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1956-05-24 第24回国会 衆議院 外務委員会 第49号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十一年五月二十四日(木曜日)    午前十一時二十九分開議  出席委員    委員長 前尾繁三郎君    理事 石坂  繁君 理事 北澤 直吉君    理事 須磨彌吉郎君 理事 高岡 大輔君    理事 山本 利壽君 理事 松本 七郎君       愛知 揆一君    植原悦二郎君       大橋 忠一君    加藤 精三君       菊池 義郎君    床次 徳二君       松田竹千代君    田中織之進君       田中 稔男君  出席国務大臣         外 務 大 臣 重光  葵君         通商産業大臣  石橋 湛山君  出席政府委員         外務事務官         (アジア局長) 中川  融君         外務事務官         (条約応長)  下田 武三君  委員外出席者         通商産業事務官         (企業局臨時賠         償室長)    山本 重信君         参  考  人         (日本中小企業         政治連盟総裁) 鮎川 義介君         参  考  人         (東京銀行常務         取締役)    堀江 薫雄君         専  門  員 佐藤 敏人君     ――――――――――――― 五月二十四日  委員福永一臣君及び渡邊良夫辞任につき、そ  の補欠として床次徳二君及び加藤精三君が議長  の指名委員に選任された。 同日  委員加藤精三君及び床次徳二辞任につき、そ  の補欠として渡邊良夫君及び福永一臣君が議長  の指名委員に選任された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  日本国フィリピン共和国との間の賠償協定の  批准について承認を求めるの件(条約第一六  号)  右件について参考人より意見聴取  国際情勢等に関する件     ―――――――――――――
  2. 前尾繁三郎

    前尾委員長 これより会議を開きます。  本日はまず日本国フィリピン共和国との間の賠償協定批准について承認を求めるの件について参考人より意見を聴取することといたします。  本日御出席参考人は、日本中小企業政治連盟総裁鮎川義介君、東京銀行常務取締役堀江薫雄君の御両名であります。  この際参考人各位にごあいさつ申し上げます。本日は御多用中のところ、わざわざ本委員会のため御出席をいただきましてまことにありがとうございました。  本日の議事の順序について申し上げますと、まず参考人方々より本件に関する御意見を開陳していただいてそのあと委員より若干の質問があるかもわかりませんのでよろしくお願い申し上げます。なお御意見の開陳は一人二十分程度におまとめ願いましたら非常にけっこうだと思います。  それではまず鮎川義介君よりお願い申し上げます。
  3. 鮎川義介

    鮎川参考人 それでは御指名によりまして私からごく簡単に所感を申し述べさしていただきます。  私は至って不勉強でありましてこれを全部読むことをいたしておりません。けさになって日本国フィリピン共和国との間の賠償協定の対象になっておるものをちょっと一覧いたしました。その中で一応私の気づきを申し上げますと、これはこまかくなりますけれども、第三の鉱産資源開発計画の中に、クローム及びマンガンというようなものと銅というものを出しておりますが、あそこはやはりニッケル相当あると思うのです。スリガオの鉄鉱はニッケル相当ある。これはクロームの中にニッケルが入っておると思いますが、そう思ってよろしゅうございますか、ちょっとお聞きしたいのですが……。
  4. 前尾繁三郎

    前尾委員長 中川君、どうですか。
  5. 中川融

    中川(融)政府委員 これはニッケルも考えております。
  6. 鮎川義介

    鮎川参考人 じゃこの書き方の中へ入っておればよろしゅうございます。その他とか何とかというので……。
  7. 中川融

    中川(融)政府委員 その他の中には何でも入ることになっております。
  8. 鮎川義介

    鮎川参考人 これはその他の計画というところにもないので、そういうことをこれは書いておいて下さい。
  9. 中川融

    中川(融)政府委員 ええ、ニッケルは、協定本文の方にいきまして、附属表に掲げてあるもののほかどんなものでもできるということを、書いております。
  10. 鮎川義介

    鮎川参考人 これは相当資源だと思っておるから申し上げるので、ほかに書いてあるものとのウエートから言うと、はなはだ重いと思うが、あまりばば扱いにしないで……。
  11. 中川融

    中川(融)政府委員 わかりました。
  12. 鮎川義介

    鮎川参考人 それからあそこは金がありますね、その採金のことは書いてないですね。――ちょっと私の意見だけ申し上げましょう。それからここに四十五、四十六の自転車工場ミシン工場ですね、四十八の家内工業設備というようなものを書いておりますが、私はこういうものを賠償にしていただくのはいかがかと思うのです。むしろこれは日本特徴――これを日本商売にしてやって、貿易でもうけたいものを向うでやられて、こっちの方の損害になるという問題がこの中にあっちゃいかぬと思うのですね。家内工業のごときは日本特徴じゃと思うのですね。そいつを向うへ持っていく。こっちのいいものを賠償でみな向うへ入れるというと、貿易がだんだん少うなる原因を作るようです。それは私は不賛成だと思うのですね。こちらに賠償を利用して役に立つものを入れればいいのですね。かえってこちらへ将来は禍根を残すものを、向うが要求するからというてついていかぬのが私はいいと思う。ことに家内工業施設なんというものはこれはやるべきものじゃない。そんなことをしたら、どっちもうまくいかぬことになりはせぬかと私は思う。この前インドでそういうことがありまして一ぺん失敗したのです。これは失敗をする原因がちょっとありましたけれども、私は知らぬ顔をしておってむしろ失敗させたのですが、ああいうものをやると将来日本特徴であるべきものをそっくり向うへ持っていくということになるから、こういうものはむしろやらぬがいい。こういう向うで開発する場合に、向うを開発すれば日本に仕合せするというものへ重点を置かなければいかぬ。向うが要るからといって仕合せと反対のものをやるべきじゃない。それからこういうものは交渉するときに初めから相手にせぬことにしてもらわにゃならぬ。もうやっちゃってからでは非常にまずいと思う。両方得になる。向うも得をし、こちらも得する問題だけでやらぬと、かち合うようなものだけやるというのは今度の賠慣をうまく使うゆえんにならぬ、こう私は思う。これだけ申し上げておきたいと思う。  それからこの第五の運輸通信開発計画の中には道路というものがうたってない。これもその他でいいのですか。これは鉄道と船と通信設備とあるが、道路はない。
  13. 中川融

    中川(融)政府委員 第六の公共事業計画の中の九に「道路及び橋りょう建設用設備及び資材」とうたいまして公共事業計画の方にうたってございます。
  14. 鮎川義介

    鮎川参考人 建設用設備ですか。設備というのは、ここで私も承わろうと思ったが、港湾設備ですね、設備ということと港湾をやるということはちょっと違う。これは日本港湾を請け負って、やってやるという法はないかと思うのです。これは大きな仕事になる。たとえば土木工事を一式請け負うという方法ですね。設備だというと、それに要るポンプだとかグレンジャーとかいうものをこちらから持っていくということではないかと思うのです。それらの考え方はどうなるか、私はここはよほどよく考えていただかぬと、港湾設備というと、それに要るクレーンだとかいうようなものになると――港湾計画もこっちで引き受ける。この前あそこで、戦後すぐフィリピンの郊外に大きな重工業ベースを作って、私のところに聞きにきたのです。これはそっくりこちらで請け負ってやると非常に大きな仕事になる。だけど中の品物を少しずつやるということはどうかと思うんです。そっくり請け負ったらどうか。通路の問題で、それでもって請け負えば、いろいろなことがそれから派生的にいくのではないか。それを中の機械を一台々々という方法はどうかと私は思う。これはいろいろ御議論がありますから、あとで皆さんの方で――私の意見としてそういうことを申し上げておきます。  それから開発いたしましたその生産物、できたものは日本に優先的にとれるかどうかという問題です。ただ開発すればいい、たとえば銅をとりまして、銅の鉱石は、堀ったからにはまず日本が、日本の要るものですからとる。それを一般の、ただ普通でなしに――それは値段を安くせいということは言わぬですが、優先取得権というものを認めてもらいたい。お互いの自他の利益をはかるというのが賠償の目的である。ところがこれには生産物を優先的にとるということはどこにもない。どうしてそういうものがないかということです。要らぬのかどうか。そのときになって、将来入札でとるということになるのですか。これは非常に大きい。その観念は何かというと、日本にないものをなるべく向うでやって、そうしてそれをこっちへ折り返してこっちでとろうという事柄の根拠からこの賠償の問題を考えるのでないといけない。お互い利益といったって開きさえすればいいというのでついていったから、こういうことになったと思うのです。私は、日本に要るものを向うで開発すれば向うの富に寄与するというものをなるべくやって、出たものをこっちがとるというのでないと、非常に気のきかぬ話だと思うのです。賠償を握りたいというのは、いつでも握ればいいけれども、ただ握っちゃつまらぬ。そういうのはよけいとってくる。日本の足らぬものをやるのは賠償をよけい払ったらいいという考え方があるとすれば、そんなあほうな、くだらぬと言うと語弊がありますが、まるでたくさん並べてあって、これは重点がないですけれども、わずか五億五千万やそこらでこれだけのものをやるといったって、おそらくこの三分の一もできはせぬ。この中で二つでも三つでもやって五億五千万ドルを三年なら三年で使おうといったら、大へん日本に役に立つ銅山もあるし、それからこういうふうに家内工業の話になるようじゃ、欲ばっているだけで効能がないと思う。なぜこんなにたくさんのものを一々やったか。二つ三つでけっこうです。わずか五億五千万ドルあるいは八億ドルを二十年で使うということになると、これはあまりに情ないと思う。港湾一つだって二億ドルやそこらかかる。佐世保でなければ入らぬような船が入るりっぱなドックを作ろうと思えば一億ドルくらいかかる。なぜそういうものに重点を置いておやりにならぬか。ミシンや何かやってどうするんです。こういうものをやるから、ややこしゅうなるし、重点的でないから、あとで実がならぬ。私はこのやり方は大不賛成です。もう少しやりかえたらいいと思う。しかしもうなっちゃったからしようがないけれども、私はそういう意見を持っております。生産物日本に要らぬものをもらう必要はないです。日本へとってきて、またよそへそのまま貿易にするというようなずるいことはよこざんす。日本で要るものはたとえば銅がある。つまり銅の要る電気の仕事がたくさんあります。今の日本の銅じゃ足りない。そういうものはフィリピンなら近いから、そのために日本が銭を持っていって開くというなら、これは幾らとったっていいと思う。しかし開いてそのままよそへ持っていかれたらつまらぬ話です。まるでざるで水をすくっているような格好になる。最初これをやる前、根本の観念というものがないから、こんなものになる。数さえ並べればいいということになる。これはみな並べたところで大したものじゃない。五億五千万ドルを二十年で分けるのですから、何もできやしません。日本道路のあれと同じです。われわれ生きておる間には、快的な自動車に乗ることはできないのと同じです。こんなに並べてあったら、目移りがして、デパートへ行ってものを買うのと同じです。何もできやしない。私はおかしいと思うのです。これはそろばんに合わぬ。大体こういうことをやるために大騒動して、二年も三年もかかって、大ぜいの人が行って、これだけのものやって、もらうものがない。銅がよそへ行ってしまうということになったら、何のためにやるのかわからぬ。スリガオの鉱山一つ開いても五億やそこらかかる。この鉱石日本に非常に役に立つ。ちょうどアメリカスパロスポイント鉱石と同じです。ニッケルなりクロームが入っているから製練しにくいというけれども、今に発明があります。あそこに何億トンとある。これは日本が先にとっておくべきものである。ところがこの中にありゃしません。ニッケルなどというものは忘れておる。クロームニッケルの力がよほどとうとい。これはパーセンテージはスパロスポイントより少し低いですけれども、〇・五くらいありはしないかと考える。それでも量は大きい。ですから日本で要るだけのニッケルはみなとれる。この賠償でとったらいい。ほかのものは要りはしない。それなのにミシンをやるというような、そんなばかなことはありゃしません。これだけ申し上げておきます。
  15. 前尾繁三郎

    前尾委員長 お忙しいようですから、簡単に質問を願います。松本君。
  16. 松本七郎

    松本(七)委員 結論的なことを伺いたいのですが、政府言い分を聞くと、今度の賠償でむしろ日本中小企業利益する、これも一つ言い分のようにわれわれは聞いておる。今のお話によると、当面そういうことに目を向けてはおっても、それが見当違いで、結局はそれが、家内工業だとかそういうものに目を向けたために、かえって日本利益にならないのだ、また中小企業利益にもならないのだ、こういう御結論だと考えてよろしゅうございますか。
  17. 鮎川義介

