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1956-03-17 第24回国会 衆議院 社会労働委員会公聴会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十一年三月十七日(土曜日)     午前十時四十五分開議  出席委員    委員長 佐々木秀世君    理事 大坪 保雄君 理事 中川 俊思君    理事 野澤 清人君 理事 藤本 捨助君    理事 岡  良一君 理事 滝井 義高君       植村 武一君    荻野 豊平君       亀山 孝一君    熊谷 憲一君       小島 徹三君    小林  郁君       田中 正巳君    田子 一民君       中村三之丞君    中山 マサ君       八田 貞義君    亘  四郎君       阿部 五郎君    岡本 隆一君       栗原 俊夫君    長谷川 保君       山口シヅエ君  出席政府委員         厚生政務次官  山下 春江君         厚生事務官         (保険局長)  高田 正巳君  出席公述人         健康保険組合連         合会会長    宮尾 武男君         弁  護  士 毛利 与一君         全日本労働組合         会議書記長   和田 春生君  委員外出席者         専  門  員 川井 章知君     ――――――――――――― 本日の公聴会意見を聴いた案件  健康保険法等の一部を改正する法律案内閣提  出第七八号)について     ―――――――――――――
  2. 佐々木秀世

    佐々木委員長 これより内閣提出健康保険法等の一部を改正する法律案についての社会労働委員会公聴会を開会いたします。  この際、公述人皆様方に一言ごあいさつを申し上げます。本日は御多用中にもかかわらず当公聴会公述人として御出席下さいましたことにつきましては、委員一同を代表して厚くお礼を申し上げます。本案は重要法案でありますので、審査に万全を期すべきであるとの委員会の意思によって本日公聴会を開き、公述人皆さん方に御足労を願った次第でございます。公述人におかれましては、本問題につきまして、あらゆる角度から忌憚のない御意見を御発表下さいますようお願いいたします。ただ議事の整理上、公述の時間はお一人ほぼ十五分程度にいたし、その後委員よりの質問にお答え願いたいと存じます。  なお、念のため申し上げますが、衆議院規則の定めるところによりまして、公述人方々は、発言なさいます際は委員長の許可を得なければなりませんし、発言内容につきましては、意見を聞こうとする問題の範囲を越えてはならないことになっております。また委員公述人方々に質疑をすることができますが、公述人方々委員質問をすることはできません。以上お含みおきを願います。  次に、公述人方々が御発言の際は、劈頭に職業または所属団体名並びに御氏名をお述べ願いたいと存じます。  なお発言の順位は勝手ながら委員長においてきめさせていただきたいと存じます。  それではまず毛利公述人発言を願います。
  3. 毛利与一

    毛利公述人 私は大阪弁護士をしております毛利与一でございます。  今回のこの改正法案を拝見いたしまして、私といたしまして最も疑問に存じますのは、九条の二と四十三条の十でございます。いずれも検査質問権利ないしは立ち入り権限と申しますか、そういうものを規定した規定でございます。しこうして九条の二は、その権限が刑罰の威嚇をもって強制されており、四十三条の十におきましては、指定の取消しということをもって威嚇されておるのでございます。これは御承知通り憲法三十五条における押収、捜索について裁判所の令状が要るという規定、さらに三十八条の一項によります不利益な供述を強制されないという権利に対して、いずれも脅威を与えるものでありまして、憲法上幾多の問題を含んでおると存ずるのであります。ただこれに立ち入って申し上げておりますと制限された時間を超過いたすかと思いますので、これはあと回しにさせていただきまして、他の簡単にして相当重要と思います問題について拾い上げて疑問の点を申し述べてみたいと思うのであります。  まず四十三条の三でございますが、四十三条の三によりますと、医療機関開設者から、保険医療機関指定がありたいということを知事に申請いたしますことについての規定でございますが、これにつきましては、ただ「其ノ指定拒ムニハ地方社会保険医療協議会ノ議二依ルコトヲ要ス」ということの規定がございますのみであって、いつまでもこれを拒んでくれんで、握りつぶすということがよくございますのですが、こういうときは、大ていの法律では、たとえば私ども職業に関します弁護士法の十六条の二項というようなものには、いつまでに指定をしないとかなんとかという態度を決定しないときは、これは指定があったものとみなすか、あるいは指定をしないものとみなすか、どっちかはっきりきめる規定があるが、こういうものが必要だと思うのであります。ただ「議ニ依ルコトヲ要ス」だけでほうっておくということになりましたら、いつまでもこれは指定を受けるかどうかわからぬというので経過する危険がございますので、これは何かいついつまでにということにして、指定したものとみなすか、あるいは指定を拒んだものとみなすか、どっちかにはっきりしておいていただきたいと思います。また同じ条文に二年間を経過したときは、その規定の能力を失うという規定がございますが、これは実に重要な問題であるかと存ずるのであります。と申しますのは、私ども自分職業関係のことでございますが、戦前におきましては、裁判官というものは終身官でございました。ところが戦後裁判官というものは十年ごとに任命をし変える、裁判官の任期は十年ということになり、新憲法が施行されまして明年の五月が十年になりますので、日本の裁判官は明年の五月に全部あらためて任命を受けるということになっておる。そうしますと、相当、気に入らぬで任命しないということに対して脅威を受けておるという向きが考えられるのでございます。従いまして、弁護士とか、医者とかいう、特に良心に従って自分職業を遂行しなければならぬ職業のものに対して、はたから非常こいわれなき非難を加える危険が、こういうように期間を切ることによってございますので、この二年の期間というものは、私どもから見たら、これは非常に悪い規定であって、そういうことは要らぬかと考えさせていただいておるわけでございます。  次には四十三条の九でございます。これによりますと、保険給付を受ける者に、今度の法律によりまして一部の負担金を課するということでございますが、この負担金は結局において支払われなかったら、これは医者の損ということになるのでございましょうか。もしそういうことでございますれば、これは少し片手落ち規定かと存ずるのであります。と申しますのは、大体保険者との実質上の約束で医者健康保険診療に従事しているわけでございますから、医者に対して診療に従事する義務を課しているのは実質的には保険者でございます。しかるに保険者義務を課して医者診療させておきながら、一部負担金はお前の方で取れ、それを取らなければお前の損であるというのは、義務を課したものとして、あまり虫のよ過ぎる規定じゃなかろうか。でありますから、終局において一部負担金というものが払われなかったら保険者において払うというのでなければ、これは普通の人間のものの考え方において、あまり片手落ちな、虫のよ過ぎる規定のように存ずるのであります。  なお四十三条の九に、医者療養給付についての一定の費用請求できるが、しかしなお保険者との契約でそれより安い範囲で請け合うことができるというような規定がございますが、これはどうも妙な規定でありまして、何か会社のおかかえかお出入り散髪屋か何かに特に安く散髪さすというようなものと似ておりまして、これはあまり芸がこまか過ぎると思いまして、あまり愉快でない規定だと存じます。お考えいただきたいと思います。  それから四十三条の十二の三号に「療養給付ニ関スル費用請求又ハ第五十九条ノニ第四項ノ規定ニ依ル支払ニ関スル請求ニ付不正アリタルトキ」となっております。これまた指定を取り消される方に大へん便利のいいような規定になっておりますが、これは厚生省の現在の監査要綱によりますと、指定取り消しはもう少し慎重になっておるのであります。と申しますのは、単に不正というだけでありますから、これは故意による不正であるというだけに限局されますものならもちろん当然のことでございますが、しかしこの不正ということの中に過失まで含まれるのでありましたら、これはすこぶる問題であろうと存ずるのであります。私は実情はよく存じませんが、お医者さんが健康保険請求を月末になさるについては大へんな、昼夜五日も六日もかかってやるというので、その間善意なる錯誤というものが相当あるようでございます。従いまして間違った請求をしているからということをもって直ちに不正な請求であるとして、これをもって指定を取り消そうというのであれば、これは非常に過酷な規定であろうと思うのであります。やはりこれは少くとも故意または重大なる過失というものでなければ、指定取り消し原因にされるべきものでないと思うのであります。これは厚生省で現在、社会保険医療担当者監査要綱というものをお定めになっておりますが、それによりますと故意または重大な過失がなければ指定が取り消されないことになっております。ただ不正ということだけでありましたら、これはお医者さんの地位が非常に危ない規定であると思うのであります。  それから四十三条の十四でございます。これは中央ないし地方社会保険医療協議会に対する諮問ということについての規定でございます。これは「諮問スルモノトス」とあるのであります。諮問すれば、諮問の結果どんな意見であっても、形は諮問さえすればよいということにとりやすいのでございます。ところが先ほどちょっと申し述べさしていただきましたところの四十三条の三でございますが、それによりますと四十三条の三の二項に「都道府県知事保険医療機関ハ保険薬局指定申請アリタル場合ニ於テ其指定拒ムニハ地方社会保険医療協議会ノ議ニ依ルコトヲ要ス」と書いてあります。この場合は「議ニ依ルコトヲ要ス」と書いてあります。ところが四十三条の十四にいきますと「諮問スルモノトス」と書いてある。「議ニ依ルコトヲ要ス」とありますと、これはその議を経て賛成しなければならぬ、同意を得なければならぬということでございましょうが、「諮問スルモノトス」ということになると、協議会というものは非常に軽い地位に置かれているわけであります。これは立案者におかれまして、「議ニ依ルコトヲ要ス」ということと、「諮問スルモノトス」ということは、何か区別してお使いになっていらっしゃるのでしょうか。それともそのときの心持ちでいろいろお書きになっているのであろうかとも存じますので、これは特に国会において御検討御審議賜わりたいと思ってお願いいたしたいのであります。  それから四十三条の十五は規定それ自体としてはけっこうな規定であります。つまり指定を拒み指定取り消し登録を取り消さんとするときは弁明機会を与えることを要す。これは一応フェアな規定でございますが、さて弁明機会を要すと書いてあるだけではどうもはなはだ不十分なように存ずるのであります。弁明機会を要すということには、もっともここには「其ノ事由通知スベシ」と書いてはございますが、その事由たるや具体的にどういうことを問題にされており、どういうことをお前は非難されておるということを、具体的の事由として御通知願わなければ何にもならぬ。ただ抽象的にどういう条項でお前は嫌疑を受けておるから弁明せいということだけでは意味をなさぬ。ところが現在、これは私が大阪厚生省保険医取り消しをなされた事件を原告として行政訴訟を担当いたしておりますが、つまり指定取り消し無効の訴訟を担当いたしておりますが、それに対して厚生省当局がその事件でやっていらっしゃいますことは、弁明をさせておる、弁明機会を与えたとおっしゃっておるのでありますが、それはどういうことかといいますと、これだけのことをもって弁明機会を与えたとおっしゃっているのであります。それは二重請求をしているのが六件、入院期間が相違しているものが三件、そういう工合に、どういう事由になっておるものが何件、こういうような抽象的なことだけでもってさあ弁明せい、こういうように通知をなさっていらっしゃいますが、それでは弁明のしょうがない。ですから人に弁明せいとおっしゃるからには、お前は何月何日どの患者に対してどういうような取扱いをした、これに対して弁明せい、こういうふうにおっしゃっていただかなければ弁明のしょうがない。こういう弁明の要求は、弁明機会に乗じてなおまた材料でもつかもうということであります。これは健保四十三条の趣旨からいたしましても、やはり具体的に理由をつけて弁明をさすということでなければならぬと思うのであります。ですから「其ノ事由ヨ通知スベシ」というところには、特に具体的に嫌疑を受けたる事実を具体的に摘示して、そして通知すべしということにしぼっていただきたいと思うのであります。  時間が参りましたのでこれ以上あまり申すと恐縮でございますが、ただもう一点つけ加えて申し述べさせていただきたいことは、今度は保険医療機関という特別の概念を今度の法律はこしらえておられる。そして保険医保険医療機関と二本建にする。保険医に対しては登録医療機関に対しては指定、しかも医療機関に働いておるところの保険医の一人でも不都合なことがあれば、その医療機関全体の指定取り消し職場を失わせるという連座制をとっていらっしゃる。これは取締り見地から考えられて非常に便利な措置でありますが、一体連座ということは、故意過失もない人間に巻添えを食わすということであります。これは封建制度によくあったことです。権力を持たれる当局として非常に便利な規定でありますが、日本国憲法におきましても、個人を尊重する、個人の幸福の追求については、立法その他国政上最大の尊重をしなければならぬという憲法趣旨からいたしましても、そう軽々しく、取締り見地から便利がいいということによって、連座などという、一人でも不都合な医者があったら医療機関全体の指定を取り消すということは、あまりにも一方的な見地から物事をイージーにお考えになっていらっしゃるのではないか、かように存ずるのであります。  なおもう一つ最後に申し上げさせていただきたいことは、この保険医療機関というものはどうも法人でもなさそうです。むろん自然人ではございません。保険医療機関開設者または管理者と、それから医療機関とは法律は区別しておりますが、これは管理者のことでもなければ開設者のことでもない。医療機関という別に物を考えている。その物に対して帳簿の提出義務を負わす、あるいは監督義務を負わすことを規定しておるのであります。しかし一体開設者管理者というようなものを離れて、また保険医も離れて、従業員も離れて、医療機関という蒸溜水みたいなもの、法人でもない何でもない、こういうものがいかにしてそういう義務を果すことができますでしょうか。相当の注意をし監督をしておったら取り消しにあわぬでも済むというような恩恵的な規定を置いておりますが、その機関というようなものがどういうことでそういう指導的な働きができるのでございましょうか。私ども法人でも自然人でもないただ医療機関というような物的設備、いわゆる物がそういう義務を負うことは考えられないのであります。これは明白に非論理的なことであります。御立案当局におかせられては何か非常に深いお考えをお持ちになっておることと存じますので、むしろ私ども教えていただきたいと思っておるのでございます。  それから九条と四十三条の検査立ち入りの問題については、もし何かお尋ねがございましたらお答えさせていただくことにいたしまして、これをもちまして私の発言を終らしていただきたいと思います。
  4. 佐々木秀世

