○内ケ崎
参考人 私は
東北電力株式会社の社長
内ケ崎贇五郎であります。
電源開発促進法の一部
改正法律案のうち、いわゆる
下流増の問題について陳述をいたします。その陳述に先だちまして
東北電力株式会社の概要をごく簡単に申し上げます。
東北電力株式会社は、昭和二十六年五月
電気事業再編成によって発足いたしまして、現在資本金八十億円、東北七県を供給区域といたしておるものであります。昭和三十一年三月末の発電設備は、
発電所二百三十七、認可出力約百二十一万四千キロワットありまして、そのほか新増設中の水力
発電所四カ所、認可出力十二万キロワットがあります。
次に東北の
電源開発について簡単に申し上げます。
電気事業の再編成以来、東北
電力は急速に電源の
開発を行いまして、ここ五年間に認可出力約四十万キロワットの水力
発電所の
建設を行なったのであります。皆様御
承知の通り、
発電所その他供給設備の
建設は、戦後の物価高と、人件費、物件費の膨張と相待って、増高の一途をたどりまして、
発電所あるいは供給設備を
建設すればするほど、
電気料金の原価は高くなる
状態となってきておるのであります。私どもは
電気事業の
公共性にかんがみましても、はたまたいわゆる東北地方の文化並びに
経済的後進性から脱却するためにも、工業振興の最大の
条件である電源の
開発をこそ当面の重大使命と考えましてあらゆる路と犠牲とを忍びまして、特に本問題と重要な関連を持つところの只見川の
電源開発を敢行いたしました次第であります。只見川の
開発に当りましては、たとい下流
開発の犠牲が多かったとしても、
上流部の奥只見、田子倉の大
貯水池が
建設されることによりまして生ずる
下流増を大きな
期待といたしまして、東北地方の需用家はもちろん、東北
電力といたしましても、田子倉
地点の早期
開発を待望して参ったのであります。このことは田子倉
発電所自体の発生
電力並びに下流
施設の効用により、豊富にして低廉なる
電力を確保することに相なりますので、東北地方の
電気料金をして上昇すべき要素を極力抑制いたしまして、豊富にしてしかも安定せる
電気を供給して、東北地方の工業振興に資したいとひたすらに念願して参ったのであります。
次に本問題の核心でありますところの
下流増につきまして所信を申し述べます。
河川の最
上流部に大
貯水池を設け、これによって下流の
施設をして高度の効果をあらしめることは水
資源の活用上、最も望ましいことであります。本
法案は、同一系統の
河川において二社以上の
電気事業者が上、下流の関係に立って発電
事業を行う場合に生ずる特殊な問題でありまして、
上流電気事業者の
施設した
ダムの効用によって、
下流電気事業者が
利益を得た場合、その
利益の
限度において、
上流ダムの
工事費の一部を
負担せよということだと思いますが、
考え方自体といたしましては、きわめて常識的なものでありまして、特に不当というほどのものではないと存じます。しかしながらこれを画ちに立法化の方法によるということは、きわめて危険でありまして慎一屯を期さなければならないと考えるのであります。すなわち立法の基本をなす法概念は、
公用負担の一態様である
受益者負担の観念をとっているようでありますが、私はしろうとで
法律のことはよくわかりませんが、従来の法概念による
受益者負担の観念には当てはまらないもの一であるように思われます。もし公平の観念からということでありますれば、この
法律の適用を
電気事業者にのみ限定した点にも納得しがたいものがあります。
元来
電力再編成時における分割方針の建前は、一系統の
河川に属する発電設備の管理並びに
開発は、一
電気事業者の手により一貫して行わしむることとしたことからも、その
会社に属する同一
河川の
上流において、他
会社が闖入して
開発を行うということは通常考えられないことでありまして、このことが許されるのは、ひとり
電源開発会社と公爵により行う場合に限られることであります。
この上下流の二者間に限られたまれに生ずる事態をとらえ、従来の法概念や、法秩序を無視して
利益返還のための立法をなさなければならないほどの特別の理由と必要があるかというとであります。まれに生じたといたしましても、この種の問題は限られた
電気事業者相互間の問題であり、双方の善意と良識によって
解決され得る問題であります。このようなものの立法化はそのこと自体に立法上の問題があるばかりでなく、不必要に問題の処理を複雑ならしめるものであって、むしろ
電気事業者の良識と自主性にまかせるべきものではないかと思うのであります。
なお
法案の内容について見まするに、
受益者の
負担を
工事費の一部とすることに限定しておりますが、これは
電気料金で
調整してもよいこと、であり、あるいは他に適当なる方法があればそれでもよいのでありまして
工事費の一部
負担ということに限定しなければならない理由はないように考えられるのであります。また
工事費の
負担は
利益の総額に対する割合によって定めることになっておりますが、この
負担割合はむしろ総収入の比率によるのが妥当でないかと者、えます。原案のように
利益の割合により
負担することになりますと、総収入から経費を引いて
利益を算定しなければならないのでありますが、その経費の内容が妥当のものかどうかの検討をお互いがしなければならないということで、非常にめんどうなことが起きると思うのであります。
さらにこの問題を実態面から見まして、すなわち
上流ダムによる発生
電力が、下流に設備を有する一社に送電される場合は、きわめて単純に処理し得るものでありますが、下流受益を二社で
負担するにかかわらず
上流ダムによる発生
電力がその一社にのみ流れたり、下流受益を一社で
負担するにかかわらず
上流ダムによる発生
電力が他の
会社にも流れたりする場合は、特段の技術と配慮を必要とすることになります。例を田子倉にとりますと、この発生
電力は、東京、東北に送電されることと思われますが、この両者の
電力事情は、東京は冬季渇水に、東北は夏季渇水に必要とするように、一様でないばかりでなく、毎日の負荷時間も異なるような場合は、下流
施設の効用を失うような場合も生じ得るかもしれないのであります。もしこのようなことが生じたといたしましたら、せっかくの水
資源の活用は失われ、
下流増の
期待は、その価値を減ずることになるのであります。水
資源の有効
利用を考えるには、上下流一貫した総合運営によらなければならないのであります。従いまして
上流施設の操作は、下流
施設の働きを見付いながら行われることが望ましいのてありまして、この
目的を果すには、
上流ダムの操作管理について共同の責仕を負う必要が生じてくるのであります。従いまして
下流増をあわせ考えるような
ダム工作物はむしろ
利用者間の合意により、
ダムの
工事費を分担して共同管理のもとに高度の
利用をはかるべきものと考えられるのであります。また本
法案の立法概念が、
受益者負色の概念をとるために所有権を認めないとの説もあるようでありますが、本体案は従来の
受益者負担の概念によるものでなく、新しい法概念に立脚するものであるとするならば、費用
負担相当の
持ち分を認めるという新しい法解釈をもってきてよいのではないかと思うのであります。
右屡説のように、立法理念についても従来の法概念を逸脱したものであり、
法案の内容についてもなお相当の検討を要する諸点を残上、実態論としても本
法案をもってしては処理し得ないものがあるのであります。しかも一方、
当事者間の話合いによって
解決できないかと申しますと、決して不可能のことではないのであります。従いまして本
法案の立法化についてはなお十分慎重を期せられたいと考えますと同時に、
政府御当局も
電気事業者の自主性を助長育成されまして、この種問題はあくまで
当事者間の合意による
協議で
解決するよう御指導を要望いたしまして私の陳述を終ります。