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1956-05-26 第24回国会 衆議院 外務委員会 第51号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十一年五月二十六日(土曜日)    午前十一時七分開議  出席委員    委員長 前尾繁三郎君    理事 石坂  繁君 理事 北澤 直吉君    理事 須磨彌吉郎君 理事 高岡 大輔君    理事 山本 利壽君 理事 穗積 七郎君    理事 松本 七郎君       愛知 揆一君    植原悦二郎君       大橋 忠一君    菊池 義郎君       重政 誠之君    並木 芳雄君       福永 一臣君    福田 篤泰君       松田竹千代君    森下 國雄君       田中織之進君    戸叶 里子君       福田 昌子君    細迫 兼光君       森島 守人君    和田 博雄君  出席国務大臣         外 務 大 臣 重光  葵君         大 蔵 大 臣 一萬田尚登君         国 務 大 臣 高碕達之助君  出席政府委員         外務政務次官  森下 國雄君         外務事務官         (アジア局長) 中川  融君         外務事務官         (条約局長)  下田 武三君  委員外出席者         大蔵事務官         (主計官)   鳩山威一郎君         専  門  員 佐藤 敏人君     ――――――――――――― 五月二十五日  原水爆禁止措置に関する請願(神田博紹介)  (第二四二三号)  同(江崎真澄紹介)(第二四二四号)  米国難民救済法による移民割当拡大に関する請  願(池田清志紹介)(第二四二五号)  同(石坂繁君外一名紹介)(第二四二六号) の審査を本委員会に付託された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  日本国フィリピン共和国との間の賠償協定の  批准について承認を求めるの件(条約第一六  号)     ―――――――――――――
  2. 前尾繁三郎

    前尾委員長 これより会議を開きます。  日本国フィリピン共和国との間の賠償協定批准について承認を求めるの件を議題といたします。  質疑を許します。戸叶里子君。
  3. 戸叶里子

    ○戸叶委員 私はこの前高碕長官にいろいろ伺いましたが、まだふに落ちない点が二、三点ございますので、その点について具体的に御答弁を願いたいと思います。この賠償が非常に長引いたのは、いろいろとその中に問題があったと思うのでございますが、私どもは一応どういう点が問題であったかということはわかっておりますが、高崎長官が実際の交渉に、また調印に当られまして、そして一番お互いの意見の食い違った点、あるいは問題になった点、こういう点を具体的にお示し願いたいと思います。
  4. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 前からの意見の一致しなかった点、これは昭和二十六年以来津島さん等がやられたときのことは私詳しく存じませんが、昨年の五月にネリが参りまして以来の両方の意見食い違いについて今日までかかった、この点について御説明申し上げたいと存じます。  それは、初めネリが参りましたときの第一のわれわれが受け入れられないと思ったことは、二千万ドルを現金でくれろということを先方は非常に強く主張しておった。それから第二の点は、役務として三千万ドル程度でとめてくれろ、それ以上を五億五千万ドルの中に入れるということになれば、これは日本労働者が無数に来るから困る、この点は非常に強く主張しておったのであります。もっとも、金額を十億ドルにしろということも初めは言っておったのでありますが、これはだんだん縮まってきたわけでありまて、結局大体八億ドルということを向うは主張したのでありますが、それにつきましてわれわれは八億ドルはできないというようなことから、一億五千万ドルだけは借款にする、その借款条件等につきまして、先方相当日本政府責任――と申しますと、たとえばビルマに対してやっております借款につきましては、ある程度日本政府責任を持つということにもなっております。二百万ドルの分につきましては……。それと同じようなことを希望したのでありますが、これはできないということをはっきり断わったわけであります。  問題は多岐にわたっておりましたが、これを総括的に申しますと、現金役務金額は三千万ドルでとめたいということと、それから二億五千万ドルに対する政府責任を彼らは希望したわけでありますが、これはこちらとしてはその三つともいれられないわけでありまして、そういうことのためにかれこれ相当の期間、約一年にわたって時間を要したわけであります。
  5. 戸叶里子

    ○戸叶委員 大体私どももそういうふうには了承しておりますが、そこの問題点からきた結論というところにいろいろ問題があると思うのです。今おっしゃった内容に触れましては、あとから順を追うて御質問していきたいと思います。  第二に伺いたいことは、この前の委員会で私に高碕長官がお答えになりました中に、賠償を払うのには手切れ金という形じやなくて、むしろ結納金というつもりで支払うようにしたい、こうおっしゃいました。それならば日本経済の払い得る範囲内のものだけにとめて払えばいいのであって、それを日本経済を圧迫するような形で払って、さらに貿易拡大を望むという行き方は、少し結納金という意味と違うのではないか。たとえばフィリピンとしては、もし日本結納金というつもりで払うならば、貿易拡大などということはむしろ望まないで、日本戦争でひどい目にあわしたのだから、それに対する謝罪の意味で払ってよこせばいい、こういうふうに考えているのじゃないか、その点日本向うとの間に食い違いがありはしないか思うのですが、いかがでございましょう。
  6. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 先於希望は、おっしゃったごとく、まず日本戦争中に与えた損害について日本国政府はこれを弁償しろということは、もちろんその目的はありますが、同時に今おっしゃったごとく、相手方は貿易を望まないということは決してありませんで、できるだけ両国貿易拡大し、経済関係を密接にして、そして日本及びフィリピン両国のためになることを希望しておるわけでありますから、その点につきましては両国政府は一致した意見でございます。
  7. 戸叶里子

    ○戸叶委員 そうすると、この賠償を払って、そして向うにもよくこっちの方にもいいような貿易拡大を望んでいるんだ、こういうふうに了承しましたけれども、そうであるとするならば、私この間参考人の御意見を直接お聞きしなかったのですけれども鮎川さんの御意見を間接に聞きましたところが、もしも日本のためにも向うのためにもなるという賠償支払い方法考えるならば、今日政府考えておるような賠償内容でなくして、むしろもっと開発をするとか、あるいはそういったものに日本役務提供して、そしてそこから日本がまた得られるような、開発をした結果日本が得られるようなものに賠償内容の取りきめをすべきであった、ところがそういうふうなものは考えられておらないという御意見を吐かれたそうでございますけれども、今の高碕長官の御答弁のように、向うにもいいような、こっちにもいいような貿易拡大、そしてまたそれに伴っての賠償支払いということになりますと、鮎川さんの御意見にありますように、少しその目的を達せられないのではないか、こういうふうに考えますが、いかがでございましょう。
  8. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 私、参考人鮎川さんがおっしゃったことは直接承わりませんでしたが、ただいま戸叶先生のおっしゃったことから考えますと、現在における賠償も、御承知のごとく資本財をもってするということになりますから、資本財をもってするということは、先方の工業を開発資源開発するということに相なるわけであります。また一方二億五千万ドルの借款につきましても、資本財及び役務をもってするということに相なっておりますから、従いまして、この賠償の結果当然フィリピンにおける産業開発され、天然資源開発されるということは予期されることだと存じます。特に一億五千万ドルの借款につきましては、これは借款をいたします商社といたしますれば、借款と同時にやはりフィリピン産業開発し、それによって日本産業に影響するものをやりたがる、こういうことは当然だと存じます。鮎川さんの話は私直接承わりませんが、おそらくは私とその思想は一致していると存ずるわけであります。
  9. 戸叶里子

    ○戸叶委員 借款の方は別といたしましても、賠償そのもの実施する場合においても、むしろフィリピン開発事業日本が力を入れ、さらに日本がそれによって益するようなことを考えませんと、先ほどの高碕長官の御答弁趣旨に沿わないものだ、私はこう考えましたので質問したわけでございますが、それではフィリピン開発ということに対して、たとえばどういうふうな具体的な内容のものをお考えになっていらっしゃいますか。
  10. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 投資は別といたしまして、賠償資本財につきましては、フィリピン側使節団が参りました上において、その実施に当りまして、日本フィリピン両国がよく相談し合ってやるということになっておるわけであります。これはもう少し詳しく申し上げますと、フィリピンの中の一部分の意見では、そういった場合に、日本側フィリピンが要求するものをいやだと言ったと遂にどうなるだろうか、こういうふうなことで、フィリピン側でも心配しておった点がありますが、これは口頭をもっていろいろ弁明いたしたのでありますが、私は先般お答えいたしましたごとく、これは結納意味でやるのだから、両目ともいいということになってくればいいのだから、決して日本のためとか、またフィリピン、たけのためになるからといって、日本は阻止するということはしない、こう言ったわけでありますが、今細目についてどれとこれという御質問でございますが、これは先方使節団が参りまして、実行に入りましたと遂に、ただいまの御趣旨の点はよくわれわれ考慮いたしまして、それに応じたいと考えております。
  11. 戸叶里子

    ○戸叶委員 長官使節団が直接来たと遂にはそういうふうな点を考慮するという御発言でございましたので、一応その点はこの程度にいたしますが、先ごろの委員会で、私やはり経済開発に関する交換公文の問題に触れまして、たとえば合弁会社というようなものは取りきめられてあるかということに対して、今は取りきめてない、しかし実際上はそういうふうになるであろう、こういうことをおっしゃったわけですが、取りきめてございませんから、なるかならないかはわかりませんけれども、なった場合を想定いたしまして、私が聞くところによりますと、フィリピン憲法の十三条の中で、フィリピン天然資源を処分、採掘、開発、利用する会社は、その資本の六〇%がフィリピン国籍人の所有であると規定されている、こういうふうに了解しております。そうなりますと、日本人はその会社経営に参加もできなかったり、あるいはまた株の取得権というようなことにも相当な制限が加えられてくると思うのです。この点についてはどういうふうにお考えになりますか。こうした憲法の十三条の点も御存じであったでしょうか、そうしてまたそういう点は合弁会社になった場合に変えられるというようなお見通しをお持ちになっていらっしゃるのでしょうか、この点を伺いたいと思います。
  12. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 現在の情勢におきましては、先般お答えいたしましたごとく、フィリピン側としては外国が入って投資をするということは歓迎していない状態であるようでありまして、ただいま御指摘のごとく、フィリピン憲法におきましても、天然資源開発については、六〇%以上は自分の国で持たなければならぬことになっておることもよく存じておるわけでございます。しかし私どもは一商人として、産業人としてこの前途に見きわめをつけましたときに、これはそういう法律になっておるわけでありますが、実際の技術者というものは日本から相当行かなければ、これは実行に移されないというふうに洞察されるわけでございまして、そうすることがフィリピンのためにもよく、日本のためにもいいということになりますから、そういう意味から申しますれば、技術的にあるいは経営的に日本がある程度経営に参加し得る、こういうふうに私は解釈しておるわけであります。この点は非常にデリケートな問題で、今日本側がこういうふうなことをいろいろ議論するということは、フィリピンに対してあまりいい感じを与えないということを私はおそれておりますが、実際問題といたしますれば、これは私ども希望いたしておりますように実行に入り得ることだろうと存じておるわけであります。
  13. 戸叶里子

    ○戸叶委員 実際の運営の面において相当日本技術者が行かなければならないし、大ぜい必要とするから、だから会社経営などにも相当タッチできる、こういうふうな希望的観測をなすったわけでございますが、現実においてそうなり得るかどうかということは、まだそこに大きな疑問があるのじゃないかと思います。さらに株の取得というふうな問題につきましても、おそらく外資法なんかも日本に有利なようにはきまっていないのではないか。私その点よくわかりませんけれども日本人の株の取得というものも相当きらわれはしないかという点を心配いたします。この点のお見通しはいかがですか。
  14. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 まさにその通りでございまして、私はその通りの心配をしておるのであります。しかしそういう場合には日本商社はこれに契約をしないと私は思っています。契約をしなかった場合にはこの投資計画実施に移されないわけ、であります。実行にされないときにはやはり先方でも不利益だと考えるだろうと思いますから、先方がこれを実行に移して先方のためにも利益になるということになれば、そういう点は考慮さるべきものだろうと私は存じておるわけでございます。
  15. 戸叶里子

    ○戸叶委員 そうしますと、その場に直面いたしまして、実行に移されそうもないという場合に日本が手を引く、そうなるとおそらくフィリピン憲法の十三条の内容も変更されるであろう、こういうふうに了解してよろしいわけでございますか。
  16. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 先々のことにつきましてああだろうとかこうだろうとかいうことを想像して、私が責任者として御答弁申し上げることは、かえってフィリピンに対する感情としてよろしくないと存じますの、で、私の気持だけで一つ御了解願いたいと存じます。
  17. 戸叶里子

    ○戸叶委員 確かに外交上の問題でございますから、先々のことを想像してあれこれと言うことはできないかもしれませんけれども、そういうふうな甘い考え方で賠償協定を結ばれますと、やはりたくさん問題があとに残るのじゃないかと思います。そこでこういうような不合理なまた納得のいかない点を含んだ賠償協定に対して、私はどうも賛成できないわけなのです。ですから、こういう点をもう少し見通しなり話し合いなりで、具体的にお話しになっておいた方がよかったのじゃないかと考えるわけでございますけれども長官はできるかできないかわかないけれども、一応の希望だけを託して調印された、こういうふうに了承するよりしかたがないと思います。それでよろしゅうございますか。
  18. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 その通りでございまして、そういった場合に、日本として責任があったらできなかった場合に困る、だから、結局できなかった場合には、両国政府とも責任はない、最悪の場合はそうなっても両国政府責任がないということになっておるわけでありますから、この協定に調印したわけであります。
  19. 戸叶里子

    ○戸叶委員 次に借款に関する交換公文の二項に、「借款は、商業上の基礎により、かつ、両国関係法令に従って行われるものとする。」、こうありますけれども、わが国にあるこれに該当する法律というのはどういうものであるか、それからまたフィリピン側法令も私ども知っておく必要があると思いますけれども、どういうものであるか、その点承わりたい。
  20. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 その問題は少し専門にわたりますから、政府委員からお答えいたします。
  21. 中川融

    中川(融)政府委員 これは、現在すでにこの種の借款が行われます際には、外国為替に関する法令及び外資に関する法令に従ってやっておるのであります。またなお行政的ないろいろな法規もあるのでありまして、たとえば外資委員会にかけてきめるとか、大蔵省におきまして、これこれの形式に従ったものだけを認める、そういう規則があるわけでありまして、それらの規則が全部適用されるということでございます。  フィリピン側にはさしあたってのところ外資法というようなものはまだできておりません。従って行政的な規則によってこれが実施されておる状況であります。
  22. 戸叶里子

    ○戸叶委員 私あまり専門的な知識はないのですけれども、もしフィリピンの方に外資法がない、日本の方にはこれに該当する法律がたくさんある、そうした場合に、いろいろな不便、たとえば日本側にとって不利な不便を生じやしないかと思うのですが、いかがでしょう。
  23. 中川融

    中川(融)政府委員 仰せの通りフィリピンにおきまして統一的な法律がまだできていないということは、不便はあるのでありまして、これにつきましてはフィリピン側としてもできるだけ近い機会に外資の導入に関する基本的な法律を作りたいということを言っております。遠からずそのような措置がとられるものと考えております。
  24. 戸叶里子

    ○戸叶委員 こういう点にも私どもは何かしら一まつの不安を覚えざるを得ないわけなんでございます。  それから、第三項に「両政府は、借款提供を、関係法令範囲内で容易にし、かつ、促進するものとする。」というこの間からだいぶ問題になった言葉がございますけれども、これに当てはまるような法律、つまり、借款を容易にし、かつ促進するための法律日本に何がございますでしょうか。またフィリピンの方にはどうでしょうか。
  25. 中川融

    中川(融)政府委員 日本にありますこれに最も該当をいたします法律といたしましては、御承知のように日本輸出入銀行法によりまして輸出入銀行が設置されております。これによって日本から海外に投資あるいは借款等を行う際に政府の資金を利用し得るという道が開かれておるのでありまして、これが最も大きなこの容易化及び促進化に関連する日本法規であると考えております。  フィリピン側には、ただいま申しました通り外資に関する法律がございませんので、直接これに当てはまる現存の法律はないのでございます。
  26. 戸叶里子

    ○戸叶委員 そうしますと、もう少し具体的に言いますと、結局この借款提供をする場合に、日本からそれをする場合に輸出入銀行を利用するということを了解してよろいしいわけでございますか。
  27. 中川融

    中川(融)政府委員 最も大きな日本政府のとります容易化促進化措置は、輸出入銀行制度を利用することができるという点でありますが、それ以外にも行政的措置として、あるいはこういう制度があるということを周知徹底せしめるとか、あるいはこういう投資をしたいという希望者がある場合に、それにいろいろ知恵をかすとか、そういう実際上の措置はこのほかにもあるわけでございます。
  28. 戸叶里子

    ○戸叶委員 これは高碕長官に伺いたいのですが、何と申しましても賠償を支払うということになりますと、ある程度国民経済というものは圧迫されるわけですが、賠償支払いに要する金額というものは、あるいは社会保障予算を削られるとか、あるいは治山治水の方の予算を削られるとか、いろいろ考えられるわけだと思います。そこで日本はもうすでに防衛六ヵ年計画というようなものも立てられて、防衛費の増強ということも一応考えられているわけでございますが、私どもとしては当然この防衛費の方でも少し削らなければ非常に無理がいくのではないかと思いますけれども、いわゆる大砲もバターもそれから賠償もうまくいくという自信がおありになるかどうか、どこから一体予算を削ってきたら一番いいとお思いになるか、この点をお伺いいたします。
  29. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 経済五ヵ年計画におきましては、大体国民所得というものを基準に置きまして、その国民所得の何%ぐらいを防衛に使うか、何%ぐらいを社会施設に使うか、何%ぐらいを対外債務支払いに充てるかというようなことについて、いろいろ検討いたししておるわけでございまして、現在の対外債務支払い賠償問題等につきましては、国民所得の〇・六%ということを大体基準にいたしておりますわけで、現在の国民所得情勢から申しますと、その金額は大体三百六十億円、米金に直しまして一億ドルぐらいは、五ヵ年計画のうちは毎年支払っていっても、国民生活に大きな影響を来たさない、こういうふうに私ども考えておるわけでございます。
  30. 戸叶里子

    ○戸叶委員 大体一億ドルくらいというお言葉がございましたが、ビルマそれからフィリピンそれからアメリカに対しての対外債務、あるいはそのほかまたインドネシア、ヴェトナム、ラオス等から請求が来ました場合にも、一億ドル以内で支払いができるというふうに考えられるわけでございましょうか。
  31. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 大体の全体の対外債務の資料を差し上げたような工合で、これは将来のことでありますけれども、そういったふうなものをこのワク内で処理していきたい、こういうふうな考えでございます。
  32. 戸叶里子

    ○戸叶委員 その御希望のことはわかるのですけれども、ただまだインドネシアやほかの方がきまっておりませんものですから、それが加えられたと遂に、果してそれで済むかどうかということは、いろいろ疑問があるのではないかと思って伺ったわけでございます。  それから次にお伺いしたいことは、昨日愛知議員からもちょっと出た問題でございますが、たとえばビルマ賠償協定の第一条の二項には、「経済協力を容易にするため、あらゆる可能な措置を執るものとする。」こう書いてあり、それからタイ特別円協定の二条には、「日本国資本財及び日本人役務タイに供給することに同意する。」こういうふうに書いてございます。そしていずれも、ビルマの場合には措置をとりと書き、それからタイの場合には同意するというふうに書いてありまして、こうこうしなければならないというような義務規定は書いてございません。それにもかかわらずタイの場合の問題が起きたわけでございます。そこでビルマタイ借款並びに経済協力内容と、それから日本フィリピンとの間の借款交換公文に示された内容と、どういうふうに本質的に違っているかということを伺いたいと思います。それは私も、昨日愛知議員が御質問になりましたように、タイの例を見ましても、非常に今後またフィリピンとの間に問題が起きやしないかということを懸念するものですから、この際その内容の違いというものをはっきり承わっておきたいと思います。
  33. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 詳細の点につきましては政府委員から答弁いたしますが、概括的に申しまして、タイに対する特別円の問題ははっきりした借款であるわけなのであります。これにつきましては、私は日本政府としては相当強い責任があるとこう存じます。それからビルマに対しましても、ある程度日本政府ビルマ政府に対して投資をする責任がある、こういうふうなことに解釈いたしておりますが、フィリピンの場合におきましては、この二つの部分とは全然考えを異にいたしておりまして、どこまでも商業ベース投資していくということをやるべきである、従いまして両国政府に対しては何ら責任がない、こういうふうに私は解釈いたしております。なおビルマ及びタイに対する法律的の問題につきましては、政府委員から答弁いたさせます。
  34. 中川融

    中川(融)政府委員 ただいま御指摘になりましたような、今度のフィリピンの場合とそれからタイビルマの場合の経済協力の違いでありますが、御承知のようにこの三つの場合には若干の相違があるわけであります。協定上若干の相違が出てきております。一番強い形のものがタイ協定でありまして、これは協定文自体に「日本国は、両国間の経済協力のための措置として、合意される条件及び態様に従い、九十六億円を限度額とする投資及びクレディットの形式で、日本川の資本財及び日本人役務タイに供給することに同意する。」とありまして、九十六億円の限度では経済協力といたしまして、投資及びクレジイットの形ではありますが、日本国資本財及び日本人役務を供給するということを政府が約束しております。従いましてこの九十六億円の金額は何らかの形で供給されなければならないわけであります。これに反しましてビルマの場合は、一応毎年十八億円という金額はきまっておりますが、これが経済協力の形で提供されることにあらゆる可能な措置を講ずるということになっております。従ってあらゆる可能な措置を講じますけれども措置を講ずることが義務でありまして、講じた措置に基いて、果してそれだけの金額が民間から経済協力として提供されるやいなやという、その結果についてまでは義務はないわけであります。この意味タイの場合よりはビルマの場合は政府の義務は軽くねっております。今回のフィリピンの場合は、この交換公文にありますように、これを「容易にし、かつ、促進する」というだけでありまして、しかもこの金額が定める金額に達しない場合は、さらにどうするかということまで書いてあります。達しないことが当然予想されている前提のもとに書いてあるのであります。従って政府の義務は単に容易化促進化するだけであり、まして、しかも容易化促進化内容につきましては、現在行われている以上には出ないということがはっきり書いてあるわけでありまして、これは義務がほとんどないと申しても差しつかえないと思うのであります。このように三者の間にそれぞれ違いがあるわけであります。
  35. 戸叶里子

    ○戸叶委員 ビルマの場合はわかっておりますけれどもタイの場合にはそれは特別円日本が支払わなければならないということをお考えになっていらっしゃるわけでございますか。
  36. 中川融

    中川(融)政府委員 支払うのではないのでありまして、つまり日本経済協力が行われるということを約束しているわけであります。従って行われる態様は投資及びクレジィットとなるわけであります。
  37. 戸叶里子

    ○戸叶委員 わかりました。  それから交換公文の一項の加工賠償の問題でございますが、この加工賠償実施については、まだ取りきめていないというようなことをこの間の委員会でたしか御答弁になっているように思いますけれども、すでにこういう賠償協定ができておりながら、その実施内容考えずに約束されるということは、少し怠慢ではないかと思いますけれどもあとへ不安を残すのじゃないか、こう思いますが、この点はいかがでございますか。何かこういうことならできるという、そういった一つの見通しのもとにされるべきだと思ったのですが、いかがですか。
  38. 中川融

    中川(融)政府委員 協定できまりましたところといたしましては、ただいま御指摘になりましたように、これの現実の、実施方法については、細目については合同委員会の勧告に基いて両政府が別にきめるとなっておりまして、今のところきまっていないのでございます。しかし実際上大体考えられますことは、毎年の賠償実施計画を定めるに当りまして、この加工役務相当する金額、つまり毎年四百万ドルに相当する分につきましては、この加工役務によってやらなければいけませんから、どのような品物についてこれを行うか、またその行う際の加工役務相当する金額は、大体こういうものについてはどの程度にすべきであるかというようなことを打ち合せまして、その実施計画に基きまして、現実に加工役務賠償をその年間中に提供していくということになると思うのであります。従って大体のやり方はす、でにわかっておるわけでありますが、いろいろこれにはさらに詳細な数字等について検討する必要がありますの、で、その細目は合同委員会において協議する、かような規定になっておるわけであります。
  39. 戸叶里子

    ○戸叶委員 そうすると、合同委員会の中でどういうふうなことを取り上げるというようなことはすでに大体話し合いはついているわけでございますか。ただ発表はできないという状態でございますか。
  40. 中川融

    中川(融)政府委員 どういうものを取り上げるかということも合同委員会できめようと考えております。
  41. 戸叶里子

    ○戸叶委員 そうした場合に、この加工の賠償の場合の日本人の労務に対する補償というようなものが何か考えられておるわけでございますか。
  42. 中川融

    中川(融)政府委員 この加工役務に対する支払い日本政府賠償勘定から出すわけでありますから、従って日本政府が円によりまして、日本の労務者と申しますか、各加工役務提供いたしました人に円でもって支払うわけであります。
  43. 戸叶里子

