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大塚参考人 留守家族の一人として、過去十年間、
引き揚げ促進の運動あるいは
留守家族援護の問題で微力を尽して参りました一人でございまして現在は滋賀県の
留守家族の会長と、
留守家族団体全国協議会の事務
局長をいたしております。以下私は
引き揚げ問題の最終段階におきまする
留守家族の
実情、あるいは心境というようなものについて、率直に御報告を申し上げまして本国会において特別のお力添えをいただきたいと思うのでございます。
一口に未帰還者あるいは
留守家族と申しましても、これを一定のワクの中にはめることのできないのが、未帰還者あるいは
留守家族の
実情でございます。一例を申し上げますと、未帰還者の終戦時あるいは現在の地域が、いろいろな地域に分れておる。あるいは
ソ連地域――千島、樺太、あるいは外蒙地域等を含めまして
ソ連地域といっております。あるいは北朝鮮、あるいは中華人民共和国、あるいは南方諸地域にも、なお、消息がわかり、あるいは消息不明になっておる未帰還者もあるのでございまして、地域別には、今申し上げましたような地域に分れております。また未帰還者の現在の消息にいたしましても、生存確実なる者、これはマリクあるいは中国紅十字会等が発表いたしました名簿、あるいは現地から参ります通信、最近の帰還者の確実なる証言によって、現在もなお生存確実だ、こういうふうにはっきり言い切れる者、あるいは生存見込みの者、あるいは数年前には生存資料があった、現地から通信が来ていた、あるいは帰還者からはっきり証言が出されておる。それから文字
通り状況のわからない者、あるいは不確実だけれ
ども、死亡資料が入っておる者、こういうように未帰還者の消息につきましてもいろいろ分れるのでございます。また未帰還者の身分にいたしましても、将官から兵に至りますまでの軍人あるいは軍属、
内地から応召、あるいは現役入隊いたしました者、あるいは現地で入隊をいたしました者、それから国家公務員の身分のまま現在なお帰って来ない、あるいは地方公務員のまま、あるいは先ほど
吉崎さんからお話のありました
満州国の
開拓団、あるいは
満州国の軍隊、あるいは満鉄、それから
満州国の官吏、あるいは華北交通、あるいは開国団、義勇隊その他国策会社、こういう
人たちは、一括いたしまして、一般邦人というワクに入っておるようであります。それから未帰還者との続き柄にいたしましても、妻もあれば、子もあれば、父母もあれば、祖父母もある、あるいは孫もある。それから
生活状況からみて参りますと、比較的
生活の安定したものと非常に不安定なもの、現在の
留守家族援護法に基きますところの
留守家族手当をもらっておる者、また
留守家族手当はもらえないけれ
ども、従来の実績を保証されまして、特別手当だけをもらっておる者、あるいは、本人にかわって普通恩給を代理受領しておるもの、こういうふうに
留守家族は
一つのワクにはめるわけに参りませんので、一品に
実情と申しましても、なかなか複雑でありましてしかも昨年来、日ソ交渉が開始せられまして、また中国
関係は逐次
引き揚げが進展をいたしまして現在は頓挫いたしておりますけれ
ども、おぼろげながら、
引き揚げ問題の大体の前途というものが予想せられる今日でありますので、消息不明者の問題をどうするかという問題が、一番大きな問題でございます。
その前に一言申し上げておきたいのでありますが、日ソ交渉に関連をいたしまして、
留守家族の心境というものはきわめて深刻でございます。申し上げるまでもないと思いますが、先ほど申し上げましたようないろいろな
実情に立っておる
留守家族でございますから、長い間のしんぼう、それから長い間の苦労、まして現地の
状況がよくないというような情報が入りますと、もうどうなってもいいから、一日も早く帰してもらいたい。領土問題などたな上げして、早く
向うの言う
通りにして帰してもらいたい、こう言う人ももちろんございます。しかしまたハバロフスクの帰還者が申されたと同じように、
自分の主人だけを、
向うの言いなりになって帰してもらわなくてもけっこうです。
自分も一人の
日本人です。消息不明者の大部分の
