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1955-12-13 第23回国会 参議院 外務委員会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十年十二月十三日(火曜日)    午前十時五十九分開会     ―――――――――――――    委員の異動 十二月六日委員山口重彦辞任につ き、その補欠として加藤シヅエ君を議 長において指名した。 十二月十二日委員堀眞琴辞任につ き、その補欠として須藤五郎君を議長 において指名した。     ―――――――――――――  出席者は左の通り。    委員長     山川 良一君    理事            小滝  彬君            羽生 三七君    委員            大谷 瑩潤君            岡田 宗司君            加藤シヅエ君            曾祢  益君            石黒 忠篤君            梶原 茂嘉君            佐藤 尚武君            須藤 五郎君   国務大臣    外 務 大 臣 重光  葵君   政府委員    外務政務次官  森下 國雄君    外務事務官    (公使)    木村四郎七君    外務省アジア局    長       中川  融君    外務省欧米局長 千葉  皓君    外務省経済局長 湯川 盛夫君    外務省条約局長 下田 武三君    文部省社会教育    局長      内藤誉三郎君   事務局側    常任委員会専門    員       渡辺 信雄君     ―――――――――――――   本日の会議に付した案件 ○国際情勢等に関する調査の件(日、  ソ交渉に関する件) ○万国著作権条約批准について承認  を求めるの件(内閣提出衆議院送  付) ○万国著作権条約条件附批准、受  諾又は加入に関する同条約の第三附  属議定書批准について承認を求め  るの件(内閣提出衆議院送付) ○無国籍考及び亡命者著作物に対す  る万国著作権条約適用に関する同  条約の第一附属議定書批准につい  て承認を求めるの件(内閣提出、衆  議院送付) ○ある種の国際機関著作物に対する  万国著作権条約適用に関する同条  約の第二附属議定書批准について  承認を求めるの件(内閣提出、衆議  院送付) ○原子力の非軍事的利用に関する協力  のための日本国政府アメリカ合衆  国政府との間の協定の締結について  承認を求めるの件(内閣送付、予備  審査)     ―――――――――――――
  2. 山川良一

    委員長山川良一君) ただいまから外務委員会を開会いたします。  まず最初に国際情勢等に関する調査を議題といたします。外務大臣に御質疑のおありの方は順次御発言願います。
  3. 曾禰益

    曾祢益君 お許しを得まして、外務大臣日ソ交渉その他の重要な問題について若干質問させていただきたいと思います。  第一に日ソ国交調整の問題でございますが、このたび自由民主党ができまして政策大綱といいますか、緊急政策といいますか、これらが発表されまして、その中には日ソ国交調整の問題も大きく取り上げられておるわけでございます。われわれこれを読んだ感じから申しますると、第二次鳩山内閣がとってこられました日ソ国交調整に関する方針が相当大きく修正されておるような感じがするのでございます。果してとの政策一貫性というものがとのたびの政局の転換にかかわらずあるのかどうか。また変ったとするならばどういう点が変っておるのか。この点をやはりもっと明瞭にしていただきたいと思うのであります。すでに両院における各本会議質問予算委員会質問等において触れられておる問題ではありますが、私個人としてはまだ納得がいきかねておるのでございます。たとえば私は主として十一月十六日の朝日新聞自由民主党政策を聞く座談会の記事を根拠にするのでございまするが、特に水田政調会長、これは自由民主党の何といっても政策をつかさどっている最も責任ある人だと思うわけでありますが、この水田君の朝日新聞座談会における発言等から見て、政策が変っているということはもう議論余地がないのではないかと思うのであります。たとえてみれば、水田君が保守新党を作ることの意義外交交渉を結集した大きな勢力の上に立って推進するという意義もある。今度の新党の上に立ってくる新政府は当然元の内閣政策にこだわる必要はなく、新党のきめる方向に沿って外交交渉も再開すればいい。新しい方針によって交渉をまとめていけばいい。少し方針変りましたというぐらいのことを相手に言っても差しつかえない。こういうふうにはっきりと政策変更ということを言っておると思うのでありまするが、どうも議会における政府当局の御説明は必ずしもそういうことを正直に認定しておられないように思う。この政策そのものについては、同じく水田君の音葉を引用するならば、今度の新党政策をきめるに当っては重光外相にも相談した。外相はとれをいれているのだから問題はない。こういうふうに言われるので、もしそうならば外相政策変更を認め、新政策承認しておられるものと了解するほかはないと思うのですが、これは非常に抽象論で恐縮でありまするが、まず基本的な問題として一般的な変更があるのかないのか。この点についてはっきりしたお返事をいただきたいと思います。
  4. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 結論からお答えします。私は方針変更がないと思って進んでおります。そこで日ソ交渉を中心として従来とっております方針、御承知のような方針に従って進んでいきたいと思っております。新党が結成されましたときに個人々々の意見はいろいろあったでございましょう。しかしながら新党政策として現われる最終決定の点については私は従来の方針に沿うたものであるとこう考えて、むろん私は党員として賛成をしたのであります。その賛成したのは全然新しい出発をやるのではなく、政府はもちろん政府方針をもって進んでいきますが、その方針が党の方針主張するところと食い違いはない、党の最終決定政府方針趣旨に沿ったものであると、こう認定をいたしましてそれに賛成したわけでございます。それでそういう方針をもっていきますから、私は結論的に申し上げますれば変りない方針で進みたいと、こう思っております。
  5. 曾禰益

