○小川
政府委員 下請代金支払遅延等防止法案の提出理由及び概要について補足説明をいたします。
下請代金の支払遅延等の問題につきましては、
公正取引委員会において、独占禁止法にいう不公正な
取引方法に該当する場合があるものといたしまして、中小企業庁の協力を得まして、極力これが防止に努めて参ったのでございます。しかしながら、次に述べますような事情もございまして、遺憾ながらその防止について十分な成果を上げることができなかったのでございます。
すなわち第一に、下請事
業者は、親事業から下請
関係を切られることを最もおそれておりますので、被害者である下請事
業者からの申告をあまり期待することができないわけでございます。第二に下請
取引におきましては、代金等につきましての契約がはっきりしていない場合がかなり多いために、不当値引き等については有効な規制をなし得ない場合がございます。第三に、独占禁止法の
措置によるときは、審査審判
手続によることになるのでございますが、審査審判
手続によることとなりますと、その解決にはどうしてもある程度の時間がかかりますし、下請事
業者にとって必ずしも
利益とならないような結果が生ずる場合も
考えられるのでございます。
このように、独占禁止法に基く
措置のみでは、下請代金の支払い遅延等の防止について十分な効果を上げることは困難であるという事情もございますので、中小企業庁とも相談いたしまして、より効果的な対策についていろいろ
研究いたして参りました。その結果、下請代金の支払い遅延等の防止については、
政府がより積極的な監督を行い得るようにするとともに、問題の迅速かつ円滑な解決をはかるには、審査審判
手続とは別に、より弾力的な
措置を
考える必要がございまして、そのためには、独占禁止法のほかに、これと相並びまして別個の
法律を制定すべきであるとの結論に到達いたしまして、本法案を立案、提出する運びになったのでございます。
次に本法案の内容につきまして御説明いたしますと、第一に、本法案の目的でございますが、本法案の目的は、第一条にうたってありますように、下請代金の支払い遅延等を防止することによりまして、親事
業者の下請事
業者に対する
取引を公正ならしめるとともに、経済的弱者である下請事
業者の
利益を保護し、もって国民経済の健全な発達に寄与することにあります。
第二は、本法の対象でございますが、本法が対象とするところは、下請
取引における親事
業者の下請事
業者に対する行為でございます。いわゆる下請という言葉は下請事
業者の立場からする概念でございますので、もっぱら親事
業者の行為を対象としております本法では、下請という言葉の代りに、製造委託、修理委託という言葉を使っておりますが、委託であるかどうかにつきましてはあくまで実質的に判断いたしますから、
取引の形式が、請負の形をとるか、売買の形をとるかは必ずしも問うところではないのでございます。また、親事
業者は資本金一千万円をこえる法人、下請事
業者は資本金等が一千万円以下の法人、それに個人としております。これまで下請問題を処理して参りました経験と中小企業
関係の諸
法律の例に基きまして、親事
業者と下請事
業者とをこの程度の規模で分けるのが、最も妥当であると
考えたためであります。
第三は、親事
業者の順守事項を明らかにしたことでございます。第四条において親事
業者が下請事
業者に製造委託または修理委託をした場合に、親事
業者が下請事
業者に対し行なってはならない行為を定めまして、かかる行為として、同条各号に、下請事
業者の給付の不当な受領拒否、下請代金の不当な支払い遅延、不当な値引き、不当な返品の四点をあげたのであります。すなわち下請
取引における親事
業者の思わしからざる行為の態様を明らかにするとともに、このような行為をしないよう、親事
業者の自粛、自戒を期待しているのでありまして、これは本法案の
中心をなす
規定でございます。
第四は、勧告等の制度を設けたことであります。第七条におきまして、
公正取引委員会は、ただいま御説明いたしました順守事項を守らない親事
業者に対して、その行為をすみやかに改めるよう勧告することができることになっております。つまり、親事
業者が守るべきことを守らないときは、勧告という
行政措置によって親事
業者にみずから反省する機会を与え、その行為を改めるため、みずから積極的な努力をなすべきことを促し、問題を迅速かつ円滑に解決しようとするものであります。なお、親事
業者が勧告に従わなかったときは、これに対する
措置として、その旨を公表することができることといたしております。またその行為が独占禁止法の不公正な
取引方法にも該当することとなります場合には、このような親事
業者に対しては、独占禁止法による審判を開始することもできるわけであります。その反面におきまして、親事
業者が勧告に従ったときには、その勧告にかかる行為について独占禁止法の
規定は適用しないことにいたしております。
第五は、親事
業者に、下請代金の額を記載いたしました書面を下請事
業者に交付する義務及び下請
取引に関する帳簿書類を作成、保存する義務を課したことでございます。これは最初に申し上げましたように、下請
取引におきましては、契約に際して下請代金の額がはっきりきめられていない場合が多く、また下請代金の支払い遅延等の防止のためには、
政府の積極的な監督を必要とするという点にかんがみ設けたのであります。書面の交付は、第四条の不当値引きの規制の前提条件を整備する意味におきまして、また書類の作成、保存は
政府の監督に便ならしめるために、第三条、第五条にそれぞれ
規定した次第であります。なお帳簿書類の作成、保存についての細則は、
公正取引委員会の規則に委ねられておりますが、
一般に用いられております伝票、帳簿等を利用するようにいたしまして、親事
業者に特別の負担をかけないよう留意する所存でございます。
第六は、
中小企業庁長官の
調査及び
公正取引委員会に対する
措置の請求に関して
規定したことであります。第六条におきまして
中小企業庁長官にかような権限を与えておりますのは、中小企業庁設置法におきまして、中小企
業者の
利益の保護という観点から、独占禁止法の施行に関し、中小企業庁の
公正取引委員会に対する協力
関係が特に
規定されております。また下請問題につきましても、これまで両者は、緊密に協力して、その防止に当って参りましたので、本法の
関係につきましても、両者の協力
関係を
規定することとした次第でございます。
第七は、報告及び検査について定めたことであります。第九条において、
公正取引委員会、
中小企業庁長官及び
中小企業庁長官の行う
調査に協力する意味におきまして、主務
大臣に、それぞれ報告徴収及び立ち入り検査の権限を定め、本法の目的達成のため
政府が所要の監督を行い得るようにいたしました。
第八は、罰則について定めたことであります。第五条の書類の作成及び保存、第九条の報告及び検査の
規定に違反する者に対し、必要な罰則を定めております。しかし第三条の書面の交付、第四条の親事
業者の順守事項につきましては、それぞれの
規定の趣旨にかんがみまして、罰則は設けないことにいたしました。
以上が本法案の大要でありますが、もし本法案が
国会の御賛同を得て成立することになりますれば、独占禁止法の運用と相待って、下請代金の支払い遅延等の防止の成果を大いに上げることができるものと
考える次第であります。