人たちの問題が解決をしないというようなことでは、そういうことは
自分としては言えませんというふうに、はっきり言い切る
留守家族の
人たちもございます。そこで、大多数の
留守家族の
人たちの日ソ交渉に対する現段階における気持は、決して
向うの言いなりになって帰してもらう必要はないということであります。私
どもいつもいろいろこれらの
人たちと相談をするのでございますが、もし従来からいろいろな線で出ておりまするように、巣鴨に服役させるというようなことで一部の
人たちが帰されて参りました場合には、舞鶴のあの上陸地において非常な混乱が生じる、おそらく奪還闘争を
留守家族は展開するんじゃないかと私
どもは憂慮いたしておるのであります。そこで日ソ交渉に当りましては、十分
一つ留守家族の心情を先方に伝え、ただすべきはただし、要望すべきは要望していただいてそうして生存者の問題も、消息不明者の問題も、死亡者の問題も、十分
一つ筋を立ててはっきりさせてもらいたい。それが全権なりあるいは田邊
局長なりがお帰りになりまして、
日本の国としてはやむを得なかったのだということが
留守家族に了解ができますならば、たといどのような方式で妥結されましょうとも、
留守家族はそれで一応納得すると思います。しかしあるいは生存者の問題だけが解決をして名簿外の生存者や生存見込みの者や、あるいは消息不明の
人たちが解決しなかったということになりますと、非常な混乱が生じるのではないかと私
どもは憂慮しながら、
留守家族の
人たちと常に相談をし、
留守家族団体としては過激にならないように、
留守家族のワクを逸脱しないようにということをお互いにいましめ合っておるのが現状でございます。
そこで、冒頭に申し上げましたように、現在六万名の未帰還者がございますが、約五万名は、率直に言って最近の消息がございません。しかも古い時代の生存資料を唯のたよりにして、今日まで生き延びて参ったのが
留守家族の大多数でございますので、一体いつになったら、国ははっきり生死を明らかにしてくれるんだろうということが、一番
留守家族の聞きたいところでございます。しかしこれが日ソ交渉の現状、あるいはジュネーヴで開かれておりますところの日中交渉の現状、あるいは今葛西副社長が行っておられますところの北鮮赤十字との交渉の情報等から見まして非常に困難であるということはわかっておりますけれ
ども、これ以上耐えられないというところに来ておるのが、
留守家族の心情であります。過般、内閣の引揚同胞対策審議会におかれまして、夫帰還者
留守家族等
援護法の第十三条の延期を決議せられまして、
政府において、ことしの七月三十一日で切れますところの期限をなお三年間延長する、こういう決議をしていただいたのでございますけれ
ども、現段階では、ただ
調査究明の期間を三年間延長して、過去七年以内に消息のわからない者の
留守家族にも、
留守家族手当を支給するということだけでは、現在の
留守家族はなかなか気持がそのままではおさまらない。早くはっきり生死を明らかにしてもらいたい。一体いつになったら生死がはっきりするんだということを、大きな声では皆様方のお耳には届いていないとは思いますけれ
ども、これが大多数の
留守家族の現段階における深刻な悩みでございます。なお、この消息不明の中から、逐次死亡公報が出て参ります。これも皆様方が御存じだと思いますけれ
ども、現在では、死亡の確認ができなくても、死亡の認定資料がございますと、一方的に死亡認定をされて参ります。これがまた現在、全国で、世話課との間にいろいろ問題を生じているところでございます。一例を申し上げますと、これは私の県でございますが、一人むすこの帰りを待っておりました母親でございます。諸般の情勢から、死亡確実と判断せられるということで、三年前に、世話課の方からそういう話をいたしましたら、そのお母さんはそれから
食事をとらないで、とうとう二週間目に餓死いたしました。また京都の実例でございますが、おばあさんと孫二人の
留守家族でございます。過般世話課に呼び出しを受けまして、死亡認定をしたい、こういう話がございまして、おばあさんが帰ってきて、小学校に行っている孫
たちにそういう話をいたしました。ところが、その晩から孫
たちが
食事をとらない。こういう悲惨な