    ○戸叶委員 第二項に役務賠償ということがございますが、これに該当するのは沈船引き揚げだけでございましょうか、そのほかに何もないのでございましょうか。  それからついででございますから聞きますが、この沈船引揚協定は大体総額何ドルくらいに見積っておられましょうか。
  44. 中川融

    中川(融)政府委員 この第二項に掲げました役務につきましては、相当いろいろなものが考えられるわけでありまして、沈船引き揚げももとよりそれでありますが、それ以外に日本人を使いましてフィリピンでいろいろ調査をするというようなこともございます。またフィリピンの留学生あるいは研修生を日本で教育するということもあるわけであります。またフィリピンにおきまして工場を作りましても、工場の運転等について日本技術者に来てもらって運転してもらいたいという場合には、やはりこの役務になるのでありまして、この役務にはできるだけ重点を注いでいきたいと考えております。  なお沈船引き揚げの費用でございますが、これは全体で六百万ドルになる予定でございます。これを三ヵ年に分けまして三十年度に十三億六千万円、三十一年度に十億円、三十二年度に四千万円を支出するという計算になっております。
  45. 戸叶里子

    ○戸叶委員 それから経済用発借款交換公文の四項の(b)のところに「商業上の基礎において正当と認められるところに応じ、返済の期間は長いものとし、利率は低いものとする。」こういうような条項がございます。普通の民間の商業上の基礎では、国の責任のものと比べると、期間も短かいし、利率も国のものよりも高い、こういうふうに考えますけれども、国の責任を持ったものと同じ程度のものがこの場合考えられているのではないかと思いますが、いかがでございましょうか。
  46. 中川融

    中川(融)政府委員 この規定に書いてある通りでありまして、商業上の基礎において正当と認められるところに応じて、つまり通常商談で行われる場合に正当と認められる限度内におきまして、期間はできるだけ長く、利率はできるだけ低いものにしようということがきまっておるだけでありして、必ずしもそれは国家間の借款と同じ利率とか期間になるということ、ではないのでありまして、商業上の場合に準じて、できるだけそういうことにしようということでございます。
  47. 戸叶里子

    ○戸叶委員 そうしますと、商業上の場合は国家間の場合よりも、結論からいえば有利、ではないということを言ってはおかしいですけれども、利率においても商業上の方が国家よりも高いし、期間の方も短かいと、こういうふうに考えられますけれども、その基礎に従って取りきめられる、こう了承してよろしいわけですか。
  48. 中川融

    中川(融)政府委員 国家間のものが果して商業上のものより常に有利であるかどうかという点については、あるいは例外もあろうかと思いますが、これは普通の商業上の借款の場合に準じて行うということでございます。
  49. 戸叶里子

    ○戸叶委員 普通考えられるのは、国家間の場合の方がやはり利率なども安いし、期間なども長いと私は思うわけでございますけれども、その点はいかがでございますか。
  50. 中川融

    中川(融)政府委員 原則としてそうだろうと思っております。
  51. 戸叶里子

    ○戸叶委員 もう一点伺いたいの、ですが、補償要求のことがどっかに一枚の紙に書いてございましたね。あれで個人財産について、戦時中、対日協力政権の駐日大使だったヴァルガス氏から、日本在勤中に日本銀行に預け入れた円預金の返還について、個人的に日本政府の意向を打診してきているとございましたが、これは大体どのくらいであったか、そしてまたどういうふうに政府としておやりになるお考えであるか、伺っておきたいと思います。
  52. 中川融

    中川(融)政府委員 それは参考資料として、要求に基きまして出しました資料の中に書いてあったものであるわけでありますが、それは金額はそう多くありません。的確な全額は覚えておりませんが、たしか三十万円か五十万円程度のものであったと思います。これは戦争中にヴァルガス大使がヴァルガス大使個人の名義で日本の銀行に預けておられたもので、銀行預金であります。従って当然これはヴァルガス氏にお返しするのが筋であろうと考えて、そういう措置をとるように目下手配いたしております。
  53. 前尾繁三郎

    前尾委員長 和田博雄君。
  54. 和田博雄

    ○和田委員 重光さんにちょっとお聞きしたいのですが、日比賠償の八億ドルという総額ですが、これはどういう基礎から出たのですか。その基礎は何ですか。日本支払い能力なのですか、それとも何かほかにあるのですか、はっきりしていませんので……。
  55. 重光葵

    ○重光国務大臣 それは内交渉の際に、向うが十億ドルを八億ドルにおろしてきた関係で、八億ドルという数字が出ました。向うの都合の数字のようでございまます。
  56. 和田博雄

    ○和田委員 そうすると、ただ政治的な交渉の都合によってきめたというだけであって、政府としてほかにはっきりとした基礎は何にもないのですか。
  57. 重光葵

    ○重光国務大臣 今申し上げます通り、それは向う希望の数字でございました。そこで、これはこちらでは受け入れられない数字でありますから、交渉が進んで参ったわけでございます。
  58. 和田博雄

    ○和田委員 しかし現実に民間借款を加えて一応総額八億ドルとなっておるのですから、日本側がそれを受けたとすれば、日本側としての考えもあったと思うのです。五億五千万ドルだけは引き受けられる、二億五千万ドルというものは完全なる民間借款の形において引き受けられるというけれども、五億五千万ドルについてははっきりした基礎があるわけですね。
  59. 重光葵

    ○重光国務大臣 これは昨日でしたか御説明申し上げました通り、こちらの方は実は最初は四億ドルという政事を出したのであります。ところが向うは八億ドルという数字を出した。そこで交渉でございますから、日本側も勉強してくれということで、ねじ合って交渉が進んだわけです。そして結局申し上げました通りに、五億ドル、それから五億五千万ドル。とうとう手打ちになった、こういういきさつを申し上げました。日本側としては、そういうところでまとめたい、こういう考え方で進んで参ったのでございます。
  60. 和田博雄

    ○和田委員 私はそのいきさつを聞いているのじゃないのです。政府が五億五千万ドルという賠償の全度の場合の本質をなしているものを引き受けたについては、やはりそこにはっきりとした政府側の考えがあると思うのですが、その考えを聞いているのです。それが日本の財政上からいって、あるいは経済上からいって支払い能力がある、またこういう形でできる、将来の賠償なんかの関係もこうだといったはっきりした基礎がなければ、ただ経過の上で五億五千万ドルに二億五千万ドル加えて総額八億ドルになったのだというのでは、説明にならぬと思うのです。その基礎を私は聞いているのですから、はっきりとお答えを願いたいと思います。
  61. 重光葵

    ○重光国務大臣 むろんそういうことにつきましては、こちらの考えも、その辺ならば支払い能力がある、こう考えて十分検討した上での交渉でございます。それは御想像にかたくありません。しかし御要求になるような詳細な説明は、一つ高碕さんにお願いいたします。その方が私よりもずっと……。(笑声)
  62. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 この問題が経済問題であるというので、大体その折衝は、重光外務大臣の責任におきまして私がこれを実行いたしたの、でありますが、私が折衝いたしましたこの出発の基礎は、やはり大野・ガルシア協定というものが存在しておったわけでありますから、この四億ドルということを賠償の中心に置いて考えたのであります。ところが先方は一億ドルを十年間に払うということが原則になっておる、これを主張してやまないのでありますが、そのただし書きの中に、一方側の都合により、これをさらに十年延期することが、できるということを書いてあったものでありますから、これは当然四億ドルを二十年に払うのだ、従って一年に二千ドル払うのだ。二千ドルが日本経済の建前からいって、ぎりぎりの結着であるということをいろいろ説明したのであります。けれども彼らはなかなか応じないのでありまして、どうしても八億ドルということを主張して譲らない。しからばここで四千万ドルずつ十年間、四億ドル払うということになれば、これはなかなか日本経済としては立ち行かないのでございまして、先ほども戸叶先生質問にお答えいたしました通りに、大体五ヵ年計画といたしまして、この五年の間は一年に一億ドルくらいが日本経済から申しましてせいぜいである。ビルマの方にすでに年に二千万ドル払わなければならない。今度はインドネシアにまたそれくらいの金を払うということを予想しなければならない。そのほかにタイ、ヴェトナム、対米の例のガリオアの支払い、これを入れますと、一年にフィリピンに対して四千万ドルは絶対に払えない、こういう数字が出たわけでありまして、いろいろ考えました結果、譲って二千五百万ドルをかりに払うとしても、この十年間は二千五百万ドル以上は払えない、こういうような結論が出て参りました。そこで四億ドルという数字を十年に払うということで一方にそろばんを持ち、一方に二千五百万ドルずつを長期に払うということにいたしますと、五分の複利計算でいたしますと、大体四億ドルを十年に払うのと五億ドルを二十年に払うのとでは同じ負担になるわけでありますから、まあ五億ドルくらいまではよかろうかと考えておったのでありますが、なかなかそれ、でも結着はつかないのであります。結局五千万ドルを増さぬかという。五千万ドルを増すということになれば、初めの十年間は日本は二千五百万ドルずつしか、できないが、十年たてば日本経済も今日よりはよくなる。これはよくしなければなりませんが、よくなったと遂には、一年に五百万ドルくらいふえても、この問題は早く解決した方がいい、こう存じました。結局五億五千万ドルで、初めの十年間は二千五百万ドル、あとの十年に三千万ドル払う、そういうことに相なりますと、これを四億ドルの十年というものと比較いたしますと、七分の複利計算にするととんとんになるわけであります。これは金を借りる方と貸す方は違いますから、この程度くらいならば、先方が腹、をきめてくくれればこれは応じてもいいだろう、こういうふうなことを昨年五月の結末になって考えたわけであります。従いまして、八億ドルと申しますけれども、一億五千万ドルは、政府としては予算措置を講ずるとか政府責任の全然のないものである、民間がこれが有利だと考えたときには投資するだろう、また投資するようにするよりしようがないということにいたしまして、一億五千万ドルは純然たる借款、五億五千万ドルは賠償ということで、先方希望通り約八億ドルという数字をうたったわけであります。それが交渉の経過であります。
  63. 穗積七郎

    穗積委員 私はこの問題についてまだ質問しておりませんからあとにいたしますが、重複を避ける意味で関連して質問したい。  四億ドルを十年間と向うは言い張る。その向うの言い張りをこっちが受け入れたことも問題なのであれは一方の希望によって二十年になっております。四億ドル二十年ということに大野・ガルシア協定はなっていたと思う。まあ百歩譲って今長官の言われるように四億ドル十年とする。それを今度は五億ドル二十年とすれば、金利を七分と見ると大体とんとんだ――これはあなたが実業家出身だから、さすがに頭の回りが早くて、とんとんと解釈すればそれも一理ある。なるほどちょっともっとものような話だが、これは商売の資本を借りた場合と、それから賠償支払いとを混同していらっしゃるのではないかというふうに思うのです。今度の別になっております開発のための金を貸すとか貸さぬとかいう話なら、これは利子がついた金ですから、どっちにしても、年七分が高い安いは別として、利子をつけて計算してみることも、一応もっともな立論の仕方だと思うのですが、賠償と利子のついた資本金の貸し借り、支払いとは、全然性質が違うと思うのです。あとで私はこまかく質問したいと思うが、この特別勘定の場合においても利子はつけぬということになっておる。この賠償金の支払いについては、利子は初めから全然問題にしていないのですよ。それを二十ヵ年間五億ドルで七分の利子をつけてみると、大体四億ドル十年の支払いととんとんとなるという御説明は、これは一億五千万ドルを増額する政府の説明としては、遺憾ながら脆弱だと思う。商売人同士の話なら別ですよ。また金の性質が賠償でなければ、今おっしゃったお話は、なるほどさすがに高碕さんの論理も、話は早いわいとこう感心するが、私は感心するわけにいかない。どうでございましょうか。その点はあなたは思い違いをなすったのじゃないでしょうか。政治家としての賠償金と商売人の金の借り貸しとを、ちょっと勘違いしているのじゃないかと思うのですが、いかがですか、率直に御所見を述べていただきたい。一億五千万ドルというのは大体五百億以上で、一口に言いますがなかなか大金でございます。ですからそう簡単に取り扱ってもらっては、国民としては迷惑です。もっと納得のいく説明でないと、一億五千万ドルをふやしたことに対して、われわれは金利の問題だけじゃちょっと納得するわけにいきませんが、どんなもんですか。
  64. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 この問題につきましては、私の方が穗積さんよりも相当経験者です。私がよく説明いたしますからよくお聞き願いたいと思います。この問題は根本の問題でございまして、実際賠償というものについては、いまだかつて利息を取らないということは当然のことでありますから、これを私は主張したのであります。ところが先方も、あなたは商売人じゃないか、それはわかるだろう、こういう話でやってきたわけであります。(「つられたんだろう」と呼ぶ者あり)つられたわけではありません。(笑声)そこでよくお考え願いたいと思うのでありますが、どうもときどき政治家は――あなたを悪く言うわけじゃありませんが、金には利息がつくということを知らない人がやっているようです。政府の仕事はいつでもそうです。ところがこの賠償金はだれが払うのですか。これは国民が払うわけなのです。国民が高い高い税金を払って、それで払っているわけなのです。その国民の払う税金をもってわれわれは賠償を払わなければならない。だからできるだけ利息というものを頭に置いてこういう問題を解決するのが、税金をもって払うという以上は、これを考えていくのが当然だと私は心得ましてやったわけですから、その点御了承願いたいと思います。
  65. 和田博雄

    ○和田委員 そうしますと、結局こういうように考えてよろしょうございますね。一応大野・ガルシァ協定の四億ドルというものを基礎にした。それは大野・ガルシァ協定の場合におけるがごとく、日本支払い能力というものから出発した金額である。それを向うの言い分なり何なり等考えてみて、日本側支払い得る可能性というものを根拠に置いて、それ期限の利益を一応そこに考えて、五億五千万ドルというものが、大体四億ドルというものと実質的にはひとしいものだという考えからきめたのだ、こういうふうに解釈してよろしゅうございますか。多少違いますか。
  66. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 大体そうなのですけれども、私のほんとの腹を言えば、五億ドルで五分くらいの利息を勘定していけば一致いたします。われわれが世界銀行から金を借りますれば、五分の利息を取られるのでありますから、七分という利息は高いわけでありますが、これは先方希望もあったことでありますから、これだけは譲歩したのであります。
  67. 和田博雄

    ○和田委員 一応説明を聞いているわけですから、それだけにして私の意見は言いません。  そこでこれは外務大臣に聞きたいのだが、二億五千万ドルというのは、民間の借款だとあなたは言われておる。この一億五千万ドルというものは、今度の日比賠償協定の本質なのか、これを締結するための単なる条件であったのか、賠償協定の中におけるこの一億五千万ドルというものの本質は、一体何なのだということをあなたはどう考えておるか、それをはっきりしてもらいたい。
  68. 重光葵

    ○重光国務大臣 賠償協定の本質は、賠償協定の取りきめに関するものでございます。すなわち五億五千万ドル、これが賠償協定の本質であります。
  69. 和田博雄

    ○和田委員 そうすると二億五千万ドルというものは、単なる今度の日比賠償を成立さすための、一つの締結のための条件であったのですか。高碕さんどうですか。
  70. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 本質的からいえば、この協定はない方がいい。なくてもあっても同じだと思いますから、なくてもいいわけでありますが、先ほどもるる説明いたしましたごとく、フィリピン側といたしますれば、どうも対内的な関係上、八億ドルということをはっきりうたいたいということは、昨年の五月時分の先方意見だったと思います。それは先方でも、これをだんだん研究してみると、それじゃこれは賠償でないじゃないかというふうなことでしたが、といって、今までのいきさつがあるから、全然これを消すわけにいかない、交換公文でやっておいたらどうか。こういうわけで、私が参りましたと遂に、フィリピンの新聞等も、八億ドルという数字はちっとも出ておりませんで、五億五千万ドルの賠償というふうなことが出ておったようでございますから、ただいまの和田さんのお説からいえば、初めから先方がそういう語できてくれれば、もうこの問題は触れなかった方がよかったと思っているわけでございます。そういうわけで、今までのいきさつ上そうきたわけでありまして、本質は五億五千万ドル、しいていえば、二億五千万ドルの借款協定というものは、お互いにやった方がいいじゃないか、こういう一つのアクセサリー、飾りものだ、こういうふうに存じ上げてもけっこうだと思います。
  71. 和田博雄

    ○和田委員 アクセサリーであって本質ではない。従って、むしろなかった方がよかった。こういう御意見だと思いますので、一応その点はその説明を聞いておきます。  そこで、二億五千万ドルというものが、完全なる民間の会社の間の借款であるとしましても、経済開発に関する交換公文を見ますと、やはりフィリピン政府の方で、その投資部門や産業の種類なんかを決定する権限を留保しているわけですね。これは経済開発に関する民間の借款でありますが、フィリピン側としては、単なる民間の借款とはいいながら、やはりフィリピン経済自体の開発に資する、そういう借款であるということを、これではっきりうたっているわけだと思います。従って、この問題が一番大きな問題になってくると私は思うのですが、そこで聞きたいのは、高碕さんも御存じのように、アジアの国はどこでも今経済開発計画を持っているわけです。日本も、あなた方が五ヵ年計画を作られて持っているわけですが、フィリピンも、やはり一九五四年から五九年の六月までの五ヵ年計画を持っていると思いますが、その五ヵ年計画というものは、一体どういうもの。あるかということを、一応説明してもらいたいと思います。
  72. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 このフィリピンの五ヵ年計画につきましては、私はこの間参りましてその書類をもらって、いろいろ検討いたしますと、どうも私どもから申しまして、はなはだ失礼でありますが、非常に欠陥があるように感じたのであります。それを少し指摘いたしますと、これは目下検討中だ、こういうわけでございます。これは実例を申しますとはなはだ失礼になりますから、ちょっとなにいたしますけれども、たとえば、日本からポンプを持っていって、イリゲーションをやるとか井戸を掘るとか、いろいろの種類の井戸が計画されているのでありますが、そうすると、その水脈というものをほんとうに調べられてやっているかということを質問いたしますと、実はそれは一つの井戸を掘ると、下の方で水を引くと上の井戸がかれるという、心配もあるのだ。だからこういう点もよく検討しなければならぬというふうなことを、その責任者からも聞いたようなわけでありますが、ものによれば実行可能のものもある。そういうわけでありまして、先方でもこれはよく協議しようじゃないか、自分の方でもまたもう少し検討を加えたい、こういう話だったわけであります。
  73. 和田博雄

    ○和田委員 私の調べたところによると、フィリピンの五ヵ年計画というものは、大ざっぱにいって、五ヵ年に農業生産は五〇%以上上げる、それから工業生産を十億ペソから大体十七億ペソまで上げていく、それから鉱業生産を一億ペソから五九年までに三億ペソまで上げていく、失業者も一五%から六%に減らすというように、かなりここで目的をたくさん持っておる開発計画だと思うのです。今度の賠償にしても、資本財役務日本から出していくという賠償の仕方は、やはりこれはフィリピン経済開発計画に結びついているのだと思うのです。民間の借款も私は同様だと思う。そうなってきたときに、これらの計画そのものが、フィリピンの側においてあなた自身さえ疑問を持っているが、一体それほど権威のあるものであり、また事実計画的に実行できるものであるかどうかということが一つと、それに一体日本のこれから十年間、二十年間にわたってやる賠償が――たとい十年、二十年先と言わなくても、この五ヵ年計画と一体どういうふうに結びつく可能性を持っておるかという点は、協定を結ばれるときには、少くとも日本賠償考える以上は、政府の方で検討されておると思うのですが、そういう点はいかがですか。十分検討されてやられたものであるかどうか、たとえば専門家の会議なんにおいても、やはりそういう検討がなされたと思うのです。その点については、ここに一応専門家会議の議事録なんかも来ておりますけれども、やはり大臣から詳細に、その見通しなり政府考え方なりをはっきりされておいた方が、今後いろいろな事柄が起ってきた場合に私は非常にいいと思うのです。ですから、あなたがきょう説明できなければ月曜でもけっこうですから、一つその点を説明してもらいたいと思うのです。
  74. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 お説のごとく、フィリピン側が五ヵ年計画を持って、そうしてその五ヵ年後の経済をどういうふうに引っぱっていくかということの目的ははっきりいたしております。これの実施計画といたしましては、先ほど申しました通りに、まだ内容的によく検討されていない、日本の方の経済五ヵ年計画におきましても、現在われわれがやっておりますことは、業種別の計画を立てようじやないかといって、これを今熱心に研究しておるわけでありまして、この間うちフィリピンから参っておりましたときに、当事者の間で折衝いたしました結果、大体八月ごろまでに改訂案を作ろう、それも日本の五ヵ年計画とよくマッチするようにしてやっていこう、こういうふうな話し合いはお互いについておるわけであります。なおその当時のことにつきまして詳細にまた政府委員からでも説明いたさせます
  75. 中川融

    中川(融)政府委員 今高碕長官から御説明いたしました通り、でありますが、フィリピン経済五ヵ年計画というのは、すでに何回となく案を作ってはその案が改訂され、今のところまだ最終案というものはできていないのであります。先回日本に参りましたモンテリバーノという人が経済計画委員会委員長として案を作ったのでありますが、このモンテリバーノの作りました経済計画というものは、現マグサイサイ大統領の考えております経済政策と、必ずしも一致しないという理由もありまして、モンテリバーノは免職になりまして、今、上院議員のプヤットという人が臨時的に経済計画委員会委員長をやっております。このプヤットのもとで改訂案を今鋭意作っておるのでありますが、その改訂案は今までの案よりももっと現実的なものにしよう、経済開発計画というものも、ほんとうにフィリピンが有効に開発し得るものを計画しようという、現実的な案に変ってきつつあるのでありまして、その現実的な案におきましては、日本賠償相当大きな役割を果すことになるのであります。その改訂案はマグアサイ大統領の命令で一生懸命経済計画委員会で作っておるのでありますが、遺憾ながら向うの専門家というものは非常に数が限られておりまして、この賠償実施計画と申しますか、賠償交渉自体に当る人と経済計画をやる人と同じ人がやっておるので、あります。従いまして賠償交渉に専念いたしましたために、ここ二、三ヵ月経済計画の方がおろそかになっていたのでありますが、賠償ができますと、さっそく経済計画の方を仕上げまして、同時にその人が日本の方に実施細目を作りに来るのであります。また同時にその人が今後の日本との貿易協定もやるということで、一人の人が何役もやるわけでありますが、今度経済五ヵ年計画というものができました暁には、相当日本賠償及び日本との今後の貿易計画というものを織り込んだ現実的な案になるものと考えております。先方の人が参りましたら、日本におきましても経済企画庁とも十分協力いしたまして、できるだけ現実的なものを作るように協力いたしたいと考えております。
  76. 和田博雄

    ○和田委員 今度のこの日比賠償協定が効力を発すれば、とにかく二ヵ月、六十日以内には賠償実施計画を作らなければならぬことになっております。そうすると、その実施計画というものは、同時に向う経済開発計画――五ヵ年計画になるか、三ヵ年計画になるか知りませんが、とにかくそれの第一年度に対しては、少くとも基礎になるべきものだと私どもは推察するわけです。そうするとここにいろいろ専門家会議で、附属書として、開発計画の中で、いろいろな向う側の要求の資本財なり何なりの項目が相当出ておるわけですね。こういったようなものが一応内容になってくるようにも思うのですけれども、どうもこれは内面的な関連というものは一つもない計画の単なる羅列であって、ここから何ものをも生み出すわけにいかない、こういうように私どもは思うのです。そうなってくると、実はきまっておるけれども、実際は日比賠償内容そのものが、ただ日本がこれだけの債務を支払うというだけであって、これがどういうふうになっておるかということは今後の問題であるが、条約を結ばれる場合には、何らそういう見通しがなくて、ただ――初めの問題に戻ってくるのだが、五億五千万ドルか何かがきまったという感じをわれわれは非常に強く受けるのですが、そういうことは一体どうなのでしょうか。日本からとにかく賠償をしてフィリピン経済というものを立て直す――今、フィリピン経済というものはそんなによくないのですよ。立て直すと遂には、やはりフィリピンで蓄積された資本がなければ、日本からの賠償というものはいわゆる資本財役務の形で、いわゆる外国資本というものが入って、それが国内の資本と結びついて、また技術も国内の技術と結びついて開発されていくということになると思うのだが、そういう点について僕は高碕長官に言いたいのですが、賠償をやるためにはそういう問題をもっとコンクリートに話をつけておくべきじゃないでしょうか。そうすればまたこちら側もやはりこれだけ要るのじゃないかという基礎がはっきり出てくると思うのですが、いかがでしょう。
  77. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 そういうふうなものが定められれば非常にけっこうなことだと思いますけれど、何しろ長期にわたるものでありますし、どの国の計画にいたしましても、やはりそのときどきによって、国際情勢によって計画が変るということでありますが、しかし、それは今後の賠償実施に当ってお互いに誠意を持って話し合おうじゃないかという取りきめを作っておけば、今後は両国の代表者が話し合っていけば、今和田先生の御心配になったような点は解決していくのじゃないか、大体の根本的なワク、根本的な方針というものを取りきめておくのがまず順序だろう、こう思ったわけであります。これはお説のごとく、賠償がこれによって完成したわけでも何でもありません。ただ取りきめの申し合せをしただけでありまして、これからが賠償実施に入るわけであります。これからの賠償の仕方いかんによれば、せっかく今日フィリピンの空気がこんなに緩和して、日本フィリピンとの親善関係が改善せんとしておるのでありますから、この賠償を相互のためによくなるように実施していくということは、どうしても皆さんの御尽力と御検討によってやっていかなければならぬと考えております。今日までそういうことができなかったことは、これはなかなか不可能な点だと私は存じております。これまで一応全面的に原則はきめたということに御了承願いたいと思います。
  78. 和田博雄

