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嵯峨根参考人 嵯峨根遼吉と申します。
アメリカに六年ちょっとおりまして、昨年の暮れに帰ってきたばかりでありまして、
日本における
原子力の
事情がどういうふうに動いているかということ、またどういうふうに、どこまで
科学者が御援助できるかというようなことを目下勉強中であります。それについて私の個人的な
意見をこまかく申し上げるつもりでありますが、ちょうど今、
一本松さんからの
お話で、私も
最初に帰って参りましたときに、どういう
状態であるかということをまず了解するために、いろいろ方々かけめぐりまして
資料をいただきました。こちらにあります
グラフは、
日本は
アメリカに対してたった十分の一しか
電力を平均使っていない、当然
平均所得も十分の一だ、そうしてチェコや何かはもっと上の方におるんだということをはっりり示す
グラフでございます。こちらにあります
グラフは、
日本の
エネルギー資源がどの
程度に進んでいるか、こちらの緑が燃材すなわち、まきであります。それから紫が
石炭、その間に
天然ガスなんてこんな小さなもの、
日本の
石油、
石炭もこんなに小さなもので、
あとは水色は
電力です。これは
資源調査会でなかなかいい
グラフを持っておられたんですが、あまり活用しておられません。今、
一本松さんのおっしゃったように、
資源調査会ではこんなに上っておるように
予想しておりますが、実際は上らないで、ずっと下っておる。この中の
あとの
部分は、
原子力で補うのだというような見当がつく、なかなかおもしろいきれいな図でございます。もう
一つとこに
グラフが
——こればあまりよくわかりませんが、
日本の
火力は、
新鋭火力といって、非常に新しいものをどんどん入れておりますが、実際に
アメリカはこういうふうなカーブで進んでいるのに対して、
日本ではボイラーの、圧力がこんなにおくれて、こういうふうに進んできておる。この辺では十年のおく木で、今でも六年ぐらいのおくれだということをよく示しております。そうして
火力発電自体の
技術が、現在こんなに急激に進んでおる最中にあるのだというところの
一つの
グラフでございます。
前置きはさておき、私自身どういう
態度でいっておるかと申しますと、できるだけ
数値で表わせるものは
数値で表わしていく、わからないものはこの
程度わからないのだと、押せるだけ押して、
科学者的に考えて、ある
程度できないものかということを今やっております。そうしてまっ先に了解しましたことは、
原子力問題に対する
態度に、こうしたらいい、ああしたらいいという議論の
一等奥に、
状況判断ということ、
日本がどういう
状態にあるか、
世界がどういう
状況にあるかということをしっかり押えてあるかと申しますと、めいめい違った
状況判断で詳論しておられることを見出しました。そうして現在、これから申し上げますようなことは、私はこう了解しているけれども、ほかの人はある
程度——たとえば現在できております五カ年
計画——もっともこれは近いうちにもう一ぺん検討し直すようでありますが、それを考えたときは、まだ
世界の情報がよく知られていないためにこういう結論が出たけれども、これが変ると、こういうふうになるということが幾つかありましたので、それを申し上げたいと思います。
第一に、
日本は、
原子力発電が何年後にどのくらい要るかという
予想は、ついこの間まではできておりませんでした。事実私は
電気事業連合会に参りましてこの
グラフをお目にかけて、この上の方の
水力が足りない。ここにか
ば色がありますが、このか
ば色の
部分は
外国からの
重油であります。この
重油を一体何年間続けられると思っておられるか、
科学者の
立場からいえば、できるだけゆっくりやっていただけば、りっぱな
原子力発電がやれる。ところが何年持ちますかと伺いましたところが、事実
需給予想というようなことをまだはっきりは考えておられない。ごく最近考えられまして、こういう
数字が出て参りました。その
程度の
需給予想ですが、
重油は、十年あるいは十五年後に二百万トンあるいは三百万トンぐらいの
重油が必要だということになって参ります。これは非常に大事なことで、果してそれだけ得られるかどうかという問題が出てくるわけであります。それに加えて、先ほど
一本松さんがおっしゃった
需給予想ということは、
イギリス、カナダあるいはフランスは十年に二倍というのが普通なんですが、
日本は、
最初の八年ぐらいまでは二倍に近い一・九倍ぐらいですが、それから
あと非常におそくなっておる。十五年に二倍くらいになっております。それで果していいかという問題があるわけでありまして、これは
電力会社がお考えになったのです。ところが、
日本はこう
伸びたいのだという政治家の
