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永田参考人 ただいま
お話のございましたように、
日本の
南極地域観測隊が受け持ちます
場所は、プリンス・ハラルド海岸付近ということになっております。これはかなり広い範囲でございまして、
場所をお示しいたしますが、これが
南極の地図でございます。
アメリカの空軍で作った地図でございますが、一番信頼できるというわけであります。と申しますことは、実はこの
海洋線すらもはっきりわかっておらないのでありまして、違った地図をごらんになりますと、違った海岸線が書いてございます。その中で最も確からしい地図でございます。
それで、南北がわかりにくうございますが、これが
アメリカのしっぽでございまして、これがニュージーランド、これがオーストラリア、これがアフリカのしっぽでございます。それで
日本の参りますプリンス・ハラルド
海洋と申しますのは、ちょうどここにございますが、元来の国際的な要望と申しますのは、ノルウエーがちょうど経度零度、つまりイギリスの方に向いた方向に基地を設けることがきまっておりまして、一昨年参っております。それから豪州がここで数年来やっておりますので、ちょうどこれとこれとの間に設けることが望ましいというのが、国際的な要望でございます。このプリンス・ハラルドと申しますのは、現在のノルウエーの皇太子さんの
名前で、生きておられる方でありますが、たまたまその
名前をつけております。その
名前からおわかりになりますように、ここからここまでは、ちょうどノルウエーが領土権を主張している
場所でございます。領土ではないんだそうでございますが、この辺をノルウエーの人たちが船で参ったり、
飛行機で飛んだりいたしまして、まだ上陸いたしておりませんが、そういうことで
名前をつけております。それでプリンス・ハラルドという
名前がございます。遠くからお見えにくいと思うのでありますが、ここに丸が書いてございますが、これは各国の
観測隊が
予定している、あるいはすでに建設している基地でございます。ただいままでに
南極大陸付近の島まで加えますと十二カ国ございますが、大陸続きにおりますのは十カ国で、それぞれ
観測隊を送ることになっております。ただし
アメリカとかロシヤ、つまり
ソ連といったような大きな国は、幾つもの
観測地を持っておりますので、
観測地の数はもっとふえて、二十を越しております。ごらんになりますように、この大陸全体につきましては、
南極大陸を科学的に開発しようという目的のために、最も都合のいいように配置してあるわけでございます。
概略申し上げますと、これが有名なロス湾でございまして、白瀬中尉が旗を立てたのがここでございますが、この辺は
アメリカとニュージランドとの合併隊が参ります。フランス基地がここにございます。ここに
アメリカが参りまして、
ソ連はここと、ここへ置く
予定でございます。ここに豪州が二ヵ所、それから
日本がここにございまして、ノルウエーがここにございます。イギリスがここにございまして、アルゼンチンがここにございます。ここに
アメリカがございまして、ここにイギリス、アルゼンチン、チリーといったようなものが錯綜いたしております。
国際地球観測年の一部といたしまして
南極観測をやるのでございますから、
観測及び
研究と申しますか、
南極大陸の科学的開発に最も都合のいいように、純
学術的に
観測するのでございます。実はこの辺が不当に込み合っておりますのは、御承知のように、ここのところは領土の問題がございまして、アルゼンチンとチリーとイギリスと申しますか、ユナイテッド・キングダムが争っておりますので、
場所場所についてこういう問題が入っております。
日本は、つまり大体この辺に適当な基地を見つけて、そこに
観測所を設けるというこが、昨年の
ブラッセルの
国際地球観測年会議の中に置かれました第二回
南極会議の決議として出たのでございます。
そこで
日本といたしましては、いかなる
観測及び
研究及び調査をやるかという問題でございますが、ただいまの
計画では、その内容は、
国際協力でやります内容のほとんど全部を含んでおります。ほとんど全部ですが、ただ
一つ抜けておりますことは、
アメリカ合衆国は
南極でも
ロケットを上げまして、
上層の
観測をいたしますが、
日本はそれはやらない、あるいはできないことがございます。それ以外のものは全部
計画をいたしております。と申しますのは、
日本は一ヵ所でございまして、広い範囲ではありませんが、比較的重要な点に基地を設けまして、そこで十分な
観測をやろうという建前から、
計画を立てておるのでございます。
そこで
観測をいたします対象でございますが、大まかに申しまして、二つに分けることができます。その
一つは、
先ほど来、長谷川先生からの
国際地球観測年の意義及び目的についての
お話で、
南極及び
北極が非常に重要な
場所である。
地球全体にとって重要な
場所であるという
お話がございました。そういう