    ○和田委員 私は賠償問題の解決が、アジアの国々における日本の友好関係を維持していく、まず第一に賠償をやれということは賛成なのです。これは社会党が前から言っているわけです。まず賠償問題を解決していくということが、とにかく日本貿易その他を拡大していく前提問題だということ、その点私はちっとも異論を唱えているわけではないのであります。私どもが心配しますのは、せっかく、こういう賠償が結ばれながら、それがうまくいかないと、これは仏作って魂入れずみたいになってしまって、せっかくの善意がかえって逆になる。従ってそのために将求において日本がこれだけ多くの賠償額を支払うならば、それが的確にフィリピン経済拡大にもなれば、あるいは日本自体の貿易拡大にもなるように運営されていくことを欲するから言っているのであって、そういう見地から言っておることだけは、もう十分理解しておいてもらわなければ困ると思うのです。  それでもう一つ――まだ相当あるのですが、今度の問題で現金二千万ドルの賠償については、これは自民党の内部でも、元の自由党の諸君は反対した、僕らも反対だったわけです。それが今度は加工賠償という形になったと同時に、貿易拡大という形で藤山君が行って、二億五千万ドルというものが一応民間の借款になってきめられたわけです。その貿易拡大ということを一つ現実的に考えてみたと遂に、そういう見通しというものはどこから出てくるのですか。その点については、おそらく政府の方においても、まだ具体的なものは何もないだろうと思うのですが、高碕長官そういう見通しがあれば、その点を一つ話してもらいたいとの点について僕はもう少し詳しく聞きたいと思うのですが、まず第一に日本フィリピンとの間の貿易というものは、今どうなっているのですか。僕はやはり日本が輸入超過だと思うのです。約二千万ドルぐらい毎年輸入超過になっているでしょう、それに間違いありませんか。
  79. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 第一におっしゃった例のフィリピン賠償したこの資本財というものを、フィリピンにおいてできるだけ有効適切に使ってもらうということは、これはもう和田さんのお考えと私どもとは全然一致しておるのでありまして、そうすることがこの賠償をやって両国の間をよくするかどうかということにかかっておることだと存じまして、今後の実施に当りましては、御趣旨に沿うように十分努力していくことは、当然のことだと私は存じておるわけでございます。  第二の貿易拡大の問題につきましては、大体の材料は提供することになってやってきたのでございますけれども、これを見ますと、ちょっと数字には私自身賛成しかねる点があるわけなのでもう少し訂正して差し上げたいと存じます。  大体から申しますと、昨年一月から十二月までの貿易は、八千八百万ドルの輸入に対して、約五千万ドル近くの輸出をいたしたわけであります。戦前のフィリピンに対する日本経済の依存度というものはそんなになく、ごく軽かったわけでありますが、今日いろいろな関係上、非常に依存度が多くなってきた。その一番最たるものは何かと申しますと、日本が鉄鉱石を要求するということ。フィリピンの鉄鉱石の中には、御承知のクロームが入っております。クロームが入っているために、あの大きな鉄鉱資源を使うということについては相当問題にいたしておったわけでありますが、クロームを分離することに戦争中アメリカで成功したものでありますから、この方法をとっていけば、今後日本の鉄鉱石は相当フィリピンから持ってこなければならぬと思います。それからもう一つ、今日日本の現状におきましては、銅の鉱石が非常に少くなっておるわけなのです。それで銅鉱石のいいものはフィリピンにおいて、しかも日本人の手においてこれが開発されつつあるということは、非常に大きな将求があると存ずるわけなのであります。そういうわけで一方は日本の木材が足りなくなっておる、それに対してラワン材を三千万ドルも持っていってこれを加工するといろ工合に、フィリピンに対する日本貿易の依存、つまり向うから原料を持ってくるということが、非常に必要なことになってきたわけであります。そのほかに砂糖もございまして、そういう点もありまして、地理的の関係からいえばフィリピンに対する依存度が多くなる。そうなれば日本の輸出はだんだん伸びないで、輸入だけふえるのじゃないかと御心配になるだろうと思いますが、現在日本で輸出いたしておりますものにつきましては、綿製品、雑貨類で、これが相当の制約を受けておったわけであります。これはどうなっておるかというと、大体アメリカから綿製品、雑貨類、紙の製品それから食料品、これはおもにカン詰でございますが、そういうものがアメリカとの間の関係で、これはベル・アクトがあったために相当入っておるわけでございます。それに対しては、ベル・アクトがこの一月から一般の関税の三五%をかけるということになっておりますが、それにしてもやはりアメリカは相当特恵の税率をとっておるわけであります。これと同率にしてもらえば問題ないと思いますけれども、私どもはこれは少し無理だと思っております。一体ガットの精神から申しましても、一国と一国の間に特殊の関税を持っておるというふうなことは、将来国際間における災いをなすもとだと存じまして、こういうふうなことはアメリカの方にもっと早くベル・アクトを撤廃してもらうということを私ども希望するわけなのでございますが、これと同じにしてくれというふうな要求をすることは、少し無理かと存じておるわけなのであります。しかしながらこういうふうに漸次アメリカとのベル・アクトというものは緩和されんとしているときでありますから、地理的に考え、実際の原価計算から申しましても、これにかわりまして日本貿易というものは、現在アメリカに依存しておる八〇%の輸入量に比べて、日本は現在フィリピンの輸入量の八%にしか達しておりませんが、これは逐次ふえていくというのは当然だと思いますし、特に日本フィリピンから買います輸入量が増加いたしますにつれては、当然これは今後の貿易協定というものは、輸入に対するバランスをとるということが今日の世界の大勢になっておるわけでありますから、よけい買えばそれだけ日本から買ってくれという貿易協定はできることだと存じまして、私は、はなはだ楽観論と言われますかもしれませんが、楽観しておるわけなのであります。
  80. 和田博雄

    ○和田委員 詳しく御説明下さったわけですが、フィリピン経済は、今高碕長官も触れられたように、とにかく輸出品というのは大部分が世界商品なのですね。国内商品じゃないのです。たとえばココナッツにしたって木材にしたって砂糖にしたって、鉄にしたってみんなそうです。ですからそれらの商品を考えてみると、価格的に考えてみればどれもこれも世界的に非常に不安定なものですよ。去年だったかフィリピン経済が暴落したときに、貿易条件が非常に悪くなってしまったことは御承知だと思うのです。日本との関係を考えてみると、今あなたも触れられたように、おもなものといえば結局鉄鉱石と、銅が少しあるかもしれませんが、しかしそれらを日本が輸入している割合というものはわずかなもので、フィリピンの輸出からいえば八%くらいでしょう。鉄鉱石は全体の輸出量の一割足らずじゃないかと思うのです。数字はよく覚えていないがそんなものだと思うのです。それをこれから開発していく、これは今ごろがっているわけじゃなくて、おそらく今後日本からのいろいろな投資にしても民間の借款にしても、あるいは政府賠償にしても、そういう方面にかなり力が入れられざるを得ない、今現にやっている面もあるのですから、そうなってくると、その面からいってそう急に日本との貿易拡大するという希望はあまり持てぬと思う。総輸出量の絶対量が多ければ別ですが、そこらの点はどうか、私はあなたのようにあまり楽観できないと思うのですが、この点をお答え願いたいと思う。
  81. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 今のお言葉ですが、フィリピンの鉄鉱石は、これはフィリピンの生産の一〇〇%を日本が買っているのです。
  82. 和田博雄

    ○和田委員 総体的には少いですよ。
  83. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 日本としてはわずかですけれども、これは開発すればだんだん大きくなってきます。木材も輸出額の七〇%を日本が買っているということに相なっております。向うのその方面の開発ができれば、それだけ日本の方にだんだん持ってこれる。開発をすればするほどフィリピン経済はよくなってくるわけです。しかし、今和田さんのお説のごとく、フィリピン経済拡大ということを考えてみますと、日本よりはむずかしいと思う。あの五ヵ年計画をやるのには非常に困難性があると存じます。これはフィリピン経済全体から見ますと、なかなかそう容易に楽観すべからざるものがあるということは、私も十分心得ている次第であります。
  84. 和田博雄

    ○和田委員 ちょっと誤解があるから、訂正しておきますが、八%とかなんとか言いますが、フィリピンの総輸出の額から見てそれだけしか占めていません。鉄とかなんとかいっても、なるほどあそこの生産物は一〇〇%、七〇%日本に来ているでしょうが、しかしフィリピンの総輸出量からいえば、鉄とかいうものはわずか一割にも満たないものなんです。そうすると、フィリピン経済というものはそう大きな経済じゃない、ちっぽけな経済です。その中のわずか八%の輸出量を占めている、だけです。かりに日本に一〇〇%来たところで大したことはない。だから貿易拡大々々と言うてみたところで、今のようにアメリカとの関係があって、なるほどベル法は改正されたけれども、しかしその効果というものをわれわれはすぐ期待するわけにはいかない。どうしても相当の年月が要る。そうなってくると、貿易拡大というものは、ここしばらくというものは、正直にいって、そう多くのものは期待できないと思う。しかもフィリピン経済が、今言ったように、大部分が輸出に依存しているものであって、しかもその輸出商品というものは国際商品で、国際価格に非常に影響を受けるものであればあるほどその経済というものは、国際間の景気がいい間はいいかもしれないけれども、少し悪くなってくれば、これは一ぺんにがたっといってしまうのです。そうなるとフィリピン経済を立て直していこうとするのには、みんなかかってくるところは日本賠償にかかってくるのです。それだけに日本からの賠償というものは、金額は十年間で四億ドル、あなたは二十年間に五億五千万ドルと言って、年々三千五百万ドルくらいでわずかなもののようにお考えになっている。しかしまた日本経済考えたときには、この額というものは、やはり日本経済にはかなり大きな負担になってくると思うのです。これは財政需要の点からいいましても、減っていくものは一つもないのです。日本だって軍備はどんどんふえていくのです。毎年々々とにかく軍事費というものはふえていく、それから現に軍人思給だって一千億からある、また今度それをふやそうと言っているのです。社会保障の費用だってふえてくる。日本の財政需要もかなりふえていくと遂に、なるほど今外貨は十三億ドルか十五億ドル近く持っているかもしれませんけれども、しかし外貨を今それだけ持っているからといっても、それで油断はできないわけです。外貨はあなたもよく御存じのように、外貨としても日本経済全体をやっていかなければならない大きな使命を持っているわけです。それだけに私どもとしては、貿易拡大ということがほんとうに実現できるようにするのには、私はフィリピンの復興計画というものと、こちら側の賠償計画というものときちんと合わせるということ。それが今言ったように、あなたはなかなか困難だというけれども、やはりベル法のもとにおいてアメリカと少くとも同等の待遇を、日本が獲得するということが前提条件でなければならないと思うのです。その肝心の前提条件を欠いてしまっておいて、そして日本側の方においては、経済評議を作りながらその計画にマッチした予算が組まれるでもない、貿易拡大は片一方では勝手に出てくる。こういう形であったならば、やはり日本経済は、このフィリピン賠償については、言葉の上ではなるほど貿易拡大といってみても、どうしても将来行き詰まってしまうことが出てくると思う。そこらの点について経済閣僚の高碕長官としてちゃんとした手を打つように、これに伴ってやっておいてもらわないと困りますよ。その点どうでしょう。
  85. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 その点は私は御説と全く一致しております。日本経済におきまして、一年に二千五百万ドルも払っていくことは、現在の為替がいいからといっても、決して楽観すべきものではない。これはわれわれとしては相当大きな負担を覚悟しなければならぬ。つきましてはフィリピンに払ったものが有効に使用されて、フィリピン経済を安定せしめ、ひいては日本フィリピンとの間の貿易拡大するということに役立つようにしなければならぬということは、全く同意見でございまして、御意見のごとく、今後進んでいきたいと存ずるわけであります。  ただ、ベル・アクトと同じに日本をしろということは、そういう御意見相当あるのでございまして、これは私は、この賠償問題を解決いたしますと遂に、賠償問題と交換的にその話を出すということは非常に困難で、これは今出すべきときでないと存じておりますが、しかし私をして忌憚なく言わしめますれば、先ほどお答えいたしました通り、ベル・アクトをアメリカがやっているのと同様に日本にもしてくれと言うよりも、アメリカのベル・アクトを早くやめてくれということの交渉をすることが、先決問題だと私どもは思っているわけであります。
  86. 和田博雄

    ○和田委員 しかし、そういう交渉なり何なりはまだ全然していないのでしょう。アメリカは、ベル・アクトをやめてくれと言っても、なかなかやめませんよ。アメリカは、事経済に関する限りは、よく御存じのように、やはり日本は大きな競争者の一つでありますから、日本経済をアメリカが保護するということはあり得ない、やはり国内の業者を保護する方が先です。だからいろいろ繊維品についても関税の問題が起り、輸入制限の問題が起っているわけです。これはやはりフィリピンに対して賠償とひっかけるかどうか、これはいろいろ論議がありましょうが、いろいろそういう手を打って、賠償そのものがうまくいくような基礎を作っておかなければどうにもならぬじゃないか。ぜひやるべきだと思う。そういう点は十分考慮を願いたいと思う。  私は午後所用がありますので、質問を留保して、ここで打ち切っておきます。
  87. 前尾繁三郎

  88. 穗積七郎

    穗積委員 ちょっと質問しておきたいのですが、私は、日比賠償に関する質問は、外務大臣と高碕長官に最初に総括的なことを質問いたしたいと思います。それが一わたり済んだあとで、こまかい内容についてまだいろいろ疑点が残っておりますから、事務当局に対して続いてお尋ねをいたしたいと思います。  なお委員長並びに政府の方に申し上げておきます。私はこの賠償協定の審議については非常に熱意を持っておりますが、用務のためにときどき委員会の審議途中に席をはずしたことがございますから、私の質問に対して、すでに他の委員から質問がなされ、しかも同一の問題であって、私の納得のいくと見られるような答弁が十分行われておりました場合には、すでに答弁したから速記録で見てくれと言われてもけっこうです。しかし問題は同じであっても、質問する角度が違った場合には丁寧にお答えいただきたい。私は前もってお断わりをしておきますが、私の質問は審議を引き延ばすための質問ではなくて、審議の責任を果すための質問であることを明らかにしておきますから、政府側は十分御協力をいただきたい。  日比賠償に関する質問に入ります前に、非常に重要な問題でございますから、約五、六分時間をいただきまして、重光さんに昨日来の日ソ関係について一言だけ質問をお許しいただきたいと思うのであります。  それは、この委員会できのう鳩山総理は、党内にいろいろな問題があるけれども、所信を貫いていく、早期妥結の方針であるということを言明されましたが、あなたもきのうの新聞記者会見で、ああでもないこうでもないと言って、いささか人心を惑わすような――惑わすというよりは、党内の意見を統一するのにじゃまになるような御意見を発表しておられますが、私はこのことをはなはだ遺憾に思いますし、あなたの真意がどこにあるか、実は少し疑わざるを得ない感じを持ちますから、一言だけ質問をして、あなたの所信を明らかにしておいていただきたいのであります。特にきょう河野さんがお帰りになって、きょうから党内の意見をまとめるために、あなたは副総理として、党内の世論統一に責任のある地位におられるわけですから、はっきりしておいていただきたいと思うのです。  それは、あなたのおっしゃる通り、今までの交渉を見ますと、南千島を事前に解決するか事後に残すかという問題だけにかかってきているわけですね。ですから交渉の余地がある問題でございますならば、昨日新聞記者会見でおっしゃったような態度を、一応是とすることができるのでございますが、彼とわれとの間の交渉の経過は、半年以上の経過を見ましても明らかでございますように、一にかかって国内の世論、もっとはっきり言うならば、政府与党内をいかにまとめるかということだけが残っているわけでございます。従ってあなたのきのうのお言葉では、主張はあくまでするのだ、しかし決裂はしないといったような、どっちだかわからないようなことを言っておられることは、党内の世論統一のために非常にじゃまになると思うのです。そこで、私は、あなたが外務大臣として向うと交渉する立場ではなく、副総理として党内をまとめるという立場においてお尋ねいたしたいと思いますが、きのう鳩山さんが党内に多少の異論があるようだが、あっても早期妥結の当初の所信には間違いない、これを貫いていくつもりだという御答弁に対して、あなたは副総理として一体どういうお考えをお持ちになるか、まず第一にそのことに対する御所信を伺っておきたいと思います。
  89. 重光葵

    ○重光国務大臣 私も、日ソ交渉、国交正常化をなるべくすみやかに実現するということには少しも変りはございません。初めからそうでございます。
  90. 穗積七郎

    穗積委員 あなたは、領土問題については、主張は主張として最後までする、しかしながら相手のあることであるから、こっちの要求が全部通るわけではないということで、それは交渉はしてみなくてもわかっているわけですね。そのときに党内において南千島は事後に残してこの際ひとまず国交を回復すべきだ、回復する方式についてはいろいろありましょうが、どういう方式にしろ、ひとまず国交を回復すべきだという意見がある。これがわれわれの見るところでは大体大勢を占めつつあると思うのですが、それに対してあなたは御賛成でございますか。
  91. 重光葵

    ○重光国務大臣 あなたの言われる意味はそうであろうと思いますが、私は今日日本が領土問題を放棄しなければ、全然交渉がまとまらぬのだというところには達していないと思っております。
  92. 穗積七郎

    穗積委員 放棄とは言いません。つまり、事前にこれを最終的に日本に帰属せしめることを認めなければ国交を回復しないか、それとも、それは事後に残して、ひとまず国交を回復するかという議論でございまして、放棄とはだれも言っておりません。放棄についてはだれも賛成しておらぬと思う。ただ問題は、事前に完全なる復帰を要求して後に妥結するか、そうではないかということであって、大勢は早期にひとまず国交を回復する、地元の、旧択捉島、国後島におった住民、北海道地区の諸君ですから、国交回復ができないならば、領土問題はあとに残して国交を回復すべきだということにまとまってきている。党内もそういうことです。放棄とは言いません。放棄ではございません、事前に解決するか事後に解決するかという問題です。私はそういう意味ではやむを得ない、それよりは早期に国交を回復することが、やはり同国の問題を処理するためにも、日本の利益のためにも、とるべき道だという意味で、大勢がそういうことにまとまりつつあると言っているのです。私の言うことを曲げて御解釈になって、そういう御答弁でははなはだ遺憾でございますから、もう一ぺん答弁をし直してもらいたい。
  93. 重光葵

    ○重光国務大臣 私は、今後交渉をする責任者としてさような結論を出すわけには参りません。形勢は、いろいろ交渉の進むに従って異なることがある。形勢は見なければならぬ、しかしながら今回は交渉を再開する、こういうのであります、その前に当ってこもちの主張をすべて放棄すると同じ意味のことを、今私から申し上げるわけには参りません。私は日本の立場を維持して交渉を進めて、その結輪を出したいと考えております。
  94. 穗積七郎

    穗積委員 ところが、その問題に対してあなたは重要な発言をしておられる。今度交渉を再開したならば、前のように決裂はしないつもりだと言っておられる。そこに重要な意味があると思うのだが、決裂はしないと言っていつまでもたな上げをする。この前のときでも、決裂ではない、暫時休憩だという話であった。ですから決裂という意味をあなたはどういう意図を持って話しておられるかが重要なのです。それが一点。  もう一つは、その時期についてでございます。時期についてはもとより幾ら長く見ましても、来年の出漁の時期までに解決しなければ、今度の協定は効力を発しません。従ってもう目に見えて支障を来たすわけです。ですから、その決裂はしないという意味は、この前の、決裂ではない、暫時休憩だという交渉をしたならば途中で休まないで、とにかく解決するまで粘って努力するつもりだという意味ですか、どちらでございますか、それをまずお答えいただきたい。時期については大体のあなたの心がまえと申しますか、見通しについてお尋ねをしたいのです。その二点についてお答えを願いたい。
  95. 重光葵

    ○重光国務大臣 今、そういうようなことを私は交渉をする――交渉を再開しないというならばこれは別です。今交渉をしない、このままで右か左かに決定してしまうというならば別です。おそらくそういう御議論ではないと思います。私は交渉を再開するということになれば――その前に日本は自分の主張を放棄すると言わなくとも、変えるのだということを、今日申し上げるわけには参りません。私の申すことは日本の利益、日本の利益というものは、必ずしも具体的のどこそこの島だとかなんとかいうことだけじゃございません。国際的に見ましても、日本の利害関係というものは非常に多方面であります。また大きな問題があります。そういうようなことを考慮して、日本の利益を守るために私は交渉に臨みたいと思っております。従ってそういう問題について、今、いつまでとおっしゃいますが、これはなるべくすみやかにやらなければならぬ。それなら初めからそういう趣旨であったじゃないか、その通りです、初めからその趣旨でありました、しかしその趣旨は、情勢の変化ということを私は申し上げておる。そういうことを考慮しつつ国家の利益に適合した手段をとらなければならぬと私は考えております。それを前もって、何日までにどうするということを、私はここで申し上げることはできません。
  96. 穗積七郎

    穗積委員 来年の出漁については支障を来たさないように万全の措置考えて交渉に臨むおつもりでございますかどうですか、それを伺っておきたい。
  97. 重光葵

    ○重光国務大臣 来年というとあなたはだいぶ気長く考えておられるかもしれませんが、それは私は十分考慮しなければねらないと思う。これは日本の具体的な利益の一つ、重大な利益の一つでありますから、それは考えなければならないと思います。
  98. 穗積七郎

    穗積委員 はなはだ不十分でございますが、河野代表の詳細の報告を聞いた後にまた御所見を具体的に伺いたいと思います。  最後に一点だけ国際情勢について質問をお許しいただきたいのです。それは、昨日の夕方ですか、輸出入組合の理事長の南郷さんが中国を訪問いたしまして帰ってこられましたが、重ねて周恩来総理から政府に対して、両国間の国交調整の問題について、また懸案の問題解決のために、政府責任者と話し合いをしたいからよく伝えてもらいたいという伝言の依頼があったわけでございます。これはおそらくお受け取りになったと思う。あるいは近くお受け取りになるでしょう。そうであるなら、これに対して外務大臣はみずから北京におもむかれるなり、他の適当な閣僚とか、大使級以上の人物を北京に派遣するなり、場合によれば鳩山総理も周恩来総理と話してもいいと言っているのだから、周恩来総理と話すために、鳩山総理に行っていただくというようなことを措置されるおつもりはございませんかどうか、重ねてお伺いいたします。これは昨年からたび重ねて言っておるのにノー・コメントでは困る。一方においては貿易だけやって食い逃げしようというようなことで、あるいは漁業協定についても、向うは民間協定でございましたが、快く延期してくれておる。また昨年五月に結んだ第三次協定についても、期限がきているから、われわれ関係者から期間一年間の延長を申し入れましたところ、数日前に快くこれを受け入れるという返電が参りました。そういうふうに向うは非常に協力しておる。あなたは直接政府のことではないと言うかもしれないが、日本国民であり、日本経済との関連におきまして政府がこれに無関心、無責任だということは言えないでしょう。そういうことを一方でやっておいて、そうしてまたその必要を説いておいて、そうして向うの総理が正式に幾たびも幾たびも言っておるのに、さらに意見も述べない、返事もしない、こういうことでは、一体両国間が平和的につき合って貿易その他をやっていこうという腹があるのかどうか疑わざるを得ない。国際信義にも関係することですから、くどいようでございますが、重ねて申し入れがあったわけですので、所信をお尋ねしたい。
  99. 重光葵

    ○重光国務大臣 国際信義ということを言われますが、私は同じく国際信義のために、これを維持するためにいろいろ努力しておるつもりでございます。あるいは御所見は賛成することができぬかもしれません。  それから幾度聞いても返事がないと言いますが、幾度言われても同じ返事をこれまで繰り返している。それをただお取り上げにならないだけであります。あなたの質問に対して、繰り返し繰り返し私はこの問題は言っている。これは当委員会だけではございません。そのことはすべてほかに出るわけであります。それで、言っております、そういうようなことは私は……。それで、従来の通りに東アの平和安定のために全体的に処置を考えなければならぬ。しかし、日本は今日中国問題についてはいろいろなことを考えなければならぬ、顧慮しなければならぬことがたくさんあるのでありますから、そこで、一口に申し上げれば、あなたの言われる国際信義を維持するためにいろいろ考えなければならぬ。それでありますから、政治的に中共との関係を、今言われるようなことにこれを取り上げるわけには参らぬ、とこう申し上げておる。しかし、中共が大陸において大きな権力を確立しているということは、これは事実だから、これに対処することは必要である。それらのことはすべて国際関係の全局を害しない範囲においてやらなければいかぬ。そこにいろいろ苦心があるということを私は申し上げております。ただし、貿易に関する限りは、ある国際義務の範囲内においてでき得ることでありますから、これはなるべく増加する努力をしたい、また努力をしておるのであります。そこで増加しつつあるのであります。それについて南郷氏が最近帰ってきた。それについてまだ報告にもまた伝言にも接しておりません。おりませんけれども、そういうような大局のワクの中において、私は十分対処し得ることだと思っておる次第でございます。
  100. 穗積七郎

