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国務大臣(
牧野良三君) お答えを申し上げます。ただいま
小林さんから大へん御親切なお尋ねを受けたのでございます。これは
小林さんも御
承知のように、
法務省という所は
行政官庁としては全く特殊な所でありまして、他の
行政官庁でありますると、
抱負経綸というようなものを持って、それを実行するという所でありまするけれ
ども、私は
法務省だけは独自の
意見なんというものを持ち込んで私見を実行すべき所ではない、これはどこまでも
司法部内外の
世論、それによって定まった国の方針というものを強力に実行していく、これが大切なこと。それで私が任につきました最初に
あいさつしたときも、
在野四十年、
司法則で育成をされてきた
自分としては、どうかしてここで
お礼奉公をしたいと思うから、
皆さんから
意見を聞かしていただきたい。それで任を受けました翌日、
弁護士会を初め、
関係方面へ
あいさつに行きまして、一
通りの
あいさつじゃありません、何をなすべきかということに対する指導をしていただきたい、毎日その
方面の方にお会いする
機会を作っておるのでございます。昨晩も特にその
機会を作って御
意見を承わって参りました。私はそれに基きまして、省内の消極的な
態度に向って、どうも
法律というものも、
法律を取り扱う
司法部の人々も、あまりにいかめし過ぎて、その結果が冷たい、もう少し
司法部の人が世の中に入ってくれなければいかぬ、そうしてあんなりっぱな
建物で
廊下にも赤いカーペットが敷いてあるが、どこにも春風らしいものが漂わない、
うららかな日というものがちっとも入っていない、これが
司法部と
民間とが接触していない実際の事例なんです。ですから私は行き過ぎてしくじるかもしれないが、
いしずえにさえなればいいから、もう少し
民間に出てほしい。もう
一つ小林さん、行き過ぎたことをやったんです。それは全国の
高等裁判所から代表の
諸君が来られた。そうして
最高裁判所長官を初め、
最高裁の
お方及び
東京の
高等裁判所の
お方が一堂に会せられた席で、私に
法律に関する講演をしろと言われ、そのときにどうも
裁判所という所は
蒸留水をこしらえたがって困る、
手数がかかってちっともうまくない、それはやはり自然の水を飲ましておけばいい、顕微鏡で見れば少々
ばい菌はあるかもしれないが、そんな
ばい菌は人体には毒にならぬ、そうして味がうまいのに、どうもそういうやり口をやっている。ことに近ごろは
裁判が長過ぎる、
検察があまりこまか過ぎる、もっと大まかに日にちをかけないで、
手数を重ねないでやろうじゃないか。それはあなた方いかにも公平ぶって、そうしてこうやれば
非難を受けないだろうというような
裁判の仕方をやっておる、検挙の仕方をやっておる。もう少し
非難を受けようじゃないか、
非難を受けると初めて
民間に接触することができる。どうも依然たる頭で民主主義的な
アメリカ風の
裁判や
検察事務をやろうとするところにこんなに
事件が堆積して
皆さんからお叱りを受ける
原因があるのじゃないか。だから
司法部はもう少し
民間に入る、中に入って、そうして少々いろいろな
非難攻撃を受けることがあっても、
自分さえ大丈夫、
俯仰天地に恥じないという心でいけばいいじゃありませんかということを言ったのでございます。
最高裁の
諸君から思い切ったことで、ちょっと
失言があるぞという笑い話でありましたが、
小林さん、私はそんなふうにして、
皆さんの御協力を得て、
司法部というものをもっと明るい、もっとあたたか味のある、情味のある、そうして
民間の接触を多くする、これだけの仕事をやり上げれば、もう
結論というものは、
司法部というものは
ほんとうの
人材とインテリの集りでございますから、
結論はいいものが得られる、こう思っております。従って部内の
諸君とも
相談をいたしまして、どうも
司法部には
行政に
フィロソフィがないようなんですね、
予算を編成するにはどうやって編成しているかという腹案を見ますと、一貫したガイストというものがない。
行政には一貫した
精神、そこに
フィロソフィというものがなければ、大蔵省から
予算なんてもらえもしない。そうして
保護事業なんというものはまるで顧みていないのですね。
文化政策、
憲法二十五条の一項、二項の
行政というものは
厚生省がやるので、
法務省は
関係がないような様子にどうも
衆議院でも参議院でも見ているのじゃないか、これはいかぬ。
厚生省では、
一松さんが
おいでになってよく御
承知だが、何といっても身体の
障害の方が
中心になる。
司法部は
精神上の
障害というものが
中心点ですから、両々相待って
憲法二十五条の一項と二項というものを、並んで
一つ実行していかなければならぬ。こうやると、
司法部の
行政というものはとってもおもしろいものになるのです。おもしろくなれば、
民間の人が来るし、そうすれば
建物もりっぱだなあと言って喜んでくれるし、
廊下にもそよ風が漂うようになる。そうすると
人材が今までのようによろいもかぶとも着ないで、
ほんとうに背広でくつろぎのあるものを喜んで着てくれる、威厳なんて張らなくて済むという時代がくる。こんなような、
小林さん、ざっくばらんに言って、
考えを持っております。また
失言があるかもしれませんが、御寛恕下さって、そんな心持ちを助けてください。