○加瀬完君 私は
日本社会党を代表いたしまして、このたび
提案をされました地方財政措置に関する二法案に対し
反対をいたします。
反対理由の第一は、
政府の赤字打開の基本
方針の不確実にして、不明確なる点であります。自治庁長官は、その赤字解消の基本
方針の説明に当りまして、「過去の赤字のたな上げを再建法により、さらに将来再び赤字発生を見ないための赤字原因の除去を、三十年度財政措置並びに三十一年度財政措置で解決するのである。」こう説かれるわけであります。それならば、三十年度を含めた三十一年度の財政計画というものが打ち立てられまして、しかも再建法との見合いの間におきまして、この
関係が一体となって解決される措置がとられなければならないはずであります。将来赤字発生原因の除去のために、
政府における財源補充策がまず立てられて、
明年度以降の地方財源のワクが見通され、この基礎の上に新しい地方財政計画が示され、その財政計画をもとに地方の再建計画が合理的に進められる、こういう
順序をたどるべきであります。
しかし、このたび
提案をされました再建法と、三十年度財政措置及び明年以降の計画とには、何らのつながりもないのであります。すなわち再建計画を立てようといたしましても、地方不足財源の
内容がはなはだ不明確であります。また明年以降の財政収入のワクも
見通しがつきません。さらに三十年度の措置におきましては、給与費は全然除外をされておるのであります。従いまして実際上の赤字は消し得べくもないのであります。また、再建法によりましても、二十八年度までの赤字分を対象とし、二十九年度六百五十億といわれます赤字分ははずされておるのであります。三十年度財政措置も、最初は要増加額は二百三十八億と言い、
政府の決定は百六十億と言い、全然その措置は不確実そのものであります。地方赤字につきましても、どの分を地方の
責任とし、どの分を
政府が負ってくれるのか、
責任の分担もはなはだ不明確であります。これらを明確にするためには、特に地方交付税の地方財源繰入率の適否判定を行う基礎となる地方財政計画が根本的に検討され直さなければなりません。すでに財政計画と決算額との相違の大きいことは周知の
通りであります。
また、この地方財政計画は、
昭和二十五年の決算を基礎としておりますが、この基礎が不合理でありますことも、地方的経費が、毎年基準年度よりも減少しておることでも明白であります。しかるにこの問題の核心でありまする地方財政計画は、現実の実態に即したものには作りかえられておらないのであります。まず、新財政計画が前提となりまして、その上に新しい再建法にいたしましても、措置法にいたしましても打ち立てられるということでございませんでは、基本
方針そのものに合理性を認めるわけにはいかないのであります。この点は何よりも与党の
諸君がいろいろの修正案の付帯をせられなければ、この案そのものがずさんであるという御認定に立っておることも明白であります。
反対理由の第二は、国の地方行財政に対する
認識の不足の点であります。
政府の
提案説明によりますると、「地方団体の赤字解消の基本
方針の具体化については、国、地方の行財政の全般について詳細な検討の上で結論をすべきである。」こう説かれておるのであります。従いまして逆に、すでに
提案されました二法案につきましては、当然ある程度の地方行財政の実態がつかまれておらなければならないと思います。たとえば国との見合いにおきまして地方の緊縮度合いが検討され、また、節減の幅がどの程度かも
認識されておられるべきはずであります。しかし、この検討には、はなはだ怠慢な点を認めざるを得ません。例示をいたしますと、まず行政規模におきましては、国と地方の純行政費を比較をいたしますると、
昭和九年と十一年の平均をとりますると、国の純行政費は八億三千四百万、地方財政の純行政費は十五億四千万、純行政費の比較は地方の一〇〇に対して国は五四であります。これが
昭和二十九年になりますとその比較は一〇〇対八〇になります。
昭和三十年も国が七九を数えるのであります。公務員の数が地方が非常に多いと巷間言われておるのでございますが、
昭和十一年と二十八年を押えますと、
政府の公務員は、
昭和十一年が七十二万六千、二十八年が百四十九万八千、地方は戦前が八十四万五千、戦後が百三十五万五千、膨張率は、国の二〇六%に対して地方は一六〇%であります。むしろ国の方が伸びが激しいのであります。財政膨張率も、