    曾祢益君 これは少し哲学的な議論になるようですが、結局そうなると既定方針とは何かということになってしまうと思うのです。新方針現実解釈問題についてはあとでまた御質問したいのですが、そとで既定方針とは何かということになるのですが、これは外務大臣は五月の国会松本全権を送るに当っても、またその他いろいろの機会にその方針が述べられております。抽象的にはみなわかっておることだと思うのですが、特に日ソ交渉についてはどうも率直にいって鳩山総理考え方は積極的であり、重光外務大臣のお考えは消極的といっても語弊があれば、何といいますか、積み上げ方式といいますか、警戒的といいますか、慎重といいますか、そとに従来の鳩山内閣のいわゆる既定方針そのもの解釈についても相当なニュアンスがあったことは現実だと思うのです。従って私の言わんとするところは、少くとも個人々々の意見ということはこれはもういろいろ各政党内においてもあるごとだし、政府の首班は鳩山さんです、鳩山さんの考えておるようね積極的な国交調整、すなわちやはり大局国交調整平和条約の形においてしかもなるべくすみやかにやるべきである。日本主張主張であるけれども、どちらかといえば国交調整を早くやるということに、かつまたそれをなし得る限りにおいて平和条約の形において早くやるということに主点をおいておられ、領土、引揚等のいろいろの問題がありまするが、ウエートのおき方は国交調整日本大局的に主にするという意味のようにわれわれは解釈しておるのです。またそれが正しい、現実鳩山さんに、そういうような基本方針保守合同の犠牲にしないでしょうなということを、参議院のこの外務委員会で伺った同僚羽生委員質問に対して、鳩山さんは涙ぼうだとして自分の心境は変りないということを言われた。これは現に外務大臣も黙認されておることです。やや抽象的のようでありますが、そういう関係からいうならば、しかして他面から言うならば、当時の自由党のお考えというものがやはり鳩山さんのような行き方に対して非常に警戒的であって、いろいろな領土問題、引揚問題等条件を厳重にして、何も打ち切りをねらっておるということは、これは当らないかもしれませんが、非常に厳重な条件をつけて、鳩山さんの行き方にブレーキをかける、こういう方向であったことは明々白々たる事実です。その結果保守合同ができてその際生れた今度の政策を読んでみるならば、一々私が申し上げるまでもなく、国民大衆は十分に御承知でございます。たとえば抑留者即時返還、この即時返還という意味については、言うまでもなく、平和条約の前という意味であるということは議論余地がないと思います。文字の解釈としては……。なお再び三たび水田君のこれを引用いたしますが、抑留者が釈放されないのに平和条約を結ぶというばかな話は……抑留者平和条約の前に釈放するということが絶対の条件であるということをはっきり言っているわけでず。  さらに日本固有領土というものの解釈いかん。これは外務大臣議会における御演説についても日本の抽象的な固有領土ということで南千島を含めていられたように思うのですが、固有領土なる南千島を含むということに今度はき預ったと思います、政策協定において。その無条件返還はさらに平和条約解決しそうもない。他の領土問題は国際会議によって決する。この領土問題だけについてもこれまた今度の協定によれば、たとえば水田君は南千島要求してその要求が通るまでねばればいいのだ、要求が通らない間は平和条約を結ばなければよい。このことは何を意味するかというならば、言うまでもなく領土簡題一つとらえても、南千島一つとらえても、いわんや他の返らざる領土国際会議によってきめるということ、この一つをとらえてもいずれもとれらの条件を絶対の条件とするというのが今度の政策協定趣旨であると水田君は言っているのです。もしそういう意味であるならば・何が従来の既定方針であったのかの解釈の問題になるということを私は繰り返し申し上げます。これはもうまさしく国交調整をやるということは事実上打ち切りになる、こういうことを意味する政策協定だと思います。  従ってもう一ぺん伺いますが、私が解釈しておったような鳩山総理ほんとう気持といいますか、もとより外務大臣が正式に言われたことに何ら反することではないと思いますが、そういうような既定方針というものは、これほど厳重に日本側条件を絶対条件として縛り上げていくというようねものではなかったのです。もう何人といえども抑留者即時返還が望ましい。領土については南千島のみならず、北千島も、南樺太もこれは要求を貫徹したい。ただし領土の問題についてはソ連にだけ要求することはまたわれわれは不当だと思いますし、従ってアメリカ関係領土主張を貫徹しなければなりません。しかしそういう主張をするということについては何人も異論がない。ただそれを主張するというのが従来の既定方針であります。との主張を貫徹しなければ平和条約を結ばないのだということが今度の新協定であることが今や水田君の発言によって明瞭であるとするならば、そとに政策の大きな転換というか、大きなワクをかけてしまったということは事実ではないかと思います。その点はやはり率直にお述べになる方がいいのではないか。鳩山総理の今国会の種々の答弁を伺っても非常に苦しい答弁をしておられる。要求はなるべく主張しながら、しかもいわゆる私らの考えておる、国民がそう考えておるであろう既定方針、すなわち国交調整大局の筋は通す、なるべく早くやる。その両建は許さないような協定を作っておきながら、変らない、変らない、そう言っているところに国民が納得しないものがある。われわれは決して政府が正しい主張をされる限りにおいてそのことに反対をしようとは思っていない。外交交渉であるし、これからやってみなければわからないというようなこともあるし。しかしこれが日ソ間の交渉をこれから始めるときの問題であるならわかります。しかし六月以来数回となくロンドン交渉をやっている。その交渉の過程を通じてソ連主張はいい悪いは別として事実どの程度まで折れるかわからない。また世界情勢の現段階においてソ連日本に対して領土問題、引き揚げ問題等について非常に大きな譲歩をするということは常識上考えられない。これだけのテストをした上に、これだけ厳重な条件をつけたということは、これは事実においては従来の鳩山さんの方針に重大なる制約を加え、ないしは実質的にはこれを修正変更したものである。こういうふうに認めるのが正しいのじゃないか。これは率直にお述べ願いたいのであります。
  6. 重光葵