立場からは、ずいぶん違うだろうということも、考えていただきたいと思います。その点はついこの間までわからなかった点でありまして、それがわかりますと、事実、準備が違うわけでありまして、すなわちゆっくりしていられないのだ、相当に急がないとだめだ、相当どころか、一生懸命急がないとだめだという結論が出ると思いますが、この点はあまり重要視しておられない。
第二の点は、
原子力発電のコストが、一体
新鋭火力のコストはいつごろ大体同じになるだろうかという
予想であります。これは非常にはっきりしない
予想でありますが、一、二年前までは、十五年ないし三十年というのが普通でありました。現在のところは、大体十年で
日本のコストを割るか、あるいは
アメリカのコストを割るかというくらいの不正確さ、すなわち
日本は
アメリカの大体二倍くらい高いのです。そのくらいの不正確さで大体十年がいいところだろうというふうにだんだん皆さんの
意見がまとまって参りました。これが
一つの新しい事実であります。
それから第三の点は、この点は私個人が考えているのですが、というのは、
アメリカに私ある
程度長いこと行っていたので、
アメリカの行き方を知っているためかもしれませんが、
アメリカの
原子力委員会というのは、相当に平和攻勢ということに力を入力ているので、燃料の価格なんかは相当に、
日本でやってほしいという希望があれば、自由に下げる可能性がある。すなわちある意味のダンピングの可能性すらあると僕は考えております。ところが
原子力の
発電機を作るメーカーの方も、
アメリカの中でも、できるだけ早く実際に使う
発電機の経験を得たいという希望があるから、その方でも、イニシアル・コストでのダンピングの可能性がある。この点もあまり考えておられなかったと私は思っております。
第四の点は、
試験用の動力炉にしろ動力協定が要るという
考え方自体も、動力協定という形でなくして、将来どうなるかわかりませんけれども、ある
程度の協定でというか、アグリーメントといいますか、そういうことで、
試験動力炉は始められる可能性があると私は見ております。すなわち、
日本ですと、政府が音頭をとらないといけないのが、
アメリカあたりでは、民間の音頭で相当に政府の政策が動き得るのだという
考え方もあると思っております。その点を見のがしては困るという点であります。ですから、そういう意味で、
試験用動力炉の
あとにパイロット・
プラント式の動力炉が入っても、その燃料に対する手配は、むしろ
会社と政府の両方一ぺんに働きかけるべきだと私は考えております。
第五の点は、今までの
考え方は、国産炉でいこうという
考え方であったのでありますが、これは
最初に申し上げた
日本が
電力を非常に至急に要求するという点からも、ある
程度間に合わないということが確実でありますし、また実地にこれからやろうという人
たちも、
最初の数台は、少くとも
外国技術導入でやった方が結局
日本のためになるという
考え方もある。これもよく考えていただきたい。今までは
外国技術導入ということについての議論をあまりされていない。
第六の点は、
日本は非常に特殊
事情にある。すなわち今までの
日本の
原子力の
対策は、ほとんど
外国のまねをしてきだ。その
外国がほとんど全部
原子力自体が相当国防に役に立っている。その国のまねをしている向きが非常にあるのに対して、
日本は平和利用一本でいこうという点であります。そのために、将来
外国の
技術を導入するとすれば、結局
日本はその
技術を
日本に根が生えるような形にして入れたいのだということであり、そうすると、
日本の
原子力発電機を将来作る
会社自体は、どういう
状態にあるかということを考えておられなかったらしいと私は考えます。すなわち、そういうような
会社は、ほとんど
外国の
会社に適当な連絡があって、非常に理想的なものがどんでもないところにあっても、そういう
会社にはなかなか入らないのだ。と同時に、その関係
会社が必ずパテントを持っていて、一緒に
試験をしなさいといっても、パテントの関係でやれないという事実が必ずある。そういう点は、具体的な動きとしては、将来大事な点になってくるだろう。そういう点をあまり考えに入れられなかった。
第七の点は、それではそういう行き方でいったら、いつ
会社の
責任に移せるだろうかという問題があります。これが結局山になります。すなわち、
原子力研究所なり何なりで基礎的のものをやって、それから
会社にまかすときにうまく渡るだろうか。
最初の一万
キロワットから
会社の
責任でやらせられるだろうか、一体どういう炉がいいのだろうかということを、
会社の
責任で選ぶことができるだろうかという点があります。この点は人によって
意見が違う。すなわち、
会社によって勉強の度が違うという点でありますが、一等理想的なのは、一年くらい待ってもいいから、
会社に十分勉強させて、しかも
外国のコンサルタント・エンジニアの
意見も聞かして、内地の
科学者も協力して、めいめいがやりいいようにやらせるということができれば、これが将来混乱を来たさない。しかしある
