○
多賀谷委員 私は
日本社会党を代表し、
小笠公韶君より提出されました
修正案に反対し、さらにその
修正部分を除く
原案にも反対いたしたいと考えておるのであります。
不況、
恐慌は
資本主義の生んだ産物であり、災害であります。
恐慌は
資本の破壊であります。また一方
恐慌は
労働者、
中小企業者の犠牲においてする
資本の休息でもあるのであります。
恐慌から
恐慌へは
資本の生命の大きな循環であり、かくして
資本主義は発達して参りました。
繊維もその例に漏れなかったのであります。いな、
繊維こそは、その周期的に襲ってくるところの
過剰生産恐慌の波に常にほんろうされて参りました。
日本の
紡績はわずか七十年の
歴史の間、その
綿糸生産高においても、また綿布の
輸出高においても、世界に冠たる実績を示し、
わが国産業の大宗として
日本経済発展の
主導的役割を演じたのであります。しかしこの間の目ざましい
発展の
歴史には、周期的に襲って参ります
恐慌の波に対して常に
操短をもってこれを切り抜け、
恐慌、
操短、繁栄の連続であったのであります。
紡績の
歴史は
操短の
歴史であったといわれているのであります。明治二十三年、一八九〇年の
世界恐慌の際初めての
操短を行なって以来、戦前十一回、戦後二回の
操短を経験いたしました。それはあたかも動物が冬ごもりをして春の活動の時期を待つごとく、好況に乗じては活躍し、
不況を迎えては
操短し、
操短の間に整理と準備を行い、
操短の期間を経過するころにはたくみに需給の調節が行われ、増錘の
計画となり、また飛躍する、
増錘完了の暁にはまた
生産過剰となり
操短をする、これの繰り返しであったのであります。しこうして
操短は
共同操短という
カルテル行為を生み、トラストと
発展していったのであります。
不況のうちに独占と集中が進み、
独占資本強化の体制が確立してきたのであります。一方その
操短の被害は
一般消費者はもちろん
織物業などの
中小企業者の倒産となって現われ、さらに
労働者の低賃金と
労働強化、解雇に拍車をかけて参りました。
私は本
法案をもってこの
紡績の宿命たる
操短の
歴史を繰り返さないための
計画経済への転換と理解すべきものであるか、はたまた本
法案そのものが
強制操短の一種であり、
独占資本の
カルテル行為を、
法律の名をかりて行なっているものと理解すべきであるか。遺憾ながら
繊維製品の正常な
輸出の
発展に寄与するという
副次的目的のみを主
目的のごとく掲げられた
政府のごまかしの
説明では、とうてい理解することはできないのでございます。(拍手)しかしながら、
独占禁止法の
不況カルテルの
許可条件に満たない現況において、
操短カルテル行為が認められない点、並びに限時立法の形式をとっている点より考慮いたしましてこれを推察いたしますと、後者の色彩がまことに強いことを遺憾に感ずるのでございます。以下私は次の諸点において本
法案に
賛成することのできない旨を明らかにいたしたいと思います。
第一は、本
法案は織
布部門すなわち
中小企業からなる
機屋を救済するものであると
政府は答弁をしておられますが、果してそうでありましょうか。
中小機屋の苦境は、
糸高製品安という言葉が端的に表わしておるのであります。
中小機屋は何ゆえ割高の糸を買い、安くしか
織物が売られないのでしょうか、これらの
機屋は工賃さえ満足に払えない
赤字生産を続けておる。さらに
機屋は通常三十日の手形で糸を買い、四十五日ないし六十日間の手形で
織物を売っておる、こういう
現状である。全く
自転車操業であります。
機屋がこのような苦境に追い込まれた
原因はどういう点にあるでしょうか。
政府は
綿糸の
生産に対して
織機が多過ぎると
説明をしておる。なるほど原
糸供給部門に対して織
布段階は
生産技術が比較的簡易であり
設備も簡単でありますために、無
計画に増設し