    鮎川参考人 これがずっとしみ込んで、結果がどうなるかということを私の予測で申し上げますと、おそらくこれをやるために、今までの日本の普通の商品貿易は少くなると思う。その面を相当食うことになると思う。だからこれはプラスのようになっているけれども、今までやったものはマイナスになるということになって新たなものはありません。こんなことをやって貿易の面を相当食っていると思います。何ぼ食ったか私は知りませんが、相当の量を食っている。何のことはない、左の手で持っているものを右に回しただけで、得たものはないということになるものが相当あると思います。そのうちの一つ家内工業のようなものがある。こっちで向うにやらなければ、必需品行だから日本からインポーターズが持っていった品物相当行くだろうと思うものが、向う日本でできるものはなるべく使わぬようにして待っている。ところがそれもできはせぬから、両方ともだめだという事態がある年数の間起きはせぬか。インドでもそうです。初めは中小企業に非常に期待を持った。インド日本と同じような工業が興るだろうと思ったけれども、興りはせぬ。その間は停頓している。向うは人民がずいぶんエクスペクテーションを持っている。これは将来来るだろうから今買い控えたらいいだろうというので待っている。こちらは売る品物ですからお願い奉ってもなかなか行きはせぬ。それなら買うたらいいというので、一年くらい控えてまた買い出した。その間はこっちは滞貨しておった。おそらくこういうことをやったら、日本中小企業というものはますます希望を失いはせぬかと思う。むしろあちらに重工業が興れば日本のそういう商品がよけい行くだろうということでやらなければ、賠償をやったって何にもならぬ。それはただくれてやるなら問題ないですが、両国のためになるのだという文句が出ている。あっちだけよければいいというのなら、戦争で負けたのだからいいでしょうが、親善関係日本もよくなるものでなければならぬとすると、日本の困るものはやってはならぬ。それを何を苦しんでミシンだの家内工業をやらなければならぬか。それは手取り早いから先に手がつくと思います。しかしそれをやったら、日本中小企業に大なる脅威になるばかりか、どうせ向うも成功しはしない。私から言わせれば、どっちもがたがたしている間に時間がたってこっちもやせる。日本中小企業の人が二、三人行ってよくなろうとも、こんなものは二、三人でいくものじゃないです。やはりこちらの施設とこちらの伝統をそのままで使うから生きるので、中小企業だって引当の時間がかからぬと根が生えるものじゃない。それをすぐ持っていきさえすればやれると思うけれども、それはインドがいい例ですよ。四、五年になりますか、お調べになったらわかると思います。
  18. 松本七郎

    松本委員 さらにもう少し飼いたいことがあるのです。また関連しますから、政府の答弁をその間で求めたいと思うのです。  今の鮎川さんの考え方は私も賛成なのです。そういう立場からわれわれの政府質問を続けているのです。結局今度の案は鮎川さんの考え方とちょうど対蹠的なものに落ちついたのですが、今の鮎川さんのような考え方日本政府向うに主張されたことがあるのかどうか。結局できた案、高崎長官の言われる家内工業中小企業重点を置いてやられるのだという考え方は、フィリピン側が希望してこういうところに落ちついたのか。日比両国のやりとりの経過はどういうふうなのでしょうか。
  19. 中川融

    中川(融)政府委員 今いろいろ日本で困っているという中小企業方々が、フィリピン賠償契機としてフィリピンにも進出できると思うということを、高碕長官がきのうも言われたわけでありますが、これは主として賠償関係からでなくてもう一つ経済協力借款、あの方の関係から現在でも日本中小企業者と提携したいという空気が非常に起ってきておる。従って案外大企業だけかと思っておったところが、中小企業の方に相当見込みがあるという趣旨で言われたわけであります。賠償の、項目自体の問題といたしましては、ただいま鮎川先生から御指摘があったように、これは非常に多くの品目を掲げていることは事実でありまして、これだけの品目を全部出せば、十数億にはどうしてもなるものなのであります。従って本文書き方でも、この附属書の中から選ぶ、その選ぶのは、合同委員会両国政府が相談して選ぶということになっておるのであります。これは全部を出す、あるいはこれを少しずつ全部について出すという趣旨では必ずしもないのでありまして、今後協議のやり方によって、できるだけ日比双方にともに利益になる種目を選んで出すようにしたい。またニッケル等の話もありまして、ニッケル等が出ていないのははなはだ手落ちのようでございますが、これだけがまた全部であるということでもないのでありまして、そのほかに両国政府の選ぶものは何でも出せるということになっております。これは今後の施策によって、十分御指摘になられました点は考えて、遺漏なきを期していきたいと考えております。
  20. 松本七郎

    松本(七)委員 今の経済借款のことでお伺いしたいのですが、政府が何ら特別の援助あるいけ保証を全然しないで、民間商業ベースでかりに鮎川さんが金を貸す身になった場合、今フィリピン賠償契機として貸せますでしょうか。
  21. 鮎川義介

    鮎川参考人 私は借りた方の経験は非常にあるんですが、貸したことは今までありませんから、それを申し上げていいかどうかわかりませんが、あまりないと思いますね。私はそういうものはなかろうかと思うんです。これだけのカテゴリー、それからどれでも選べということになってくると、おそらくはかにはないのじゃないかと思います。中小企業のようなものならあるでしょうが、向うじゃ中小企業をやりたいという人は数はたくさんありますがね。しかしそんなことをやることが、向うが言うからといってついていくことが、一体いいかということにはならぬですね。向うが言うのを、それを断ったからといって、別に向うはそれじゃ条約せぬというほどやかましい問題ではないと思うんですね。もう少し選ぶにしても、これだけ数を書いてこれから選ぶというなら、それなら何でもいいということにして選ぶという方がまだ気がきいていますよ。そうすればニッケルも入る。ところがニッケルを入れずにおいてミシンを入れたり何かすれば、ニッケルよりミシンの方が大事だということになる。そしてその他ということになると、その他というものはそんなに大したものはない。これはエトセトラですよ。エトセトラが先になっておもなものがあとという、そういう選び方というものは、およそ世の中にはないですね。それほど政府はこれを軽んじておるということにしかならない。それならこんなことは言わずに、何でもいいから手当りほうだいいいものからやるという方がよっぽどいい。二つでも三つでもいいからやればいい。これだけ並べたら、三分の一くらいやらなければ、人聞きが悪いことになるのじゃないかということを申し上げていいと思います。  金融の方は、こちらに専門の方がおられますから……。どうぞこの辺で許して下さい。僕はちょっと商売があるんで困りますから……。
  22. 松本七郎

    松本(七)委員 せっかくの機会ですから、もう一つだけ重要な問題ですから伺いたいのです。鮎川さんも参議院で、いつも質問する人の気持はわかるでしょうから、少ししんぼうして下さい。われわれも正常貿易に影響があると、こう見ているのですが、鮎川さんもさっきそういうお話がありましたが、政府は、むしろこの賠償契機として貿易は伸びるのだ、こういうふうにしきりに答弁しているわけですけれども、たとえばアメリカが非常に特恵的な権利を持っている。これを廃止することはむずかしいが、そのままでも、いい品物を安く作りさえすれば、日本貿易は競争できるのだ、こう政府は言っておりますが、しかし、これが日本の努力によって一時伸びたとしても、必ずアメリカはこれを黙って認めやしない。政治的あるいはいろいろこれに対する対抗処置は講じてくる。それからフィリピンと米国との特別な関係からしても、これはそう楽観はできないと思う。結局私どもは、日本が輸入だけよけいしなければならなくなってフィリピンに対する輸出は、お株はアメリカの方にむしろ有利な条件を、日本賠償によって提供するというような結果にもなりかねないと私は思うのですが、そういう話は別として……。(鮎川参考人「その方がおもです。別じゃない」と呼ぶ)それはもちろん大事ですけれども、私の開きたいのは、そういうような悪条件、必ずしも有利な条件じゃない。そこで私は、今後フィリピンとの経済ほんとう協力体制にするためには、やはりアジア全体の協力関係というものを打ち立てていかなければ、ただ日本フィリピンという関係だけで将来を律することは不可能じゃないか。そういう意味で、通産大臣も最近問題にしているようですが、中国との経済提携という問題が、やはり今後急速、に必要になってくるのじゃないかと思うのですが、そういう点についてのお考えを、簡単でよろしゅうございますからちょっと御披露を……。
  23. 鮎川義介

    鮎川参考人 今の前のお話は、ちょっと私も関心を寄せておりますが、これをやれば日本によけいものがとれるようになるであろうということですが、大体こういうことをやっても、私はとれるものはないと思いますね。大体フィリピンというところからは、こっちへとるものはそうないと私は考える。こういうやり方によってどれだけとれるかということになると、先ほども言われるように、やはりアメリカという国は黙っておらぬと思う。今度の繊維品の問題でも、あれでぎゃあぎゃあ言うくらいのものが、何が黙っていますか。そうすると、こちらが呼び水を持っていって、そうしてほんとうの池の水はよそへ流れることになる。ことにできたプロダクションはどこへでもやれるという、これくらいばかな話はないと思う。銅でも何でもそういうようなメタルは日本に足らぬのだから、日本資源は至って乏しくなっているのだから……。賠償は、何でも賠償で握っちゃって、それで利益を得て、よそへいってしまうということは、いいことじゃないと思う。こういう考え方政府が持ってやるからだめです。このやり方を変えなければだめです。大体こういうことでやって何を得るか、何が日本のためになるか、要するにアメリカはやきもちを焼いて、そうして日本にはどっこいようやらぬということになる。その方の渡りもついていないでやってから、そうしてどうかというと、日本の案内工業をとられる。――それもどうせとられやしません。しかし、さっき言われるように、いいものを安くうるというのは、それは言うだけの話で、今まででも日本は何もいいものが安くできていない。それにはこのままではだめで、設備からやり変えなければならぬが、それは一年でやれるものじゃない。三年も五年もかかる。潤沢に設備資金を与えて、それからでなければ、いいものは安くできない。オートメーションというてもすぐできるものじゃない。それをやれば、また労働者のやり場がないようになる。その方がまだ損です。やらぬ方がよっぽど得です。それでもって向うから一体何を持ってくるか、せっかく持ってくるものはその他の中へ入っているというなら、さっぱりだめですよ。今のは返事になりますか。
  24. 松本七郎