    国務大臣重光葵君) いろいろほんとうに真摯な御意見をまぜて御批判を伺いました。私はそれを非常に感謝いたします。そこで質問の要点は、前の質問と同じととになるのであります。従いまして私の結論もお答えも同じことになるのであります。  第一は水田君が言ったことについて、こういうのも党の絶対の方針であるという前提のもとにお話があったようでありますが、これはまあ政調会長としての意見を持っている人の発言は重要視しなければならぬことは当然でございます。しかしながら私としては党の決定が私の目安でございます。それが政府方針と矛盾をしないのみならず、政府方針の中に含まれることができる。だから政府政府としての方針によって進むわけであります。その一々の運用をどうするかということは、これは政府の権限内にあるととだと思います。そうでありますから、私は水田君の言ったことが党の方針でねいということを申し上げるわけではございません。これはおわかりだろうと思いますが、しかしそれらの片言句々それによってすべて動くのである、こう結論されるととは、幾分ゆとりのない話のように私は考えます。それが前提としての……。従って私の方針は、従来の政府方針に新しい党の方針が合致するわけであるから、その意味において政府は従来の方針を進めていく、こういう考え方変りないことをさらに申し上げるのであります。  さて、鳩山総理気持ということをいろいろ解釈されました。これはまあ、気持表示等人々言葉が違うのでありますから、一々その点について私は印象がどうであるとか、こうであるとかいうことについては論及をいたしません。しかしながらとれは政府の、鳩山総理の意向をもって日ソ交渉をやってきたその執行は私がやっておる。そこでどういう交渉執行をやっておるかということから申して、鳩山総理考え方というものは総理の言われる通りに、なるべく早く交渉を妥結して、そうしてわが主張を通して平和条約を締結したい、その通りであります。しかしお話のように要求を貫徹するというところに重きをおくか、または目的を達する、こういうととろに重きをおくかという点については、これは私は表示の仕方は人々によって違って差しつかえないものだと思います。すべて私が政府方針として執行しておるところは、これは明らかであります。日本主張するところを貫徹して、これによって平和条約を結びたい、こういう方針であくまで進んでおるのであります。それじゃその要求を貫徹し得ないときはどうするか。私はこの議論はまだ早いと思います。貫徹し得ないときにはどうするか。たとえば今の抑留者の問題でも、あれだけ熱心に、日本日ソ国交調整交渉とは離れてやるのだということで、実に松本全権は熱心にこれを主張しておる。しかし結局目的を今日まで達することができない。日ソ交渉の始まる前に前提としてやることができないで、並行して今やっておるような実情であります。しかしそれならばこの交渉を打切って差しつかえないかというと、私はそういうものじゃないと思う。やはりやらなければならんと思う。そうしてあくまでもこれは人道の問題として、人質に取ってどうするというようなそういう観念は私は認めるわけにはいかんと思う。これはあくまでも人道上の見地として主張して、そうしてソ連もその主張をいれるべきだと私は思う。しかし実際はソ連はそういう主張をいれてくれないのでありますから、今日まで並行的に議論をしておる、これも続けていかなければならんと思う。だから今後私は日本の言う主張が全部貫徹するということを今断言するわけじゃありません。また貫徹しなければ目的を達せほいということを今断言することは私はよろしくありません。しかし主張はあくまで主張して、貫徹すべく最善を尽して今後やっていくということは、はっきりと申し上げなければ広らんと思います。そののちのことを今考える余裕が私はございません。あくまでもその方針で進んで行く。そこでどっちに重きをおいてこれをなすかということによって印象が違うということは当然だろうと思う。私は交渉の任に当っておるのでありますから、あくまでも交渉に対して成功をさすべく全力を尽すという方向重きをおいてお話すべきが当然であろうと、こう考えております。
  7. 曾禰益

    曾祢益君 これはおっしゃる通り外務大臣としては日ソ国交調整をやるという大局的な目的を貫徹するのである。また同時に抑留者の問題、あるいは領土問題等についてもその他の点についても、正しい主張を貫徹するという努力をされる段階である。この点は当然であってわれわれもその態度を決して非難しておるのではございません。ただ不幸にして、しかも今までの政策運用に当っては、やはり与党の政策であっても、政府がある程度のゆとりといいますか、これでもってやっていくのだ、これも私は政党内閣の運営上正しいと思います。不幸にして水田君のようなこういう断言をしてしまえば、あなたがせっかくおやりになろうというような交渉でも、非常にワクをきめてしまっておるゆき方です、このゆき方は。これでは交渉ゆとりがない。全面的にソ連主張を完全に撤回させなければ、これは交渉はいつまでも長引いてしまう。事実上打切るぞと言わんばかりの主張です。政党内閣である以上は、政府がそのまま黙認しておいてそうして交渉をするということは、最善を尽すということが現実には非常に困難であるということをわれわれは指摘せざるを得ない。で、この点についての抽象論をやってもしょうがありませんから、私はあとでしからば今後どういうふうに運覚していかれるかということについて、さらに御質問をしたいのでありますが、その前にちょっと交渉経緯について伺いたい点があります。  それは私たちも松本全権から相当大局的な点については正確なロンドン交渉の模様を、これは党の幹部の一人として伺ったわけでありますが、もとよりこのことは公開の席上でお話申し上げるべき性質のものではありませんから、詳細申し上げません。しかし少くともこの八月末になって南千島要求を出された、明確に出されたと言いますか、それまでは抽象的に日本のあらゆる領土に関する主張をしておられたのですが、ソ連が歯舞、色丹については何らかの条件付返還考え余地を示してきたことに対応するような意味合いもあったのでしょうが、八月の末になって南千島まではがんばれという趣旨の訓令があったやに、これは私のインプレッションとしてでもけっとうでありますが、なったと思うのです。でこれについていろいろ法律的な問題があるわけでして、詳細は申し上げませんが、むとより日本としては南千島は特にいまだかつて外国の領土になったことはない点においては、北千島と違いますし、さらには南樺太と大きく違うという歴史的の因縁がある土地でありますから、これが返還要求そのものには何らのわれわれは異存はない。しかしこれだけをひっぱり出して要求するに当っては、やはり、ことサンフランシスコ条約の建前からいくと、なかなかその筋道が通らないという難点があるわけでございましょうが、まあそんな関係からかと思いまするが、この問題についてアメリカに問い合せをされたとか。これはまあ衆議院会議における鈴木わが党委員長質問にもあったわけでありますから詳しいととは申し上げませんが、要するにアメリカにいろいろな、南千島の帰属問題についてのサンフランシスコ会議経緯とか、あるいはヤルタ秘密協定の際の経緯等をただされたようであります。こういうことをされたごとが果して領土全体の交渉にプラスであるかどうかということについて、相当疑問を持つわけであります。ことに領土問題全体についてアメリカといろいろ交渉されるに当っては、南千島の問題についてのいろいろなアメリカの反応をためすということもあったでしょうけれども、それよりもっと基本的なものは、ワシントンにおける重光外務大臣の会談の際にも私は議論になったと思うのでありまするが、先ほども私申し上げたように、ソ連に対してのみ領土主張を強く言うというととは、どうしても筋が通らない。であるからソ連に対する領土主張を通そうと思えば思うほど、同時並行的にアメリカとの領土問題の解決について、なみなみならぬ努力を当然払っておられると思う。今日まで不幸にして小笠原沖縄等に対する交渉の結果というものが国民には知らされておりません。どうも必ずしもいい結果がないのではないかと思うのです。少くともそういうものについてなみなみならぬ努力を払われたことと思うのです。で日ソ交渉に関連してアメリカとの交渉があるとするならば、そのポイントはソ連関係領土についてもアメリカからの何らかの援助的態度、あるいは好意的態度を期待するよりも、むしろアメリカ関係領土関係解決一つ強く要求する。こういう方が私は筋が立っていくように思うし、有効ではないかと思うのです。従いましてこの南千島についての要求を出されるに至りましたときの判断、またどうしてそういうものを出されたか。さらにはそれに関連いたしまして、大きくアメリカ関係領土についての交渉経緯等についてお伺いしたいと思います。
  8. 重光葵