    佐々木委員長 次に和田公述人にお願いいたします。
  5. 和田春生

    和田公述人 全労会議書記長和田でございます。今回の健康保険法改正に関しまして、直接健康保険適用を受けております私たち労働者としては非常に大きな関心を持っておるわけであります。従来から健康保険赤字というものが問題とせられるに従って健康保険改正がしばしば日程に上って参っておりました。今回厚生省は、相当大幅な改正を企図し政府提案として出て参ったわけでありますが、この内容を見ますと、大きく分けまして、まず第一番目には、一部負担という制度によって患者費用の一部を持たせる、さらに標準報酬引き上げ継続給付制限あるいは被扶養者範囲制限等によりまして給付の面から制限を加え、さらに国庫負担によりまして国庫から一部の補助をする、このような方法によって、政府の言をかりますれば三者三泣きと言っておりますが、国も幾らか持つ、患者も幾らか持ってもらう、あるいは標準報酬引き上げ等によって使用者にも幾らか持ってもらう、そのようにして現在当面しておる健康保険赤字の危機を脱したい、こういうところにねらいがあるようでございます。そうしてそれにはそれぞれ理由がつけられておるわけでございますが、単に改正案として出て参りました法律の面だけではなしに、その提案された理由にも上りまして意見を申し述べてみたいと思います。  まず第一の点といたしましては、一部負担制度でございます。これは今日まで初診料に対する五十円の一部負担を除いては他にございませんでした。ただ被扶養者に関しましては半額を患者の方で持つという建前になっておったわけでございます。この一部負担を施行するに関しまして、患者受益者であるから、ここにも赤字の一部を持ってもらうという意味合いと、さらにみずから医療に関して患者責任を持つ、そういう意味合いで、まるきりただでやったならばでたらめな医療が行われやすいので、これに対してみずからも金を出すことによって責任の  一部を分担することができるであろう、このような理由が述べられておるようであります。しかし私たちの立場から申し上げますならば、患者受益者であるという考え方自体に疑問があるわけであります。なるほど病気になりましてその患者がお医者さんにかかる、保険で見てもらいますからその費用負担がかからない、そういう意味においては患者受益者であるように見えるわけでありますが、元来保険という制度を設けまして、事業主も半分負担をする、被保険者も半分負担をする、そのような費用をもって医療保険を運営していく、さらに大きくいいますならば、医療保障制度という制度を通じて患者を救っていくことは、単に患者だけが受益者ではないと私ども考えるわけであります。結局早期病気を発見し、早期に治療を加えることによって、社会全体にも大きなプラスになる。また企業なり事業場において病人ができれば、いろいろそこで困難な状態が発生いたしますけれども、みんなが責任を分担することによって、そういう弊害を除去していくというところにねらいがあるわけであります。従いまして、この健康保険という制度を通じての受益者は単に患者だけである、あるいは患者が主たる受益者であるというような考え方は間違いでありまして、広く申し上げますならば、国民全体、また事業主であり、そこに働いておる労働者全部が受益者である、このような考えに発して、初めて保険料につきましても労働者が持つ、また事業、王も保険料の半分を持つ、こういう根拠が生まれてきていると私は思います。従って患者は、そういう社会にできた犠牲者に対して救済をしてやらなければならない対象でありますから、ここに対して負担は絶対にかけないようにするというのが理想的なのでございます。その患者負担をかけるという考え方は、むしろ保険制度に対して逆行するものである、かように考えるわけであります。  今日の赤字が出てきておる原因につきましては、いろいろありますが、まず国庫負担実現ということが過表数年以来社会保険審議会において決議をされて参りました。この社会保険審議会は、御承知通り公益委員事業主代表、被保険者代表、三者の構成によるものでございますが、常に満場一致でこの点が決議されまして、少くとも二割の国庫負担実現すべし、このように政府に勧告しあるいは要望されて参ったわけであります。今回は政府管掌健康保険に対しまして、約三十億の負担が行われておるわけでございますけれども、これは一割にも満たない金額であります。しかも国庫負担ではなしに、補助という形で出して参っておるわけであります。この国庫負担要望に対しまして、往々私たちが耳にいたします理由は、保険という制度において国庫負担をするということはおかしいではないか、あるいは現在保険あるいは医療保障適用を受けていない国民が三千万人もおるという状態において、適用を受ける恵まれた一部の者にだけ国庫負担をするということは筋が通らない等の理論を聞くわけでありますけれども、これに対しても私たちは異論を持っております。  まず、先ほども申し上げましたように、この保険制度を通じて恩恵を受けるのは単に患者のみではございません。それぞれの企業であり、企業に働く従業員であり、社会であり、大きくいっては国家全体であるというふうに認識していいと思うのであります。しかも、三千万の適用を受けていない者がいるという事実も重要でございますが、六千万の人々が何らかの形で保険恩恵を受けているこの事実こそ、私どもはより重視すべきだと思います。このように考えますならば、この保険に対しまして国庫が二割程度負担をするということは、何ら過当な要望ではない、当然実現されてしかるべきものである。その金額にいたしましても、決して多額の金額には及ばないのでありまして、百億にも満たい金額でございます。これを今日の国家財政からひねり出すという点においては、多くの困難はありましょうが、できない相談ではないというふうに考えるわけであります。このような点から、私ども国庫負担実現ということをぜひ実行していただきたい、このように考えるわけでございます。さらに三者三泣きという政府提案理由によりまして、事業主も被保険者負担をしてもらうというような意味合いから、標準報酬引き上げという点が出ておりますけれども標準報酬引き上げは単に負担の増大だけではなしに、給付対象基準にもなるもりでございますから、この原案については、私どもはむしろ給付基準として考える場合に賛成の意を表したいと思います。それに伴って若干の負担が伴うという点については、私たちとしても忍ばなければならないと考えるわけであります。しかしその他の継続給付期間の延長あるいは被扶養者範囲制限する等の給付制限面につきましては、私どもとしては賛成するわけに参りません。これらはできるだけ現状維持ないしは現状よりも改善されてしかるべきものである、このように考えているわけであります。  ただ、負担を国も持つ、患者も持つ、事業主も持つと、いろいろ言われておりますが、この中で一つ今回の健康保険改正については抜けておる点がございます。それは保険料引き上げという点であります。この保険料引き上げという点につきましては、先般千分の六十五の法律による満限まで引き上げておる今日、保険料引き上げによって負担を増大するだけの余裕が、事業主にも被保険者にもない。従いまして、こういう状態において保険料引き上げをすることは非常に困難であるということで、政府は回避をされておるようでございます。しかし健康で働いておる者も、現に事業を継続しておる者も、これ以上の保険料負担にはたえられないという前提に立っておる提案者側が、病気にかかってより多くの出費をして、あるいは職場を失い、収入を減らしておる患者がさらに多くの負担にたえ得るということを考えたところには、大きな理論的な矛盾があると思います。働いておる者も保険料のこれ以上の負担にたえられないという認定に立っておりますならば、患者はなおさらより以上の負担にはたえられないというふうに考えるのがしごく常識的なのであります。にもかかわらずあえて保険料引き上げという提案を避けて、一部負担という制度で、最も苦しいところに負担のしわ寄せをするという考え方に達した理由は、私はおそらく事業主側の圧力によるものではないかというふうに考えるわけであります。それは現在の健康保険におきまして保険料負担は労使が折半をいたしておるわけであります。保険料引き上げという形で出て参りますと、この負担をかぶる分は、被保険者側も事業主側もそれぞれひとしく負担を負うことになるわけであります。しかし料率の引き上げを避けて、一部負担という制度をもっていたしますならば、その負担はすべての被保険者側にかぶせる、しかも被保険者側の一部の患者という弱い層にかぶせるということになるわけでありまして、むしろ一部負担という形で出ておりますが、その本質に入りますと、保険料について労使が折半という原則をむしろこれによってくずしまして、被保険者側、労働者側の方に負担を強化し、事業主側の負担を軽くするという積極的な意図がこの扱い方には含まれておるということは、数字の上ではっきりすると思う次第であります。こういうような形においてすべてが被保険者側、患者側の負担にしわ寄せされる。こういう点に関しましては、私どもは断じて承服いたしかねるわけであります。  さらに今回の健康保険改正といたしましては、もう二つの点が出て参っております。それは従来保険医保険薬剤師の指定一本でございましたのを、医療機関指定と医師の登録制度という二つに分ける点であり、もう一つは、監督、監査の強化という点であります。私どもは、今日までの制度の実際を通じて見まして、保険医師あるいは保険薬剤師のみの指定をもってはやはり工合が悪いのではないか、病院等の施設において、そういう医療機関において療養を受けるという建前になっておりまする以上、両方を総合した形にしてはっきり責任を持ってもらう、さらにこれに対して必要とする助成、救済等の対策を講ずるならば、それを行うということが適当であろうというふうに考えるわけであります。この点につきましては、あとの監督、監査の強化の面についてさらに言及いたしたいと思います。この監督、監査の強化という点についてもかなり反対が強いようであります。しかし私どもは現在の保険という制度の実際を見た場合に、やはり監督と監査というものは厳重に行われる必要があるというふうに感じております。事実被保険者にも保険証を不正に利用する、あるいは不正な受診をするという者が存在しておることは、私たちの身辺にはっきりと見ることができるわけであります。また事業主の側におきましてもいろいろと不正をやる、標準報酬を低くやる、あるいは不正な手続によって不正な診療を受けさせる等の行為が行われておることも事実であります。またお医者さんの中にも不正なことをやる、あるいは不正な請求をやるという人が存在しておることも事実であります。私たちはこういう不正の存在というものに目をつぶることなく、不正はきびしく取り締る、そうしてほんとうに正しい診療を受ける者が正しい診療が受けられるようにしていくことが必要だと考えます。むしろ今日不正の存在によって、逆に正しい立場をとっておる多くの、ほとんど絶対多数のお医者さんなり被保険者なりというものがより多くの被害をこうむるようなことは避けなければならないというふうに考えておるわけであります。そういう意味合いと、もう一つは今の保険医療を受けた者が直接金を支払うのではなく、患者はからだだけで医療機関に行く、医療機関は支払い機関費用請求するという形をとっておりまして、その費用保険料として政府がとるというように、この関係に一貫した輪のつながりというものがないわけでございまして、それぞれの場において切れ切れになっておるわけでございます。もし私が個人責任医者に行く場合においては、自分で見てもらったということにおいて金を支払うという立場をとるわけでありますから、そこに納得ずくで支払われるわけであります。先ほど申しましたようにばらばらになっておる状態におきましては、どうしてもそこに不正の介在する余地が発生して来ざるを得ないわけであります。そういう意味合いから申しましても、たとえば医療機関指定と医師の登録制の二本建の場合に、お医者さんは見るだけでありまして、費用請求等は大きな病院では事務長がやる等の形でもって医療機関がやるわけでありまして、見た人と費用請求する人との間につながりが断たれるというような問題も出てくるわけでありますから、そういう面から申し上げましても、機関指定と医師の登録制の二本建については、私どもは必要な措置であるというふうに考えておるわけであります。ただここで強調いたしたいのは、とかく従来の日本のやり方は監督であるとか監査であるとかいう取締りの面ばかり非常に強化されまして、救済の措置を欠いておるという点であります。この点におきまして、今回政府から提案されました健康保険改正案につきましては、この救済という点が非常に欠けておる。そういう点について、私たちは改められる必要があると思います。お医者さんが不当に指定を取り消された場合、あるいは監督監査の結果いろいろな措置をとられた医療機関なり被保険者なり事業主が、そういうものが不服であるというような場合に、現行法におきましてははなはだ救済の措置が不便であり、かりに利用する機会がありましても、非常に長い時間がかかって一方的に不利益をこうむる場合があるわけであります。従いまして、こういう場合にお医者さんあるいは被保険者あるいは事業主、こういう人たち権利が不当に制限されることのないようにいたしまして、あくまでも診療を正しく受けられ、適正な給付を受けられ、そういう診療意欲を阻害させないようにすると同時に、不正のものは厳重に取り締るという態勢をぜひとってもらいたいというふうに考えるわけであります。こういう点につきましては、従来社会保険審議会におきまして長い間かかっていろいろな意見を総合して、昨年の十一月に厚生省一つ意見が答申されておるわけであります。しかしこの社会保険審議会意見というものは政府によってほとんど無視されまして今回のような改正案になったことは、はなはだ遺憾に考えるわけであります。  以上の点を総合して申し上げますならば、まず少くとも国庫負担二割の実現によって今日の健康保険の危機を脱していただきたい。一部負担制度につきましては、従来存在しておった五十円の一部負担程度においてはやむを得ないかとも思いまするけれども、それ以上の制度を実施することについて反対である。さらに継続給付制限が一年間の被保険者の資格を要することになった点についても賛成できないわけであります。これらにつきましては、現在の六カ月というのが無理である、利益を受ける面において権衡を失すると申しますならば、単に継続して一年間の被保険者であったとするだけでなく、過去三年間において継続いたしておりましても、一年間の被保険者期間があったならば継続給付が受けられるというふうに改正をいたしますと、失業したりして被保険者の資格を失った者で資格期間が切れ切れになっておる者でも相当救済されるわけでありますから、どうしても六カ月では権衡を失するという積極的理由があるならば、少くとも継続一カ年の被保険者期間ではなく、過去何年間かに総計して一カ年間の被保険者期間があるならばというふうにするくらいの親切さがあってもいいと思います。さらに被扶養者範囲におきましては、大体改正案でも不自由はございませんが、現実の日本の社会情勢におきましては、直接扶養の義務を負っておる三等親以外の遠い親戚等に不具、廃疾、子供、こういうものがある状態におきまして、それが同一世帯にあって直接扶養の義務を持っておるものにつきましては、被扶養者範囲にすることが望ましい。こういうことによりまして、給付制限は回避をしていただきたいというふうに考えるわけであります。こういう意見を申し述べますと、国庫負担といっても限度があるから、もし予算で三十億なり四十億なりの金がどうしても出ないというような場合に、一体どうするのか、こういうような反問があると思いますが、これにつきましては、私どもは一部負担等のむちゃな制度を実施することなく、当面借入金をもってしてでも赤字は処理をいたしまして、あと一年でも時間をかけて、抜本的な改正考えていただきたい。その抜本的な改正のねらいといたしましては、今日の健康保険赤字増大の最大原因一つに、結核療養費の増大ということでございます。それが総医療費の三分の一を上回る程度に増大しておる状態、しかも結核の療養につきましては、すでに被保険の資格を失った者に対する負担が相当多額に及んでおる状態にかんがみまして、これらに対する抜本的対策を抜きにしては、単なる弥縫策にすぎないことになります。今ここで一部負担制度を設けましても、また一年たつと赤字が出てくる、さらに一部負担のワクを広げることになって、とめどもないところにいってしまうおそれがありますので、十分に結核に対して抜本的な対策を講じる。さらに日本全体の医療保障の方向というものを見きわめた上で、そういう大きな流れの中でどうしたらいいかという改正案考えていただく。その上で借入金の赤字等につきましては、償還財源として臨時付加的な料率で返済していく等のことも可能でありましょうし、また国庫から補助を出して、これを帳消しにするという方法も考えられるわけであります。その抜本的な対策を抜きにいたしまして、一時的な弥縫策で今回の健康保険改正考えることは望ましくない。中にはもちろん積極的な、いい方向を向いておるものもございますが、概して改悪である。特に被保険者、なかんずく患者負担が増加されるという点におきましては、私どもは断じて賛成できないわけであります。この点を申し上げまして公述を終りたいと思います。
  6. 佐々木秀世

    佐々木委員長 次に宮尾公述人にお願いいたします。
  7. 宮尾武男

    ○宮尾公述人 私は健康保険組合連合会の会長の宮尾でございます。時間の関係もあるようでございますから、簡単に申し上げておきたいと思います。  まず第一に申し上げたいことは、今度の法律改正案につきまして、同じ健康保険保険者である健康保険組合が、何か別の取扱いを受けたような感じを連合会のメンバーに与えておるということでございます。この点につきましては、国庫負担問題に関連いたしまして、紆余曲折があったのでありますが、ただわれわれの陣営の中で、そういうことになるならば、ますます組合管掌は政府管掌と離れてしまうだろう。そうすれば、組合管掌はやはり自主性を確立して、自分でやっていくという方向に進まざるを得ないだろう。しかもそれが高じてくれば、健康保険組合法を制定せざるを得なくなるのではないか。そういうことは社会保障の建前からいって、望ましいのか望ましくないのか、こういういろいろな疑問を持たせる結果になっておるということを最初に申し上げたいと思います。それで今度の法律案は、主として政府管掌の健康保険の再建案であります。しかし同じ法律のワク内にありますので、われわれの見た感じ、またわれわれの受ける影響等について若干申し上げてみたいと思います。国庫負担の問題につきましては、私どもは今度の改正案が出ますまでに、昨年の秋でございますが、そういう時分にもっと政府と大蔵省と、与党との間ではっきりした御方針をお立てになって、そしてこういうわけだから国も責任を持つのだから、お前たちも協力しろ、こういうようにアッピールしていただいたならば、われわれはもっと協力する方法があったのじゃないか。そういうようなことが、ひいてこの法律の通過に対して困難性を増しているのだと私どもは信じております。われわれもいろいろな負担の増すことや、好ましくない一部負担制度を取り入れることについては、非常に消極的であったのでありますが、国も責任を持ってくれるならば、われわれは協力しよう、そういう意味で、政府は三者負担ということをおっしゃっているようでありますが、われわれは三者負担のほかに、なお医療担当者の多少の犠牲をも私ども要望しているのであります。そういうふうに、保険関係者がみんな集まってこの再建案を支持していこうという世論を作っていただかなかったということが、非常に遺憾にたえないのであります。そういう意味で、今度国庫負担法律の中に入ったことについては、われわれ大いに多とするのでありますが、一番最初の出発がもっと協力を求める方法があったのじゃないかというふうに私どもは見ております。それで、国庫負担のことはやめまして、一部負担金の問題について申し上げてみたいと思います。  今も申し上げましたように、一部負担金制度は好ましくない制度であることは事実であります。私どももこれをまとめますのには、連合会の内部においても非常に苦心をしたのでありまして、むしろ国が責任を持ってくれるならばわれわれも協力しようじゃないか、そういう意味で賛成して参ったのであります。この一部負担金制度の本質は、やはり過剰診療を抑制するというところに本質があると思う。でありますから、この制度をどうしてもやるというならば、そういう効果がないような方法でやることは賛成しかねるのでありまして、やはり窓口払いということが本質になってくると思うのです。それからもう一面に、私は一部負担制度意味するものがあると思います。それは保険をやっていくもののうち、つまり事業主と被保険者のうちで負担の均衡ということが考えられなくちゃならぬと思います。これはどういうときにもあるのでありまして、たとえば医者の新医療費体系を作るときにも、各科間の均衡というものがあるのであります。また賃金ベースを考えるときにも、いろいろな職種によっての均衡あるいは人によってのアンバランスというものはいろいろ考えていかなければならぬ。こういう事態でありますので、そういう点から、この一部負担というものも考える余地があるのじゃないかと、このごろ思っております。そういう意味で、われわれ健康保険組合をあずかって、現場でいろいろ仕事をしておりますと、やはり被保険者の中からそういう声をたびたび聞くのでありまして、健康者と病人との均衡――健康者は幸いなことに五年も六年も、あるいは十年も病気しないで、あるいは一日も欠勤しないで会社へ通ってくる者もあります。病人はやはりからだが弱いせいか、常に健康保険を利用しているというようなことが、内部においていろいろ言われるのであります。また高額所得者と低額所得者との保険料の出し方、そういうことについてもやはり均衡を考えなければならぬし、家族が非常に多い被保険者と単身の女子の被保険者あるいは少年工のような者とのバランス、またひいては在宅患者と入院患者のバランス、そういうようなこともやはり保険を一緒にやっていくものの中では賃金問題と同じように特にデリケートな感覚でそういう問題が不平不満で中に残ってくるのであります。そういう意味からいいましても今度の一部負担制度をやります上に、私どもただ過剰診療を抑制するということでなしに、そういう意味のこともあると思う。私ども健康保険組合には国庫負担がございませんけれども、一部負担制度がしかれた場合には、そういう点を組合会を開きまして組合会の席上、一部負担制度をやるとすれば、保険料を引き下げる余裕のできた場合には、保険料を引き下げるかあるいは付加給付を増すかあるいはもっと傷病に力を尽すか、そういうようなことを相談してきめていきたいと考えているのであります。そういう意味において一部負担制度というものも考える余地があるのじゃないかというように私ども考えております。ただその方法と程度ということについては一部負担制度の本質を害さない程度において私どもはごく軽少なものであるならばやむを得ない、方法と程度については十分にお考えを願いたいと思っているのであります。     〔委員長退席、中川委員長代理着席〕  その次に医療機関の問題でありますが、今度の再建対策についていろいろ考えられていることは、過剰診療の抑制ということのほかにやはり架空診療、架空請求あるいは水増し請求あるいは被保険者の乱受診等のものもまじっているのでありまして、そういう点をやはりこの際に制度によってやっていくということも、私どもは行政上の措置によって多少の強化をしていくということは仕方がないのだと思うのであります。と申しますのは、先ほど申し上げましたようにこういう問題を解決していきますのに三者負担ではなくして、やはり保険の中の医療担当者にも相当の御協力を願いあるいは犠牲を払っていただいていくことによってこの再建が可能なのであります。私どもはむしろ医療費の増高に対しては端的に一点単価を納めていただくというようなことも申し上げたいのでありますが、そういう架空診療とかあるいは水増し請求というようなものが常識としてあるということになりますれば、やはりそういうものを何とかして切っていくという方法を考えなければならぬのであります。これは健康保険組合は保険者ではありまするけれどもできませんので、これは行政官としての政府にお願いするより仕方がない。ただその行政上の運用その他についてはこれは適正でなければならぬことは申すまでもないのであります。そういう意味においてやはり医療機関監督指導の強化あるいは被保険者に対する啓蒙運動、事業主に対する理解を求めるというようなこともあわせて行われなければ、この再建対策は私は意味がないと思います。そういう意味で今度の医療機関の問題については、私ども賛成しているわけでございます。大体国庫負担の問題と、一部負担考え方と、医療機関に対する監督の問題、この三点を申し上げて、あとは御質問がありましたらお答えいたします。
  8. 中川俊思