    松本(七)委員 けっこうです。中国との関係を……。
  25. 鮎川義介

    鮎川参考人 これは私が申し上げるまでもないでしょう。それはフィリピンよりもずっと大きなソースがあるだろうと私は考えております。
  26. 前尾繁三郎

    前尾委員長 それでは堀江君にお願いいたします。
  27. 堀江薫雄

    堀江参考人 今鮎川さんからお話がありました通り、鮎川さんは三年と言われましたが、足かけ五年の長きにわたって懸案となっておりました日比賠償交渉が、このほど妥結し、協定の調印を見ましたことは、両国間の正常関係を復活し、今後の友好増進の道を開くものでありまして、何としても御同慶にたえない。まず最初に交渉の衝に当たられた各位の御努力に対しまして衷心から敬意を表したい、こんなふうに考えます。  私は国際法その他協定そのものの問題点や、あるいはただいまの鮎川さんのような具体的な開発の対象につきましてはしろうとでございますが、この機会に、今回の賠償協定経済的に見てどのような意義を持っておるかということ、またこれに関連する若干の問題点につきまして、いささか所見を申し述べ、皆さんの御参考に供したいと考えております。こまかい技術的な問題等は御質問でもありましたら答えることといたしまして、ごく大筋の話を主にいたしたいと思いますが、順序として、まず日比賠償がわが国の東南アジア政策全般との関連において持って、おる意義といった問題から始めて、次いでわが国の国内経済との関連、それから日比貿易に予想される影響といった諸点に触れてみたいと思います。  第一に、日比賠償は――さきのビルマ賠償にしてもそうでありますが、一般に賠償は今後わが国の東南アジア諸国に対する経済関係の基礎をなすものでありまして、従ってわが国の総合的な東南アジア政策の一環として運営される必要があること、またそのためには東南アジア政策というものを、基本的な方針だけでもこの際至急に確立しなければならないということを申し上げたいのであります。  御承知のように現在東南アジア及び中近東の諸国におきましては――私は昨年この方面を約三ヵ月あちこち歩いて参りましたが、この中近東及び東南アジアの諸国におきましては、米ソ両陣営の間で激しい援助競争あるいは経済競争が戦われておりまして、それぞれの立場から援助をきずなとして結合、進出の強化が争われておるのは御承知の通りでありますが、このような状況下で、これらの諸国と貿易その他の経済関係を緊密化するには、援助ないしけ経済協力を基本とするのでなければ、事は成り立ちがたい実情にあるように思われます。すなわち御承知の通り戦争前のように、縁日商人的にそのつど安い品だから買えといったように売っていくという貿易方式は、現在では非常にむずかしいのであります。わが国といたしましては、賠償を手がかりとして、これらの諸国と経済協力の関係を取り結んで、将来経済関係を緊密化する端緒を得たわけでありまして、この意味から賠償は今後わが国の東南アジア政策の基本となるべき重要な意義を有するものと考えられます。従いまして賠償の実施は、単に協定上あるいは条約上の義務を履行するというだけにとどまらず、広くわが国の東南アジア政策の一環としての観点から、慎重な配慮のもとに運営することが必要でありますが、このためにはまず東南アジア基本政策というものを至急確立することが先決だと思うのであります。  従来は賠償が未解決で、国交さえ正常化していないという状況にありましたから、その必要は痛感されながらも、事実上具体的な政策は立てがたいという事情があったものと察せられますが、さきのビルマ賠慣、また今回の日比賠償が妥結いたし、今後近い将来にはインドネシアあるいはヴェトナムといった国の賠償問題も逐次解決する機運にある以上、すでに情勢は変って機は熟したと考えられるのでありまして、特にかつての日本とは異なって、満州、中国といった日本の特殊な貿易市場を失った現在の日本といたしましては、東南アジア諸国との緊密な結合は、わが国存立の基礎であるという基本認識に立って、東南アジア諸国に対する関係を律する根本方針、根本国策を確立することを要望いたしたいのであります。  この場合第一に留意しなければならない一つの問題は、現在東南アジア諸国、あるいは中近東諸国も同様でありますが、これらの諸国に共通して見られるナショナリズムの高まりでありまして、わが国の東南アジア政策はこの現実を尊重し、ナショナリズムの方向に沿って、こういった諸国の経済的自立を支援していくということを基本とすべきであると考えます。現在御承知の通りソ連の経済攻勢が当面かなりの成果をおさめており、特にこういった諸国間ではいわゆる評判がいい、人気があるといったおもな理由は、それが諸国のナショナリズムを支援する方式で行われておるからであると見られるのでありまして、すでに西欧側におきましても、この点に対して反省が加えられ、従来の援助方式、開発方式も再検討が行われておるようであります。たとえばアメリカの援助におけるいろいろなひもつきなどもだんだん援和していきつつある傾向であります。大統領選挙でも終りますと、この傾向はさらに援和してきて、ソ連式の行き方をやらざるを得ないといった状況ではないか、少くとも長い間戦時色がなくなって平和基調の情勢が続く限り、両陣営からはそういった諸国に対する純粋の支援の形式を持ったものが進出せざるを得ないのでありまして、でなければ経済競争、援助競争に負けるいうのが実情であります。  賠償の実施に当りましてはかかる情勢に十分留意いたしまして、賠償の履行が真に相手国の経済的自立の達成に役立つような諸般の配慮をめぐらすことが必要であります。かつて日本が満州その他に進出したように、独占市場を作るといった考え方では、現在の世界情勢、またこういった国々の考え方、行き方から申しまして、お話にならないと考える次第であります。これによって相手国の経済発展が進むにつれ、その発展の潤いを自然にわが国にはね返してくるといった長期の経済的効果を期待するのが筋道でありまして、あまりに短兵急に効果を求めることは、かえって本来の意義を失う結果となりかねないと私は思うのであります。  なお、賠償における経済協力が真に効果を発揮するには、進んで相手国の受け入れ態勢の整備にまで協力の下を差し伸べることがこれまた必要であると考えます。元来、第一次大戦までの賠償は、勝った国、すなわち一般的に政治的にも、軍事的にも、経済的にも優秀な方の国が、負けた国、すなわち劣勢国から罰金を取り立てるといった考え方賠償が従前の賠償であったのでありますが、今度の日本の場合は、勝ったのは米英であり、しかし賠償を取り立てるのは負けた日本よりさらに劣勢の国々でありますから、賠償を取り上げる国々の受け入れ態勢が十分でない、かえって賠償を支払う国より劣っておるわけでありますから、そういった受け入れ態勢の整備に協力していくといったことが必要であります。この点相手の受け入れ態勢、特に賠償実施に伴って生ずる運転資金等の現地資金の調達につきましては、今後何らかの形で援助する方法を考案しておく必要があると私は思うのであります。わが国が提供する開発借款をこれに活用いたしまして、借款円を対価として、現地貨すなわちペソ貨を調達するといった道でも開けるならば、まことに時宜に適した方法と思われますが、ともかくもこの種所要資金の調達につきましては、ぜひ関係方面で御検討を願いたいと存じます。  次に賠償日本の国内品経済の関連の問題になりますが、問題をわが国の工業、特に機械工業の合理化とその国際競争力の培養という点にしぼって所見を申し述べてみたいと思います。協定によりますと、賠償、借款、このいずれの方式をとるにしましても、資本財の提供が実施の主要部分になるものと予想されます。これはわが国の資本財生産工業にとりましては、新たに長期の安定した市場が確保されるということにほかなりません。従いまして、競争力において国際的に劣っておりますわが国のこの種工業が、市場の安定を基礎に合理化を進め、国際競争力の強化をはかるいい機会だと申さなければなりません。従って賠償による受注の増加が企業の合理化を進め、競争力を培養する契機として有効に利用されるよう関係当局の御指導を願いたいのでありましていたずらに受注競争、一旗組競争に身をやつし、出血受注をあえてするというようなことになりますれば、わが国全体の国民経済としては、それだけ賠償負担が加重する結果になるのみならず、片方の企業強化のせっかくの好機をも無にすることになるのであります。業界が当局の指導下に自主的な調整を講ずることが私は望ましいと思われますが、ともかく賠償契機として提供する側もまた受け入れる側も、これを自国の経済力強化に活用してこそ本来の意義を全うするものでありまして、これを機会にわが国ブラント輸出の国際競争力を高めることに成功いたしますれば、その効果はまことにはかり知れないものがあると存じます。  それから第二番目の問題としまして、賠償が今後の日比貿易にどのような影響を生ずるかといった問題であります。先ほど御質問のあった問題にも触れるわけでありますが、私は端的に申しましてやはりわが国の通常輸出に対する圧迫は当面避けられないところと考えております。この点につきましては藤山特使の御努力もあって協定には特に貿易拡大に関する共同声明というものがつけ加えられるなどの考慮が払われておるのでありますが、賠償貿易増進に寄与いたします効果は、本来かなり長期的なものでありまして、賠償によってフィリピン経済開発が進行し、その購買力造出の効果と相まって、輸出、輸入ともに規模が拡大するという結果は、長期的にはもとより期待してよく、またこれをむしろ終局の目的として賠償を運営すべきでもあろうと思います。しかしながら、さしあたっては、フィリピン側の都合によって通常輸出が賠償の方に振りかえられる――トランスファーされる傾向は避けがたいものになりましょうし、それだけわが国の通常輸出は圧迫を受け、日比貿易の入超傾向は拡大するおそれがあるわけであります。  これに加うるに米比通商協定、いわゆるベル通商法関係で依然として米国製品の輸入特恵関税が強力に働いておりますので、日本からのフィリピン向け一般輸出は採算上不利になる。それからフィリピン側の輸入管理が現在依然として非常に厳重なことを考えますと、なかなか一般正常輸出は増大困難である、むしろ滅退するのではないかという心配があるのであります。しかし賠償は本来それだけその国への輸出超過があってこそ円滑な支払いが可能なのであり、わが国といたしましては通常貿易の均衡こそ望ましく、輸入超過の拡大は何としても防止したいところであります。それかと申しまして輸入超過になるからその対策として輸入削減による縮小均衡はどうかと申しますと、経済協力という賠償本来の趣旨にもとりますのでとるべき策ではなく、やはりこういったわが国の立場について十分にフィリピン側にも了解を深め、日本からの通常輸入の拡大へフィリピン側も協力するといったことを切望いたしたいのであります。  この点につきましてさしあたって重要な問題は、国交正常化に伴う通常一般通商関係の整備でありまして、通商航海条約を早急に締結して、現在わが国の綿布六品目に対してとられております輸入禁止措置といったような差別待遇の撤廃はもとより、進んで経済協力圏としてのわが国の立場を認め、関税、貿易上の優遇措置とか出入国や事業活動の緩和について格別の配慮を希望いたしたいと存じます。そうしてこの点は今後ともフィリピン側に直接働きかけ、またアメリカの理解を深める必要があるように思います。さすればフィリピン側に対するわが国の商社活動は活発化し、輸出品目の幅を広げることによりまして、賠償からするさっき申しましたような圧迫を越えて、輸出を拡大し得る可能性も出てくるわけであります。このほか近く通商協定改訂の機会もあることでありますし、日比貿易の拡大均衡を目標として通商関係の整備に一段の御努力をお願いいたしたいと思うのであります。  以上簡単ながら当初申し上げました三つの点について卑見を申し述べましたが、問題の中心はやはり東南アジア諸国のナシャナリズムの現実を正しく認議する、そうしてこの線に沿って諸国の経済的自立を支援することを指導理念として賠償を実施するという点にあると考えます。市場の独占とかあるいは企業の進出とか、わが国の一方的観点だけからする経済協力では、相手国を刺激するのみか何らの益がない。平等互恵の立場に立ってわが国と諸国との関係を緊密化し、わが国が東南アジア社会の経済発展にとって不可欠の一員であるという地歩を固めることこそが、わが国自体の存立基礎を強化するゆえんと考える次第でありますが、この成否に関連いたしまして、賠償の運営いかんはきわめて重大な意義を有するのであります。  私のお話はこの程度にいたしますが、御清聴をわずらわしましてありがとうございました。(拍手)
  28. 前尾繁三郎

    前尾委員長 それでは堀江君に対して御質疑のある方はこれを許します。
  29. 松本七郎

    松本(七)委員 国際経済あるいはナショナリズムの動向等と関連してきわめて興味のあるお話を伺ったのでありますが、私どもがかねがね考えておることと、大筋においてはほとんど一致しておるわけです。そこで二、三伺っておきたいと思いますのは、今中心点としてお述べになりました東南アジアあるいは中近東のナショナリズムの動向を的確につかんで、そうしてこれらの基本政策を早く確立し、その一環として賠償を考えるべきだ、これは全くその通りだと思うのです。ところがその考え方がそういうふうに立っておるだけでなしに、そのように一環としてこれが働くような体制を作ることは、なかなかそう容易なことではない。そういう観点からしますと、やはり日本だけでそういう構想を練るというわけにはいかないのじゃないか、やはりアジア諸国の関係国が寄り寄り集まって、そうして今後のいわゆる後進国の経済開発をどういうふうな基本政策をもっていくか、それに対してそれぞれのアジアの諸国がどのような協力ができるか、またすべきか、こういうふうな基本的なものを外国との連携において作らなければ、日本だけで構想しても、これはなかなかうまくいくものじゃないと思うのです。そういう意味から申しますと、私どもはこう考えておるのです。今後国際的、特にアジアで大きな比重を占めてくる中国を含めて、アジアの一切の関係諸国が、やはり日比賠償という問題を契機にして経済会議を開き、そうして基本的な大きな構想をもって、具体的な今後のアジア経済協力体制というものを打ち立てる、その一環として、初めて日比賠償というものが取り上げられて、今御指摘のような成果が得られるのじゃないか。そういうことで、日比賠償ができたことを効果あらしめるために、早く何らかの体制が必要だと口では言っても、実際問題としては、その体制の方がずっとおくれて、そうして日本フィリピンの間だけの賠償が先に進むということになると、結局所期の目的は何ら達せられない、逆の方向に結果は向うのじゃないかという気持がするのです。そういうふうな点について、たとえば石橋さんの構想というのは、これはそういう観点からではないのですが、私がお伺いしたいのは、そういった構想を必要とするのじゃないかどうかということと、これは直接関係はございませんが、この前通産大臣が談話として発表しておりました米国、フィリピン日本の三国に上る共同出資による金融機関を作ったらどうかというようなことが、ちょっと出ておりましたが、もしもそれをごらんになっておりましたら、それに対する御感想をお伺いしたいと思います。
  30. 堀江薫雄