    国務大臣重光葵君) お答えいたします。領土問題に対しては、ソ連に対する関係米国に対する関係というのは、私は根本的に差があると考えるのであります。ソ連とはこれから戦争状態を終結して平和を回復したい。それについて領土問題も主要な解決要求する問題として交渉に取り上げておるわけであります。米国との関係は、サンフランシスコ条約によって完全に平和が回復したのでございます。領土問題も解決しておるのでございます。その後の対米の領土関係交渉は、その解決したことに対する変更等について、また事態を変更したい、こういうような希望に基いて日本領土についてアメリカとの間に交渉を続けてきたのであります。小笠原、琉球の問題はそれでございます。これはサンフランシスコ条約によってもう平和が確立した後のことについて、日本米国側に要請してきておることはこれまた御存じの通りであります。でありますから、沖縄については潜在主権日本にあるというようなこともはっきりとなってきたのであります。ただこれを米国軍事基地として使うということは、日本はこれを承諾しておるのであります。その見地によってアメリカがこれに施設をしておる。しかしその場合においても住民等の生活の問題等も十分考慮してもらいたい。こういうことで米国に対し常に日本側希望表示して、アメリカ側注意を喚起しておる。その効果は、それに対してはアメリカ側十分注意をしていろいろ行動しておる。こういう状態にあることはこれまた御承知のことだと思います。私もその点は質問に応じてお答えしておると思います。  さて対ソ問題については、これから平和を回復しょう、こういうのでありますから、領土問題もおのずから出てくるわけであります。しかしサンフランシスコ条約においても千島群島のことが規定されておる、南樺太はむろん。そういうふうなわけでありますから、これに対して米国千島ということについてどう考えておるかということを聞きただすのは、これは交渉の準備として当然のことだと、こう考えます。交渉に介入してくれということじゃない。一体サンフランシスコ条約千島の規定がある、それをどうアメリカ解釈しておるかということは、これは当然聞きただすべき順序だとこう思います。さようなわけでその準備をいたしたのであります。南千島はこれいまだかつて外国の支配に属したことはない。常に北海道に最も近い付属の島として取扱われてきたという歴史上の理由によって、ソ連に対しても日本領土としてこれを要求する、こういうことについて御賛成を得たことでむあります。その方針によって進んでいきたいと思っております。日本主張は私は正しいと、こう考えておるのでございます。
  9. 羽生三七

    羽生三七君 今の曽祢さんの質問に関連して一つお尋ねしますが、確かに領土問題についてアメリカソ連とについてそれぞれ違いがあると思います。片方は条約ができておる、片方はこれからだ、それはその通りです。ソ連にはこれを契機にして今領土問題を出せますが、アメリカとの場合は、サンフランシスコ条約を結ぶ場合には、まだ日本は形式的にしろとにかく独立国でなかった。だから領土問題についてあの機会に吉田総理アメリカと十分の折衝をしたということを私はあまり聞いておりません。とりあえず条約を結ぶということで、領土問題で少くとも日本主張を貫徹して、その結果小笠原沖縄が向うのものになり、潜在主権だけが認められておる結果になったということを寡聞にして私は聞いておらない。今の重光外相の御答弁でいくと、もうそれはアメリカとは領土問題については関係がついたのだということになってしまうと、今度はソ連条約を結ぶ契機に領土問題を全国民的な世論の中で討議しておる。ところがアメリカについてはもうチャンスがないのじゃないか。もし外相のようなことを言われるならば、もしチャンスがないとすれば、これは一種のアメリカに対しては領土放棄論に触るのですが、潜在主権論についてのアメリカに対し、チャンスがあるとすれば外相はどういう機会にアメリカに対する日本領土権をもっと有効に御主張なさろうとするのか。永久にそういうチャンスがないのですか。ソ連とにらみ合わせてお答え願いたいと思います。
  10. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 私は平和を回復するときでなければ、領土問題の解決をする機会はないのだと決して申し上げません。そういうことを申し上げたことはございません。平和が回復した。しかし、一応そこでケリがついておるのです。一応ケリのついておることについて、それは今お話通りに、サンフランシスコ条約というのは、日本は事実上これは日本主張というものがあっても、なかなかいれられるべき事態ではなかったということも認めなければならぬ。だからそういう事態の平静になった後にいろいろ日本の要請をするということはいいことだと思う。私は何も遠慮することはないと思う。それをアメリカに対してはやっても差しつかえないと思う。現に引き続きやっておるのであります。私がアメリカに行ったときも、実際こうしてくれ、小笠原沖縄を完全に日本領土として返してもらいたいと、こういうことを言ったわけです。しかし、不幸にしてそれはアメリカの軍部の要求とはかけ離れておることで、まだ実現はできませんでした。しかしアメリカの方はその趣旨はよくわかった、潜在主権は君のところにあるということはもう繰り返しそう言っておるわけだから、また時期がきたらば、東亜の大勢も変ってきてアメリカ軍事基地など必要のないような時期がきたら、それは当然帰る所は日本にきまっておるのだからと、こういう事態で今日まできておるわけであります。そうでありますから、それは私は形勢が変ったと認めるときは、主張はいつでもし得ると思う。ソ連は今、これから平和条約をこしらえるいい機会、いい機会と申しますか、これはどうしても主張しなければならぬことだと、こう思います。
  11. 曾禰益

