○下田
政府委員 桑港
条約の領土条項中、非常に明確に範囲が
規定してある条項と、そうでない条項とがございます。御
承知のように沖縄の方では北緯二十九度以南というように詳細にきちっときめております。これは桑港
会議当時に範囲について連合国間に意見の不
一致がないから、そういう明確な
規定ができたわけであります。ところが北方の領土につきましては、この前も申し上げましたようにクーリールという言葉であります。クーリールが果して
日本語でいう千島に該当するかどうかという点もはっきりしておりません。またそのクーリールが北海道の一部たる歯舞、色丹を含むものであるかどうか、、はたまた、かつて一度も
外国の領土に帰したことのない
日本固有の領土である国後、択捉を含むものであるかどうか、そういう点は何ら明確にきめてなくていわゆるクーリールという、言葉で表現されておるわけであります。でありますから、先ほど政務次官の申しましたように、南千島を
日本が要求することは
アメリカがけしからぬというようなことが起りようがないわけであります。逆にクーリールというものの範囲は、
日本側の見解によればこれこれであるということをソ側に主張されることは、完全に
日本政府の自由であるということを
アメリカは表明しておるわけです。これは
アメリカのみならず、いかなる桑港
条約の当事国も、
日本が
日本の持っておる歴史的に、またあらゆる資料に基いて正しいという主張をすることに、異存のあろうはずはないと思います。そこでこの前申し上げましたように、直接日ソ両当事国間で最も公けのものである
条約上の根拠に基いて歴史的に国後、択捉は
日本のものであるという主張をなしておる、これにつきまして
アメリカ初めどこの国からも横やりは出ようはずがございません。
そこでそれならば日ソ間でクーリールの範囲についてある取りきめが成立した、あるいは極端な場合には南樺太、全千島を
日本に帰属せしめるという取りきめができた場合に、桑港
条約の当事国との
関係はどうかということが御質問の第二の点だと思うのです。
平和条約は敗戦国側に対して
義務を課する条場項が多いわけであります。そういう場合に、今仰せになりましたように連合国側に大きな
利益を与えた場合には、ほかの連合国は黙っていない、おれの国にも均霑させろということを申すでありましょう。しかし
義務を課された方の敗戦国側の
義務を軽減する
措置をとった場合に、これは仰せのように
平和条約で何ら
規定がないのであります。そこでどういうことになるかということは、
一つ先例がございます。桑港
条約の領土条項である沖縄に関する
規定でありますが、
アメリカと
日本だけで奄美大島を
日本に返してしまう、これは敗戦国側たる
日本の
利益のために
平和条約を変更してしまったことになります。しかしいかなる桑港
条約の当事国からも横やりは出ておりません。これはけっこうだとして黙認しております。理論的には
平和条約の変更でありますから、全当事国に了承を求めるべきかもわかりませんが、
日本政府もそういう手続をとることなく、いかなる桑港
条約の当事国からも横やりが出ることなく、そのまま黙認されて通ってしまったわけであります。でありますから、日ソ間で国後、択捉はもとより、たとい全千島、南樺太全部を
日本に返すという
条約を結びましても、東港
条約のいかなる当下国からも文句は出ない、そして問題なく片づいてしまうと思います。でございますから、問題はもっぱら
相手国たる
ソ連側の出方いかんにかかるわけでありまして、
ソ連以外の桑港
条約の当事国から横やりが出るという心配は私どもはないと思っております。