○
東谷会計検査院長 昭和二十九
年度決算検査報告につきまして、その
概要を
説明いたします。
昭和二十九
年度歳入歳出決算は、三十年十一月十日内閣から送付を受け、その
検査を了しまして
昭和二十九
年度決算検査報告とともに三十年十二月十四日内閣に回付いたしたのであります。
昭和二十九
年度の
一般会計及び
特別会計の
決算額は、先ほど
大蔵政務次官から
説明された通りでありまするが、各会計間の重複額及び前
年度剰余金繰越額などを控除いたしまして、
歳入歳出の純計額を概算いたしますと、
歳入二兆百四十七億円、
歳出二兆四十七億円となりまして、前
年度に比べますと
歳入において三百六十億、
歳出において八百八十二億円の
増加となっております。
なお、二十九
年度におきましては、国税
収入に関する
経理の合理化と
過誤納金の
還付金等の
支払いに関する事務処理の円滑化をはかるため、
国税収納金整理資金が現金扱いとして初めて設置されまして、その受払額は収納済額八千七十五億余万円、支払命令済額と
歳入組入額の合計八千六十三億余万円でございます。
政府関係機関の
昭和二十九
年度決算額の総計は、
収入八千四百四十六億余万円、
支出七千百二十億余万円でございまして、前
年度に比べますと
収入において七百五十五億余万円、
支出において千九十四億余万円の
増加となっております。
ただいま申し上げました国の会計及び
政府関係機関の会計の
決算額のうち、
会計検査院においてまだ
検査が済んでいないものは総計百十九億七千三百余万円でありまして、そのおもなものは、総理府の
保安庁施設費で概算払いの精算未了のものなどが二十二億二千九百余万円、
建設省の
安全保障諸費で前金払いの精算未了のものなどが十二億二百余万円、農林省の開拓事業費でなお調査中のものが八億八千九百余万円などであります。
会計
検査の結果、
経理上不当と認めた事項及び
是正させた事項として、
検査報告に記述いたしました件数は合計二千二百四十六件に上っております。また、このほかにも
経理上妥当と認めがたいものとして、それぞれの
関係責任者に対し警告を発し改善を促した事項も多数あります。
二十九
年度の
不当事項および
是正させた事項の件数は、二十八
年度に比べますと、租税、補助金などで多少の
減少を示しているのでございますが、反面、特に、農業共済保険事業の
運営、都道府県に委託して実施させた開墾、干拓等の事業の部面などで
増加しておりますため、結局二十八
年度の二千二百三十二件をなお上回っておるのでございます。
今この二千二百四十六件について不当
経理の態様別の
金額を概計いたしますと、不正行為による被害
金額が六千余万円、法令または
予算に違反して
経理したものが七億六千七百余万円、検収不良などのため過渡しとなっているものが八千四百余万円、補助金で交付額が適正を欠いているため返納または減額を要するものなどが十一億五百余万円、災害復旧事業に対する早期
検査の結果主務省において査定額を減額し、ひいて補助金の減額を要するものが十五億四千余万円、
歳入などで徴収
決定が漏れていたり、その
決定額が正当額をこえていたものが四億六千七百余万円、工事請負代金、物件購入代金などが高価に過ぎましたり、または物件売り渡し代金などが低価に過ぎたと認めたものの
差額分が五億四千九百余万円、不適格品または不急
不用の物件の購入など
経費が効率的に使用されず、いわゆる死に金を使ったと認めたものが二十三億四千二百余万円、その他が四億二千六百余万円、総額七十三億四千四百余万円に上っております。
二十九
年度は、二十八
年度の百四十八億千四百余万円に比べますと七十四億六千九百余万円の
減少となっております。これは主として法令または
予算に違反しているもので五億六千三百余万円、不適格品または不急
不用の物件の購入など
経費が効率的に使用されていないもので四億六千余万円の
増加となっておりますが、他方災害復旧事業に対する早期
検査の結果により補助金の減額を要するもので八十四億八千四百余万円の
減少となっているためでございます。
しかしながら、