    曾祢益君 羽生君から非常にいい御質問があったので、まあ私に対する直接の外務大臣の御答弁では非常に、まあ潜在主権があるのだから何もしないと言わぬばかりにとれるような御答弁でございましたが、とにもかくにもこれはソ連の場合とは条約的に、法律的に場合と地位が違うのだということを言われたと認めて、従ってアメリカに対してもサンフランシスコ条約という一つの既定事実があるけれども、しかし潜在主権というものでわれわれは満足しない。ことに潜在主権のみならず条約の規定からいえば、むしろ国連の信託統治区域にして、アメリカを唯一の施政権者とするということが正面の文句であって、そとにいくまでの間の行政、立法、司法の三権をアメリカが持っておる。しかし潜在主権があるというようなことでは、これは国民として長い目で断じて満足できない。そこで外務大臣があるいはワシントン会談においても日本に完全に返してくれ、小笠原沖縄についてこういう要求をされたということ。私はそのようなはっきりしたお言葉は実は初めて伺ったわけなんですが、この主張は大いに貫徹に努力していただきたいのであって、アメリカの方は軍事的の理由を云々しておるようでありますが、そのととは軍事基地という問題だけならば、これは立法・司法・行政権を日本に返してはならないという理屈にならない、どうしても理論的には矛盾がある。従ってもちろんソ連とは他のややこしいヤルタ秘密協定による既成事実、さらにポツダム宣言を日本が受諾した事実、さらにサンフランシスコ条約においてソ連関係領土を放棄した事実、まあ歯舞・色丹は別でありますが、そういう事実もこっちもあるのでありますけれども、ソ連に対して国交調整をやるときに当っては正しい領土主張をするというならば、もちろんアメリカに対してももっと強くとの領土問題の主張をぜひやっていただきたい。その点についてはどうも今羽生君に対する御寺弁を伺ってもわれわれが意識するほどの緊迫感を持っておられない。どうもやはり何とかかんとか言うけれども、アメリカの方は軍部がそうだからしょうがない、ソ連に対しては主張すべきものを主張する。とれではやはりびっこではないか。これは私は南千島に対して主張してならないというようなととは決して即しておりません。従って南千島に対する主張について同意を得たという言葉を表現されましたが、そのことは私は否定しませんが、ただ両方にらんだ正しい主張をするということと、やはりサンフランシスコ条約というのはやむを得ずしてああいうアメリカ関係についてもソ連関係についても決定したけれども、しかしその後の事態にかんがみてやはり正しい要求はやるという意味においては、これはやはり積み上げ方式をとっておると思うのです。であるから私は、南千島について絶対の条件にしなければ、日ソ国交調整は事実上流していいという意味における南千島回復論者でないということをこの際はっきりしておきたいと思います。  これは非常に時間をとって恐縮でありまするから次に移りまして、今後の方針については、すでに先ほど来お話も出ておったのですが、しかしやはり何といっても事重大でございまするから、今後の交渉方針と見通しについてどうしても伺わなければならぬのです。私はよく言うのでありまするが、日ソ国交調整はこれからのしばらくの間、もちろん政府がこれから松本全権ロンドンにふたたび送って、さらに今度の自民党の交渉方針を体して、外務大臣の訓令によって交渉に入られると思うのですが、しかしこれは今からデータを集める交渉では断じてない。データはもう出尽しているということをわれわれが認識するならば、その交渉を頭から否定するものではないが、大局的にいって日ソ国交調整というものは大きく分けて三つの方向考えられる。第一の方向は、要するに歯舞、色丹だけで、他の領土については何ら日本側が将来の手がかりを得られないような形で、事実上放棄してしまった形で平和条約を結ぶ、この方向が第一であります。第二には、これとは逆に、私が心配しているように、これは外務大臣のそういう気持でないということが大体わかって私はうれしいのでありますが、少くとも自民党の政策協定をそのまま文字通り解釈をし、少くとも公けに政調会長がこれを敷衍説明している趣旨であるならば、これは南千島の問題でも、引き揚げの問題でも、他の領土の問題でも、どこから考えてもこれだけで日ソ交渉は行き詰まるという明瞭な条件を出しているわけです。従ってそういう意味においてロンドン交渉を再開し、日本主張の貫徹に努めると言いながら、事実はこの交渉の完全なる実質的のたな上げ、完全なる停頓あるいは打ち切りというような方向に進むことが第二の方向だと思います。私たちはいずれの方向国民の欲するところではない、こういうふうに考える。しかも日ソ国交調整日本の平和、安全のためにさらに日本はより強く両陣営に自主独立の立場を発揮する。いわゆる外交上の機動性といいますか、そういうことを発揮することが必要であるという観点から、どうしても大局的にやらなければならない。しかも平和条約でやる方式でいく限りは、今言ったような初めの第一の方針はいかぬ、第二の方針はまさしくわれわれ絶対反対であるということになると、これはいつからそういうことになるかというと、いろいろ問題はありましょうが、第三の方向というものがおのずとあるのじゃないか。