意味での
南極大陸の
観測でございます。それは、たとえばわれわれに最も感じやすい
気象の問題をとって参りますと、この
南極大陸はこれだけの広さ、
アメリカ本国の約一・八倍の広さがございます。そこが平均の温度が摂氏マイナス二十五度というくらいの寒いところで、冬はもっと寒くなりまして、マイナス六十度くらいになります。そのところにこれだけの大陸がありまして、ここに非常に冷たい空気がしょっちゅうたまっております。冷たい空気のたまりでございまして、これが外へ吹き出してきまして、いろいろ
気象の異変を起すわけであります。北氷洋の方は海でございまして、まわりを大陸で囲んでおりますが、海でございますから、比較的暖かいメキシコ湾流が流れ込みまして、一極のヒーターを持っているようなものでございますが、
南極大陸は、いかんせん、そういうものがございませんので、冷えほうだい冷えているというわけでございます。それでありますから、冷たい空気の発生地ということになります。海につきましても同様でございまして、ことにそれだけの広い範囲の氷がかぶさっておりまして、その氷がどんどん流れ出まして、このごろは、
新聞その他でごらんになりますように、上から流れ出します氷が折れて外へ出てくるものでありますから、
南極洋の氷山というものは、非常に平べったい、長い大きな、厚みの一定のものが出て参ります。そういう
意味で、海の方にとりましても、
気象の方にとりましても、この
南極大陸というものは、冷たい気候の発生地になるわけでございます。その程度のことはわかっているようでございますが、本貫的にこの問題を究明するには、どうしてもここに書きました程度の
気象の
観測所を置きまして、できるところでは海の
観測もいたしまして、これだけのことを、つまり精密科学のワクの中で確かめる必要があるわけであります。
それから、もう
一つは、
先ほど来、
電離層という古葉がございましたが、ここに赤線で書いてございますのがオーロラであります。極光が最もよく現われる地帯でございまして、極光帯と申します。これはわかっているじゃないかとおっしゃるかもしれませんが、かなり怪しいのでありまして、ここに書いてありますのは、
アメリカの戦時
研究で、われわれの仲間を動員いたしまして、捕鯨船その他の資料を集めて、
アメリカがこちらの方の作戦のために作った材料から、私がここに書いてみたわけでございます。かなり確かでございますが、その程度であります。ここに最もたくさん極光が現われるわけでございます。と申しますことは、ちょうどこの大空の、
先ほどお話のありました
電離層その他地上から百キロ、二百キロ、三百キロというところに、一種の放電が起りまして、光が光るわけでございます。それと同時に、そこでもって
電離層がおそろしく荒れるわけであります。
電離層が荒れますと、大空で、
先ほど来しばしば出ました
地磁気あるいは
宇宙線とかいったものが、大きな変動を起します。これは科学的にいいますと、一連の
お話でございまして、われわれいろいろ想像やあるいはある程度の解釈があるわけでございますが、的確にわかっているわけでございません。そこで今度の
地球観測年のときに、この最も
地球に放電を起すところ、つまり
太陽からきたものがここに入ってくるわけでございますが、
地球には北と南の二つに窓がありまして、その窓にのみ
太陽の放電が入ってきます。それは
地球の磁石が大体南北の方に極があるからであります。その極に導かれまして、放電の起るのは
南極と
北極だけであります。その
影響が
日本の方にも、豪州の方にも及ぼしてくるわけでありまして、そのためには、どうしても
太陽からそういった放電を起す窓の下へ参りまして、そこの最も適当な
観測地点に
観測機械を配置いたしまして、それが今申しましたオーロラから
宇宙線あるいは
電離層、
地磁気といったものを総合的にしかも
観測所が一致
協力して、同じ態勢のもとにやるということが、
地球全体に対する
影響を知るのに、最も的確な方法であります。最も的確という
意味はつまり精密科学のワクの中でそのことを理解しようというのですが、そのことができるようになりましたのは、最近における原子物理学の発達によりまして、極端に申しますと、今度の
国際地球観測年は、今までかなり経験的にやっておりましたことを、原子物理学の応用が学者にできるようになったために、本質的に理解し、本賞的に予報できるようになったので、
地球における
自然現象を全部基礎的にやり直そうというのが、その基礎に流れている思想であります。この
意味で、
南極の問題も徹底的に精密科学のワクの中に入れようというわけであります。そういうわけでございますから、各国の
観測所は、全部お互いにいかなる
観測をし、いかなる機械を使うかということの協定をいたしております。たとえて申しますと、
地球の
観測でありますと、各国の
観測所は一種の地方の
気象台もしくは測候所と申してもいいわけであります。その測候所から中央
気象台に情報が集まります。それは
ソ連も
アメリカも含めまして、
