○
衆議院議員(
中曽根康弘君) ただいま
有田衆議院科学技術特別委員長より御説明申し上げましたが、具体的に私から御説明申し上げたいと思います。
この
原子力法案は、
社会党並びに
自由民主党共同提案でございまして、この内容は両党の議員による
共同作業によってできたものでございます。一つの政党が作ったというのではございません。両党の議員による
共同作業によりできた法案でございます。
最近
原子力の各国における利用は非常に進んでおるのでございますが、各国におきまする事情と、日本の事情とを比べてみますと、次のような相違がございます。
第一は、外国におきましてはもはや
動力炉の実験に入っておりまして、発電を中心に
動力炉の実験に入っております。しかし
わが国におきましては、これから
実験原子炉を入れようという非常な後進性を示しておるのであります。
また
原子力の取扱いにいたしましても、外国におきましてはすでにこれを動力源の問題として、
産業構造の問題として取り上げておるのであります。と同時に、外国は非常な個性をもって、独自のいき方を示しておるのであります。たとえば
イギリスにおきましては
発電計画を中心にして、非常に
経済的計画性をもった十カ年計画、ないし二十カ年計画を推進しておる。ノールウェーでは商船の建造について研究しておる。あるいは
アメリカにおきましては、あらゆるタイプの産業に対する応用をけんらんとして発展せしめておる等々、非常な個性をもって、国情に即応したやり方をやっております。さらにどの田におきましても
原子力の推進ということは、超党派的な措置をもって遂行いたしておりまして、
原子力というものは政争の圏外に置いて、計画的に持続的にその建設に努力を傾けておるのであります。と同時に、非常に二十年とか、三十年とかという長期性をもってこれを行わんとしておるのであります。
さらに顕著なことは、最近は核分裂反能のみならず、核融合反能の研究が非常に進められておりまして、原子核を作る融合反能の前途というものは、おそるべき発展を約束しているやに見受けられるのであります。こういうような状態に対しまして、
わが国の
原子力政策は非常におくれておりまして、そこで
わが国といたしましては総合的な
基本法を作りまして、国策の大綱をきめ、すみやかにこれを推進せしめる必要があるのであります。
そこで
わが国の
原子力政策の基本としてあぐべきものとして、われわれが
原子力基本法を作ります際に考えましたことは、まず第一は、
わが国における
長期的国策の確立であります。
原子力に対する国策が厳然として確立しておりませんと、学者の中でもこれに指向してくる者が少い。あるいは勤労者にしましても、財界にいたしましても、このことに対する考えが不安定であります。そこで国家が公正な立場に立って、厳然としてこの国策を確立する、
予算的措置もとる、そのような態度を示すことが、今日
浮動状態を続けている
原子力政策について、一番中心になることであります。
第二番目は、この
原子力政策というものは、超党派的な措置をもちまして、政争の圏外において全国民の協力を得る形をとることが必要なのであります。国民の一部に冷眼視してこれを見る層がいささかもないように、われわれは政治をあずかる者としては心がけなければならないということであります。
第三点は、長期的な計画性をもちまして、しかも日本独自の個性を重んじた、自主的な研究を促進するということでございます。最近
ウラニウム協定等で、
アメリカとの関係が出てきておりますけれども、これは将来自主性のある、日本独自の
国産原子炉等を作るための
予備的調査段階として認められるものでありまして、われわれの研究の主体性、われわれの研究の主目的というものは、あくまで日本の国情に沿った自主的な研究と開発を促進するということであります。たとえば
わが国の現状からしますれば、
濃縮ウランを作るということはきわめて困難であります。そこで長期的な
動力計画といたしましては、国産の燃料によって、
国産原子炉を作る。従って
濃縮ウランを外国から買ってやるといういき方を短時日のうちに解消して、少くとも
動力計画の中には
国産的資材をもって行う、そういうような措置が必要だと思うのであります。そのほか貧鉱の処理であるとか、重水の
研究促進であるとか、こういう点も日本独特の方途を期する必要があると思うのであります。
第四意は、有能なる
学者技術者の養成、特に若い世代の
学者技術者の養成であります。
原子力の行政の一番の中心は、実に機構でもなければ、金でもありません。一番の中心は、
湯川博士や
朝永博士や、そのほかにこれに続く三十代の有能なる若い学者、日本に存在する貴重な
学者たちが、心からこれに協力して研究するような環境を作るということであります。これが最大の政治家としての関心事でなければならないと思います。そのためには日本の
