるいは取り上げて処置する必要もない状況にあるのかどうかということもあわせて、警視庁からもおいでになっておりますから、一つ現状をありのまま報告していただくと同時に、あのまま行っても、あの程度ならば、日本の青年婦女は、良序、いわゆる秩序をりっぱに維持できるのだとお考えであるかどうか、お答え願いたい。
  54. 長戸寛美

    長戸政府委員 結論の方から先に申し上げますが、不良な出版物として検挙したものの数等につきましては、ただいま資料を持っておりませんので、次回にお答えいたしたいと思います。  おもだったものとして、文芸書として検挙しておりますのは、ロレンスの「チャタレイ夫人の恋人」の訳、それから、ヘンリー・ミラーの「セクサス」などであったと思っております。それから、先生からおっしゃった舟橋聖一氏の、あるいは「白い魔魚」かもしれませんが、それとか、あるいは「当世書生気質」、あるいは山田美妙斎の「胡蝶」のさし絵等について、いろいろお話があったわけでございますが、そういう問題でありますればこそ、文学に関しては相当慎重を期する必要がある、かように考えております。  それから、私はもとより、たびたび政務次官からもお話し申し上げましたように、売春の問題は、法律だけ、ことに刑罰だけでこれを解決できるものではなくて、政府の事務当局といたしましても、連絡協議会におきまして、かねて行政措置として性道徳の高揚その他についていろいろと検討しておるわけであります。また、青少年問題対策協議会等において、不良文化財に対する立法措置その他についても検討しておる。われわれは、この売春立法によりまして、若い世代の人たちの、夢かもしれませんけれども、正常なる性生活を保障しよう、こういう覚悟でおります。
  55. 世耕弘一

    世耕委員 私は、法律よりも、いわゆる性の純潔をたたえる意味において、良心的な目ざめを誘導することがまず大切ではないかということを考える。それに対して政府は一向に指導的立場にないじゃないか、それを放擲しておるじゃないかというところに、私は問題があると思うのです。というて、それをやぼな法律でもって厳罰主義でやるという行き方は時代おくれだ。だから、谷崎氏にしても、あるいは石原氏にしても、何か世代に対する指導方針と文学者としての見識において書かれたのだろうから、委員長にお願いして、ぜひこの二人は最小限度において呼んでいただいてその意見を聞くということ、か必要だと私が思うのは、そこなんです。  なお、私が申し上げる根拠をもう一つ申し上げてみますと、これも記録をたどってみたのでありますが、親鸞上人が綽空というた若い時代の記録、建仁三年四月五日寅の刻、いわゆる大悟徹底したという記録なんかを発見するのでありますが、いわゆる綽空、後の親鸞上人が、叡山で修行しておるのを抜け出して、京都六角堂に参禅したときに、観音様が現われて、夢のお告げに、なんじ女犯の宿業あるを、されば玉女にかわりて犯させてやらんとのたまわく、こういう記録が出ておる。この玉女というのは、当時九条家の当日姫といわれておったきれいな姫君であった。それによりますと、いわゆる叡山の宗教生活を抜け出して、六角堂に参禅すると称して、実は王女のところに通っていた。けれども、観音様が現われて、お前は女難の相がある、玉女にかわって私が犯されてやろうということを夢まくらに立たれて言われた。それから親鸞はついに玉日姫と結婚したということが記録に載っておるのですが、世論はこれを売笑としてののしっておる。ののしっておりますけれども、いわゆる性の目ざめ、人間としての彼の目ざめがついに親鸞をして日本に新しい時代を打ち立てたということが認められるのであります。こういうことを、過去の歴史、いろいろなものを総合してみますと、性に関する問題はそう一朝一夕に簡単に取り扱うべきものじゃない、こういうふうに私は非常に真剣に考える。それで、常に衣食住性、この四つは人間生活根本問題である。ことに、性は、政治の上から見て、また人間生活の上から見て、あらゆる社会生活の上から見ても重大な問題だから、そう簡単に取り扱うべきではない。ことに、それを国家権力によって、法律に基いて一挙に押そうということは無理じゃないか、こう考えて、実はお聞きしたいと思ったのでありますが、残念ながら、私の知っておる範囲におきましては、性生活に対する研究とか教育というものが、家庭においても、学校においても、まだそこまでいっておりません。ただ、急に性を解放されたから、彼らがまっしぐらにその目標に突進しておるのが今の勢いである。それをつかまえて、これを厳罰主義かあるいは法律の権力によって支配しようとしたら、その余波はあらゆる面に爆発することを予見する。それあるがゆえに、私は、慎重に論議し、慎重に取り扱っていただきたい、かように考えるのであります。  先ほど政務次官に恋愛したことがあるかと、はなはだ失礼なことを私はお聞きしたのですが、恋愛の根本を掘り下げていくと、いろいろな問題にぶつかっていくのです。本来がそこに触れていかなくては、ほんとうにこの問題は取り扱っていかれないのではないか。機械的にはいかぬ。機械的にすれば、逆に必ずこの法律が悪法となって大きな害悪を社会に流す結果になるのではないか。これは今日お答えを承わろうとは思いませんが、どうぞ慎重な態度でこの法律を作るように、私たちも協力したいが、政府当局も真剣に掘り下げていって、後日に憂いの残らないようにしてほしいというのが私の希望で、その角度から実はお尋ねしたようなわけであります。
  56. 松原一彦

    松原政府委員 近畿大学の総長として多くの青年学徒をお預かりになっていらっしゃる豊富な御経験と御責任の上からの御立論でございますから、私どもは傾聴をいたします。同時に、対策を示していただきたいと思う。その御経験と御結論から、現状のままでよろしいかということを私はお尋ねしたい。今日のごとき性行為の混乱している、性道徳の紊乱している現状を、時代の流れとして黙って見ておってよろしいか、その根源をつくことについてはもちろんでありますが、それには法律の面からだけとは申しておらぬのであります。立法の面からこの問題を取り扱うべき要求が立法の府からあって、政府はこれをばこの国会提案しなければならない責任を持っているのであります。義務があるのであります。それで、幾多慎重なる過程を経てここに一応の案を立ててお目にかけましたので、瑕疵がありまするならば十二分に御検討をいただきたい。  実は、私ども、この問題は、性の問題としては、いわゆる性立法としては画期的なものと心得ている。従って、これは必ずしも刑罰を求めておらない。国の意思として、売春行為は悪なりと断じてはおりますが、その悪は、多分に倫理的、道徳的な悪であって、刑罰対象ではないと申しております。ことに、生活能力の少い若い婦人が人身売買の対象となって扱われ、あるいは搾取の対象となるというようなことから、むしろこの法律は今日の人権問題に照らして婦人の人権を擁護する法律、あるいは風紀を純化するところの法律というふうにすらもわれわれは考えて、その題目をも幾たびか考慮した次第なのであります。性立法のむずかしさは、仰せを承わるまでもなく、われわれは身にしみてこたえているのであります。ただし、というて、野放図に、時代の推移だといってまかしておくわけには参りませんから、その一環としての法律の面をこの際形に現わしたものでございまして、私は、今度のこの売春防止法は画期的なものと心得ております。倫理規定を入れておるこういうものは、この方面ではいまだありません。また、人権をじゅうりんしてはならないと、特に条件が第四条に明らかにしてあります。こういうことも従来にはほとんど例のないものであります。  だんだん性方面に関する時代の認識は変って参ります。裸体像の腰に布を巻かした時代もあります。しかし、今日は三宅坂には三人の裸女が立っております。千鳥ケ淵には三人の男が立っております。これを世間は一向に疑いません。問題にしませんが、私どもはこれも確かに時代の推移だとは思いますものの、しかし、それならば、性行為が裸出してよろしいか。裸にせられて白日のもとに一体できるかどうかということを考えると、限界がある。抱擁したる姿をば、まさか白日のもとにはさらすわけにはいきません。午前中も申し上げましたように、たとい正しい夫婦であろうとも、その性交は人の前にさらせば刑罰対象であります。売春のみが刑罰対象ではございません。性行為そのものはたとい神聖であっても、根本は神聖なる生命のもとであろうとも、露出せられないところに人間の特性があると私ども考えておるのです。その特性は単なる約束ではございません。われわれの頭の底に羞恥心というものをもって植えつけられておる。やれというてもできない。人の目の前で露出して性行為のできる者はおそらくないと思う。これは動物だけであります。そこにおのずから人間というものの守らるべきものがある、限界があると私は思う。私は、慎重の上にも慎重に考えての今回の立法であるということだけば申し上げたい。そうして、いたずらにただ表面だけをとらえて厳罰にするというのじゃなくして、若き娘たちを刑罰対象とはせず、そうして努めてこれをば保護教化の対象としようといたしておる。また、一カ年以前に、つまり明年四月にこの保護更生面を実施して、その後の一カ年間に努めてこういう仕事に従事する人々を救い出して、しかる後に昭和三十三年四月一日から刑罰立法の方をは実施に移そうとします用意を持っておりますのは、努めて犯罪者を作りたくないからであります。刑罰目的ではなくして、刑罰なからしむることが目的でございます。何とかして、刑罰にしないで、こういう問題が道徳的反省のもとに行われまするように希望しておるものでございまして、どうか、学者でおありなさる、しかも教育の責任をお持ちなさる先生などが、進んでこの問題のあやまちのあるところはお正しいただきますると同時に、この根本の問題は別の問題としてさらにお取り上げになって、国の教育の上に、あるいは民族の純潔性の上に、あるいは宗教的戒律の上に御督励をいただきたいのでございます。私どもは、そういうものの総合を待って初めてこの問題が解決すると思っております。軽率にいたずらに罪人を作るためにやったものではない。罪人を作らないようにするために、慎重に考慮しながらこの法律案を立てたものであるということの真意だけは御了解をいただいておきたいと思うのであります。
  57. 世耕弘一