    ○中川委員長代理 以上で一応公述は終ったわけでございますが、発言の通告がございますので、順次これを許します。野澤清人君。
  9. 野澤清人

    ○野澤委員 非常に貴重な御意見を拝聴して啓蒙されたわけでございますが、第一に毛利先生にお伺いいたしたいと思うのでありますが、専門的な立場から各条項にわたって啓蒙されまして、たとえば保険医療機関指定というような問題についても、これは国会においても十分慎重に検討しなければならぬ問題じゃないか、ただ法的な適用の場合と実際問題とをどう組み合せるか、またどう取り扱うか、こういうことについても、いろいろ議論の余地があると思いますので、十二分にこの貴重な意見を中心にして今後とも審議を続けていきたいと思います。  そこで先生の御発言中二点ばかりお伺いしたいと思うのですが、四十三条の九の御説明に、給付を受ける者に一部負担をさせるという事柄についてもし被保険者が支払わなかったならばどうするか、こういう問題で医師の損になるのじゃないかという御公述がございました。昨日医師会、歯科医師会等の御説明によりますと、一部負担の反対のおもな原因としては一部負担そのも一のというものは医師の犠牲になるのじゃないか、要するに金が入らないのじゃないか、こういうお話がありました。先生のお話を本日聞いていますとやはり医師の損になる、被保険者義務を課しておいて、その支払いということに対して責任を持たせるということは医師の損になるのじゃないか。これは裏と表の話で、実質は同じだと思います。そこでおそらく政府自体としても、この一部負担の支払い方法についてはいろいろ議論していると思います。先ほども宮尾先生からもお話がありましたように、あるいは和田書記長からもお話がありましたように、窓口払いになるかならぬかという問題、それからたとえば窓口払いになった場合にどう処置したらいいか、その責任はあくまでも医師そのものに責任を負わすべきものかどうか、あるいは基金とか保険料の徴収とかいうような問題とからみ合せて、被保険者が無一文で伺った場合に従来はお医者さんはこれをまけてしまった、あるいは取れなくて未収金としてこれを登録しておくだけにすぎなかった、こういうことについても一部負担というものを実際にやらなければならぬということを考えると、何か方法があるのじゃないか。たとえて申しますと今度の診療請求明細書ですか、ああいうものを持参するということになればその職場がはっきりする、はっきりした職場があれば、その患者が三十円の一部負担金を持たなかった場合には請求書にただ署名だけしておく、そうすると月末にお医者さんの方からそこに請求に行くなり、あるいは保険料金を徴収する際にその職場に徴収してもらう、こういう方法もあり得るのじゃないかという感じがするのでありますが、この点について先生自体としてどういうふうにお考えになりますか、お考えをお聞きしたいと思うのであります。
  10. 毛利与一

    毛利公述人 ただいま立ち入ったお話をいろいろ承わったのでありますが、実は私はこの規定をあちこち読みまして自分考えを申し上げさせていただいただけのことでございまして、実はどういうものにしたらよいかということはほんとのところあまり考えておりませんので、かえってお教えをいただいたようでございます。日雇い労働者健康保険法というようなものの保険料の徴収はやはり賃金から差し引くというような規定になっておるようでございますが、もしどうしても一部負担金負担さすというのであれば、仰せのようにやはりそういう賃金の中から差し引くとでもいうことにしなければほかに方法はないのじゃないかと存じておるわけでございます。これは私が申し上げるよりかえってお教えいただいたようなことになって恐縮でございます。
  11. 野澤清人

    ○野澤委員 もう一点お伺いいたしたいのですが、これはやはり弁護士という毛利先生の立場からの御感覚で申されたのだと思いますけれども、四十三条の十二の三号の御説明の際に、故意または過失による不正事実というような問題がありました。その際の例として、現在の医師の立場では五日間くらいは昼夜兼行で書類の整理をしなければならぬというお話がありました。これはごもっともだと思う。現実に各お医者さんのところでもそうやっておられるのですが、ただ医業管理というものも一つ企業管理じゃないか、こういう思想からしますと、一カ月間の診療簿あるいは診療証拠書類を月末までまとめておいて五日間も徹夜をしなければならぬという行き方は、正しい企業のあり方ではないのじゃないか、従ってこの問題については一がいにこれをどうせいこうせいというてもなかなかむずかしい問題ですが、少くとも社会保険医療担当者として今後医師、歯科医師、薬剤師が協力する以上は、大福帳式の従来の考え方だけではこれは成立しないのだ、やはり逐次合理化された企業管理というものに能力を及ぼさなければならぬと思うのです。この点に関して現実のありのままのお考えを率直に先生は申し述べられたと思うのですが、好ましい状態としてはおそらくその日その日の事務管理が完全に行えるのが理想的な体系じゃないかという感じがいたしますけれども、この点いかがでございましょうか。
  12. 毛利与一

    毛利公述人 それは実は私、先ほどもちょっと申し上げましたが、私が大阪で、ある保険医指定を取り消されたことについて厚生省当局を相手に訴訟をいたしておる、それを担当しておりまして、その事件だけの経験から申し上げたのです。私ども大へんその視野が狭いわけなのでございます。     〔中川委員長代理退席、委員長着席〕  それからいたしますと、それは相当間違いはあるのでございますが、これは相当の病院でありましてずいぶん大きな金額になる。その金額の中に、ちょっと今正確な数字を忘れましたが、わずかなパーセンテージの間違いがあるようでございます。これを一々お取り上げになって、不正な事実があるというふうに見られておるのであります。これは目下審理中の事件でございますから、一方的にかれこれという判断は今申し上げかねますが、どうも私ども全体を見まして、非常に多くの件数のうちから、わずかのパーセンテージにおける錯誤と申しますか――まあ過失があると言われれば過失があるということになるかもわかりませんけれども、少くとも故意はないということは明らかであり、重大な過失とも言えそうにないものがあるように思われるのであります。そういうのでありまして、先ほどの不正ということがもし普通のいわゆる故意ということだけならけっこうでございますが、過失という程度まで不正であるということに見られるということになりますと、非常に善意の場合で指定取り消し等を受ける危険があるのじゃないか。また現在厚生省できめておられるところの監査要綱には、御承知と存じますが、その点単に不正といわず非常にこまかく規定しておりますので、これはやはり指定を取り消されるということは影響を及ぼすところ非常に大でございますので、その点については単に不正といわずに、いま少しくはっきりしぼった規定を置いていただいた方がけっこうかと存じまして先ほど申し上げた次第であります。私どもの材料といいますか視野は、率直に申しまして大へん狭いのでありますが、そういうことです。
  13. 野澤清人

    ○野澤委員 御職業医療担当者に対する御理解の程度も非常に深いことでございますし、この不正事実に対する故意または過失に関する問題は、これは十二分に先生方の立場から今後とも監視もしていただき、御指導もしていただかなければならぬと思うのであります。  もう一点お願いしたいのですが、この保険医療機関の問題について、連座制となり、蒸溜水のようなものあるいは物的設備に対して責任を負わせるということはけしからぬじゃないか。これは法律家としてそうした見方も当然だと思いますが、これは今後十分研究さしてもらいたいと思いますが、他の和田さん、宮尾さんお二人の公述人は、この二重指定に対しては現実に即して賛成だという御発言がありましたように拝聴いたしました。そこで、この連座制になるからいかぬという毛利さんのお考え方でありますが、この二重指定というものは選挙のときの連座制のような性格でなしに、むしろその医療機関個人の医師との人格の差というものを区分していわゆる罰則を適用しよう、処罰しようという考え方じゃないか。たとえて申し上げますなら、十人の医者が働いておって一人が悪いことをしたからその医療機関指定を全部取り消すというのではありません。一人の医師の立場でもって不正事実があった場合で、医療機関と関係のなかった場合にはそのお医者さんだけが処罰を食う。けれども、病院の管理全体、診療所の管理全体に先ほどのように故意または過失に基くところの不正事実があるというような場合には、その機関全体が機関指定というものを取り消されるかもしれない。しかしまた取り消されましても、個人にしても機関にしましても、二カ年という期間を切ったところに今度の法律のねらいがあると思う。それを経過した後においてはまた復活もできる。要するに敵本主義で、未来永却もうあくまでも保険医保険機関になれないのだということはないのでありますから、こういう点に関して、先生のおっしゃられた連座制という意味は、おそらく法律家としての考え方として、個人のものがやられたら機関もやられるというようにお考えの上で御発言なさったように感じたのでありますが、この点いかがでございましょうか。
  14. 毛利与一

    毛利公述人 ただいまのお話のことでございますが、これは四十三条の十二の五号に関することかと存じますが、それによりますと、ただ私どもの知識だけで読むのでございますが、医療機関開設者それから従業者――従業者というものの中には保険医を含めていると思いますが、保険医を含めての従業者がいわゆる立ち入り検査義務に違反をすると、保険医療機関指定を取り消すということになっておりますので、私どもがちょっと読みますところでは、一人でもそういう立ち入り検査義務に違反した医師があると全体が指定を取り消される、従ってほかのお医者さんもこれによって働く職場を失うというようなことに読んだのでございます。もっとも仰せのように、ただし保険医療機関は相当の注意及び監督が尽されておったときにはこれは除くとございますので、そこにただいまおっしゃるように医療機関責任ということと結びつくわけかと存じますが、この相当の注意及び監督ということが、これは物に責任を負わすことができないという、そういうただ理屈だけのことを別といたしまして、だれが実際その相当の注意及び監督をするのかということが、実際上機関というものは一つのノミナルな存在みたようなもので、結局だれかというと開設者、管理人かあるいは保険医かということになりますので、ただいまの四十三条の十二の五号を見ますと、もう開設者も従業者も皆総出になってここに書いてございまして、ただ機関が相当の注意及び監督をしたときはとこうなっておりますので、これは実際だれがやるのか。ですから、こういうただしということが書いてありましても、ほとんどこれはそういうことによって何か機関責任が論ぜられる。従って機関責任がない場合には指定取り消しはないのだというお説でありますが、ちょっと私どもはこの規定だけから見ますとわかりかねまして、だれがこの責任を負うのかという点がわからないので先ほどのように申し上げた次第でございます。
  15. 野澤清人

    ○野澤委員 ありがとうございました。非常にいい問題ですからこれは十分検討を加えていきたいと思うのですが、過般NHKの新医療費体系か何かのラジオ討論の座談会でございましたか、そのときに、医師のいわゆる不正請求に対する看護婦の発言がありました。これは大阪でしたか、東京でしたか、地域的な発言でございますが、その発言の中に、こういうふうに書けと言われて水増しをした事実がある、こういう場合は、これは個人の医師の場合だと思うのです。そうするとそれは、医療機関がそう請求させた場合と、管理者がさせた場合と、それから医師がさせた場合とでおそらくは違う。この点に関しては今後この法案を審議する過程において、先生の御注意に従って十分検討して参りたいと思います。  次に和田さんにお尋ねを申し上げたいのでありますが、国庫二割負担はできない相談ではない、当然やるべきでないか、こういう御発言がありまして、全くその通りだと思います。従って現在の国民感情、あるいはまた厚生当局としても本年度の予算要求に一割の国庫負担ということを強く打ち出しました。結局宮尾さんが後ほど公述になられたように、大蔵省、政府与党との話し合いが完全にいかなかった点にも欠陥は十分あると思いますが、しかし二割を目標にして一割を請求したがとうとうつぶれてしまった、しかもその国庫負担という言葉さえも使えずに、一時補給金ということでこれが折衝の過程に置かれた、最後には補助ということで一応きまったわけでありますが、これは国家財政の規模あるいはまた厚生行政の実態から考えまして、おそらく大蔵省としてなかなか返事ができなかった、むずかしい場面だと思いますので、今後とも十分この点に関しては皆さんにも御理解を願い、国会においても十分厚生省とともにこれはかちとりたいという一つの重要なポイントだと思うのです。  そこで、一割を国庫負担する、二割を国庫負担するという問題でありますが、当然健康保険では二割の国庫負担というものは、これは九団体で要求していますようにどなたも望ましい状態であるということで決意している。しかし半面に国家全体の社会保障制度あるいは社会保険、また国民健康保険というような制度そのものから考えていきますと、一がいに赤字が出たから国庫負担するという思想が、果して正しいかどうか、その反面においては、先ほど宮尾さんのおっしゃられたように、乱診乱療もある、不正請求もある、水増し請求もあるという事実もあって、幾多議論の余地はあると思います。全体の医療担当者がそうだというのではなくて、医療費の自然増というものは三百億も四百億も年々ふえていく。そうするとその抜本対策と称していろいろな手当はしますが、借入金をしましても、あるいは料率の引き上げをしましても、一時しのぎはできても、恒久対策にはならぬ。そこで昨年川崎厚相が七人委員会等を設けて、いろいろ検討した結果、やや結論的なものが幾多出されたうちから、入りやすいものを、とにかく与党としては今度の法律に盛ったというのが、今度の健康保険法改正であります。そうしまして、根本対策が一つ一つ打ち立てられていきさえすれば、やがてこの過剰診療とか不正請求ということがなくなった場合に、どうしても足りないというならば、これは国の責任において負担すべきだ、こういう思想が政府、特に大蔵省にそういう流れがあるのじゃないか、こういう考えで、今度の保険法の改正案が提出されたと思うのですが、この点に関して、そうしたあなたのお話では、事業主側の圧力もあった、あるいは一部負担の精神はともかくとして、労使折半の実態をくずしていくものだ、いろいろな理由で、機関指定の問題と、監査の強化の問題は賛成であるがそれ以外は反対だ、こういう線を打ち出しておるようでありますが、あなた御自身がどうしても根本対策はあと回しでもよいから、政府責任において国庫負担というものを二割しなければならぬというお考えなのか、とりあえずここで根本対策をした方がよろしいというお考えなのか、おそらくこの機関指定、二重指定の問題と、監査強化の問題に御賛成の強い御発言があったようでありますから、根本対策についても決して反対でないと私は拝聴したのでありますが、この点の御見解をお伺いいたしたいと思います。
  16. 佐々木秀世

    佐々木委員長 ちょっと和田公述人発言をいただく前に、委員方々に申し上げますが、和田公述人は一時から何か重要会議があるのだそうでありまして、はなはだおそれ入りますが、和田公述人に対する質疑を先にお願いしたいと思いますので、野澤委員におかれましても、もし何でしたら、一時ちょっとお休みを願って、あと滝井委員と藤本委員から和田公述人質問がございますから、どうぞ御了承願います。
  17. 和田春生