    堀江参考人 体制整備というお話だと思いましたが、アジア地域を含めた各国の関係における体制整備というものは、お話の通り日本だけが主観的にどう考えたって進むものではない、御趣旨はその通りであります。しかし私が主として申し上げましたのは、そういった諸国あるいは諸関係に対する日本のそうした統一された考え方というものが、まず早急に打ち立てられるべきである。いわば国内体制、国内の考え方がまず打ち立てられる必要がある。これは政治面でも経済面でもおそらくあるだろう思いますが、これを第一に御指摘したいのであります。  それから第二に諸国関係の善隣あるいは経済協力関係といったことは、徐々ながらすでにその方向に進んでおると私は観察しております。これをさらに促進するために、全体の経済会議を開くといったことも一つ方法でございましょう。しかし経済会議を開いたかといって、それで問題が解決するわけではないのであって、経済会議はその目的を達する手段であり機縁である。相互間の理解を深め、政治的な善隣関係経済的には経済協力、お互いの流通関係がさらに進められるといったこと、両方が相待って進むのではないか、こんなふうに考えるのであります。今度の日比賠償では、日本・ビルマ賠償におけるのと多少違って経済商発も日本が金を貸すといったことが主になっております。ビルマの場合は、比率その他は別といたしまして、ジョイント・ベンチャー、協力関係といったことに相なっております。その点でフィリピンの場合も、そういった経済協力関係が進められる、個々に企業としても進められ、さらに進んでは国と国とのそういった協力関係が確立する。また日比だけでなくて日本とビルマ、あるいはビルマとフィリピンといったような関係が進められるならば、徐々ながら御指摘の方向に進むのではないか。これは一策もって全部をカバーするようなことが簡単にできるはずはないと思いますが、方向としてはそういう行き方であろうと思います。
  31. 松本七郎

    松本(七)委員 そこで結論として、日本の現状から考えて、政治、経済その他全般を考えられて、今の御意見のような方向に進み得るとお考えでしょうか。端的に言えば、現状から考えてそれならばこの日比賠償協定に賛成されるのか、あるいはそういう体制がまだできておらないから、それがもう少し目鼻がつくまでこの日比賠償というものには反対だ、こういうお立場なのですか、いずれになりますか、
  32. 堀江薫雄

    堀江参考人 大へん端的な御質問でございますが、そういう体制ができるのかできないのかといったことは、むしろまず政治の問題についてこういった問題に対する政界方面の考え方がだんだん整理されることが必要じゃないか、その意味で皆さんにそういった宿題をそのままお返しいたしたい。  それからこの日比賠償につきましては、全体として私は賛成であります。ただその実施に当りましては、いろいろと問題や難点や欠陥を含んでおるから、これを極力調整して、日本側に有利に、また両国関係に有意義になっていくようにお願いいたしたい。たとえばさっき指摘いたしました正常貿易についての圧迫としては、どうしても出てくるが、それをいわば輸出超過させるように、フィリピン側にも今後継続的に努力していただくといったような、通常面で御努力いただくことを条件といたしまして、私は日比賠償には賛成であります。
  33. 松本七郎

    松本(七)委員 政界の考え方の整理が先だというので、宿題としてこっちにお返し願ったようなわけですが、これはきわめて重要な点だと思うのです。そういう点を考慮しての結論が私は聞きたかったのですが、それは皆さんにまかせるということで、そのことは別としての結論を今お述べになったような気がするのですが、これはそれでいいと思います。  そこで考え方の整理が必要だと言われたことと関連してくるのですが、御指摘のように、いずれにしても、今後は世界各国が経済的な協力体制を打ち立てていかなければやっていけなくなる。従って日本として、そういうアジア諸国との経済協力体制を打ち立てるためには、さしあたりそういうことに対するアメリカの理解、努力、支援というものが絶対に必要だと思う。これを得るためには、いかなる努力をやるのが一番近道かという点が、現実の問題としてはやはり大きな問題なのですね。アメリカを説得して、そして今後はこういうやり方が必要である。御指摘のように各国でも今後進国の援助の方式については反省が行われておる、ソ連式のやり方が今後だんだん取り入れられてくるだろうというお話でござ、いましたが、私も必ずそうなると思う。けれども、西欧ではこういうやり方をやった、ああやった、従ってアジアでもこうすべきだというようにあとを追っかけて、そしてアメリカに説いて聞かせるという、ような消極的なやり方では私は間に合わないと思う。この際すみやかにアメリカをしてそういう方向に切りかえさせるための近道は、やはりアジアあるいはアフリカの諸国が現実にそうしておるように、ソビエト圏、日本で言えば中国あるいはソ連との経済関係をもっと強力に推し進めることによって、かえってアメリカ協力体制が得られるのじゃないか。これに遠慮し過ぎているために、かえってアメリカの反省を促すことができずにいるのが今日の状態じゃないかと思うのですが、経済面から見てこの点どのようにお考えになりますでしょうか。
  34. 堀江薫雄

    堀江参考人 なかなかむずかしい問題でありますが、世界の政治経済の大きな流れといたしましては、やはり両陣営の経済交流というものはかなり進みつつある方向にあるように私は見受けます。従いまして、アメリカの国内事情もございますが、徐々ながら御意見のような方向に進んでいくものではないか、そんなに考えております。具体的にソ連圏経済との貿易正常関係は、私個人としては、いずれは日本も実現するであろうという考えを持っております。
  35. 松本七郎

    松本(七)委員 もう一つ、石橋通産大臣の談話をお読みになりましたか。日米比共同出資の……。
  36. 堀江薫雄

    堀江参考人 私十分読んでおりませんが、いわば後進国経済開発計画の後進国に対する経済協力の考え方につきましては、日本独自でいく考え方と、それからアメリカその他そういう日本よりより先進国からの協力によってやっていく行き方があると思います。  まず、前の独自的考え方を私の意見でもってしますと二つある。一つは、いわば商業ベース、民間ベースの自力でやっていく、多くは期待できないが、しかし自力でやるのが正常であろうと思います。しかしそのためには、たとえばそういった長期資金に対する手当ということで輸出入銀行の資金の拡大といったようなことが望まれます。またそのほかに、先般この国会を通ったはずでありますが、投資保険、いわば長期投資に対して危険をカバーするために、国家的見地から国家保険制度をさらに拡大する。先般通りました輸出保険法の投資保険の填補率がわずかに五〇%というような程度のへっぴり腰では、とてもそういった自力による、あるいは民間ベースによる投資は進まないと思うのであります。民間をしてみずから商業ベースで大いに投資開発援助をさせる、そういった大きな政策的な国家的なバックをする意味で、資金並びに危険のカバーをするようなことが必要であろう。  それからもう一つ方法は、国家資金ないしは民間と国家の共同資本による直接の国際投資機関というようなものも必要であろうかと思います。しかしこの問題は欧州諸国でも多少取り上げられ、あるいは実現に入っておる国もございますが、先ほど申しましたように、各国にナショナリズムの傾向が非常に強い関係上、国家機関そのものが直接に出ていくことにつきましては、なかなかむずかしい面もございますから、実費は国家機関であっても、形式や体裁は株式会社というような行き方でいくべきであろうと思います。しかしながら世界経済両陣営の後進国に対する態度といった諸問題から考えまして、日本自身も自力でそういった方向に踏み出すべき時期に来ているように私は考えます。  それから、今申しましたのは主として日本自体の自力による行き方であります。日本自体の資本その他の余裕があるならば、これで大いにやるべきでありますが、これに限界があるとすると、石橋構想あるいはジョンストン構想といったものが出てくる。それもまたあえて拒否すべきでなく、アメリカのバックあるいはアメリカのポイント・フォア式の考え方に合せて、日米比あるいはもっと多角的な投資機関が考えられるならば、それぞれ具体的なこまかな内容については十分検討すべきでありますが、趣旨として進めるべきてあろうと私は考えます。
  37. 松本七郎

    松本(七)委員 ありがとうございました。
  38. 田中織之進

    ○田中(織)委員 堀江さんに一点だけ伺いたいと思います。私は途中から参りましたので、あるいは堀江さんのお述べになりました三点にこの点は触れておらないかもしれません。  それは賠償額の問題に関連いたしますが、五億五千万ドルの大部分が堀江さんも御指摘になったように、サンフランシスコ講和条約趣旨から申しますと、役務賠償という点がわずかに三千万ドル、大部分が資本財になっている。この点は非常に問題を残していると私は思うのです。同時に、日比賠償において特に重要な問題として未解決のまま施されている問題ではないかと思うのですが、従来フィリピンにありました日本人の在外資産の問題が、今度の-賠償交渉に当ってどういうように取り扱われたか、これは委員会でわれかれがこれから究明していくわけですけれども、まだ明確ではないのであります。堀江さんの東銀の前身の正金銀行等も、太平洋戦争前のフィリピンにおける在外資産は、これはもちろん現在閉鎖機関関係にありますが、未処理になっている。そういうような問題はサンフランシスコ講話条約の建前から申しますと、また講和条約のときのダレス・アメリカ代表の発言からいたしますと、日本の在外資産というものは賠償の引き当てにされるのだ、こういう原則が一応明らかにされているのです。今度のフィリピン賠償関係において五億五千万ドルは、そういう在外資産を引き当てにされたものの上にさらに五億五千万ドル――おそらく向うはそういう主張をしてくるのではないかと考えられるのであります。そういたしますと、そうした在外資産に対する日本政府の補償がどうなりますか。憲法上で私有財産が国の用のために使われた場合には当然補償されなければならぬ。その補償問題がやはり国内の重要問題として残されていると思います。堀江さんは、財政金融の観点から考えまして、フィリピンにあった日本の法人あるいは個人の資産が、この賠償との関係においてどういうように理解しておられるか。これは今後国会の審議の過程を通じて問題になる点でありますけれども、特に堀江さんの東銀の前身の正金も、フィリピンヘは相当な在外資産を持っておられただけに、すでに御研究になっているのではないかと推察いたしますので、その点について御意見があればお聞かせ願いたいと思います。
  39. 堀江薫雄

    堀江参考人 お話趣旨はよくわかるのでありますが、国内問題になっての賠償云々になりましては、私も実はそういったことを研究しておりませんのでお答えしかねるわけです。現状だけから申しますと、私の関係しておりました横浜正金銀行のマニラ――フィリピンにおけるプラス財産、マイナス財産につきましては、こちらの資料はある程度整っておるわけでございます。これがネット・プラス幾らで、それについてどういうふうな処置がとられるかにつきましては目下たな上げの状態でありまして、今後のフィリピンとの折衝ないしは国内の補償その他の正法に持つ以外はないように思います。その他また不動産関係、例の占河のエステートといったような問題につきましてもお話のような問題があるだろうと思いますが、私はその方をあまり研究しておりませんのでお答えできかねるのであります。
  40. 前尾繁三郎

    前尾委員長 それでは午後一時半から再開いたします。  参考人の方にはいろいろ有益な御意見を出していただいてありがとうございました。  それでは休憩いたします。    午後零時四十二分休憩      ――――◇―――――    午後二時十九分開議
  41. 前尾繁三郎

    前尾委員長 それでは会議を再開いたします。  北澤直吉君より外務大臣に対する緊急の質疑があるということでございますから、これを許します。北澤直吉君。
  42. 北澤直吉

    ○北澤委員 二十日の晩の日本向けモスクワ放送によりますと、現在日本とソ連との間には国交関係の正常化を妨げる紛争問題は何もない。それから現在未解決のままに残されておるのは領土問題一つだけであるが、この問題もまぎらわしい点は少しもない。実際に南棒太と千島列岳がどこの国のものであるかは、かつて連合軍の間に結ばれた周知の協定にはっきりと最後的にきめられておる。日本はこの協定に従うことを厳密に誓ったし、その上サンフランシスコ条約によってもこれらの領土に対する要求を捨てたのだから、この問題を再検討するどんな根拠もない、こういう趣旨日本向け放送をしまして領土問題に関するソ連の主張が正当であり、日本の主張には根拠がないというふうなことで、いろいろ日本の国民に対する宣伝をしておるわけでありますが、御承知のように、今回のモスクワにおきます日ソ漁業交渉に関連しまして、日ソ間の国交回復の問題が現実の問題と相なってきたわけであります。結局いろいろな問題はありますが、終局するところ領土権の問題、特に南千島の問題ということが、日ソ国交回復についての本も大きな問題になっておるわけでありまして、これは非常に重要な問題であります。従いましてこれに対します日本政府の従来の方針というものを、一つ日本国民及びソ連の人たちにもはっきりいたしまして、日本の立場に対して間違いないように、また日本の立場を今後とも有利に導くようにする必要があると思うのでありますが、この際一つぜひ外務大臣から、この南千島の問題あるいは領土問題というものに対する日本政府のとってきた態度及び今後の方針について、はっきりお示しを願いたいと思うのであります。
  43. 重光葵