    穗積委員 全般的な国交問題が妥結する前に、貿易協定でも結ぶお気持はございませんか、最後に一点だけ伺っておきたい。
  101. 重光葵

    ○重光国務大臣 これもたびたび御質問に対して申し上げた通りに、貿易協定は、従来民間の方式でやってきております。これは相当発達いたしております。それだから、この方式によってだんだん発達さして、それがまたいろいろ影響を与え、子を生むことでありますから、私はこれを変更する意思は今日持っておらぬということを申し上げております。十分それで一つ発達さしていきたいと思っております。
  102. 穗積七郎

    穗積委員 それでははなはだ不十分ですが、きょうは緊急にちょっと時間をいただいてお尋ねいたしたわけですから、今度は本論の日比賠償について、最初に高碕長官にお尋ねいたします。先ほど和田委員の質問に関連して質問をいたしましたと遂にお話がありましたが、利子をつけて計算するというお考えは商売の上では十分納得できますが、私は賠償についてはさっきの御説明では、まだちょっと納得で逆ないわけです。お話の通り賠償を払うためのお金というものは、利子がついたどころか、国民の命をかけて納めた税金です。それをまた利子をつけて計算するということになれば、日本人は二重に払うことになる。国内の利子と国際的な利子とこれは莫大な負担の計算になる。その利子が積り積って、あなたの計算からいっても一億ドル、あと五千万ドルはお負けで、つい取られてしまうと言っては何ですが、利子計算でいっても一億ドルということでしょう。国民としては国内の利子のついた金を借りて税金を納めて、それからさらにまた利子をつけて相手に払うというようなこと、これはとても耐えられないわけです。ですから、この点はそういう説明でなくて、もっと納得のいく他の説明があろうと思うのです。利子計算で十年を二十年に延ばしたからというようなお話では、国民はかえって納得しがたいと思うのですが、いかがなものでございますか。
  103. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 どうもその点にかけると、穗積さんはなかなかよい頭だが、金の勘定はやっぱりだめですな。(笑声)国民は利子のついている金を払うのだから、政府がその金を持ったら、その金はみな子を生むものだという考え方をしなければいかぬ。だから一年に四千万ドル払うということは、これは利子のついた金を四千万ドル払うわけですから、利子のついた金だということを考えたときは、一年に二千五百万ドルでやっていけば利息は少いわけでしょう。だから長期にやればそれだけ金額は高くなってもいいわけなのです。あなたはもうちょっと考えていただくとわかりますがね。金の勘定は、どうも政府の役人にしても政治家の方にしても、金というものは子供を生むのだという考えがない。四千万ドルの金を向うにやってしまえば、向うでは子を生むのです。今年は二千五百万ドルしかやらないのです。それだけ利息はもうかるわけですから、だからぼつぼつ払っていけば、結局一ぺんによけい払うよりもその方が得だと思いますし、これは商売人とよく相談していただいたら、きっと私の説に賛成されると思います。あなたも非常に明確な頭脳を持っていらっしゃるけれども、金の勘定はどうもそれではだめですよ。(笑声)
  104. 穗積七郎

    穗積委員 それは問題の金の性質なんですよ。金の性質が賠償でなくて、経済借款であるというような話であれば、今おっしゃった理屈は、私は大いに蒙を開いていただいたものとして、感謝をして納得いたしますが、そうはいかない。あなたは商売人だからついつられて、大臣であることを忘れて、賠償金と借款の金とを勘定違いをして利子をつけさせられたと思うのです。だから従ってこの問題は、さっき和田委員も申しましたが、貿易拡大ということでこの一億五千万ドルはのんで、早くやった方が得だという経済勘定の方なら納得いたします。だからそういうことでこの際は説明すべきだと思うのです。私は政府にかわってむしろ弁護するようなことを言いますが、彼とわれとの賠償そのものでは損だ。一億五千万ドルよけいとられる、または少くとも利子をよけいとられたことになるが、一方国民経済全体からいけば、これは貿易拡大になって、今の中小企業その他の不況をまかなうことができ、失業問題もやや解決することができる一助となるということで、これは総合的にプラス・マイナスすれば必ずしも損ではないからここで話をきめよう、そういう大商人のような話ならわかります。が、今の銀行家みたいな、利子をどうするこうするというような話で、お前は商売人じゃないから頭が悪いと言われても、私は頭が悪いことを誇りといたします。ですから、この問題はむしろ両国貿易拡大という点で根拠を発見されて、われわれを納得せしめるような資料なり説明をしていただきたいと思うのです。あくまでも私はそう思います。しかしこれはあなたと私と押し問答しておっても切りがありませんから次に進みまして外務大臣に尋ねます。高碕さんにちょっと申し上げておきますが、貿易拡大の問題については、和田委員からも質問がありましたが、私もあと質問をいたしますが、貿易問題として残しておきます。  そこで重光さんにお尋ねいたしますが、この前条約局長からもちょっと御答弁がありましたが、私納得がいかない。この賠償はサンフランシスコ平和条約から発しておるものです。条約工の根拠はそこにあります。ところがそれとは内容の違ったものが今度は約束せしめられているのですね。これは一体どうなりますか。この前の御説明では納得いかない。
  105. 下田武三

    ○下田政府委員 先般の説明をもう少し詳しく申し上げさせていただきたいと思いますが、この協定の前文で、「平和条約の規定の趣旨に従って行動する」と書いてございます。そこで果して平和条約の規定の趣旨に従っておるかどうかという点が問題だと思います。平和条約趣旨は、日本にエキストラの外貨の負担をかけさせないというのが最大の主眼点であります。そこでそのエキストラの外貨の負担がかからないようにするということは、今回の取りきめの中にも入っております。問題は原料で、日本資源貧弱な国でございますから、鉄鉱も買わなければいけない、銅鉱も買わなければいけないということで、厳格に申しますと、資源を買う際にすでに外貨は支払い済みではないか。だからもし平和条約の規定を厳格に実行するならば、外貨を払って買った資源を少しでも使っておるものを賠償として供与する際には、その外貨しに相当する額を賠償受領国から取り返せということに相なるわけでございます。しかし平和条約の精神が果してそこまでを要求しておるものかどうかということは、これは私は非常に疑問だろうと思います。何となれば賠償に限りませず、日本の国全体の国民経済が、すでに外貨を払って輸入せざるを得ないたくさんの原料に依存しておるわけでございます。それは連合国側もよく承知の上でございますから、結局特に賠償受領国がこういうものがほしいからと言われたときに、エキストラの外貨を払ってまでその材料を調達しなければならない、そういう場合にはこれは桑港条約の規定に従いましてお断わりすべきでございます。ただ膨大な国民経済の中に溶け込んでおって、その中に外貨を払って輸入した原料が多少入っておりましても、通常日産の場合に入っている程度のものの外貨の見返り百原料であるというならば、これは私は桑港平和条約はそこまで除外してかかっていないのだろうと思います。そうなりますと、平和条約の規定の趣旨に従って行動していると申して間違いないだろうと思います。すでにこの解釈はビルマの嫡出のときに解決済みでございまして、ビルマ賠償のときにも国会の御承認を得まして、この問題については国民を代表される国会の御承認を得た問題だというように私ども考えておるわけでございます。
  106. 穗積七郎

    穗積委員 外貨負担をかけないということとその場合の一つのケースとして、つまり資材賠償の場合の原料が国産であるか、外貨で買い取った外国原料によっておるか、そのパーセンテージはどうだということを今おっしゃったのでありますが、もう一つはやはり平和条約賠償の原則は役務賠償原則がうたわれている。それに対してあなたはどういうお考えを持っておられますか。御見解は……。平和条約賠償原則と、それから今度出て参りました日比賠償の中身とは食い違いがある。明らかに原則的に違っております。
  107. 下田武三

    ○下田政府委員 この点に関しましては平和条約の規定をこういうふうに私は解釈しておるのでございます。先ほど申し上げましたエキストラの外貨負担を日本にかけないということと、もう一つはいわゆる生産品賠償と申しますか、消費用の物資をもって賠償に充当しないという原則、つまりそれを売れば相手国が、たとえば綿製品でありますとか、石けんでありますとか、歯ブラシでありますとか、そういうコンシューマーズ・グッズを賠償として充てない。何となれば、そういうものは日本の通常の貿易品として留保すべきものであって、それ以外のもので充てるということなら平和条約の規定に反しない。つまり今度の附属書をごらん下さればわかりますように、これは工場の設立に必要な機械でありますとか、プラントであるとか、そういうものでございます。従いましてこういうキャピタル・グッズは、通常年々新たに輸出して消費され、そうしてまた来年も輸出して消費されるというもの、製品賠償の観念には該当しないものでございます。一回受領国に渡せば、長くそこに置かれておる。コンシューマーズ・グッズでない。それからもう一つはこういう大きな機械であるとか、あるいは船のような場合にいたしましても、なるほど行く形は完成品でございますが、その完成品を作るまでの間には、非常に莫大な役務が使われておるわけ、でございます。でございますから、交換公文で二千万ドルの加工役務、三千万ドルのその他の役務と申しておりますけれども、それ以外の五億ドルの完成品の中に、果してどれくらいの莫大な役務が含まれておるかということは、協定では洗い立てておらないわけですから、その五億ドルの中にも実は膨大な役務が包含されておる。船を作るにいたしましても、工賃は莫大なものになるわけであります。そういうところを見ますと、やはり桑港条約役務賠償は、現金賠償にあらず、製品賠償にあらず、役務賠償で、しかも日本にエキストラの外貨の負担をかけないという大筋の趣旨は私は貫徹されておると考えるわけであります。またこの点はビルマ賠償のと遂に同じ考え方で参りまして、国会の御承認を経たことであると考えております。
  108. 穗積七郎

    穗積委員 それはあまりにフィリピン側に立ってものを言っておるのであって、日本側に立ってものを言っていないと思います。役務賠償という原則で、そしてブラント輸出まで含めて完成品を作るためには、素材として出すのじゃなくて、完成品として出すためには、工業製品も全部役務が入っておるのです、だからそれは役務賠償じゃないかというような論理で一体サンフランシスコ条約役務賠償原則というものは規定されたのですか。私はそういう意味に解釈していない。当時の説明もそうではなかった。事前にわれわれが質問して審議したときにも――そういう御解釈は今度初めて出てくるわけであります。そうではなくて、あなたはこの間の委員会で、どなたかの質問に対して、役務賠償だけでは五億五千万ドルなんというものはいつになってできるか、永久にできないかもしれないほどであるから、これはもう原則は桑港条約にはこうなっているけれども、それでは実際問題は解決しないのだというような解釈でわれわれを納得させようとされた。きょうはその説を翻されて、プラント品、完成品全部労力が入っておるから役務賠償なんということは、私は納得するわけにはいきません。しかも説明の立論の根拠がお違いになっておられますが、それはどういうわけですか。
  109. 下田武三

    ○下田政府委員 この前御説明申し上げました、たとえば麻の原料を向うから輸入いたしまして、それにただ加工して、そして麻の完成品として再び出すという純粋の役務、そういう役務を幾ら積み重ねましても、五億五千万ドルにはなかなか達しないということは申し上げました。しかし桑港条約でいう役務というものを、そんな意味の純粋の役務であると解釈すれば、そういう解釈の方がむしろ不自然ではないか、従いまして、先ほど申し上げましたように船を完成品としてやるなら、その船の建造に要したその船に含まれておる役務というものもやはりとらえて考えるべきである、それがまた自然な解釈であるというふうにきょう申し上げるのであります。この前申し上げたことと矛盾しておらないわけであります。
  110. 穗積七郎

    穗積委員 加工役務のパーセンテージは三千万ドルになっているが、今の完成品の中の労働賃金というものを役務賠償の中へ入れるというのなら、それではなぜ一体そのパーセンテージをこの中へお出しにならなかったのか。キャピタル・グッズは五億ドルになっておる、そして役務サービスを三千万ドルという計算にしてある。そういくところまでおっしゃるなら、原料費と完成に必要とする労働賃金というもので役務費がこれだけ、それから資材費がこれだけというようなパーセンテージをなぜお出しになりませんか、なぜそういう話し合いをされなかったのですか、そうすればあとではっきりしますよ。
  111. 下田武三

    ○下田政府委員 それは協定を作る際にまだ現実にどういうものが行くかもわかりませんので、完成品の経費の整理、原料費が幾ら、労賃が幾らだということをはじき出して協定できめるということは不可能であります。そこでワクできめましたのは加工賠償の二千万ドルとその他の役務の三千万ドル、つまり訓練とか、あるいは留学生の教育用の費用、そういうものは役務と違います。しかしそれ以外の役務、つまり役務が比較的多く含まれておる完成品、そういう消費物資でない、役務が多く含まれておるもの、そういうものが桑港条約の精神である、そういうふうに考えております。
  112. 穗積七郎

    穗積委員 こうなると経済の計算ですから、専門家の高碕さんの御意見を伺いたい。ちょっと話が違うので、そんなことまで役務だなんて言い出したら、実務ならざるものはなくなってしまいますよ。それでキャピタル・グッズと役務の区別の仕方が経済的に間違っております。そんな考え方でこの分類をやることは違っている。きのうのあなたの御答弁もそういう趣旨でなかったように私どもは聞いておるのだが、いかがでございますか。
  113. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 私は法律のことはよくわからぬのですが、サンフランシスコの平和条約を結びますとき、日本役務をもってすることが主体であるというように考えておりまして、これはどうしてやるのだろうと実はその解釈に非常に心配しておった。その点を今質問されておることと思うのであります。私はこの問題に関係するに当りましていろいろ考えました結果、今条約局長が言ったように役務を解釈しなしれけばできない、このように思っております。これは今相当国内の批判もあるだろう、また各政党間にも意見もあるだろうといって私は非常に心配したのでありますが、二十六年の六月の国会に、社会党を代表して鈴木委員長が、役務だけでやっておってもできないじゃないか、それについては相当資本財もやらなければ賠償は完済しないではないか、こういう御質問があったのであります。そのとき私どもは民主党でございますが、自由党の総裁であった吉田総理が答えられまして、まさにその通りだ、役務だけではいかぬのだからできるだけ資本財もやり、できればほかのものをもってやりたいという、両党の首脳者のそういうりっぱな御解釈があったものでありますから、これで私は安心して賠償ができる、こう思ったのでございます。
  114. 穗積七郎

    穗積委員 そんな論理では私はごまかされませんよ。鈴木委員長を引っぱり出そうがだれを引っぱり出そうが、理屈の通らぬことは理屈の通らぬことで、おそらく鈴木委員長はそんなことを言ったのではないと思う。サンフランシスコ条約の規定の仕方が遅う、役務賠償ということをそういうことにするのはごまかしだ、そういう意味だと思うのです。
  115. 中川融

    中川(融)政府委員 私数年来賠償交渉に携わっておりまして、サンフランシスコ条約十四条の解釈について、当事者としてのわれわれの考え方を御説明いたしたいと思います。サンフランシスコ条約十四条の役務賠償の規定、これは確かにむずかしい規定です。正直のところ、ずっと読んでみましても果して何を意図しておるのかということがちょっとむずかしいのであります。この規定に役務ということが書いてあるのであります。同時に最後の方を見ますと、「外国為替上の負担を日本国に課さないために、」という条項がついておりまして、そのために原材料は当該国が持っていかなければいかぬと書いておるのであります。一体ほんとうの意味の純粋の役務に限るならば、外国為替の負担を課さないためにということを書く必要がないにかかわらず、ここにこの規定が書いてある。それから見ればこの十四条の趣旨とするところは、日本の生存に必要な経済の自立ということ、及びその一環として外国為替上の負担を日本に課さない、この二つが大原則であって、それから役務賠償という結論が出てきておるのではないか、こういうように解釈せざるを得ないのであります。それでそういたしますと……(穗積委員「あなた方は解釈を先にして文章を書いたんだろう」と呼ぶ)条約の解釈の問題でありますそういたしますと、原材料でも日本で産する原材料であるならば、外国為替上の負担ということには直接当てはまらないのでありまして、生産物でありましても原材料が日本産のものであるならば、これはやはりサンフランシスコ条約第十四条で出せるのじゃないか、こういう結論になったのであります。問題はさらに外国産の原料を使った日本の生産物ということが問題になるわけであります。これは正確に言えば、まさにサンフランシスコ条約第十四条にはどうしても当てはまらない部分が出てくるわけであります。しかし個々の生産物につきまして、どの部分が一体国産の原料に当るかということになると、これはほとんど計算不可能でありまして、また現実の問題としては、ほとんど考慮に入れる必要がないくらいのものであるのであります。従ってこれは高碕長官の言われました三年前の国会の御審議、国会でのいろいろ御検討の結果もあり、すでに政府としては、その限度のものならば、サンフランシスコ条約の十四条の精神に反するものではないという結論を、実は三年前より得ておるのでありまして、それに基いてビルマ賠償協定も作りましたし、今度の日比賠償協定も作りましたし、今後のインドネシア等も、おそらくその解釈に従って作られることになると思います。この点は正確に言えば、確かに法律上若干の疑念はあるところでありますが、これは昨日条約局長が説明いたしました通り、サンフランシスコ平和条約趣旨にのっとってということで、必ずしも、そのものずばりで規定しておるということは書いてないのでありまして、そこに若干の食い違いがあるという事実は、われわれとしても決して否定し去ろうというものではないのであります。
  116. 前尾繁三郎

    前尾委員長 穗積君、午前はこれで休憩しませんか。
  117. 穗積七郎

    穗積委員 議事進行。あなたはここで休憩しようという御提案ですが、午後にまだ大臣に対する質問も予定しておるのですけれども、出ていただけますか。――それではその点は委員長に御一任いたします。
  118. 前尾繁三郎

    前尾委員長 大蔵大臣も二時に来ますから……。  それでは暫時休憩して二時から再開いたします。    午後一時二十一分休憩      ――――◇―――――    午後二時十六分開議
  119. 前尾繁三郎

    前尾委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を継続いたします。穗積七郎君。
  120. 穗積七郎

    穗積委員 日比賠償について大蔵大臣にお尋ねいたします。  問題は、先ほどから言っておりますが、賠償を早く済まして東南アジア諸国との間に国交を回復し、平和貿易促進をするということは、われわれの積極的に歓迎するところ、でございます。ただし具体的に賠償の取りきめが行われますことになれば、問題はその総額と中身と方法でございますが、率直に、今時間が無駄になりますから、あなたはこれをごらんになって、しかも交渉に当られる場合の経済閣僚の元締めとして、いろいろ方針をお立てになったと思うのだが、これはちょっと多過ぎると思うのです。これをおのみになった以上は、大蔵大臣としては財政上の立場も考え、しかも国民経済との関係から、五億五千万ドルというもの――あとの一億五千万ドルについては別途質問いたしますが、賠償額の五億五千万ドルというものは、日本経済にとって相当な圧迫になると思うのです。そしてこのことは、同時に他の被賠償国、未解決あるいは解決した国もありますが、ビルマにいたしましても、これは外務大臣にお尋ねすべきですが、その五条において、再検討することが約してあります。それからインドネシア、ラオスその他でございます。その他対外債務というものは、未解決のものが相当なものでございます。それらに与える影響も、この五億五千万ドルという数字と中身が影響することは、申し上げるまでもないことでございますが、それらを一括してごらんになって、その中心とも言うべき日比賠償の額並びにその内容について、これはいささか消化不良になるというふうにわれわれは思うのですが、大蔵大臣は一体どういうふうにお考えになっておられますか、五億五千万ドルの数字的な基礎を一つお示しいただきたいと思います。
  121. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 賠償考えるに当りましては、今お話のように、すでに相手国との国交を親密にして経済提携をいたし、両国経済上の繁栄を誓えていくと同時に、賠償を払う国、特に日本の国民負担がそれに耐え得るかどうか、この両方を考えてやって参ったわけでありますが、フィリピンの場合に賠償金額五億五千万ドル、あの支払い条件、でありますれば、私の考えるところによりましては、今申しました二つの条件を満たすのに妥当である、かように考えておるわけであります。すでにきまったビルマ賠償に影響はないか、こういう点につきましても十分考慮いたしまして、あの条件では私の考えでは、ビルマの方が特にまた新しく要求してくることはない、かように考えておるわけであります。インドネシアの今後の賠償については、そういう見地からそういうことのないようにやっていかなくてはならぬ、かように考えている次第であります。
  122. 穗積七郎

    穗積委員 それではインドネシアはどのくらいにするつもりですか。それから続いてお尋ねしますが、ビルマは、ビルマ条約第五条の三項でありましたか、これは再検討することになっております。それは幾らにするつもりでございますか。それで国の経済は心配がないとおっしゃるのか、ほかの国に対する大体のつもりを聞きたい。そうあっさり言われては困る。あなたが出すのじゃない、国民が出すのです。幾らにするつもりですか。それではあなた経済閣僚として、交渉の結果は外務大臣がやるにしても、あなたの腹づもりでは一体ビルマに対する支払い増加については幾らで押えるのか、日本経済の規模から見て結論を聞きたい。逐次お尋ねしますから、ビルマからやって下さい。
  123. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 ビルマとの関係におきまして、今回のフィリピン賠償のあの内容からいたしまして、ビルマはさらに例の援用条項を用いまして新しい請求をしてくる、かようなことはないという考えで日比賠償を取りきめておるわけであります。私はそういうことはない、かように考えております。
  124. 穗積七郎

    穗積委員 それでは逐次お尋ねしますが、何を根拠にそういう交渉をなさいましたか。ビルマ日本国との平和条約の五条の三項に、「日本国は、また、他のすべての賠償請求国に対する賠償の最終的解決の時に、その最終的解決の結果と賠償総額の負担に向けることかできる日本国経済力とに照らして、公正なかつ衡平な待遇に対するビルマ連邦の要求を再検討することに同意する。」と書いてございます。従ってこれは弾力性がある条約規定になっている。それをあなたはビルマには一文も出さぬつもりだ、フィリピンは五億五千万ドル出しても財政上負担はないとおっしゃる。それですら私は疑問でございますが、まあそれはあとのことにして、ビルマには一文も出さぬつもりだとおっしゃいますが、一体どういう交渉をなさったか。この協定によって向うから交渉があったときはどうなりますか。それではあなた一文も出さぬとここで確信されますか。ビルマとの交渉の結果を一つ報告してもらいたい。
  125. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 ビルマが再検討を求むる、こういう権利を持っているということ、それを私は何も否定するものではありません。そういうことはあるのでありますが、これは要するにビルマが他の、たとえば日本フィリピンの場合、あるいは将来日本インドネシア賠償、それと自分の結んでおる賠償と比較して、自分の方の賠償が不利だから、それで要求する、こういうことになると思うのであります。私の見解では、今日結んでおる日本フィリピン賠償、これに基いて当然ビルマがそういう請求をなすとは考えていない。言いかえれば、日本フィリピンとの賠償日本ビルマとの賠償はそれぞれの根拠がありまして、バランスがとれておる、かように私は考えているわけであります。
  126. 穗積七郎

    穗積委員 初めビルマとの交渉では、フィリピンとの関係においては、多分私の記憶では一対二の比率で要求してきたわけなのです。増額要求がないということをなぜおっしゃいますか。条約上は再検討するということを約束してある。それではあなたは払わないということをここで言明されるか。払わないように努力するということなら別です。なるべく少くするというふうに努力するというなら話はまた別ですが、あなたは財政上の計算では、フィリピンに対して五億五千万ドル払っても、ビルマに対してはゼロという計算で日本の財政計画は立つという説明だから、それはちょっとおかしいじゃないかというのです。ビルマはそんな勝手なことを言ったら怒りますよ。
  127. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 どうも食い違っておるようですが、ビルマは再検討される自由な立場にある。再検討されていよいよ日本に何らかの請求をするか、これは将来具体的になってみなければわからないのでありますが、そういう場合にでも、日本ビルマに対する賠償フィリピンに対する賠償はそれぞれ十分バランスがとれておって、特にまた新しくビルマに対して負担を増すことはなくて済む、私はかような考え方、かような考慮のもとにフィリピン賠償ができたかように申しておるわけであります。
  128. 穗積七郎