    和田公述人 ただいまの御質問でございますが、根本対策について私どもあと回しにしてもいいというふうには考えていないのでございます。私、ずっと社会保険審議会委員もして参っているのでございますが、根本対策の必要については、二年も三年も前からしばしば要請してきたわけでございます。次第に保険制度が普及していく、それに従って医療の頻度が増してくる、だんだん赤字がふえてくるというような傾向の中において、放っておいては工合が悪い、さらにまた結核というものが非常に大きな比重を占めておる状態の中において、就労者の保険だけの健康保険というワク内で治療を続けていくということは、非常な困難な事態もできょうから、まず国民病としての結核対策というものを立てる。その上で健康保険の抜本的な対策も立てていく。そういう対策をまず立てて、それに行くまでの過程として生じてくる赤字なりを、その段階においてどうしたらいいかということを逐次考えていくべきではないかという主張をして参ったわけでございます。ところが政府提案の方は、いつもこれが逆になり、根本対策については目鼻のつかないうちに弥縫策のようなものばかりが出てくる。そうしてその中に保険の革命的とまでいっても差しつかえないような、一部負担という制度がここに導入されてきたわけであります。そこで私たちが申し上げておりますのは、今の一部負担という制度赤字理由にして表面に非常に強く出てきておる。この出方というものは、まずいから、まず年来の主張である国庫負担の二割というものを実現してもらいたい。しかし国家の事情等において、どうして、も二割が今直ちには困難である、特に現在の与党のお立場ではそういう主張がなされておるようでございます。どうしても一割しか出せない、三十億しか出せないというときには、一部負担というような制度を唐突にここに引き出してくるのではなしに、なぜ政府としては保険料率を引き上げるという提案を先にしないのか。これに対して事業主あるいは被保険者から反対が出るかもしれませんが、保険者の立場の政府としてはそう出るのがしかるべきではないか。たとえば、現在予定されております赤字につきましても、この料率を改訂しますと、せいぜい千分の五ないし千分の六程度で処理できるわけであります。かりに千分の五といたしますと、一万円の標準報酬として一カ月に五十円でありますから、被保険者は二十五円の負担増、事業主も二十五円の負担増であります。百人の従業員を使っているとして、事業主は一カ月二千五百円の負担増になる。ところがこれだけの金額というものを被保険者患者に全部持たしていくという考え方でできている。従ってそういう点がはなはだけしからないので、まず最初に国庫負担金を考えてもらいたい。どうしても国庫負担でできないという面があるときは料率を考える。あるいは、それも困難であるというならば、いま一応借入金なり何なりで処理しておいて、あと半年、一年の時間をかして、根本的対策を検討してもらって、その方向に向っていく措置として考えるのが必要ではないか、かように私ども考えているわけです。  さらに先ほどの毛利さんに対する御質問と非常に関連があるので、差しつかえなければ少し言及さしていただきたいのでございますが、私たちは一部負担制度というものに関しまして頭から否定するという考えを持っておりません。これはある程度考えられていいと思っております。ただ今政府が提案しているようなやり方、これに対してまっこうから反対しているわけであります。つまり軽度の金額で、負担が軽かろうということで、窓口で薬を取りに来たたびに取る、あるいは入院患者小ら一日幾らで取る、あるいは再診のたびごとに取るという形をやりますから、払わなかった場合にお医者さんの損になる。貸し倒れになる。それをかわって取ろうといっても、非常に困難になってくるわけであります。事務も複雑になってくる。そういうようなことで、この一部負担のやり方というものは、あらゆる医療を受ける機会にちょこちょこ取られるという、これがいけない。むしろ現在六千万の国民が全般的に医療保障制度適用を受けいるという状態におきまして、国民保険国民全体に対して医療保障を与えるということを、私たちはまず先に考えるべきではないか。それは現在の日本の経済力なり国力の上から、一〇〇%の医療保障はできない、八〇%の保障しかできない、あるいは七五%の保障しかできない、こういうことになった場合には、結局被保険者も被扶養者も、あるいは自営業者も全部含めて七五%なら七五%、八〇%なら八〇%は、国家医療保障としてこれを見ていく。残りの、現在の国民経済の関係から見てできない分については、これは国民負担ということになる。こういう制度に変化をしていきますと、健康保険組合その他の行われるところは、その残りの部分には付加給付を行う等のことによって、いい状態のところでは補いがついていく。結局被保険者におきましても、被保険者は一〇〇%でございますが、被扶養者については五〇%しか給付を受けていない。その被扶養者の方の給付引き上げるということにしますと、全体としての負担というものはバランスがとれていく。さらに先般国民健康保険に二割の国庫負担ができましたけれども、この際、従来国庫負担なしに五割の給付をしておったのでありますから、二割の国庫負担を上に積み重ねて、六割の給付をしていくというように、積み上げていく。残りの方に、さらに全部国民健康保険の強制適用をする。こういう形で行きますならば、私たちとしても十分検討に応ずる余地があると思うのであります。しかしそれを窓口に行くたびにちょこちょこ取るという制度にいたしますから、毛利さんも指摘されたように、大方のお医者さんの危惧されておりますように、これがおおむね貸し倒れになるか、払えないと言うときにどうするかといって、お医者さんはとれない、政府にとってくれということになれば、これは非常に問題が出てくるわけでございまして、先生ほどお話がありましたけれども、官給請求明細書を持っていくと職場がわかりますから、結局それは保険者なりあるいは基金がそれを事業主請求する、給料から天引きする、こういう方法にすれば、お医者さんの窓口の貸し倒れを防げるではないか、そういうことも考慮の余地があるではないかというお話がございました。これは健康保険組合等の場合に特約した保険医という形なら、そういうこともある程度可能かもしれませんけれども、御承知の通り、政府管掌の被保険者に関しましては、被保険者五百二十万に対して事業所が約二十三万あります。一つ事業所当り約二十二人程度の平均ですから、とうていその業務にはたえ切れないのじゃないか。基金としても大へんでしょうし、いろいろなところの事業所の五人、六人というところから来る少額のやつを、お医者さんが整理をして基金に請求するということになると、これはお医者さんの立場からも大へんな事務量になってくる。そういう点からも、政府管掌の健康保険についてはそういう方法をとれないのじゃないか。結局患者が泣く泣く支払うか、お医者さんが背負い込んでしまって損をするかというところに落ちつかざるを得ない。しかもこの制度によってねらいといたします乱診乱費の制限ということは、これはとうてい防げないのじゃないか。といいまするのは、貸し倒れになるのはいやでございますから、どこかから働いて出そうという気持が働いてくるから、やはり水増し請求というのは、従来より以上に拍車をかける。これは生活権擁護のやむにやまれぬ立場から、そういう形になってくる傾向をむしろ助長する危険があるのじゃないか、こういうふうに考えて私どもは反対しておるわけであります。抜本対策については、ぜひやっていただきたい、こういうふうに考えております。
  18. 野澤清人

    ○野澤委員 時間がありませんので、ただいまの和田さんのお考えにつきましても二、三お尋ねしたいと思ったのですが、一応この程度にしておきたいと思います。ただ最後にごく簡単にお尋ねいたしますが、これは宮尾さんにも和田さんにも関連した問題ですが、宮尾さんからのお話で、一部負担に対する御見解、それから医療機関指定等についての御見解等で、医療担当者の犠牲において、あるいは協力においてやらなければならぬという決定的な御意見が出ています。それからまた、和田さんのお話を聞きますと、本質的に何も一部負担に反対ではないんだ、こういう御意見もあったようであります。そこで、結局一部負担というものは、管さんの感情としては、好ましくないことではあるが、現状ではやむを得ないという思想があるのじゃないか。そうすると、昨日から本日までの公述人のお話を聞きますと、結局はその程度と方法にあるのじゃないか、こういう感じがいたします。現在の医療制度のもとでは、初診料なり再診料なりあるいは注射なり投薬なりでとらざるを得ない状態である。これは新しい分業制度でも施行されれば、この物と技術というものが分離されていく、あるいは一部負担の方法というものも確立されてくるのじゃないかと思います。昨日もちょっと申し上げたのですが、ソ連の医療の実態というものを見て実に合理的だと思ったことは、国営医療で、完全分業でやっておりますが、ソ連における一部負担というものは、入院患者に対しては投薬、注射とも、これはむろん無料であります。それから診察も治療も無料であります。つまり有形無形といいますか、形のない技術料等に関して患者負担というものは仰せつけてない。従って通院あるいはまた処方せん等をもらって、よそで調剤をされる場合、この場合にのみ患者負担が生まれてくる。こういう制度が実施されておる。これも無料じゃないかというて、捕虜時代に私無料と報告しておったのですが、昨年行ってみまして、これが有料であったという事実をつかんだけわであります。こういうことを考えてみますと、やはり医療制度というものは根本対策を早く打ち出さなければいかぬ。先ほどの和田さんのお話のように、どっちを先にやるか、和田さんはこれを抜本的対策と見ておりますし、われわれ与党としては、経済自立五カ年計画の一環として第一年目が踏み出されたのだ、従って柱が大きい小さいはありましても、一応企画された政策の線に沿うて打ち出されたんだ、こう善意に解釈いたします。従って六頭立の馬車を仕立てるのに、どれを一番馬にし、どれを二番馬にするかということだけでありますから、それほど議論の余地はないと思います。まず五カ年間に完全な医療体系を作り上げなければならぬという与党の立場もいろいろありますので、十分その点御理解願いたいと思うのであります。そこで最後に宮尾さんの御見解に対しましては、現在の保険財政、国家財政の規模、また厚生省、大蔵省あるいは自民党というようなあり方から見て、この健康保険法はどうしても通さなければならない法律だと、宮尾さんはお考えになりますか、あるいはまた、もっともっと審議を重ねて、第二年目でも第三年目でもよろしいから、一応与党としてはこれをゆっくり審議したらいいじゃないかというようなお考えであるかどうか、簡単でけっこうでございますから、宮尾さんの御意見を拝聴したいと思います。
  19. 宮尾武男

    ○宮尾公述人 今の御質問につきましてお答えいたしまするが、この法律につきましては、私ども先ほど申し上げましたように、健康保険組合について側か差別待遇をされたような気持を持っていて非常に不満でございます。しかし社会保障制度の一歩前進とか、また政府管掌保険現状から見ましては、やはりこの法律を通すということにやぶさかではない感じを持っております。ですから根本対策を立てた上で――私どもも数年来根本対策が先じゃないか、あるいは医療費の安定をさせることがまず第一先決条件であるということを、口を酸っぱくして申したのでありますが、今の段階において、政府管掌保険現状から見まして、やはりこの法律が通ることに私どもも賛成せざるを得ないのであります。それから一部負担の問題につきましては、私ども方法と程度の問題を申し上げておりますが、先ほど、一部負担を否定した場合に最終責任をどうするかというようなお話がありました。今の案によりますと、再診の場合に投薬、注射をしなかった場合には十円、投薬、注射が伴った場合には三十円になる。これはそういう診療を受けた後に帰りがけに窓口に払うことになるようでありまするが、そういう区別をしないで一律に十円なら十円、二十円なら二十円ということになれば、結局医者の門をくぐったときに、受付で診療をお願いするときに二十円を添えて出す、あるいは初診料を添えて出すということにすれば、そういう取りはぐれは起ってこないと思います。  それから入院料の場合については、一部負担というものは過剰診療を抑制するという本質からいうならば、入院料にとるということは意味を持たない。だれも好んで入院するものはないのであります。病気になってやむを得ず入院するのであります。しかして保険関係の中での賃金理論と同じように、負担を公平にしていくという意味からは、在宅患者と入院患者の関係で多少のものをとるということもやむを得ぬかと考えます。
  20. 佐々木秀世

    佐々木委員長 滝井義高君。
  21. 滝井義高

    ○滝井委員 昨日総評の塩谷公述人から、一部負担についてもしこれを実施するということになれば、総評と関係者の組織ではその一部負担の納入ができない場合があり得るので、保険者なり政府に一部負担要求の運動を展開することをつけ加えておく、こういう重大な御発言が実はあったのです。私はこの御発言は無理もない点があると思う。この一部負担については保険者である宮尾さんは、その額と方法問題で基本的には賛成の御意見を述べられました。毛利さんの御公述は、一部負担を最終的に医師に責任を負わせるということについては、あまりにも保険者は虫がよ過ぎるというきわめて妥当と思われる法律の専門家の法文から見ての御発言もあったようでございます。実は三人の方にぜひ聞いていただきたいのは、厚生省の公式の見解はこうなっております。それは再々にわたって患者が一部負担を支払わないとするならば、健康保険法患者である被保険者が守らないのであるから、その患者は被保険者としての権利を放棄したものとみなす、従って療養担当者である医師は、その場合はその患者を見てやる必要はないという。ところがこの場合に医師法では医者患者が診察を求めた場合には見てやらなければならぬというような規定があるわけです。それでその規定との正面衝突はどうなると言ったら、再々にわたって一部負担をやらないのであれば、医師はその規定からは免れて、応招の義務というものはなくなるのだ、こういう重大な御発言があったのでございます。そこでこれはさいぜんから、いろいろ野澤委員からのあれがありまして、たとえば保険者が支払うとか、あるいは賃金から差し引くとか、こういうお話があったのです。これは昨日も言ったのですが、私の友人が今日の中小炭鉱の被保険者の諸君を担当しておるわけですが、現在中小炭鉱では賃金の遅配、欠配があります。そこで労働基準法に基いて労働組合と話し合いまして、賃金から家族の医療費の半額負担を差し引くように、いわば労働協約の形でお世話して支払うようにいたしました。ところが月末になっていよいよ医療費を支払おうとしましたところ、ごらんの通り炭鉱では学校の費用とか、日常の副食物等を買う経費を、賃金の前借りで借ります。そこで月末になって賃金から医療費をもらおうとしましたところが、驚くなかれ五円か十円しか賃金は残っていない、全部配給の米代というようなものに差し引かれて医療費まで回ってこない、そこで実は困ってしまった。それで政府法律上の公式な見解によれば、そういう場合には集団的にその地区の患者に対しては、医師は診療の拒否ができて、同時に保険者でない一般患者としての取扱いができて、今度は賃金からさかのぼって全部差し引く形になってくる、いわば普通患者としてその患者は取り扱われることになってしまう。こういうことに対する宮尾さんなり、和田さんなり、毛利さんの御見解をぜひお伺いしておきたい。厚生省はそういう見解を予算委員会では公式に発言しております。
  22. 和田春生

    和田公述人 ただいまの一部負担に関しまして厚生省がそういう明白な見解を表示しているということは、私としまして今ここで初めてお聞きいたしたわけであります。社会保険審議会の審議の過程におきましては、そこまではっきりしたことは言われなかったようでございます。私どもとして法律上の問題はとにかく、事実問題として入院をしておる患者あるいは通院をしておる人が金を持っていないから払えないという問題が起きてきたときに、いやどうしても払えと言って組合が強制するとか、お医者さんがふところに手をねじ込んでも、見ぐるみはいででもとるということはできない事態が起きてくるというふうに考えております。これは私たちが組織的に要求をして運動をするとかしないとかいうことは別にして、事実問題として起きてくるのではないか。入院患者が払わないと言ったときに、お前は払えぬから出ていけと言ってまさか病気の人を道路上に引きずり出すことは、これはお医者さんとして不可能だというような問題が出て参ります。そうなると意識的にそういう問題に関しての運動が部分的にでも起されてくるというようなことも、あるいは一部負担金の不納同盟というような形が出てこざるを得ないということも想像にかたくないと思うわけであります。その場合に、そういう形が起れば、これは保険法にきめられたことを守ならいから保険法の適用を拒否する、こういう見解をはっきり政府が持っておるとすれば、私どもはゆゆしい問題だと思うのであります。それはむしろ健康保険制度を根本的に否定するようなことになるのではないか。もし保険医等がいないというような特別な状態であれば、普通のお医者さんに見てもらって、自分で金を払って療養費払いということで請求するということも可能になりますけれども、ほとんどのお医者さんは保険医で、保険医に見てもらわなければならぬ、ところが自分が金を持たない、あるいは払えない事情が出てきた、そういう場合に、そういう者には保険法の適用をしないのだから、医者は見てやらないということになると、完全に医療から突き放される、こういう問題が出てきて、これは保険を越えた問題になるのではないか。そういう点から私どもは事実問題としては、結局泣く泣く患者が払うか、払わなければお医者さんが背負い込んで損になるかということに向いていくのではないか。これは幾ら政府がそういうふうにいばってみても、そういうふうにいかない問題が出てくるわけです。こういう見地から先ほど申し上げたような意見を出したわけです。もし政府があくまで今滝井先生のおっしゃったような見解で強引に押してくるとすれば、私たちもまたそれに対抗して、この一部負担についてはますますとんでもないことだ、こういうふうに考えざるを得ない。  それからもう一つつけ加えておきたいのは、先ほどちょっと誤解があったようでございますが、一部負担については原則的に賛成だということでございましたけれども、私は政府から提案されておるような一部負担には原則的にも主観的にも全然賛成いたしません。国民全部が医療保障対象になるという形の国民医療という考え方の中で何割を保障していくかということが国民の経済水準から問題になるならば、そういう点の検討には応じていきたいということを申し上げたのでありまして、この種の窓口でちょこちょこ取るという一部負担が広範に実施されるということは、縦から見ても横から見ても問題を起すだけだ、こういうふうに考えております。
  23. 宮尾武男

