○川崎(末)
委員 私はただいま
委員長から許可を得まして、この際
地方自治、ことに
地方公務員のことにつきまして、簡単に
自治庁当局の御所見を伺、いたいと存ずるのでございます。
地方自治の円満な進展をはかるためには、
自治体の
理事者あるいは議会の議員、また一面この
自治行政を管掌し、また指導し、相談役となっております
地方府県の関係職員との間に常に円満に意思が疎通し、感情が融和しているということが、これまた必要なことと思うのでございます。かような
意味から申しまして、はしなくも京都府下におきましてこの四月にはなはだおもしろくない事件が起きまして、府政上の問題にもなったような事件があったのでございますが、
地方自治の上から申しましても、私ははなはだこれを遺憾に存じている次第でございます。
今申したことの事実は簡単でございますが、その概要を申し上げますと、京都府の宇治
地方事務所所長渡辺正という人でございますが、その事務所では、本年の二月末ごろから、府が行なっております新生活運動
推進の参考資料にするためと称しまして、自己の管内の宇治市、久世郡の各所に所員を派遣いたしまして、管下の各種団体の役職員等につきまして、その経歴とか、行動あるいは思想その他の
調査を行なったのでございます。その
調査の対象といたしましては、管内の
市町村長、同議会の議員、農業
委員会、地区会、町内会、青年団、婦人会等の役職員を対象といたすということでございまして、そうしてその
調査の項目といたしましては、それぞれ関係者の略歴、
関係団体、支持政党、派閥、最近の各種選挙などの際におきましてどの候補者に投票したか、縁故関係、その人の性格、交友関係、事業に関係しておるならば、その事業の利害関係など、かような各方面にわたる多数の項目について、それを
調査したようでございます。そしてその
調査の対象は、管下のそういう
地方有力者あるいは各種団体の役職員のほとんど、約五百人に対してこれを
調査いたしました。その結果、一覧表は幅六十センチの方眼紙に図解式で書き込みまして、その長さが六メートルにわたるというような膨大な
調査を行なったというのでございます。しこうしてこの
調査につきましては、朝日新聞の報道するところによりますると、同事務所は、この
調査は府の企画文書課長の指示によったもので、他の事務所ではでき上っているのに宇治事務所はおくれていると催促されたので、あわてて二通作って、一通は府へこれを進達した。府下の十一事務所、一事務局のうち、調べていないのは、木津、宮津等で、その他の事務所は自分の事務所と同じようにこれを調べた、こういうことをある記者に漏らしたということでございます。またこの事件に関しまして問題となりまするときに、渡辺宇治事務所長は、これは府政の参考資料にする程度のものだから、管内の各種団体長のかわった場合には、その都度府へ報告しておるのであって、これに要した特別の
調査費用などというものは府費からは出ていない、こういうことを言明したそうでございます。なおくだらぬことでございまするが、その
調査の
内容の一例を申し上げますと、たとえば久世郡の某町の農業協同組合長の
調査の結果の記載を報ずるところによりますると、その人の支持政党は何か、自民党である、前回知事選挙には某氏に投票している。性質といたしましては、物質欲強く、絶えず
態度がふらふらである。現町長派である。また某町長の欄におきましては、支持政党は自民党である。場当り政治をやって見えすいている。青年団、婦人会を懐柔することに努力している。某府議につながりを持っているというような、たわいない記載もあるのでございます。また
調査方法の一例といたしましては、私の直接耳にしたところによりますると、四月上、中旬ごろ宇治事務所の民生課の某課員が、管下の久世郡御山町御牧池坊の某氏の宅におもむきまして、あなたは政党に入っておるかどうか。さきの府
会議員の選挙にはどちらに味方をしたか、親類に革新系の人があるかなどを尋問したそうでございます。なおこういう
調査をいたしておりまする間におきまして、宇治事務所では、この
調査に非
協力的であったという某課長が突然転職したのでありまするが、これはそれがために左遷されたといううわさが流布されているような仕儀であります。
なお、この事件がなぜ府政上の問題となったかという経過と結果を申しますると、今申しましたように、この
思想調査のことが、はしなくも朝日新聞で四月十八日に報道されましたが、これが府政上の問題として取り上げられた動機でございまして、この問題が起きますると、蜷川知事はさっそく府政記者団に対して会見を申し出まして、事務所長が管内の実情を客観的に把握することは必要であり、またことしの
政府スローガンの婦人青年
たちの暮らしの向上運動のためにも、団体員の名簿を作っておく必要があると言っておるが、政治的な動向まで調べるように指示したことはない。カードまで配付して
調査したというから、さっそく係員をして調べさせるが、公務員の中立性を疑われたり、
住民に不安を与えたことには責任を痛感する。今後こうしたことがないうようにしたい。問題のカードも取り寄せて焼き捨てると言明したということが報道されておるのでございます。また渡辺事務所長は毎日新聞の某記者に対しまして、自分が就任して、各課に