国民の租税をおもな
財源とする国および
政府関係機関などの会計におきまして、なおこのように不当な
経理の多いことは、はなはだ遺憾にたえない次第でありまして、
会計検査院としては不当
経理の発生する根線をふさぐことに
努力を傾けている次第でございます。
検査の結果の概況は、未収金、
予算経理、工事、物件、役務、補助金、不正行為の各項目に分けて
検査報告に記述してございますが、これらのうち会計
経理を適正に
執行するについて特に留意を要する事態として、未収金、
予算の
効率的使用、補助金の態様別にその
概要を
説明いたします。
まず、未収金について申し述べます。
一般会計の二十九
年度の収納未済額は百五十四億余万円で、前
年度の五百四十三億余万円に比べて著しく
減少しておりますが、これは二十九
年度から
国税収納金整理資金が設けられ、租税
収入の収納未済額が
歳入歳出決算に計上されなくなったためであります。従って、
国税収納金整理資金の収納未済額三百六十三億余万円を加算しますと、収納未済額は五百十八億余万円で、その徴収
決定済み額に対する割合は四%に当りまして、前
年度の四・二%に比べてやや好転しております。この
一般会計及び
国税収納金整理資金の収納未済額に
特別会計の収納未済額二百四億余万円を合せますと、収納未済額は七百二十三億余万円に上りますが、そのうちおもなものは租税
収入の三百六十三億余万円、公共事業費分担金の百十九億余万円、厚生保険保険料
収入の三十六億余万円であります。これら当
年度分の収納未済額のほかに
既往年度分の収納未済額並びにまだ徴収
決定をしていないものがあるのであります。これらの収納未済額については、その徴収の促進についてなお
一段の
努力の要があると認められます。
次に、
予算の
効率的使用について
説明いたします。
経費が効率的に使用されないため不経済な結果となったと認められる事例は、工事の施行や物件の調達などにつきまして、防衛庁、
日本電信電話公社を初め多数見受けられますが、このような事例が毎年繰り返されることはまことに遺憾であります。
まず工事について見ますと、
予算を総花的に配分して工事を施行するために全体として完成が遅れ、
経費の使用効果が上らないばかりでなく、手戻り工事をきたして結局不経済な結果を招いたり、工事計画がずさんなため必要規模をこえて過大な工事を施行し、遊休施設を擁する結果となったり、工事の施行に先だって当然行うべき現地の調査を怠ったためその目的を達することができなかったものなどがあります。また物件についてみますと、使用場所や用途などに照らし規格が適切であるかどうかの検討が不十分であったため、使用してもほとんどその効果のないものがあったり、相当量の購入品が使用されないままとなっていたり、所要見込み量や在庫量の把握が十分でなかったため過大調達となって、退蔵または遊休化などの不経済な結果をきたしているものなどがあります。
これら工事や物件について
予算執行の跡を見ますと、契約価格の基準となる
予定価格の作成に当りまして、工事や物件の実態把握や所要
経費の検討、市場価格の調査が不十分なため過大な積算を行い、ひいて工事費を増大させたり、物件を高価に購入する結果をきたした事例なども相当見受けられます。よって
予算の
効率的使用については特に留意を要するものと認められます。
最後に、補助金について申し上げます。補助金の
経理が適正を欠いたものとして
検査報告に掲載しましたものは総計二十六億四千六百余万円でありまして、二十八
年度の百十一億九千三百余万円に比べますと八十五億四千七百余万円の
減少となっておりますが、これは災害復旧事業費の早期
検査にかかるもので八十四億八千四百余万円の激減を示したことによるものでありまして、この分を除きますと、補助金の批難
金額は前
年度とほぼ同額となり、その
金額は十一億五百余万円となっております。
これら補助金のうち公共事業
関係のものの
経理につきましては、事業主体が補助の対象となる事業費を過大に積算して査定を受けたり、