    ○宮尾公述人 御質問の一部負担の問題については、やり方によってはとれないことはないだろうということを先ほど申し上げたのです。  それから金がないと受けられぬというようなことについて厚生省の見解がどうとかいうお話でございましたけれども法律の解釈からは、私はそういうことは言えると思うのでありますが、しかし実際問題といたしましては今まで健康保険が始まって以来、保険証がなければ受けられないという場合でも、やはり緊急な場合とか、あるいは善意の場合には保険医診療をして、あとで保険証を持ってくるというような方法もとっておりますし、あるいは療養費払いという形もありますし、それはやはり健康保険法の立場では医師と患者との間で解決すべき問題だと思います。その運用によっては、私はそういう極端な摩擦はできないで済むのではないか、こういうふうに考えております。またもしもある地区において集団で一部負担の不払い同盟ということが起った場合に、保険診療はどうなるかというお話でありますが、これは医師の総辞退と同じようなケースでありまして、私どもはそういう不穏な事態というものは医者の側にも反省してもらわなければならないし、被保険者側にも、そういう事態が起るおそれがあるなら反省していただかなければならぬ、そういうふうに思っております。
  24. 毛利与一

    毛利公述人 ただいまのお話の、たびたび一部負担金を払わぬ者に対しては、健康保険法による療養給付を拒絶してもよいというような御意見がおありになるそうでありますが、これはおそらく一部負担金というものを払わぬときの始末をどうするかということの、理屈のやりとりの結果生まれた一つの口上であろうかと存ずるのでございます。これは私どももそういうことがあったということを聞いて大へん驚いておるわけでございますが、金を払わぬから今そこで苦しんでいる病人の療養を拒絶するというのは法律感情として許されぬことであると思います。法律感情というより、もっと今世紀というか、近代ヒューマニズムはさような処置は許さぬと思います。もしそういう一片の理屈通り何べんも払わぬから拒絶した、そのためにその病人が死ぬというようなことがありましたら、場合によったらその医者は不作為による殺人罪で起訴されるかもわからぬ。そのときには厚生省は弁護してくれません。そんなことは乱暴きわまる話でこれは私もおみやげに聞いて帰ろうと思います。そういうことは法律感情、人間感情として今世紀には許されぬことだと思います。これはもっとずっと前世紀の話であります。
  25. 滝井義高

    ○滝井委員 私もその通りだと思います。従って少くとも近代の新しい学問を受けておる療養担当者は、おそらく払わなくても瀕死の病人が来れば見てやる。たといその人が再三にわたって一部負担を払っていなくても見てやるということは当然なんです。そこでその結果どうなるかというと、一切の負担療養担当者のいわゆる犠牲において命を救っていくという形になってくるということです。保険経済には何も影響ない。そういうことで、そこに残っているのは人間医者人間患者が残るだけになる。法律保険経済もみんなそれは全然関係のないところに押しやられてしまっているということになります。現在の日本の医療健康保険になり、社会保障制度のワクの中に入ってくるとするならば、そういう医師の犠牲によって解決されるような制度法律の中で生み出していく姿を作ること自身、それだけでも悪法の最たるものだと実は考えておるわけです。皆様方の御意見も結局法律論としてはそういうことが言えるが、現実問題として起り得ないだろうという御意見に一致しておりますので、私もそうだと実は考えております。  そこで、次にお尋ねをいたしたいのは、これは和田さんはお急ぎでございますが、現在政府医療費体系を出しておる。それで中央社会保険医療協議会諮問されておるわけですが、先日八日でございましたたか、突如あの医療費体系は撤回するというような新聞の報道があった。その後、あの新聞報道を契機としてだんだん質問の展開を行なったところ、医療費体系は現在の医薬分業にすぐ実施することはとうていできませんということをはっきり政府の方から言明されてきました。従って、四月一日の医薬分業に入っていくためには、暫定案を作る以外にないのであります、こういうお話があったのであります。そこで昨日歯科医師会なり、あるいは日本医師会なり、日本薬剤師会の関係者の御意見を聞きましたところ、日本医師会と歯科医師会では、中央社会保険医療協議会において、現行点数で四月一日から分業に入るべきで、それ以外は受けつけられないというような御主張のようであります。その御説明の中で、療養担当者はそういう態度だが、保険者と被保険者事業主も含めてそういう方々は、総医療費の伸びさえなければ、四月一日から医薬分業に入ってもらっても、どういう案でもよろしい。現行点数でも何でもよい、こういう御意見であったように承わったのであります。これは明後日から健康保険を審議する上においてきわめて重大なポイントになる点でありますので、ぜひ一つ率直にお聞かせを願いたいと思います。
  26. 和田春生

    和田公述人 健康保険改正と医薬分業の問題と直接的な関連は生まれてこないと思いますが、私ども医療を受ける者の立場からすれば相当重大な関心がございます。今の点でありますが、従来のいきさつは抜きにいたしまして、率直に申し上げまして医療費体系の問題は、厚生省のやり方において多少強引な点があったように私ども考えております。現在の医療体系の中で、物と技術とを分けていくということは正しい方向であり、その方向に進んでいくということについては私どもももろ手をあげて賛成しておるわけであります。しかし医療を担当するお医者さんと厚生省というものが真正面から対立して、しかもその中に紛争までも含んだままでこれが強行されますと、必然的にそのはね返りというものが患者である被保険者あるいは医者に見てもらう立場の方に来るという危険性がある。そういう形をもってこれを強行されるということは私どもとしてははなはだ望ましくない、こういうふうに考えております。そこで私の意見としては、この種の問題についてここまで問題が煮詰まってくれば、国民の前にも明らかになりましたし、お医者の方でもあくまで新医療費体系――今提案されておるものではございませんが、医薬分業並びにそれに伴う新しい医療費体系を立てることに反対するのではなくて、結局はやり方と内容の問題にまで来ておるようであります。従ってそういう前提で関係者が協力をして、事態に即応するような正しい方向を見つけ出していく、こういう努力をしてもらって多少なりともこれを延ばすということをやってもらってでも紛糾した事態は避けていただきたい、こういうふうに考えておるわけであります。  なお被保険者の立場として、総医療費の伸びさえなければどんな形でもよい、こういうような意見は私どもは持っておりません。これはあまりにも無責任であって、やはり私どもの方でも正しい医療が正しく行われるというふうに向いていただきたいと思います。この場合に、昨年の三月現在でしたかの総医療費のワク内で新医療体系が検討されたのであるから、全体の額は変らないということがよくいわれるわけであります。しかし全体の額が変らないといたしましても、内容の配分を変えると、それぞれのお医者さんの診療度合いあるいは状態において、個個人のお医者さんとしてはその収入の増減というものがかなりそこに出てくるという問題が伴ってくるわけであります。それが合理的に行われていないと非常な問題になると思いますし、今後治療を受けるわれわれの立場として非常に損なような形に置かれてくる。病気にかかった場合に、医者に行くとぞんざいに扱われるとか、そういうようなことが起ったのでは大へんだと思います。総医療費のワクがこれ以上ふえるということは、負担の限度からいって望ましくないことはもちろん、その中でできるだけ合理的にやっていただきたいというふうに考えております。  なお被保険者の立場を一つ申し上げますと、現在の総医療費のワクといわれておるものの中には一部に不正によって治療を受けておる、あるいは不正によって請求をされたものも要素に含んでおるわけでありますから、それも込みで正しいものに割り当てるという行き方は多少望ましくないのであって、実際に不正を排除するような適正な措置を講じた上で具体的の総医療費のワクというものをつかまえて、それが現在よりも減るならばその減ったワク内で正しく考えてもらうべきであるし、正しい医療費がさらにふえるというならば、それをあえて私たち負担をして、そういうものは支出をしていくというふうに、正当な立場において、これを処理していただきたい、こういうふうに考えておるわけであります。
  27. 宮尾武男

    ○宮尾公述人 ただいま新医療費体系のことについての御質問がなされましたのですが、和田さんからもお話がありましたように、私どもも総医療費体系というものが出されたときに、総医療費のワクの中で変らなければ賛成だ、こういうことを申しておるのでありますが、それはやはりその中に盛られておるアイデアを支持しているのでありまして、物と技術を分けるという建前に立ってやるならば、総医療費が変らなければがまんしようということなんですが、それはやはり先ほど来私申し上げましたように、今の総医療費のワクというものは、水増し診療、あるいは過剰診療が大へんに入っておる。それを一応今の浮動点数を固定点数に変えるのでありますが、ほんとうならばそういう浮動な点数を切った上でやるべきが至当だと思うのでありますが、そういうアイデアをこの際入れるならば、医薬分業というようなことができるときにやることが望ましいということで、物と技術とを分けることを支持して参ったのであります。それが審議の過程においていろいろないきさつから、ただ単にこれを糊塗するというような形でもって新医療体系がきまってしまうということについては、非常に危惧を持っております。もしもこの際やるとするならば、やはり物と技術をはっきり分けるという建前だけは貫いていただきたいと思うのであります。
  28. 滝井義高

    ○滝井委員 どうもちょっと誤解をされているのですが、私がお尋ねしているのは、今のいわゆる厚生省の御諮問になっている医療費体系では、もう医薬分業に突入するにはあと十一、二日しかありませんから、これは間に合わないわけですね。間に合わないので厚生大臣は、現在諮問しているものは、今の情勢ではすぐにはできないので、六月か七月までに結論を出していただければよろしい。とりあえず医薬分業に入るに必要な最小限度の暫定案というものを作っていただかなければならぬ、こう言っているわけです。その暫定案というものに物と技術とを分けるという基本精神を入れてくると、これは私はできぬと思うのです。時間がかかってとても十日ではできぬ。そこで、総医療費の伸びというものに変化を与えないという程度の暫定案、総医療費とかなんとかいうことだけを考えてやればいいんじゃないかという御意見だったということを昨日お聞きしたわけなんです。厚生省はあなた方と同じ御意見を先般来ここで主張したのです。暫定案においても物と技術とを分けてもらわなければ困るのだ、こういうことだ。それならば、医薬分業は四月一日からできぬから私は政府は延期を出すのかというと、政府は困っている。延期法は出せぬし、物と技術とを分けることはできないというので進退きわまっているのが、今厚生省の姿です。進退きわまってこれをどういうふうに打開していくかということが、健康保険法案の審議と重大な関係を持っている。その進退きわまっている姿をどのように打開していくか、その暫定案の性質を日本医師会の方では、現行点数でとりあえずいこうとおっしゃっている。日本歯科医師会もそれでいっている。薬剤師会の方はどうもそうではないようであります。それで昨日は保険者も被保険者も、総医療費の伸びがなければ、一つあなた方はよろしくやってくれということでした。その通りですかというお尋ねなんであります。
  29. 和田春生

    和田公述人 昨日の経過を十分知っておりませんでしたので、多少御質問とポイントがはずれたことを申し上げたかと思うのでありますが、私はやはり医薬分業をやるんでしたら、新しい医療費体系を確立した上にみんなが納得される形で行われるのが望ましいと思います。従って四月一日から医薬分業というものを何が何でも強引にやらなければならぬというふうに機械的に考える必要はない。何なら延ばしてもいいと思うのであります。しかしどうしても延ばせない事情が政府なり国会にございまして、これがやられるということになるんでしたら、それは今滝井先生のおっしゃったように、現行の医療費というものに対して大した変動がない限り、皆さんの納得できる方法でやっていただいたらいいと思います。しかし現行点数のままで医薬分業を実施するということになりますと、これは完全医薬分業でなしに、任意医薬分業といわれているような制度でありますために、実際上はただ法律をやったというだけであって、実施はあとに延ばされる、こういうことになるのではないかと思います。さらにわずかの短い間に物と技術を分けて、新医療費体系をやり直してやるということは、人間わざではちょっと不可能ではなかろうか。どっちにしても大へん無理がある。私どもとして国会にお願いしたいのは、そういう飛ばっちりが患者の方にこないように適切な処理をしていただきたいということでございます。
  30. 宮尾武男

    ○宮尾公述人 大へんに的がはずれたようでありますが、滝井先生のおっしゃっている、四月一日から間に合うか間に合わないかということは、これは私としてわかりませんと申し上げた方がいいと思います。しかし中央医療協議会においてせっかく審議が進められておりまして、かつ公益代表の委員が代案を出すことを努力していられるのでありますので、私は今の段階でまだあの新医療費体系を物と技術を分けるという立場に立って何らかの代案が出されることを期待しておるのであります。そういう程度でございます。
  31. 滝井義高

    ○滝井委員 私にこれで和田さんはけっこうでございます。
  32. 佐々木秀世

    佐々木委員長 藤本君。
  33. 藤本捨助

    ○藤本委員 昨日及び本日にわたりまして公述人各位におかれましては、非常に御多忙中にかかわりませず、熱心に御公述をいただきましたので、われわれといたしましては、非常に有益な、また示唆に富んだ御意見を拝聴いたす折を得まして、まことに感謝いたしております。  実は私お尋ねする考えは最初から持っておりませんでしたが、昨日来の公述人のお話を承わり、また委員諸君との質疑応答を通しまして、また与党といたしまして、社会主義体制下における医療制度は別といたしまして、資本主義体制下の医療制度のもとにおきましては、あるいは医療とかあるいは製剤あるいは調剤というようなことの企業性の問題からして、本質論は別といたしまして、いろいろな御批判はあるということを十分承知しながらも、何とかして健保の改正をいたしたい。しかもこれはただ健保の改正だけをわれわれはねらっておりません。医療保険の一環であり、さらに社会保険の一環であり、さらに社会保障の一環として考えておるのであります。そういう点からいたしまして、個々の問題につきましてはすでに重要な質疑応答がかわされておりますから、私はこれに触れませんが、ただ抽象的であり、また非常に時間がございませんので意を尽せませんけれども、そのためにあるいは誤解なさるような点がないとは限りませんが、その点をお許し願いまして、一つお尋ねいたしてみたいと思うのであります。  その一点は、財政上減税と社会保障の充実は両立しない。言いかえますと社会保障を充実するためには増税もやむを得ないというようなことを言う者があり、また相当の客観性を持っておるのであります。われわれといたしましては増税はやらない、しかし社会保障はぜひやっていきたい、前進し確立いたしたい、またできますことならば減税をやってでも社会保障の確立をやっていきたい、そこに問題があり、また苦心があるのでありまして、今回の健保の改正案に、いろいろ御批判もあるし、あるいはおしかりも受けておるわけなのです。皆さんにおかれましては、社会保障の前進ということに対しまして、非常に熱心なる御意見がございましたが、そういう観点から先ほど申しましたようなことにつきましての御意見を承わっておきたいと思うのであります。
  34. 和田春生

    和田公述人 私ここに出まして先ほど来申し上げておりました意見は、決して社会主義下の医療保障という形で申し上げておるのではなくして、現実に行われる医療保険なり医療保障という立場で申し上げて参りました。なるほど私たちとしては減税は望むところでございます。増税はいやでございます。また減税と社会保障の拡充ということは両立しにくい、こういうお話もありましたが、その点についても私どもはよく了解をしておるわけであります。国庫負担といいましても国庫は決して打ち出の小づちではございませんから、これは全部国民負担をするわけであります。ただしかし現在健康保険におきましては、初診料の五十円を除いて一〇〇%が保険で見られております。それから被扶養者に対しましては五〇%というものが見られておるわけであります。国民健康保険適用されておるところにも五〇%というものが見られておりますし、あるいは公務員の共済組合であるとか船員保険であるとか、いろいろな保険を合しますと、国民のうちの六千万、約七割近くがこの保険給付を受けておると思います。残るところ三千万であります。そこで私どもが申し上げておりますのは、残りの三千万の人たちもみんなが税金の形、保険料の形では負担していないが、それぞれ個人負担において医療費が支出されているという現実があると思います。そういうような国民全体の総医療費を押えていく。それを国家で保障する。この形を税金でとるなりあるいは国家財政のワクの中から出していくなり、あるいは別個のとり方をするなりということをやってみて、それが国民負担を拡充するということにならないと私は考えておるわけであります。そういう方向に向いていくならば十分にやる道があると思います。さらにまたこれはきょうの問題ではございませんので、委員長からも注意がありましたから言及するのを避けたいと思いますが、国家財政の立て方予算の組み方そのものにつきましても、現状ありのままでほかのものは一銭も動かさずに社会保障関係の費用だけをふやそうといたしますと、当然増税という形が出て参りますけれども、不急不要な非生産的な費用で削減し得る余地があると私は思うのであります。そういう方面を総合的に考えますならば、必ずしも減税と社会保障の拡充が全く相矛盾してできないものであるというふうには私自身考えていないのであります。要はやり方の問題だというふうに考えておるわけであります。労働者が全然負担をせずに全部国庫で持ってくれというふうに、何か国庫をよその存在のように私ども考えておりません。私たちも適当な負担をしていきたい。ただ医者にかかったときに直接負担をするのか、あるいはそういうときに備えて、みんなが公平に収入の度合いに応じて負担をしていって貧乏人も助けてやる、こういう制度にいくのか、どちらがいいかという問題であります。その医療保障負担は何割が適当かということは困難でありましようけれども、少くとも現在の情勢から認めて、八〇%程度を全国民に対して医療保障をしていくことは、そう長い年月を経なくても決して困難ではないではないか。残りの部分につきましては組合保険によるところの付加給付なり、あるいはもろもろの制度によって全般の国民の利福をはかっていくことができるのではないか。これは現在の与党の保守党といわれている立場におかれても、ぜひこういうことをやっていただきたい、こういうことを私たちはお願いしておるわけであります。
  35. 藤本捨助