    世耕委員 大体政務次官の御説明は了承はできるのでありますが、私の質問の要旨を少しはき違えておるように考えられるのであります。それは、なぜかと申しますると、従来各種の法律がすでにあるのにもかかわらず、その法律が一向に実施されてないんじゃないか。ある程度これが従来実施されておったならば、もっと成果があがった、もっと今言う性の秩序が維持されたのではないか。それが実際問題として実施されてない今日ではないか。それをどうするのだ、それをはっきりさせないでおいて、またこの上に法律を——政務次官からおっしゃると非常にりっぱな法律たというお話でありますが、私もりっぱな法律であろうと思います。検討さしていただこうと思うのでありますが、りっぱな法律を作る前に、前の法律をもっと十分検討なさって、それからこの法案を完成していくことが必要じゃなかろうか。私がかりに当局であったとするならば、従来の法律である程度までの成果はあげ得たと私は思う。  一向それについて手を伸ばしてなかったということが今日の結果の大半をなしたのだと、私はかように思う。しからば今度は大いに厳格に徹底的にやれという号令をかけるわけではございません。性の問題は非常にむずかしいから、お互いが慎重を期さなくちゃならぬ、取締りにしても何にしても、何か万全の策をこれに考えなければならぬということを説く材料の一つとして、実は今申し上げたような例を出したのであります。決して今日の行き方を私は是認して申し上げたのではない。いかにすればいいかということを前提として考えたのであります。もし今の提案された法律をそのままうのみにしてかりに判断してみますと、神前で誓った夫婦の結婚は、カトリックのように、むしろ離婚を禁止するというところまで理想としていかたくちゃならぬ。また同時に、最近は、憲法ができてから新たに思想が変りまして、姦通罪が削除された。これも御承知通りです。今の思想からいけば、これは矛盾ではないか。もう一ぺん姦通罪は成立せしめる必要がある。ここに大きな矛盾、食い違いが出てくる。おとなの方は勝手なことをしておる、おれたち若い者だけをやかましく言うというのは、これは当然非難の中心になってきますよ。  これはよけいな話ですが、この間私は、委員会を担当しておったときに、女子大の若い人たち五十人くらいに取り囲まれて大いに私は議論した。性の純潔を生理的いろいろな関係から説いたところ、最後に何を言うかというと、何を先生は言っている、男性は一向に貞操を守らない、女子だけ純潔、そんなことは封建的です、聞けますかと言って一蹴されちゃった。そういう点が、この法律の中にもつつかれる面が出てくると思います。これは別な面ですが、産児制限だって同じことでしょう。奥さんの産児制限は、少くとも専門医に聞けば十日ないしは二十日はかかる大手術です。産児制限の去勢の方法、いわゆる避妊の方法は、男なら五分で済むじゃないか。御主人がやった方が確実だ。そうして一方は一万円以上かかる。主人の方はせいぜい高い医者にかかっても三千円か二千円で済むのを、男の方は一向やろうとしない。男の方が完全なのだ。  こんな矛盾した法律をかりにわれわれが作ったって、今の若い人たちはうんそうだと言って簡単には私は受け入れないのではないかということを心配しております。というて、これはほうっておけと言うのではないですよ。ほうっておけと言うのではないが、若い人たちも納得して受け入れられるものが何かありそうだ。それには、今申し上げたように、「太陽の季節」、あるいはまた、六月号も出ましたが、谷崎さんの中央公論に出ておる「鍵」、——大ぜいの文士の方、舟橋氏あたりも出てきてもらったらいいと思いますが、あの人たちはこういう方面には何十年かいろいろな角度から研究された方々で、そういう人たちに来てもらってこういう話を聞くこともまたいいのではないか。私は他の委員の方にも前回の委員会でも申し上げましたが、これは世論が大事である。世論がこうしろというのだからこういう法律を作らなければならぬ、あるいは、こうすべきだということが若い人の中からきゅう然と起った、その世論を背景にして法律を作ることが一番ふさわしいのではないか。年寄りだけで作っちゃいかぬというのが私の考えです。それには広く意見を聞く。往々にして、おじいさんやおばあさんが性の道徳を説いたって、それは時代おくれでせせら笑いされる。といって、おじいさん、おばあさんの説く性の道徳には真理がある。経験に基いておる。尊い経験に基いた真理はあるけれども、その真理をそのまま今の若い人たちはまともに受け入れてくれません。受け入れられる何かの方法を考えるべきだということ。  もう一つは、取締り当局、特に法律を預かっている事務当局の方々が、本件に対する態度をもう一段と掘り下げて、真剣な態度で臨んでもらいたい。現行法規はどうやらなまけて使ってなかったのじゃないか。これがついに野放図な今日の二重橋前を出現し、各所に青空が展開されたのである、こういうふうにも考える。その機会をねらって、いわゆる流行を追う文芸人がいろいろな計画のもとに図書、文書等を配布したことが大きな原因になり、そこへ諸外国の、日本道徳にマッチしないような映画、演劇が無造作に導入されたことが原因になったのじゃないか。まず、私は、この法律を作ることも必要だが、そのよって来たる原因のみぞをせきとめるということを、どういうふうに考えるかということの決意のほどを、実は松原政務次官から伺っておきたい、こう思っております。
  58. 松原一彦

    松原政府委員 中座させていただく時間が参りましたので、こまかなことは申し上げませんが、実は、立法の技術者である法務省の専門家たちの一番悩みましたのは、また行われざる法律を作らせられるのかということであったのです。禁止法とか、あのやみの統制法とか、そういう行われざる法律を作るほど法務当局としてはつらいことはない。そういう空文を作ったら法の権威は全く地に落ちる。また行われざる法律を作らせられるかというのが、あの技術者たちのひとしい嘆きの声なんです。それがここに今回の単純売春は罰せずというところまできておる。これは画期的なものです。現に今でも日本においては売春は罰するのです。性行為を罰するのですが、その性行為の立証ができない。そして公判廷においては無罪になる。ひんぴんとしてその事実がある。だから、今回のこの立法では、行われざるものは実は極力避けている。そこで、不徹底だとしかられている。昨日も参議院で画龍点睛を欠いたる法律案だというおしかりを受けているのです。確かに観念的にはそうでありましょうが、行われざる死文を並べたのでは、いたずらに法の権威を失うというところから、実は苦労いたして、最小限度まずこれでやってみようというところでございまして、従来の行われざるものにこりて、今回は行わるべき限界をこの法律で求めているということをも御了察をいただきまして、御批判、御検討は十二分にお願い申し上げますが、どうか私どもの苦心のあとも近畿大学総長は一つ考えいただいて御指導をいただきたい。(笑声)おしかりばかり受けたのではどうも困る。どうぞ御指導いただきまして完璧なものにしていただきたいということを希望いたしまして、私は中座させていただきます。実は、私は、まさか売春立法をやるような当局になろうと思ったなら、もっと勉強しておくのでございましたが、はなはだ不勉強で相済みません。お許し願います。
  59. 高橋禎一

    高橋委員長 この際お諮りいたします。すなわち、警視庁養老防犯部長を参考人とするに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  60. 高橋禎一

    高橋委員長 御異議がなければ、さよう決します。  警察庁の方から中川刑事部長、それから警視庁から養老防犯部長が出席しておられますから、そのことを申し上げておきます。
  61. 世耕弘一

    世耕委員 それでは、ただいま法務政務次官その他事務当局に本件に関して各般にわたってお聞きしたのでありますが、取締り当局としての実際問題、今後この法案が出た場合の成果等に関しまして、警視庁の養老防犯部長からお話を承わりたいと思います。
  62. 養老絢雄

    ○養老参考人 売春行為を取り締るたぬに、現行の法令が条例も含めてあるのでありまして、われわれも、日ごろ、そうした法令ないし条例の執行につきまして、限られた人員でありますが、係の者と専心その取締り等に従事いたしているつもりでございます。ただ、御承知のように、こうした売春事犯の特異性といいますか、ただこれを取締りをいたしましても、その取締り対象になった婦女子が更生させられる、ないしは保護させられるという点についてどうしても十分な裏づけがありませんと、取締りをいたしましてもなかなかその効果を十分期待することがむずかしいというのが、現実今まで取り締って参ったわれわれの考えでございます。従いまして、われわれとしましては、この売春婦そのものを取締り対象にするというよりも、この売春行為取締りを通じまして、売春にからみます、より以上の悪徳行為、たとえば通俗的に人身売買と言っておりますが、そうした問題、あるいは年少者をして売春をさせるような行為、そうしたものに取締りの重点を指向いたしておるわけでございます。条例等にいたしましても、その制定当時の沿革等がございまして、勢い重点的な取締りをせざるを得ないということになりますから、非常に町の目立ちやすい売春の勧誘行為とか、あるいは、今申しましたような、その背後にひそむ売春にからむいろいろな悪徳行為というものに重点的な取締りを指向いたしておりますので、必ずしも町の中にたくさんはびこっているのを一齊になくしてしまうというふうな取締りは、なかなかできないのが実情でございます。もし今度提案されておりますような法律が適用されるといたしますと、これに合せまして、保護更生、先ほど申しましたような点が並行的に行われるわけでございますし、そのほかの取締り規定にいたしましても、現行のものと比較いたしますと、むしろ、売春行為に伴ってくるいろいろな売春の場所を貸すとか、あるいはそうした売春施設を経営するとか、ないしはこうしたものに資金を提供するというふうなものがほとんど網羅的に取締り対象になるようにされておりますから、厳格にこれを実施することによって、保護更生等の措置と相待って私は数段の効果が期待し得るのではないかということを考えておるわけでございます。
  63. 世耕弘一

    世耕委員 次にお尋ねいたしますが、性道徳の近代性の問題です。項目はむずかしい議論になるようですが、簡単にお尋ねしたいと思います。われわれの青年時代に考え性道徳というのと、近代の青年男女性道徳というののうちに、よほどの隔たりがあるのではないか。こういう点については、あなた方が実際に扱っておられてどういう感じがするか、その点を御説明を願いたいと思います。
  64. 養老絢雄

    ○養老参考人 売春取締りを通じまして、特別性道徳等についてわれわれとして感ずることもそう多くはないのでございますが、ただ、売春婦等を取り締りまして、いろいろ取調べをいたしております間に、われわれとして感ぜられることは、何と申しますか、売春をすることは自由である、特に戦後のこうした風潮でございますから、売春婦たちが、取調官に対しまして、何ら警察によって取締りを受くべき犯罪行為を自分たちはしたのではない、むしろ法規に許された自由の行為を自分たちはやっているのであるというふうな点が非常に強く見られるのではないかと私は思うのでございます。すべての人たちがそうではないのでございますけれども、われわれといたしましても、取締りを通じまして、売春あるいは性の問題についてやはり戦前などよりは昨今は非常に解放的な感じをみんな持っているのじゃないかという感じはいたしております。
  65. 世耕弘一

    世耕委員 私は、むしろ、法律的な立法措置によって性道徳の確立をはかるということも一つの近道だと思いますが、いわゆる性に対する自覚、それから、特に女性に対する生理的ないろいろな問題等をもっと具体的に指導する必要があるのではないか、こういうふうに考えるんです。その証拠には、むぞうさに妊娠して、それも年若い十五、六、二十才にならない、やっと性に目ざめたくらいの子供が妊娠して、医者の家へかけ込む。これは東京都内でも多数例があるようです。しかも、それが、親切に治療をしてやってくれればいいが、どうかすると、それが技術上のまずさから生命の危険を冒すことになる。しかも、それがもしむぞうさに堕胎ができることを経験すると、今度は何回でもやる。そのうちに、いわゆる女性としての健康を害して、ついに命を捨てるということは、これはまれでないというのが、医師の統計その他で私は実は感じているんです。そういう面と相待って、何かこの法律を生かしていく方法があるのではないか、こう考えるんですが、現場でそういう問題を取り扱っているあなたの立場として、何かお考えがあるかどうか。私は厚生省関係の方の御意見を承わりたいと思いますが、警視庁の方の御意見をまず承わっておきたいと思います。
  66. 養老絢雄