昭和九年と二十七年とを比べますと、国の四百三十二倍に対して地方は三百三十六倍であります。国税と地方税の伸びを比較いたしましても
昭和九年と二十八年を抑えますと、国は八百四十六倍であるのに地方は五百六十四倍にしか伸びておりません。また地方財政の国の依存率は、戦前の四二%に対し五三%であります。国の収入が専売益金を入れますると九〇%を占めておるのに比べまし工、地方の貧弱団体、たとえば秋田・鹿児島等は、県税によりましては収入の一〇%しか満たないのであります。こういう事実が全然見のがされておるのであります。
また、節減度におきましては、昇給ストップ府県は、四月においては二十府県、七月においては三十四府県であります。日直、宿直手当は、国が一三六十円を押えておるのに対し、地方…二百円ないし二百四十円であります。超過勤務手当にいたしましても、国は給与費の六ないし七%でありますのに、地方は主ないし四%であります。旅費にいたしましても、三等という現況であります。さらに
昭和三十年度地方財政計画では、行政事務の簡素化、経費の節減、補助金整理、行政整理、こういう
方針を強く圧縮にかぶせておりますので、地方は中央の大蔵省が説明するような実態ではございません。
この地方の実態と比べて、国家財政は果してこの限度、地方と同じ程度に節減をされておるのでありましようか。たとえばこのうち、三十年度の財政措置として講ぜられました百六十億の財源として、公共事業費の八十八億、一般経費の節減四十二億というものを出しましても、まだ年末手当のプラス〇・二五分がやすやすと出せる状態に国はあるのであります。この二つを比較いたしまして、果して緊縮の度合いが同等であるという結論は出ないと思うのであります。
政府はこのような地方財政の現況に対するはなはだしい
認識を欠きまして、この財政措置は、正しく把握されておらない
認識の上に打ち立てられておるといたしまするならば、こういう不確実、不明確へ財政措置に
賛成をするわけには参らない。そういう結論が当然出てくると思うのであります。
反対理由の第三は、大蔵省は、財源がない、財源がないと言いますけれども、果して補充財源はないか、こういう点であります。大蔵省は、地方財政
審議会の勧告あるいは地方制度調査今の答申、こういうものに対しまして、緊縮財政、財源発見の困難、こういうことを理由に強硬に
反対態度を持しておりますけれども、国家財政には余裕はないのでありましょうか。地方に当然はね返るおそれのある公共事業費の一律削減というようなことをしなくても財源がある、私は、この点を指摘したいのであります。
たとえば防衛費を一べついたしますると、その決算額は、
昭和二十六年、不用額十二億、翌年度繰り越し額百五十一億、
昭和二十七年、不用額三十二億、繰り越し額二百八十九億、二十八年、不用額十五億、繰り越し額二百五十七億、不用額の総計は六十億、繰り越し額の歳出予算に対するパーセントは、二十六年は四九%、二十七年は四八%、二十八年においても四三鬼を数えるのであります。
大蔵
大臣は、
委員会におきますこの私の指摘に対しまして、御指摘の
通りでありまして、まことに遺憾にたえません。しかし何といっても防衛
関係者は分担金の
関係もありましてと、こう答えられております。さらに主計局長は、これだけある防衛庁
関係の繰り越し分に全然触れないということは、緊縮
方針としてはおかしいではないか。予算技術上当然見のがし得べからざるものであると思うが、一体どうしたのか、こういう私の
質問に対しまして、諸般の事情がありましてと、こう答えられております。分担金の
関係とは一体何でありましょう。諸般の事情というのは何を指すのでありましょうか。アメリカという国の
関係におきまして、アメリカとの共同防衛計画、こういった事情によりまして、国民の一番つながりの深い民生安定の最も大きな面であります地方財政までが圧縮されなければならないという無条件防衛費の優先をわれわれは知らされたのであります。財源がないのではありません。財源はある。ただ
日本の財源にはひもがついておる。こんなばかげた話はないと思います。われわれは国民の納めた税金が、国民の手元に当然返ってくることを要求せざるを得ないのであります。
反対の第四は、再建法案によりましては、自治権の喪失が予想されるという点であります。再建法案に伴う赤字の原因についての論議は、去る国会におきましても活発でありました。たとえば税財政そのものに原因がある。造船、電力、石炭、こういう大資本に対して、