    ○藤本委員 ただいまも申しましたように、われわれは健保の改正だけが目的でないのでありまして、社会保障、国民保険というような重要な使命を達成するために考えております。従いまして今お述べになりましたように、制度の上から申しましても実に複雑多岐であります。ここに何かのロスも考えられますし、運営におきましても必ずしも合理的といえないのであります。それから今お述べになりましたように、詳細は省きますが、約三千万の社会医療保険対象になっておらぬ国民がございます。そういう点がありますからこれをどうするか。それで医療五カ年計画とでもいいますか、わが党の経済五カ年計画に対応いたしましてその根本的な、抜本的な対策を今考えております。そういう点でわれわれは重要な転機といいますか、先ほどのお言葉によりますれば革命的といいますかいろいろな問題に空き当っておるわけでありますが、ただいまの御答弁によりましていろいろ考えさせられたところもございます。  なお第二といたしましてお尋ねいたしたいのは、福祉国家の建設には、大体完全雇用と社会保障が両翼でございます。ここに一国の財政上限りある予算の配分につきましては配慮が要る。ここに私は二つの問題があると思うのです。まず貧乏と病苦であります。貧乏なるがゆえに、それが温床となって病気になる、病気になると労働力を失います。生活力を失います、そこでまた貧乏になる、ここに貧乏と病気、これはどちらが卵か鶏かわかりませんが、ともかくも病気になったものは直さなければいかない。しかし貧乏にならぬようにしなければいけないというところに大きい問題がございます。さらに社会保障でありますが、これは非常に増加するテンポが早いのであります。これは医療の需要の増大あるいは国家扶助の人間のふえること、あるいは給付内容の向上等によりまして非常にテンポが早いのであります。まずイギリスの例をとりましても、一九三八年から一九四九年の間の社会保障費は四倍にふえております。御承知でもありましょうが、一九四九年のイギリスの社会保障費は十八億ポンドでありまして、国民所得の一七・五%になっております。一例をあげましても非常にテンポが早い。またわが国の例をとりましても、昭和二十七年の社会保障費はざっと七百五十四億と記憶いたしております。それから三十年度、これは川崎厚生大臣の御自慢だったように思いますが千十二億になっておる。三十一年度は千百三十四億であります。もし二十七年度を一〇〇といたしますと、三十年度は一三四%になります。それから三十一年度は一五〇%、五割の増になるのです。それに国民所得はどうかといいますと、まず四、五彩の増にしかなりません。企画庁の統計によりますと、三十年度は六兆六千六百億で、これを一〇〇といたしますと、三十一年度は六兆九千七百十億でありまして、これは一〇四・六%くらいになると思います。四%そこそこしか国民所得はふえぬのであります。ことに私非常に考えなければならぬと思いますことは、昭和二十九年の国民医療費は二千二百八十億円でありまして、これは国民所得に対して三七%になる。それから昭和三十年度は二千八百億でありまして四・二形になる。このテンポで進みますと、昭和三十五年になりますと、大体四千五百億円の総医療費になります。国民所得が八兆八百億円といたしますと、大体五・六%くらいになるのであります。こういうふうになりますと、その昭和三十五年の国家財政は一兆三千億でありますので、その大体三分の一が国民医療費になる。しかしこの医療費が適正な給付の増加によって、あるいは給付内容の向上によってふえるのであれば非常にけっこうなことであります。けれども、現在においては、制度からいっても運営からいっても、必ずしも合理的ではない。そこにいろいろ合理的な方法を講じて、できるだけこの経費が要らないようにして出発するのでなければ、社会保障の充実はできない。こういうようなことを考えますと、片や完全雇用、片や社会保障の充実という観点から申しまして、社会保障費は、時によって違うでありましょうけれども、財政上大体限度があるのではないか、かように考えざるを得ないのであります。この点につきまして御意見を承わりたいと思います。
  36. 和田春生

    和田公述人 問題が非常に広範でございまして、私あまり時間が残っておりませんので、長くお答えできないのを残念に存じます。  要点的に申し上げますと、最近における医療費の向上というものは、結局今まで保険という制度があっても普及していなかった、従って当然利用すべき人が利用していなかったという状態が、どしどし利用するようになったということからふえたという面が相当に大きいと思うわけであります。これは現在の雇用労働者に関しましては、これ以上急速にふえるということはないのでございまして、問題は残されている部分だと思います。これらの部分についても、お医者さんにかからなければならない人はやはりかかっているわけであります。結局先ほども申し上げましたように、自分のふところで苦労して負担しておるか、あるいは何らかの保険等の保障制度によって給付してもらうかという違いである。結局今まで自分のふところで払っておったのではたえ切れないから、病気になっても医者にかからない、貧困の中で病苦にさいなまれて死んでいく、こういう人がおったという事実が、今度は医者にかかるというようになって、費用がかさむという面がありますが、これは国民全部がしょってでもそういう気の毒な人はお互いに助けていくということに徹するのが政治の責任であり、国民全体の責任ではないかというふうに私は考えておるわけであります。そこで今の医療費について、費用がふえるならば、やはり労働者といえどもその負担に応じていく、収入の度合いに応じてみんなが負担していって、そういう貧乏の中に苦しんでいる人がないようにしてやるということがあってこそ、初めていいのではないか。その費用負担の増というものについては、現に何らかの形で負担しておるのですから、その分は決して負担増にはならない、形がかわるだけである。新たにかかる人の分は、責任としてみんなが見ていくべきであるというふうに考えておるわけであります。しかし国民経済力というものの関係と国家財政のワクがありますから、国民全体に対して百パーセントの医療保障ができないとするならば、私は最低何割は保障すべきかということを考えるべきではないか、そういう点を考えて、その方向に向って政策を進めるべきではないかというふうに思うわけであります。  さらにもう一つ医療費について先ほど来言及しなかった点を一つだけ申し上げてお答えにかえたいと思いますが、それは結核の問題であります。結核は国民病と言われておりますけれども、これが非常に費用がかさむ、最近治療もある程度進みまして、死ぬ人が少くなったという点から、かえって治療費がかさむ傾向が出てきておるわけであります。しかし結核にかかって長期に多くの費用を要するという原因は、早期発見がおくれていることと、病気にかかった人が働きながらなお重くしていくということであると思います。そのために、だんだん結核の費用がかさんでいく。そこで結核の早期発見と早期徹底的な治療という施策を早急に、ここ一年の間にでも立てる必要があるのではないか。そして早く結核を見つけて早くなおしてやれば、非常に顕著な結果が現われてきます。私ども職場ではすでにそれを実施しておりまして、長い人でも六カ月以内になおってきて、完全に働いております。毎年一回ないし二回定期的に診断して、かかった人は強制的に治療してやるということをやっております。そこでこれは法律の上で取り上げて、早期発見するとともに、かかった人は強制的に治療する、その場合に、お前が金を出せではできませんから、全部国家が見てやる、そういうような結核対策の抜本的なものを立てる。その費用は、特別税か何かで目的税としてとってもいいと思います。そうすれば、そういうことでどんどん治療が進んでいけば、この特別税はどんどん減っていくわけでありますから、わけのわからないうちにどこかに回されて、非生産的なところにそれがごまかされていくというようなことはない。国民もはっきり事態がわかる。結核についてはこういう税金を納めて、これによって国民全部については結核に対する早期発見、早期徹底的な治療が行われる、こういう方向に持っていけば、一時的には国民負担は増大しても、期せずして三年、四年のうちにこれが減っていくのではないか。健康保険の中においても、三五%が結核治療費であります。かりにこれが一〇%か、一五%になりますならば、それだけでも二割の負担軽減という事態ができる。現状に甘んずるのではなしに、そういう積極的な政策の方向で私は国会において十分御検討を願いたい。こういう見地に立っていろいろな意見を申し上げておるわけでありまして、私は決してできない相談や架空なことを言っておるつもりはないのであります。要は国会の御決意のいかんにあるのではないかというふうに考えるわけであります。よろしくお願いをしたいと思います。
  37. 藤本捨助

    ○藤本委員 私は国民健康保険をただ保険というカテゴリーでは見ておらぬのであります。保険でありますと、今お述べになりましたように、相互扶助、社会連帯、それでまず一応は片づくのが保険でありますが、それならば赤が出れば保険料を増すか、あるいは給付内容を減すか、どっちかであります、しかし、両方ともできません。ということは、社会保障というカテゴリーでわれわれは扱っておるからであります。そこに国家補助とか負担という問題が起ってきておるのであります。  もう一つは、今結核のお話がございました。まことにありがたく拝聴いたしました。仰せのように、その医療費は健康保険におきましても約四割であります。それから生活保護法の適用を受ける医療扶助の六割を占めておる。二十八、九年の調査によりましても、大体二百九十二万でありまして、要入院患者が百三十七万くらいあることは御承知の通りであります。それですから、根本的にこれを何とかしなければいかぬということをすでに考えておるのであります。そういういろいろな事情から考えまして、まず健保の対策を立てまして、御批判をいただいておるわけでありますが、私どもはこの問題を社会保障の前進、充実という観点から考えております関係で、その経費は特に重要な問題となります。というのは、社会保障費が国家予算の一部になりますと固定いたすのであります。これは年々先ほど申したようなテンポでふえていく、しかも固定する。こうなってきますと、国家財政の運用上、他の面に対する弾力性を欠いてくるのであります。ですから国が金を出すという場合には、国民の税金を最も合理的に、最も有効適切に使うにはどうするかということがわれわれの重大な使命になってくるのでありまして、そのために医療行政の合理化、あるいは先ほどお述べいただきました医療機関の御協力あるいは患者の御協力というような点も考えたのであります。要するに医療行政を最も経済的に最も効率的にやる、そうして社会保障の前進をはかる、こういうようなねらいのもとにやっておるのであります。この点に対しましてはお答えは要りませんが、前の二つの点につきましては、他のお二方の先生からも御意見ございましたら承わりたいと思います。
  38. 佐々木秀世

    佐々木委員長 和田さん、どうもありがとうございました。
  39. 滝井義高

    ○滝井委員 おそくなって恐縮でございますが、宮尾さんにちょっと質問を続けたいと思います。宮尾さんは健康保険組合連合会の御責任者であられるわけでありますが、健康保険組合の方は一部負担には原則的には御賛成になったのですが、健康保険組合では一部負担政府と同じように、初診の場合に五十円、それから再診十円、再診の場合投薬、注射があるときは三十円、入院三十円、あれはやはり実施されるおつもりなんでしょうか。
  40. 宮尾武男

    ○宮尾公述人 健康保険組合の場合につきましては私ども国庫負担を前提として、一部負担を賛成しておりましたもので、先ほど申し上げましたように、健康保険組合には今回落ちましたけれども、しかし社会保障制度の推進のために今度の法律改正程度のものは支持していくべきものであるという態度をとっております。  国庫負担や一部負担の問題については、附則に除外例があるようであります。これにつきましても、一部負担制度というものが付加給付でなく法定給付の中に入れられるならば、原則としてこれはやはり同様にいくべきが本筋ではないかということを考えておるのであります。しかしただいま申し上げたようないきさつから国庫負担がない、しかも健康保険組合の一部負担については、組合の内部においても多少異論がありましたのを統一してきておりますので、そういう除外例がありますけれども、私どもは法定給付である以上、これがどういうふうにきめられようがきめられた以上は守っていくのがほんとうじゃないかというふうに舞えております。先ほど申し上げましたように健康保険組合というのは一つの組合組織でやっておりまして、ある程度自主性を認められておりまして、選挙によって出てきた被保険者の議員と選定された議員と一つの組合会というものを作っておりますので、そういう場合にその組合会に諮って、もしも余裕があるならばそこの組合会で保険料を下げた方がいいのか、あるいは付加給付に回した方がいいのか、あるいは早期発見、早期治療をはばむ結果にならぬようにもっと傷病予防に力を尽した方がいいかというようなことを自主的にきめていくべきものだ、そういうように考えておるわけであります。
  41. 滝井義高

    ○滝井委員 もう一つお尋ねしておきたいのは、二割国庫負担については異議なく御賛成でございますね。
  42. 宮尾武男

    ○宮尾公述人 私ども健康保険組合連合会の基本的な考え方といたしましては、国庫負担について三割という線を出しております。
  43. 滝井義高

    ○滝井委員 ではわれわれの主張する二割よりもさらに一割高いのでありますから、これはけっこうだと思います。  今の宮尾さんの御説明で、健康保険組合自身はそれぞれ組合会があるので、その自主性におまかせしておるというお話があったのですが、そうしますとちょっと宮尾さんの論理に矛盾が出てくる感じがするのです。と申しますのは、健康保険組合は宮尾さん御自身が御担当になって十分御承知のように、昨年度で標準報酬一万六千円くらいにはなっておるわけでありますが、今度政府が出しております政府管掌の健康保険適用を目的として出しておりますこの健康保険法改正は、明らかに零細企業――さいぜん和田さんも言われたように二十三万の事業所で、しかも一事業所当り二一・五人という零細企業なんです。あなたの方の大企業を中心とする組合では、その組合会の意向でやろうと思ってもできないという場合が出てくるわけです。それを、あなたが直接関係のない零細企業を中心とす政府管掌に賛成論を吐くというのは、ちょっと論理の一貫性を欠く感じがするのです。というのは、もしこの零細企業を中心とする被保険者に一部負担をやることになれば、この前政府が総評の春季闘争に関連をして賃金の格差が大きいということを反対の一つの大きな理由として政府声明の中に織り込んでおったわけですが、現在あなたの所管されておる健康保険組合と政府管掌の被保険者の実態を比較しますと、厚生施設においてもあるいは賃金においても格段の開きがあるわけです。まあ腰だめ的な数字を見ても、標準報酬だけでも五千円という開きがあるわけです。昨日も私は申したのですが、これら一万数千円の層は今年の減税あるいは昨年の三百九十六、七億の減税の恩典に浴せない層なんです。そういう層に一部負担をかけてくるということになりますと、同じ健康保険法という一つの法の適用を受ける日本の勤労階級というものに対して、賃金の格差がある上にさらに大きな一つの格差を加える働きをすると思うのです。こういう点についてどうお考えなのか、それでもなおこれらの零細企業に一部負担をやるべきだという基本的な賛成論を主張されるのか、その点非常に矛盾があると思う。この点は、国家公務員についてもまだ最終的な結論は出ていないようであります。これはいずれ大蔵大臣を呼んで聞かなければならぬと思いますが、同じ社会保険という一つのワクの中において非常にちぐはぐが出てくる。あるいは日雇い労働者健康保険なんかも一部負担の問題なんかはないわけであります、現行通り。船員保険は現在の一部負担が百円になるということで、もしこれを実施するとすればばらばらになる。そうでなくても現在の日本の社会保険がその立法の根拠においても、あるいはその立法に基く診療報酬においても、みんなばらばらである。ますますこれはひっつかなければならぬ、同じくこれは手をつないでいかなければならぬ。それが、これでは政府管掌と組合の健康保険との間にますます差をつけていく感じがしてくるのであります。どうも前置きが長くなりましたが、さいぜんの御主張と矛盾する点を感ずるのですが、この点を御説明を願いたい。
  44. 宮尾武男

    ○宮尾公述人 矛盾ということをおっしゃいましたが、私は国庫負担ということを、赤字だからだとか、経営が苦しいから国庫負担をするという論理に立てば、おっしゃる通りだと思うのでありますが、われわれは社会保障の建前から国も責任を持ってもらいたいのだということを主張しておりますので、今回政府管掌健康保険のところには、字句の表現等は非常に不満でありますけれども、とにかく三十億円という国庫負担が出たのでありますから、それに協力するという意味において被保険者も、事業主医者も犠牲を払うべきだ、こういうふうに考えたのであります。健康保険組合の格差の問題につきましては、私ども企業の人が多いというお話でございますが、健康保険組合の実態はいろいろでありまして、非常に赤字に悩んでおるところもあります。たとえば京都の西陣の織物の健康保険組合のごときは非常に悩んでおります。しかしこれも自主的な制度をよしとするので、今もがんばってやっておるようなわけであります。そういうようなことで一がいに健康保険組合は大企業だとは言えない、と思うのであります。しかし健康保険組合が政府管掌とますます離れていくということになることは、私ども一つ健康保険という法律の中で非常に考えさせられる問題だと思っております。ですから私どもは今度の国庫負担の問題につきましても、そういう意味において、健康保険組合にもある程度国庫負担をしてくれるならば、われわれはここで一緒になっていこうじゃないかということを強く主張したのでありますが、不幸にして入れられなかったのであります。この際附則にああいう除外例が出ましたけれども、当分の間ということは、私ども国庫負担がつくまでというふうに解釈しております。そういうことで健康保険組合が格差が出てくるということは、私ども全体から見ておもしろくない。そういうことに拍車をかけるような結果に今度の法律がなっておるということは、私ども指導していく上において非常に注意していくべきじゃないかと思っております。除外例を実施する場合には厚生当局ともよく相談いたしまして、なるたけ実害のないような形でやっていきたいと考えております。
  45. 滝井義高

