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高橋説明員 肥鉄土会社に対しましては前回お答えいたしましたように、
先方の
態度にはなはだ遺憾なものが多いめでありまして、こういうことでありまするならば、われわれとしてはあくまでも避けたいと
考えておりました
文化財保護法を発動させまして、
罰則の
適用もやむを得ないことではないかと決意いたしておったのであります。その後になりまして
社長の
鍵田氏と二回会見いたしました。その際私としましては、やはり
罰則の
適用は避けたい。ただ避けたいというばかりでなく、これを
適用いたしましても、その
効果の点などがはなはだ疑わしいのであります。
肥鉄土をとりますために
史跡を荒したという点につきましては、
原状復旧に近いことをされたならばどうであろうか。むろん完全に
原状に復帰させるということはできないといたしましても、でき得る限りこれに近いものにさせたらばどうであろうか。この方はむろん
罰金などを払いまするよりも費用はよけいにかかることと存ずるのでありまするが、そのとりました
あとに草を植えるとか、芝をつけるとかいうようなことをいたしまして、見にくくないような
状態にこれを返すという
誠意を示しまするならば、
罰則の
適用は避けた方がむしろ得策ではないかと
考えまして、その点を
鍵田氏に話をしたのでありますが、
鍵田氏は快くこれを引き受けまして、すでに二カ月ほど以前からこれにかかっているのであります。この点はいろいろ
報告がございまして、確かに行いつつある、こういうことでございますので、
保護法を発動させるというようなことはしばらく見合せているのであります。それから正
倉院を守りますがために種々なる
条件を付して
道路を許しているのでありますが、その
条件の
履行ということもはなはだ疑わしかったのでありますけれ
ども、だいぶその後になりまして
先方の
態度も改まりました。私が会見いたした
最初におきましては、しきりに
私有財産権の尊重などということを云々いたしておったのでありますが、その後の会見の際には、さようなことも全然申されないのでありまして、あくまでも
文化財を尊重する、ことに正
倉院の
御物はあくまでも守らなければならぬということを、
誠意を顔に現わして申しているのであります。私
考えましたところでは、
会社の経理の
状態もだいぶ改まっているということが、
同君の心境を変化させるのにあずかって力がありはしないかと
考えますが、もしまた万一
会社の
状態が悪くなった場合にはどうかということもただしたのでありますが、
自分としてはやがて
社運を回復させる道は、公共との
利益と
会社の
利益の一致したことが、とりもなおさず
社運をまた挽回させ隆盛ならしめる道と
考えているということを申しているのでありまして、実際に徴しますと、
条件の
履行は着々として行われているのでありまして、写真そのほかによりまして、
奈良の方から絶えず
報告が参っているのであります。かようなことが行われますならば、すでに大
部分の
道路を許していることでありますので、未
許可の
部分を許すこともやむを得ないのではないかという
意見に傾いているのでありますが、
専門委員の
諸君の
態度は慎重でございまして、まだ最後的な答申を得ないでいるのであります。この点をむろんわれわれは尊重しなければならぬのでありますし、それからまた宮内庁におきましては、独自の立場からしていろいろ研究を進めているのでありまして、その
報告を待ってわれわれの
態度をいよいよ
決定しなければならぬ、こう
考えているのであります。
それからまた、御
承知のようにわれわれはこの四月以来
東京の
文化財研究所の
諸君に、どれだけの
影響が
塵埃あるいは
排気ガスによりまして
御物にあるかということを
調査しているのでありますが、その結果がだんだん現われつつあるのでありまして、どうもこれまでのところによりまするというと、
塵埃、
排気ガスというようなものが増加しており、その
影響全然なしとは言えないのでありまするが、しかしながら正
倉院のお倉の中に
御物をケースに入れ、あるいは箱の中に入れて納めてありまする場合には、これらのものに対する
影響はまずないものと言ってよかろう、こういうような
報告を得ておりますので、ややその点安心いたしておるのであります。まず一番心配になりますものは銀器でありまして、その色が変る、銀の色が紫色になると申しますか、くすぶると申しますか、このことが心配されておるのでありますが、この点な
ども十分の注意をいたしますならば、まず守ることができるのではないか。
明治の中葉ころと申しますか、まだ光っておりましたところのものが、その後におきましてだいぶ変色しているという事実があるのでございますが、これらのものは、あるいは
明治に始まりました
曝涼の結果ではないか。毎年秋行われます
曝涼の結果ではないのか。今度のこの
自動車道路を設けました結果というようなことは
考えられないという
報告を受けておりまするのでありまして、これらのものをすべて総合いたしまして、われわれの最後的な決断を下したい、かように
考えておる次第でございます。