○徳永
政府委員 この
工業用水法案に関しましては、実はこの
提案理由の際にもあら筋を申し上げてあるのであります。通産省といたしまして、従来企業の合理化等にいろいろな努力をいたしておったのでありますが、日本の鉱工業の発展が戦前及び戦後を通じまして、既成の工業地帯、たとえば京浜にしても、あるいは阪神にしても、あるいは北九州、名古屋
地区とか、そういう地帯を考えてみますと、工場があまりに伸び過ぎまして、その土地の持っておりましたその以前の立地条件というものがある
意味の限界にきたような現象を呈しておったのであります。むしろ限界を越してマイナスが出つつあるという段階になって、水に
関係ある点で申し上げますれば、工業のためにくみ上げます水のために地盤沈下を起しているという現象も起っているわけでございます。尼崎につきましては、先般のジェーン台風のときには暴風の被害が、地盤が下っておりましたために、より大きな潮水をかぶせているという現象を起したのでございます。そればかりではなしに、地盤の沈下のことからきまして、機械
設備そのものががたがたになるというような現象で、事業者側としましては、据え付けをいたしました
設備にまた上台を築き上げたりというようなよけいな苦労をしなければならぬという現象を呈しておったわけであります。一口に抽象的に申し上げますと、工業生産の外部条件というものが日本ではある程度おろそかにされておりましたために、企業が一生懸命にいろいろ内部的に経営だとか生産技術とか
設備の近代化というような努力をしただけでは不十分で、外部条件の
制約のために日本の産業の国際的な競争力というものが弱くなっているということが言える段階に来たのじゃないだろうかと考えるわけであります。従いましてこういう方面に日本は現在努力いたしているわけでありますが、将来も工業、貿易立国という線で日本の産業を伸ばしていきますためには、
政府としてしますことは企業の外部条件をいいものを作り上げまして、日本の工業者の国際的な競争力をいい条件のもとに貫いてやるということであり、それから内部的な条件はむしろ業者が
自分でやることでありますが、それをしやすいように
政府はいろいろな形で援助してやるというようなことで進みますけれども、外部条件になりますと、業者が
自分でできることではございませんので、直接
政府がしなければならぬ、あるいは
政府の直接責任に属する
範囲の
事項であるというように考えてよろしいのじゃなかろうかと思うわけでございます。そういう日本の企業の国際的な競争力の外部条件を整えるその一環としての工業用水政策ということで通産省は取り上げたわけであります。このためには予算折衝の際から委員の皆様に非常な応援もいただきましてある程度ことしから実を結ぶことに相なったのでございますが、ことしは第一年度でございましたので、それほど思うにまかしたところまで実は予算が十分ついたというわけではございません。しかし
事務的に考えてみましても、初年度としましては私どもは新しい仕事に取りかかるというようなことでございますので、いろいろふなれな点もあり、勉強しなければならぬ点もありますので、ことしがその第一着手ということでこの程度の予算でもそれを十分効果があるように使いたい、引き続き翌年以降におきまして、ことしから発足します工業用水対策を充実して参りたいと考えておるわけでございます。
ことに工業用水の問題につきましては、日本の工業の構造といいますか、戦前のいわゆる軽工業から、だんだん日本の産業も高度化いたしまして、非常に水を使う産業が発達してきたのであります。製鉄業とか、繊維につきましても、化繊、パルプというようなものは、非常にたくさんの水の要る産業でございまして、いわゆる重化学工業が日本の産業の大きな部分を占めるようになりまして、この必要性が特に増してきたということも言えるかと思うわけであります。戦前のいわゆる綿紡績等の工業中心の時代でございますれば、工業用水の問題はそれほど深刻じゃなかったのです。ただ染色面等におきまして水が相当要るという段階であったのでありますが、産業構造の複雑化、高度化に伴いまして、水の重要性が非常に増してきたということもあるわけでございます。そんなことから戦前は、工業用水を何とかしなければ産業が発達しないのだという点は、ある程度見忘れられておったということも言えるかと思うわけでございます。
それからいま
一つ水の問題を考えました際の考え方でございますが、水が工業のために大事であるとしまして、ただ物理的に水を供給するだけでは
目的を達しないのじゃなかろうかということを考えたのでございます。と申しますと、今まで日本の工業者が水を工業用水に
利用いたします際に、地下水を取りましたり、あるいは海水を
利用いたしましたり、地表水を
利用いたしましたりしておるわけでありますが、それが割合に安い値段で供給されておるわけであります。これを限界にきて足りなくなったからといって工業用水道を作ったとしましても、それが非常に高い値段でありますれば、現実には経済的には
利用価値がないという現象が起るわけであります。
利用価値のない、経済的には高過ぎるものを業者に無理やり使わすということになりますれば、これまた同じく日本の産業に国際的に見て割高なものを使わすことになりますので、その点も解決しなければならぬ、そういう問題を含んだ仕事だと思うわけでございます。
そういう今申し上げましたような事情から、予算で考えましたことは、水の足りなくなった
地域は地下水を過度にくみ上げ過ぎておりまして、その結果といたしまして地盤沈下等の現象を起しております。そういうところに新しい工業用水道をしく、それに
政府が財政的な援助をしてでき上った工業用水道によります水の供給は、今まで事業者が
利用しておった水よりもそれほど高くない、そう大差のない値段で供給できるということが政策の中心眼目になるのではないかと考えておるわけであります。それが予算上現われました工業用水道の設置助成という制度であります。これは、実はいろいろな計算をいたしてみたわけでありますが、財政の方からは四分の一国庫補助をいたしまして、それから別に約三分の一につきまして、地元の公共団体が金を出し、それも資金
