○中川(董)
政府委員 京都におきまして傷害致死
事件が起りまして、先ほど御
指摘のありましたような状況につきまして、私
ども鋭意その真相の把握に努めて参りましたが、現在までに判明いたしました状況に基きまして要点を御報告申し上げたいと思います。
起りましたのは昨年の四月十日でございまして、ちょうど日曜でございました。午後十時三十分ごろでございまして、相当夜おそい時刻でございますが、
京都市内の上京区五番町、あそこの盛り場でございますが、盛り場におきまして、被害者の木下兄弟等が、遊興の
目的も若干持って歩いておった。そのところで、まず第一に今度真犯人として自首してきました男とけんかになりまして、そのけんかは一応別れまして済んだのでございますが、その後双方四、五名の者とまた他のけんかが別に被害者の木下との間に起りまして、双方数名の者と被害者木下とのけんかが第一現場、第二現場、第三現場、こういう形におきまして追っかけごっこで行われていったのであります。そうして、そのうちの被害者木下だけが逃げおくれまして、これに対しまして数名の少年が追っかけて参りましてこれをやっつけた。こういう格好に相なりました。当時その現場には
警察官も居合せておらなかったのであります。ところが、そこに見聞しておりました民間の方々からの御連絡によりまして、
警察官がその現場にはせつけましたところ、被害者の木下君は非常に出血多量で苦しんでいる。こういう状況を現認いたしましたが、その被害者の救護がとりあえずの緊要事でございますので、救急車等によりまして病院に運んだのであります。病院に運びましたが重態のため死亡するに至ったのであります。そういう状況でありましたので、そこに居合せた民間の方々が
——今にして
考えれば、第二のけんかの仲間に加わり、しかも
最後まで被害者と一緒にその近辺におりました少年の一人を、民間の方々が連れて
警察署へ出頭して参ったのでございます。そのけんかの一翼をになった人は西川と申すのでありますが、西川君の供述と、現場に残された状況等によりまして、当夜
——当夜と申しましても十二時近くでございますが、逐次
捜査を遂げまして、翌朝、すなわち四月十一日午前五時前後までにそのけんかに加担した五名の少年を見つけることに
警察は成功いたしたのであります。そうしてその五名の少年等について事情を聴取し、いろいろな状況を調べましたところが、宋という少年につきましては、被害者から出血多量のための返り血を浴びまして血をかぶっている目撃者がありまして、目撃者が、宋という人物はこの少年とけんかしておった、こういう事実を申し述べますし、宋がこれを殺したのである、こういう陳述も行なったのであります。そういう状況にかんがみまして、宋以下四名の者につきましては、緊急逮捕いたしまして引き続き
捜査を遂げたのでございますが、内、西川
被疑者につきましては、そういうけんかに関連を持っておりましたけれ
ども、けんかに直接手を下していない、こういうことがわかりましたので、それは書類上で
処置いたしまして、それ以外の宋外三名の少年に対しましては検察庁に送致する手続をいたしたのでございます。そうして、検察庁の
捜査に基いて
事件が御案内の通り裁判にかかり、裁判の途中において別の
被疑者が自首して参った、こういう状況なのでありますが、ここに別の
被疑者の状況等に関連いたしまして、今日現在で
考えて参りますと、
最初警察がめっけました、すなわち民間人の
協力に基きましてめっけました
被疑者は、けんかに加担しておったことにつきましては十分なる心証がある。そのことについてはまず間違いない、こういう状況でございましたし、ことに被害者の死亡に対しまして、結局は死亡いたしました被害者に対して手を触れておって、その死んだ人の瀕死の重傷の被害者に対して、その上に乗っかっておった、こういうことも大体明らかでございます。そういうことに基きまして、だんだん
捜査を遂げておったのでございます。そのうち宋
被疑者につきまして、
自分がやったのだ、こういう
自白が数日後において初めてあったのでございますが、この
自白するに至った
原因が、
警察官の
職務活動が
拷問または
拷問に近い形において強制が加わったのでないか、こういう点は私
ども監督者といたしまして十分な疑いを持ちまして、これを現在引き続き
捜査を遂げておるのでございますが、ただいまの現状では、大体こういう人たちがけんかに加担しておったことが事実でございます。ことに別のけんかが行われておったということは、その宋以下の
一つのグループについてはわかっておりませんので、仲間のだれかが殺したという認識が、
最初つかまりました