    ○養老参考人 警視庁の防犯部では少年事件も扱っておりますが、ただいま御指摘になりましたような、少年が、いろいろな性的行為、ただ純粋な恋愛ということでなく、むしろ性行為そのものを楽しむというような考え、ないしは非常に軽率といいますか、安易な気持から単純に性行為に入っていくというような軽はずみな行為によりまして、結果的に非常に堕落しましたり、あるいは御指摘のような身体上のいろいろな故障を受けるというような事態があるのでございます。これもやはり、戦後の、新しいといいますか、一つの性観念に対するものの考え方、特に若い人たちにとってそうした新しい気持が出ておると思います。しかし、私どもとしましても、これと売春取締り等と直接結びつけまして必ずしも平素考えているわけではないのでございますけれども、先ほど申しましたように、一つは、そうした考え方売春婦などに非常に入り込みまして、自分たちの売春という行為そのものも必ずしも悪いものでないというふうな気持になっておるのではないかとも思います。
  67. 世耕弘一

    世耕委員 本件に関しまして、厚生省安田社会局長がおいででしたら、承わっておきたいと思います。
  68. 安田巖

    安田(巖)政府委員 今のお話は、衛生の問題といいますよりは、性教育といいますか、あるいは純潔教育といいますか、そういったような問題であろうかと私は思うのであります。しかし、そういう動機は別にいたしまして、厚生省といたしましては、最近とにかく妊娠中絶がふえているということは事実でございますので、母性保護の立場から申しまして、中絶でなくして、受胎の方の調節ということでいろいろ指導いたしているわけであります。お答えになりますかどうかわかりませんが、大体そういうふうな状況でございます。
  69. 世耕弘一

    世耕委員 受胎調節のことで先ほどちょっと触れておきましたが、婦人の場合と男子の場合とでは手術はおのずから別であり、また費用も男性の場合は簡単に片づくということを聞いているのでありますが、あなた方のような専門的立場から見て、世間のそういう批評が妥当であるかどうか、その点を……。
  70. 安田巖

    安田(巖)政府委員 実は、私、専門家ではないのでございまして、所管いたしております技官の局長がほかにいるわけでございますが、きわめて常識的に申し上げますと、避妊の手術まですることを別に奨励しておるわけではなくて、手術しないでもってそういった同じような目的を達せられるならば、その方がいいんではないかというふうな考え方であります。もちろん、優生保護法というのがございまして、御承知のように、悪質な遺伝質を持っておるような場合において行われることがありますけれども、きわめて一般的な話といたしましては、あとでいろいろ考え直さなければならない場合もございましょうから、そう一ぺんにみんな手術をするというふうなことまで奨励をいたしておるわけではございません。
  71. 世耕弘一

    世耕委員 最近アメリカの科学雑誌か何かに出ていたのをば拾い読みしたのでありますが、避妊をやりますと、それが回数を重ねるに従って、結果論から見て、女の人の子宮ガン並びに乳ガンが戦前の五%ふえたということが発表されておりますが、そういうことがあり得るのかどうか。私は、あるだろうということを十年前から想像して、実は反対論を唱えてきたのであります。厚生省の統計その他でそういうことの研究をなされておられるかどうか。心理的にも生理的にも必ずそういう結果を及ぼすだろうと想像していたのだが、専門雑誌に出ておりましたので、お考えを承わりたい。
  72. 安田巖

    安田(巖)政府委員 私、実はそういうことをあまり知らないのでございますけれども、先ほども母性保護の立場から申し上げましたように、とにかく妊娠中絶というものが母体に非常に悪い影響を与えるということは事実でございます。そういうことを避けるように、計画出産とか、あるいは避妊ということを指導いたしておるわけであります。今の質問のことにつきましては、いずれ調べてお答えいたしたいと思います。
  73. 世耕弘一

    世耕委員 不自然な性交ということが結局あらゆる面に悪影響を及ぼしてくる。すなわち、生理現象が変化を来たし、ついに人間の性格までも支配するようになる。場合によれば女性が中性化する。ある極端な科学者の議論によると、アメリカには中性の婦人が非常にふえた、だから、男と同じように、ざん切りで、もも引のような細いズボンをはいて歩くようになったのだということまで指摘しております。これは極端な議論かもしれぬけれども、それも考えられる。実は、私が扱った若夫婦の二、三の例をとっても、そういうことがうなずかれる筋があるのです。みつのような夫婦生活が、今度はかたき同士のようにして別れ話が成り立ったということもあるのですが、そういう点も加味して、性教育、性の調節ということも親切に指導してやらなければ、せっかくできた法律がまた実行不能の法律に陥っていくのではないか、こういうことを憂えるのです。これははなはだうがち過ぎた議論になるかもしれませんけれども、それくらいの親切さがなければ、この性の問題は扱えないのではないか、こういうふうに真剣に実は考えられるのであります。労働省から谷野婦人少年局長がおいでになっておられますが、こういう点に関しまして何か御意見があれば、この機会に承わっておきたいと思います。
  74. 高橋禎一

    高橋委員長 今、谷野局長はちょっと席をはずされましたが、すぐおいでになりますから、別な方に御質問を願います。
  75. 世耕弘一

    世耕委員 それでは、今度は取締り当局に具体論に入ってお尋ねいたします。映画、演劇に現われてくるキッスといいますか接吻といいますか、現在の程度は妥当かどうか。文学的価値は別ですよ。実際問題として、われわれが若い子女を育てていく立場から言って、あの程度はいたし方ないと黙過すべきであるかどうか。これは、現実の問題として、私のような年を取った人間はあまり感じは持たないけれども、若い方には相当興奮の材料になると思うのだが、そういう点に関しまして、これは警視庁の方から伺った方がよいかと思いますが……。
  76. 養老絢雄

    ○養老参考人 映画等で抱擁ないしキッスのシーンが出ておるのは、東京都内ばかりではなくして、全国各館にあろうと思いますので、そうしたものを問題にする場合に、刑法のわいせつ罪、公然わいせつ物を見せるという規定があるのみでございますが、従来ないし現在におきましては、われわれはこれをわいせつとは考えておりません。
  77. 世耕弘一

    世耕委員 私の聞いた範囲でありますが、日本向けの映画はかなり露骨なものを輸送しておるという。米国なり英国の国内ではもっと厳粛な場面をやっている。キッスの例をしますと、キッスしたような格好ではある。ところが、実際日本に来ているのは、そのまま、どっから見てもキッスしているに違いない。もっとそれ以上のものが現われている。ああいうことを果して青年男女に見せてよいかどうか。帰りがけにどんな気持が起るか。これははなはだ露骨な話ですけれども、現実の問題として考えなければならぬ。そういう点について取締り当局は非常に消極的ではないか、こう考えるのです。消極的だということは、政府の方針なり議会の方針が明確でないからだろうと私は思う。だから、この際、そういうことは十分論議し尽しておかないと、あなた方現場で担当される方は非常にお困りだろうと思いますから、実は掘り下げてお伺いするのです。  ついでながら申し上げますが、売春という事柄について、英国は職業としてむしろ認めている。ただ、それを、公序良俗に反するような、他人の目のつくところで、他人の迷惑するようなところでやる場合は処罰する。それ以外のことは、たとい金をもらおうが、時計をもらおうが、着物の布地をもらおうが、そんなことは要せぬ。こういうふうに私は資料をいただいたのでありますが、そういう点があるとすれば、かりにそういう思想を持った女性があなた方の手によって拘置された場合に、おそらくむきになって食いついてくるだろう、むきになって議論してくるだろう。それに対して議論の余地はないじゃないかと思う。他人に何も迷惑はない、自分が生きるためである、そして自己のものを提供するのがなぜ悪い、もしそれがいけないなら私たちの食えるようなものをなぜ与えないと言ってくるに違いない。そのときに、親切にその不心得をさとすだけの心がまえと用意が必要である。ただ、法律に書いてあるから仕方がない、入っておれということになると、むしろ逆に反感を高ずるだけで、法律的効果は得られないであろう、こういうふうにも考えられるのでありますが、こういう点についてどういうふうにお考えになっておられるか。
  78. 養老絢雄

    ○養老参考人 先ほどちょっとお答えの際に申したのでございますが、実際に売春婦等を取り調べております経緯からいたしますと、自分の行為ほんとうに悪かったということを女たちがその取調べの過程におきまして感ずるということは、おそらく皆無にひとしいだろうと私は思うのでございます。もちろん、取調ベに当る警察官も、道徳的その他につきましても自分たちの人格を向上させる必要があると思うのでございますけれども現状では、どうしても法規を執行するということだけを頭に置いておりますし、女の方も、生活に追われる、あるいは、ほかに食う道がなくてやむを得ずそこに入ったというのもありましょうし、あるいは、もうこれは自由ではないか、憲法で認められたわれわれの自由ではないかという考えでおる者もあると思うのでございます。従いまして、ただ、取締りに当ります警察官を自分たちの敵だ、自分たちの仕事の妨害者だということで、非常に敵衝心を持って考えるのみでありまして、真にこれを今おっしゃるような意味指導するといいますか、さらによき人間として立ち直るように指導するということは困難なのが現状でございます。
  79. 高橋禎一

    高橋委員長 長戸政府委員からも今の問題についてお答えがあるようです。
  80. 長戸寛美

    長戸政府委員 この売春をした女子に対しましては、われわれとして、この法律ができましても、第五条の勧誘に当ります場合におきましても、処罰よりもむしろ保護更生を主とする、——起訴猶予にいたしました者につきましては、先ほども申しましたように、更生保護相談施設等を通じて保護司の手にゆだねる、こういうふうなことを原則として参りたい。  それから、映画の問題のお話が出ておりましたが、われわれとして、たとえば「アウト・ロー」という映画がありましたが、それがアメリカにおいてアメリカの各州で検閲保留になっていたが、それが日本に入ってきた。そういう場合に、それをわれわれとしていかに措置すべきかというふうなことを考えたことがございます。実際入ってきたのを見ますと、それほどでもございませんでしたけれども、われわれには検閲というものがございませんし、それが刑法の公然わいせつということに当らない限りにおいては処罰できない。あるいは、青少年保護育成条例の関係におきまして、青少年にそれを見せたというふうな場合に初めて措置し得る、こういうふうな状態になっております。これは、先ほども申し上げましたように、まず映倫その他において自主的にそれを押える、あるいはカットするというふうなことが望ましいわけでございますが、そのはなはだしいものにつきましては、われわれとしてもやはり刑罰によって臨む、こういう態度でいきたい、このように思っております。
  81. 世耕弘一