程度国家管理でやって、それから
会社に移す場合には、相当な困難がある。しかしその方が結局安くつくといえば、それでやらなくちゃならぬ。この点の採択というのは、非常に困難な問題になると私は考えております。そこで、私自身は、結局
最初の一万
キロワット程度の
試験用動力炉というものは、
日本の
電力の需要の上から考えて、当然
外国技術の導入あるいは
外国のものを買ってやってみるという形になって参りますと、基礎的な
研究をやってからやるという現在のプランをある
程度変えていただかなくちゃならない。そういう点に、すなわち、現在入ってくる
ボイリング・ウォーターの
最初の小さなリアクター、その後に入るはずの小さなCP5というものは、動力用
原子炉の目的には結局間に合いそうもないのだ、それはむしろ将来をねらう基礎的はものになる。そうしますと、そういうようなものは当然にもっと大ぜいの
科学者の役に立つようなふうに持っていく方がいいんじゃないだろうかという議論が出て参ります。すなわち、現在は文部省関係あるいは大学関係の人々は、ほとんどあの動きにタッチしておられないけれども、それができる方がいいのじゃないだろうかという点が問題になってきます。
その次の点は、今、
日本の
科学者あるいはエンジニアは、いろんな文献をよく
調査して、大体これで見当がついたと思っておられるにかかわらず、まだ見のがしている点あるいは秘密になっているのを全然知らない点がありはしないだろうか、私はこういう例はいつでもあると思っております。すなわち、放射線の影響で、ウラニウムのエレメントが相当に形が変ってしまうなんということは、一年前ハフスタッドが来るまでは、ほとんど
日本の人は知らなかったということを聞いております。それに類似のことがないとは言えないと私は考えておるわけなのでありまして、そういう点からすると、
科学者はわかったと思っていても、実際はわからないことがあるかもしれない。いつも気をつけなくちゃいけないという点を、私は大事に思っております。そういう点からして、
アメリカのコンサルタント・エンジニアの
意見ということも、相当に重きを置かなくちゃならないし、それから
アメリカのものを導入するということも、相当な重要性があると私は考えているわけであります。
最後の点は、ウランもしくはトリウムの燃料がどうなるかという問題なのですが、これはぜひ間に合わせなくちゃならない理由は、私は考えられません。むしろ
最初はどうしても買わなくちゃならないし、
日本で探して、なければ、最後まで買わなくちゃならない。こういう点を十分に初めから用意をしておいていただきたい。こういうような点が、今まで考えておられだ方々と、私の個人的な今までの勉強でかなり食い違っている。そして現在こういうような点で、私の考えているのが果して正しいのか正しくないのかということをよく調べていただきたいということ希望いたしておるわけであります。
実は、私の希望なのでありますが、結局そういうことを調べていただくためには、すなわち、
情勢判断の正確度を増すということが必要になって参りますので、ぜひとも適当な種類の
調査団を一、二回少くとも出していただきたいのであります。私が今考えておるのは、たとえばここにおられるような
電力会社の方、電機メーカーとくっついた
調査団というようなものは、一等正確な
技術あるいは事実をとってこられるだろう。というのは、自分がこちらで作るつもりで、しかも採算が合わなければ自分の
責任だという点で、ただぐるぐると見て歩くのではなくて、ほんとうに向うの
会社に行って、話ができるだろうというようなことすら考えます。そういうような
調査団がほしいということ。
第二には、
外国に現在行っておられる人に、こういう情報がほしいのだということをこちらから
注文を出すようなところがあってほしいというようなことも、大事な点であります。
それから第三の点は、私は
アメリカにいて、ただ向うのニュース・インタプリターといいますか、コメンテーターといいますか、ニュース解説者の話を聞いていただけでも、われわれがこっちへ帰ってきてからの
世界の
状況判断が、だいぶこちらの方々より進んでいたという点を気づいておりますので、これはある意味で、
外国に行っておられる人にいろいろな依頼を出すという点も非常にいい点だ、こういうことを気をつけて聞いておいてくれとか、よく読んでおいてれということを出すということも、結局
日本の円を助けることになるのじゃないだろうかと思います。
第四の点は、コンサルタント・エンジニアを入れたらどうかということも、
一つの点だと私は考えております。
それから全然別のことなんでありますが、
状況判断がある
程度つきますと、現在の
原子力委員のやっておられる以上に、もっとよく
状況判断をまとめて、いつでも消化してやっていくような総合的な機関があった方がよくないだろうかという点を常に考えております。それがもし