原子力行政というものは、一政党の手先として行われるような性格ではならない。あるいは財界の便宜のために行われるようなものではならない。全
国民的スケールにおいて、
国民本位の立場に立って各階層の意見を網羅して設置されるということが必要なのであります。このことはそのような学者、
技術者の要望でもありまするので、われわれは謙虚にこれを採択しなければならないと思うのであります。
第五点は、豊かな国際性を持ってこれを推進するということであります。われわれは
アメリカと提携すると同時に、
イギリスとも、
ノールウエーとも、その他の諸国とも、積極的に提携したいと思うのであります。特に
アジア共同体という構想もわれわれが持つ時代も来たると思うのであります。日本は原子核に関する研究は非常に進んでおります。また技術も豊富にございます。インドはしかし
トリウムの生産が非常に豊富であります。そこで日本の技術をインドに持っていき、インドの
トリウムを日本に持ってくる、こういうようなことを中心にして、
アジア共同体という構想も当然出てこなければならないのみならず、さらに進んでは、
国際連合に、
原子力国際機関が近く設立されますが、この
原子力国際機関に対しましては、われわれとしても大いなる活躍をしなければならないと思います。
わが国は広島、長崎の悲しい経験を有する国でありまして、こういう特殊な国柄からしても、
平和利用については世界において非常なる発言権を獲得して、そのような立場において
国際社会においても働く、人類の幸福のために貢献しなければならないと思うのであります。このことのためには、どうしても国論の統一を必要といたします。
原子力の
平和利用の推進につきてまして、国の中で世論が二つに分れているということは、外に対してまことに悲しむべき結果を生むのでございまして、特にわれわれが
国際機関の理事国として入ろうとする場合には、世論が統一され、挙国一致の態度をもって、誠実に、平和的にこれを推進しているという立場を、外国に見せる必要があるのであります。諸外国における態度が超党派的な、挙国的な態度で進んでおりまするので、日本もすみやかなるそのような体制をとる必要があると思うのであります。
最後に、こういう
基本的意義をもちまして、現在国民の中にある誤解や不安、猜疑、これらを解消するために、政府ないしは政党といたしましては、非常なる努力を傾注いたしまして、国民の協力を求むる謙虚なる立場がほしいと思うのでございます。
原子力は
わが国におきましては、一部ではまだ野獣と思われていますが、外国ではすでに家畜になっている。家畜になって、人類に奉仕しているということを国民によくお示しして、心からなる協力を得るような努力がなければならないと思うのであります。このような考え方を基本的に織り込みまして、
原子力基本法案というものをわれわれは提出いたしました。でこの提出に当りましてわれわれが考えましたことは、
総合的基本法としたことであります。
総合的基本法という意味は、
わが国原子力政策に関する全俯敢図を、全般的な
見通し図を国民に与えまして、いささかの不安もないように考慮するということであります。
第二番目に
共同提案といたしました理由は、
原子力の問題は、第二次
産業革命、第三次
産業革命さらに高次な
産業革命にも発展する問題でありまして、全国民の代表が積極的に
国運開拓の責任をとって国民の前に出るという、そういう
積極的意思の現れとして
議員提出としたのでもあります。と同時に、
原子力の問題は、放射線の予防にいたしましてもあるいは核燃料の取扱いあるいは採掘、探鉱等にいたしましても、国民の
権利義務に影響するところきわめて大であります。そのような法案は権力を握っておる政府が一方的に提出するということではなくして、国家の前途を開拓せんために、
国民代表であるものが積極的に国民の世論を開いて、その世論のもとに提出するという形が望ましいと思ったのであります。と同時に、国論の一致を完全にはかりまして、外国の誤解を解くと同時に、外国に対して日本の発言権を強力に留保しようという意味も含まれてあるのであります。
そこで、本法案の特色を各条章にわたりまして御説明申し上げたいと思います。
第一章総則、この第一条に目的が書いてあります。「この法律は、
原子力の研究、開発及び利用を推進することによって、将来における
エネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とを図り、もって
人類社会の福祉と
国民生活の
水準向上とに寄与することを目的とする。」
エネルギー源の問題としてかつまた学術の進一歩と産業の振興をはかるという広範の目的をもつて行う――