    世耕委員 私は少し別な観点からお尋ねいたしたいと思うのですが、たとえば、人間には幸福の追求ということがある。幸福の追求は自由である。そこで、性の問題に触れてくるのですが、若い人たちは性生活をすることがすでに幸福の追求だというふうにごく簡単に考えている。それを今度は禁欲生活と同じようなところに追い込んでしまうということは、あとに非常な危険があるというようなことが言える。そこに非常にむずかしい問題が残っておるのではないか。それを、肉体的な幸福を求める性よりもむしろ精神的な面で幸福を追求するように導くことが、社会生活その他の面に非常に大切なことではないか。それを徐々に導く方法を考えなくちゃならぬのではないか。こういうふうに、問題を変えていくのが必要ではないかと思う。ところが、これも少し離れた議論になるけれども、近ごろ妻の不貞ということがよく新聞に出ておる。きのうあたりの新聞にも出ていたでしょう。有夫の妻が結局盛んにうわ気をするようになった。しかも、若い男を求めて街頭に出たり、喫茶店に出たり、いろいろなことをしておる。そういう傾向が日本ではもうすでに新聞の記事に珍しくなくなった。こういう点を今後どういうふうに措置せられるか。それは、亭主が悪い、亭主が女房の扱いが悪いからそういうような行為をするようになったのだといって、ただ簡単に割り切ってしまうべきではないと思う。こういう問題をどういうふうに持っていくか。先ほど私も申しましたように、今の法律をそのままずっと押していくと、結局離婚禁止、姦通罪成立というようなところに持っていかなければ解決しないということも考えられる。そういう観念と今の法律とどこかでぶつかりやしないか、矛盾がきやしないか。これは根本論であります。あるいは私の考え方が行き過ぎたのかもわかりませんが、こういうことを考える。もう一つは、男女同権じゃないか、——同権の議論から言えば、ある程度私は是認していくべきじゃないかと思う。基本的人権の建前から言えば理屈はないわけです。こういうことも考えられるのであるが、そういう点に至って、この法律はどういうところでからみ合いをするか、どういうところで矛盾が調和されていくかということをお考えになったかどうか。この点をお聞きしておきたい。
  82. 長戸寛美

    長戸政府委員 非常にむずかしい問題でございますが、幸福の追求の場合に、肉体的な追求のみでなく、精神的な面の追求ということ、——先ほど御引例になりました親鸞の例を借りさしていただきますならば、私は、綽空が関白九条兼実の娘玉目と結婚したいきさつにつきましては、非常に美しいものと感じておるわけでございます。これは史実かどうか存じませんけれども、私の聞くところよりますれば、親鸞綽空が叡山にありますとき、一般の僧侶が坂本の遊郭に通っておる、翌日は口をぬぐって知らぬ顔をしておる、こういうふうな状態であったと聞くのであります。親鸞は、自己を偽わることできがたくして、いわゆる当時としては女犯と称せられるところの玉日との結婚をあえてする、こういうふうないきさつになってくると思います。要するに、私としては、売春に逃避するということは、この点は人間としてなかなかむずかしいことではあろうと思いますけれども、それをやむを得ないからといって容認することはできないのじゃないかと思います。そこには、やはり、先生のおっしゃるように、性道徳の高揚あるいは性教育の徹底あるいは経済的な問題の解決というふうな諸般の行政措置なりあるいは啓蒙運動なり、そういうものによって初めて全般が解決される。人間は、これは確かに本能の問題ではございますけれども、しかし獣と違う。人間としての交化性という意味から申しまして、やはり少くともそういうところは踏み切っていくという努力があってしかるべきではないかというふうに考えておるわけでございます。もとより、われわれは、この法律あるいは刑罰のみによってこの問題を解決できるとま毛頭考えておりません。  それから、人妻の不貞の問題でございますが、これは、先生の御存じのように、ケッセルの「昼顔」とか、あるいはその他「肉体の悪魔」とか、いろいろそういうふうな人妻の不貞の問題を扱ったものもございますが、現在姦通を処罰しないという現状でありまして、ただ、それが売春に触れる場合、五条に触れてくるという場合には問題になると考えております。
  83. 世耕弘一

    世耕委員 今のお話に触れて申し上げたいのは、私はこの法案に真正面から反対しているのじゃない。いかにしてこの法律をりっぱに生かしていくかという面に慎重を期さなければならぬ、ただ法律のみにたよってはいかぬということを叫ぶために、私はあらゆる角度から御質問申し上げておるわけであります。今おっしゃったような、ほかの人は隠れて女郎買いに行く、それをむしろ公然と自分の愛人のところへ愛を求めて行ったという親鸞の純真さ、これも私は親鸞のあり方としてりっぱであったと思いますが、しかし、日本に仏教が入ってから数百年の間、親鸞のやったことは実は型破りであったことは事実でしょう。妻帯せぬ、女を犯さぬというのがおきてであった。それを破った。しかし、それは人間性を追求した親鸞の生き方であった。そこに新しい宗教が生まれてきたんじゃないかと私は思う。御承知通り、例の木食上人は、宗教に徹するために自分の男のものを根元から切ってしまった。そうして終生宗教生活に生きたという例が記録に残っているようであります。ところが、親鸞の生き方はそうじゃなかった。どっちがいいか。これは、私は、この法律審議するときのわれわれの一つのいい題材じゃないかと実は考えるわけなんです。現代大谷崎として文壇に輝いておる谷崎氏がどういう意味で書いたか、「鍵」という、見方によってはきわめて露骨な日記体のものが発表されている。また、若い方としては、「太陽の季節」というような、石原慎太郎君があの露骨なものを書いて発表されている。しかもそれが芥川賞をもらっている。文壇にもいろいろ問題がある。それに相前後してこの法律が出てきたということは、非常にくしき因縁じゃないか。だから、一つこの際世界の人に笑われないような文化的な法律を作りたいというのが私の理想であります。どうぞ、そういう意味で、今後もお尋ねするかもわかりませんが、御了解を願いたいと思います。
  84. 高橋禎一

    高橋委員長 世耕委員に申し上げますが、労働省の谷野婦人少年局長は、先ほど申し上げたように退席されましたが、労働省の婦人課長高橋さんがいらっしゃるのですが、高橋さんの御答弁でよろしゅうございますか。——それでは高橋人課長
  85. 高橋展子

    高橋説明員 婦人少年局長が中座いたしまして、失礼いたします。  お尋ねの点でございますが、避妊することによって女性が中性化するというような点があったかと思います。私どもの方としては、そのような点について肉体的な変化というようなことについてはよく存じておりません。  それからまた、一般に近来の青少年の間における風紀の頽廃というような点がもう一つお尋ねの点であったかと思いますけれども、この点に関しましては、私どもといたしましても、根本的に——私ども仕事は主として婦人対象にいたしておりますので、婦人の間に根本的に人権思想というものを涵養する、あるいはしっかりした勤労観を涵養するというような、むしろ根本的な方策によってその啓蒙を進めることによって、全般的に婦人の間にしっかりした考えを植え付けていきたいと考えて、いろいろな啓蒙活動などを進めておるわけでございます。あるいは、具体的には、先般催しました婦人週間などにも、家庭というような問題を取り上げました際に、家庭における倫理、またそれの前提となる結婚、恋愛の倫理というようなものを明らかにするように努力して参っているわけでございます。
  86. 世耕弘一

    世耕委員 男女性交という問題を真剣に考えてきておるかどうかという問題です。結局、男女が結婚から性生活に入って、社会人としてりっぱな家庭を持とうというまじめな生き方が私はふさわしいことでないかと思う。ところが、今の売春その他のいろいろな社会現象を見ますと、そういうのじゃなくて、むしろ享楽本位、そうして、その結果において肉体に異状を来たした場合には無責任な状況にある。その結果婦人をして不幸な生活に陥れるということは非常に重大な問題じゃないかと思うのです。そういう点に関しまして、今後どういうふうな処置をとるべきであるか。先ほど申しました、家庭生活の上において父母のしっかりした家庭教育、あるいは外部においては、職場において指導者を持つ、また学校においてはきわめて科学的な面から性教育のあり方を指導していく。現在のところ、学校での具体的な性教育に対する指導ということは残念ながら盛り上げられていないのです。それだから、結局、はなはだしきに至っては中学校の上級生あたりからすでに性の問題が新聞記事や何かの問題になる、高等学校その他に至っては目に余るものがあるということになってくるのですが、そういう点に関しまして、一般的は別として、職場においてどういうふうな指導をされておられるか、もし御意見があったら、この機会に承わりたいと思います。
  87. 高橋展子

    高橋説明員 先ほど申し上げましたように、私どもといたしましては、婦人問題という立場から、やはり根本的に婦人が人権思想を持ち、また正しい勤労観を持つということのための啓蒙活動を行なっておりますが、その点におきましては、職場に対しても同じ態度で臨んでいるわけでございます。ただ、私どもといたしましては、このような問題は、政府だけで、また法制的にだけ解決を求めるべきものではないと考えますので、民間の有識者の方々指導あるいは各種の団体等における活発な啓蒙活動というものに期待するところが非常に大きいわけでございます。
  88. 神近市子

    ○神近委員 関連して。私は長戸さんに、一、二点お尋ねしたいと思うのですが、今世耕委員からいろいろうんちくを傾けたおもしろいお話がございましたけれども、私は芸術の問題と立法の問題とはまるで別のものだと考えるのでございます。それで、むしろ、石原慎太郎のような作家を生んだのは、十年間われわれが無法律売春の問題を放置しておいてきたことから生まれているというのが一般の考え方であり、——これは、私、人ずてに聞いたことでございますけれども、彼は作家個人としては比較的清潔な良心的な人だそうでございます。それで、ああいう作品に対する批判、これはいろいろ議論がございますけれども、芸術というものは人類的のものであって、立法は国家的なものだというその限界をはっきりわきまえていただきたいと私は思います。それから、芸術は、評価が決定しないうちにわれわれ芸術の世界に無縁の者があまりこれに立ち入るということはいけないと私は思う。そして、前例がないかあるかといえば、そのときの作品、たとえば柳斎志異とか、あるいは千夜一夜物語でも、日本の古典にもたくさんああいう性質のものはあるのでございます。それで、谷崎さんだとか、あるいは舟橋さんだとか、あるいは石原さんという人たちの意見を聞いて、そして立法をするということは、私はこの場合妥当でないと考えます。おそらく呼んでも来ないでしょう。どうせわれわれの世界とは別の世界だというふうに考えて、きっと来ないだろうと私は思うのですけれども、この立法の基盤を決定するのに、あの人たちを呼ぶ必要があるとお考えになるか。これは、国家的なものと人類的なもの、あるいは国際的なものとの区別を考える場合に、どういうふうにそれを取り入れる必要があるか。千夜一夜物語やあるいは聊斎志異が出たときには、そのときの立法には何の関係もなく生まれてきている。その点私はとくと御考慮を願いたいと思うことが一点。  それから、立法と社会道徳の問題、この点で世耕委員が非常に慎重にお考えになっているということはよくわかるのですけれども、私は、立法日本道徳の規制を離れて考えていたのであったかどうかということ、立法が社会教育の一部であるという考え方でこの立法の問題は始まったと私は思うのです。それで、昨年来のいろいろな調査によりますと、売春婦の数がふえていない、あるいは下ってきているという事実、それから、世論に巻かれて、圧迫されて、売春婦を買う男の人が非常に減っているということ、これは調布でも約三割か四割は減じております。それから、八幡では最も減じまして、あれはやれなくなってやめたということを聞いております。そうすれば、まだ立法されないうちに、これが国会にかかっているというだけでそれだけの効果をあげていることを考えますと、立法教育の一部であり、そして、日本のような国情でまだ民主主義の育成が十分でない国では最も必要な教育であるとわれわれは信じて御協力しているわけですけれど、その点倫理教育の面で大きなプラスであるという私どもの信念はどういうものであるかということを、長戸さんにお尋ねしたいと思います。
  89. 高橋禎一