実情がございます。冒頭に申し上げましたように、こういう
家族もありますれば、また長い聞しんぼうしてきたけれ
ども、家庭の整理上どうにもならない。一町余りの田畑をかかえて長男の帰りを待っておっても、もうこの田畑を維持することもできないからどうしてもだめなものならば、早く処理をして、次男に嫁をもらい、また娘に婿をもらって、家庭上の整理をしたい、こういうふうな
留守家族もございます。
そこで、昨年、日ソ交渉が開始されまして、私
どもはいよいよ
引き揚げの最終段階を迎えて、私
どもが中央で
政府なりあるいは国会に要望をいたします場合に、私
どもも
一つの資料を持っておかなくちゃならぬ、こう考えまして、私
どもの微力な組織では、数万名全部の
留守家族の気持をなかなか握るわけには参りませんので、一都二府六県を指示しまして抽出
調査をやってみました。まず
留守家族の気持でございます。積極的に死亡公報を出してもらおうというわけではございませんが、とにかくあきらめているというのが九%、総数は七千五百六十名でございますが、その中の六百九十名、九%はあきらめている。それから八%の六百二十四名が現状では公報を出してもらいたいというもの、それから
自分の命よりも大事だと考えておる主人あるいは子供の生命に関する問題だから、何とかはっきり生死のわかるところまで国において
調査究明をやってもらいたい、これが五千三百九十二名で七一%、それからこういう意思表示のはっきりしない、不明が八百五十四名で……。一%ございます。
それから、これは未帰還
調査部にも、
政府の方にもはっきりした
留守家族の実態
調査というものの統計がございませんので、一応御
参考までに、私
どもの集計いたしました統計表を申し上げるのでございますが、現在の留守担当者が妻であるもの、もちろんこれに子供がついておったり、あるいは中には両親のあるものもございますけれ
ども、妻の場合が大体において二六%、それから夫の場合も若干ございますけれ
ども、これはパーセンチ・ジに入らぬくらいでございます。それから子供だけが留守担当者になっておるという場合が二%、それから父母の場合が四〇%、兄弟姉妹の場合が一一%、その他二〇%、これは兄弟姉妹以外の三親等くらいの親族になります。あるいはおじさん、おばさん等になりますか、あるいは無縁故者等も含まれておりますが、二〇%ほどございます。それから現在、未帰還者
留守家族等
援護法によりまして、
留守家族手当、現在では二千五百八十三円でございますが、あるいは特別手当を受けておる
留守家族の世帯数は四九%でございます。受けていないのが四七%、わからないのが四%、こういうふうに、抽出でございますが、集計表では出て参りました。こういうような
留守家族の
実情でございますので、先ほどの消息不明者の
調査究明をやるという問題につきましても、もちろんある
程度現地から帰って参りました
人たちの提供いたします情報資料等によりまして、国内的に
調査究明するということが限界に達しておるということもよく了解をいたしますけれ
ども、定員法その他の
関係がございまして、中央では、厚生省の未帰還
調査部の人員がだんだん減っていく。また地方では世話課の
調査の責任者が減っていく。中には名前だけ置いておくけれ
ども、相談に行っても、話もできないような係員がおる。こういうことで、一体国は三年間延長して
調査究明をやる、そういうふうに言ってくれておるけれ
ども、ほんとうにやってくれるんだろうかどうかという、消息不明の
留守家族の
人たちの国に対するこれが憤りになっておる。聞くところによりますと、定員法の
関係で、未帰還
調査部の専門の
調査員も減り、また地方におきましても世話課が他の課に併合されたりして、一番困難な問題に入っております現在、未帰還者の
調査究明に関する国の具体的な現われがきわめて低調であるということに、悲しい思いをいたしておるのであります。
それから死亡処理の問題でございますが、死亡処理の問題も、さっき申しましたように、未帰還
調査部の方で死亡確実と判断をいたしますと、死亡認定する。また先ほど申し上げましたように、いろんな
事情から、この際死亡処理をしてもらいたい、こういう
留守家族が希望を持ちますと、各都道府県の世話課を通じまして、厚生大臣に特別審査請求をいたします。しかし