一つの臨時の
世界国家みたいになるわけでございまして、一国に集めまして、そうして中央
気象台におきまして
南極大陸の天気図を作るわけであります。この周辺に、たとえばニュージーランドあるいは豪州あるいは
南ア連邦といったようなところの測候所ができております。そしてこれから全部
通信が参ります。この
国際協力のワクの中で、だれが大将になるかという争いはございました。それは
ソ連と
アメリカであります。結局ただいまのところでは、
アメリカが
ソ連を言い負かしまして、
アメリカ合衆国がその中央
気象台を引き受けたのであります。そして
アメリカが中央
気象台になってデータを集めまして、各国に逆に天気予報をやるわけであります。同様に、無線
通信におきましても
一つの中央無線局ができまして、中央、地方全部が無線
通信をもってやるわけであります。たとえば一たん事が起ったら、それをどういうふうにやって助けるかというときには、中央部がございまして、たとえば豪州は
飛行機が何台あって、それはどれだけの距離があるから助けられるということをやるわけであります。そういう機構で、今度の
国際地球観測年におきますときには、そこに送りました各国の
観測隊が
協力一致いたしまして、これが全部済みましたときには、
国際協力の結果として、
南極大陸についてこういうものを出す、少くも科学的開発につきましては、そういうものをとろうということをやっておるわけであります。各国はすでに、たとえば
ソ連は御承知のようにことし初めてここに行きましたが、
アメリカはすでに二年やっております。豪州も二年やっております。ノルウエーはことしは参りませんでしたが、昨年参っております。ところが、
日本はまだ参ったことがないのでありまして、白瀬中尉が行かれたのが唯一の経験でございます。そこで私どもの悩みと申しますか、苦心と申しますのはそこにあるわけでございます。そこで、これに関します情報は、
国内はもちろん、国外からもなるべくたくさん集めているわけでございますが、これにかなり広い幅があるのでございます。かなり楽観的な情報と、それから悲観的な情報とございます。私も私の能力の及ぶ限りそういう資料を集めたのでございますが、それもかなり気楽な案と、それからかなりむずかしいという
考え方があるわけでございます。そこで
先ほど茅先生から
お話がございましたように、ことし予備的な
観測及び調査に参るわけでありますが、これはまだわれわれの行ったことのない付近で、どこが一体われわれの地区として最も適当であるかということを定めるわけであります。ごらんになりますように、
日本の行くプリンス・ハラルド海岸というのは、オーロラの一番多い線の真下にございます。
先ほどの
観測からは最も都合のいい
場所でございまして、この辺ならばどこでもよろしいわけでございますが、このときにどこがいいかということを調べねばならない。
そこで私、
先ほど目的のうちの
一つだけ申し上げましたが、もう
一つの目的を言うのを言い忘れましたので、もう
一つつけ加えさせていただきます。それは、各国とも
気象とか
海洋とかあるいは極光、
電離層、地理、地質、
宇宙線といったような汎
地球的な
自然現象の非常に重要な
かなめ以外に、
南極自身、未知の
部分が非常に多いのでございます。ここに書いてございます白いのは、雪がかぶさっておるというしるしでございませんので、少し色のついておりますのは
飛行機で写真のとれる程度のことはわかっておるが、白いところは実はまだわかっていないというしるしでございます。この辺がわかっておりませんので、まずこの立地
条件、たとえば地形の山がどこにあり、火山がどこにあり、地質はどうか、天然資源は何があるか、氷の厚さはどうか、どういう氷河があるかということを調べなければならないのであります。このことは、
観測隊が参りますためにも必要でありますが、同時に
南極大陸という
アメリカの二倍近くもありますような膨大な大陸が、一部を除きまして、現在ほとんど未開発のままに放置されております。これを将来
人類がこの狭い
地球の中でいかに有効に開発していくかということにつきましても、その基本的な知識が必要であります。そういうことのためには、やはり各国の隊員もそれぞれ地形をはかり、測量して、地図を作る、あるいは地理学者が参りまして、その地形の解析をする、あるいは地質学者が参りまして、必要な鉱物、たとえば岩をとりましてそれの解析をする、あるいは氷河の
専門家が参りまして、氷河の性質を調べる、そうしてこれが海に及ぼす
影響を調べる、気候に及ぼす
影響などを
協力一致して調べる必要があるのであります。ところが、立地的にはここに火山がございます。地質いかんによっては
地震も起る可能性もありますので、この辺の地質も調べるという必要がございます。そういった
場所自身の立地的な
条件を調べることも第二の目的でありまして、それもやはり全部結果を公開する、そうして
世界全体の
一つの中央的組織にする約束をしておりますので、各国がそれぞれできる範囲のところで調査をする。この地図はかなり怪しいものでありますが、かなり的確に