    高橋委員長 この際私から申し上げておきます。先ほど世耕委員からも参考人に関する御意見があり、今神近委員からもお話がございましたが、さきの理事会において一応参考人等は呼ばないで審議を進めようということに話がまとまっておるわけなんです。しかし、また後日理事会を開いてそれらのことを相談いたしたいと思いますが、今参考人を呼ぶことになっておるわけじゃないのですから、その点一つ御了承願います。
  90. 長戸寛美

    長戸政府委員 お尋ねの第一点に対しましては、参考人としてお呼びになるかいなかにつきましては、当委員会の御決定になることと存ずるわけでございますが、先ほど世耕委員の仰せになりましたことも、要するに、この法案審議されるに当りまして、法律だけでなしに、その根本まで深くさかのぼり、性道徳の頽廃のよって来たるところ、それへの対策をあわせ行うべきでおるというような御趣旨に承わっております。従いまして、私どもといたしましても、この法律のみでなく、それらの性道徳の頽廃を防止するような対策もあわせ行うという態度で進んで参りたいと考えます。  第二点は、立法が社会教育の一部として考えられるのではないかという御質問でございます。法律の倫理性と申しますか、指導性と申しますか、そういうものは確かにあり得ると考えております。この法案を作案いたすに当りましては、いわば第一歩を築くという観点にわれわれは立っております。売春防止対策は全般にわたる問題でございまして、ことに文教とかその他の種々の問題を総合すべきものでございますが、その売春防止対策の一環としてこの法案を作案したというふうに思っております。
  91. 高橋禎一

    高橋委員長 吉田賢一君。
  92. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 二、三お尋ねいたします。社会党におきましても別案として売春防止内容を盛った法律案提案いたしまして、本委員会に併託されておる次第なのであります。そこで、私は、気がつきまする二、三の問題を指摘いたしまして、政府の御所見を伺ってみたいと思うのであります。  両法案を比較してみますると、政府案も社会党案も売春社会悪だという根本的な考え方については一致しておるようでございます。これは立法の過程におきまして非常に大きな進歩であると考えております。そこで、昨年の七月十九日の例の二十二国会提案された売春禁止法案が当委員会で表決せられました際、附帯決議が行われまして、その趣旨は、要するに、売春対策法律は、単に法律だけではなくして、さらに文教とか経経済とかあるいは社会保障的な各般の施設保護更生施設あるいはこれに伴う予算の考慮等、各般の考慮をして、次の通常国会にこれを提案すべし、こういうのが当委員会の大体の趣旨であったろうと思うのでございます。そこで、私どもは、あのときの委員会に現われましたいろいろな意見、あるいは指摘せられました問題、あるいはこれらの附帯決議の趣旨等が政府によって十分に考慮勘案せられて今国会提案せられるもの、こういうふうに考えた次第でございます。そこで、今提案せられておりまするこの政府案を見てみますると、まことに遺憾でございますけれども、このようだ要請にまだ十分にこたえられておりません。これは時間的な事情があったことを私も考えておりまして、たとえば、それぞれの審議会等に現われましたあの空気、事務当局が熱心にいろいろと検討せられた種々の状況等から考えまして、相当時間の制約が事ここに至らしめたというふうにも考えられるのでございます。しかしながら、法律案自体といたしましては、何としても、そのような角度から考えたときに、やはり幾多の欠陥があることを指摘せざるを得ないと思うのでございます。これは、さきの政務次官の御答弁、御説明等によりまして、漸次さらに充実していくというような御趣旨を伺ったのでありますから、将来に期するものがあるというふうには一応善意に解しておるのでございますけれども、やはり、問題が問題でございますから、一応指摘して御所見を伺っておきたいと思います。  第一には、同僚各委員から、猪俣委員などから質疑されておりましたので、あるいは若干重複するかと思いますけれども、努めてそれを避けまして簡潔に述べますから、一つ簡潔に御答弁をお願いいたします。この法律案におきましてやはり一番問題になりまするのは、売春行為を処罰するかどうかということがどうしても問題になると思います。そこで、このように処罰しないということになっておりまして、一方におきまして、附則において地方条例は失効せしめております。現在二十数地方団体がそれぞれ売春行為を処罰するという地方条例を持っております。こういうように、地方条例におきまして処罰しておる現状でありますが、地方条例を失効せしむることによって処罰がなくなる。要するに、法律によって売春行為自体は処罰しないということにきめてしまいまするので、そこで、この法律がそういうふうでは、一には、現在よりも売春防止するという目的のためには、その面において逆行するのじゃないかという点と、それから、そういうふうに失効する結果、今では地方条例によって取り締られておるものが、野放しになるということになるので、あらゆる手段を講じて、脱法といいまするか、手段方法を新たにしてさらに売春を蔓延せしめるというようなことが行われる危険がないか、この二点につきまして、どういうふうに対策をお考えになりますか。対策というより、考え方でよろしゅうございます。それをお伺いいたします。
  93. 長戸寛美

    長戸政府委員 売春行為自体を罰すべきかどうかということにつきましては、これは非常に問題でございまして、対策審議会におきましても非常な討議がなされた次第でございます。私どもといたしましては、今回この売春行為自体を罰しないという態度をもって臨みたい。それは、先ほども申し上げましたように、挙証上の問題、それに関連する人権保障の問題、こういうふうなことに関連しまして、現在では踏み切れない。さらに慎重に検討。上このことは決したいという考え方でございます。  それから、第二点の取締りの問題、むしろ逆行するのではないかという問題でございますが、これにつきましては、売春婦自体については、更生保護措置を先行せしめることによりまして、親元に帰すなり、あるいは職業につけるなり、こういうふうにして参りまして、また業者につきましては転廃業を促進するというふうな態度によって、三十三年の四月一日には、われわれとしては、そういうふうな業者なり売春婦なりというものがなくなることを期待するわけでございます。しかしながら、それがそう簡単には参らないと思いますが、さらにあえてそういうふうな違反をしていくという者に対しましては、売春環境を助長する行為を徹底的に取り締ることによりまして、また、外部に現われるものにつきましては五条を活用して取り締る、こういうふうなことによって、実際上御心配になるような点はほとんどカバーできる、かように考えている次第でございます。
  94. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 ずばりと売春行為を処罰するという行き方でなく、環境、外部的な条件、そういうものをよくし、なくするということがただいまの基本的な御方針のようでございます。これはなかなかその目的を達しないものと思いますが、なお御研究されるようでありまするから、ぜひそれは望まねばならぬと存じます。  それから、次に、一番大きな理由とされるところは、どうもやはり立証困難、従って人権侵害の危険がある、これらの二点であるようでございます。そこで、もし立証困難ということでございますると、この点は、たとえば業者処罰の場合につきましては、やはり前提となる売春行為がなければ業者でないと思いまするので、これらの点につきまして、やはり立証困難ということが理由に、いわゆる環境をよくし外堀を埋めるというようなことは、事実上なかなか困難になるのではないか、こういうふうにも考えられます。そういう声が相当生ずるのではないか、こう考えるのであります。これらについて具体的にどういうふうにお考えになっておるのでございましょうか。あるいはまた、売春婦が被害者で、たとえば少年が被害者であるという御説明すら伺ったのでございますが、これは、刑法の規定などによるとそういうふうになっており、また、一般に売春婦が、その原因を探求しますると、また現状を見ますると、弱者でありあるいはまた被害者的立場にあることはずいぶんありまするので、これもよくわかるのでございまするけれども、この点、理論的には売春そのものが社会悪であるということを規定する限りは、何らか社会的な納得のいく程度と方法によって制裁を加えるということにしないと、まことに首尾、筋が通らないものである、こう考えるのでございます。その点についてはいかがでしょう。  そうしてまた、前に戻りますが、業者処罰の場合に、売春行為自体を処罰対象にしないで業者だけを処罰するということが、これもやはりどうも理論の筋が通りにくいようにも思われます。審議会におきまして、団藤教授は、この点については理論の矛盾はないような御説明がありましたけれども、どうも私には納得がしかたいのでございます。この点につきましても、どういうようにお考えになりますか、お伺いいたします。
  95. 長戸寛美

    長戸政府委員 第一点は、売春行為それ自体を罰しないで業者等を罰するが、挙証が困難ならば自然業者の取締りが困難となるのではないかというふうな御質問でございます。これは確かにそういう問題もございますが、ただ、御存じのように、売春行為それ自体を罰するということになりますれば、売春についての自白をいたしましても、その自白のみをもってしては有罪というふうには参らない次第でございます。ところが、業者あるいは場所提供とかいうふうなものにつきましては、この売春婦の供述なるものは証拠になるというふうな関係からいたしまして、——確かに、先ほど猪俣委員からの御指摘もありましたように、任意の取調べというふうな、参考人取調べという点から問題がございますけれども、これは挙証できる、かように考えております。  それから、売春自体を罰しないのは首尾一貫しないのではないかというふうな御質問があったかと思います。これについては、なお今後ともこの売春行為自体の処罰の可否については検討して参りたい、かように思います。  それから、もう一つは、売春を罰しないでその他の業者とかあるいは場所提供とかを罰するのはいかがであろうかという御質問でございますが、確かにそういう御議論もあろうかと思いますけれども、私どもは、先ほども申し上げましたように、この業者とかあるいは場所提供罪とかを、売春の幇助犯的なものとして考えずに、独自な反社会性をそこに見出そう、かように考えておるわけであります。もしこれを常助犯的なものとして考えますならば、刑はむしろ売春婦自体が重くならなければならぬということもあろうかと思います。そういうふうな点におきまして、むしろやはり売春環境の助長ということを強力に取り締って参りたい、こういう趣旨で立案した次第であります。
  96. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 なお、長い間さきに、法務省の所管でありました売春問題対策協議会におきましても、昨年の九月でありましたか、悪質の売春婦については処罰をもって臨むべきであるという答申をしたはずでございます。こういう点にかんがみましても、やはり深く検討し、広く資料をあさって、この問題に対処するときには、やはり少くとも何回も繰り返すという売春についてはこれを処罰対象にするということが、多くの一致した意見であったようにも思われるのであります。やはり、審議会とか協議会とかいうものを政府が作りましたときには、できるだけこれを尊重するということが、その制度を作ったゆえんでもあり、また行政の運営におきましてもそうなければならぬのであります。いつもこういう審議会協議会の趣旨が尊重せられないことになりますると、審議会はむだになります。このたびは審議会の案というものが骨子になって法案ができたように思いまするが、それ以前に非常に慎重に協議しました昨年の答申は、以上述べましたような悪質の売春は処罰をもって臨むということになっておったのでありますが、これに対する御所見かありましたら伺いたい。
  97. 長戸寛美