留守家族が希望するからといって、全部死亡処理を認められるというわけでもなく、また
留守家族が希望しないからといって、死亡公報を拒否するということもできないというのが、現在の復員業務規程等によってとられておりまする死亡処理の方式でございます。そこで、いろいろな問題が、
留守家族と復員官署との間に生じてきておるのでございますが、絶対に受け取らぬ、何と言われても受け取らぬ、こういう場合には、ある県によりましては、職権をもって戸籍を抹消してしまうというようなことも行われております。死亡公報をどうして受けないのかということをいろいろ調べてみますと、多くは、せっかく十年も待ってきたんだから、もう少しはっきりした資料が入るまで、このままで置いてもらいたい、せめて子供が一人前になって、どういうわけで父が帰ってこなかったかということを、十分子供に説明のできるまでは置いておいてもらいたい、こういうふうな気持の
人たちが大部分でございます。また中には、きわめて強い人は、そんな認定資料では絶対に受け取らぬ、
自分の目の黒いうちに
一つはっきりさしてもらいたいということで、強く要望をする人もございます。そこで死亡認定に際しまして、十分これらの
留守家族の
実情を尊重していただきたい。過去の国会におきまして、特に特別
委員会におきましてそういうふうにおっしゃったのではないと思いますけれ
ども、諸先生の間から、もう困難な問題だから、八月九日なら八月九日、九月二日なら九月二日に線を引いて、死亡公報を出してしまえばいいじゃないか、そしてできるだけ金をやるようにすれば、それで
留守家族もおさまるのではないかというふうなお話がございましたけれ
ども、そういうふうに簡単な、一定の法律を作って、七年間あるいは十年間生存資料の入らないものは死んだのだというふうに法律で死亡処理をしてしまうということになりますと、これまた非常に大きな悲惨事あるいはトラブル等が起るのではないかと私
どもも憂慮をいたしておるのでございます。こういうようなきわめて深刻な
留守家族の現状でございますので、そういう最悪の事態が参りましても、現在の未帰還者
留守家族等
援護法あるいは戦傷病者戦没者遺族等
援護法あるいは改正恩給法などにできるだけ
一つこれらの
留守家族をひっかけていただきまして、何とかして、国の責任であるということをはっきり具体的に示していただきた、こういうことで皆様のお手元に差し上げてございますが、この三つの法律に対しまして、どうか、この国会で私
どもの要望いたしましたことを最小限度といたしまして、諸先生方のお力におすがり申したいというのが、現在の
留守家族援護に関しましての
留守家族団体全国協議会の、全国の
留守家族の総意に基きましてのお願いでございます。
以下、時間の
関係もございますので、きわめて簡単に要望の諸点について申し上げたいと思います。
まず、夫帰還者
留守家族等
援護法でございますが、これは二十八年の国会に、従来の未復員者給与法を廃止いたしまして、
留守家族等の
援護法を
政府が提出いたしました際に、強く私
どもも要望をいたしたのでございますが、恩給法、それから恩給法の精神を受けて一年前に作られました遺族等
援護法、せめてこの遺族等
援護法と
留守家族援護法は、立法の根拠を
一つにしてもらいたいということをお願いをいたしたのでございます。なおこの問題については、昨年の七月ごろの国会で、現在の政務次官でいらっしゃいます山下先生が田邊
局長に、
遺家族援護法との間に均衡がとれていないじゃないかということについて御質問をいただきまして、田邊
局長から説明がなされておりますが、条文から参りますと、
遺家族援護法は、国家補償の精神に基いて
援護を行うということになっておりますし、
留守家族援護法の方は、未帰還者の置かれておる特別なる
状態にかんがみて、国の責任において
援護を行うということになっております。これは、私
どもはこういう言葉だけの修正を求めたのではないのでありまして、何とかして、国家補償の精神で
援護をするのだというふうに改めてもらいたいということを、その後毎国会ごとに要望をいたしておるのでございますが、これが今日そのままになっておる。そこで、最近の代表者