原子炉を作るということは単に動力のためのみではありません。
原子炉を中心にいたしまして、
金属材料、
化学分離、物理あるいは数単あるいは医学、生物学、植物学あるいは電気、このような総合的な
研究所を阿りに作りまして、
原子炉を中心にした科学の
総合センターというものを作る必要があるのであります。決して
原子炉だけの学問あるいは動力だけの学問にあらずして、この中性子を使ってやる総合的な科学の発展、バック・
グラウンドの深みを深める、科学の厚みを深めるという広範な目的をもってこの研究は行われなければならないということであります。そうしてその目的は人類の福祉と
国民生活の
水準向上とに寄与する。人類の福祉というものは、
平和利用ということは全世界の国民の運命に連なることであります。と同時に、
わが国民の
生活水準の向上にも寄与する世界的なかっ国民的な目的をここに記述したのであります。
第二条「
原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限り、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで
国際協力に資するものとする。」ここに平和の目的ということを厳然とまずうたいました。それと同時に、いわゆる
学術会議の三原則を率直にこれに取り入れまして、民主的な運営というものは次にありまする
原子力委員会の構成等ではかっておるのであります。自主的な運用というものは、
核燃料資源の
自主的取扱いあるいはパチント――特許権その他に関する外国からの侵入を防ぐ等々の点にこれを確保し、と同時に、成果の公開、
国際協力というものをうたったのであります。
国際協力につきましてはすでに申し上げましたが、進んで積極的に協力するという意図をここに示しておるのであります。そのことは
アジア共同体であるとかあるいは
原子力国際機関に関するわれわれの重大なる関心をここで示しておるつもりなのであります。このことはまた
アメリカ
一国と提携するのみではない、
イギリスとも
ノールウエーとも、いかなる国とも善意を持って提携するという精神を示しておるのであります。
第三条の定義は、これは学者、
技術者の御意見に従ってその通り書いたのでございます。
第二章
原子力委員会。
原子力委員会の構想につきましては別の
委員会で御審査を賜わっておるようでありますが、簡単に御説明申し上げたいと思います。
第四条「
原子力の研究、開発及び利用に関する国の施策を計画的に遂行し、
原子力行政の民主的な運営を図るため、総理府に
原子力委員会を置く。」ここに
原子力委員会の構想をうたったのであります。すなわち計画的に
長期計画を持続的に遂行する民主的な運営をはかる――民主的な運営という意味は各界の代表を入れまして、その世論を聞いて進めるという意味であります。と同時に政争の圏外において、全国民的な規模においてこれを運営していくという意味であります。これは
原子力委員会の運営のみならず、次に出て参ります
原子力研究所、
原子燃料公社等の
実施機関についても同様にそのような態度で行わせる予定であるのであります。そうして「総理府に
原子力委員会を置く。」「
原子力委員会は、
原子力の研究、開発及び利用に関する事項について企画し、審議し、及び決定する。」ここで
原子力委員会は非常に強力なる
審議機関、
決定機関になっております。しかし、
実施機関はどうなっておりますというと、別の法案におきましては、
原子力局というものを総理府に作ります。これが実施を行います。そうしてそれはいずれ来議会提案されまする科学技術庁ないし
科学技術省の
原子力局として編成がえを受ける予定になっております。その意味は、日本の
原子力行政の基本というものは各界の権威を網羅した超党派的な、政争の具に供されないような機関において、やや半
独立自治機構においてこれを推進させる。そうしてその委員の任命は国会の同意を要するとしてあります。このようにして人事に慎重を期し、公正なる
原子力委員会の編成を考えておるのであります。
そうして第六条に「
原子力委員会の組織、運営及び梅限については、別に法律で定める。」と法律に委任されておりますが、ここで重大な点が二つございます。
まず第一は予算の点でございますが、
原子力平和利用費につきましては、
原子力委員会において各省庁のものを一括してまとめまして調整を行う。そうして無駄を避ける。それから研究の促進を連絡を密にしてやらせる。こういう意味において見積り、振りかえ等をここで行われるようにしてあります。
わが国におきまする
原子力開発はまだ処女地でありますから、非常にむだも多いし、また重点的に行う必要もあります。そういう点でむだを排除するために各国で行なっておりまするように、予算的な措置もそのように調整することになっております。