それは平和条約という形にこだわらないで、しかし国交調整をやる時期がいつくるかについては、これはお互いに考えていかなければならないけれども、第三の方向というものは平和条約という形をとらないで、そうしてアデナウァー方式といいますか、俗に言えばそういうことになるのでしょうが、暫定協定を結ぶ。そうして戦争状態を終結し相互に平和国交回復を確認する。そうして大使を交換して引き続き本格的な国交調整すなわち平和条約の締結、その中に領土問題の解決を含めてさらには他の懸案の解決を続けてやっていく。こういうことを考えることは決して不当ではない。むしろ私は第一の方向を廃し第二の方向を廃する限りは必然的にその方向をとるのがいい、むしろ必然的にとらざるを得ないように考える。これはやや我田引水とお考えになるかもしれませんが、この方向でいく限りは抑留者返還も暫定協定によって即時可能である。歯舞、色丹についてはこれは事実上のソ連のエヴァキュエイション、引き揚げといいますか引き渡しといいますかこれも可能ではなかろうか。しかも返らざる領土についてはもとより日本主張は何ら放棄しておらほい。この交渉は対米関係ともにらみ合せて今後の主張余地を残すという方式がとれるのではないか。われわれはそういうような観点からむしろ第三の方式にいくのがいずれは大局的には時期的に必然ではないかと思う。今日政府がせっかく再び新政策のもとに講ぜられることについて頭から水をぶっかける気持はわれわれございませんが、ただ第一の方針及び第二の方針にいかないように、特に第二の旧自由党が主張しておったような自主的な打ち切りということは大局的に不可能であるということについて、明確なお考えを伺い、あわせて第三の方式についてのあなたのお考えをお示し願えるならば伺っておきたいと思います。
  12. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 今るる述べられたことは曽称委員の一個のお考えでなくして社会党のお考えであるように拝聴します。というのは同じお考えを他の委員会でそう伺いましたからであります。私は政府方針いかん、こういうことを聞かれたわけでありますから、政府方針は今はっきりと私が説明を今日繰り返して申しましたところをさらに繰り返すだけであります。政府はきまった方針で、また日ソ間の重要な問題について解決を要する問題は解決して、平和条約を結んでそうして国交調整をやりたい。この交渉は成功をさせたいというのが政府方針であります。そこでこれから先は今の御意見に対する批評になりますから、私は批評を避けて差しつかえないと思いますけれども、しかし御希望でもありましたから私はそれを申しますが、今暫定協定をこしらえてアデナウアー方式でやって、そうしてすべての解決を要する……解決のできた問題はこれはおそらくまとめる御意向でしょう、解決のできぬ問題もできた問題も何も将来に残せというのではなかろうと思います。そこにおいて領土問題なり何かの問題もからまるわけであります。しかしこれを簡単にするために今解決は困難なようである、解決は困難、主張が通らぬようである、これこれの情勢からかんがみて主張が困難で通らぬようであるから、それはたな上げをして、暫定協定を結んで今ドイツ方式でやれと、こういう御意見に帰着するわけであるが、私は主張が何も通らぬという見通しを今日つけることは時期尚早だと思う。それは交渉でありますから、主張が全部通るということを断言することもむろん尚早であります。全部通るときはこれはけっとうであります。しかしどこまで通るかということは、これは将来やってみなければわかりません。そこで今日から通らないことを予見して全部をたな上げにして、そうして国交回復の暫定協定をしてやると、こういう事態はおそらくソ連の最も希望するところであろうと思う。そうすればソ連は国交回復をしてやろう、あとの問題は領土も何も自分が持っておるのだから自由自在にできる。それは実際的の方法であると私は考えない。第一、ドイツにおいても今日非常に今問題が起っておる。ドイツの内部で政変すら想像されるくらいの問題が起っておるのはその問題であります。一体ああいう方式で独ソ国交を回復したアデナウァーのやり方がよかったか悪かったかという根本の今まだなにが争われておる。私はアデナウァーのやり方がドイツとして不成功であったとは決して申しません。私はドイツとしてはああいくべきではなかったかとすら思います。けれども、ドイツでそうであったから日本でそうあるべきだという議論は、これは起らない。今日は私は将来の交渉の結末を見通すような政策は立てることは時期尚早だと、こう申し上げるのであります。そういうことは私は全力をあげて日本の信ずる主張をしてみて、今交渉は全権の不在ということによってとれはいわば中絶されておるのでありますから、これはできるだけ早くこの事態を救済して、向うも帰ってもらう、とつちも帰るということにして進めていくことがいいと、こう考えておるのでございます。
  13. 曾禰益