会議におきましては、強い主張が出て参りまして、洞爺丸、それから紫雲丸、最近は韓国の抑留漁夫等の問題まで生じて参りました。本気で国の責任を果そらとするならば、できないことはないじ店、ないか。一体どういうわけで、十年も前の戦争の始末のできていない悲惨な未帰還者の問題あるいは
留守家族の問題をやってくれないのか。国家補償の精神に基いてという立法根拠を作って、それができますと、すぐその次の第七条にございますが、
留守家族手当の支給条件というのがございます。
遺家族援護法に比べまして、主としてこれは二男、三男等を未復員者あるいは夫帰還者にいたしておりましても、本人との間に生計
関係が、帰ってきても認められない、収入依存の
関係が認められないというので、これらの両親は、
留守家族手当の対象になっておりません。遺族になりますと、年金なり扶助料がもらえるが、
留守家族ではもら、えないということになっておるのが第七条であります。できるだけ現在の法律のきめられた範囲内で、寛大に解釈をしていきたいというのが
援護局当局の御方針でございますけれ
ども、それではどうしても突き破れないワクがございます。そこで第七条の
留守家族手当の支給条件を排除してもらいたいという要望をいたしておるのでございます。なおいろいろこまかいことを申し上げますと切りがないのでございますけれ
ども、未帰還者
留守家族等
援護法をお作りになります際に、大蔵省なり恩給局なりと十分な
政府の打ち合せができていなかった。そのために、この三つの法律の中にいろいろな不均衡が生じてきておるのでございます。
一つ実例を申し上げますと、子供と父母の場合、子供の場合は、恩給法の精神を受けて、
遺家族援護法も
留守家族援護法も二十才未満までは手当の対象にしてもらいたい。父母の場合な
ども、六十才に制限を置かないで、五十才にしてもらいたいということも言い得るわけであります。またこの父母なり子供のワク内に入らない子供がございます。また父母がございます。継母の問題あるいは籍の入っていない子供の問題、当時の戦地の
実情からいたしまして、
満州、北朝鮮、千島、樺太等の
実情からいたしまして、養子縁組もできなかった母親もございますし、国内におきましても、そういう法的な処置をとっておかなかったが、実際上扶養をいたしました母親が非常に多いのでございますが、そういう
人たちも含めまして、父母あるいは子供に関しては、できるだけ寛大な処置をとってもらいたい。これが現在の
留守家族等
援護法の改正要綱としてお願いを申し上げたい点でございます。それから葬祭料でございますが、葬祭料は、現在死亡公報が発令されますと三千円支給されることになっておるのであります。ところが三千円で葬式をしろということは、非常に無理な話でございます。すぐにビキニの問題あるいは洞爺丸の問題、紫雲丸の問題等が出てくるわけであります。今日百姓が牛や馬の葬式をいたしましても、あるいは飼っております犬やネコ、そういう動物の葬式をいたしましても、三千円や四千円はかかる。しかも十年間も国が明らかにしなかった結果、十年以上もたって一片の、ほんとうに遺骨も入っていない木の箱を渡して、三千円で葬式をしろというのはひどいじゃないかというのが、率直な
留守家族の現在の気持でございます。そこでこの葬祭料を何とかして増額をしてもらいたい、せめて最少限三万円の葬祭料にしていただきたい、三万円あれば、一応その霊を弔うだけの葬式ができるというのが、
留守家族の気持でございます。それから、遺骨の引き取り経費を、死亡公報が発令されましたときに、支給される
留守家族と支給されない
留守家族とがございます。
ソ連に連れていかれた未復員者と同様の
実情でないと判断されました未帰還者
留守家族は、この遺骨引き取り経費が支給されません。
ソ連へ連れていかれた未復員者と同様の
実情にあると認められた者に限って遺骨引き取り経費が支給され、それらの
人たち以外の一般の死亡者には、遺骨の引き取り経費が支給されません。わずか二千七百円の遺骨引き取り経費を、こういうように差別待遇をしないで、未帰還者の置かれておる特別な
状態にかんがみて、一律に遺骨引き取り経費を支給してやってもらいたいというのが、その次の要望でございます。それから先ほど申しましたように、大多数の