    穗積委員 そんなことがあるものですか。それじゃ次々に関連して、各国から賠償その他の支払い未解決の問題が多々ありますが、それらとの見合いにおいてわれわれはものを判断しなければならない。そこでこの問題に対して私は大蔵大臣に特に日本の財政負担についてお尋ねするわけです。あなたは日本の国民のふところを預かっておるその感覚からおっしゃっていただかぬと、今のように国内の予算については財布のひもを締めておるけれども外国に対しては開きっぱなしみたいな話をされては困る。
  129. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 それぞれの国に賠償を払う場合に、先ほどから申しましたように、第一国民の負担ということを考えるのはむろん、特に大蔵大臣としてはその点に重点を置いて考え、同時に今度賠償を払った後において、それらの国と国交が緊密になり、そうして経済的な共存共栄もなっていく、こういうことも考慮してすみやかにやる。そういう場合にさらにある国と他の国と数ヵ国に賠償を払う場合は、それらの間の賠償関係も実際の具体的な条件に対応して公平にいくように考えていく、かように考えておるわけであります。
  130. 穗積七郎

    穗積委員 そんな抽象的なことを伺っておりません。あなたは金を預かっておる人ですから、従ってこの五億五千万ドル……。(発言する者多し)委員長に言うが、与党の諸君が議事妨害をするなら審議しないよ。ニコヨンが来やがって大きな声を出すなら、議事妨害するなら審議しないよ。委員長、注意して下さい。  私はそういう抽象的、観念的なことを言っているのではないのです。もうすでに額と内容支払い方法が決定されておるから、それについて具体的なあなたの意見を聞いているのです。あなたはこの五億五千万ドルを決定する場合には、むろんその決定については経済閣僚の中心として、国民の財布を預かっておる方ですから、これに参画されたと思う。参画されてこれに最後に賛成をされるときには、この五億五千万ドルを決定したならば、ビルマに対してはどういう影響をするだろうか、それからさらにインドネシアに対しては一体どういう影響をするだろうか、ラオスに対してはどうかということを一々お考えになったと思うのです。お考えにならないでそういうことは決定できないのです。だから平和条約においては日本経済の自立を害しないという程度で、日本経済はそれらのすべてを考えて、他に対する賠償またはいろいろな平和条約に伴います補償、または借方のたとえばアメリカに対する債務あるいは在日外国財産に対する補償の問題等々、これらの支払い義務を負った同じ平和条約から淵源しておるのですが、それに対する負担の額が決定されるわけでしょう。そのと遂にフィリピンに対する五億五千万ドルを決定するならば、ビルマに対してどのくらい、それからインドネシアに対してはどのくらい、さらに中国の問題はどうであろうか、あるいは興国の在日財産請求の問題にどういう影響をする、であろうかということをお考えにならないで、五億五千万ドルを御決定になったとは私は考えられない。お考えになったのでしょうか、どうでしょうか。
  131. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 そういう点を考えてやったということは、もう先ほどからたびたび御答弁申し上げておるわけであります。
  132. 穗積七郎

    穗積委員 何ですか、よく聞きとれませんでしたが。
  133. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 今御指摘の点を考えてきめましたことは、もう繰り返し御答弁申し上げておることであります。
  134. 穗積七郎

    穗積委員 それではビルマに対してはどのくらいで押えるおつもりでございましょうか、逐次お尋ねいたします。検討したというが検討しておらぬじぁないか、横着な答弁したってあかんぜ。
  135. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 質問の何がよく聞きとれませんでしたが……。
  136. 穗積七郎

    穗積委員 私がさっき言ったのは、五億五千万ドルそのものについても、実はこれは税金で払われるわけですから、日本の国民負担に対して一体大蔵大臣は適当とお考えになったかどうかと言ったら、これについては払えるつもりだと言った、それについても私は疑問がありますが、同時にそのことに対して、あなたが気やすくこのくらいのものを払っても何ら差しつかえないということをおっしゃるならば、五億五千万ドルにとどまりませんぞ、これは続いて賠償関係からだけ見ましても、ビルマに対しましてすでに決定したものですから、この五条の第一日によってまた再検しなければならぬ。するとその空気も考えておかなければなりませんでしょうし、さらにインドネシアに対してもそうじゃございませんか。さらにラオスに対してもそうではございませんか。そのほか平和条約に伴いましてわれわれが補償または支払いをしなければならぬ金というもので未解決のものは累積いたしております。この額もフィリピンとの賠償関係が五億五千効ドルに決定したことが、他の国との関係において、フィリピンに対してこれだけ負担するなら、わが国に対してはこれだけの負担をすべきだし、これだけの要求をされても文句がないはずだ、払えるからこういうことをきめたのだろうということになって、逐次これが基準になって影響しますが、そのときにそれらのことの見通しをつけた上で五億五千万ドルを決定されたと思う。それに対しては検討したというのでありますから、それで具体的に一つ一つお尋ねいたしますが、ビルマに対しては第五条第三項の規定によって、向うが再検討を要求したときは、日本の財政規模から見て幾らに押えられるつもりか。その交渉の結果は外務大臣の責任ですからどこでとどまるか知らないが、大蔵大臣が日本経済の財政負担の規模において考えるときには、幾らが適当とお考えになるかという判断を伺っておるのです。その判断なくしてはやったはずがない、五億五千万ドルを決定したはずもないし、検討したというから具体的にお尋ねするわけです。
  137. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 その点は二つあると思います。一つはフィリピンに五億五千万ドルの賠償をしたために、ビルマが今御指摘の条項によって、再検討して、さらに日本に新しい要求をしてくるかという点が一つ、私は、再検討はされるかもしれません。それは先方のやることであります。しかし再検討して新しい要求をビルマからすることはないように考えております。それはなぜそういうふうに言うかといえば、私はこのフィリピンに対する五億五千万ドル、それからビルマに対する一億ドル、これはむろんいろいろお互いにさらにこまかい条件がありますが、それはそれぞれ適当な賠償額であると考えるからであります。それから日本支払い能力の上において、これは日本としてはできるだけの賠償を奮発しておるのでありまして、ビルマに対して二億ドル、フィリピンに対して五億五千万ドルというものは、日本が今日出し得る一番大きな金額、従ってこれ以上私は出すことは考えていないのであります。
  138. 穗積七郎

    穗積委員 だから前に戻ります。時間が食うのはあなたの答弁が悪いからこういうことになるのですから、ちょっと御注意申し上げておきます。  そこであなたはビルマに対して――ビルマはこの五条の三項を援用して、向うから再検討を要求する権利を持っております。権利を持っておるが、それに対してはおそらくないだろうと言う。だから財政負担の見積りでは、ビルマに対してはあと増額分はゼロという計算で五億五千万ドルをのんでおる、あなたのお話ではこういうことなのです。それでは続いてお尋ねするがそれならばフィリピン協定をやる前後にビルマがこの五条の三項を援用して増額要求をしてこないという見通しを立てられるなら、あなたはそういうことを立証するに足るだけの根拠がなければなりません。どういう具体的な根拠に基いてそういう判断をしておるかということを開いておるのですから、お答えをいただきたい。
  139. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 それも今案は答弁をしたわけであります。なぜそういうような増額要求をしないであろうかということは、フィリピンに対して五億五千万ドル、ビルマに対して一億ドルということは、それぞれの国に対する日本賠償額として最も適当である、言いかえればまた同時に両国の関係においてもバランスがとれておる、均衡がとれておる、こういう見地に立っておるからだということを申し上げておるのです。
  140. 穗積七郎

    穗積委員 これ以上の改訂はないというならこの条約文は一体何です。この五条三項は何ですか。条約局長にお尋ねいたしましょう。外務大臣ならばなおけっこうです。この条文は何のためについておるのですか。
  141. 下田武三

    ○下田政府委員 この規定をよく読んでみますと、これは「他のすべての賠償請求国に対する賠償の最終的解決の町に、その最終的解決の結果と賠償総額の負担に向けることができる日本国経済力とに照らして、」とあるのであります。賠償の最終的解決をするときと申しますのは、ただ協定が締結されたということだけを意味するわけではありません。フィリピン協定が締結され、インドネシアが締結され、それの全部の実施が終ったときに、その全部の実施ぶりの結果と、もう一つのファクターは、これらの賠償総額の負担に向けることができる日本国経済力とに照らし、そうして「公正なかつ衡平な待遇」と申しますと、つまり平等待遇ではないわけであります。フィリピンが五億五千万ドルというなら、ビルマも五億五千万ドルという平等待遇ではないのであります、公平な額であります。従いまして御指摘のような問題が発生いたしますのは今ではなく、まだまだ何年も先のことでございます。それでありますからアンノン・ファクターがたくさんあるわけであります。もとよりこういう条項がございますから、ビルマが再検討を要求してくることがないとは申し上げられません。しかしながら現在申し上げられることは、大蔵大臣がおっしゃるように、日本としては最大限の、しかも十分均衡のとれたところと思って、フィリピン賠償も解決しておるのであります。またインドネシアの将来の賠償も、十分均衡のとれたものとしてつり合いを考えながら、そして日本の方で許す限りの賠償をやるわけでありますから、初めから日本では負担の不公平というようなことが起らないように心がけて、常に各国との関係をにらみ合せつつやっていくわけでありますから、御指摘のような問題を起さないようにするというのが、日本賠償問題に関する基本方針なのであります。ただいまからアンノン・ファクターを飛び越して、先のことを申し上げることはできないのであります。
  142. 穗積七郎

    穗積委員 それも条約局長の言う通りです。従って大蔵大臣の答弁は誤まりですよ。これはゼロに計算するなんてばかなことはない。だからむろん本年度予算でどうするということを開いておるのではない。あなたは大蔵大臣にいつまで就任されておるか知らないが、あなたの就任中というのではない、日本国民全部ですよ、あなたが決定したことは子々孫々まで、すなわちこの協定に従って二十年間はわれわれの子供が負担しなければならぬのです、それを言っておるのです。その全体のワクを言っておるのです。だから条約局長どうですか、これは要求をしてこない、再検討を要求してこないなんということを、確定的に言い切ることができますか。できないじゃありませんか。ビルマとの交渉の経過においては、フィリピンに対して四億ドルを想定してそれできまった。それが一億五千万ドルふえる、しかもプラス・アルファーでごまかしでありますが、一億五千万ドルもついておるということになれば、他の賠償額そのものについても、四億ドルを想定して決定したものに対して、一億五千万ドルのフィリピンに対して水増しがあるから、――ビルマで特に問題になるのはフィリピンに対する賠償ですよ。だから二億五千万ドルの経済借款がついておるというなら、賠償だけの形でなくてよいから、賠償プラスどれだけ、さらに経済援助プラスどれだけほしいということを言ってくるのは、この第三項によって当然の権利であります。それに対してわが国の経済負担は、ビルマに対しては今まで既定のものだけだ。それ以上はゼロだというようなことを大蔵大臣がここで答弁することになれば、外務省は一体何でこんなものを結んだのだということになります。話がおかしいじゃありませんか。
  143. 下田武三

    ○下田政府委員 現在のところ、先ほど申し上げましたような規定の精神からいたしまして、なるほど再検討の要要があるかもしれませんが、日本側といたしましては、ビルマをふやしたりなんかする必要はごうも認めないということを、大蔵大臣がはっきり申されたわけでございます。これは日本側の立場は当然そうであるべきであると思います。
  144. 穗積七郎

    穗積委員 これは何でもそうですよ。ソ連に対する交渉だって何だってそうだ。それで魚については五千万尾、六千万尾はどうしてもとらなければならぬというのが、三千何がしかに切られて帰ってくるのですよ。それと同じことなのだ。そんなことは自分の気持を言ってるのだ、自分の気持はゼロだと言っている。――しかもそんなことを要求するということはない、ということを大蔵大臣が言明される以上は、この三項は一体何のために決定したかということです。外務大臣はこの間の交渉については御存じでしょうから、もう少しはっきりした答弁をしていたきただい。そんなごまかしでこの問題を審議したのでは、国民に対してわれわれ責任を来すことはできません。
  145. 中川融

    中川(融)政府委員 この再検討の条項をどういう趣旨で締結したかということでございますが、このビルマとの協定を結びました際には、まだフィリピンとの話ももちろんついておりません。大野・ガルシア覚書というものが破棄されたという事実を前にしてこれを締結したのでありますが、果してその後日本が幾らの金額フィリピンと交渉するか、あるいは話をきめるかということも、そのときはもちろんわかっておりません。あるいはフィリピンは当時十億ドルということを言っておりましたから、十億ドルで話がきまるのじゃないかということも、先方としては想像していたかと思います。いずれにせよ、先方が二億ドルという金額を持って国に帰るに当っては、要するにほかの国との賠償がきまらぬ先に、どうして自分のところだけ一億ドルできめたかということを国民に対して説明するのに、どうしても、何か将来日本がもう一ぺん見直してくれるという意味の規定がないと、国民に説明ができないからということで、この規定を入れたのでございます。しかしながら規定の内容は、ただいま条約局長が御説明申し上げました通り、これは再検討、リエグザミンということでございますが、日本がリエグザミンをするということを、この協定締結の際に同意したのでございます。しかしこれは、このリニグザミンの内容を、ビルマとの協議によってきめるという書き方ではないのでありまして、日本がこれを再検討するということになっておるのでございます。従って日本の意思ということが相当大きな要素になると考えておりますので、ただいま大蔵大臣が御説明いたしました点も、その大きな意思を構成する日本政府の今の考えはこういう考えであるということを、申し上げたわけであります。もちろんこの再検討は現在の問題ではありません。数年後の問題でありましょう。しかしただいま政府としてはそういう考えである、ということを申し上げたわけでございます。
  146. 穗積七郎

    穗積委員 幾らあなた方外務省両局長が大蔵大臣の横、右な答弁を弁護しようだって、そんなことでわれわれはごまかされません。ということは、こうじゃないですか。大蔵大臣の考えとしては、フィリピンに対しては五億五千万ドル払うが、ビルマに対してはこれ以上増額しないつもりだ。それは経済の立場から見てそれが望ましいからだ、というだけの答弁ならよろしいよ。そうじゃなくて、第三項があるけれども、これは考えてない、要求はしてこないつもりだ、というような外交上の話をするから、外交上のそういう判断をするのなら、何か外交上の根拠があるだろう、ビルマと何か話をしたのか、と聞いているのです。つまりこの規定を死文にする見通しなのだ、協定はあるけれども実際は効力がない、向うは援用しないという見通しに立っておる、という外交上の見通しについて発言をするから、そんならどこで一体あなたは話をされたのか。どこからどういう話を聞いてそういう見通しをお立てになったのかということを聞いているのだ。私は外交上のことを直接大蔵大臣に聞くことは不適当だと思うから、あなたは一体ビルマに対してはこれ以上払うつもりか、それとも払わぬつもりか、どういうつもりか。果して五億五千万ドルだけにおきめになったのかどうか、ということを聞いた。そのと遂に大蔵大臣は、ビルマに対しては、日本の財政規模としてはこれ以上払いがたいという趣旨、で進むつもりだという、主観的なというか、国内経済の立場を説明されるだけならよろしいが、それを進んで、お前らは何をつまらぬ心配をしているのだ、そんなことを言ってくる心配はないのだということを言うから、それでは事外交にわたるから私は聞いているのですよ。何なら条約局長なりアジア局長にお尋ねしますが、そういう見通しをした発言をあなたが弁護されて正しいものだとされるならですよ。外務省がそれを公正だとするならば、オーソライズされるならば、どういう交渉によって一体この第五条第三項を向うは援用してこないという確証を得られましたか。そんなことはわれわれはまだ聞いておらぬ。だから両方からお答え下さい。大臣、そんななめたような答弁したってあかんぜっ。
  147. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 お答えいたします。私が申し上げるのは、ビルマが御指摘の条項によって再検討して、新しく日本に追加請求をすることはないかというふうな御質問でありましたが、これは経済的なあるいは財政的な見地から、それぞれの国について妥当な賠償をしているのだから――もちろん先方ビルマがそういうふうな権利を持っておるものを、何も私は否定するわけじゃない、再検討もするし、請求もするであろうけれども日本の大蔵大臣はそれはそれぞれ適当な賠償をしているのだから、そういう増額の請求はないであろうことを期待しておる、こういう意味なのであります。そういうことを申し上げたのでありまして、あるいは若干言葉が足りなかったかもしれませんが、それは今申し上げた通り趣旨で私はお話をいたしておるのであります。
  148. 穗積七郎

    穗積委員 これはいわば先ほどの大蔵大臣の御答弁は不適当で、補足修正されたと私は理解いたします。それで初めて話がやや合ってくる。そうすると、ビルマに対する関係は不確定状態であるということがはっきりした。こちらの主観的希望としては、要求せざることを期待するし、また増額要求があっても、できるだけ払わぬようにしたいという希望を、大蔵大臣は日本国民経済の財布からそういうことを主観的に希望する。しかし条約上は――われわれは条約上判断しなければならぬが、条約上は明らかにここに明文が書いてある。書いてあるならば、確定したものは、不確定要素プラスアルファとしてここにビルマは強く要求して残しておるわけです。つまりビルマはこれについて一番先にどの国に対してどういう支払いをするか、日本経済が苦しい苦しいと言って、払うのを渋っておるけれども日本経済が将来伸びたならばそのと遂にはもっとよこせという強い要求があるから、こういう不確定な珍しい条文が残っているのですよ。だから今言ったような説明ではわれわれは納得がいかない。だから大蔵大臣がこういう条文があることを知っていながら、これ以上出せない、出しがたい、出すことを要求してこないことを期待すると言ったって、それだけでわれわれは納得するわけにいかない。というのはこの条文を援用して増額要求、再検討を要求してくることは、われわれの判断によれば明瞭だと思うのです。そこでこの問題を処理するためには、今おっしゃったような主観的な横着な答弁だけでは、ビルマは納得いたしません。さらに何らか経済的な提携なり援助なりの対策というものを、日本の外交は具体的に考えなければならないと私は思う。それでビルマ側がこれを納得するかしないかという問題が次に残るのだ。今の大蔵大臣みたいな横着な答弁向うが納得するはずはありませんよ。ビルマがこの規定を援用してこないようなためには、こちらからもっと積極的にビルマの建設に対して協力する親切な、そしていろいろな経済外交上の手を打ってこそ、初めて第三項の援用を事前に防ぐことが、できると思う。それについて高碕長官はどういう御所見を持っておられますか、伺っておきたい。
  149. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 いろいろ御一議論がごございましたが、秋はやはりビルマとすれば、事のいんにかかわらず、この条項に応じて何かの申し出はあるものだと覚悟しておったのであります。それにつきましては、ビルマフィリピン賠償の比率をどれくらいにするかという問題が根本問題であります。最初日本考えた、フィリピンが四に対するビルマが一だということになれば、こういうことの解決だとすれば、必ず問題は起ると思います。かりに中途で、私どもの用いておりまする――これは公式に聞いたのではありませんが、二対一だ、こういうことでビルマ承知してくれるものだとすれば、私はかりにビルマからこの要求があっても、拒絶するだけの根拠はあるものだと存じておるわけです。これは何と申しましても、現在ビルマに対しては一億ドル十年間で払うことになっておりますが、この倍ということは、四億ドルを十年間に払うことになります。四億ドルを十年間に払うということは、朝の議論になりますが、それじゃ五億五千万ドルを二十年間で払うということに対する国の負担というものはそう変らない、こう存じております。のみならず、四億ドルと五億五千万ドルというのは、一億五千万ドルの違いがあるというふうな考えでありましょうが、これはその意味において間違いがないことはわかると思いますが、その上にビルマに対しましては、現に日本政府は少くとも年に二百万ドルずつ責任をもって投資するというふうなことになっておりますから、この点はフィリピンの一億五千万ドルとは趣きが非常に違っておるわけであります。そういう意味におきまして、ビルマに対しても十分その点について考慮し、政府としては努力しなければならぬ。そういうことによってビルマ政府は納得し得ると思う。もしその衝に当って二対一ということで原則上承知してくれるというならば納得し得るという確信を持っております。
  150. 穗積七郎

    穗積委員 十分ではありませんが、大蔵大臣の答弁よりはやや良心的で、そういう説明なら、すべてではないが、やや国民を納得せしめ得ると思う。高碕長官の御説明がそういうことなら、だんだん話が明瞭になってくるし、政府考え方もしゃくし定木に考えていないことがややわかってくるわけです。ところが高碕長官に申し上げますが、この三項の規定というものをよく読むと非常にうまいことを考えている。ビルマがこの文章を考えたと思うのですが、これによりますと、ビルマが一番先にやって、それからフィリピンその他、ずっとたくさんある。そのときの国際情勢あるいは時の政府のやり方等によって、不公平になってはいかぬから、地ならしができるようにしてある。その地ならしの比較は、他のこれから続くであろうところの賠償国に対する賠償額の決定と比較していこうということが一つ、もう一つ重要な点は、日本経済の実力に照らして書いてある。これは将来われわれもそのことを希望する。今度のフィリピンとの賠償協定によってもたくさん取られたが、しかし貿易拡大するのだという希望を持っておる。もしその通りあなた方の論理でいって貿易拡大するということになれば、他の国に対する決定賠償額との均衡上、そんだけではなくて日本経済が伸びた場合の経済の実力との照らし合せ、すなわちビルマ支払いを決定したときの日本経済の実力の状態と、最終的に各国に対する賠償が決定した――何年後になるか、これはあとで外務大臣にお尋ねしたいと思うが、その決定したときの日本経済の実情から照らし合せるならば、日本ビルマに対する賠償額と日本経済の実力との比較検討について、その検討がまだ残されておる。そういうことになると、今おっしゃった通りに、フィリピンとの関係の二対一だけの要求ならおっしゃった通り説明がつく。またかの国に対しまして二億五千万ドルの経済借款に見合うぐらいの経済援助はしてやる、またするつもりだ、こういうことでございましょうが、日本経済の実力とビルマに対する賠償額との比較検討が今後問題になるときは、おそらくは前に決定したときよりは日本経済の実力というものは伸びておると思う。また伸びることをわれわれは期待している。そうなると、そのこともちゃんと抜け目なくこの条文には生かしてございます。従って今おっしゃったことだけの論理では十分相手を退けるわけにはいくまい。これは関連してお尋ねしたいと思っておったのだが、アジア各地の総合経済開発への何らかの協力、それの問題とも関連してくると思うのです。すなわちビルマに対する交渉は、日本経済援助方式とも関係する政治的な問題が出てくると私は思う。特にかの国は社会主義政権が一応できておる国でございますから、額だけでなく、経済援助方式というものが非常に問題になるのです。そういうものと政治的ににらみ合せながら、われわれはこの問題を解決していくべきだと思うのです。それに対しては重光外務大臣はどういうようにお考えになっておりましょうか。ビルマとの関係について御所感を伺っておきたいと思います。
  151. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 ちょっと経済問題に関係いたしますから、私からお答え申し上げます。このビルマとの条項でございますが、日本経済力が多くなれば、それに従って払うことは書いてありますけれども、これは公正、衡平ということを書いておりますから、ほかとの関係もあるわけでございます。しかしながら原則といたしましては、これはひとりビルマといわず、フィリピンといわず、賠償を受ける国に対しまして、現在われわれは日本経済力におきましては、これ以上払えないというところでこの賠償協定をいたしたわけであります。それ以外におきまして日本経済力がほんとうに発展してよくなってくるということになれば、賠償などという問題にかかわらず、できるだけ日本経済力の発展に従って相手国のために尽すことは、賠償問題と離れて実行いたすべきものだと存じます。これは日本の東南アジアに対する経済的な発展と申しますか、提携と申しますか、これの根本的方針でなければならぬと考えております。
  152. 穗積七郎

    穗積委員 大蔵大臣に続いてお尋ねします。次にはインドネシアについては幾らお出しになるつもりですか。
  153. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 インドネシアにつきましても、なるべく早く賠償問題を解決して、両国との親善関係を深めて経済提携もやっていく、そしてお互いに栄えていく、こういうふうな見地でできるだけ早くやりたい、かように考えております。
  154. 穗積七郎

    穗積委員 早くというのは当然でございますが、フィリピンに五億五千万ドルの賠償をしたならば、インドネシアに対してはどのくらいが妥当だと考えておられますか。といいますのは、今申したことは外交上のことを聞いておるのじゃない。国民経済と財政上の規模から見て、フィリピンに五億五千万ドルは多いかもしれないがのめるとおきめになった以上は、ビルマに対しては、他の経済的な協力関係を進めることによって、増額はゼロとして見込んでおるということなのですが、それでも不十分ながらやや説明がついてきた、ビルマに対しては、この三項による増額要求は押えるから、日本予算は組めるという見通しの一応の説明は、それは不十分ながら高碕長官の説明でやや説明がつかぬこともない。それでは次のインドネシアは幾らくらいのつもりでフィリピンを五億五千万ドルとおきめになりましたか。これは検討もしたとおっしゃったから伺っておきたい。
  155. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 まだ具体的な交渉についても、外務省として入っていないと存ずるのでありまして、今私どもとしては誠意をもって当るということ以外に、これ以上申し上げる段階でありません。
  156. 穗積七郎