関係団体の役員名簿が整理されていないので、九月——これは昨年の九月ですが、九月に整理するように指示したが、二月になっても庶務担当の教委関係人名簿ができないので、その怠慢を責めた。五百名のうち二百名く
らいは趣味、支持政党、略歴などをメモしたのであるが、府の指示によったものでなければ府に
提出しない、こう申しておるのでございます。かようにして問題になったのでございまするが、府会の一会派は府の関係当事者について事情を調べましたところ、吉谷公室長は、宇治事務所で人名簿を作成したことは聞いたけれども、
調査カードを破棄したことは知らないと言い、また大橋企画文書課長は問題のカードは破棄したと公室長から聞いた、こういうように両者の言明が一致しないので、府
会議員団は数名の者を現地事務所に派遣いたしまして
調査したのでございまするが、その結果所長の答弁によりますと、大体次の
事項が明らかになったのでございます。すなわち
思想調査は事務上の参考として
調査作成せしめたが、これは府の上司の指示によらず、自発的に作成せしめたのであるが、問題となったので、四月十八日に
調査カードは独自の立場で焼棄した。十八日の午後公室長から、この部屋で、なぜ
思想調査をしたか、カードは今どこにあるか、どうして外部にこの
調査のことが漏れたかという三点の質問を受けたということを申しておるのでございます。なお選挙の背景等まで調べたのは、各種会合の場合にそれぞれ
出席者と話の合うようにするための資料としたものである等の
説明があったということであります。なお最後に所長は議員団に対しまして、なすべからざることをやったことについては自責し、府の上司の指示に反して、あえて独断でカードを処分した、府民に迷惑をかけたことを深くおわびしたい、こう申して了解を得ようとしたということでございます。
これが大体今回の京都における宇治事務所の
思想調査の概要でございまするが、今この問題を諸般の事情から総合して私自身として判断しますのに、宇治事務所長が管内の有力者の略歴
調査をなし、またはなさしめたということは、これは動かすべからざる厳然たる事実でございますが、
調査が府の指示によったのであるか、あるいは事務所長独自の立場で行なったのであるかという点は不明でございます。現在においては府の知事以下当局者はすべて、これは府の指示によらず、事務所長の独自の
考えでやったにすぎないということを申しておるのでございますが、しかしながらこれは諸般の事情から
考えますると、この点はまだ不明であって、むしろ私は何らかの
意味において府の
機関から事務所長にその意思が通じてあったものであると思わざるを得ないのでございます。
これは余談でございますけれども、私がかつて京都府の居村の村長に在職いたしておりました際におきまして、私の同僚の者からこういうことを言われた。蜷川知事は座右に有力者、公職者の名簿を備えつけ、訪問者がある場合には名簿によってその人の経歴、政治上の立場など調べて応待の参考にした。君は札つきだから、つまり政党色がはっきりしているから村政上、府と関係のあることについて交渉する場合には、よほどその点を注意してやらなくちゃならないという注意を受けたことがございました。私は当時そんなばかげたことがと思って、これを一笑に付してあえて顧みなかったのでございますけれども、こんなこともあったということから
考え合せましても、今回の宇治事務所の
思想調査というものが、府の指示によるかようなかったかということについては、さきに申したように疑わざるを得ないのでございます。しこうしてこの
思想調査のごときは、終戦前の場合を思いますれば、当時はこんなことは尋常茶飯事のことであって、あえて取り上げて問題にするほどのことでもない、取り上げられることでもないと思われますが、しかしながら時勢の変った現在のごとき、新憲法下各人の思想及び良心の自由が絶対保障されておる民主主義に徹底した
自治行政下におきましては、問題たらざるを得ないと確信するのでございます。かかる
思想調査を行うことは、ややもすれば行政を関係者の人物あるいは政党政派のいかんによって、へんぱな
措置に出られたり、不当な処分をなさしめる
原因、動因ともなりかねないと思うのでございます。またかような
調査に当りまして、当該関係者に不当な不安、疑惑の念を抱かしめるおそれもある。また現に今回の事件に当りましては、その事実のあったことを私自身耳にいたしておるのでありますから、はなはだ好ましくないことと思うのでありまして、憲法の保障する思想及び良心の自由の
本旨から見ましても、
地方公務員法の
趣旨から見ましても、公務員の中立性を害する非常に不当な行為であると言わざるを得ないと私は存ずる次第でございます。つきましては、この点につきまして
自治庁当局といたしましてはどういうお
考えを持っておられますか。もし私と同様な御意見であれば、適当な機会に府当局に対し、あるいはまた府当局を通じて当該関係所長、吏員等に対して、公務員の服務、職務執行上、今後について注意を与えるなり警告を与える等、適当なる御
措置をとられる御意思がありますかどうか、この点を伺っておきたいと存ずるのでございます。