運用部で六分五厘ぐらいの長期の低利の金を供給してもらう。それからいま
一つ、約三分の一ぐらいを地元の
利益を受けます工業者が、公共団体の水道
工事のために募集いたします債券を引き受けるという形にしまして、地方財政が今は赤字で困っておりまして、債券もなかなか出せないわけでありますが、それをスムーズに出せるようにしよう、そういうことを考えておりまして、それらでかれこれ計算いたしてみますと、三円五十銭あるいは四円近くぐらいなところ、新しい工業用水道による工業用水の料金はトン当り大体その程度の値段で済むというような計算ができるわけであります。従来事業者は工業用水を地下水でやっておりますと、その値段が場所によって違いますけれども、おおむね二、三円ということでございまして、
先ほど申しました三円五十銭から四円五十銭ぐらいの間という、それくらいの見当にございますから、地下水よりは少し高いのでございますけれども、これは事業者として工業的に経済的に
利用し得る
範囲ではなかろうかと考えたわけであります。普通の上水道になりますと、大体単価というものは十円ぐらいということのようでございますが、十円ともなりますと、産業によりまして、水を使う量の非常に少い産業でございますと、がまんをして使うということがございますが、生産の単位当り水の使用量が多い産業でございますれば、十円という高い水では、その
地域には産業は成り立たないというのが通例でございます。そのために場所によりまして、その種の産業の発展が
制約されておるという所も現実にあるわけでありますし、やむを得ず使っておるとしますれば、それだけ国際的に見まして、日本の工業の競争条件が非常に不利である、ちょうどいわば電力料金が国際的に見て高過ぎたら日本の産業が不利であるのと同じようなものであると考えるわけであります。今申しましたようなことで、実は工業用水道の設置を助成することになりました。ところでこの予算が本年度は、全体の補助金が一億八千万円でございまして、スタートといたしましてどの辺から着手するかということが問題になるわけでありますが、工業用水の不足に悩み、またその弊害の出ておる場所から優先すべきであろうというつもりで、三十一年度といたしましては、私は尼崎市と川崎と四日市、この三カ地点というものが助成の対象
地域と考えておるわけであります。ほかに実は地盤沈下を起しておる場所としましては大阪市の西の方もございまするし、あるいは川崎と隣合せの横浜もあるわけであります。この辺は予算の
関係上少し不十分でございまして、次年度回しということに考えておるわけでございます。そこでこういう場所にはともかく工業用水道ができることになりましたので、井戸にあります水のくみ上げというものをある程度調節いたしましても、事業者は困らないと申しますか、かわりの水が得られるということになりますれば、そのくみ上げを抑制するようなことにいたしますれば地盤沈下がとまりまするし、地盤沈下がとまりますれば、それによりまして
先ほど申し上げました工場の土台がゆるんで据え付けた機械ががたがたになるというような現象も解決できるわけでございます。そういうことが実行できるような
法律いうのが、この
工業用水法案の骨子でございます。従いましてこの中身は非常に簡単でございまして、中身の骨子といたしましてはある
地域を指定をいたしまして
——その
地域を指定しますのは地盤沈下の起っておる場所、それから工業的に大事な場所、それからかわりの工業用水道がすでにあるか、近くできるときまっておるような場所を選びまして、そういう場所でも既成の井戸は既得権として一応尊重いたします。新規に井戸を掘る際には
許可を受けて掘るということにいたしております。それからその新規にいたします際にも
使用料の少い人を抑えるということでは産業人に不当な迷惑をかけますし、実益に乏しいということになりまするので、既成の対象にいたしますものも個人の井戸を掘ったり、普通の飲料用のために井戸を掘っておるものは問題にいたしておりません。それから工業用のものにつきましても、インチの大きさ二インチ以下のものは自由といたしております。二インチ以下と申しますと一日のくみ上げ量九百トンに達しないものということにいたしておりまして、いわゆる大部分の中小企業者の掘りまする井戸というものは適用外になるということになっておるわけであります。またそういうことにいたしましたのは、実際的に地盤沈下に害を与えておりますものは、二インチをこえまする大きな井戸を掘って、大量に水をくみ上げておるものということでございまするので、それで
目的にも沿うのではないかというように考えたわけでございます。それから既成の井戸というものは、一応従来の既得権を尊重しておるわけでございますが、
先ほど申し上げましたように、かわりの工業用水道ができまして、水が供給できるようになりましたならば、既成の井戸につきましても、これは
法律の第十四条でございますが、使用量を減らしなさいという勧告ができるということにいたしております。その場合には、具体的にそれぞれの方法を示してというか、あなたのところは、こういう用途のものは工業用水道に切りかえていいではありませんかとか、あるいは使いました水の再
利用といいますか、そういうことにつきましての技術的な手段、方法を示しまして、こうやればこうできるはずですよという形で指示ができるという
規定を置いたわけであります。この
規定を置いておりますが、
規定を発動しなくてもおのずからこれらの三地点におきましては、産業界の協力を得られるものと私ども期待をいたしておるわけでございます。法の構成といたしまして、既得権につきましても、かわりができたから調整しますよというのは、法の構成上望ましいと考えて、そういう
建前をとったわけでございます。実態的な骨子はきわめて単純な
法案でございますが、これの実行に関連しましてあとは審議会の
規定を置くとか、
関係者との連絡をすることの
規定を置くとか、あるいは調査のために立ち入りの
規定を置くとかというようなことで、
条文としては二十数二カ条ということになったわけでございます。
法を作りました
趣旨なり内容というものは、おおむね以上の通りでございます。