第二点は、大学の自由をこれがために侵してはならないということであります。そのために大学が現在個有にやっておりまする
講座研究、これは従来
通り文部省を経由して予算は要求されまして、この範囲には入りません。従って
大学講座研究として行います
原子力研究も含めてこれは調整の範囲外であります。しかし、大学の
付属研究所の
原子力平和利用、これにつきましては調整をすることになっております。なぜかと申しますと、工学部の
研究所と農林省の
研究所で相当金のかかることをダブってやるおそれもあります。あるいは医学部の病院と厚生省の病院が同じことをやるおそれもあります。そういう場面が
付属研究所のことにつきましては割合に
応用研究が多いものですからダブるおそれがある。ダブることも必要な場合もあります。これはいろいろな方法で研究を進めるという意味下、必要な場合もあります。しかし不必要な場合もあります。そこで必要な場合は必要であることを承知しながらそれを行うことが必要で、不必要な場合はそれを避けるということが必要であります。と同時に、
原子力の開拓を
わが国におきましては集中的に行うと同時に、総合的に行うということが必要であります。先ほど申し上げましたように、非常に個性を持ったやり方で日本の国情に合うように資源的にも技術的にも行わなければならない。ことに、自在性を維持するために慎重なる考慮を払わなければなりません。かような観点から重点的に、集中的に日本の独自の世界を開くために行うと同時に、これらの学問は一朝一夕にしてできるものではないので、諸科学の総合としてできるものであります。従って諸科学のバック・
グラウンドを無視したり、その厚みを薄くするということはとてもできないのであります。そういう意味で総合化ということが必要なのであります。そういう点につきましては、
原子力委員会に
基本計画を立てまして重複のないように、また処女地でありますから、情報の交換等は各方面で緊密にやる必要がありますので、このような調整を行う。従って大学の
付属研究所につきましては
原子力平和利用に限って調整されます。ここで問題になりますのは、
原子力平和利用費の限界であります。現在
朝永先生その他が御心配になっておりますのは、具体的に田無の
サイクロトロン、京大の
原子力研究所であります。われわれの見解におきましては、原子核の研究と
原子力の研究を切り離して取り扱おう。従って田無の
サイクロトロンは調整の範囲外であります。そういうことは大学のほかの
研究部門との
バランスも考えなければなりませんので、たとえば
京都大学の
サイクロトロンは調整を受けない、しかし東大の
付属研究所の
サイクロトロンは調整を受ける、こういうことになりますというと
バランスも崩れます。そういう点からいたしましても、
原子力の研究と原子核の研究というものは分けておきたいと考えるのであります。そのほか軽易のアイソトープの利用等はもはや普遍化しておりまして、特に調整を要すべき
原子力平和利用として取り扱っていいかどうかは疑問であります。そういう意味で実行に当りましては、その限界線をどういうふうに引くかということは学者、
技術者等とも話し合いましてこれを行いたいと思うのでございます。
第三章
原子力の
開発機関、第七条「政府の監督の下に、
原子力の開発に関する研究及び実験、その他
原子力の
開発促進に必要な事項を行わしめるため
原子力研究所を、
核原料物質及び
核燃料物質の探鉱、採鉱、精錬、管理等を行わしめるため
原子燃料公社を置く。」ここに
実施機関を規定いたしました。
原子力研究所と
原子燃料公社であります。
原子力研究所や
原子燃料公社をどういう形態におくかということは非常に議論の的でありました。ある筋からは、これは
電源開発会社であるとか、あるいは
日本銀行のような
特別会社方式がいいだろうという有力な意見もあります。しかし他の向きかちは、これは
国立研究所にすべきであるという議論もありました。いろいろ研究をいたしました結果、われわれはいわゆる
公社方式、独特な
公社方式というものが適当であると思ったのであります。その理由は、この
原子力の
研究開発は相当膨大な
国家資本を必要といたします。また
国家権力を背景にして急速にやらなければ外国に追いつけるものではありません。ところが
原子力の研究は当分の間はペイしないものであります。従って
業界方面の御意見も聞きましたところ、現在瞬間
法人原子力研究所に出資している以上の金は当分出せないというお話でありまして、しからばそれよりも数百倍、数万倍に当るような膨大な資本をこれから出していく以上は、国民の税金を使うのでありますから、そういう点からしても国家の監督のもとに行う公社というやり方が適当であると考えるのであります。と同時に、