設計通りの工事を施行しなかったり、または災害に便乗して改良工事を施行したりしているなどの事例がきわめて多く、はなはだしいのは架空の申請をしたり二重の査定を受けたりして補助金の交付を受けているものもございます。これら不当
経理につきましては二十七、二十八両
年度の
検査報告において特に多数
指摘したところでありますが、二十九
年度におきましても、一部に相当改善の跡が見られるとはいえ、依然としてきわめて多数見受けられるのははなはだ遺憾にたえないのであります。
なお、災害復旧事業の補助金につきましては、工事完成後の
検査では
是正が困難な場合が多く、むしろ工事完成前早期に
検査することが効果的であると考えられますので、本
年度も農林、
建設、運輸各省所管の二十八、二十九年発生災害復旧事業につきまして、早期
検査を行いましたところ、前
年度に比べまして著しく改善されては参りましたが、採択された工事のうちには前
年度と同様に
関係各省間等で二重に査定しているもの、災害に便乗して改良工事を施行しようとしているもの、現地の確認が不十分なため
設計額を過大に見込んでいるものなどについて多数
指摘することとなりました。これらの査定済み事業費は、
会計検査院の注意により減額の処置がとられましたが、その結果、補助金において節減されたものは十五億四千余万円に上っております。
公共事業
関係以外の補助金は、その費目も農林省所管のものを初め各種各様でありますが、それらの
経理について一般的に申し上げますと、補助金の全部または一部が事業施行者に交付されることなく市町村などでその目的と異なる使途に使用されているもの、補助の目的に沿わない方法で配分されているもの、あるいは実際に要した費用に基かない不実の
経理をしているものなど不当な事例が多く見受けられます。また、交付される補助
金額が零細なため配分が困難となり、ひいて補助の効果が上らなくなっているものなども少くありません。
このように多数発見されました補助金の不当
経理は、従来もしばしば
指摘しておりますように、補助金を交付する各省各庁におきまして事業の
内容や所要
経費を机上の査定によるなど、実情に適合しない
決定をしていること、事業
執行途上における監督、補助事業完了の確認や、精算が適確に行われていないことなどによるものであり、他方、補助金の交付を受ける事業主体の側におきましても、正当な自己
負担を回避しようとする根強い傾向があること、法令その他に定められた補助条件を誠実に遵守しようとする自覚を欠いていることなどに基因するものと認められます。補助金が効率的に使用されるためには、補助金交付の必要性や、計画実施の適否を適確に把握することが緊要でありますが、事業主体の財政能力や
事業遂行の技術能力についても十分な配意と指導とが必要でありますし、さらに、事業が確実に行われたかどうかを確認し、補助金交付に締めくくりをつけることもゆるがせにできないことであります。
また、災害復旧等の補助事業
検査の結果、
会計検査院が不当として
指摘し
昭和二十八
年度決算検査報告に掲記しましたものの
是正処置の状況について申し上げますと、補助金の返還が相当
遅延しておりますし、工事の手直しまたは補強を行うこととしたものの一部についてその実地を
検査しましたところ、
検査当時完全に工事を済ませておりましたものはその一部だけで、工事に着手していなかったものがかなりあったばかりでなく、中にはまだ工事に着手もしていないのに完成したこととしているものもあった状況でありまして、はなはだ遺憾な次第であります。
会計検査院におきましては、さきに
関係各省に改善の意見を表示したところでありまして、これに対して、各省および事業主体の一部については相当改善の跡が見受けられますが、なお
不当事項が跡を断たない状況でありますし、また、さきに補助金等に係る
予算の
執行の適正化に関する法律が制定されたところでもありますので、国家財政上重大な比率を占めている補助金についての
効率的使用を確保するために、主務省および
関係者におきましてはさらに一そうの
努力が望まれるところでございます。
以上をもちまして
昭和二十九
年度決算検査報告の
概要説明を終ります。