供給部門より過剰になりやすいことは私は否定いたしません。その論拠に基いて
昭和二十九年十一月
中小企業安定法二十九条を発動して
設備制限命令を出されましたが、その結果は、
糸高製品安が解消され、
機屋の
不況は解消されたでしょうか。私は
機屋の
不況の最大なる
原因は別の点にあると思うのであります。
紡績大
資本の力による
機屋の
支配機構を見のがしてはならないと思うのであります。
紡績は
中小機屋に対する支配を三つの形式で行なっております。
一つには、十大紡は強力なる自家織
布部門を持って
織物までの
一貫生産を行い、
中小機屋の強力な
競争者となって今や
市場に現われてきております。
織物の
生産高中
紡績兼営は大体全体の三割強を占めており、
紡績は兼営織布の
操業確保のために優先的に原糸を回し、
製品市場を押えておるのが
現状であります。
第二には、十大紡は有力な
機屋を賃織り工場として
下請に出しておるという事実であります。まず
下請の工賃をたたき、
大量生産に適しない特殊の織布についてはこれを
委託加工に出す、さらに市況の変化に応じて
下請を適宜調節して危険の分散をはかる、そうしてその
下請に危険を負担せしめる、こういうやり方をしております。
機屋の
下請生産は全
生産量の五割にも達しておるのであります。
さらに第三は、
紡績会社は糸の
販売価格をつり上げ、
出荷操作を行うに非常に有利な条件を持っているという点であります。
公正取引委員会の調査によれば、
昭和二十九年
紡績が販売いたしました
綿糸のうち二五%は自家織布用とし、一九%は賃織り用と固定し、自由に販売した糸はわずか五四%にすぎなかったのであります。
昭和二十九年は
綿製品全体は過剰でありましたけれども、
綿糸市場は常に
供給不足という現象が続いておったのであります。
紡績は
出荷量を思うように操作し、自分の思う
価格で糸を売りつけておる、こういうような状態でございます。
政府は、本
法案が
過剰設備処理の
補助金まで出して
機屋を救済するものであると主張されておりますが、私は前述のごとき
紡績の
資本力による支配の前に、さらに原
糸供給部門の
設備の
制限と相待って、
織機の処分はますます
織物業の規模というものを縮小し、さらに
中小企業の整理への方向に進むという危険を包蔵しておると思うのであります。
さらに第二点は、
供給部門設備制限による
販売価格のつり上げであります。
設備制限を行うときは
独占価格が形成せられ、現在においても綿系は在庫少く
値上りを見、
操短は廃止されんとしておる今日において、さらに百二十万
錘程度の
設備が
処理されるときは、
値上りを見ることは必至であり、さらに三品
市場における思惑的な作用はそれを一そう拍車をかけ、高騰への方向にたどることは明らかである。
さらに私は近時における
繊維輸出の伸び悩みの背景を考えてみたいと思います。戦後における世界の
繊維産業構造の変動がそこに伏在しておると思います。すなわち、一つには
後進国における綿業の勃興であります。かつての
綿花生産国、
綿製品輸入国が
自立態勢を整え、インドのごときは
輸出産業への性格を確立してきたということであります。第二は、
化学繊維の異常なる発達であります。さらに米国の
日本繊維の
輸入制限等の問題が起り、ここに
綿製品の需要の限界を考えた
紡績資本家製品市場の拡大をほとんどあきらめて、むしろ
設備を
制限することを主張して参りました。これはすなわち狭められた
市場において利潤を獲得し、そして支出を少くし、
販売価格を上げていこうという
考え方であります。これは低賃金となって現われ、
価格の高騰になって現われることは必至でありますが、これに対して
政府は何らの
対策を持っておらぬということは、はなはだ深く遺憾に考える点であります。なるほど
繊維は現在
繊維業者から見れば安いかもしれませんけれども、
一般家庭から見ますとまだ衣料は決して安くない、高い現況にあると考えるのであります。