    ○重光国務大臣 二十日夜のモスクワ放送の内容は私も各新聞の記事によって承知をいたしております。御承知の通りに日ソ間には元来中立条約があったにもかかわらず戦争が起ってそれからすでに十年以上たっておるのであります。日本といたしましては、日本側がこれまで宣言したことのない戦争状態を一日もすみやかに終結したいという念願のもとに、ロンドン交渉に応じたわけであります。それが今日もうすでに間もなく一年にもなるのでありますが、交渉の目的を達することができない状態であります。この交渉における日本側の主張が、果してソ連の放送の言うように根拠のないものであるかどうか、またこの交渉によってもうすでにすべてのものが解決されて、今、日ソの間に国交回復をし得ないという故障は何らない、こう申しておるのが果して事実でありましょうか。今日までのわが主張について少しく申し述べて御答弁といたします。  ロンドン交渉において多くの問題点が幸いに解決しましたことは事実でありまして、同庁にまた領土問題について一致を見なかったことも事実でございます。そこで領土問題が今後日ソ間に解決を要する基本問題となるわけであります。南樺太及び千島は、サンフランシスコ条約によって日本は放棄を約しておるものであります。そうでありますからサンフランシスコ条約に調印していないソ連との間には、別にこれに対して取りきめる必要があるのであります。しかし日本はサンフランシスコ条約の調印国を無視することはできません。そこで日ソの間でこの問題を解決する場合においては、これらサンフランシスコ条約の調印国との関係を顧慮する必要があるのでありましてこの点における日本側の主張は当然のことであると考えるのであります。しかしそれはあくまで南棒太及び千島に関する問題であって、日本本土に属する領土に関する問題ではないのであります。歯舞、色丹の二群島はもちろんのこと、国後、択捉両島も北海道と日本本土に属する島々であります。ソ連が参加しておる大西洋憲章によっても、領土の不拡大方針というのは明瞭になっておるわけであります。  さてそれでは南千島はどうであろうかといいますと、いまだかつてロシヤはもちろんのこと、日本以外のいかなる国の領土であったこともないのであります。一八五五年、下田で調印された日露通好条約によっても、ロシヤから南千島の国後、択捉の二つの島が日本領土であるということは確認されております。また一八七五年の樺太千島交換条約においても、交換の対象たる千島群島からこれらの二つの島は除外されておるのであります。それ以来南千島の二つの島に対しては、何ら領土的変更は加えられていないので、そこでサンフランシスコ平和会議におきましても、わが全権は、千島列島の中にはこれらの二つの鳥は含まれていないという見解を表明したのでございます。これらの二つの島には、戦争直前には日本人のみ一万人以上定住しておって、その営む漁業は年十五万トンにも達しておったのでございます。日本日本固有の領土の返還を、要求することは、大西洋憲章の精神にかんがみても、正当な主張であると確信するものであります。もしそのような正当なる主張が、力の不均衡のために貫徹することができないとするならば、せっかく国交の正常化をはかってみても、その価値は減少する次第であります。われわれは隣国ソ連との間に、永久に互いに信じ合い得る親善友好の関係を樹立することを欲するものでありますから、この日本の正当な主張は、十分認めてもらいたいと考えておるのであります。  以上がわが国のこれまでとってきた立場でありましてこれは今示されたソ連の放送があっても、今日何ら変っていないものであるのでございます。以上をもってお答えといたします。
  44. 北澤直吉

    ○北澤委員 領土問題に対する政府の態度は、ただいま外務大臣の御答弁によってはっきりいたしたわけでありまして、私どもの考えから申しましても、日本の主張はまことに正当であると思うのであります。のみならず領土というものは、とにかくわれわれ民族と血のつながりのある問題である。しかも国民感情とは非常に重大な関係があるのであります。過去の歴史を見ましても、この領土問題というものは非常に大きな問題であります。たとえばドイツとフランスとの関係においても、例のアルサス・ローレンの問題が常に独仏間の友好関係を害するガンとなっていることは御承知の通りであります。また中国等におきましても、いわゆる失地回復の思想が大きな問題になったことも御承知の通りであります。  そういうわけでこの領土問題というものは、もしその国民の正当な主張が無視されて、無理な解決をするということになると、必ずそれが将来もとになってまた平和を乱すということがたびたびあったのでありますので、私どもはただいま大臣の申されましたように、この南千島等に対する日本の正しい要求――これはだれが見ても正しい主張です。簡単に曲げて力の前に屈して、これを撤回するというふうなことがあったのでは、将来の日本の立場、また将来の日ソの関係におきましても、重大な禍根を残すものでありますので、どうぞ政府におかれましては、ただいまの大臣御答弁のようなはっきりした態度を、今後とも堅持されんことを要望して私の質問を終ります。
  45. 前尾繁三郎

    前尾委員長 須磨彌吉郎君。
  46. 須磨彌吉郎

    ○須磨委員 ただいま北澤委員からの質問で、きわめて重要な領土問題の全貌がはっきりいたしたのでございますが、この機会に私は、アメリカ側のこれに関する見解の最近の発表についておただしをいたしたいと思うのであります。これはたしか二十一日の東京新聞に対する特別寄稿であったと思いますが、民主党の議員マンスフィールド氏のきわめて貴重なる意見が発表されておったのでございます。それによりますと、いわゆるヤルタ協定――今問題になりましたモスクワ放送に、いわゆる周知せられたる協定というのでありましょうか、そういうものは実はアメリカとしては、特定の国に対する領土権の譲渡を認める立場にはないということは、すでに平和条約批准のときにはっきりしておるのであります。従って日本が平和条約において放棄をいたした手島及び南樺太というものも、特定の国にこれはしておるのではない。いわんやソ連が、それによって主張すべき何らの領土権を持っているものでないことは、アメリカの態度としてきわめてはっきりしておるところである。これはむろん前からのことでございますが、日ソ交渉に関連いたしましてマンスフィールド民主党議員がそういうことを発表しておるわけでございます。  これと関連して思い起されますることは、ヤルタ協定が論議されたときにおいてすら、アメリカのドクター・ホワイトという人であったと思いますが、その意見としましては、南千島というものは――かりに千島が問題になったとしても、南千島というものはその地理的、人種的、歴史的観点からいたしましてこれは当然日本に帰属するものである、というマイノリティな意見であったと思いますが、そういう意見も出しておるわけであります。こうしてみますと、米国側の意向も、今大臣がお示しになった方針と全然合するものであるということを、私は最近においてマンスフイールド議員の発表によっても承知をするのでございますから、かような機会をもちまして、日本の外交の方針としてこれを天下に打ち出しておやりになるという今の決意は、非常に多とするところでございますが、なお一そうアメリカのかような意見をも参酌をせられまして、ますます南千島のわが領土であるべき点をば、国際的な観的からも、いわゆる周知せられたる協定とモスクワが称するヤルタ協定の上からも、何らの主張すべき権限がないものであるということを、この上とも推進をしていただきたいと思うのでございますが、これに対する御見解でもございましたら伺いたいと思うのでございます。
  47. 重光葵

    ○重光国務大臣 私もアメリカの意向を大体研究をいたしております。さようなことは非常に重要な参考資料だと考えておりますので、そのつもりでこれを取り扱い、将来の指針にいたしたいと考えております。
  48. 菊池義郎

    ○菊池委員 関連して大臣にちょっとお伺いしたいと思いますが、ソ連の方でああいうふうに一方的に、南千島は当然にソ連の領土であるということを言って放送をしておりますが、それに対しましては、日本といたしまして当然反駁の声明をやらねばならぬと思うのでありますが、どうしてこれを控えておられますか。われわれはなはだ遺憾に思うのでありますが、御意見を承わりたいと思います。
  49. 重光葵

    ○重光国務大臣 今私は詳細にわたって反駁をいたしたのでございます。
  50. 菊池義郎

    ○菊池委員 それから河野全権が、漁業に関しての暫定協定を取り結んできたということでございますが、それにもかかわらず黒潮丸がまだ返されない、こういういきさつはどういうふうでございましょうか。外務省の御推察でもけっこうでございますが、一つ聞かしていただきたいと思います。
  51. 重光葵

    ○重光国務大臣 その点はよく詳細にまだ情報を得ておりませんから、詳細に調査してお答えをいたします。
  52. 菊池義郎

    ○菊池委員 それから暫定協定にしても何にしても、大国間において口約束でもってこれを結んだという例がたくさんございますか。そうしてまたその協定による効果が確実に表われたという例がございましょうか、どうでしょうか。それを一つ教えていただきたいと思います。
  53. 重光葵

    ○重光国務大臣 重要な外交文書は多くは文書によってこれを表示することになっておりますが、軽微なものは口頭で約束する例もずいぶんございます。今回の約束はどういう内容のものであるか、よく調査した上でそれを判断いたしたいと考えます。
  54. 前尾繁三郎

    前尾委員長 暫時休憩いたします。    午後二時四十二分休憩      ――――◇―――――    午後三時二十八分開議
  55. 前尾繁三郎

    前尾委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  日本国フィリピン共和国との間の賠償協定批准について承認を求めるの件を議題といたします。  質疑を許します。松本七郎君。
  56. 松本七郎

    松本(七)委員 通産大臣に最初お伺いしたいのは、私どもの聞いておるところによりますと、日比賠償の基本方針について、相当通産省の考え方とそれから大蔵省あるいは経済企画庁の考え方とは違っておるように聞いておったのです。実はきょうも午前中参考人意見を聞きまして、鮎川さんが来られたのであります。鮎川さんの考え方も、これは極端に言えば賠償は多い方がいいのだ、これによって大きな仕事、たとえばニッケルその他の工業港湾といった大きな仕事をやることによって、日本にもその利益が戻ってくるというようなやり方さえすれば、少い方がいいとは必ずしも言えない。多くの賠償を払って多くの利益を得るという行き方もあるという考え方なのです。社会党では、先ほど藤山愛一郎さんにいろいろ向うの実情を聞いたり考え方を伺った。藤山さんの考え方は必ずしもそうではない。やはり当面は中小企業中心にフィリピンの方としては充実していかないと、一ぺんに大きなものをやろうとしても力がそれに伴わない。構想倒れになるというような御意見です。ですから日本政府としては、日比賠償に取り組む場合には、当然考え方は相反するものがあってしかるべきだと思う。何もこれを考え方の違いはなかったという必要はないと思うのです。通産省がそういうふうに仕事を拡大する上からは、そう値切る必要はないのだという考え方を持っておられたと私どもは聞いておりますが、大蔵省はできるだけ値切った方がよろしい。それに対して企画庁も大蔵省の意見を支持して結局こういう今度の案に落ちついたというように聞いておるのですが、その経過を少しお伺いしてみたいと思います。なおその当時の通産省の考え方を大臣からお答え願います。
  57. 石橋湛山

    ○石橋国務大臣 私は実はその経過として申し上げるほどのことを知っておりません。ただはなはだばく然たる話し合いはお互いに出ました。鮎川君の説と藤山君の説と二つあるというふうに、いろいろな説が出ております。今度の賠償額をきめるのにその論争が起って、多くてもいいという議論と、少くしなければいかぬという議論があって今度の五億五千万ドル、一億五千万ドルというようにきまったとは私は了解しておりません。これはネリが来ておのずからその話し合いの間に起りましたことがそのままとられたわけであります。別段通産省、大蔵省との論争の結果できてきた数字のようには私は存じておりません。それではどういうふうにきまったか、これは実際フィリピン側の希望あるいはフィリピン側の実際の受け入れ態勢等を見ないと、鮎川君のいうように大きく出して大きな事業をやってやるのがいいか、それとも中小企業をやってやるのがいいかということはかなり問題だと思います。私などでもやはり実際には港湾とかなんとかいうものもけっこうでありましょうが、実際にすぐにやれるものは中小企業式のものではないかというふうに考えておる次第であります。
  58. 松本七郎

    松本(七)委員 そうするとこの日比賠償問題についてそういう意見が戦かわされたわけではないということですが、経済企画庁では相当いろいろな科学的な資料を整備して役所をしてはいろいろ研究しておったわけです。どのような基本方針で臨むかについて本来ならば日本政府でそういう基礎調査に基いて、こういう額で、こういう方針でいこうという一定の基準を作り、その基準に基いた案を持って向うに乗り込んで、それからフィリピン側の案を突き合せて交渉するというのが普通だと思うのです。その過程において企画庁なり通産省、関係各省が特別の何かそういう研究調査機関を持って協議をされた事実がありますか。
  59. 石橋湛山

    ○石橋国務大臣 これは関係各省の者が集まって数字的な研究もずいぶん長く続けておりました。ですからその研究機関はあったと申し上げていいと思います。
  60. 松本七郎

    松本(七)委員 四億ドル案から八億ドル案に変ってきた過程において、通産大臣あるいは企画庁長官、閣僚の中のいわゆる経済閣僚で特に相談された事実がありましょうか。
  61. 石橋湛山

    ○石橋国務大臣 それはしばしば話し合いをした事実があります。前の四億ドル案というのは、永野君が行ったとをとに話があって、これは当時もある程度発表されたように、日本が出すのは四億ドルだが、フィリピンから見れば実質的には十億ドルにももっとにもなるぞということから始まったことのように聞いております。今度の八億ドルというのは、最初はネリ氏が来て、少くともそのくらいの程度というようなところから外交交渉としてきまったものと存じますが、五億五千万ドルの賠償、二億五万ドルの経済協力ということに話し合いがきまったのは、ネリ氏と高碕長官との交渉の結果大体そういうところにきまったのでありまして、おのプロセスについては前もって私どもも相談を受けております。私もそのくらいのところで手を打つがよかろうということで、賠償ですからなるべく少い方がいいにはきまっているが、賠償は対価がないからその点においては日本の損失には違いないけれども、将来の日本経済発展の上から見れば、必ずしも損失ばかりではないという考えを、私あるいは通産省側ではとっております。そういうところから話し合いの結果、五億五千万ドルに二億五千万ドルというものが、最後に政府の大体の腹としてきまったのであります。
  62. 松本七郎

