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高橋説明員 前会野原さんの御
質問を受けました当時は、ちょうど肥鉄土会社の社長鍵田氏と会見いたすことを申し入れておりましていまだ会見の機を得ずにおりました際でございまして、その点申し上げたと存じますが、私の方から会見を申し入れ、向うは上京いたしまして日取りも時間も約束しておったのでありますが、とうとう参れないという返事を受けましたのであります。それからその後さらにまた日を約束いたしたのでありますが、このときも会えませんでございました。三度目になりまして、日は、必要があれば、事務局の方でむろんわかっていると思いますが、鍵田氏が
文化財保護委員会に参りまして、私会見いたしたのであります。そうしてどれだけの誠意があるかということをよく知りたいと存じまして、いろいろ問答をかわしたのでありますが、たびたび申し上げております
条件の履行、これにつきまして鍵田氏は、舗装はあくまでもやる、それから植樹、芝張りのごときものもむろんやる。もうすでにやっているところもあるのであるが、しかしながら散水については自分は今日はなはだ悔いている。どうしてああいう約束をしたものであるか、自分ながら後悔いたしているというようなことを申しているのであります。これは何によるのであるかと申しますと、舗装などは後に残るものであるが、散水はそれぱなしになってしまうのである。資本家的な見地から見ておるのでございましょうが、はなはだ何かむだのように
考えられるというようなことを申しておりますので、これはどうもはなはだ遺憾なことであると存じまして二、三押し問答いたしておりますうちに、それでは散水もいたします、必ず初めお約束いたしました
条件は全部履行いたします、こういうことを申したのであります。それからなお
史跡の
指定地域内におきまして肥鉄土の
採掘を行いました点、この点はどうかと申したのでございまするが、むろん一応は、これは遺憾であった、まことに申しわけがないというような口吻を漏らしておったのでありまするが、根本におきまして鍵田氏は、私有権の神聖を深く信じておるものでありまして、自分の所有地内において自分が土をとるというようなことをしてなぜ悪いのであるか、
国家はこれに対してどういう賠償をしてくれるのであるかというようなことをしきりに申しておるのであります。私は
法律にはうといのでありまするが、所有権というものはそういう絶対なものとは私どもは
考えないのでありまして、なるほど所有権は総括的な支配権でありましょうが、しかしながら公益あるいは他の個人の利益の点からしていろいろな制限を受けなければならぬものと
考えておる。ことに史蹟に
指定せられておる
場所であるならば、
文化財保護の点を十分
考えてもらわなければならぬ、こう申したのであります。いろいろ話をいたしておりまするうちに、どうやら納得したようでございまして、そのほかいろいろ打ち合せをいたしまして、帰ったのであります。それで果して同君が約束いたしましたことを実行しておるのかどうか、これまでの例に徴しますると、いささか心がかりでありましたので、
文化財保護委員会事務局の記念物課長補佐、荻原君を奈良に派遣いたしまして、実際道路そのほかを調べてもらったのでありますが、向うの会社の人に案内をしてもらいまして、いろいろ説明を聞きながら
調査いたしたのでありますが、どうも社長の申しておりますところと、あちらの事務員の申しておりますところとでは相当食い違いがあるようであります。私どもはさような命令を社長から受けておらぬというようなことを申しておる個所が二、三あったと聞いております。それで私はどうも鍵田社長の誠意がはなはだ疑われるのである。国会におきましても正倉院
委員会におきましても、私は罰則の適用というようなことはでき得る限り避けて、他の方法でこの問題を解決したい、正倉院そのほかの貴重な
文化財を守り抜きたい、こう
考えておるということを
答弁いたしたのでありまするが、どうも鍵田氏がかような態度をとっておりまする以上、はなはだ遺憾であり、その効果のほども疑われるのでありますが、罰則の適用以外に道はないのではないか、こう
考えまして、他の
委員諸君にもお諮りいたしておったのであります。そして事務局に対しましては、でき得る限り早くその手続をとるようにということをたびたび督促いたしておったのであります。ところが先週の土曜日に奈良の教育長の足立氏が出て参りまして、ちょうど
委員会が開かれておったものでありますので、
委員会に出席してもらいまして、いろいろ氏の述べたいと
考えておりますことを述べてもらいました。非常に長時間にわたったのでありまするが、教育長は、今鍵田社長並びに会社は非常に態度を改めまして、恭順な態度というような言葉を使ったのでありますが、恭順の態度を示しておる、こういう際にもし罰則の適用というようなことが行われまするならば、かえってやけっぱちになってしまって、すてばちになりまして、
事態を悪化させることを自分はおそれておるのであるというようなことを申しておられたのであります。どうもそういうことでありますならば、たとい効果がないにしろ、いよいよわれわれとしては
法律の定めるところによりまして進んでいくほかに道はないではないか。しかし、この点につきましてはなお教育長からよく鍵田氏に話をしてもらいまして、決してすてばちにならないよう、やけくそを起さないように話をしてもらえないものであろうか、この点なお慎重を期したいのである、こういうことで別れたのでありますが、まだその返事を今日まで受け取っておらないのであります。先方の態度いかんによりましては、むろん罰則の適用もやむを得ないことと思いますが、なお
地元からの返事を一日、二日待っておりまして、さらに事務局をして適当な
措置をとるようにいたさせたいと存じております。
それから塵埃でありますが、これはこの前申し上げましたように百葉箱を据え付けたのでありますが、正倉院の倉の中にこれを入れることが許されないのであります。倉の中に試片などを置きますのは、この秋の曝凉を待たなければならぬ、こういう遺憾なことに相なっておりますので、倉の外にこれを置いておるのでありますが、その中の一番道路に近いものが最近に至りましていささか
影響を示しておる、こういうことであります。これは道にごく近いところでありますし、そうして他の
場所に置きましたものには
影響が現われておりませんので、さらに研究を進めていかなければならぬと
考えておりますが、まずさような報告を受けております。
それから一番正倉院に塵埃の
影響を及ぼすことの大であると
考えられましたもの、これは正倉院
委員会でもそういうことに到達したようでありますが、これは東側の道路であるということであったのであります。その東側の道路は奈良県におきまして立て札をいたしまして、バスを通さぬようにいたしましたそうでありまして、これによりましてよほど塵埃は防ぎ得ておるのではないかというような報告を受けております。今日まで
委員会のいたしましたことは大体これくらいでございまするが、あるいは私の言葉の足りませんところがございましたらば
局長から補わせることにいたします。