    ○滝井委員 私が大きな健康保険組合の諸君の御意見をいろいろ聞いてみますと、社会保険審議会か何かで――四十三条の十六に、「保険者健康保険組合ナル場合ニ於テハ規約ヲ以テ一部負担金ヲ減額シ又ハ之ヲ支払フコトヲ要セザル旨ノ定ヲ為スコトヲ得」という規定が入っているわけであります。これが入るか入らぬかということは、社会保険審議会においても重大問題であったらしいのです。組合出身の社会保険審議会委員諸君は、全面的に一部負担は反対のようであったと、私は聞いているのですが、その点はいろいろ宮尾さんの方のお考えもあると思いますので、それ以上あれしません。  次に、さいぜんから和田さんも申しておりましたが、宮尾さんの方で架空診療、水増し請求というものが非常に多いようなニュアンスの御発言があったのですが、現在あなた方の見るところでは、どの程度そういうものがあるという何か根拠があればお示しになって、できれば具体的に、この程度あるという数字を聞きたいと思うのです。実は新聞等で月に二億くらいはあるだろうというのが出たのですが、私、川崎厚生大臣の当時にいろいろ追及いたしましたところ、厚生省赤字原因の中に、水増し請求いわゆる診療の不適正というものが赤字原因一つに数えられておったのです。だんだん追及していきましたところ、結局、厚生省から出たものは一番大きい年で八百四、五十万円しかなかった。療養担当者の不正というものは、実はほかのものが多い資料を私は持っているわけなんです。どうも架空々々、水増し水増しということで、いたずらに役人の権限ばかりを強化する、あるいは保険者擁護の立法になっているという感じがするのです。そういう意味で今後立法の取扱いをする上にきわめて重大なポイントだと思う。やはりこれは物事を科学的に検討して、科学的な根拠に基いて、そういう根拠があるからこういう立法上の裏づけをしなければならないのだ、私はこういうことになると思う。そこで、架空請求なり、水増し請求がどの程度あるか、これは健康保険組合の把握している数字、組合関係だけでけっこうだと思いますが、あれば、この際率直にお示しいただきたいと思います。
  46. 宮尾武男

    ○宮尾公述人 架空請求、水増し請求という問題につきましては、これがあるということは常識になっておりますし、その率がどのくらいあるかということは、これもしっかりしたデータはどこからも出ていないようであります。私どもは、大体一割くらいはあるのじゃないかというふうに、大ざっぱな見当で思っております。これは基礎的に調べたのも私の方の組合個々については多少あるのでありますが、全体的に調べた調査は私の方にはありません。それで私が考えるのには、今の先生のお話で、ただ行政監督権限を強めるようなことばかり出てくるというお話でありますけれども、そういうことを防ぐのに、行政上の監督とか監査とかいうようなことで防ぐことは下の下でありまして、こういうことはなるたけしないで、しかもできるような方法が講じられてしかるべきではないかと思います。かねがね私どもが主張しておりますように、支払い報酬の方式あるいは審査の方法、そういうことが非常に不適正でありますので、そういう面から、もっとはっきりとそういうことが出て参ることが望ましいのであります。ただ人のうちへ立ち入って調べる、あるいは指定を取り消すとかいうような、サーベルをがちゃっかしてやるような方法は望ましくないのは、もうわれわれ常に言っていることであります。それでそういう指導と監督を一緒にしまして、その水増し請求なり審査なりがもっと適正にわかってくるような方向に早く手を打っていただかなければ、ただこれだけをやったからといってなかなか効果は上らないのじゃないか。しかし今の段階においてはこのことをやることすらも緊急の問題であるくらいに私ども考えております。
  47. 滝井義高

    ○滝井委員 今、宮尾さんからきわめて重大な御発言があったのですが、水増し請求というものがあることは常識になっている、数字はわからぬが一割くらいだという御発言があったのですが、一割と申しますと、政府管掌と組合管掌を合せますと、約七十億になるわけです。これだけありましょうか。これは今後この法案立法をやる上にきわめて重要な参考資料になるので、ここらあたりはちょっと慎重な、責任をと言ってはおかしいのですけれども、やはり公述でございますから、七十億というとこれだけで赤字が解消してしまうことになるわけですし、また日本の十万の療養担当者にとってもきわめて重大なものであります。今後一万七千の薬剤師諸君が入ればそれもその中に一緒に入ってくることになるので、これは非常に重大な点でございますので再確認をしておきたいと思うのです。
  48. 宮尾武男

    ○宮尾公述人 水増し請求と架空請求がそれだけあるとは私考えておりませんけれども、過剰診療とかいろいろ適正でない診療がふだん私どもの話し合っているところでは大体大ざっぱなところでそのくらいのところだろう。それですから新医療費体系を組む場合も、大体そういう浮動点数を含んだものを固定点数にしてしまうというところにいろいろ問題があったのですけれども、とにかく固定点数にしてもやはり将来のあり方のためにも技術と薬代というものを分けていった方がいいという観点に立って原則的には賛成したわけであります。
  49. 滝井義高

    ○滝井委員 過剰診療あるいは水増し診療等を含めてというだいぶ御訂正がありましたが、そういうものが一割ある。そうすると二千八百億の中の二百八十億なんですね。これはちょっとどうも大きいのですが、これはいずれ私ども政府当局にもう少し確かめてみたいと思う。  そこで次にお尋ねしたい点は、さいぜんから三者泣きという言葉を和田さんなんかもお使いになって、三者にさらに宮尾さんは療養担当者も負担をしてもらいたいということを加えたわけです。昨日日経連の牛尾さんの御意見を聞きましたが、牛尾さんは五者泣きという言葉を加えた。こういうふうで、実は事業主と被保険者と国が三者なんですが、それにあなたの方は療養担当者を加えた。牛尾さんは製薬業を加えた。私はやはり五者泣きだという主張なんです。あなた方が今一者である製薬業を落したというのは、結局現在の日本のこの重要な医療の中における、少くとも医療費体系で指摘しているように注射と投薬が四八形を占めているのだということ、しかもそれを今度は原価計算で割り出していくと、二九%ぐらいは医療費の中で実際に薬が占めているというようなこともあるわけなので、日本の製薬業の一千億の中の少くとも四、五百億というものは医療関係者に使われているということになる。あとの五、六百億がどこえ行ったかわからない。厚生省が説明してくれないので、どこかへ行方不明になっているらしい。毎年四、五百億がどこへ行ったかわからぬのです。とにかく医療機関が四、五百億使っているのは確実なのです。この四、五百億がいわばケルンになって、二千八百億というものが生まれてきておる。そのケルンに何らメスを入れておらぬ。あなた方も五者泣きとは言わなかった。賢明な牛尾さんは五者泣きと言ってくれた。それは製薬業を加えたわけですが、今度の健康保険の対策の中には、製薬業については三億ばかりの対策を薬価対策として出してきておるわけなのです。当然これは七人委員会等もありましたが、政府はどうもこれはやり切らぬのです。また新聞等も、製薬業についてはようメスを入れ切れません。というのは、御存じの通り新聞、ラジオ、テレビというものは確実にこれは握られているのです。もしそれが製薬業にメスを入れるような記事を出すということになれば、広告がストップします。九十一億という莫大な広告費を便っている。厚生省自身も、薬務局というものは、どうにもそれにメスをよう入れ切らぬ状態にあるように見えます。前薬務局長で現在保険局長の高田さんもおられますが、率直に申し上げますと、医療費体系を審議するときに全く流通過程の説明ができなかったのです。二十九年にあれだけ警告しておいたから今度はおそらくできるだろうと思いますが、これが盲点になって政府もメスを入れておりません。しかも健康保険の一番基礎になる薬価基準というものについて、だれも審議した人がないのです。いつの間にか厚生省と製薬業が、なれ合いといっては語弊があるが、どこかできめてしまっている。昨日薬剤師会の代表の方にも聞いてみましたが、ないのです。医療担当者の方にも聞いたが、そんなことは審議したことがありませんといっているのです。おそらく宮尾さんなんかもないと思うのですが、まず薬価基準について審議したことがあるかどうかということが一つと、それから薬価対策について、この危機を乗り切るためにはどうしなければならぬか。  もう一つ、あなたの方も四者泣き一つを加えて五者泣きにしてもらわなければならぬと思うのですが、していただくとするならば、その製薬業というものはどういう工合に泣かなければならぬか、その二点を御説明願いたいと思うのです。
  50. 宮尾武男

    ○宮尾公述人 製薬の問題につきましては、私ども機会あるたびにそろそろ出しておるのであります。こないだの社会保障制度審議会でも、大体製薬業というものを野放しにしておく法はないじゃないかというような意見が出ておりました。私ども根本的にはやはり製薬業というものは、国民医療の上から見て、医療担当者と同様に、公的な責任があるものだというふうに考えておりますので、滝井先生のおっしゃるようにもう一つ加えることについては私も賛成であります。それでそれじゃどうしたらいいのかということになりますと、これはなかなかむずかしい問題だと思いまするので、これを今具体的にどうしようという具体案は私持っておりませんけれども、もう少しこれは政府与党の方でお考えになっていただいて、どうせみんなが負担するのだから製薬業としてもどういう協力をしてもらえるかということを強くいっていただかなかったということを、むしろ私どもは遺憾に思っております。製薬業の実態は、大製薬の会社が少くて中小の製薬業者が非常に多いというところにむずかしい問題があると思うのです。やはり公的な性格に基いて何かの規制とか、あるいは協力というものを求めることが必要ではないか。これは私鉄であるとかあるいは電気事業であるとかというのと同じだと思うので、やはりそういうふうに何らかの手を打たれることを非常に期待しておるわけであります。  薬価基準についてお話でございますが、私どもの関係しておる審議会等では、薬価基準の審議はない。まだ今までなかったと思います。この改正について、私どもの陣営でもまだやっておりません。
  51. 滝井義高

    ○滝井委員 あれは法律的には中央社会保険医療協議会でやるのが私は正当だと思いますが、それをやっていないことを確認して、ありがとうございました。これはいずれ今度は政府の方に質問しなければならぬことになるかと思います。  次に、今の御意見の中で、製薬業は、大企業が少くて中小企業が多いからという御発言があったのです。実は医療機関は、大病院が少くて中小の病院が多いんですね。ところがその医療を担当する医療機関にはこれだけの全知全能をしぼった政府が、その使う元については、あなたのおっしゃるように野放しなんですね。何にもしてないんです。一体これはどういうことかということなんです。しかもそれは宮尾さんの方でもあまり検討もされておらぬということも、どうもおかしいと思うのですね。これは私は希望でございます。御答弁はいりませんが、これは積極的にやっていただかなければならぬと思うんです。私はこの前も言いましたが、製薬業に手をつければおそらく厚生大臣は三人ぐらい首だ、これを覚悟してやらなければ製薬はできませんぞと言ったんだが、だれも首をかけてやってくれる大臣はいないのです。これはやはりあなた方連合会が首をかけてでもやらなければいかぬ時代がきたと私は思うんです。それを一つお願いしておきたいと思います。これであなたには終ります。  その次は、毛利先生、お待たせして、お気の毒して済みませんが、さいぜん毛利先生から、この法案に対して私たちが多くの参考人や多くの人たちから伺った意見とは全く違った、貴重な意見をいただいて、私は非常に感謝をしておるのです。実は私もこの法律をもらってからすぐ読んでみた。ところがこの健康保険法等の一部を改正する法律案というのは、最近の日本の立法にない特異なケースをとっておるということを、私はしろうとなりに直感をしたのです。その私の直感が間違っていなかったということを、きょうの先生の御公述で知ることができて、実は意を強うしたのです。  そこで、さいぜん先生からあまり御説明をいただかなかった点について、少し御説明いただきたいと思うのです。それはこの四十三条を中心とするもろもろの条項と憲法との関係についてなんでございます。まず四十三条の十ですが、これを見ますと、「診療録其ノ他ノ帳簿書類ノ提出若ハ提示ヲ命ジ、」とあるのです。この提出を命ずるということは、私しろうとだからどうもわからぬので、刑事訴訟法をずっと読んでみました。ところが刑事訴訟法の九十九条の二項に、「裁判所は、差し押えるべき物を指定し、所有者、所持者又は保管者にその物の提出を命ずることができる。」という条項が偶然見つかったのです。そうすると刑事訴訟法の中の、そういう物件の所持者にその物の提出を命ずることができるという条項と、四十三条の十とは一体どういう関係になるかということなのでございます。ここに私まず一つの疑問がわいてきたのですが、その点の疑問を一つ御解明いただきたいと思うのです。
  52. 毛利与一

    毛利公述人 お答えさしていただきます。順序が少し悪うございますが、四十三条の十というのは、一番末項の後段に「同条第四項ノ規定ハ」――同条というのは九条であります。九条第四項の規定は「前二項ノ規定ニヨル権限ニ付之ヲ準用ス」とございます。御承知のように九条の末項は、つまり準用される規定は、「第一項及第二項ノ規定ニ依ル権限ハ犯罪捜査ノ為認メラレタルモノト解スルコトヲ得ズ」、この規定が準用されることになっております。これはあえてこの健保法の改正案に限りませんが、近ごろの立法にときたま見受ける言葉なんです。こういういろいろな立ち入りとか、提出とか、質問とかしますことを規定した法律のあとには必ず、これは犯罪捜査のためのものと解釈してはいかぬということがついておるのです。これは厚生年金保険法にもございますようですし、鉱業法にもございますし、その他ちょっと私の気のついたものがまだ一、二ございますが、この規定が一体よくわからない規定でございまして、「犯罪捜査ノ為認メラレタルモノト解スルコトヲ得ズ」といいましたところが、これはどういう趣旨かわかりませんが、これを利用して犯罪の捜査をしてはいかぬということだろうと思うのです。しかしそんなことをいうてみましても、先ほどもお言葉にありましたが、刑事訴訟法によりますと、二百三十九条の第二項でございますが、「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。」ということがございます。そういたしますと、この権限は犯罪の捜査のために利用してはいかぬという御注意が法律上あっても、実際においてそういう立ち入り質問等をやりました結果、そこに犯罪を疑うに足る資料が出て参りましたら、これはお役人でありますから、そのお役人は必ず義務として告発しなければならぬ。目こぼしはできないのです。目こぼしすることは役人としての義務に反するわけなんです。必ず告発しなければならぬ。そういたしますと、この権限は「犯罪捜査ノ為認メラレタルモノト解スルコトヲ得ズ」というようなことを法律に書いてみたところが、実際において犯罪捜査のために行われるのですから、この「解スルコトヲ得ズ」という規定はどうも語るに落ちているような工合で、結局これが少くとも犯罪捜査になる場合があるということを何か語るに落ちて認めているような感じがいたします。そうであってみますと、これは大へん憲法のことを言っておこがましゅうございますが、憲法三十五条でございますか、先ほどお言葉がございましたように、たとえば物件の提示を命ずる、それはつまり犯罪の捜査のために物件の提示を命ずるのでございましたら、これは仰せのように刑事訴訟法九十九条二項に規定いたしておりますところの犯罪捜査による差し押えであります。そうしますと、これは憲法三十五条によりまして裁判官の令状が要るわけなんであります。これは厚生大臣や知事の部下の行政官吏が勝手にやることは憲法の許さぬことなんでございます。でございますから最高の憲法上の問題があるということに考えておるわけでございます。そう申し上げると、それはほかの法律にも先ほど申し上げたようにちょいちょいそういう規定をしておるじゃないかというような反駁もあるかもわかりませんが、それは幾らこういうものをほかの法律にちょいちょいきめておりましても、どうもちょっと筋が通らぬことで、「犯罪捜査ノ為認メラレタルモノト解スルコトヲ得ズ」といいながら、一方においては告発義務を課しているのですから、結局犯罪捜査なんです。それならもうはっきりと、こういうものは憲法に反するからやめるか、それともどうしてもやらなければならぬというのであれば――こういう法律を設けることは大へん好ましくないことですけれども、どうしてもやらなければならぬのならいっそ国税犯則取締法ですか、それから関税法等の法律が収税官吏あるいは税関職員の臨検、捜索、差し押えをするということについては、裁判官の許可状が要るという、これは筋の通った法律でございます。それと同じように、これは非常に好ましくないことですが、どうしてもこういうことをする必要があるとしましたら、はっきりと裁判官の許可状が要るということにしなければ憲法上工合が悪い、こう私は考えておるのでございます。
  53. 滝井義高