    松本(七)委員 その過程においては、自由民主党が合同する前の旧自由党は、これに対して相当いろいろ納得がいかなかった点があったように聞いております。こういう賠償を国が負担する場合には、その経過についてこういう案で落ちつかなければならなかったのだということをよく理解した上でやりませんと、すべての点に円滑を欠くと思いますので、特にしつこく伺いますが、閣僚の中ばかりではなく、その属しておられる自由民主党のそれぞれの機関に十分相談をされて、こういう結論が出されたのかどうか、その今に私どもは一まつの疑惑を持っておりますので、その点もう一度伺いたい。
  63. 石橋湛山

    ○石橋国務大臣 自由民主党の関係各機関にどういう話し合いをしたかということは、実は私は直接その衝に当っておりませんから、私からこまかいことを申し上げることはできませんが、これはおもに高碕長官と外務大臣が引き受けられまして各方面と折衝したのであります。ですからどれだけの納得がいったかどうかということについては、私は今的確なことは申し上げかねますが、話し合いは十分にいたしたものと承知しております。
  64. 松本七郎

    松本(七)委員 日比賠償と関連して、政府は今後日比間の輸出が増大するだろう、貿易が拡大するだろうということをしきりに言われておりますが、それに対する通産大臣としての将来の見通しはどうでありますか。
  65. 石橋湛山

    ○石橋国務大臣 これは将来の見通しですから、なかなかむずかしいことでありますが、私は大局においてはふえると思います。なるほど賠償物資を出せば、そのかわりに通常輸出として出ていくべきものが、ただで出ていってしまうことになるのではないかという懸念もないではありません。たとえばその中に多少なり消費財を入れる必要が起る。そうすると綿布なり何なりが賠償として出る。それが出なければ、普通の輸出で綿布が出るものが賠償に食われてしまうのではないかという懸念を抱く向きもあります。全然抱かれないとは言い得られませんが、私は結局その場合についても、賠償の形でいくにしても何にしても日本品の消費がフィリピン人において行われるということは、結局将来においてはそれだけ日本品の需要をふやす手がかりになる、かように考えますから、実はあまりそういう点においてこまかいことを言わずに、けちなことを言わずに、少し大胆に出してやったらいいじゃないかということは私の常に申していることでありまして、また将来においても大体そんなつもりで計画を立てているわけであります。
  66. 松本七郎

    松本(七)委員 大臣お急ぎのようですから先に進みますが、現地を見られた藤山さんのお話を聞いても、あるいは午前中の参考人の御意見を聞いても、最近とみにフィリピンにおいてはナショナリズムが高揚しておるということなのです。それでむしろアメリカに対してはアメリカとの従属関係を断ち切りたいというような動きがしきりにある。こういうところから日本に対して、急激に最近好意的にもなってきたのだろうと思いますが、高碕長官もそういういろいろな条件を総合して、いろいろ障害はあっても大局的には貿易が伸びる、こういうやはり大臣と同じ結論を持っておられるようです。けれども日本がそういう状態に進んでいこうとすれば、アメリカとしても黙っては見ておらないのです。もうわずか綿製品のようなものでもああいう動きをするくらいですから、必ずこれに対する対抗措置というものをいろいろとってくるだろう。結局私どもとしてこのフィリピン賠償について、一番考えなければならぬ中心点は、民族主義とそれからアジア諸国の経済協力というものを、どういうふうに結びつけてくるかということに帰着すると思う。私どももこの日比賠償を判断する尺度は結局そこにくると思っておるのです。そういう意味から今後の日比間の経済協力を保ちながら両国利益を増進していき、輸出を増進しようというためには、どうしてもアメリカ自身が今までの後進国に対する態度を改めてもっと思い切ったいわゆる営利本位の援助じゃなしに、その援助によって自分の利益をまず考えようということじゃなしに、やはり後進国の利益を中心にした完全な援助方式でなければならぬ。それは東京銀行の堀江さんもけさしきりに言っておられたことですが、欧州各国でもそういう動きは最近非常に強くなってきている。いわゆる今までのアメリカ方式というものは修正しなければならぬ、ソ連方式というものがどんどん取り入れられてくる傾向にある、こういうことを言われておる。私も将来そういう動きがますます活発になると思います。そういう将来の見通しに立てば、私はフィリピン賠償を中心にして両国経済関係を密接にし、また両国ばかりではなしに、アジア経済全体の関連において協力関係を打ち立てるためには、どうしても中国というものは見のがせない存在になってくるのじゃないか、これを無視してアジア経済協力体制というものは考えられない。そういう意味で、おとといですか、通産大臣が中国の通商代表部の問題を新聞にちょっと言われておったようですが、この中国の経済との協力を今後磁極的に進められる御決意があるのかどうか。何か具体的な構想をすでにお持ちでしたら、一つお伺いしておきたいと思います。
  67. 石橋湛山

    ○石橋国務大臣 中国との貿易関係については別段ここで申し上げるような、今までの考えと変った目新しいことを持っておりません。しかしながらこれは大勢としてやはり中国というものは、日本貿易の相手国として今後漸次もとに戻る傾向を持っておるでありましょうから、そのことは十分認識して今からそれに備えなければならぬ、かように考えております。しかし実は新聞にああいうふうに出ましたけれども、別段今固まってすぐそれではどういう代表の交換の方式をするかというようなことを、今外務省その他と十分検討して具体的なものができておるわけじゃありませんが、とにかく政府としても各外務省あるいは法務省など関係がありますから、法務省その他と十分打ち合せまして、中国との貿易を今後やるにつきましては、必然両国の通商代表の交換というようなことがすぐ問題になって参りますから、それについてのはっきりした政府考え方をきめよう、こういうことで今検討に入っておるわけであります。これはフィリピンの、先ほどの問題もそうでありますが、先方のナショナリズムというものを十分尊重しなければこれは伸びることはできないと思います。アメリカの方式もアメリカ自身変えなければならぬし、また変えるような傾向を持っておるようでありますが、日本人自身も十分にフィリピンのナショナリズムその他フィリピン人の考え方を尊重しつつやらないと、日本が何か援助輸出をして利益を得ようということをしますとすぐに反動がきて、かえって貿易を阻害し、経済関係を親密にする目的と反することになりますから、十分その点は注意をしまして、われわれもあまり先方の感情を刺激しないような方針でいきたい、かように考えております。
  68. 松本七郎

    松本(七)委員 私が通産省の考え方が大蔵省あたりと違っていたのじゃないかとお伺いしたのは、実はその点を心配したからなのです。フィリピンの方では賠償をてこに日本が昔の帝国主義的な経済進出をやるのじゃないか、こういう心配が一部にされておる。それはやはり鮎川さんのような構想をあまり強く打ち出すとそういう危惧を向うに与える。そういう意味で通産大臣自身がそういう考えをもし持っておられるとすると、これは考えなければならぬことだと思って伺ったわけです。  そこでもう時間も何ですから一つお伺いしておきたいのですが、この前の五月十九日の新聞に、日米比の共同出資で国際金融機関を設けるという、まあ日比賠償円滑化のためにやるという通産大臣の談話が発表されておったのですが、それは何か具体的に交渉を進められておるのでしょうか。
  69. 石橋湛山

    ○石橋国務大臣 あれは外雑談で、日本としても賠償問題の取扱い、あるいは今後の東南アジアあるいは中南米等との経済協力について、何か金融機関みたいなものがほしいということはかねがね私も考えておるし、多くの人に言っておることであります。この間のは、ジョンストンがアメリカから来てアメリカ日本と、それからその他の国、東南アジア諸国との共同によって投資機関を作ったらどうかというこういう説を述べておりましたから、そういうものも、アメリカに希望がのるならこれはやられるものならやってもいい、こういう一案であります。ただしこれも先ほどほかのことで申しましたように、実はうっかりやれないのでありまして、そういうものを作ると、何か日本経済侵略でも始まるのじゃないかというような疑いも抱かれますし、ことにこの間の私の話の中には、フィリピンをも入れて日米比三国の同共出資ということを一言っておりましたから、これはフィリピン――何も今関係ございませんから、特にフィリピンと話し合いをしてやったことじゃない。ただそういうことも考え得るというだけでありますから、どうか一つ日米比三国の共同出資云々というものは、具体的な何ものもないということで御承知を願いたい。
  70. 松本七郎

    松本(七)委員 現在フィリピン人は日本にどのくらいおるのでしょうか。それから自由職業についている者はどのくらいいるか、おわかりでしょうと。
  71. 中川融

    中川(融)政府委員 そう大ぜいの人はいないと思いますが、的確な数は実は今承知しておりませんので、調べて御報告いたします。
  72. 松本七郎

    松本(七)委員 今度は協定文ですが、第三条に、フィリピン賠償として供与される役務及び生産物に対し、その附属書に掲げられた中から自由に選択する権利を有することになっておるわけですが、日本政府フィリピンの選択に対して、無条件に合意をしなければならないものかどうか。両政府が合意すると、こういう規定があるわけですが、これに対しては日本政府として拒否権を持っておるのかという点です。
  73. 中川融

    中川(融)政府委員 これは附属書の中から選択するわけでありますが、選択したものについて両国政府が合意しなければいけないのであります。従って、日本側と合意の上で初めてきまるのでありますから、その意味では拒否権というのが適当であるかどうかわかりませんが、ある意味では、日本政府としてはもちろんそれに対しノーを言い得る権限があるわけであります。
  74. 松本七郎

    松本(七)委員 この協定と同時に、桑港平和条約フィリピン批准するわけですが、その場合に、第三条に揚げる賠償の対象物ですね、これがサンフランシスコ、平和条約十四条と矛盾しないかどうか。ビルマ賠償も主として資本財であったわけですが、将来インドネシアなどとの賠償においても、サンフランシスコ平和条約十四条の規定及びその精神は、事実上守られなくなったものとわれわれは解釈しますが、政府の解釈はどうなのでしょうか。
  75. 中川融

    中川(融)政府委員 この点は前からの問題点であったわけでありますが、なるほどサンフランシスコ条約を正確に解すれば、あるいは純粋の役務だけに限るべきであるという論も出てくるわけでありまして、日本政府が当初三、四年前にフィリピンインドネシア等と交渉を始めた際は、もっぱらその狭義の解釈によりまして、役務だけということで進んだのであります。ところが、この交渉がどうしてもそれでは進行しない。ことにインドネシアもフィリピンも、単なる役務では満足しないということを、桑港条約調印の際にすでに留保しておるのであります。その意味で、そのような狭義の解釈のみでは賠償交渉は進捗しないということが明らかになったわけであります。そこで、日本側としてそれではもう少し広い解釈をするかどうかという問題に直面したわけでありますが、サンフランシスコ条約自体の解釈から見ましても、必ずしも役務ということだけに限るべきであるかどうか。なるほど役務とは書いてありますが、同時に、外貨負担が重くならないように、原料は先方が持ってくるというようなことが書いてあります。原料を持ってくると申しましても、それは外貨負担を加重しないようにということになっております。その点から考えれば、外貨負担に直接影響ないようなものであるならば、原料を日本が持ってもいいのではないかというような解釈もまた出てくるのであります。従って若干サンフランシス 条約十四条の解釈を広くいたしまして外貨負担を加重しない限度においては原料を持ってもいいではないか、そして生産物賠償として渡してもいいではないかという解釈を、その後日本政府としてはとるに至ったのであります。従って、その後にできました、ビルマ条約、また今回の賠償協定も、決してサンフランシスコ条約趣旨自体に反しているとは考えていないのであります。サンフランシスコ条約十四条の趣旨に従ってある程度十四条の役務を広義に解釈いたしまして、資本財も出してよろしいという結論になったのであります。これは何年前でありましたか、国会におきまして当時の吉田首相が鈴木社会党の委員長の御質問に対して、今後の東南アジアとの経済提携を促進するためには、狭義の解釈によらず、むしろ広義の解釈をとって賠償交渉を促進したいということを答えられたことがあったのであります。そのとき以来、政府の一貧した方針として、生産物を含めてもよろしいという解釈になってきておるのであります。従って、今後インドネシア等と賠償取りきめをいたします際には、やはり同様の原則に立って交渉が行われるものと考えます。
  76. 松本七郎