    穗積委員 そういう抽象的なことは外交問題ですからあなたに伺わないでもいいのです。そうじゃなくて、できるかできぬかわからぬけれども――われわれは相手のあることですから、結果を伺っておるのじゃなくて、あなたはこの五億五千万ドルをのんでもへいちゃらだとおっしゃる。これはインドネシアに対しても、各国の賠償未解決国に対しても、続いてその五億五千万ドルが基準になって影響してくるが、検討なさったかと聞いたら、検討してきめたのだ、ビルマの側だけ見てきめたのじゃないとおっしゃるから、日本の財政規模から見て五億五千万ドルをフィリピンにきめたのならば、インドネシアに対しては、次には幾らくらいできめるか。これくらいならのめるということを検討なさったとおっしゃるから、それならば大体のお見通しとして、主観的でけっこうですから、どのくらいでおきめになったかということを聞いておるのです。大蔵大臣から数字でおっしゃって下さい。外交上の見通しは聞かぬでもよろしい。
  157. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 お尋ねの点は全く今後の交渉に待たなければならぬ事柄であって、今ここで私はこれだけというふうに申すわけに参らないのであります。
  158. 穗積七郎

    穗積委員 それじゃ一々やっておると時間がかかってしょうがない。全部僕は聞きたいのだ。ヴェトナムについてはどう、カンボジアは放棄いたしましたが、ラオスについてはどれくらい、さらにまたあとで伺うのだが、中国に対する賠償はどういうふうにお考えになっておるか知らぬが、これも考えておかねばならぬ。フィリピンに五億五千万ドルなら、中国に対しては幾らくらいが妥当か、そういうような問題が将来出てくる。従って重要な問題だから聞いておる。さらに賠償問題じゃなくて、外務省の資料、でも明瞭に示しておりますように、賠償でなく、その他の平和条約に基いて支払わなければならない対外債務というものが多数予定されております。それらの一々についても実は伺うべきだが、あなたがそういうふうにお答えにならないならば、日本経済総額から見て私どもが心配して質問しておるのは、年女歳々増額する軍事予算と対外支払い、この非生産的な費用、この二つの圧力のために、日本経済国民経済というものは非常な圧迫を受ける。財政上も、国民経済から見てもそのことを心配している。従って、この対外支払いの総額というものは全体として一体どれくらいを占めるのか、国民経済上妥当だとお考えになっておられるか。一つ総括的にお尋ねいたしましょう。
  159. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 結局御質疑の点は、どれくらいの対外支払い能力があるかというような意味と解するのでありますが、これは対外債務支払いの方式により、あるいは内容と申しますか、それらによっても異なりますが、同時にまた日本経済力の今後の推移によっても違ってくるので、今ここでどれくらいな支払い能力を持っておるかということを申し上げることは困難でもありますし、また私は適当でないと考えておるわけであります。
  160. 穗積七郎

    穗積委員 大蔵大臣にちょっと御注意申し上げます。われわれは外務委員でございますが、国政全体、すなわち国民生活の問題に対しても責任を持って国民にかわって討議しなければならぬ議員でございます。従って、あなたはそういうなめたような答弁をおやめになっていただきたい。態度がよろしくない。そんなことがわからぬということがありますか。経済五ヵ年計画を立てるのに、資本蓄積をどれくらい、対外援助をどれくらい、国の防衛計画も、軍事費をどれくらいにする、対外支払いをどれくらいにするという大きなワクがなくて経済建設ができますか。そんなふざけたような、なめたような答弁をしてはいけませんよ。対外投資についても計画を持っておられるでしょう。国内の経済五ヵ年計画についても、これは計画をお持ちにならなければならぬ。そのと遂に対外支払いはどれくらい押える、できるだけ押える、それは交渉の結果はわからないが、軍事費はどれくらいに押える、それから産業資金はどれくらいにいくという計画があるはずですよ。行き当りばったりで、そんな答弁をなさってもわれわれはそれで納得するわけには参りませんよ。もっと責任のある、誠意を持った答弁をしていただきたい。そういう態度で、この審議を進めようとされるなら、われわれ遺憾ながら協力するわけ、にはいきません。外務委員会に来て、そんなふまじめな態度はあなただけですよ。
  161. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 いや、私は何もふまじめな態度で御答弁を申し上げでいるの、ではないのでありまして、私はむしろ良心的に答弁を申し上げておるのであります。それはなぜかと申しますれば、今申し上げるように、そういう金額はなかなかはっきり言えるものではないのであります。ですから、私はむしろこのくらいだと言って、大ざっぱなことを言ってよろしいとおっしゃるなら、それはある程度言ってもいいでしょう。しかしそれだけ正確性はないのであります。まあ言い得ることは、大体今きまっておる賠償等からして、フィリピン賠償を入れて年間約五千効ドル、これに英米の外貨債のあれが約三千五百万ドルばかりあります。そうすると、今現実に払わなくてはならぬものは、年間約八千五百万ドル、これはもう当然払う。ですから、これを基準としてほぼ日本の今後の対外支払い能力はどれくらいになってもいいだろうというくらいな答弁しかできないのであります。あるいはこれを大ざっぱに一億ドル程度、その前後じゃないだろうかというようなことも一つの見方でしょう。ただしかし今言い得ることは、八千五百万ドルは十分払い得るということを申し上げて、それから先は今後決定するであろう対外債務内容によって、同時に、日本経済の今後の発展によって、具体的に、真実に考えていく以外に私は方法はない、かように考えておって、先ほどさような答弁をいたしたわけであります。
  162. 穗積七郎

    穗積委員 政府はこの協定の審議を急いでおられます。私もできるだけ協力したいと思っておる。ところが、あなたみたようなつまらぬ答弁をしては、一つことを二へんも三べんもやらなければならぬので時間がかかりますから、誠意を持ってやっていただきたい。実際言えば、こちらから質問しなくても、進んでこういう規模で、こういう国民負担になる、それについて国民を納得せしめるだけの誠意と努力が政府側にはなければならない。それをあなたは、質問しても質問にも答えないで、一つのことに対して二十分も、三十分もつまらぬことで時間がかかっておるということは、はなはだ遺憾なことですから、どうぞ一つ積極的に進んでやっていただきたい。  それでは第一に原則的にお尋ねをいたしますが、日本経済の規模から見て、今私が言いましたように、対外債務、対外支払いの問題、これは実は将来に決定しなければならぬものの方が多い、アルファが相当な額であります。そうしてさらに軍事費がどんどんと増額されてくる。この二つが日本経済建設なり民生安定のために、財政、予算の上から見まして、非常な負担になってきておるという大ざっぱな状況は、あなたはお認めになりますか、どうですか。
  163. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 財政的に大きな負担になっておることは率直に認めております。
  164. 穗積七郎

    穗積委員 そうなれば問題は、日本経済賠償支払いのための最初の条約であります平和条約にも、日本の自立経済を損じない範囲内においてということが原則になっておると思うのです。従って、そうなりますと、今言いましたような対外支払いの規模というよりは、むしろ日本経済の自立、拡大生産のための計画自身がなければならない。それこそが生産的な支出だと私は思うのです。拡大するために役立つもの、そういうことから見ますならば、対外支払いというものは全予算の何%くらいに押えておかなければならぬ、軍事費についても同様だと思うのです。大体のつもりがなくて経済建設計画というものは立つものではないと私は思っておる。そういうことで私は伺っておるわけですから、もう少し親切な、積極的な、国民を納得せしめるに足る答弁をしていただきたい。これは御承知通り国民も実は五億五千万ドルは高過ぎる、結局鳩山さんが弱腰であって、実際は八億ドルをのんでしまったのだというので、不満の種です。旧自由党の諸君は今こそ形の上では納得しておるが、腹の中ではこれは多過ぎるといって、非常に反対をされて、この委員会でも、少くとも四億ドル以下でなければ承知ができぬということを、積極的に発言された議員もたくさんあったのです。そういろ協定の審議でございますから、こういうことをやってもプラス・マイナスこういうふうに返ってくるのだ、これから続いて審議される他の賠償その他の支払いに対しても、大蔵大臣としてはこの程度に締めて、そうして国民にこれ以上負担はかけぬつもりだから、納得してもらいたいというだけの積極的な説明をなさらぬということはおかしいじゃありませんか。私はそれを言っておるのです。これは実は政府のために言っておるのですよ。だから、積極的にそれに対する計画も御説明いただきたいというのです。
  165. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 その点については、五億五千万ドルを二十年で払う、こういうふうに大ざっぱになっておる。しかもこれは資本財役務で、こういうことです。これは私は日本フィリピンとの賠償関係を解決する上において、決して国民経済あるいは国民生活に軽い負担だと考えておるわけじゃございません。非常に重いとも思いますが、しかし今日解決いたすといたしますれば、こういうところでいく以外にないだろう、そうしてそれは日本経済も負担し得る、こういうふうに考えて私はこれを認めていっておるわけでございます。
  166. 穗積七郎

    穗積委員 実は賢明なる大蔵大臣ですから、僕はもっといろいろなことに思いをいたしておられるだろうと予想して、一言私がお尋ねすれば、あなたの方からすべてにわたって説明していただけると思っておった。これは今申しました通りに、国民としては大きな負担ですよ。それを政府は国民に無理を言って実はフィリピンに対して義理を立ててのんだわけです。その苦衷を対外的に大蔵大臣として国民の台所にかわって訴えるくらいの熱意があって、この外務委員会へ来て言わぬようなセンスでは実にたよりない。ただ政府にかわって、野党の攻撃だと思っておるから、五億五千万ドルは多くはありません、予算として平気です、のめますというような軽い答弁をしておる。そういうことならフィリピンももっとたくさんとっておけばよかったということになる。その他のすべての国にしてもそうだ。アメリカにしてもそうです。口では、ない、ないと言っておるが、日本人というものは大体けちな国民で、しぼればしぼるほどあるのだということで、のんでこようとしておる。そういうやさきですから、これは大蔵大臣は、国民にかわって、これは実に血の出る思いでこの賠償に応じておるのだというくらいの答弁があってしかるべきですよ。これからも答弁について、政府並びに国民のためにちょっと注意申し上げておきます。  続いてお尋ねいたしますが、この協定第四条によりますと、効力発効のときから六十日以内に第一次年度の実施計画を決定することになっておるわけでございます。これに対して大蔵省としては、一体いつごろまでに、本年度の支払い実施計画は総額どのくらいのところで、組んでおられますか。
  167. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 御承知のように、六十日以内に細目を決定することになるのでありますが、予算では御承知のように賠償関係で二百三十億、そのうちすでに決定しておるのに百五十億あって、ただいま七十億の予備金を持っております。この予備金をもって充てるか、かように考えております。
  168. 穗積七郎

    穗積委員 予備金から支出する予定だということですね。そうすると、このことのために補正予算またはその他の新たなる財政措置は、必要としないというお考えで進まれるつもりでございますか。
  169. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 賠償特別会計の予備金七十億で十分まかなえる、かように考えております。
  170. 穗積七郎

    穗積委員 外務省は、大体これは他の委員からあるいはすでに質問があったかもしれぬが、順調に両国批准が行われたとして、実施段階に入る時期についての想定についての打ち合せがお済みになっておるかどうかしらぬが、外務省独自の御判断を伺っておきたいのです。それと本年度の額に対する見通しですね。それからもう一つついでに伺いたい。あなたは特に向うに行かれたわけだが、何らかの今年度に関する話し合いをなさったかどうか。その見通しの上に立っておられるか、希望見通しであるか、ある程度向うの実情を話し合った結果、正式な話し合いでなかったにしても、向うを打診した結果、このくらいのところでいけるという、そういう多少裏づけのある御判断ならば、そのことも説明の上で外務省の判断を伺っておきたいと思うのです。
  171. 中川融

    中川(融)政府委員 ほかの委員からもすでに質問があったのでありますが、いつごろ今度の賠償協定の第一年度の実施が始まるだろうか、契約がいつごろから開始されるだろうかという御質問があったのでありますが、その御質問に対しましても、効力発生の目から六十日以内に第一年度の実施計画ができる。第一年度の実施計画ができれば、すぐにでもフィリピン側はこの契約の交渉に入り得るわけでありますから、従って契約自体の話は相当早く行われるだろう。しかしながら現実の支払いは、契約ができましても、早いもの、でも三ヵ月、四ヵ月はかかると思います。従っておそらく本暦年の終りごろに大体支払いというものが始まるのではなかろうかという見通しをお答えしたのであります。なお今年度幾らの費用を負担するかということにつきましては、フィリピン側との話が、すでに協定の中にも書いてあります通り、沈船引き揚げに使いました費用は、第一年度の予算から差し引かれることになっておりますから、その分だけは当然減ることになります。しかしながらそれ以外に果して現実に予定しております金額が今年度にどの程度使われるだろうかということについての話し合いは、特にいたしておりません。これは先方から賠償実施に関する使節団が近く参りますから、その上でそういう計画が話されるということになると思います。
  172. 穗積七郎

    穗積委員 協定による最初の第一年度の二千五百万ドル、今年度も中途でございますが、これはオブリゲーションを負うわけですね。これに間違いないですね。
  173. 中川融

    中川(融)政府委員 二千五万ドルというのが、第一年度のと言いますか、一ヵ年に出す金額でありますが、その計算は、今度のでは効力発生の日から一ヵ年というふうに計算されます。従ってだいぶ本会計年度に食い入って初年度が始まるということになると思います。
  174. 穗積七郎

    穗積委員 それから外務大臣と経企長官はいわば担当のあれでございますが、大蔵大臣は特に来ていただいたわけですから、先に質問してしまいます。御了承おきいただきたい。  この賠償協定に付属いたしまして、実は経済開発借款に関する交換公文という形式であるわけですが、日本政府側の義務については、後に外務大臣からお尋ねしたいと思っておりますが、問題はこれを促進あっせんをする義務は持っている、結果については責任を負わない、こういうことになっているという説明でございますが、これも疑問でございまして、それは外務大臣にあとで解釈上お尋ねしたいと思うが、大蔵大臣にお尋ねいたします。コマーシャル・べ-シスでもって二億五千万ドル、二十カ年間でございましたか、やる。しかもこれは一方的な意思表示によって延長が可能だという取りきめになっております。合意の上ではなくて、一方的意思表示、しかも民間の個人または法人同士の取りきめになっているわけですが、日本の民間金融の資本の状況から見て、年額一体どのくらいがフィリピン――全部フィリピンに回すわけにいかないと思うが、フィリピンに対して可能性があるというふうに見ていらっしゃいますか、それを伺いたいと思います。
  175. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 これは私の考えでは、フィリピンの民間企業、それから日本の企業で、フィリピン開発のため、この共同声明にうたわれていることに該当する、そういう取りきめができれば、大体それに応ずる資金には事欠かなくていける、かように考えているわけであります。どれだけと言わなくても、これは大体トータルが二億五千万ドルであるから、資金的にはそう御心配にならなくてもできると思っております。
  176. 穗積七郎

    穗積委員 つまりある程度政府があっせん促進をすれば、この約束というか、目標額になっている一億五千万ドルの経済借款は、かの国に満足が与えられるという大体の見通しでございますか。
  177. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 年限の関係は別個ですが、大体私はやっていけると思います。
  178. 穗積七郎

    穗積委員 そうしますと、それと関連して、民間の自由な対外投資だけにまかせるわけにはいかなくなるでしょう。最近は、この委員会におきましても、東銀の堀江常務が来られて、私は直接伺いませんでしたが、金融家の立場から、なかなかいい意見を参考のために述べてお帰りになったようです。すなわちこれからの世界的な一つの対外投資の方式としては、在来のアメリカ方式とソビエト方式との二つが問題になって出てきているが、アメリカ方式はもう時代おくれになって、ソ連方式がこれから先勝ちを制することになるだろう。従って日本もこれからの対外投資については、その点十分考慮すべき問題だと思うというような要約した御意見のようでございます。私はその堀江さんという方は今までお目にかかったことはございませんが、実は非常に敬意を表しているわけです。何も私どもは、その御意見を私どもの党の考え方に有利だということで、我田引水をしようという意味ではございませんが、これは前から重光外務大臣または高碕長官も、対外投資方式、特に東南アジアなんかに対しましても、最近のナショナリズムの勃興とともに、それぞれこの地区に対しまするソビエトの経済援助が、アメリカのようにひもつきでない、すなわち投資日の利益のために考えるのではなくて、むしろ被投資国の立場に立ってものを考えていく、ほんとうの援助なのだということが、論や観念ではなくて、現実に行われているために、東南アジア地区においては中立的な立場をとる国々が非常に最近多くなってきておる。そしてますますこれが刺激になりまして、経済独立、または政治的に言えばナショナリズムでしょう、そういうような動きが強くなってきておる。高碕長官は、昨年とことしと比べるならば、フィリピンにおいても――いわばわれわれの言葉で言えば、フィリピンというのは、元来がアジア的な意識がない国民です。文化においても経済においても、アメリカの従属的な国であることを誇りとするような、そういうセンスの国であったのだが、実は予想外に民族独立、バンドン精神への立ち上りというものが驚くべきものだ。そういうような政治情勢経済情勢考えた上で、この協定を受け取ってもらいたいというのが、高碕長官の提案理由説明のときの補足説明であった。これはわれわれ非常に参考になりました。従って問題になるのは、この額の支払い、これは技術的なことでございますが、あとに続いた経済借款の方式、指導並びにこれだけではございませんでしょう。従って今のような、アメリカも資本主義の国でございますが、相当世界銀行その他を通じて、政治的計画と意思を持って対外投資をやっておるわけです。ソビエトは言うまでもございません。従って日本のこれからの対外投資、またはアジア、特に東南アジア、中近東に対する経済開発の援助方式というものは、これは国自身が責任を持って、国自身の計画に従って、経済外交として適切にやらなければならぬと思う。そういう意味で、私は今の資本の余力だけではなくて、そういう方式そのものについて、大蔵大臣は一体どういうお考えを持っておられるか、そのことを実は伺っておきたいと思うのです。と申しますことは、実は外務大臣は対外的な関係がありますから、そういうような帝国主義といいますか、あるいは植民地主義的な対外投資の方式というものはをやらないとは口では言いますが、実際はそれが真実であるかどうかを決定するのは、出ていく現実の資本の性格と条件によってそれがきまるわけです。その元締めとしての大蔵大臣の立場にお立ちになって、そうして今までの金融家としての深い経験と我見を持って、この問題を一体どういうふうにお考えになっておられるか、その基本的なお考えをこの際伺っておきたいと思う。あなたの発言は、私に対する説明だけでなくて、東南アジア諸国民に対します重大なる説明でございますから、そのおつもりで、この委員会を通じて説明をしていただきたいと思うのです。
  179. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 東南アジア地区と日本との経済提携、あるいは東何アジアの国発と言えば、幾らか言葉が不適当であるかもしれませんが、ともかく日本から東南アジア諸国に資金的な供給もいたしまして、経済をよくしてやる、その心がまえとして、今お話のようにまず受ける国のことを考え、受ける国のためになることを考える、これは申すまでもございません。同時にまた、それが資本を供給する国の利益になることも、言うまでもないことであると思います。そういうように共存共栄で行きたいと私は思います。そういう場合にしからばどういうふうな資本の性格といいますか、形態といいますか、そういうもので行くか、言いかえれば、国家資本で行くのか、あるいは民間にまかせるのか、こういう問題があると思いますが、私はやはり筋としては、できるだけ民間同士で手を握っていくのがいいと思う。しかしある過程において必ずしも民間にまかせきりではいけない場合もある。そういう場場合におきまして、国といたしましても、特別な措置考えていくことが適当である。私どもが今日たとえば東南アジア等に対しまして、何らかの投資的な機関を必要としないだろうかといって、具体的に研究をいたしておるのも、そういうところからきておるのでありまして、国並びに民間が十分協力をいたしまして、そうして東南アジア諸国に日本からできるだけの経済的な協力を惜しまない、進んでやる、こういうふうな体制を作っていきたいと私は思っております。
  180. 穗積七郎

    穗積委員 こういろ民間の対外投資だけでなくて、もう少し計画性を持ったものにするということで、政府の手による、または政府と民間の合資による、または民間だけの一つのアソシェーションを作って、そうして一つの日本の対外投資という性格を持たしめて、計画を持たしめて、今言いましたソビエトの対外投資の方式並びにその条件とおくれないような、そういう計画というものを、この際お持ちになってしかるべきだと思うし、またわれわれ仄聞するところによると、あなたと石橋さんと高碕さんの間で、多少おのおのお考えがおありになるようでございますが、そういう問題についてこの際明らかにしていただきたい。これはフィリピンに対するのみならず、東南アジア・バンドン諸国に対しまして、大蔵大臣なり高碕長官なり、そういう日本経済閣僚から、高邁なる方針と新しい考え方がこの機会に訴えられるということは、私は非常に大事なことだと思います。そういう感覚で積極的に少し中身にわたって、構想だけでもけっこうですから、鳩山内閣の閣議決定をしていない、それ以前のあなた自身の個人的な考えでもけっこうですが、この際伺っておきたいと思います。
  181. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 これは私の考えですが、私の考えとしては、日本が自身で計画を持って東南アジアに臨むということは、かえって先方の民族意識からして適当ではないだろう、むしろ援助を受ける相手国の経済上のいろいろの計画かおありになって、その計画を遂行するについて日本が協力していく、こういう格好をとるのがいいだろう、かように思っておるの、であります。従いまして協力の形態は、多くの場合はやはり合弁的な形になって具体的には現われてくるだろう、個々の国とある事業について、日本資本――資本という意味は、資本財並びに技術、そういう現物出資と結びついて、そうして先方で一つの事業がだんだんと完成していく、そういうことがさらにずっと総合的になってくると、私は一つの構想として、東南アジアにおける開発をする一つの公社的な存在がいいのではなかろうかと思っておりますが、これはまだ私の考えの域を出ません。
  182. 穗積七郎

    穗積委員 実は高碕長官は、今の経済閣僚の中で一番バンドン精神がよくおわかりの方と私ども思っておるのです。そうしてまたあなたはバンドン会議に行かれて、日本の保守党内閣が非常に古い考えを持っておるのじゃないかという印象を、まさに修正しなければいけないというようないい印象も、お与えになってお帰りになったようです。今度のフィリピンの交渉に当っても、向うからむしろ高碕長官を指名してきたくらいに向うは要望したということを、私は報道を通じて伺っておるわけです。従って私が今申しましたことは、これは賠償支払い並びにこれに付属するところの経済借款の供給のやり方、これはもう大体きまっております。それを管理するとまではいかないが、サゼスチョンは少くとも日本政府としてはできる。それ以外の、さっきビルマの問題について私は関連して申しましたように、そういうきまった義務だけを遂行するだけでなく、積極的な一つのユニットとしてのアジア・アフリカ経済の建設に対して、日本がほんとうに日本の利益のためでなくて、アジア全体の平等の利益のためにやるだけの精神がなければならぬ。そういうことをあなたは向うへ行かれて、そうしてまた向うの方々の日本経済に対する期待、あるいは反面から言えば、危惧も持っておると思うのだが、そういう立場からごらんになって、今の問題について、この際個人的な構想でもけっこうですから、明らかにしておかれることが、私は今後のバンドン地区の経済協力に対して、日本としては非常に益するところが多いと思いますが、単に私に対する答弁としてではなくて、広く対外的な耳にも達するという意味で、一つあなたの積極的な御構想を伺っておきたいと思うのです。
  183. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 私の考えております根本方針は、ただいま穗積さんがおっしゃった方針とちっとも変っていないのでございます。ただここで問題といたしますことは、相手国がありまして、たとえばフィリピンにいたしましても最初相当ども考えを――フィリピンのためにもよくなり、日本のためにもよくなる、日本からも投資したらどうか、こういうような話を初めからしたことがあったのであります。その当時は相手方は、お前はそんな要らぬことを言わぬでもいいのだ、損害を与えた分だけを払っておればいいのだというようなきわめて簡単な話だったものでありますから、まさにその通りだと言って引き下ったのでありますが、逐次話をし、こちらの精神がよくわかって参りまして先方もよく納得する、こういう状態になっておるわけであります。今日までバンドン会議に参りましたときにおいても、日本の過去においてとった方針――戦争前にとった方針、これは経済的の提携、五族協和、八紘一宇、いろいろな問題を出して結局は日本の侵略だった、日本という国は侵略国である、こういう印象が今なお相当植え付けられておるの、であります。この時に私どもがいかに高邁な理想を持って理屈を言おうが、それはかえって誤解を招くということ、これは私が一番先におそれておる点でございます。けれども根本の精神におきましては――私は露骨に申し上げますと、ビルマにいたしましても、フィリピンにいたしましても、インドネシアにいたしましても、日本から提供するこの賠償目的物は役務とそうして資本財である。この役務資本財だけ、では、これは有効適切に活用できないのであります。それで相手国にこれを有効適切に活用するだけの流動資金があるかというふうなこを考慮いたしますと、どの国もインフレーションについて困っておるというふな現状でありますから、そういう点から考えますれば、私は日本の力の及ぶ範囲において、日本経済力が増大するにつれて、できるだけ日本経済力をもって投資をし、あるいはこれに対する労務を出して活用するというところに持っていかなければならぬ、また場合によりますれば消費財の一部分、これはあるいは正常貿易を阻害するかもしれませんが、消費財の一部分でも、日本にあり余ったものがあって先方が要求した場合には、賠償目的物として持っていくというくらいの幅の広い考え方でやっていかなければ、私はこれは実行できないということを憂えておるのであります。この点につきまして、幸い私はフィリピンに予定よりも二日ばかり長らく滞在させていただきまして、主として民間の方々なりに御意見を聞いてみると私の意見と非常に一致しておりまして、この問題については、できるだけ外国の資金も容易に入り得るように骨を折ってくれぬか、日本の資金も入り得るように骨を折ってくれぬか、こういう内々の話もあっ九わけであります。この点はどうしても日本といたしまして、日本経済の許す範囲において、契約があるないは別といたしまして、できるだけ投資をしていくということに考えていきたいと存ずる次第でございますが、これに政府が入るとなると、また政府がこういう侵略方針をとったのだろうと誤解を受けるのであります。誤解を受けるということはいつも外交折衝上において困る、こんなに存ずるわけでございまして、できるだけ慎重にケース・バイ・ケースで考えていきたいと考えております。
  184. 穗積七郎