    曾祢益君 私まだほかの問題でも実は御質問申し上げたかったのですが、一人であまり時間を取っては恐縮ですから、ほかの問題には論旨を進めませんが、今せっかく外務大臣から私あるいは私が代表した社会党の基本的な考え方についての御批判がありましたので、私の意見ももう一ぺん述べておきたいと思います。  私が解釈するわが党の政策は、今も申し上げましたように、何も政府交渉をする――今後も領土問題その他を含めて、まだ交渉は途中なんでありまするから、交渉を再開し、継続し、正しいことを主張するということそれ自身を否定しているものではないということを、これは繰り返して申し上げたつもりであります。せっかく政府交渉されるのに水をぶっかけるというような態度ではないはずであります。それははっきり申し上げたつもりであります。従って、切りかえの時期ということは非常に機微であると私も申し上げておるのであります。私たちが特に心配するのは、今の今度の自由民主党政策でいく限りにおいては、少くとも厳密に解釈していく限りにおいて、実際上のたな上げになるのは必至ではないか、この心配、危倶に立って、果してそれでいいのか、それは困るではないか、そういう場合にはこの道があるのではないかということを申し上げたのであって、だから従って、外務大臣としては今まっしぐらに、正式の平和条約交渉をやっておる時期であるから、その切りかえ方式については今のところ考えたくないと言うのであるならば、その立場上一応了承します。しかしこの交渉の特定方式についての御批判については、私は必ずしも当らないと思う。たとえば私自身がいわゆるアデナウァー方式ということをたまたま言ったのであって、これは言うまでもなくわれわれ同僚議員の方もそうでありまするが、国民大衆日本の場合とドイツの場合とは事情が違うのであるから、何が何でも暫定方式でなければいけないということを書っておるわけではございません。これは鈴木委員長もまた当時の河上委員長ももし平和条約が非常に遅滞するような場合には、こういう暫定方式の方式があるではないか、これを忘れないでくれ、少くとも交渉打ち切りみたいになることはいかぬぞということを前から言っておられたわけです。今日は、今後とも交渉するということは了承しますが、これは繰り返して言うように、ロンドンにおける交渉においてデータも大体出尽しておる。国際情勢が急変するようなことがない限りでは、これはソ連主張が那辺にあるかということもわかっておるはずなんです。でありますからその事実の上に立ちながら、しかも領土問題、引き揚げ問題等について正しい主張交渉して、その貫徹を期するということは、これはよく社会党の外交問題が少しどうも理想論過ぎるという非難を聞くんですが、ややその言葉を返したいくらいなんであって、現実の上に立って考えるならば、この主張を立て通し、しかも国交調整を早くやるということの両立てということは、もう早晩通らなくなる客観的な条件に置かれておるということは、これは賢明なる国民はわかっておる、だからそのことを考えて、やはり暫定方式というものを一がいにただああいうようにやればソ連にだけ有利になる、この考え方は私はおかしいと思う。日ソ国交調整をして、この戦争状態というもの、かりに法律的なものであっても、何となくやはり日本に対して重苦しい感じを与えておるもの、また政治的にも軍事的にも日本アメリカに過度に依存していかなければならないような一つの根源、こういうものを直していく自主的外交のためにこれはソ連だけに都合がいいという考えでなくて、ものを考えていくやはりそこに柔軟性が驚ければならない。われわれはそういう意味において今直ちに暫定方式に切りかえろということ私は言っておりませんが、暫定方式を頭から今否定されたこのご意見には承服しかねるということを申し上げ、この点については私は実質的には外交の主導権は政府にあるんですから政府のいわゆるおやりになることを見守っていきたいと思いますが、繰り返して申し上げるように、暫定方式というようなことを排除して、そうしていく限りにおいて、結局は自由党がまさしく狙っておったようなたな上げの方にいく可能性が非常に多い。そのときには、要求は通らなかったからどうするかという、そういう場合にはたな上げになるのじゃないかということについての政府態度について、われわれとしても監視を怠るものでないということを申し上げまして、私の質問を終りたいと思います。
  14. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 今の曽祢委員の御議論は私は実際問題として、非常に何と申しますか、まじめと申しちや語弊があるかしれませんが、非常にこれはりつぱな御議論の展開であったと私は思います。しかしその御議論に対して私は賛成していないということは従来の通りにこれははっきり申し上げておかざるを得ないのであります。それだけは申し上げておきます。それとまたその御議論をいろいろ受けて言えばこれはあるいは並行線になって切りがないかもしれません。これはこのくらいにしてお許しを願いたいと思います。ただ、今私は何というか、打ち切りにするとか、暫定協定をやるとかいうようなことは、私は交渉を今やっておるのですから、私自身としてはそれをあんまり議論をしていただくことは実は好まない。今有力な日本の反対党の社会党が暫定協定を認めてすぐ片づければいいのだということを言われる。それが交渉上に国内だけの議論、国内だけに議論がとどまるということなら私は異存がない。しかしながらこれがすぐ交渉に大きく響くということは当然なことであります。だから私の希望を強いて申し上げれば、このくらいの程度にして、そうして社会党も交渉をあくまで主張するだけ主張して一つやってみろ、こう言われるのだから、私としてはそこまでに一つとどめていただかなければならぬのだと、そう考えておるのであります。それだけはお含みおき願いたいと思います。
  15. 山川良一