さらに私は第三の点において、本
法案は
独占化がますます強化をされるであろうということを指摘いたしたい。十大紡と新紡と
新々紡その他の
中小紡との関係を述べてみますと、十大紡と
中小紡との対立は非常な激化の一路をたどっております。
労働の
生産性を見ましても、
綿紡一コリ当りの
労働時間を比較しますならば、十大紡が五十一・八時間、
中小紡は七十五・五時間もかかっておる。一万
錘当り十大紡が百二十一・九人を要するのに対して
中小紡は百五十・四人を使っておるのであります。これらの
労働効率の差はなるほど
設備の不備にもよるでしょう。
熟練度の低位にも基因すると思いますけれども、私は最大の
原因は何といっても
原綿の入手にあると思うのであります。
原綿輸入の
割当は、当初十大紡の
設備が多かった時分は
設備に対して行われ、
中小紡の
設備がかなりふえてきたころになりますと、
輸出入リンク原綿割当制を実施してきたのである。そうして十大紡は優良な均一な品質の
原綿を入手し、
中小紡は質の悪いさらに均一でない
原綿しか入手できなかった。ここに私は、
生産工程における
糸切れが多く、
生産を非常に阻害しておると思うのであります。もちろん
輸出振興に対して
対策があるとともに、さらに
中小紡が常に
操短破りをしておるのを何とか防ぐために、今まで自由であった
ポンド地域からの
綿花輸入を抑制してそれを
割当制にした、こういう点にもあると考えますけれども、私はこの点において、やはり十大紡の
原綿入手が常に有利な
立場にあったということは否定できないのであります。結局これらの
政策は、
中小紡を圧迫し、その圧迫はさらに
労働者の犠牲に転嫁されて参りました。
労働者の低賃金と
労働強化の上に操業が続けられたのであります。近江絹糸の争議は、
中小紡の
労働の実態を露呈したものでありますけれども、私はさらに十大紡が
原綿の
割当において有利な地位を占めておるだけでなくて、次のようなシステムによって私はさらにさらに強大な
独占化の方向をたどっておるということを指摘いたしたい。すなわち染色加工工場、縫製工場にまで手を伸ばし、これを系列化し、自家商標のワイシャツ、ブラウス、作業服まで、いわゆる二次
製品市場まで手を伸ばして参ったのであります。すなわち
紡績がアメリカのサンフォライズ加工特許を買って材料を輸入したのがその手始めであると私たちは考えておるのでございます。さらに縫製業者の製品を
市場から駆逐して、第二次製品の
市場の
独占化をはかりつつあるのであります。さらに、本
法案が十大紡を
独占化せしめる大きな役割を演じておるのは、高能率の機械を
本法からはずしておるという点であります。すなわち高価な高能率の機械の輸入運転によって、ますます
繊維市場を最終製品まで十大紡は
独占化する傾向をたどることは、はなはだ遺憾だと考えます。
さらに第四点といたしまして、本
法案は
関連産業を倒産させ、並びに
労働者の失業分野への投入に対して何ら
対策を考えていないという点でございます。
関連産業なかんずく
繊維機械メーカーは、その一、二を除きましてはほとんど
中小企業であります。そうして
機械産業の性格からいって、大
部分がまたその
下請であります。さらにまた
繊維機械産業の発生の過程からいいまして、ほとんどが
紡績会社に隷属しておるという関係にあり対等の地位にない、こういう点があるのでございます。
本法律の規制によって、私は紡糸あるいは
織機の
生産においてはほとんど増設は考えられない、こういうように考えるのでありまして、そういたしますと全く壊滅をする。そこでこれらに対して
政府は何らかの処置を講ずべきである。しかるに本
法案にはこれが十分に考えられていない、かように考えるのであります。国内の注文が皆無となるという状態は、
輸出の場合は買いたたかれるという現象を呈してきておることは今までの例にも十分あるわけであります。私たちは今この