    ○滝井委員 よくわかりました。  その次は、やはり同じような疑問でございますが、四十三条の十のところに、開設者もしくは管理者保険医保険薬剤師その他の従業者に対し出頭を求めることができる、こういうことがあるのです。そうして出頭に応じないときは四十三条の十二の五、それから四十三条の十三の二ですか、それによって医療機関指定取り消し、それから保険医登録取り消しということになると思うのです。そうすると、これはやはり逮捕状がなければ出頭を強制されないという憲法三十三条との問題が同じような意味で出てくるという感じがするのです。これはもう出てこなければお前は保険医はやめさせるぞ、機関指定は取り消すぞ、こういうことになれば泣き泣き牛に引かれて善光寺参りではありませんが、出てこなければならねことになってしまうのです。これは逮捕状がなくても出ていくことと同じ結果になってくると思うのですが、この点の御説明をいただきたいと思います。
  54. 毛利与一

    毛利公述人 「出頭ヲ求メ」ということは、犯罪捜査の場合でもこういうことはないのでございまして、刑事訴訟法の百九十八条でございますか、これによりましても、検察官あるいは司法警察職員は被疑者あるいは参考人の出頭を求めて取調べができますが、出頭を拒むことができるということが特に書いてございます。そうして出頭をしてもなお途中で自由に退去してもいいという規定がございます。ですから犯罪捜査といえども逮捕しない限り出頭の強制というものはないわけなんです。これは犯罪捜査以上のことをこの法律規定しておると私ども考えておるわけでございます。
  55. 滝井義高

    ○滝井委員 やはり同じようなことですが、昨日も出たのですけれども、四十三条の十に「当該職員ヲシテ関係者ニ対シ質問ヲ為シ」とあり、この質問に答えなかったときは、やはり四十三条の十二の五、それから四十三条の十三の二で医療機関指定取り消し、それから保険医登録取り消しになるのです。これは私いろいろ勉強してみたのですが、どうも憲法三十八条を見ると、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」、こう書いてある。いろいろ憲法の本を見てみますと、これは刑事手続だけに適用するのだという説が大体圧倒的なようであります。ところがだんだん見ておりますと、佐藤さんの本か何かには、これは刑事手続だけではなく、行政手続においても当然考慮されなければならぬ。なぜかといえば、行政手続と刑事手続に適用しないとするならば、非常に均衡を失するのだという意見が書いてあるのです。そうして、しかも何人もと、こう書いてあるので、しろうと考えでは、刑事手続における被告人とか証人とかいうものではなくて、いわゆる善良な一般人にもこれは適用できるのじゃないかという感じがしてならないのです。ところがどうも普通の小さな本を見ると刑事手続だけになっている。しかも日本の憲法は何かアメリカの憲法をまねしたので、法源がアメリカの憲法にあるからというようなむちゃなことを書いている本もあるのです。しかし現実に日本の憲法に「何人も」と書いてある限り、療養担当者もその一何人もの中に当然入って、質問をしなかったからといって首切りにあうのはどうも納得がいかない。そこでそういうものが何かあるかと思っていろいろ調べてみた。ところがそれと同じような規定が所得税法にあるようです、それから労働基準法にもあるようです、失業保険法にもあるようです、統計法にもあるようであります。ところがそういう場合とこれとはどうもちょっと意味が違うような感じがして仕方がないのですが、この点に対する先生の御見解を伺いたい。
  56. 毛利与一

    毛利公述人 ちょっとお答えさせていただく前に一言だけ言わせていただきたいのでありますが、ただいま四十三条の十は、医療機関についてはその指定取り消し保険医についてはその登録の取消しをもって威嚇されておるというお説でございましたが、これはその通りでございまして、なおこれは九条の二で同時に刑罰をもっても威嚇されておるように思うのであります。私この九条の二と四十三条の十とがどう違うのか、これは私ども実際の知識がないためかも存じませんが、適用の場面の区別がよくわからない。そうするとお説のように質問は取消しをもって強制されておるのみならず、場合によっては刑罰をもっても強制されておるのじゃないか、こう考えられるわけであります。これは国会で御審議をいただきますときに、九条の二と四十三条の十とはどう違って適用されるのか、この両者の適用の限界を明らかにしていただきますと大へんけっこうなのでございます。かりに今九条の二の刑罰の威嚇がないといたしまして取消しの威嚇だけであるといたしましたところが、お説のように質問を強制するということ、質問をさすのに間接強制するということは、結局憲法三十八条第一項の不利益強制であることは間違いないと存じます。で、ただいまお言葉の中にこれは刑事手続だけに適用されるので、行政手続には適用がないということは憲法上の通説であるかのようなお言葉がありましたが、私の聞き違いかも存じませんが、これはそういうことは私はないと思うのであります。大体どの憲法学者でも、これは結局刑事手続だと言ってみても、被告人、被疑者という名前のついた人を調べるときだけが刑事手続なんです。ところが実際は所得税とか何とかり都合で、納税者として調べられても、あるいは今の当該の場合に医者として調べられても、調べられておる者が、何かそこに材料が出ましたらやはり告発されるのですから、刑事手続に対する移行可能性というものが十分にあるわけであります。だからその移行可能性のあるものについては、もちろん憲法三十八条の保障があるわけでございますが、それが気になりますから先ほど来ちょっと申し上げたようにこの法律では、「権限ハ犯罪捜査ノ為認メラレタルモノト解スルコトヲ得ズ」という苦悶があるわけでございます、これは立法者の苦悶でございます。そういう筋の通らぬ苦悶でございますが、苦悶の表現があるわけでございます。でありますからこれはお言葉にもございましたが、所得税法とか労働基準法なんかにありますような場合よりは、よほど犯罪の捜査に移行しやすい、その可能性が非常に顕著であるということを立法者は認めて、それで今の「犯罪捜査ノ為認メラレタルモノト解スルコトヲ得ズ」というように文字の上で調節をはかっていらっしゃるのだと思うのであります。ですからこれは憲法上非常に問題になる点であり、普通の労働基準法なり、統計法の場合の規定より以上に問題になる規定かと私は存じておるわけでございます。
  57. 滝井義高

    ○滝井委員 もう一つ、四十三条の十の二ですが、「又ハ検査ヲ為スニ付必要アルトキハ当該職員ハ保険医療機関ハ保険薬局ノ施設ニ立入ルコトヲ得」となっておるわけであります。この保険医療機関の施設というものは、個人の開業医なんかの場合は施設と住居とが一緒なんです。そうしますと、住居という考え方に立つと明らに憲法三十五条にあるように、住居に入っていってする場合には裁判官の令状がなければならぬことになると思うのです。現在の日本の小さい医療機関はほとんど施設も住居も一緒なので、施設というのは住居と同じだ。たとえばアパートなどでも、アパートの一室は住居かという認定があるようであります。こういう点から考えても、どうもこれは憲法三十五条との関連が問題になるような感じがするのですが、この点に対する見解を伺いたい。
  58. 毛利与一

    毛利公述人 質問または検査のための立ち入りということでございますが、この検査はどういうことですか、医療機関の設備とか「診療録、帳簿書類其ノ他ノ物件ノ検査」とありますが、これは犯罪捜査でもなおできない検査を認めていることになるのであります。犯罪捜査は御承知のように捜索令状、差し押え令状に、どういうものを差し押えるどういうものを捜索すると、物件を特定するわけです。何か材料になりそうなそこらのものをみな捜索するという、そんな横着な規定は犯罪捜査にもないわけであります。ところがこれは無条件に検査すると書いてありまして、何でも非違を糾弾する材料になるようなものは家の中をそこら中かき回して持って帰ったり、ひっくり返して見られるようなことになっておるようでございますが、犯罪捜査でもそういうことはできない。憲法三十五条もやはり特定した物件でなければ差し押えができないようになっておりますので、犯罪捜査にも令状があってもなおできないことを規定しておるわけでございますから、これはお考えいただきたいと存じます。  その次に質問または検査をなすため住居に立ち入るということでございますが、この住居はもちろん人の私生活を営むところの中心の場所というのが普通でございます。旅館の一室なんかも住居であるというふうに解されておりますし、店舗でもその店舗へ入るということは物を買いに入るならかまいませんけれども、ゆすり、かたりに入るわけにはいかぬのですし、またその他お客さんとして物を買うため以外のいろんな理由で入れば、やはり店舗に入っても侵入になるわけです。その点において店舗も住居なのでございますから、医療機関というのは明らかに住居であるということは間違いない。でございますから、そこに踏み込むのはこれはとにかくだれか他人を逮捕したりする逮捕令状とかあるいは押収、捜索の裁判官の令状がなければできないということですから、こういう規定が不当であることははっきりいたしておるのであります。  一口つけ加えさしていただきたいと思いますことは、どうも日本では住居というようなことが軽々しく取り扱われておりますのは、憲法の保障する権利が、過去幾多の試練に耐え、人類多年の努力の結果獲得した成果であるということを憲法に書いてありますけれども、実際日本は住居に対して過去幾多の試練にあまり耐えておらぬ。だからこの住居の自由というものを保障するために長い努力を費して、長い歴史をもって苦闘してきて、そうして住居の自由を獲得したイギリスなんかと比べますと、日本では非常に法律の吃水が浅いのです。ただ憲法規定があるからというようなことで、憲法々々と申しますと、何か憲法法律書生の理論のような印象を与えます。というのは、やはりそういう住居の自由に歴史り厚みがないというようなことが非常に重要な問題であるのでございます。憲法にその権利が幾多の試練に耐えと書いてあるのでございますから、これからやはりわれわれは幾多の試錬をしていかなければならない。住居の自由ということは、人生におけるほんとうの生きがいはそこにあるわけであります。住居をいつ踏みにじられるかわからぬということは、人間の生きがいが全然なくなるわけであります。ですからこれは非常に大切なことでございますので、特に憲法との関係におきましていろいろ御審議いただいたら、国民全体にとって幸福であると思うのであります。
  59. 滝井義高

    ○滝井委員 それから一番初めに御陳述をいただいたときにあったのですが、それは請求につき不正ありたるときということなのでございます。これは今までの監査要項では故意または重大なる過失ということがあったことは私もよく存じておるのですが、今までの状態を見てみると昨日も日本医師会の古畑氏から陣述があったのですが、ある人が請求書を出した、そして投薬を二十六日分やった、それを二十四日か何かにつけ間違えて出したところが厚生省のある技官が監査に行って、それはむしろ少く出しておるわけなんですが、少く出しておるのをこれはけしからぬ、これは事故であるということで監査の対象にした。ほかになかったものだからまあそういうことでやっておったという、名前まで言えるのだという御発言があったのです。私もこういうことを知っているのですが、ある医師が初診料をとっていなかった、払わないからもらっていなかったわけなんです。ところが初診料医者がとらぬということは、お前は、おれのうちは健康保険初診料だけはとらないのだという宣伝啓蒙をやって、患者に対する宣伝策にしておるのだということを言われた例があるのです。これは「不正アリタルトキ」ということになれば、今言ったように過失による不正という、いわゆる正しくないという意味になるのでしょうが、そういうことがあり得ると思うのですね。この点はどうも私も今までの監査でやっていけるんじゃないかという感じがしてならないのですが、もう一ぺんその点を御説明いただきたいと思います。
  60. 毛利与一

    毛利公述人 御承知のように現在監査要項にございます故意または重大な過失というのに、やはり法律ではっきり規定がないと、不正ということはとにかく客観的に間違いがあるということに解される危険が非常にございます。これではお医者さんの方がたまらぬと思う。ですからこれはそういう意味の不正というようなことでないということを法律の字句にはっきりさしていただかなければならないと思います。これは非常に正確を尊ぶ裁判所の判決でも書き間違いということはあるのです。その書き間違い、書損というものは当然含まれてない問題じゃないかと思います。その点は立法上はっきりした規定を設けていただきたいと思います。
  61. 滝井義高

    ○滝井委員 これで終りました。――最後にちょっと宮尾さんにお尋ねしておきたいのですが、現在健康保険組合では診療台帳と申しますか療養台帳と申しますか、たとえば私なら私が宮尾先生のところで治療を受けますと、そり治療の結果を書いた診療報酬の請求書が出てくるわけなんです。そうするとそれを滝井義高という患者のところに何月何日から何月何日まで何病でかかったということを組合は台帳に記載されておるということを聞いておる。ところが政府管掌ではどうもそれをやっていないということを聞いておるのです。そういうことに非常に経験のある、ある人の御意見を伺いましたら、こういうめんどうくさい立法をやらなくても、政府管掌の健康保険で、社会保険の出張所ごとに診療報酬の請求書が回ってくるから、それを診療台帳に綿密に記帳さえすれば不正というものは一挙に防げるのだ、こういうことを示唆してくれた人が実はおるのです。というのはどうしてかというと、たとえば、私が盲腸でAという医者にかかって盲腸を切ってもらいます。それから三カ月してからBという医者に滝井義高がまた盲腸の手術をしたという不正な請求があっても、台帳にそれが記入されておれば一挙に見つけることができる。ところが現在の政府管掌では何でもそれをやっていないということをいっているので見つけることができません。何千何万という中から私が盲腸を一ぺん切って三カ月後もう一ぺん盲腸を手術したということを見つけることができない。健康保険組合ではそういうことをやっているということなんですが、私はこういうめんどくさいことをやらなくてもそれだけの官吏をふやして予算をふやしてやれば、それで不正というものはけっこう防げる、そういうことをやれば医者にも疑いをかけなくて済む。また患者のところへ当該官吏がいって調べるときは深刻です。私見たことがありますが、判をとりましてお前は何月何日に何本どんな注射をしてもらったか、それは静脈注射であるか皮下注射であるか、薬はどんな色の薬であったか。そのときはお金を幾ら持って医者にいっておったかということまで調べる。そうすると患者さんはどうもわからなくなってしまう。長い患者になると何本してもらったか覚えがない、医者も覚えがない。ところがその不確実な記憶で、十本してもらったのを十二本してもらったということで判を押しますと、今度それが医者にいって、お前は大体何本してやったのか、診療録を見ると十本しかないのに患者の記憶違いで十二本ということになると、これは水かけ論になってしまうわけです。そういうことで医者に疑いをかけるという例が実に多いのです。それをそのときそのとき診療録できちっとしておいてこれはどうもおかしいと思ったら、さっと患者を呼ぶなり医者を呼んで調べればすぐわかる。こうすれば非常に手間が省けてそうして能率的で、不正が省けると思うのですが、これについて組合の方ではそういう御経験があるということをお聞きいたしておりますので、その点について最後にお聞きをして私の質問を終りたいと思います。
  62. 宮尾武男

    ○宮尾公述人 ただいまお話のようなことをやっております。組合では被保険者台帳というものがありまして、請求書が回って参りますと、被保険者台帳をつけております。宮尾何がしはいつ幾日どこどこで手術を受けたということが書いてございまして、そういうことから間違い等を発見する場合なども多々あります。ただ政府の方では、昔はやっておったのでありますが、大手町に庁舎がありましたときに火事で焼けて、それからもう台帳をつけないようになって、そういう事実で、今でも  つけておらないようであります。私どもはそういう管理面をもう少し総合して行き届いた形をとれば、過剰診療も架空診療も防げるしあるいは適正な審査もできるんじゃないか。今のように水増しをしあるいは過剰診療を受け、その請求書がほとんどそのまま無審査で通ってしまうというな状態は、これは放置しておくことはできない。そういういろいろな――わが田に水を引くようでございますけれども健康保険組合ではやはり事業所に併設されているという関係やなんかで、管理面の方は人数の関係もありますが、目が届かぬということで、健康保険組合の方から、こういうことがあるから一つ医者の監査をしてくれというような要求をしたことは少いようであります。ひとりでに自分自身でそういうものを発見したときには、自発的にそういう誤まりを正してもらって、医師と相談をしてやったり何かするような事態を大体続けております。それで私どもは先ほども申し上げましたように、今の状態をそのまま放置しておくことはできないので、総合的なそういう管理を強化していくということの一環として、今のような保険医の調査とか監査というような規定を設けることもやむを得ないのではないかというふうに考えておるのであります。
  63. 滝井義高

    ○滝井委員 それをやった御経験からそれには相当経費がかかるものでしょうか。台帳を作って診療報酬の請求を記入するのに、全国の政府管掌の分だけをやるとしましても、莫大な金がかかるものでしょうか、それとも三億か五億でできるものなんでしょうか。
  64. 宮尾武男

    ○宮尾公述人 前にやっておったことがあるのですからやろうと思えばできないことはないと思います。私はそう莫大な金はかからないと思います。しかし人はいると思います。
  65. 佐々木秀世

    佐々木委員長 公述人方々には長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。  明後十九日午前十時より委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。     午後二時十分散会