原子力研究所は一財界の手先でもなければあるいは将来
電力会社が
原子力発電所を作るための
職人養成所でもない、全国恥的な規模において公正に康子力の開発を進める機関である、そういう意図も盛る必要がありますので、公社が適当である。ただし公社というものは弾力性がなくして、研究には不適なところもあります。そこでこの公社は特別の配慮をいたしまして、先ず
超党派性を維持するために、役員の任命はこの、
原子力委員会の同意を得て政府が任命するというふうにしてあります。
原子力委員会には
国民各層の代表がおりますから、それによって相当コントロールできると思うのであります。また任免の免の方も政府、が勝手に罷免するということは許されないようにしてあります。重大な故障とか、心神の喪失、病気、過失、こういうものがない限りは罷免できないような措置もしてあります。
それから予算につきましては、この
研究所の予算は、将来できます科学技術庁あるいは
原子力委員会一括して、
平和利用費として、出資金として出します。その予算はでき得べくんば国会での明細な審議やら何かは直接は必要ではなく、
委員会や科学技術庁は詳細にこれを検討し、監督することにしております。しかし一括して
原子力平和利用費として国会に出すことにしております。もちろん参考資料としてその計画は出すべきでありますが、具体的な内容までそこで提出する必要はない、一括して出すことにする、しかし決算は国民の税金を使うのでありますから、国会が直接厳重な監督をする、かような考慮を行いたいのであります。
第二点は給与であります。これは
イギリスも同様でありますが、国家機関並みにすると、給与が低いために有能な人が集まらないという難点もあります。そこで現在公社は国鉄から専売に至るまでいろいろなニュアンスがあるのでありますが、その中の最も待遇のいいものに、財界の各会社の普通どころより落ちない程度の給与は確保できるように、われわれはいろいろな面において給与準則等を研究したいと思います。それには研究費というものを特にあてがいまして、税金がかからぬような給与措置というものもわれわれは考えておきたいと思うのであります。
それからもう一つは、これらの
研究所や燃料公社は自分で委託契約ができる、ほかの会社や技術
研究所等に委託契約が行われるようにして弾力性を持たせるということも考えております。と同時に、この運営につきましては、官庁技術、官立、私立の大学グループ、それから事業会社の技術陣、こういう三つのものからある程度代表を出しまして、運営
委員会のようなものを作って民主的に運営するように、運営の方式も考えたいと思うのであります。こういうふうにして玄関が高くない
研究所になるたけ持っていきたい、これはブルックヘブンの
研究所はそういうタイプでやっておりますが、その長所はわれわれまねしていいと思うのであります。その
研究所は総合
研究所であります。
原子力を中心にしまして金属、化学、電気、物理、数学あるいは生物学等の諸
研究所を包含いたします研究センターとして作る考えなのであります。
第二は
原子燃料公社のことであります。
原子燃料公社につきましては、まだ置くのは早いのではないか、法律に規定するのは早いのではないか、こういう御議論もありました。しかしわれわれは次の三つの理由で置く必要を認めるのでございます。
第一は探鉱、採鉱の努力であります。
わが国におきましてはウラン鉱の探鉱、採鉱は非常に怠っております。フランスにおきましても全然ないと言われたのでありますが、年間二十五億円ほどの金を使いまして数年間やりました結果、現在非常に職官に産出いたしまして、スカンジナヴィア諸国に輸出しております。
わが国におきましても、中国地方にようやく出て参りまして、国際水準のものが出て参りました。従って相当に経費をかけて膨大な探鉱作業をやればかなり有望だと思われるのであります。国産燃料を作るということは、自主性の上にきわめて必要であります。そのためにもわれわれは、相当な経費をこれにかけなければならないと思うのであります。現在地質調査所が飛行機等を使いまして概査をやっております。現在の計画によりますると、日本全国の概査は二年ぐらいかかることになっているのであります。そんなことではとてもいかぬというので、われわれは少くとも一年ぐらいで概査は終了させるように予算的な変更もやろうと思っております。そこで実際概査が終ったらボーリングをやる、あるいはジープを走らせる、こういうことは地質調査所ではできないので、独特の機関を設けて専門的にやる必要があります。石油について資源開発会社ができましたが、それと同じように、ウラニウムの探鉱、採鉱に関する実務機関がどうしても必要なのであります。それが第一で、あります。