繊維機械の
輸出をしようとする場合には、相当の買いたたかれを予想しなければならないと思うのであります。これらに対する法的救済の処置が何ら考慮されていない。
さらに
労働者の首切りの問題であります。
日本の経済の
政策において、今最も重大なことは人の経済であります。今や
日本経済は物の経済から人の経済へと移っております。雇用の問題をどうするかということが、今
日本経済の最大の課題であります。こういうような
不況の時期に、しかも昨年から本年にかけまして、昨年の三月は八十四万でありました完全失業者が今や百六万になっておる。こういうような上昇の一路をたどっておるときに、さらに首切りを増大するような
法案を出すことは為政者として慎しまなければならないと私は思います。しかもその
労働者の失業に対して何ら
対策がないということは遺憾であります。その失業の発生して参ります状態を見ると、これは地域的、集団的に現われてくるのであります。そこでその所在の町村の財政は全く逼迫して参ります。こういう点にも何らの考慮が払われていないのであります。さらにその
設備の
更新の問題でございますが、先ほど
小笠公韶君より出されました
修正案には、若干その
規定を見ることができますけれども、私はこの点についてもやはり明確なる
規定の挿入が必要ではないかと考えます。すなわち
更新の処置に対しまして何ら十分な
対策がなされていない。現在
日本の機械の中で綿スフ
織機にいたしましても二十年以上たっておるものが約二五%もございます。人絹
製造業におきましても十五年以上たっております半木製機械が三〇%を越えるという状態でございます。でありますからこれらの処置も十分考えてなさるべきはずであるのに、こういうことを全然考慮せずして
繊維のみを考えて出されたということは非常に遺憾でございます。
さらに私は第五点といたしまして次の点を指摘いたしたいのであります。それは本
法案は
輸出の正常化に寄与するためであるということでございます。しかしながら、
日本の
輸出があるいはソーシャル・ダンピングの非難を受け、あるいはガットの三十五条の援用を受け、あるいはまた現在アメリカにおいて行われておるような輸入禁止の処置がとられるというのは、私はむしろ
過剰設備から来ておるのではなくて
日本の低賃金から来ておると思うのであります。この低賃金の問題は今さら申し上げるまでもございませんけれども、なるほど十大紡におきましては若干賃金もよいかと思いますけれども、しかしながら、さらに織布面あるいは
中小紡、あるいは家内工業というような点に及びますと、
日本の
紡績あるいは織布に携わるところの人々は非常な安い賃金で働いておるのであります。そういう点を解決しなければ、依然として
日本はソーシャル・ダンピングの非難を受けることは免れ得ない、かように考えるのであります。これに対する総合的な
対策が欠除しておるという点を指摘いたしたい。
さらに第六点といたしまして、
繊維の
輸出に対する
対策、あるいは将来酢酸
繊維、合成
繊維等、
化学繊維が伸びて参りますが、これに対する十分な育成の
措置、総合的施策が欠けておるということをはなはだ遺憾に考えるのであります。
最後に私は、
繊維安定
政策そのものの必要は認めますけれども、本
法案は総合
対策に欠除しており、
関連産業、
労働者を全然顧みていない。縮小された
市場の規模においてますます
独占化を強化し、カルテルによる
販売価格のつり上げは結局
中小企業や消費者に
恐慌の負担を転嫁するものであり、カルテルと同時に個々の
資本内部におきましては合理化が進み、
労働者の犠牲において利潤追求が確保されるという
法案の形態に、立法者の意思がどうありましても、行かざるを得ない状態にあるということを申し上げておきたいと思うのであります。
以上をもちまして、
小笠公韶君よりなる
修正案に反対し、
修正部分を除く
原案に反対の意を表するものであります。(拍手)