    長戸政府委員 仰せのように、昨年九月二百に答申のありました売春問題対策協議会の御答申では、悪質な売春者を処罰するという形になっておりました。これをももちろん参考といたしまして、このたびの対策審議会の御答申をあわせ考えまして、今回は、先ほど申し上げましたように、売春行為それ自体は、倫理規定のみを置いて、処罰の対象としないという態度をもって臨むことに決した次第でございますが、今後とも研究いたします。吉田(賢)委員 勧誘行為を処罰いたしまして売春自体を処罰しないというところに、この法律案一つの欠陥があるのだと私は考えておるのでございます。そこで、もし勧誘行為を処罰いたしましたときには、これは、たとえば起訴をし、懲役とか罰金刑もございまするが、これらの被告に対しまして起訴いたしました後には、やはり適当に保護更生対象にするという手続が必要であるのではないかと思うのであります。これは、私どもが、売春並びに勧誘などを含めまして、これらの当事者刑罰とともに選択的に保安処分をなす、こういうことにいたしましたゆえんでございまするが、保安処分なくして、ただ保護更生施設が別に若干設けられたことになっておりまするか、これらの点、勧誘行為者に対しまして保安処分がないことは、特に起訴された者につきましては裁判所の自由裁量等によりましてこれらの保護更生施設に連絡する道しかありませんので、これは一つの大きな欠陥と考えます。帰するところ、やはりこれは保安処分の規定を設けるのでなければならぬと思われるのでございまするが、この点についてどうお考えになっておりますか。
  98. 長戸寛美

    長戸政府委員 保安処分の問題につきましては、仰せのように、社会党の御案、それから昨年九月二日御答申売春問題対策協議会の御案、そういうふうなものにはかなり詳細にわたり保安処分の規定があるわけでございますが、私どもも、この売春婦の勧誘行為を犯した者に対しましては、刑のほかに保安処分を考えるべきであると思っておりますが、実は、保安処分の問題は、御存じのように、刑法の世界における重要な改革と申しますか、大問題でございますので、早々の間、間に合わないというふうなことでございました。従いまして、実は、本法案に保安処分に処し得る旨の規定を一応掲げて、手続だけをあとに譲るということも考えられた次第でございますけれども、それでは、根本的な検討の結果、果して刑にかえて保安処分に付するという考え方がいいのか、それとも刑とは全然別な形において保安処分というものを考えるべきか、いろいろ根本的に考えるべきものがなお残っておるというようなことからいたしまして、本法案にはこれを規定せず、今後における検討の問題といたしておるわけでございます。われわれといたしましては、対策審議会において十分に御検討いただき、また事務当局としてもこの点を十分に検討して参りたいというふうに考えております。
  99. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 保安処分がないということは、これはやはりこの法律を充実いたします上におきまして最も大きな欠陥であろうと思っております。これはただいまも御検討中であることは存じておりますし、審議会においても検討されておるわけでありますから、やがてそのうちに成案を得ると思いますが、可能な範囲近いうちに、——私どもはこの国会中にでも別案としてでも出していただきたいとまで思っておったのであります。すみやかにその成案を得られるようにしていただきたいと思うのだが、事務当局の考え方はこの点についてはいかがでしょう。今申されたごとくに、基本的な法規の関係もあるというようなことで、さらにずっと長引きそうでありますか。この法律案が通過するといたしましたならば、やはり今の五条関係だけを見ましても保安処分はぜひとも必要であるわけでありますから、これらの事情にかんがみまして、かなりすみやかに成案を得なければならぬと思いますが、事務当局としてのお考えを承わっておきたいと思います。
  100. 長戸寛美

    長戸政府委員 御存じのように、対策審議会の第一回御答申は四月九日にあったわけでございます。それ以来本法案の立案に日夜かかりまして、大へんおそくなって申しわけない次第でございますが、ようやくここに提案の運びに至ったわけでございます。われわれといたしましては、これと並行いたしましてこの保安処分の問題を引き続き検討して参りたい、そういうふうにお答えいたします。
  101. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 そこで、問題を転じまして、保護更生施設の点に少し触れてみたいと思うのであります。  私は、前国会の議論の跡を見ましても、また以前の売春対策協議会の答申趣旨にかんがみまして、あるいは売春原因実情等にかんがみてみましても、いかにして保護更生施設を充実して売春防止に役立たしめるかということが最も重要な問題でなければならぬと考えておるのであります。そこで、社会党の法案におきましても、この点に特に重点を置いて、かなり詳細な規定を置いた次第なのであります。そこで、政府案について見ますと、これらにつきましてはまことに不十分子、のものでございますので、私は、これをもちましてどの程度の保護更生を実効あらしむるかということが実は不安にたえぬのでございます。と申しますのは、予算範囲内におきまして、またその人の限度におきましてこれらの作業を行なっていこうとするものであり、あるいはまた、たとえば一例を婦人相談所の業務関係について見ましても、これを発見して相談に応ずる、このようなことでございます。そういたしますと、もし予算が乏しく人が少いというようなときには、この全国的な売春防止への画期的な施設といたしましては、とうていその目的に沿わない貧弱なものになってしまうのではないであろうか、こういうことを実はおそれるものでございます。この点につきましては、あなたに答弁を求めることば少し無理と存ずるのでございますけれども、いずれにいたしましても、この第三章の規定による婦人相談所婦人相談員婦人保護施設等、その他民生委員などの協力関係、こういうような規定が相当活用されるといたしましても、私は非常に心もとない感じがいたすのでございます。この点は、審議会の会長におきましても、たとえばざるのような案であるというようなことも言っておられたごとくに、完全なものでないということは一般にお認めになっておると思いますが、私が今申したように、予算とかあるいは人員等の少額、貧弱である場合に、その用をなさぬということを深く憂えるものでございますが、この点についてのお見通し並びに御所見はどういうことになるのでございましょうか。
  102. 安田巖

    安田(巖)政府委員 この保護更生の章が規定としても不十分ではないかということ、並びに、これを運用いたします場合の予算あるいは人員等もこの程度では十分ではないというふうなお話であったと思うのであります。私もその点につきましては必ずしもこれで十分であるとは思っておりません。ただ、従来いろいろ保護更生のことが不十分であるということが法案成立の妨げになっておりまして、何度も法律が成立いたしかけては流れたというような事情もございます。とにかく、この程度で一つ始めまして、そして、これが本国会で成立をいたしますならば、一年半近く猶予期間もありますので、その間にできるだけ徐々に、なしくずしに一つ保護更生の実をあげていきたい、こういうふうに考えております。  発見等につきましてもなかなか手が回らぬだろうというお話でございますが、現在におきましても、婦人相談所あるいは婦人保護施設に送られます場合は、やはり警察署とか検察庁あるいは福祉事務所等から送られる場合が非常に多いのでございます。そういった場合に、午前中もお話をいたしたのでありますけれども、こういう相談を受け、発見をいたしましても、実は預かる場所がないということなのであります。今夜すぐにとめる場所がないというようなことが実は非常な欠陥になっておりますので、婦人相談所を各府県に必ず置くということが実は非常な進歩になる、こういうふうに思っております。保護施設につきましては、これは置くことができるということでございますので、将来予算の問題は起ると思いますけれども、この法律が一応成立いたしましたならば、そういう売春婦人たちがどういう動きを示すかということもだんだんわかってくると思います。そういうことともにらみ合せまして、万遺憾なきを期したいと思っております。
  103. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 第十八条に都道府県婦人保護施設規定がございます。これも必要義務規定ではなくて任意の規定らしいのでございます。やはり、この施設につきましては、相当いろんな種類もしくは充実した機構内容と人員をもって臨むことが最も必要なのではないかと私ども考えているわけであります。これは、厚生省におきましては、厚生省一つの独立した法律案を御用意になって、審議会にも参考にお出しになったように思いますので、それほど抱負は大きなものがおありであろうかと存ずるのでありますが、ここに現われたものといたしましては、やはりちょっとタケノコが頭を出したようなので、これまたまことに心もとない一例にすぎないのであります。これにつきましては、事実は、この内容をどうきめ、どういうふうに運営していこうとされるのであるか、あるいはまた、ここに収容する手続等についてもどういうふうにお考えになっておりましょうか。これは非常に重要な機関でございますので、一つ特にお伺いしておきたい。
  104. 安田巖

    安田(巖)政府委員 御指摘の通りでございまして、さらに理想的な案を作るということになりますれば、いろいろ考えがないでもありません。まあ国の財政なり地方財政のことも考え、なおまた、先ほどからたびたび申し上げておりますように、法律が施行になりますまで相当期間がございますので、そういったような期間を利用いたしまして、なるべく婦人相談所等でさばけるものはさばきたい。なおまた、必ず各府県に設置しなければならぬかというようなことにつきましても、実は私ども見通しが立ちかねるような点があるわけでありまして、あるいは、東京とか大阪とか名古屋とかいうふうな大きいところには、一つだけでは足りないということも考えられます。あるいはまた、売春関係等によりましては、それがなくて済む場合がありはしないか。これはもちろん猶予期間等を考えてのことでございます。と申しますのは、保護施設につきましても、先ほどからいろいろ吉田先生の御指摘になりますように、保安処分がありまして、それから保護施設があるということになりますと、完全でございますけれども、この保護施設に入れますのは、何ら国家権力を用いるわけではないのでございます。いわば相談ずくで、承諾ずくで、ここへ入るかということで入れるわけでありますので、そういったようなことを考えますと、収容者が一体どの程度に昭和三十三年の三月三十一日までに入ってくるかということになると、若干私ども自信のないところもあるのでございます。  どういうふうな手続をとるかという御質問でございますが、一応やはり婦人相談所を総合的な窓口にいたしまして、そこにとにかく一応預かって、いろいろと相談をし、ここで片づくものはなるべく片づけたい。親元に帰る者もございましょうし、あるいは郷里の方から引取人を呼び出して引き渡す者もございましょうし、あるいはまた病院に送る場合もございましょう。適当な職がある場合もございましょう。そうしてまた、二週間ぐらいは一時保護施設に入れまして、どうしても引取人もないし、またこの人は一定の期間こういった保護施設に入れて生活訓練をしなければならぬという人も、ございますから、そうした人は保護施設に入れておくというような考え方をいたしておるわけでございます。
  105. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 ただいま労働省所管で少年保護司というのがございますね。これは相当利用されておるようでありますが、これらとの協力関係、これは婦人相談所との協力関係がおもになると思いますが、それはどういうふうに持っていかれるのでしょうか。実は、私ども、別に心配するわけではないけれども、どうも厚生省は、あなたは非常に御熱心らしいのだが、それ以上の上層幹部はもう一つ熱心が足りないという風説がありますので、風説に終れば大へんいいと思いますが、それが一つと、もう一つは、やはり労働省との間に、所管関係につきましても、売春防止あるいは転落防止とか、あるいは保護更生とか、そういうような大きな目的に向ってしんから協力するという体制を強化することが、私は最も必要であろうと思うのであります。そういう意味におきまして、今仰せのように、予算もなかろうし、予算のない間は、施行期日まで若干期間があるのだから、その間にできるだけいろいろと準備もしたい、こういうことでありますが、それならば、なおさら、労働省所管で婦人少年室もあるようでありますから、そういったものとの連携協力ということも相当おやりになるべきではないだろうか。あの婦人少年室などは、格別に法律の根拠に基いておらぬような、権限のないらしいもののようでありますが、こういう関係においても、任意ずく、相談ずく、発見主義というようなものでは、行政機関の一環としてこれらの連携協力がないと、保護更生施設として十分に目的が達せられないということを実はおそれるのであります。こういう観点からいたしましても、事実上あるものとの連携協力の関係はやはり相当強化して、そうして次に来たるべき法律改正の際にさらにそれを具体化する、そういうようなことを考えていかねばならぬ、こういうふうに将来のことを思っているのですが、その辺についてはどうお考えになっておりますか。
  106. 安田巖