状況不明者に対しましても、死亡処理をどういう
方法でとられますか知りませんが、いずれ死亡公報が出るわけですが、遺族になった場合に、全然弔慰全ももらえなければ、もちろん年金ももらえないという
人たちが出てくるわけでありまして、現在の日ソ交渉また日中の
政府間の交渉が始まりましてから逐次出て参りますところの死亡者については、戦傷病者戦没者等遺族等
援護法の第三十四条の特別弔慰金は、一律に支給してもらいたいということを強く要望をいたしておるのでございます。なお、この弔慰金の支給を
遺家族援護法の中で取り上げて参りますと、その他の戦災者等に影響があるというお話がよくあるのでございますがどうしてもやむを得ない場合には、何とかしてこの弔慰金の支給規定は、未帰還者
留守家族等
援護法の中に入れてもらいたい。
引き揚げに
関係いたしました者は、弔慰金は一時金でございますから、未帰還者
留守家族等
援護法の中に規定をして、こちらの方で弔慰金を支給していただきたい、そういうふうに要望をいたしておるのでございます。それから
遺家族援護法に関しましての第二点は、
ソ連、中地域等において、一方的に、
思想犯あるいは国事犯等、名称はいろいろございますが、
戦犯者というようなことで、拘禁中に死亡いたしました一般の邦人がございます。最近の実例を申し上げますと、昨年の十二月に、先生方の代表の方がお迎えいただきました四十体の御遺骨が中国からお帰りになりました。あの中の二十三体は、元の
日本の軍人、軍属てございます。従いまして、拘禁に死亡されておりまして、若干問題はあろうと思いますけれ
ども、病名その他はっきりわかっておりますので、大体公務死の取扱いを受けまして、遺族には扶助料が出るはずであります。ところが、十七名は
満州国の警察官または
満州国の軍人が大多数でございまして、同じように拘禁中死亡しておりながら、これらの
人たちには三万円の特別弔慰金だけが支給されまして、年金も扶助料ももちろん支給されません。これは非常に不合理ではないか。元の身分は違いますけれ
ども、
日本軍に協力をいたしまして、しかも平和条約第十一条に規定されました巣鴨の
戦犯者あるいはその他南方諸地域のいわゆる戦争受刑者といわれております
人たちより以上古労をなめて、現地でなくなった
方々でございますので、これらの
人たちにも遺族年金を支給してもらいたいというのが、私
どもの要望で、こぎいます。なお戦傷病者戦没者等遺族
援護法の附則の二十項を見ますと、平和条約の第十一条に規定されております戦争受刑者の
人たちが拘禁中になくなりました場合には、たとい無給軍属でありましても、年金は支給されております。平和条約第十一条に規定された戦争受刑者の拘禁中の公務に基く犠牲に対して遺族年金を支給するというのならば、それよりもさらに悪い条件のもとにおいてなくなられた、
ソ連、
中共地区等において拘禁中あるいは民主裁判等を受けまして、いわゆる前職罪等によりまして処刑をされました
人たちにも、当然遺族年金を支給すべきじゃないかということを、特に最近四十人の遺族の
方々にお会いいたしたときに要望されており、従来からこういうことも
政府に要望をいたしておったのでございますが、この点を
一つ今度の国会で何とかお力添えをいたたきたい、これが戦傷病者戦没者遺族等
援護法に関連いたしましての二つの要望でございます。
最後に、恩給法でございますが、恩給法の点につきましては、この前の内閣の審議会で決議をしていただきまして、恩給局でも何とか考えてくれるんじゃないか、こう思っておりますけれ
ども、御承知のように、
昭和二十八年に恩給法の一部改正が行われました際に、未帰還公務員に対しても
一つの特例が認められました。改正恩給法の附則第三・一条が未帰還公務員に関連をしての条項でございますが、まず未帰還公務員が最短在職年限に達しておる場合には、退職したものと見なして本人にかわって
留守家族に普通恩給を支給しよう、こういうことで、当時私
どもは非常に喜んだのでございますが、そういう措置ができました。しかし、実際その適用を受ける