南極大陸全体に関する地形あるいは地質あるいは様子がわかるわけであります。これが二番目の目的であります。
そこで今度参りますときには、情報が二つございますから、楽観的に見れば、かなりのことができるようでありますが、悲観的に見れば、かなりむずかいことがあるわけでございます。そこで、私がただいままで
考えまして、統合本部その他で御了解願っておりますことは、今年の
予備観測隊におきましては、
先ほど来申し上げております本来の
観測の中の一番目のこと、つまり
気象とか極光とか、そういう問題につきましては、船上
観測をおもにする。と申しますことは、われわれの乗船宗谷は一種の
観測船になるわけであります。その上に
電離層の
観測機があり、
宇宙線の
観測機がある。それで一応十分ではないか、何となれば、とにかく船はここまで行きます。そういう問題に対しては、陸の上に上って、そこに機械を据えるということは、
予備観測としては必ずしも必要でないと思います。そこで、われわれが宗谷の上に若干の
観測点を設けて、船が一種の
観測点を兼ねるということは可能であります。比較的容易に実現できることであります。しかも本来の目的を達するための予備調査といたしましては、この停泊地あるいはこの辺を航海中に
観測を続けるならば、
南極地域の
気象なりあるいは極光なりにつきまして、
観測データをとり得るのであります。そこでわれわれの努力は何に向けられるかと申しますと、かなり広い幅の中で、本
観測のときに最も上陸しやすい
場所はどこであるか、そうしてどこに基地を設けることが最も都合がいいのであるかということを定めることであります。それに主力を注ごうじゃないか、それにはやはり地理、地質、氷、あるいは
気象といったような人たちが参加しなければなりませんが、そうして基地を見つけることに努力するわけであります。もしうまく参りますと、最も悪い情報と最もいい情報とのまん中くらいが最も可能性があるといたしますと、ここに参りまして
——ずっと続きになっております氷のたながございまして、そのたなの端に坂りつきましてから、ほんとうの陸地
——岩があります陸地のところまで、大体五十キロくらいのところがまん中くらいであり得るわけであります。そこまでわれわれはできるだけの荷物を運ぶわけでありまして、そこに来年着きましたときに、少くともここに基地があるのだということがわかるだけの基地の建設をできるだけ試みよう、それには本
観測に必要なほど大きなものでなくてもよいのでありますが、たとえば十坪か二十坪くらいのところにマストを立てて、
日本隊の基地はここであるということをやってみる可能性は、ちょうど最悪と最善の場合の中間くらいにあるわけであります。最悪の場合を
考えましても、もしヘリコプターが十分飛び得るならば、その
場所にヘリコプターをおろしまして、そして基地を確かめることは少くとも可能であると
考えております。
実際、最も工合のいい場合と最も都合の悪い場合の幅がかなり広いのですが、最も工合の悪い場合にも、われわれが国際的な
南極地域観測に
協力して、
日本が参加いたしますことは、
日本がその
方面についてかなり今までの実績が学問の
世界にもございまして、高く期待をされているわけでありますから、それに対しましてどういうようなことをし、かっこの
世界全体の
計画にほんとうに寄与するにはどの程度までやればいいかということは、常にわれわれの
考えているところでございます。
しかし、本
観測はもちろんここに基地を置きまして、そして
先ほど来申し上げました
気象以下の項目を一ヵ年間にわたって連続的に
観測するわけでございます。その内容は、ただいまかなりりっぱなと申しますか、
一つの
観測におきましては、
アメリカや
ソ連と同等程度の
観測内容を持っておるわけでございますが、しかし
予備観測その他でもって、多少は、現在の本
観測に基く
計画を減らすとか、あるいは変更することは起るかもしれません。と申しますのは、
日本のわれわれ
責任者のだれも現地へは行っていないのでございまして、先日宗谷の松本船長がお帰りになりましたが、松本船長もエンダービー・ランドという、この近くまで、陸地から十三海里のところまで行かれたのでありますが、こちらにはお見えになっておりません。そういう
意味で、そこへ行きまして
——必ずしも悲観をいたしておりませんが、ことしの
予備観測の都合で、本
観測に多少の変更はあり得るだろうと思います。しかし
日本のこの
方面の学問は、すべてとは申しませんが、一部にはかなり誇っていい機械をすでに
日本の
国内の
観測では使っておりますので、
南極でもそれを使おうという
計画を立てております。少くとも
日本が今まで
世界的に認められてきたこの
方面のすぐれた機械は、なるべくここで使って、やはり
南極でも全体の
観測に十分な寄与をしようという
計画をいたしております。
大へん概略でございますが、また御
意見がございましたらお答えいたします。