    穗積委員 議事進行で発言をお許しいただきたい。実は私は重光並びに高碕大臣に質問の途中で休憩になったのです。午後それを継続するつもりでしたが、一萬田蔵相がお見えになったので、一蔓田蔵相に関する質問だけ先にやってくれという御要望でいたしました。従って私はここで質問を打ち切りまして、一蔓円蔵相に対して戸叶委員その他から質問があるようですから、一蔓田蔵相に対する質問だけ先にやっていただいて、それからあと両大臣に対する質問に入るように議事を進めていただきたいと思います。
  185. 前尾繁三郎

  186. 戸叶里子

    ○戸叶委員 私が質問したいと思いましたことは、穗積委員が最初の二点にわたってなされましたので、私その点は省略いたしますが、私たちが賠償支払いということを考えましたと遂に、やはり何といっても日本経済に及ぼす影響ということがまず頭にくるわけでございます。そこで先ほどから穗積委員も、幾たびもビルマ等の例を引かれておっしゃっていられたと思うのです。私ども高碕長官にはこういうことを何度も質問申し上げましたけれども、国の台所を預かる蔵相といたしまして、一体今後のこの賠償額が日本経済に――私ども台所を預かる者たちの上にどれだけの影響を持ってくるかということが一番心配になってくるわけであります。先ほど伺っておりますと、午前中高碕長官もおっしゃいましたように、日本の今日の支払い得るものは、大体一年に全部合せて一億ドルぐらいだ、こういうことをおっしゃられましたが、結局賠償として支払うのが五千万ドルさらに対外債務で三千五百万ドルといいまして、それにまたインドネシア、ヴェトナムそのほかいろいろなところが加わって参りますと、これはもう一億ドル以上になりはしないか。そうなってくると日本国民経済が非常に圧迫されるのではないか、こういうことを私どもは非常に心配するわけでございます。しかし先ほどからこの問題につきましてはいろいろと質疑がかわされまして、私としてはどうも日本経済に圧迫を与えないというような政府の御答弁には納得がいきかねますけれども、同じ質疑を繰り返すことを省略いたしまして、この辺はどうも私どもの不満とするところであるという意思だけは表明しておきたいと思います。  それから次にお伺いしたいことは、この賠償支払いによって、一部の企業家は賠償物件の受注などによって利潤が増大するかもしれない、これによって拡大再生産を伴わないから、結局インフレを招くものではないかというようなことが巷間伝えられておりますけれども、この点に対して一蔓田蔵相はいかがお考えになりますか、そしてまたそれに対する対策をお持ちになっていらっしゃるかどうか。
  187. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 賠償が傾向といたしましてインフレ的であることは、私、申し上げるまでもないと思うのです。日本の場合におきましては、大体賠償資本財――日本に生産されるものと役務でいく、これが無償で外国に物は出る、国内にはそれにかわる円資金が落ちる、こういうことになります。従いまして私経済的に見ると、経済賠償によって相当繁栄を呈する形をとる。国家経済全体からいえば、そういう場合にその国内に落ちる円資金を吸収いたしまして、そしてこれがインフレ的に作用することを防ぐ方法をとっていく、かようになると思うのであります。そして物価をやはり上げないようにして輸出を増大して、原料の輸入を豊富にして、そうして雇用の機会を大きくしていく、設備が相当ありますし、それから、労働の力が相当あります、これに原料の輸入が相当増してきますれば、特に破綻なくしてやっていけるだろう、かように考えておるわけであります。
  188. 戸叶里子

    ○戸叶委員 さすがは一萬田大蔵大臣で、何か一萬田大成大臣の魔術にひっかかりそうに大へんいい御説明をしていただいたのですが、そういうふうに私はどうも簡単にいかないのではないかと思うのです。一部の方には非常に賠償によって潤うことがあっても、国民全体はむしろ税金を払わなければならないし、それからまたほかの面でも、たとえば防衛費ども、とにかく六ヵ年計画が立てられておりまして税金がかけられるというようなことになって、一般の国民が潤うということは、なかなかむずかしいことではないかと思いますけれども、一萬田さんのおっしゃる今の御答弁によりますと、この賠償を支払うことによってインフレを助長しないで、かえって仕事の方もふえるし、それからみんなが潤うのだというふうな御説明でございまして、この点私は大へん違うと思うのです。たとえば国民がそれに対して税金を支払わなければならないということだけでも、非常に負担になってくるのじゃないかと思いますけれども、この点はいかがでありましょうか。
  189. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 賠償がやはり国民の負担を過重するということは申すまでもありません。賠償のために特に税を取る場合国民を圧迫します。またそうしなくても、減税ができ得るところを減税ができないということもありましょう。これは申すまでもないのであります。従ってこの賠償というものがいろいろと考えられてくる。その点については私は何も反対な考えを持っているわけではありません。ただ賠償の払いが役務あるいは資本財でやりますから、それだけ経済規模がどうしても拡大されなければならない。雇用もそれだけふえなければならない。またふえるだろう。そういうところを私は先ほど申し上げたのです。むろん苦しい面もあるが、同時にやり方いかんによっては、必ずしもすべてが消極的な点ばかりではないということを申し上げたのです。
  190. 戸叶里子

    ○戸叶委員 苦いし面の方が多いのじゃないかということを私は心配するわけですが、この点は大蔵大臣の御答弁とは違うかもしれませんのでこのくらいにします。  次に経済開発借款に関する交換公文の中に、「商業上の基礎において正当と認められるところに応じ、返済の期間は長いものとし、利率は低いものとする。」ということがございますが、これは結局日本のある会社なら会社が、経済借款意味先方と協力をする場合に、当然その会社に対して、ある銀行の融資なり何なりが必要になってくると思う。つまりその会社フィリピンと結びやすいように、融資なり何なりが必要になってくると思うのですそのときにこの交換公文にはっきり、政府がこれに対して容易に促進させるという条項があっても、ほかの場合と違ってフィリピンとの関係の場合には、特別融資の点などでも考慮をしてやらなければならないというふうに了承してよろしゅうございますか。
  191. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 この経済協力につきましては、政府は特に考慮するという、義務づけられることは何もありません。
  192. 戸叶里子

    ○戸叶委員 義務づけられなくても、やはりそういう方面に携わる会社に対しては政府としてある程度の援助――援助でなくても、この言葉にあるように借款を容易に促進させるというようなことがはっきり書いてありますから、その面での融資の援助なり何なりが必要になってくるのではないかと思いますが、全然そういうことに対して、そうした会社にも考えてやらないでもいいわけでございますね。
  193. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 なるべく融資のできるように政府も配慮はするということはやっていいと思っております。
  194. 戸叶里子

    ○戸叶委員 そうすると、やはり政府がやりいいようにしてやるということは必要になってくるわけでございますね。
  195. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 少くとも政府が、そういうような話し合いが出た場合に、できがたくするというようなことはむろんいけません。実際問題ですが、特に成立のために何か特別な手、たとえば一応問題になるのは輸出入銀行ですが、こういうところに特にフィリピンのために資金を特別にワクを置いてやるということはありませんが、通常の資金量でフィリピンと話し合いができた、資金が要る、これは出す、こういうふうになると思います。義務はありませんが、しかしなるべく国としてもこういう約束ができたのですから、成立するように協力していくというふうに御了承願いたいと思います。
  196. 戸叶里子

    ○戸叶委員 その御答弁によりましても、ほかの方の事業に携わる会社よりも、フィリピンの場合の方が、ある程度その資金の融資などがたやすくしてやるように考えてやると了承していいわけだと思います。その点は大蔵大臣臣のおっしゃる通りだと思います。  次に経済借款に関することで、日本の場合には為替管理法なり外資法というものがありますが、フィリピンの場合にはないというふうにけさほどの御答弁で伺いました。そうなって参りますと、日本会社向うに行きまして、ある程度の利潤を上げても日本に送金するような場合に非常に制限を受けることになってきますと、フィリピン経済的な協力をしようというような会社は非常に少くなるのではないか。これを非常に心配いたしますが、この点はいかがですか。
  197. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 それはそれぞれの国の法令に従ってやるのでありますから、特に商業ベースになっておりません。従ってそうい関係から仕事がしにくくなるということはやむを得ないと考えております。
  198. 戸叶里子

    ○戸叶委員 しにくくなることはやむを得ないということだけでは、片づけられる問題ではないと思いますけれども、もっと何か積極的に日本にも送金ができるように向うと話し合いをつけるとかなんとか、そういうところまでお考えにならなければ、少しずさん過ぎはしないかと思います。
  199. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 そういう支障が具体的に考えられるとすれば、今後両国の間においていろいろと話し合いを進めていくだろうと考えております。
  200. 戸叶里子

    ○戸叶委員 そういうふうな御答弁しか今の段階では、できないのではないかと思いますけれども賠償のこの協定を審議しておりまして、私どもがどうも納得のいかない点はそういうところなんです。たとえばいろいろな問題がある、こういう問題がある、こういう問題がある、しかしそういうことは今後両国で話し合った上できめていきます、こうおっしゃいましたけれども、もしもその話し合いがうまくまとまらなかったときには、結局日本だけが損をするというようなことが起きてきはしないか。この点は私一番おそれますので、こういう点は注意して進めていっていただきたいということを要望したいと思います。  それから先ほどの穗積委員の質問に対するお答えで、今年度の支払いは大体ことしの末ごろになるのではないか、それに対しての金額は二千五百万ドルというふうにおっしゃいました。それから沈船引き掲げの費用が引かれるのだとおっしゃいましたが、沈船引き掲げの費用を引かれた分は大体どのくらいとお考えになるかということが一点。もう一点は日本の場合におきましては、会計年度がことしと来年にまたがるわけでございますが、その調節をどういうふうにおとりになりますか。
  201. 中川融

    中川(融)政府委員 年平均二千五百万ドル、すなわち九十億円ということになっておりますが、これは年平均でありまして、必ずしも正確に毎年九十億ということではないわけであります。またその年度というものは、この協定が発効してから満一年が第一年度になるわけであります。従って六月の中ごろこれがたとえば発効するといたしますと、来年の六月の中ごろまでが、二千五百万ドルを支払う年度になるわけであります。それでは本会計年度中にどのくらい支払われるだろうかということはちょっとわかりませんが、先ほど大蔵大臣が説明をいたされましたように、七十億円の範囲内で十分まかなえるだろうと考えております。  なお今年の沈船引き揚げの費用は、先ほど私十億円と申しましたが、今大蔵省から聞きますと、九億円になっているそうです。九億円分はまず間違いなく引かれるわけであります。そのほかさらに沈船引き揚げの事業が進めば、その分だけはまた引かれることになるわけでございます。
  202. 前尾繁三郎

    前尾委員長 田中織之進君。
  203. 田中織之進

    ○田中(織)委員 実は大蔵大臣に対する質問は、私は本件については外務大臣なりあるいは高碕全権にまだ一つも賛同をしておりませんので、それが明確にならぬと大蔵大臣の御意見を聞くことは非情にむずかしいのですが、大蔵大臣の御都合もあるようですから、大きく二つの問題について大蔵大臣の御所見を伺っておきたいと思います。外務大臣それから経企長官に対する質問あと回しにいたします。  お急ぎのようでありますから端的に御質問を申し上げますが、今度の賠償協定の第一条においても第二条においても、賠償の全額は一条には「日本国は、現在において千九百八十億円に換算される五億五千万合衆国ドルに等しい円の価値を有する日本人役務及び資本財たる日本国の生産物」云々、こういうようにきめておるのであります。この現在において千九百八十億円、従ってこれが二十年にわたる長期の分割払いでありますから、私はこの間における円並びにドルの換算比率の変化というものは当然考慮しなければならぬと思うのです。わが国が幸いに経済力が充実をいたしまして、ドルに対する現在の三百六十円の比率が変ることは、これは日本の国民として当然希望することであります。また反対に何らかの、おそらくこれは不可抗力による場合以外にはあり得ないと思いますけれども日本経済力が著しく低下いたしまして、現在の対米三百六十円というものをくずさなければならぬような不幸な事態も、私はこれは絶対に起り得ないとは予測できないと思うのです。その意味においてこの協定においては、賠償額を五億五千万ドルときめるにおいて、またそれの円に対する換算率を千九百八十億円と三六の換算率で表示したという点においては、将来におけるこういう積極、消極の二つの面におけるまあ貨幣価値の変動と申しますか、為替レートの変動というものも予測してのことだと思うのでありますが、この点に対して幸いに日本経済力が充実いたしまして、対米比率の三百六十円が変更されるというような事態がこの三十年の間に起きた場合には、自余の支払い残の問題についてはどういう改訂を加えることになるのか。この点はあるいは交渉におもむかれました高碕さんから御意見を伺って、同時にそれに対する裏づけとして、これは大蔵大臣は二十年間も大蔵大臣の地位にあるとは考えられませんけれども、一たんこういう協定を取り結んだならば、これは国として責任を持っていかなければならぬわけでありますから、そういう為替レートの変動についてはどういう考慮をされていかれるつもりであるか。この点についての御所見を伺いたいと思うのであります。
  204. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 この協定の基礎は全部ドル基準になっておりますから、ドルで払うということになっております。現在におきましてはこれは三百六十円でございます。かりに日本の為替が十年先によくなって二百円になる。そうしてくれば一ドルが二百円の計算でやるわけであります。ドルの基準でやるということに相なっております。
  205. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 ただいま答弁した通りであります。特に私はそういう点については、実は現金賠償でありませんものですから、大体において役務及び資本財たる日本国の生産物、こうなっておりますが、これはたとえば円価値が落ちればそれだけ物価は上る、あるいは役務も上る、こういう関係もありますので、特にドルでいった方がよかろう、かように考えます。
  206. 田中織之進

    ○田中(織)委員 そうすると高碕さん、それはこの協定に当ってそういう点についても内容的には触れておられるのでしょうか、いかがでしょうか。
  207. 中川融

    中川(融)政府委員 私からかわって御説明いたしますが、第一条のまっ先に書いてあるこの書き方であります。ただいま御指摘になりましたような書き方がしてありますが、これは米ドルが基準である。しかしながら具体的に出すものは日本の生産物と日本役務でありますので、円でもって常に評価されて出されます。円で評価されるけれども、その円の価格と米ドルの価格とが食い違いがありましたとき、今の米貨と変って参りましたときには米ドル基準でその円を計算するという意味を、この第一条の規定の書き方で、非常に回りくどい書き方でありますが表わしておるのであります。従って米ドルが基準で、その基準に従ってそのときの交換率によって円貨を計算する、その円貨でもって支払うということがこの第一条の規定であります。
  208. 田中織之進

    ○田中(織)委員 その点は了承いたしました。  それではもう一点、ぜひ大蔵大臣からもお答えを願いたい問題があるのであります。それは当然この賠償協定とサンフンシスコの平和条約との関係から生じてくる問題でございますが、講和条約の第十四条の二によりますと、いわゆるこれらの連合国にあった日本国及び日本人の在外資産が向うに押えられる規定になっておるのであります。従来から、サンフランシスコの平和条約の国会の審議の過程におきましても、またサンフランシスコの平和会議におけるアメリカのダレス代表の発言の関係から見ましても、在外資産は一種の賠償の引き当てにされる、こういうような言明がなされておるのであります。そこでフィリピンに太平洋戦争以前において日本人がどの程度の財産を持っておったかということを、これは数字を伺わなければならぬことになるわけでありますが、その点はいずれ後ほど伺うといたしまして、今回の賠償協定に当りまして、そういう日本人フィリピンにありました在外資産というものが、どういう取扱いをされたかということは、これはやはり――私の郷里の和歌山県はフィリピンその他に戦前から相当移住し活躍をしておった者も多いのでありまして、私の回縁に当る者のごときは、ルソン島のすぐ近くの一つの島、これはラワン材を主としたものでありますが、これを有償で取得しておったというような事情もあるのであります。新谷楠次郎というのですが、日比企業という会社であります。戦争になりまして、やむを得ず日本へ引き揚げてこなければならぬような事態で、今日国内で非常に苦しい生活をしておるのであります。これは代表的なものでありますが、この間本委員会参考人に見えられました東銀の堀江氏も申しておりましたように、これらの元正金銀行であるとか、あるいは全権に加わられました藤山さんの砂糖会社にいたしましても、戦前からのフィリピンにおける砂糖園あるいは製糖設備というものが残っておるのです。そういうようなフィリピンにありました日本人の在外資産というものが、現在の賠償協定によってどういうように処理されたか。この処理のいかんによりますと、今在外資産の補償の問題が大きく取り上げられまして、これに関する調査をやるということになりまして、調査委員会の委員が衆議院からも五名選任せられまして、近く調査委員会が発足する段階に来ておるのでありますが、勢いそうなりますと、かりに賠償の引き当てにされるのだということになりますれば、これは憲法の二十九条の第三項の規定に従いまして、当然これに対する国の補償という問題が起って参るのであります。現に本委員会で先般オランダに対する一千万ドルの見舞金名義の支払い約定を承認いたしたのでありますが、これにいたしましても、オランダの憲法で、やはり日本との講和条約、オランダ国としてはとにかく個人の財産までもなくするわけにはいかないというところで、当時の吉田首相とオランダ外相との間の交換公文というか、そういうものに基いて、日本が一千万ドル――これは二百万ドルずつ五年間に支払うということに取りきめて、予算的な処置もなされておるわけなのです。外国においてもそういう例があるように、これが賠償の引き当てにされたということになりますれば、今後の国内問題といたしまして、これらの引も当てにされたフィリピンにある在外資産に対する国としての補償問題が、憲法二十九条の第三項の規定から当然起ってくるものだと考えるのでありますが、一体賠償協定に当って、在フィリピン日本人の資産がどういうように処理されたか、これは高碕さんなりあるいは外務大臣からお答えを願わなければならぬことだと思うのでありますが、かりにこれが講和条約の一四条の二項の規定に従って、フィリピンも同じような取扱いをいたすということになるといたしますならば、当然これら引き当てにされたものに対する日本政府の補償という問題が起って参りますが、この点についてはいかに処理されるか。また賠償協定に当って、これは国民の重大な権利の問題でありますから、大蔵大臣としては、国民から税金を徴収するばかりが大蔵大臣の務めではないのでありまして、国民のこういう地域にある在外資産の保護という点についてもどういうような配慮をされたか、この一点について同時に大蔵大臣の御見解も伺っておきたいと思います。
  209. 中川融

    中川(融)政府委員 大蔵大臣から御答弁される前に、平和条約関係のことをちょっと御説明いたしますが、フィリピンはまだサンフランシスコ平和条約承認しておりません。これは調印いたしておりますが、フィリピン国会がいまだ批准いたしておりませんので、協定自体はまだ発効いたしておりませんが、御承知のように賠償協定批准されますときに、同時にサンフランシスコ平和条約批准するという手はずにいたしております。従って当然サンフランシスコ平和条約が日比相互間に発効するわけであります。そういたしますと、御指摘のように、十四条(a)項の規定によって、フィリピンにありました日本の市外資産は、今回の賠償とは別にフィリピン政府がこれを接収するということになるのであります。従ってほかの連合国にある日本の在外資産と同じ取扱いになるわけでありまして、従ってその場合、日本の国内法によってどういう措置をとるかという問題は別に残るわけでありますが、この点につきましてのほかの国の平和条約の例もお引きになられたようでありますが、たとえばイタリアの平和条約におきましては、在外財産が没収されます場合には、イタリア国政府が補償するという規定があるのでありますが、御承知のように、サンフランシスコ平和条約にはその点の規定がないのでありまして、日本国措置に全然一任しておるのであります。なおこの在外財産を補償するやいなや、補償するとすればどの基準でやるかということにつきましては、大蔵大臣からの御説明を願うごとにいたします。
  210. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 この補償の問題ですが、非常にもっともな点もあるのでありますが、同時にこれはまた法律的にも非常に複雑な点もあります。それでただいま在外財産問題審議会に諮問をしておるのでありまして、その答申を待ちまして国内的に措置をいたしたい、かように考えております。
  211. 田中織之進

    ○田中(織)委員 アジア局長の現地で条約の実際の仕事に当ってこられた立場の答弁でやや明確になりましたので、この点は引き続いて外務大臣並びに経企長官に対する質疑のときにさらに掘り下げて伺うことにいたしまして、大蔵大臣には私ただ一言要望だけ申し上げておきたいのであります。  これはただ単にフィリピンがたまたまこの賠償協定批准に当って今表へ出てきただけでありますが、当然その他地域における在外資産の、いわゆる国としての補佐問題というものとも関連を持ってくるわけであります。特に明らかにこのサンフランシスコ条約の関係からいたしますれば、賠償の引き当てにされた場合には、これは当然憲法二十九条の第三川に従って、いわば土地収用法で公共の用のために土地が没収されたと何ら、異ならない事情に立ち至るのであります。このフィリピンにおける在外資産の問題とも関連をいたしまして、これら引揚者等の切実な問題でありますが、在外資産の補償の問題については、これは相当莫大な金額に達するところに、財政当局として非常に苦慮せられなければねらぬ事情は、私らもよくわかりますけれども、しかしこれはやはり国の特性というか、戦争犠牲者として一番取り残されておる人たちの問題でありますから、特に御勘案を願いたいという希望を申し述べまして、大蔵大臣に対する質疑は打ち切ります。  それでは引き続いて外務大臣並びに経企長官等に若干の質問をいたしたいと思います。問題を大蔵大臣の関係で抜遂出したので、その点は名略をいたしたいと思いますが、ただいまのアジア局長の御答弁で関連を持ってきたのでありますが、なるほどこの協定の十三条に、「この協定は、批准されなければならない。」とあって、その次に「批准書」の交換の日又はフィリピン共和国が千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で書名された日本国との平和条約の自国の批准書を同条約第二十四条の規定に従って寄託した日のいずれかおそい日に効力を生ずる。」という、同町効力発生のような規定がございます。ございますが、この点はこの十三条の条文から見まするように、いずれかおそい日に効力を生ずるということになるのであります。従来の賠償協定ができなければサンフランシスコ条約批准しない、これは政府の提案説明の中にもあるように……。そういう態度から見ますと、これは私実は日本のこの賠償協定に関する批准が終らなければ、向うの方がサンフランシスコ条約に対する批准をやらないのではないか、こういう懸念があるのであります。  そこで、これは一般的には今度の賠償協定と平和条約との関係ということに相なるわけでありますけれども、そうするとわれわれの理解では、やはり賠償の問題の一般的な原則の問題は平和条約に従って出てくるものだ、こういうふうに考えるのが順序ではないかと思うのであります。ところが賠償協定が先に本ぎまりになって批准されなければ、フィリピンの場合にはサンフランシスコ条約批准されないということでありますと、全くその点から見れば、若干の日時の相違の問題だと言えばそれまですけれども、まるきりサンフランシスコ条約に対する批准条件として、額の問題についても、日本の国民としては非常に過重だと思われるようなものを日本かのまざるを得たいような持ってき方をしたのだ、こういうことで、ある意味から見れば、日本の立場は大きく国際的に踏みつけられたことになると私は思う。敗戦国だからやむを得ないじゃないかと片づけてしまえばそれまででありますけれども、これはやはり正常な外交関係にもとるとしいう建前に立っていきますならば、その点は前後の関係というものはない、文字通りの同時批准というような形でなければならないと思うのでありますが、この点については現地での交渉の際にももろん共同声明か出ております。十三条に規定がございます。その点から見て、向うも今度はサンフランシスコ条約に対する批准をやることは当然考えられるのでありますが、この賠償協定批准との時間的な関係については、打ち割ったところの話し合いが何らかなされたのではないかとも考えられるのでありますが、その間の事情について一つ伺いたいと思うのであります。
  212. 中川融