留守家族ということになりますと、きわめて少数でございまして将官、佐官の過半数、少佐ぐらいでございますと、本人の年齢が五十五才に到達をいたしておりませんので、半額あるいは三割というような停止が恩給法の本則にございます。四十五才未満は全額停止、五十才未満は半額、五十五才までは三割ですか、そういうような削減を受けまして、事実上未帰還公務員の
留守家族に普通恩給を代理受領せしめるという一種の特例を認めていただきましたけれ
ども、これがきわめて少数の
人たちにしか適用されていない。もちろん恩給法は社会保障法でもなければ
援護法でもございませんから、恩給法の精神からいえば、そういうことはできないと言われればそれまででございますけれ
ども、そこまで軍人、軍属を含めましての未帰還公務員への特例を認めていただいたならば、現在
ソ連や
中共等において国家の犠牲になって拘禁され、また消息のとだえておる未帰還公務員は、
日本の国に帰って労働力を発揮することができないのみならず、国家的な犠牲者であるから、未帰還公務員については恩給法のその本則を適用しな用い、若年停止の措置を寛大にして、全部の未帰還公務員の
留守家族に、最短在職年限に到達した場合には、普通恩給代理受領をさせてもらいたいという強い要望が、現在
留守家族の中で起っておるのでございます。
第二点は、先ほど申し上げましたように、公務扶助料の遡及支給の問題でございまして、どういうふうに変って参りますかはっきりいたしませんが、恩給法では、
昭和二十年の九月二日に線を引きまして、
昭和二十年の九月二日以前になくなったということが判明いたしました場合には、未帰還公務員でなかったものと見なすのでございましょう、公務扶助料をさかのぼって支給するのであります。恩給法の施行されました
昭和二十八年にさかのぼって公務扶助料を支給する。しかも、今日までもらいました未帰還者
留守家族等
援護法に基きます
留守家族手当等は差し引かないで、
留守家族手当ももらえれば、二十八年分からの公務扶助料ももらえる、こういうことになっております。
昭和二十年の九月二日以後、
ソ連なりあるいは中国等でなくなりました場合には、死亡の判明した日の属する月の翌月から扶助料を支給する、こういうことになっている。従いまして、先ほど申し上げましたように、主として次男、三男等でございまして、収入依存
関係にないと認められて、現在まで
留守家族手当をもらって来なかった両親でも、死亡公報が発令された翌月からしか扶助料がもらえない。同じ
留守家族でありながら、二重取りをする者も出てくれば、死亡公報の出た翌月からでございますから、今月出たといたしますと来月からでないと扶助料がもらえないというように、同じ両親でありながら、こういうふうな不合理が生じてきております。恩給法の原則
通り、死亡公報の出ました場合には、実際に死亡をされた目の翌月にさかのぼって遡及支給してもらいたい、こういう要望でございます。それでも十分とは言えないと思いますけれ
ども、十年も長い間ヘビのなま殺しのような
状態に置かれてきて、
留守家族は、精神的にもまた経済的にも、いよいよ死亡公報が出るということになりますと、悲嘆のどん底に落ち込むわけでございますので、これらの手厚い処置によりまして私
どもは一挙に国家保障を要求したい気持でございますが、二十年間生きていて六十万円もらいますよりも、今、五十万円もらった方が、再建のめ
ども立つのでございますから、そういう金をよこせというような運動も従来続けて参りました。未帰還者に対する道義的な責任の立場から、血みどろの運動を続けて参りましたが、この運動を切りかえて、金をよこせというような運動にはいたしたくございません。何とかしてこれらの法律の改正について、国会の諸先生方のお力添えをいただいて、困難な未帰還者の最終段階の国内的な処理問題だけでも解決し、せめて肉親に、尊い犠牲、犬死でなかったというふうに、悲しい中にも
留守家族が希望を持って、年取った両親が余世を全うし得る、また妻は子供を養育することができるようにしていただくことを心から念願するものでございます。その他南方
関係の問題もございますが、これらについては、先生方もすでに御承知だと思います。南方
関係の
家族の場合にも不均衡が生じておりますので、御質問がございますればお答えをいたすことにいたしまして、一応私からの報告を終らしていただきます。ありがとうございました。