    松本(七)委員 その後解釈の拡大については、桑港条約関係諸国の了解は得られたですか。
  77. 中川融

    中川(融)政府委員 桑港条約調印国全部にその解釈についての了解を求めたわけではないのでありますが、主要な国であるアメリカにつきましては、賠償に関連いたしまして常時連絡いたしておりまして、その解釈についても連絡いたしております。必ずしも桑港条約調印国全部の了解をとる必要はないのではないかと考えております。
  78. 松本七郎

    松本(七)委員 次に、第一年度の実施計画は、この協定の効力の発生の日から六十日以内に決定するということになっておりますが、これは絶対的な条件であるのかどうか。もしこれ以上に遷延しそうになった場合に、これが暗黙的に了解されておるのかどうか。
  79. 中川融

    中川(融)政府委員 六十日いないに決定することができると考えてこの規定を作ったわけであります。双方とも六十日以内にできるものと考えてこの規定を作りました。もしかりにどうしても六十日いないに何らかの事情でこれができなかったという場合に、それでは協定違反になるかという問題があるわけでありますが、そのような場合は、結局両国政府のいわば責任においてこれが延期されるわけでありまして、必ずしも日本のみが怠るがために六十日以内にできない、フィリピンのみが怠るがために六十日以内にできないということではなく、おそらくそういう際には、双方の協議がいろいろな状況から六十日以内にできないということが、あるいは起るのではないかと想像されますが、そういう場合には、お互い協定違反というようなことを洗い立てて言うというようなことはなかろうと思います。しかし、今のところでは必ず六十日いないにできるという確信を持っております。
  80. 松本七郎

    松本(七)委員 ビルマとの賠償計画通り進捗していないようでございますが、本協定でもこの計画通りいくとは限らない。そういう場合に、万一予定通りいかないようなときに、それはお互い両国の了解のもとに延ばすということが円満にできればいいですけれども、紛争が起った場合にどうするかというようなことも、あらかじめ聞いておかなければ困るのです。
  81. 中川融

    中川(融)政府委員 紛争が起るということは予想していないのでありますが、もしかりに紛争が起ったといたしますと、協定第十二条に紛争処理に関する規定がございます。この規定によって紛争を処理するということになるわけであります。
  82. 松本七郎

    松本(七)委員 その紛争処理の問題はあとでまた伺いますが、第五条で、賠償物件に対する契約案は、日本政府の認証を受けるということになっておるのですが、この日本政府の認証後の実施は、フィリピン政府の使節団と日本国民またはその支援する日本国の法人との間に直接契約を締結するということになるのであって、そこでは政府は全然タッチしない、つまりビルマ賠償方式と全然同様と了解していいのですか。
  83. 中川融

    中川(融)政府委員 御指摘の通りでありまして、契約は日本政府の認証したところに従って、直接フィリピン政府機関と日本の業者との間に締結されるわけであります。
  84. 松本七郎

    松本(七)委員 それから賠償契約なしで行うことができる役務及び生産物の供与の範囲はどういうことになるのですか。それと、どういう種類のものを言うのですか。
  85. 中川融

    中川(融)政府委員 通例の場合はこの原則によりまして賠償協定――すなわち、先方の政府機関と日本の業者との間に直接行う方式によって賠慣が提供されるわけでありますが、事柄の性質上、直接そういう取りきめをするよりは、日本政府が中に入って、いわば間接方式と申しますか、その方式でやった方が適当なものがあるわけであります。一つの例は、現在行われております沈船引き揚げでありまして、これはこの間接方式、すなわち日本政府日本の業者と契約を結びまして、その契約に基づいて日本の業者がフィリピンで役務を行うという形をとるわけてございます。沈船引き揚げの作業が今後も継続される場合には、この間接方式が、あるいは引き続いて採用されることに相なろうかと思います。  またそのほか、たとえば先方から留学生を派遣してくる、その留学生をこちらで教育するための費用を役務として日本が支払うということが予想されるわけでありますが、これはやはり事の性質上、日本政府が直接その計画を実施いたしましてその費用を日本政府が自分で払うというのが適当であると思うのでありまして、そのようなものはやはり賠償契約以外の方式で行われると思います。  また日本からフィリピン政府の要求によりまして経済調査団あるいは向うのいろいろの鉱物資源その他の資源を調査する調査団を派遣するということもあろうかと思いますが、このような場合はやはり日本政府が直接その企画を立てまして、政府の責任で実施するのが適当かと思います。この場合はやはり第四項の賠償契約なしで行うやり方で行うことになると思います。
  86. 松本七郎

    松本(七)委員 賠償物件の運賃、諸掛り、保険料、そういったものは賠償総額の中に含まれておるのですか。
  87. 中川融

    中川(融)政府委員 その場合々々によるわけでありますが、もしも賠償契約を取り結ぶ際に、いわゆるCIFによりまして、運賃、保険料も含めて賠償契約を結んだ場合には、これは日本の船会社、日本の保険会社によってその役務が行われるということが前提となるのでありましてそのような場合には当然賠償から支払い得るわけであります。しかしながら契約のやり方によりましては、FOBによりまして運賃、保険料は別扱いにすることもできるわけでありまして、そのような場合運賃、保険料が果して賠償に繰り入れられるや、あるいは一般の商業ベースによって支払われるやは、その際にきまるわけであります。これはもし日本の船会社、保険会社によってその役務をやってもらう場合には賠償に入れることも可能でありますが、そのためには単独の賠償契約を結ばなければならないわけであります。外国の船会社、保険会社にやってもらう場合には、これは日本人の役務ではありませんから、賠償には入らないことになります。
  88. 松本七郎

    松本(七)委員 それか第七条関係賠償使節団の日本における事務所は東京以外のどこが予定されておるのですか。
  89. 中川融

    中川(融)政府委員 現在予定されておりますのは東京だけでございます。将来のこともおもんばかりまして、東京以外にも置ける余地は残しておりますが、今聞いておりますところでは東京だけのようであります。
  90. 松本七郎

    松本(七)委員 この提案理由の説明書によりますと、使節団に一部の外交特権を認める、とこうあるのですが、協定によると全面的な外交特権が付与されておるように思うのですが、このような特権を与える必要がどこにあるかという点を一つ……。
  91. 中川融

    中川(融)政府委員 この賠償使節団は、賠償契約を締結するという仕事の面では、ちょうどたとえば購買ミッションと申しますか、外国から来ます商業活動をするミッションに似ておるのでありますが、しかしこれはやはり賠償という政府機関の権利義務を実行するための手段としての仕事をするわけでありましてその見地から見ますと、やはりこれは公的な仕事をするものと見ざるを得ないのであります。従ってフィリピン政府の公的な仕事をする機関でありますので、これは外交機関ではありませんが、できるだけやはり特権及び免除を与えるのが、国際間の儀礼であると考えまして、このような規定になっておるわけであります。
  92. 松本七郎

    松本(七)委員 ビルマ方式で外交上の特権及び免除を与えるというような程度でいいのじゃないか。これによると、使節団の事務所の構内及び記録の不可侵、こういうふうな規定を作らなければならない理由はどこにあるのですか。
  93. 中川融

    中川(融)政府委員 この使節団の特権及び免除の規定は、ビルマの場合と、形式、体裁等がちょっと異なっておりますが、しかし内容は同じであるのであります。ビルマの場合は協定はきわめて簡単でありましたので、賠償使節団に関する規定は交換公文で規定したのでありますが、やはり特権、免除に関することでありますので、できるだけこれを大協定に規定したいということから、今回は一条を設けまして、それに詳細に規定したのであります。なおビルマの場合に比して若干詳細に規定してあるのでありますが、これもやはりそういう関係から、できるだけ特権、免除は詳細に規定して、双方に誤解の生ずることのないようにしたいという考えから、若干これがビルマの場合と違った格好になったのであります。内容につきましては、ビルマの場合とまず同じであると考えております。今御指摘になりましたような事務所の不可侵、あるいは記録の不可侵ということが書いてございますが、これもビルマの場合におきまして賠償使節団の長及びその主要職員に外交特権を認めましたことから、それらの人の使用しております事務所あるいは文書というようなものは不可侵であるということは、当然その結果として出てくるのであります。むしろフィリピンの場合には、そのことははっきり書いて誤解を避けたいという趣旨で規定いたしてあるわけであります。なお通常の外交使節の場合と、特権は必ずしも同じではないのでありまして、外交使節でありますと、その職員は全部外交特権を与えられるわけてありますが、今回の場合は使節団の長、上級職員二人ということに一応限定しておるのであります。この数は今後の協定によって若干変えることはできますけれども、外交特権を享受する人の数は限局しております。
  94. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、ビルマのように細目取り決めできめても、今度のように本協定の中に入れてもその拘束力においては変りはない、内容においても詳細に書いただけで、変りはない、こういうわけですが、そうすると、ビルマ賠償の細目取りきめの第六項で、「日本国政府は、将来日本国に設置されることのある同性質の使節団に与えられることのある特権及び免除を使節団に対して与えるため、必要な措置を執るものとする。」こういう規定があるのですが、今回の対比賠償協定が発効されれば、ビルマ使節団にもこれと同様の特権を与える、たとえばさっき言った不可侵のようなものも当然ビルマにも与えられる、このビルマの細目取りきめ第六項によって、初めて今度のフィリピンに準じた扱いをする、こういうことになりますか。
  95. 下田武三

    ○下田政府委員 ビルマに対しましても、従来今回のフィリピンとの協定の七条と同じような待遇を与えて参りましたので、別に新たな措置をとる必要はけないわけでございます。
  96. 松本七郎

    松本(七)委員 それから一般に認められた外交特権は、上級のみで、六項で規定した職員に対しては与えられないのですか。
  97. 下田武三

    ○下田政府委員 六項の職員は五項の上級職員と違いましてここに特に書いたものだけしか与えられないわけであります。
  98. 松本七郎

    松本(七)委員 ビルマ細目取りきめ第七項によりますと、契約による紛争がわが国の裁判所に提起されたものについて使節団及びその構成員は日本国の法律による解決のため日本国の裁判所の管轄権に服さなければならないということになっておるわけです。さらに前記の解決についてとられることのある訴訟手続きにおいては、いかなる特権または免除をも放棄しなければならない、こういう規定があるわけですが、本協定の第七条第七項によりますと、「最後の解決手段として、日本国の管轄裁判所に提起することができる。」という任意規定になっており、裁判管轄権に戻すべき義務規定がこの協定にはないわけです。一体日本フィリピンの間の紛争の最後的な決定権はどのようにきめられておるのでしょうか。
  99. 下田武三

    ○下田政府委員 「訴え、又は訴えられることができる」と申しますことは、要するに訴訟当事者能力があるということでございまして、訴えられることもできということでなくて、訴えられたその当事者能力のあるものは、当事者にならなければならないという意味でございます。つまり法務部長の自由意思で訴訟に出たり出なかったりできるということでなくて、法務部長は訴えられたならばその当事者となるべき地位にあるという意味での書き力でございます。
  100. 松本七郎

    松本(七)委員 フィリピンの場合は使節団員が私人として裁判に服するのであって、使節団員という身分では出頭そのほかができないというようなことになっておるように開いたのですが、その点はどうなのですか。
  101. 下田武三

    ○下田政府委員 御承知のようにフィリピンアメリカの法制を受け継いでおりますが、アメリカは国家機関というものは外国裁判所に立つ当事者能力なしという書き方でありまして、御承知の行政協定の方でも刑事裁判管轄権が一番問題になりましたわけです。結局アメリカの独特の法制はNATOの条約の際にヨーロッパ諸国から認められませんで、従って日本の行政協定も改訂されましてNATO方式になったという歴史を打っておるのであります。フィリピンがちょうどアメリカと同じように、ソヴァレン・インミュニティと申しますか、国家機関は外国の裁判所に立たされることはないという伝統的の法制をとっておるのであります。そこでこの点が非常に交渉で厄介だったのでありますが、結局向うは折れまして裁判所の訴訟に出る者は使節団の法務部長である、だから現実に裁判所に出る可能性のある法務部長だけについて規定してくれということで、こういうことになったわけでございます。でございますから、使節団を当事者とする裁判はすべて法務部長がその職掌柄当るわけでございますので、裁判官轄権につきましての規定については、当事者を特に使節団と包括的に書きませんで、法務部長という具体的の人間に指摘して規定したわけでございます。
  102. 松本七郎

    松本(七)委員 第九条三項の、本協定に基いてわが国の与える役務による技術者のフィリピン滞在中、これらの人の身分は一体どういうふうになるのか。当然一般外国人としての待遇を受けるものだろうと思うのですが、あるいは何らかの特権――為替送金とかそういうものについて、為替管理がある場合に自由に為替送金ができる、そういうふうな特権が与えられるもの、でしょうか。
  103. 中川融