第二は精錬の研究であります。ウラニウム二三五と二三八を分離するとか、あるいはプルトニウムの転換をはかるとか、
トリウムをウラニウム二三三にかえるとか、そういうような精錬事業というものは日本では全く未知であります。そこでこれの研究をし、日本独自の方法を作りあげ、パイロット・プラントを作りあげる、その程度まで進めなければならないのであります。その仕事は非常に費用も要します、また努力も要するわけで、独立の一部門になるのであります。
第三点は廃棄物、残滓の処理であります。この
原子力の一番の脅威は灰であるとか、放射能であるとか、つまり廃棄物等から来るのであります。そこで今後原子産業が発展し、
動力炉ができるに当りましては、そういう原子関係の廃棄物は一手にこの公社が回収しましてそうして処理をする、それは国内的にも国際的にも必要なことになります。その処理の研究が先ず必要であります。そういう三つの部門を担当せしめる大事業がありますので、今その公社の芽を作りまして徐々にその
研究部門を発展せしめていくと、こういう構想でございます。
なお現在財団
法人原子力研究所というものができておりまするが、この
原子力研究所の設立に従って、その努力に対しましてはわれわれも十分敬意を表しまして、この公社と
研究所との受け継ぎの場合には、なるたけそれらの努力は継承して尊重していきたい、そういうように考えております。
原子力研究所なり
原子燃料公社に関する規定は別に法律を作りまして、次の国会に提出する予定でございます。
第四章
原子力に関する鉱物の
開発取得、この点は鉱業法の特例を認めまして、第八条は「
核原料物質に関する鉱業権又は秘鉱権に関しては、別に法律をもって、鉱業法の特例を定める」、これは鉱業法に書いてあることでありまして、注意的規定であります。第八条は御承知のように、鉱業法に書いてあることの特例でありまして、つまりウラニウム、
トリウム系統については公社において収用することができるということ等を規定しておいたのであります。
第九条、買取命令及び譲渡命令「政府は、別に法律で定めるところにより、その指定する者に対し、
核原料物質を買い取るべきことを命じ、又は
核原料物質の生産者又は所有者若しくは管理者に対し、政府の指定する者に
核原料物質を譲渡すべきことを命ずることができる。」これは主として
原子燃料公社によってこれを行わしめる、こういう意味であります。
核原料物質ウラン、
トリウムというものは非常に貨重品でありまして、転々流通するということもあり得るのであります。現に中国地方におきましては、もはや投機の対象になっておりまして、採掘をする意思のないものが権利だけ設定しようとする、こういう動きがあるのであります。これが転々流通してちょうど株式証券のように投機の対象になってその土地が動くということがあり得るのであります。外国ではすでにあったことであります。そこでそういうような場合には、政府が眠って起さないものには代出鉱を命ずるとかあるいは獲得した鉱物は燃料公社に渡せと命ずることができる、それによって開発を促進しようとする意味であります。
第十条「
核原料物質の輸入、輸出、譲渡、譲受及び精錬は、別に法律で定めるところにより、政府の指定する者に限ってこれを行わしめるものとする。」
トリウムやウランの輸出入というものはよほど管理しなければなりません。一般に民間商社が勝手に入れて、勝手に処理をするということは、兵器産業に使い得るような場合もありまするから、一般の保安上よほど注意しなければならない点があるのであります。たとえば
わが国に現在某国から鉱石が入ってきて
トリウムを作っております。ところが
わが国におきましては、
原子炉のまだ需要がないから、フランスと
イギリスが日本にきて高価で買おうとしております。これを制限する法律は今ありません。十数トンあるこれらのものが外国に出るということは非常に大きな問題であります。しかし放任されようとしておるのであります。そういう点からいたしましても輸出や輸入は国家が管理する。また譲受、精錬、これも法律で規制して
核原料物質の採鉱や探鉱は民間にもやらせるつもりであります。民間にもやらせます。しかし精錬は公社が一事に引き受けてやるという意図であります。なぜかといいますと、探鉱や採鉱は民間に刺激を与えまして促進する。ただしできたものは一手にこれを買い受ける、専売方式で全部買い入れて、精錬所に持っていく、こういうやり方でありますが、精錬所はウラニウムのアイソトープの分離に危険性があるのであります。六弗化水素でありますが、ああいうものを使って行うために猛毒性もありますし、周囲に対する保安の問題もあります。そういう点から民間の仕事としてやるには非常に不適当である。
イギリスにおいても、フランスにおいても、