政府は惜しげもなく補助政策をとっておるのに、地方財政に積極的援助をしないのは片手落ちではないか。現状におきましても、地方団体はその赤字のしわを教育予算に及ぼし、現在、小、中学校教員四基準数をはるかに割っておる。この傾向が一そう強くなるならば、法案の犠牲を教育財政がかぶることにはならないか。
地方制度調査会は、
昭和二十八年の十月に、二十七年度の赤字三百億を基準に二百億の再建債を勧告している。今、六百億をこえる赤字に対して、二百億の再建債では、再建はできないではないか。
前国会のこういった論点は、このたびの
政府の施策を待ちましても、何ら修正をされておらないのであります。赤字のよってきたる原因というものに抜本的施策がなく、相変らず中央統制的な再建法を進めて参りまするならば、結論は次のようにならざるを得ないと思うのであります。
すなわち、再建法案によれば、赤字のなくなるまでは仕事をするなということでありますから、特に再建債は行政整理債にしか
適用できませんので、福祉増進の計画というものは、一応さたやみとせざるを得ません。従いまして数年たちまして、一応ひとり立ちの財政状態が復活をして、再び計画を住民本位に進めようといたしますときには、また赤字を生ずるおそれがあるのであります。赤字をおそれまして、この法律案のままで行政運営を続行しようといたしますならば、行政規模の圧縮を自治体みずからがしなければなりません。
なお、行政という面は多くの消費的経費を本質といたすものであります。財政の切り詰めというものは、当然行政面のなさなければならない点までも圧縮されることではないはずであります。このバランスをどうするかも依然として問題に残されているのであります。
また再建法案の第二条に
規定されておりまする租税の増収、収入確保は、住民に対する徴税強化とならざるを得ませんの収入確保とは、滞納の強制取立て、税以外の手数料、授業料等の値上げを意味し、租税の増収とは、目一ぱいの徴税、見込額の引き上げ、こういった点が主として事業税、遊興飲食税、こういったもりにかかってくることは必然であります。また住民税の引き上げ、新税の創設ということも当然論議の的となって参ります。また同法第二条の経費の節減も、再建計画の一大目標となります。従いましてこのために行政整理、事業の縮減等によりまして、地方行政は戦時中の麻痺状態を生じ、地方団体の施設、耕地、道路、港湾等はこのために相当の荒廃をも予想しなければならないと思うのであります。
以上のごとく、問題は、この法案が果して赤字を解消し得るのか、そしてまた地方自治を守れるのか、こういう点に帰着すると思うのであります。すでに赤字の解消のできないことは歴然であります。それならば自治権は守っていけるのか。修正案によりましても、第三条「当該財政再建計画に必要な条件」を付する権限が依然として自治庁長官に保留されております。自治庁長官の意図によりましては、地方自治権に大きな制約を与えられることも単なる杞憂ではあり得ません。しかもさらに次年度におきまして、地方自治法の改正を意図されるということになりましては、地方行財政二面に対する
政府の監督権が強化されることは明らかでございます。地方に対しましてなさねばならない財源措置は怠って、憲法の
規定まで踏み越えて監督権強化に急なのはなぜでありましょうか。われわれは旧官僚統制の復活、旧官僚権力の復活、これらの陰謀がかくのごとき実態を進めて参ったと断ぜざるを得ないのであります。われわれは、憲法の基本である地方自治の権限を、やすやすとこのような手合いの手にゆだねることはできない。そこに来たるものは、むざんにも踏みにじられた基本的人権であることを覚悟しなければならないと思うのであります。また当然次に来たるものは、地方議会の権限縮小であり、民主主義の育成される場を失うことにもなりかねないのであります。今や一歩の後退は百歩の後退を意味いたします。地方自治を守り、そうしてわれわれの基本的人権を守るためにも、官僚権力復元のもととなる。根拠となる、かくのごとき再建法案に対しましては、断然
反対をせざるを得ません。
以上をもちまして、私の
反対討論といたします。(
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