原子力研究所の中にできればなお都合がいいのでありますが、私が気がついておりますのは、現在の
原子力研究所自体は、発足して間がありませんので、原力炉を作るのに
一ぱいでありまして、実際には
原子力に関する基礎的
研究とか、
原子力に関する応用の
研究とか、放射性元素の輸入とか、八項目もあげておりますが、その八項目のうちまだ一項目しか手がついていない。そのほかのものを将来は
原子力研究でやる、あるいはある
程度よそへ移すということもあるかもしれませんが、現在ここ数年の間、やれないところはだれがどうやってやるのかという問題もおろそかにできない。すなわち、特に大事なことは、
電力会社では常に今の
一本松さんのおっしゃるような
勢いでものを作っていこう、そうすると、それに対する
技術者あるいは
研究者というものはもっとずっと早い時期に何人も必要になって参ります。その人をどうやって作るか、単に
外国へ人を送るといっても、どういう人を送っていいのか、ほんとうに
責任を持っておるところはまだない。当然ある意味で、昔流の考えでいえば、そういうことは文部省が本気になってやるべきことであると私は考えるのでありますが、あるいは大学の先生方が主導権を持って立案してやることであるかもしれないのですが、それが現在何にもできていない。そして、この人材の全国的な養成という点については、
原子力研究所でも、将来全部やれないだろうという点があると思います。そういう点で、何となく私は、実際の動力炉について一生懸命やっている人、あるいは
原子力について一生懸命やっている人と、そのうしろで基礎的に将来
伸びようと準備をしているところが、まだ動かないで、その連絡がないという感じがしているのであります。それに関連しまして、同位元素については、現在もう
日本では
外国から同位元素を輸入して四、五年になり、年間大体九割の複利で、大体年々二倍にも
使用量がふえておる。昨年は五万ドル、ことしは十万ドルも使っております。ところがそういうものに対しての実際の動きというものは、非常ににぶい。単に
原子力予算として各工業
試験所に予算がばらまかれておりますが、果してそれでいいだろうか、私がすでにこういうことを大学において三十年間取り扱ってきております経験から見て、どうももっといい手がありそうだ。すなわち、農業の方にやろう、あるいは工業の方に使おうとすると、まっ先にどういうものが使えるのか、どういうアイソトープを使ったらいいのか、どういう
機械を使ったらいいのか、そういうような相談所もなければ、講習所もなければ、その
研究所すらまだはっきりない。私、うろ覚えに覚えておりますが、いつぞや正力さんの新聞記者への話か何かで、
科学技術庁ができればそういうことをやりたいというようなことでありましたので、何かそういうものは現在もやっていいものなのに、なぜやれないのかというような気がしております。
そういう点で、私はさらに
科学者からのある意味の非難、ある意味の忠告をもう
一つ申し上げたい。それは、現在
原子力は非常に大きな金を使っておりますが、果してそれがうまく使えておるだろうかということを、どうやってウオッチできるであろうかという点であります。金をこれだけ出したから、これだけやれというのではなくて、金はこれだけ使って、十分な
努力がしてあればそれでけっこうなんですが、それがほんとうにやれておるだろうかという点が大事だろうと思います。十分な
努力がされておるだろうかという点であります。
最後に、もう
一つ非常に心配なのは、パテントに対してほとんど手を打っておられないとしか思えない点であります。このパテントは、
アメリカの
原子力委員会でも、ついこの間
あたりから
会社にパテントのとれることをどんどん許しまして、それがごく近い将来
アメリカの
技術導入と同時にどんどん
日本へ入ってくる。そのパテント問題に対して、
日本ではどういう
態度をとるかという根本方針が、あまりはっきりきまっていないのではないかというふうに私は了解しております。この点は、私は専門外でありまして、あるいはどっかでよく勉強しておられる方があるかもしれませんが、
日本の特許法は、非常に特殊なというか、フランスに非常によく似ていて、頭で考えれば、実際にやらなくてもいいような特許だと聞いておりますので、その点で、非常に大きなパテントをとられて、動きもつかぬという可能性が十分にあるのだということを御了解願いたいと私は思っております。
大体申し上げたいことは全部申し上げましたが、最後にお願いしたいことは、こちらの
努力で、
原子力委員会とか、
原子力局とか、あるいは
科学技術庁、
原子力研究所、それに民間の産業
会議と、ある
程度のおぜん立てができたのですが、できただけでお見捨てにならずに、うまくいっておるだろうかということをいつもウオッチして、もしうまくいっていないところがありましたら、どうしてうまくいかないのかということをこの
委員会の方々でよく御
調査になって、適当な手を打っていただきたい、そう希望しております。(拍手)