    中川(融)政府委員 まさしくお説の通り、平和条約というものがありまして、それが発効いたしましてから初めて日本賠償の交渉をする義務を平和条約で負っているのでありまして、平和条約批准される前にフィリピンとの間に賠償交渉を行なっていること自体が、平和条約では予期しないところであるのであります。しかしこれはサンフランシスコで平和条約に署名いたします際のフィリピン及び、フィリピンのみでなく、それ以外のたとえばインドネシアも同じような立場にあったわけでありますが、それらアジアの戦争によって被害を受けた国のそのときの考え方というものから歴史的に出発しているの、でありまして、これはサンフランシスコで調印いたしましたと遂にフィリピンの代表もインドネシアの代表も、この平和条約それ全体については賛成であるけれども、この賠償条項だけに異議があるということで留保をいたしまして、その留保の中には、たとえば現金賠償というようなこともありまして、なお役務川十は満足できないということもあったの、であります。金額相当大きな金額でなければいけないということもあったの、でありまして、そのときそれぞれの国が留保をいたしました関係上、それらの国としては、やはりその賠償に関して大体話ができた上でなければ、サンフランシスコ平和条約批准できないというのが、その後一貫した立場であったわけであります。なおインドネシアあたりは、サンフランシスコ平和条約それ自体に対してもその後異存が出まして、むしろ二国間の条約を結ぼうということに変って参りましたが、フィリピンは一貫いたしまして、賠償に関する話し合いが済んだ上で初めて平和条約批准するという立場を続けてきたのであります。日本側としてもフィリピンとの友好関係樹立という大局的見地から、そのフィリピン側の態度を一応前提といたしまして、賠償交渉をすでに始めたのでありまして、その賠償交渉が長引きましたがようやく今回話し合いができましたので、賠償協定フィリピンの議会が承認いたしますと同時に、フィリピンの議会はサンフランシスコ条約批准するということになっておるのであります。これは前からのそういう話し合いになっております。従って賠償協定批准いたしますと同時に、サンフランシスコ条約フィリピンの議会が批准するということでその準備をいたしております。なお同時批准というお話がございましたが、この二つの条約フィリピン議会が承認いたしますのは、同時になるのであります。もっともその後サンフランシスコ平和条約はアメリカ政府に対してフィリピン政府批准したということを通知いたすそのときから発効するわけであります。賠償協定の方は日比間に批准書を交換したときから発効するわけであります。これも事実問題としてはおそらく同じ日になるのではないかとも思いますけれども、いずれにせよ日本といたしましては、賠償協定による義務だけが先に出て、サンフランシスコ平和条約の発効がそれよりおくれるというようなことがあっては一大事でありますので、この十三条の規定によりまして、どちらが先になりましても日本としてはサンフランシスコ条約が発効した日か、あるいは発効をすでにしている際に、初めてこの賠償協定が発効するという規定にいたしておるのであります。  なお日本の国会の承認の時期の問題、それからフィリピン議会での批准の時期の問題、これも実はこの間マニラで交渉いたしました際に向うから話があったのであります。向うとしては、ほんとうならば、日本の議会が承認されてからフィリピンの方は批准したい、しかしながらこういう大事な問題であるので、あるいは同時に承認するということも考えてもいいというような話がございました。これはしかし日本フィリピンとのおのおのの政府が最終的に承認する時期の問題でありまして、サンフランシスコ条約批准の時期と、賠償協定批准の時期は、先ほど申しました通り先方は同時にやりたいという考えに立っておるのであります。
  213. 田中織之進

    ○田中(織)委員 私はなぜこのサンフランシスコ条約と、賠償協定批准の日時の前後の問題を問うかというと、これはやはり賠償内容にも深い関連を持ってきておると思うからです。それは、外務大臣は、本協定承認を求める件の本会議の説明に対するわが党の森島君の質問に対して――森島君から、特にサンフランシスコ条約では賠償役務を原則とするという規定になっておるが、役務というのはほんのつけたしで、この協定の第三条の二にもありますように、生産財ということがはっきり出てきておる。そういうことは今度の賠償協定に臨む日本側の態度として、実は腰のない態度という考え方も、国民の間には相当強い。そういう立場から森島君がお伺いをしたのであります。それに対して、私は速記録は見ておりませんけれども、外務大臣は本会議で、まだフィリピンはサンフランシスコ条約批准していないのだから、仕方ないじゃないかというような意味答弁をされているのです。私はそれではならないと思う。今中川さんが答弁されたように、本来なら賠償問題は平和条約が成立して初めてそこから交渉になるのが筋合いだと思う。しかしそれは並行的にいろいろ話し合いが進められても差しつかえのない問題だと思うし、今度の問題等についてはわれわれは異論はありますけれども、日比間の将来にわたる友好関係を考えるならば、内容については異論があるといたしましても、協定が成立したということは両国にとって非常に喜ばしいことだと思います。けれども問題は、そういうことで、この段階になってもなお日本が敗戦国で、またフィリピンにおいては特に残虐行為等の関係で日本が負い目になっているのだから仕方がないじゃないかと言われればそれまでです。これは個人の問題でありますけれども、私のすぐの弟はフィリピンで生死不明です。これは昭和二十年の一月一日に行方不明になったというだけの公電で、その後六月の一日に戦死したのだという公報は来ているけれども、いまだ私の弟はまだ生きているようにしか私は考えられない。そういうつながりを国民の多くの人は持っていると思うのです。それは国という立場と私情というものとは、区別してかからなければなりませんけれども、やはり今日曲りなりにも独立したという建前で進む限りにおいては、筋を通すものは通さなければならぬという考え方を私は持っておるわけであります。そういう意味でこの点を伺ったのでありますが、今のアジア局長答弁で、結局サンフランシスコ条約が少くとも同時あるいは先に効力を発生しての賠償協定の効力発生、実施という段階に進むのだという点が明確になっておるようでありますから、その点は重ねて追及をいたしません。  そこで私が次にお伺いをいたしたいのは、やはり平和条約の十四条の(a)項の一に「日本人役務を当該連合国の利用に供することによって、与えた損害を修復する費用をこれらの口に補償することに資するために、当該連合国とすみやかに交渉を開始するものとする。」ということになっている原則が、役務というものが全くつけたしになっているという点を、われわれは非常に遺憾に考えるのであります。その次に「その取極は、他の連合国に追加負担を課することを避けなければならない。」という規定がございますが、これが今回の賠償協定とどういう関係を持ってくるか。これは実は先ほど穗積君からビルマとの賠償協定の関連をお伺いしたときに関連して伺いたいと思っていたのでありますが、当時の関係から見れば、ビルマは連合国の一員ではございません。その関係からここであらためて伺うのでありますが、今度のフィリピンとの賠償協定の関係は、いわゆる他の連合国との関係において、追加負担を課することを避けなければならないという条項は守られるものであるかどうか、この点についての御見解を伺いたいと思うのであります。
  214. 下田武三

    ○下田政府委員 日比賠償協定の前文にある桑港平和条約の規定の趣旨に従って行動すると申しますのは、御指摘の点も含むわけでございます。つまり、フィリピン日本賠償を払わないために、アメリカならアメリカに負担をかけるようなことはならないというのが、桑港条約十四条の規定でございますが、今回の協定自体からは何らアメリカなんかの第三国に負担をかけることはないのであります。その点も桑港条約に即応しておるわけでございます。
  215. 田中織之進

    ○田中(織)委員 これは役務を主とするということが破れた今回の日比賠償協定においては大きな問題になってくるのでありますが、その次にあります「また、原材料からの製造が必要とされる場合には、外国為替上の負担を日本国に課さないために、原材料は、当該連合国が供給しなければならない。」という規定、この意味によって、生産財、資本財、さらに消費財等による賠償支払いは、やってはならないということをさらに厳重に規定した規定だ、私はそういうようにサンフランシスコ条約の十四条同項一の後段は理解しておるのであります。もちろん賠償協定に伴う交換公文の最後とその前のところで、高碕さんの方から「本国政府は、また、日本国に通常輸入されていない外国の生産物又はもし賠償として供与されるならば特例的な性質を有する追加のかつ特定の外国為替割当を必要とするような外国の生産物は、年度実施計画に原則として含まれないものであると了解いたします。」、それからその点に対する裏づけをしたネリ全権からの回答文もここでつけられております。しかし、この交換公文だけで、私はサンフランシスコ条約十四条の、日本が通常の輸入以外にその生産物を賠償として提供する輸入のために外国為替を必要とする場合には、その外国から原材料を供給するという規定とは多少趣旨が違うと思うのでありますが、この間の事情は話し合いの過程においてはどういうふうになっておったのでございましょうか。特に生産財による賠償が大部分を占めておる本協定においては重要な問題であると思いますので、この際伺っておきたいと思います。
  216. 中川融

    中川(融)政府委員 御指摘の点は、賠償問題の根幹に関する問題であります。午前中にもこの点で御質問があったわけでありますが、この点につきましては、御指摘のようにサンフランシスコ条約を厳密に解釈いたしますと、まさしく生産物を出す場合、原材料を生産する場合には、その原材料は賠償要求をする国が持ってこなければいけないということが書いてあるのであります。従って原材料は全部その国に持ってこさすというのが、本来の建前であろうかと思うのであります。また日本フィリピン及びインドネシアとの長い賠償交渉の当初の段階におきましては、そういう厳格な解釈に立って、先方に純粋な役務のみをもって賠償を出すのだということを主張したのでありますが、先ほども申し上げました通り、サンフランシスコ条約を調印いたします際に、これらの国がまたこの点について根本的な反対を持っていたのでありまして、自分らとしてはそういう狭い意味役務賠償では満足できない、現金が少くとも生産物を出すのでなければ、満足できないという基本的立場をとっておるのでありまして、従ってこの狭い厳格な解釈をとっている間は、賠償交渉がどうしても進捗しなかったのであります。それでこの条約の規定をよく読んでみますと、なるほどこの「原材料は、当該連合国が供給しなければならない。」と規定してありますけれども、その上に同時にその理由といたしまして、「外国為替上の負担を日本国に課さないために、」ということも書いてあるのであります。そうしますと、日本国で産出する原料をもって生産する品物であるならば、それをそのまま原料を含めて賠償として提供しても、日本外国為替上の負担を特に課することはないはずじゃないか、そうすれば少くともそういうようなもの、すなわち日本で全部できる原料でできた品物ならば、これは当該国に賠償として出しても、サンフランシスコ条約十四条の規定の趣旨には反しないのではなかろうかという解釈も実は出てきたのでありまして、そういたしますと、今度は日本の生産物もある程度出してもいいという解釈になってくるのであります。この解釈に踏み切るかどうかということが問題であったのでありますが、約三年前に当時の吉田総理大臣がこの衆議院におきます御質問に対しまして――その質問は、社会党の委員長から提出された御質問でありましたが、鈴木委員長の御質問は、そういう解釈に踏み切らなければ、賠償交渉は進まないのじゃないか、従ってこの解釈を踏み切って、生産物も出して、そして東南アジアの諸国と早く国交を回復すべきじゃないかという趣旨の御質問であったのでありますが、それに対して当時の吉田総理が、その通り考える、そういうことで進みたいと思うという御答弁をされたのであります。そのとき以来政府の解釈は、そういう広義の解釈をとっても、サンフランシスコ喜平和条約趣旨には背馳しないという解釈をとったのでありまして、その後従って生産物も出し得るということになってきておるのであります。ビルマ賠償の規定もその趣旨でできておりますし、今回のフィリピン賠償もその趣旨でできております。この解釈は今後やはりインドネシア等と話をする際にも、同じくこれによっていくこととなろうかと考えております。
  217. 田中織之進

    ○田中(織)委員 今、鈴木委員長が吉田前総理に質問したときのことを、生産物を賠償に差し向けてもいいという根拠にされているようなアジア局長の御答弁でありますが、私その間の事情が、鈴木委員長がどういう質問をしたか明確でないので、その点については何とも言えないのでありますが、問題は今回の賠償協定の妥結に当って、特に総理の特使として藤山愛一郎氏が先方に参った、この賠償協定と並行して考えられなければならない日比間の貿易の問題、そういういわゆる正常な貿易の問題と実は深い関連を持つだけに、この点サンフランシスコ条約は、基本的な点について賛成できないという建前で反対をした私も一人でありますけれども、しかしそれが多数によって国会を通過して、現に数多くの国との間の国交関係の一つの基礎的な取りきめになっている以上、当然フィリピンもその連合国の一員で、この条約にやはり署名をしているから、批准の問題は先ほどのような理由でおそくなっているわけでありますけれども、やはりその点から原則が貫かれなければならなかったのではないかと、私はこういうように考えるのであります。せめても両全権の間の交換公文でその点についてはやや救われたような感じもないではありませんけれども、やはりはっきり条約の十四条の(a)項の一の後段にはそういう規定がある以上、私はもっと強い態度で進んでよかったのではないかという感じを持ちましたので、その点を伺ったのでありますが、その点についてはこれ以上追究をいたしません。  そこで私のお伺いしたいその他の点については、同僚諸君からすでに相当詳しく質疑をいたしておりますので、私は重複は避けたいと思います。この賠償は参議院へ参ってからでないときまらないわけでありますけれども実施の細目について、これは批准してこの協定が効力を発生してから六十日以内に少くとも初年度の細目をきめるという規定もございますし、そのために合同委員会も持たれる。向うから参ります使節団の規定もございますけれども、なかなか初年度の実施計画から、ことに会計年度がわが国の場合には二つにまたがるようなことになりますと、私は厄介な問題だろうと思うのであります。さらにこれは向う側が最終的には合同委員会できめて日本側が認証することになるわけだと思うのでありますが、たとえば設備等の関係についても相当多岐にわたっている関係からいたしまして、実施細目を取りきめるということは、私は相当時間がかかると思う。なぜこういうことを私が申し上げるかというと、ビルマとの賠償協定ができましてから実施細目ができるまでの間に、実は一年近い時日を要しているわけであります。その間ビルマ側からも参りましたし、私らも先年ビルマへ参りました当時のいきさつもあって、細目の決定のために外務省の方面へも鞭撻をしたことがございますが、少くとも協定批准された後において、実施の細目については六十日以内という取りきめがあるわけですが、その間に果してできるような――これは協定にあるのだけれども、両方合意の上で六十日がずれることはやむを得ないということになるだろうと思うのですが、その間の事情は六十日以後に延びるというような障害は起らないと見ているのでしょうか。実施細目の点についての見通しについて、この際伺っておきたい。
  218. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 私は、やはり一番それを心配している一員でございます。こういう協定ができても、これからほんとうに実行に入ってお互いのためによくなる――ビルマとの問題につきましても、お説のごとく協定はできても実施細目に入るについては相当の日にちを要した。さて実施細目に入っても実行については私どもの思うように進んでいないのが現状でございます。そういうふうなことをよく今度は考慮いたしまして、約一年間かかって外務省の方ともいろいろ検討された結果、ここに実施細目の協定もできたわけでございますから、できるだけこれに規定いたしておりますように、六十日以内にこれを実施し得る、細目協定に入っていくように努力いたしたいと存じております。
  219. 田中織之進

    ○田中(織)委員 これは後にちょっと伺いたいと思っております一億五千万ドルのいわゆる民間借款の問題とも関連をいたすのでありますが、特に民間借款の場合には、これは向うへ金を貸すわけでありますから、投資その他の形で貸すわけでございますから、回収ということについて向うの信用状態というものも当然基本になると思うのでありますが、われわれの知るところによりますと、フィリピン経済の状況というものは、極端な言葉でいえば、破局一歩手前にある、こういうような状況です。しかしその意味で見れば、幾つあるかわかりませんが、二十足らずの、十幾つかのフィリピンにおける財閥を相手のこういう話し合いなら、それは案外スムーズに進むかもしれませんけれども、そういうようなものでは、これまたほんとうの意味におけるフィリピンの立ち直りのために、日本経済的に協力するというこの趣旨とはかけ離れてくると思うのです。そういたしますと、結局特に民間借款の場合には向う借款の受け入れが、大財閥に片寄ったのでは、これは日本の民間でやることなのですから、当然そろばんははじきますけれども、そこに考えなければならぬ問題が私は起ってくると思う。  それから同時に、これは賠償の方で向う側へ参りますプラント等は、必ずしも私は大規模のあるいは大企業の設備だとか、そういうようなものばかりではなくて、むしろ向うにおける将来中小企業的な、そういろ今後の経済生産に役立つようなものを向う側が希望して、そういう品目がすでに私はあげられてきていると思う。従って向う使節団が参りまして、日本商社との間で――これはビルマ賠償のときにも問題になったわけでありますが、フリーな立場で採算的な点を考慮して契約ができて、それに対して認証が与えられるという形をとるのだと思いますが、勢いその過程においては、日本の方も大企業中心の方がそういうものを調達したり何かする点においては手っとり早いかもしれませんけれども、必ずしも日本の現在の産業の実態から見れば、大企業、大資本中心では私はいけないと思うのであります。特にその実施細目の取りきめ、それから実施に当っては、これは経企長官というよりも、実施官庁としては通産省の関係も持ってくると思うのでありますけれども、議定書についている品目は、中小企業の生産にかかるものがほとんど大部分なのであります。その意味日本側の中小企業が、この賠償によるフィリピンヘの経済寄与によって救われる、こういうような配慮をやっていただきたいと思うのでありますが、この点について高碕長官の構想がございましたら、伺っておきたいと思います。
  220. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 この賠償協定におきましても、また経済協力交換公文におきましても、ただいまの御質問と同じような考え方がフィリピン側にあった。フィリピン側の人たちも、こういうふうなものができたときには、大資本工業が非常な利益を得て、中小工業者が困るのではないか、何らその犠牲を顧みないのではないか、こういうような意見相当強かったのであります。実際私ども先方に参りまして実情を拝見いたしまして――これは大きな仕事で、一ぺんに解決するという方法はないだろう、また投資におきましてもその方が進みやすいだろう、こんなふうに思っておったのでありますが、実際に参りますと、それはそうでないのでございます。大資本家というものはほんとうに数を数えるしかないのでありまして、中小工業の方の進出を多数のフィリピン人は希望しておりまして、日用雑貨に至るまで全部これは輸入に仰いでおる。それが値が高くて、それがフィリピンの現在のインフレーションの原因になっておる。こういうわけでありますから、ここにおいて私どもは、賠償の対象といたしましても投資の対象といたしましても、どうしても中小工業が、それは日本においてあり過ぎて困っておるのだから、その人間をどうかして持っていく、そういうことにこの問題は解決していきたいということを私は非常に考えておるわけであります。ただ一つ困りますものがあるのでございます。それは中小工業に適するような小さな資本家、中間的の人が比較的フィリピンにいないのでございます。中百人がたくさんおりますが、この人たちが相当の財力を持っておる、こういうわけでございまして、フィリピン人自身としてはなかなかその相手方が少いのでありますから、その相手方をよく選択いたしまして、それで日本の相手方とよく結びつける、こういうことに努力いたしていきたい、こういうふうに存じておりますから、どうしても日本といたしましてもフィリピンといたしましても実行しやすいというだけで、ただ大企業だけを特に考えていくということは、私はこれは将来の両国民の間の提携をよくするゆえんではないだろうと存じまして、重点的に中小工業の投資ないしこれを賠償目的に持っていくというふうな工合に考えていきたいと存じております。
  221. 田中織之進

    ○田中(織)委員 その点は一つ、ビルマの問題のときにも、さあ実施の段階になると、日本の国内の方でやはり大資本企業と中小企業との間に、相当ギャップが出て参った実情等をも考慮せられまして、結局国民の血税でこれがまかなわれるわけでありますから、特にその点について留意をいただきたいという希望を申し上げておきます。  なお、経済開発借款につきましては、これは純然たる民間関係で、政府としてのギャランティはないのだということは繰り返し述べられておるのでありますけれども、提案説明によりますと、政府が可能な限りの便宜を与える、こういう表現を使われておるので、この可能な限度の便宜というのは、具体的にはどの範囲のものであるかということも、この際伺っておきたいと思うのですが、高碕長官いかがでしょうか。
  222. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 いろいろこの内容は書いておりますが、これはどこまでもやはり経済的に両国の国民が提携し合わなければならぬわけであります。これにつきましては相当困難な事情があるということは、先ほど申しました通りでございますが、この困難を除去するためにやりたいと思いますが、政府経済的に大きな責任を持つということになりますと、これはいわゆる一旗組が出ていって、かえって悪い結果になるだろう、こう思っておるわけであります。どうしても中小企業の進出等につきましては、ケース・バイ・ケースによってよく考えて、そうしてこういうものが出やすいように持っていくというようにやりたいと思っております。具体的にはその場合々々によってやっていきたいと思っております。
  223. 田中織之進

    ○田中(織)委員 その場合に、輸出入銀行政府の方としてはこれは民間の機関と考えておられるのですか、いかがですか。
  224. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 輸出入銀行は、その資金は政府予算措置をもってやっておるわけでありますから、純民間とは認めておりません。政府の機関と認めております。
  225. 田中織之進

    ○田中(織)委員 そういたしますと、この二億五千万ドルの借款の問題については、輸出入銀行はタッチしない、こういうように了解していいでしょうか。
  226. 高碕達之助

    ○高碕国務大臣 これは輸出入銀行が持っておりますワクの範囲におきましては、タッチする考えでございます。
  227. 田中織之進

    ○田中(織)委員 その点は、高碕さんもお認めになりますように、輸出入銀行の資金は政府出資なのです。その意味から見ますと、どうもそういうところに何か抜けたところがあるように感ずるのでありますが、輸出入銀行が現在果しつつあるところの機能、フィリピンその他のアジア地域において輸出入銀行が積極的にその機能を発揮することには、われわれといたしましても賛成の立場でありますから、その点はあえて追及いたしません。しかしこれはその資金の構成の源泉から言えば、純然たる民間資金ではないのでありまして、これは含ますべきではないのではないかと思うのです。しかし現実に日本借款という問題になりますと、金融機関が動かなければならぬのでありますけれども、そういう点では、これは実は大蔵大臣に質問をするつもりであったわけでありますが、日本の金融機関、特に銀行などは、国内の小さい銀行は無理はないといたしましても、かなり大資本日本の市中銀行といたしましても、どもらかと言えば、その業務内容が田村的で非常に鎖国的な点があるので、やはり外国の銀行に学ぶべき点があるのじゃないか、こういうように考えておる状況でありますから、その点はもうこれ以上私は伺いません。  そこで最後に、先ほどちょっと大蔵大臣の御所見を伺うときに申し上げましたフィリピンにある日本人の在外資産の処理の問題でありますが、その処理の問題を伺います前に、大体これは戦前と戦時中フィリピン開発に出たものとの区別が明確につかない部分があると思うの、でありますが、フィリピンにあるすべての戦前の在外資産というものは、大体どの程度政府側では押えられておるのでしょうか。これは賠償の過程、またサンフランシスコ条約フィリピン側によって批准されたときには当然起ってくる問題なのですが、その点はいかがお考えになって、どの程度に押えられておられましょうか。
  228. 中川融

    中川(融)政府委員 日本の在外資産の額というものは、非常にわれわれ研究してできるだけ調査しておるのでありますが、資料が散逸いたしましてなかなかわかりにくいのであります。しかし海外におられた方が終戦のときに引き揚げられました際に、いろいろ申告していただいたのが大蔵省等で持っておる資料でございますが、これらも実はなかなか整理がむずかしいので的確な数字はわかりませんが、大よその見通しといたしまして、終戦時の価格にいたしまして十数億円程度ではないかと考えております。
  229. 田中織之進

    ○田中(織)委員 あるいは無理な御質問かもしれませんが、フィリピンにおける関係の資料は何かありましょうか、的確にいかないにしても一応押えられるものはないでしょうか。
  230. 中川融

    中川(融)政府委員 フィリピンにおき問題も含めましてただいま申し上げたわけでございます。ただいま本数億円と申したのは、フィリピンにおける大体の在外財産の額として推定いたしました額でございますが、非常に大ざっぱなものであるということを御了承願いたいと思います。
  231. 田中織之進

    ○田中(織)委員 これらのフィリピンにあります日本人の在外財産の処置の問題が、フィリピンとの間の国交が回復すれば当然問題になってくるわけです。そういう意味で、幸いこういう賠償協定が成立したことでございますから、特にフィリピンの関係のこうしたことについては、マニラ麻であるとか、あるいはラワン材であるとか、あるいは砂糖であるとかいうような関係で、戦前から日本人向うへかなり経済的に進出しておりまして、少くとも戦争ということで中断はされておりますけれども、そういうような戦前から向うに在住しておる人たちに対する現地の人たちの感じというものは、そう悪くないように私らも伺っておるのであります。その意味でこれは在外資産の処理の問題とも兼ね合せまして、特に賠償実施の過程におきましては、こういうような人たちの意見というものも一つ御考慮を願いたいという希望を申し述べまして、私の質疑はこれで終ります。
  232. 前尾繁三郎

    前尾委員長 理事会において、日比賠償協定の審議日程につき、来たる二十八日、月曜日中に質疑を打ち切り、翌二十九日火曜日午前中に討論採決を終ることの取りきめを見ましたが、さよう決定するに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  233. 前尾繁三郎

    前尾委員長 御異議ありませんでしたら、さよう決定いたします。  次会は公報をもってお知らせいたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時散会