アメリカにおいても国家がやっておるわけであります。従って保安上から見ましても、いろいろほかの目的のために使われないという措置の上からも燃料公社が一手に引き受けてやるというふうに規定いたしたいと思います。しかしこれらはいずれも法律事項であります。
第十一条奨励金「政府は、
核原料物質の開発に寄与する者に対し、予算の範囲内において奨励金又は賞金を交付することができる。」これは開発を促進せんがための考えであります。たとえば現在鈍なら鉛の鉱業権が設定されておる。そのところに鉄砲打ちとかあるいは学生やその他がウラニウムを見つけにいってウラニウム鉱石があったといたします。それは鉱業権を持っている者に帰属して、発見者は何ら恩恵を受けないようになっている。そこでそういう場合に、発見者に対して国家がある程度賞金を与える、こういうふうにいたしますと、ウラニウムの開発が国民的規模において促進されるということがあり得るのであります。そういう点もここで考慮しておるのであります。
第五章
核燃料物質の管理、
核燃料物質の管理は、燃料物質はウラニウムや
トリウムのような直接もう燃料になるもので、非常に危険性があります。そこで輸出入、所持、譲受等をここで管理しよう、これも法律で規制しようという意味であります。
第十三条、
核燃料物質の譲渡命令、これも同じでありまして、ちょうどこれは塩について専売公社が処理していることとよく似ております。すなわち塩は民間の業者に輸入さしておりますが、これを納めるところは、専売公社一手で専売をやっている状態であります。これと同じように、「
核燃料物質を所有し、又は所持する者に対し、譲渡先及び価格を指示してこれを譲渡すべきことを命ずることができる。」このように規定したのであります。
第六章
原子炉の管理、これは
原子炉につきましては、周囲との保安上よほど注意して設置したり、あるいは運転を行わなければなりません。そのために別に法律を作ってこれを規制しようというのであります。これはある程度実績を見ましてから、日本に適する
原子炉というものを作るべきものだと思いまして、実績をもっと見る必要があると思っております。
第七章
特許発明等に対する措置、これは非常に重要なところであります。第十七条「政府は、
原子力に関する特許出願に係る発明又は特許発明につき、公益上必要があると認めるときは、特許法第十五条及び第四十条の規定により措置するものとする。」これは公益上必要あるときは収用するという意味で、これは注意規定であります。これはほかのものと同じであります。
第十八条譲渡制限「
原子力に関する特許発明、技術等の国外流出に係る契約の締結は、別に法律で定めるところにより政府の行う規制に従わなければならない。」
原子力に関する日本の国内はまだ処女地である。従って米英等において公知の事実が日本においては公知でありません。従って外国が日本に特許の網の目を張りめぐらそうと思えば、いかようなることも現在できる可能性があります。そのようなことをある程度コントロールされる必要がある。と同時に、日本の国内で
国家資本をもって開発したり、研究したり、民間が研究したことが外国人に高価で買われて外へ出ていくというおそれもある。そういうところはある程度国家的規制を行う必要がある。ただし工業所有権同盟条約に違反しないような程度で、国家的規制でもって特許を守るものであります。これは特許ということが科学発明の終着駅だと思います。これが不適正に行われるというと、発明発見を非常に阻害いたします。そういう点で十八条は非常に重要な規定になっております。
十九条奨励金、これもここに書いてある通りに、「特許出願に係る発明又は特許発明に関し、予算の範囲内において奨励金又は賞金を交付することができる。」となっております。
第八章 放射線による障害の防止、これは
原子炉の設置並びにアイソトープの移動につきましては、相当危険もあります。そとで別に法律をもってこれに対する保安措置を講ずるというのでありまして、これは炉からレントゲンから、さらにアイソトープに至るまで総合的に規制しようというのであります。との内容は昭和二十七年東大の中泉教授を中心にするスタッフによりまして研究した原案がありまして、これが大体まとまりまして、これをわれわれが引き受けまして、
原子炉の点も考慮いたしまして、ある程度手を加えて次の議会に提出する予定であります。
第九章 補償、これは権利を国家が補償しようとするものであります。これは普通の法律にある通りであります。
以上で大体逐条の御説明を終りましたが、本法案は国民の生活にも関係きわめて大であり、われわれは衆議院におきましても慎重審議をいたしましたが、どうぞ御審議を願いまして、できるだけすみやかに成立さして下さいますようにお願いいたします。