被疑者につきましての認識がありましたので、こういうグループでは比較的親分的な役割を果す人間がありまして、親分的役割を果す人間が
自分たちの仲間のうちだれかがやったという認識があったことに基きまして、親分的気質をおそらく発揮したと認められるのでありますけれ
ども、これが
自分がやったのだ、こういう供述をいたしておるのであります。その供述に基きまして、それでは
自分が殺したということになれば、何か凶器があるであろうということに
警察は疑いを持ちまして、凶器の捜索にずいぶん苦労いたしたのですけれ
ども、凶器はついに見つけることができない。
被疑者の陳述によれば、それぞれ隠した場所は数回申し述べたのでありますが、申し述べた場所につきまして捜索を実施いたしましたところが凶器が見つからない、こういう実情であったのであります。それでけんかの実相が非常に偶然性が加わった
事件でございまして、
一つのグループがけんかしておる間に、前のけんかの片棒が、今の
最初つかまった
被疑者とのけんかのときに追っかけられてきておる状態を、
自分を追っかけていると誤認をいたしまして、そして突き刺した。これが現在判明している状況で、二重のけんかが錯雑しておって、だれが致命傷を与えたかということについての
捜査が、今日にして思えば十分でなかった、これが実情でございます。
その後検察官の
取調べの段階並びに裁判の段階等において、また別の問題があるようでございます。その点につきましては、
警察官は全然関与いたしておりませんので、これはもっぱら法務省に御
調査願っておるのでございますが、われわれ
警察官が関与しておりますところの
最初のけんかの現場に居合せた者四名についての
取調べ状況について、不当、不法のことがなかったかどうかという点が問題の要点なのでありますが、私
ども警察の
取調べの要点といたしましては、先ほ
どもしばしば御
指摘がございましたごとく、
警察官の一方的の陳述を聞くことによっては、真相把握が十分でありませんので、宋以下の
関係人につきましても監察官が事情を聞いておるのでございます。そういう
被疑者の陳述によれば、
自分は
拷問を受けた、こういう陳述をするのでございますが、その話の
内容に比較的具体性がないという状況であります。そういう状況で
真実の
発見に大へん苦心をいたすのでございますが、二つのダブったけんかが同一現場において引き続き行われて、多く加担したグループの方だけが
最初に
警察に判明して、そのすきに乗じて真犯人がけんかのあだ討ちをやったという状況が、
最初の
捜査においては浮び上らなかった。すなわちわれわれ
捜査に従事しておる者といたしましては、周到綿密に
捜査するという建前からいたしますれば、結果においてけんかの最中にすきを見て飛び込んできた真犯人の
捜査の究明について不十分であった、こういう点がまず第一に
考えられますので、その不十分の点は確かに申しわけないと思っておるのでございます。そうして大きなグループとのけんかの真相につきまして、そのけんかに加担したことだけは
本人も認めておりますし、みな認めておりまして、ことに傷ついた被害者に対して引き続きけんかを売っていった、こういう状況も
真実でございます。ただそれに対して
関係人が、
自分たちがけんかに関与しておりましたので、
自分たちの仲間がとにかく殺したのであろうという意識を全部が持っておった。そうすると、こういう不良グループにありがちなことでありますが、そのうちで比較的幅をきかす人間が、おれがやったのだ、こう言う段階が
一つのケースとしてあり得るのでありまして、このケースもそういう段階であった、こういうふうに認められるのでございます。この事柄は、宋という
被疑者が
自分がやったということを
自供しておりますので、
自供をするに至った以上は、
警察官の
取調べに無理があったのではなかろうかということにつきましては、私も疑いを持ちまして一生懸命調べますし、ことに
警察官側の言い分だけでなしに、
被疑者側の言い分も聞き、その他状況等を総合勘案いたしまするに、直接暴行脅迫によって、こういうことになったのではなくして、こういうグループに基くけんかの比較的世の中にあり得る状態として、
自分たちの仲間の者がやったという認識を各人持っておりましたものですから、そのうち
自分がやったのだ、こういうことを言った段階があったのだ。その後その
被疑者は、そういうことを
自分は言ったのだけれ
ども、当時酒などを飲んでおったので、比較的意識がもうろうとして事柄がはっきりしなかったということも、陳述しておる状況の時期もございますので、そういう時期があることを
考え合せますと、事案の真相は私がただいま申し上げた通りでなかろうか、こういうふうに現在
考えておる次第でございます。