    安田(巖)政府委員 婦人保護更生施設というのは、今仰せのように非常にむずかしい問題でございまして、私、神奈川県における婦人相談所でありますとか、あるいは全国十数カ所にありますところの婦人保護施設の中でも若干見て回ったのでありますが、それぞれ非常な苦労をいたしておるのであります。そういうことでございますので、婦人少年室の御活動につきましては、ここに御出席の婦人少年局長からお答えがあるかと思いますけれども、そういった労働省の駐在機関でございますとか、あるいはまた福祉事務所でありますとか、そういった一般的な他の官庁との連携というものはやはり当然前提といたして、そうして一緒にならなければやっていけないと思います。婦人少年室との関係も、婦人少年室はまたいわゆる要保護婦女保護更生のことばっかりおやりになるわけでもありませんが、婦人少年室の看板を出しまして、総合的な窓口機関だということを表面に出すわけでございます。こういった点で今後はかえってよく連絡がとれるんではないかというふうに感じております。私どもも、対策協議会のときから、あるいはその後の対策審議会等の機関を通じまして、実はよく労働省とは連絡をいたしておりますので、将来もそういったようなことにつきましては十分気をつけて参りたいと考えております。  なおまた、厚生省の上層部の方が不熱心ではないかというようなお話があったのでありますが、決してそういうことはございません。
  107. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 ただいまの問題につきまして、労働省の方の一つ御所見を伺っておきます。
  108. 谷野せつ

    ○谷野政府委員 労働省の婦人少年局におきましては、地方に婦人少年室がございますが、人員が二人から四人ぐらいのごく小規模の組織でございます。ただ、婦人少年室におきましては、売春問題、とりわけ未然防止、それから売春婦保護更生につきまして、従来ともその方の地方出先機関がございませんので、私どもといたしましては、とにかく婦人問題を全般に扱っておりますが、また、とりわけ、その婦人問題の中の売春問題といたしまして、売春の未然防止、それから保護措置につきまして、啓蒙、実態調査などもいたして参りましたし、第一線の婦人問題の相談機関としての役割を従来から果して参ったのでございます。売春問題は、私どもは、婦人問題といたしまして、将来にかけても調査、啓蒙あるいは相談業務を実施して参りたいと思っております。それは、相談業務が特に婦人問題として考えていく分野が非常に多いと思うのでございまして、売春婦が手っとり早く飛び込める場所といたしましての役割を婦人少年室も相変らず果して参りたいと思っております。ただ、人員が大へん少いのでございますし、国家機関でございますが、将来にかけて実際の保護救済の段階になりますと、婦人少年室だけで手に負えない分野もございますので、そのような問題につきましては、今回できます婦人相談所に渡しまして、私どもの方に参りました相談の保護を充実させるようにして参りたいと思っております。  なお、厚生省でやって参ります婦人相談所につきましてのいろいろな運営、その他将来にわたります問題につきましては、私どもといたしましても、厚生省のなすって下さることに対して、あるいは婦人問題の立場からいろいろお願い申し上げましたり、また御注文なども申し上げるようなことになるだろうと思っておるのでございます。  以上のような関係で、できるだけ密接に婦人相談所と労働省の婦人問題としての婦人相談を充実させて参りたいと思っているわけでございます。
  109. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 政務次官が見えましたから、簡単にお伺いいたします。実は、あなたが御不在でありましたので、長戸さんに伺っておるわけでありますが、これは議論を戦わすというつもりはないのであります。私どもは、問題のある個所につきまして、一応これを指摘して御所見を伺って、将来さらに完璧を期するという御意向が大体明瞭にわかっておりますので、これを信ずる立場におきまして、二、三質問を続けておる次第でございます。  そこで、今長戸さんにも聞いたのでありますが、この法律の大きな欠陥は保安処分がないことです。保安処分なしに保護更生施設を持つといいましたところが、たとえば、婦人相談所で相談に応じます婦人相談員があって、それぞれ何かとお世話になる、これも一応わかりますが、これは、要するに、最終的に婦人に対して保護更生のあらゆる指導をし、もしくは施設を持って臨むというのではないのであります。これは条文にも明らかに出ておりますごとくに、唯一の最終のよりどころは婦人保護施設らしいのですが、これは第十八条によりまして簡単に一条に片づけてしまっておるのであります。その内容等につきましては全然まだ触れておられない。これも将来大いに充実していくというふうに解しまして、いろいろと今安田さんからも伺ってみたのでございます。どうしても、これらの保護更生のためには、この場合には対象は勧誘罪の人々がおもになって、それ以外は見つかった人というふうになるのですが、勧誘罪にかかった人を対象にしてだけ考えましても、これを続いて保護更生施設に移していくということがないと、その目的を達しないと思うのであります。私ども法律案によります売春行為それ自体を処罰する場合におきましては、全的にこれが対象になりますので、一そうその関係は明瞭に打ち出されておるのでありますが、ここに現われました勧誘罪だけを対象にしてみましても、これらの人々をどういうふうに保護更生せしめるかという手続は、どうしても充実し完備した保安処分の段階がその中間において必要でなければならぬと思うのであります。婦人相談所において若干の調査をしあるいは職能的判定、学問的な観察も若干なさるような規定はないではありませんけれども、やはりこれは、保安処分によりまして、たとえば保護観察の処分であるとかあるいは更生教育を施すとか、そういうことを忠実に行うことによって、私は、その対象になった婦人の性格なり、環境なり、いろいろなものに適応する将来の保護更生対策が立てられると思います。どうしてもそういう一つの有力な段階がなければ、機関が設置されなければ、ほんとう保護更生施設が活用されないと思うのであります。やはり首尾一貫しなければならぬという立場から見ますると、どうも、最初と終りがあって、まん中が抜けておる、終りはしっぽみたいにすっとなって粗末なものになっておる、こういうことになるのであります。いろいろとあしざまに批評する気持はただいまございませんけれども、どうも、そういうように考えますと、一日も早く保安処分の規定をお作りになりまして、婦人のために保護更生の道を学問的にもしくはいろいろな角度からこれを導いていくという処分をする、こういう保安処分なるものがどうしても必要であることを痛感いたします。長戸さんもせっかく御努力になっておりますが、一つ、法務省といたしましても、どうしても馬力をかけてその保安処分問題をできるだけ早く御解決になることが、私はこの法律の中身の一番重要な部分が抜けているところを補充するゆえんだと考えるわけであります。一つ、大臣にかわる意味におきまして、松原さんからはっきりとしておいていただきたいのであります。
  110. 松原一彦

    松原政府委員 ごもっとも千万でございまして、吉田委員もそのメンバーとして御承知通りに、かねて先月末に売春対策審議会の方で法務省にその保安処分の立案の御要求がありまして、五月一日付をもって法務省からはこれに対する構想をお答え申してあります。それで、今その要綱を一応ここで申し上げておきます。  一、裁判所は、売春防止法第五条の罪を犯した女子に対し、刑罰に代えて保安処分の言渡をすることができるものとすること。  二、保安処分は、保護観察処分と矯正処分の二種類とすること。  三、保護観察処分は、犯罪者予防更生法に基いて行うものとすること。  四、矯正処分の執行は、収容施設に収容して行うものとし、その管理、矯正教育、その他の処遇につき必要な基本的規定を置くものとすること。  五、矯正処分の期間は、相対的不定期とし、仮退院、戻し収容、退院につき必要な規定を置くものとすること。  六、退院及び仮退院の決定または仮退院中の保護観察は、地方更生保護委員会または保護観察所が、関係行政機関と緊密な連絡をとって行うものとすること。  七、保安処分の競合する場合に関し、必要な調整の規定を置くものとすること。  こういうような構想を、本月一日付をもって対策審議会の方にもお答え申し上げております。この法案審議と並行して、できる限りすみやかにこの保安処分を具体化するものでありまして、社会党からお出しになってありますものとほとんど軌を一にしますが、若干今手続の上で食い違っておる点があります。けれども、そういうことは大同小異でございまして、御趣旨通りに急いでいるということだけを申し上げて、これがこの対策の骨子であるものだと私も信じます。刑罰目的じゃない。刑罰に処さないで、極力個人個人の人権を重んじつつ更生のできる手段を講ずるということに十二分の力を尽したいというのでございます。どうぞ御支援をお願いいたしたいと思います。
  111. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 私どもも、この売春防止につきまして法律を作り、また売春行為自体に対する処罰規定をかりに設けた場合におきましても、やはり売春のよって来たる原因にいろいろと社会的な原因があるということは、これはもう明らかでございまするので、従って、これらの婦人に対する保安処分並びに保護更生、また転落する人に対するその他防止のための対策、こういったものが一貫して整備せられるというところにこの法律ほんとうの筋の通った体系があると信じておりますので、ただいま次官からお述べになりまするそのお意気込みは、ぜひとも一つ実現するように邁進されんことを要望いたします。  それから、もう一つ、これは厚生省の方に伺った点でございますけれども、なお、今の保安処分とともに、婦人保護施設につきまして、これは次官に伺うのでありまするが、やはり非常に重要な規定であると私は思いまするので、これらにつきまして、一つ相当充実した構想と規模をもって立案にかかっていただくということ、これは必ずしも国が直接おやりになる必要はないことはもちろんでありまするが、やはり国自身がこれは必要とすることにして、府県その他の地方団体にまかすといたしましても、国の責任においてこれを設置するという方向に、これはぜひとも特段に重視していただきたい、こう思うのであります。この点について、一つ法務省としてのお考えを伺っておきたいと思います。
  112. 松原一彦