    中川(融)政府委員 賠償供与に関連してフィリピンに滞在する日本国民につきまして、これが滞在中、日本人も含めましての他の外国人と同等の待遇を受けることは当然でありましてその当然のことについては特に規定していないのであります。むしろ一般の外国人に比しまして特権が与えられておるその特権の点をここに規定してあるわけであります。すなわち、滞存中は必要な便宜を与えられる。従って、ほかの外国人よりもなおフィリピン側から行政上いろいろの便宜を与えられる、また税を免除される、この二つについて規定してあるわけであります。これらの日本国民が得ました所得を日本に送金する際に自由に送金ができるかどうかということにつきましては、特に規定してありませんが、もしさような日本に送金し得る金があれば当然送金を認められると思います。現実問題といたしましては、賠償のために先方に行きました日本人に対しましては必要な金は大体円で支給されまして現地においてどうしても現地の通貨でなければ求められないものを求めるための金については、フィリピン側からフィリピンの通貨で支給されることになっております。従って、フィリピンで支給される現地の金が日本に送金するほど多く渡されるということはちょっと想像されないのであります。従って、送金の問題ということは現実問題としては起きてこないのじゃないかと考えます。
  104. 松本七郎

    松本(七)委員 これまで沈船引揚作業に従事しておった技術者とか労務者の身分は、一般外国人としての待遇を受けられなかったのだろうと思いますが、この協定が発効すれば今までの制約は当然排除されて、一般外国人の待遇を受けることになるのでしょう。あるいは当然そういう一般外国人としての待遇を受けるのかあるいは相互主義でやるのか、どちらでしょう。
  105. 中川融

    中川(融)政府委員 沈船引き揚げに従与している六百人の日本人がある一定の個所で暮しておりまして、その構内から一歩も出られない、出るときには護衛付で出なければならないという事情にあるのでありまして、これはある意味で自由の束縛であるわけでありますが、これは決して日本の沈船引き揚げに従事している人たちを、ほかの外国人よりも差別する意味でそもそもできた制度ではないのでありまして、沈船引揚協定が締結されましたのは今から三年近く前であります。その際、治安そのほかの見地から、むしろ日本側から要望してこれら日本人で沈船引き揚げに従事する人たちの生命、身体の安全を保障しろという一項目を協定に入れたのであります。その生命身体の安全の保障ということから、先方はそれではどうしてもそういう保護措置をしなければ自分の方の義務違反になるということで、保護措置ができておるのでありまして、従って第三国と比べて日本人に対して差別待遇をしたという趣旨から出たのではないのであります。しかし現実問題としては、もう治安も非常によくなりまして、日本人の人たちが自由に出てもさして心配はない次第でありまして、むしろ今の保護措置がかえって迷惑になっておるのであります。この保護措置を必要な限度だけにして緩和するということは、目下先方と話し合い中であります。必ずしもこの協定の成立を待って、初めてその制度が緩和されるという趣旨のものではないと思うのであります。当然近い将来にあの保護措置は緩和してもらいたい、かように考えております。
  106. 松本七郎

    松本(七)委員 それから第十条に規定した合同委員会ですね、これは単なる勧告機関で拘束力のないものか、それとも執行権もしくは決定権を持つものかどうか、そのメンバーは何人になるのでしょうか。
  107. 中川融

    中川(融)政府委員 合同委員会は、ここに書いてあります通り、勧告を行う機関であります。なお構成員については特に規定しておりません。また今のところは予定してもおりませんけれども、大体現在ビルマの場合に行われております例で申しますと、日本側の委員はたしか四名であったと思います。先方の委員も大体四名くらいであります。フィリピンの場合も大体似たようなことになるのではないかと考えます。
  108. 松本七郎

    松本(七)委員 細目取りきめは後日取りきめるのですか。どういう事項がおもな対象になるのでしょうか。
  109. 中川融

    中川(融)政府委員 細目取りきめは、「両政府間で協議により合意するものとする。」となっておるのでありますが、現実の問題としましては、実施細目に関する交換公文というものを本調印と同時に調印したものであります。お手元に参考資料として配付してありますが、これによりまして本協定の各条項に関することで細目協定を要するものをここに規定してございます。しかしながらこれ以外に今後やはり細目取りきめを要するものが出てくると思うのでありまして、そのようなものは引き続いて必要に応じて取りきめたいと考えております。
  110. 松本七郎

    松本(七)委員 第十条と関係して第十二条の問題ですが、合同委員と仲裁委員とは職権上ははっきり区別しておるだろうと思いますが、これが競合するようなことはございませんか。つまり合同委員会協定実施についての勧告であって、仲裁委員は純然たる紛争処理を専管するのかどうか。
  111. 中川融

    中川(融)政府委員 御指摘の通りでありまして、第十条の合同委員会協定の実施に関する事項について協議いたしまして、その協議がととのいますと、それに基づいて両政府に勧告をし、おそらくその通りに両政府はその勧告を採用いたしまして、必要な措置をとるわけでありますが、この合同委員会で協議いたしましても協議が成立しないというようなこともあり得るわけであります。協議が成立しない場合には、この第十二条に揚げるところによって、できるだけそれは外交上の経路によってその紛争を解決するということにするわけであります。しかも外交上の経路を通じた交渉では解決しない場合には、ここに規定してある仲裁委員会に付するという段取りになるわけであります。
  112. 松本七郎

    松本(七)委員 仲裁委員で紛争事件が解決しない場合の最終決定権者はだれになるのですか。国際司法裁判所に提訴する道が残されているのでしょうか。応訴しない場合はどういうふうな解決策をとるのか。第三者の調停を依頼するとか、何らかの措置が予定されているのですか。
  113. 下田武三

    ○下田政府委員 第十二条の規定によしまして、両国からそれぞれ一人の委員と、それからさらに第三者の委員を任命いたしまして、三人の仲裁裁判官が成立するわけでございますから、その仲裁委員の決定はもう当然両国がファイナルなものとして受諾する建前でございますから、さらに仲裁委員のほかに、国際司法裁判所に訴えるということは必要ないと考えております。
  114. 前尾繁三郎

    前尾委員長 この際田中稔男君より外務当局に対し緊急に質疑したいとの申し出がありますので、これを許します。田中稔男君。
  115. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 アジア局長に一問だけお尋ねしたいと思います。北鮮に帰りたいという朝鮮人の帰国問題というのは、長い間の懸案であります。これを根本的に解決することは容易ではないと思いますが、とりあえず日赤の前に四、五十人の人がテントか何か張ってそこにすわり込んでいる状態にある。そういう人はほんとうに早く帰らなければ住むに家がないというような実情にあるようです。このことにつきましては、外務省、厚生省両当局の間に、とにかくこれだけは帰そうというような合意が成り立っておったと聞いている。しかもそのために必要な経費、の方も、厚生省の方で生活保護関係の費用か何かを流用でもして、一つ考えようという具体的な話し合いまでできていると聞いているのですが、その場合の問題は外務省の態度一つだ、外務省さえいいといえば、一切のことは運ぶ、こういうことだそうです。これはもう帰国問題を根本的に解決するということとは別に、一種の差し迫った人道問題であります。これにつきまして局長のお考えを聞きたいと思います。そこに朝鮮人の団体の幹部も見えておりますから、詳細に御答弁願いたいと思います。
  116. 中川融

    中川(融)政府委員 朝鮮人の方でも北鮮に帰りたい方々がおられながら、経費の関係等でその目的を達し得られないという方がおられて、ことに日本赤十字社の前でキャンプをしておられるという実情は、まことにお気の毒だと思っております。何とかこの方々が国へ帰れるようにして差し上げたいと思っているのでありますが、何と申しましても、政治が直接援助の手を差し伸べて北鮮へお帰しするということになりますと、韓国との関係におきましてやはりいろいろむずかしい問題が出て参ります。従ってこれはやはり民間方面の自発的な措置として、何らかそういうことを考えていただくというほかに道はないのではないかと考えております。民間方面の援助によってその人たちが資金を得られて自発的に帰国されるということについては、政府としてもとより異存はないのであります。何らかそういう方法が講ぜられるのが一番よいのではないかと思います。
  117. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 どうもそれでははっきりしないのでございますが、外務省が韓国との関係もあり、公式に援助するということはできないにしても、そこはやはり非公式でも御配慮はあり得ると思うのです。何か私の聞く限りでは、外務省、厚生省、両当局は、政務次官が加わってのお話し合いが一応されておるというのですが、そうい話し合いがあったということについては御存じでありますか。
  118. 中川融

    中川(融)政府委員 実は私、四十日ほど留守をしておりまして、その間に問題が非常に表面に出てきたわけでありますが、私が帰りまして報告を受けましたところでは、特にそういう話し合いがあったということを聞いておりません。しかしながら非常に窮状にあられるということは承知しおりますので、何とか解決の道を講ぜられることに希望しておるところでありますが、ただいま申しましたような事情から、やはりこれは政府を離れた方法によって実現されるほかはないと思っております。
  119. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 それでは経費は民間の醵金に待つとして、とにかくそういう窮状にある人が自分の祖国である北鮮に帰るということについて、外務省としてはそれを促進する意図はあっても、妨害するような意図は毛頭ない、こういうふうに解釈してよろしゅうございますか。
  120. 中川融

    中川(融)政府委員 これは前からしばしば申し上げておるところでありますが、日本におられる外国人の方が自発的に退去されるということについては、もとより異存はないのでありまして、その点について妨害するというような考えはございません。
  121. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 妨害じゃなくても、現在の国内法で障害になることもないわけですね。
  122. 中川融

    中川(融)政府委員 障害になるような法規はございません。
  123. 田中稔男

    ○田中(稔)委員 それで私は満足ができないので、さらにまたこれはあとでいろいろ御相談したいと思いますが、何か公式でなく、非公式にでも外務省としてやはりこれを促進するように御配慮を願いたいし、資金のことも民間の醵出ということもなかなか容易じゃございませんから、政府関係の経費を何らかの形で回していただくことも一つ御配慮願いたい、こういうことを希望いたして私の質問を終ります。     ―――――――――――――
  124. 前尾繁三郎

    前尾委員長 先ほどの質疑を継続していただきます。松本七郎君。
  125. 松本七郎

    松本(七)委員 賠償として日本からフィリピンにいろいろな施設を提供して、それを向うで運転、操業するために、当分の間は日本人の技術者の役務を提供しなければならぬだろうと思うのです。そういう場合に総額のワクの中で、そういう今言うようなことに要する費用を経費としてやはり見積っておく必要があるのではないか、その点どうなのでしょうか。
  126. 中川融

    中川(融)政府委員 資本財が日本から出ました場合に、やはりそれを据え付けたり、運転したり、ある期間の間はこれを操業するというようなことで、日本の技術者の役務が必要になると思うのであります。それらの役務はもとより賠償としてこれを提供する用意があるわけであります。その場合にはその年額の範囲内でそのような計画を立てることになっております。
  127. 松本七郎

    松本(七)委員 フィリピンから来る使節団は、団長以下団員はどのくらいの人員を予定されておりますか。
  128. 中川融

    中川(融)政府委員 この点はまだはっきりきまっておりませんが、まず最初に来るのは十人以内であろうと思っております。ビルマの場合もたしか十人以内程度でありますので、大体そのような規模のものではないかと考えます。
  129. 松本七郎

    松本(七)委員 それから使節団が指定する銀行は、これは制限なしですか、それともある特定の銀行が指定されるということになりますか。
  130. 中川融

    中川(融)政府委員 現在別にまだきまっておりませんが、その時期がきまりますれば、フィリピン側が一行を指定し、その一行がこの業務に当るということになるわけであります。
  131. 松本七郎

    松本(七)委員 本年度の契約はいつごろから開始されて、いつごろ終る予定ですか。
  132. 中川融

    中川(融)政府委員 この協定にありますように、協定が発効いたしましてから六十日以内に第一年度の実施計画ができるということになっております。第一年度の実施計画ができますれば、すぐにでも契約締結ができるわけでありまして相当早い期間内に契約の締結等の作業が始まるのではないかと思います。しかし支払いはやはりさらにまた若干の時間がかかるわけでありますから、おそらく今年の後半といいますか、支払いが始まるのは十月、十一月ごろ以後ではないかと考えます。
  133. 松本七郎

    松本(七)委員 使節団に要する費用は、賠償協定の実施に関する細目に関する交換公文のIIの支払の四項に掲げられた通りに支払われるわけでありますが、この負担は五億五千万ドルの中から支払われるのですか。
  134. 中川融

    中川(融)政府委員 すべて賠償で支払われる金は、五億五千万ドルの総額の中から支払われます。
  135. 前尾繁三郎

    前尾委員長 次会は公報をもってお知らせいたします。   本日これにて散会いたします。     午後四時三十八分散会