    松原政府委員 ごもっともに存じます。吉田委員も御承知通りに、答申は、この費用も補助になっておるのです。しかし、政府の方では、これを補助とせずして、明らかにその重要なる部分は国費の負担にいたしたのであります。と申しますのは、地方々々の貧富その他の条件に応じてするものではないので、国の根本的な要求としてやる、国の政策としてやるというところにこの第三章の重きを置きまして、大蔵大臣もいいろ文句もありましたが、国の負担でやるということに決定いたした次第でございまして、これはもうかたき決意をもってやりますと同時に、この条章も十二分に整理しまして有効適切に行わるるようにいたしたい希望は持っているのでございます。ただ、一度にはでき得ますまいが、今後漸を追うて完璧なものにいたしたい、かように考えている次第でございます。
  113. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 それから、この施行期日の問題でありますが、これには附則一号に記載されております。この点につきましては、私ども根本的に、期間が長過ぎるよりも、むしろできるだけすみやかに実施するという方がかえって実効をあげ得るのではないであろうか、こういう考え方を持っているのであります。と申しますのが、やはり、前段におきまして社会悪であることをうたい、今日は、実情におきまして、たとえば赤線地域にいたしましても、当然これは廃止されるべきであるというお考えの方が逐次多くなっていると私は思います。また、売春行為をなす婦人におきましても、やはりこういった法律がやがて実現するのであるということをそれぞれと知りつつあるものと思います。こういうようなときには、一切をだしぬけに直ちに実施するということはかえって社会秩序を乱す危険があるのでございますけれども、しかし、そうかといって、間が延びてしまうというようなことになりますと、かえって踏み切りがつかなくなる人を作り、あるいはまた、国会で論議され法律が公布された当時は、それぞれ重大に考えているけれども、日がたつに従って、また何とか別の方法でいく道はないだろうかというようなことを考える方がだんだんふえてきやしないだろうか、そういうことになりますと、脱法的な方法が助長されるというような結果になりはしないだろうか、やはりこれは、可能的すみやかに実施するということを原則とする、こういう考え方をとることの方がよいのではないだろうか、こういうふうに実は思うのでございまして、私どもといたしましては、人身売買あるいは勧誘罪等におきましては、これは公布と同時に施行するというくらいにしてよいのではないだろうか、これらのものにつきまして相当期間待つということはほとんど理由がない、あるいはまた、業者関係におきましても、一年くらい猶予期間を置くというのでよいのではないであろうか、こういうふうにも考えるのでございます。この点につきましては、別の考え方もあるかもわかりませんけれども、今述べましたような理由がかえって適当ではないであろうか、こう考えるのでございます。この点につきまして、次官から伺いたいと思います。
  114. 松原一彦

    松原政府委員 これは、いろいろ御意見もあるようでございまして、私どもいろいろ承わっておりますが、現行法規においてもすでにこれを励行すれば取り締り得るものがたくさんございますし、最高裁の判決例等によって、貸金等が棒引きになって、売春目的とする行為に対しては相当手痛い処分が現に行われていることは御承知通りでございます。従って、現行法規を励行いたしましても、取り締り得るものは相当ございますので、一応保護更生のところに重きを置いて、刑罰の部分は、その保護更生の効果があがるにつけて、つまり、保護更生措置を先行させて、その失行の実績のあがるに従って刑罰の部分が漸減する、理想的に申せばなくなってしまうようなところにまで持っていきたいというのが、この刑罰の部分を一年おくらせ、保護更生措置をこれに先行させた理由でございまして、いたずらにわれわれは刑罰を急ぐのでなくして、刑罰なき措置ができることを希望しております。御意見はまことにごもっともな点もございますが、一応政府はかような意味におきましての時期を画した次第でございます。御了承願います。
  115. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 この法律が実施せられましたら、附則第四項によりまして、当該地方条例は失効することに規定されております。そこで、これは長戸さんに伺うのですが、さっき御説明があったようですが、私、中座しておって聞き漏らしたのですが、この法律が実施されて地方条例は無効になっていく。ところが、売春は野放しになったというので、それぞれうまい方法を設けて至るところでまたはびこるというようなことがかりにあって、当該地方公共団体においてまた地方条例を作るというようなことは、これは可能ではないのであろうか。あるいは、この法律は、売春行為を許さない、悪なりという宣言をしておる、また当該地方条例が違法であるということをうたったその後であるから、その種の地方条例は再び制定することはできないというふうなお考えのようでありまするけれども、どうもその点私は納得がいたしかねるのでございまするが、理論的にどんなものでございましょうか。あるいは、売春行為についての今の条例のようなものは一たびはこれを執行せしむるという議決を地方議会においてなし、また必要によって再びこれを作る、こういうようなときには、この法律に反するという趣旨で、そのような条例は作ることを許されてないということに解しておられるのかどうか。ここを一つ、あるいは御説明になったと思いますけれども、もう一度はっきりしておいていただきたいのです。
  116. 長戸寛美

    長戸政府委員 お手元に先ごろ御配付申し上げました売春防止法案逐条説明書と申すものがございますが、その二十ページから二十一ページにわたりまして第四項の説明をいたしてございます。すなわち、この第四項は、この法律の施行が地方公共団体の条例に及ぼす効力を明らかにした宣言的な規定でありまして、創設的な意味は持っておりません。そうして、「この法律は、売春を助長する行為をはじめ、売春をする者の勧誘行為等を広く処罰することにしましたので、これにより、この法律に規定する行為はもちろん、売春をし、又はその相手方となる行為その他売春関係する一切の行為は、すべてこの法律によって取締ろうとする国の意思が明らかになった」、こういうふうに私ども考えるのでございます。従いまして、国のこの意思に反することとなる売春条例の規定は当然無効となる、従って、本項におきましてその趣旨を明らかにしたこの法律が施行された後におきまして、ある地方公共団体においていわゆる売春に関する条例を作りました場合においても、それはこの国の意思に反するものとして無効となる、こういうふうに考えております。
  117. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 そこで、この第二十一ページの五行目、「この法律に規定する行為はもちろん、売春をし、又はその相手方となる行為その他売春関係する一切の行為はすべてこの法律によって取締ろうとする国の意思が明らかになった」云々というのが御説明の根拠らしいのでございますが、ところが、この法律は、売春行為を取り締るという国の意思はないのであります。売春を取り締らないということが国の意思なんです。劈頭の偏理的宣言で、売春は悪なりということを宣言してある。しかし、これは、法律ではありますけれども、その内容は、取締りではなくして、倫理的宣言そのものである。倫理的宣言そのものであるというのは、それはやはり人の行為を強制するとか何らか制限を加えようという国家意思ではなくして、道徳的な宣言をせられたのであるから、悪いのである、社会悪であるということの宣言をせられたのであって、取締りという趣旨は含まれておらぬように思われます。ということになると、どうもそこに御説明と法文とが一致しないように思われますのです。私も、この法律が実施されるならば、法律を逸脱する地方条例は行い得ないということは憲法で明らかでございますから、地方条例はやはりこの法律に従って行なってもらうように望みます。ところが、この法律によっては売春そのものを取り締らないことに野放しになったのだから、今度取締条例を作るぞということは、どうも矛盾しないように思われるのですが、どんなものでしょう。これは相談的に御質問するのですけれども、私もこの点については実は自信もないのですけれども、どうも納得しかねますので……。
  118. 長戸寛美

    長戸政府委員 確かに、御指摘の通り、これは表現の誤まりがございます。実は、こういうことを申しては何ですが、昨夜急いで作りまして、けさまで徹夜で刷らしたものでございまして、その間少し間違ってしまったのでございます。このままで直すとしますれば、「すべてこの法律によって規律しようとする国の意思が」、こういうふうにお直しいただきたいと思います。売春をし、その相手方となることについては、国としてはこの法律では処罰しないんだ、従って、それを処罰しようとする条例は無効となる、また、売春を助長する行為につきましてはこの法律によって取り締ることにしておる、従って、その範囲、またはこれに反するものとしての条例は無効となる、こういうふうに二段分けにして解釈すべきものと考えております。
  119. 吉田賢一

    ○吉田(賢)委員 そこは、私は、説明文にとらわれないで、やはり法律案に戻って、法律案が倫理的宣言であるから、従って今後地方条例ができたときの問題になりましょうということの意見にいたしておきます。これにつきましては、一つ確信のある御解釈をしておいていただきませんと、今後問題が起ってはいけないと思いまするので、御質問申し上げた次第でございます。  それから、ちょっと予算関係について松原政務次官に伺っておきますが、全体といたしまして、まさか予算が取れぬだろうというようなしみったれた気持でこれをおやりになったのではなく、大蔵大臣が御出席になれば、画期的なこの法律を財政的に援助しなければいかぬというようなお考えが必ずあるものと私ども思うのでありまするが、やはり、相当な予算要求をすることが、私はこの法律を実効あらしめるゆえんであると考えまするし、また、特にそういうふうにしていくのでなければ、若干経過期間の空白の間の各省庁のこれに対する準備というものも、やはり予算措置におきまして足りないということになることをおそれます。そこで、予算については相当大蔵省とも折衝なさったろうと思うのでありまするが、これはその内容を一々伺う必要は今のところ私はないのであります。しかし、その辺については相当予算要求はされねばいかぬと思うのですが、法務省としてはどういうふうになっておるか。もっとも、予算となりますると、法務省関係でなく、むしろ厚生省が最も大きな割合を占めておるのでないかと思いまするので、きょう見えているのは厚生省、労働省、法務省の三つでありまするが、そこはどの省の方でもよろしゅうございまするから、予算関係につきまして相当積極的な態度をもって対処していただきたいと私は思うんだが、この点についてはどうお考えになりましょうか。
  120. 松原一彦

    松原政府委員 御承知通りに、ことしの予算が貧弱でありますから、いろいろ御疑惑をいただくと思うのでございますが、取締り陣営の予算も、今事務当局で立てておるものを見ますと、相当の額のものでございます。しかし、これは何と申しましても三十三年からの問題でありますので、それまでの間に、先刻も申し上げましたように、とり急ぎ更生保護の面で予算厚生省の側から要求せられまして、これで姿が変ってきますと、取締り対象もまた私どもは減したいのであります。なるべく少くいたしたい。そこで、今から予算措置をすることが非常にむずかしいと思う。一応の予算は立てておりますが、まだまだ要求の手続をするところまでは固まっておりませんので、今額を申し上げることは差し控えたいと思いますが、相当額のものを要求するつもりでおります。しかし、私どもは、取締り陣営にはそんなにおびただしい金が要るものとは思いません。むしろ予算更生保護の面にできる限り取りたいという希望を持っておるし、厚生省の方では非常に大きな案もあるやに聞いておりますが、しかし、今日の財政面とにらみ合せまして、適度のところに落ちつくものと考えております。
  121. 高橋禎一

    高橋委員長 本日はこの程度にとどめまして、明日、午前十時理事会、十時半委員会を開会する予定であります。  これにて散会いたします。    午後五時四十七分散会