    委員長山川良一君) 速記をとめて。   〔速記中止〕
  16. 山川良一

    委員長山川良一君) 逮記を始めて。
  17. 須藤五郎

    須藤五郎君 私も曽祢君と同じ問題に関して違った立場から少し質問したいと思います。われわれは日ソ交渉が成立するのも不成功に終るのも、今日ではただ政府の決意一つにかかっておると思っておるわけです。  そこで私は松本全権ロンドンに帰任し、日ソ交渉が再び開かれようとするときに当りまして、外務大臣に特に次の一点をお開きしたい。  外務大臣も御存じのように、私たち訪ソ議員団がブルガーニン、フルシチョフ第一書記と会いまして、日ソ問題についていろいろ話し合いをした中で、フルシチョフが卒直にこういう意味のことを語っております。社会党の田中一君の質問に対しまして、フルシチョフは、戦争状態をやめ、外交関係を結び、大使を交換する以外の問題は、ほんとう日本側に私たちは何も提起していませんということを、はっきり言っております。そうして言葉を継いで、そのことで、日本側の関心を持っている問題を何でも相互利益の立場から検討しようではありませんか、こういうふうにフルシチョフは言っているわけです。ソビエトの提案しているのは、戦争状態をやめること、外交関係を結ぶこと、大使を交換しましょう、そのあとでいろいろな問題を話し合おうではありませんか、こういうことを言っております。  それからなお北村徳太郎団長の質問に対しまして、もし交渉を行なっている一方が何らかの問題を条約締結前に解決する必要があると思うと主張すれば、これは最後通牒としての響きを持っています。もしこれを受け入れなければ、講和条約に署名しないということであります。こういうふうにフルシチョフは北村団長の質問に対して述べておる。今もこの問題が曽祢さんからも提起されておりますが、この言葉をあなたはどういうふうに受け取っておられるのか、その点を聞いておきたい。  それからこの言壌は、ソビエト政府の一貫した考え方態度をはっきり示しておるものであります。このような立場以外には、日ソ交渉が両国の利益のために解決され得ないことは、もう今日だれの目にも明らかになっておることと思うわけです。松本全権ロンドンから帰ってきてこのことを話していらっしゃる。それにかかわらず、政府は、ことにあなた、重光外相は、今日に至ってもなお懸案をすべて解決してから国交を正常化する、これが日ソ双方合致した方針であると国会で言い切っていらっしゃいます。ところが私がさきに申し上げましたように、フルシチョフはそういうことを言っていない。これは明らかにソビエトの方針を故意にゆがめているだけでなく、できないことを承知交渉を引奇延ばし、あげくの果てに交渉を決裂させようとするものであるとわれわれは考えざるを得ないわけであります。この考え方は決して私の一方的な断定ではない。それが証拠に、政府日ソ交渉という重大な問題を、日本の今日及び明日の運命を左右する重大な問題を、一体どういう態度で処理しておるのか。先日、衆議院予算委員会でわが党の川上代議士によって、政府の全くふまじめでいいかげんな態度は余すところなく暴露されたのであります。鳩山内閣日ソ問題を閣議で真剣に検討し、政府の意思を統一していないこと、松本全権に指示すべき政府方針をいまだに閣議で討議し、決定していないこと。そればかりでなく、首相は、ソビエト政府の提案を忘れたとさえ放言して恥じない態度を示しておるわけであります。重光外相はこのような事実をどういうふうに考えておられるか、どう答えられるのか、今後もなお外務省訓令によってこの問題をやっていこうとしておられるのか、それとも閣議決定によって松本全権に指示を与えようとしておるのか。この点もはっきり聞いておきたい。このような事実からしましても、われわれは政府日ソ交渉に対して、本腰を入れて日ソ交渉解決に取り組んでいないと断言してもあえて不当だとは思わないのであります。  さらに質問をいたします。この点よく聞いておいて下さい。自由民主党の代行委員の一人であり、次期総裁、次期総理大臣をもって自他ともに任じている緒方氏は、つい二、三日前に公然とこう語っております。私は社会党の言う暫定協定には反対だ、領土問題は絶対に妥協すべきではない、ソ連態度いかんで交渉が長引くかもしれないが、これはやむを得ない、こういうことを言っております。これは一体どういうことでありましょうか。一口で言うならば、国交回復はまつぴらだ、要求が通らなかったならそれまでだ、あとは野となれ山となれということではないのでしょうか。あなたもごの緒方氏の考えと全く同じではないのでしょうか、それとも違うというのでしょうか。もし緒方氏の考えと違うというならば、どの点がどう違うのか、具体的に示していただきたい。当てもなく、できもしない見通しの繰り返しを聞きたいのではありません。今日国民は戦犯の帰国を実現し、漁業、貿易問題を解決し、科学技術を交流する道を開くために、さらにアジアの緊張をやわらげ、進んでは中国との国交を正常化し、日中の経済の交流を求め、国民生活を豊かにするために、そうして真に日本の独立と平和に役立つために一日も早く日ソ間の国交の回復、国交関係を正常なものにしてもらいたいと念願しておるのであります。そのためのはっきりとした具体的な方針国民政府に聞きたいのであります。このことをしっかりと念頭に置いて答弁をしていただきたいと思います。あなたは日本国民とソビエト政府の望んでいるようにまず外交関係を回復して、それから双方の国民の利益に合うように懸案を話し合いで解決するのか、それとむ一方的に交渉を決裂に導くのかどうか、この点をはっきりお答えをいただきたい。
  18. 重光葵

    国務大臣重光葵君) それだけですか。お話は終りましたか。
  19. 須藤五郎

    須藤五郎君 まあ一応答えて下さい。
  20. 重光葵

    国務大臣重光葵君) お答えいたします。あなた方がソ連に行かれて、モスコーでソ連政府及び党の首脳者に会われて、ソ連の言うことを聞かれたということはよく承知をいたします。そうして、ソ連側はこれをプラウダに全部会見録を発表いたしております。それがこれでございます。私十分検討をいたしました。そこで日ソ交渉についてでございます。日ソ交渉は、ロンドンソ連の正式の代表と日本の正式の代表と交渉をされてきておるということは、これまた御存知の通りであります。私はあなた方がどういう資格でこういうソ連の首脳部とお会いになって話をしたのか、私はそれは知りません。私の知っていることは、これは政府にも日本にも関係のないということだけです。
  21. 須藤五郎

    須藤五郎君 国会関係があります。
  22. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 私は少しも日本的でない、このなにで見ると、あなたは一口に、ソ連の言ったことに対して日本の代表は主張はしてならぬ、ソ連の言うことを聞いてすぐやれと、すべてやれと言われるけれども、ソ連の言うことをすべて聞くととが一体交渉でありましょうか。そこです、ソ連はどうそれでは正式の交渉で言っているか、こう言えば、ソ連は、ソ連主張をはっきりと交渉でやっておるわけです。その交渉に応じて今進めておる。だから私に言わせれば、モスコーに如いて向うはこう言う、これを聞かなければお前は交渉を決裂するつもりかと、こう言われるのだが、私はそれは日本的ではないと思うのです。私は日本国の、日本政府の代表として、ソ連政府の代表と交渉をすることが正式の筋だ、そうしてそれはどんどん進んでいる。それによってやることが当然だと思うのです。そこでですな、向うの言うことを何もかも聞かなければ日本としては不利益じゃないか、早くそうやれと、こういうことがあなたの結論のようでありますが、さような議論はかえって交渉をまとめるゆえんではないことを私は申し上げる。そういうことを言うから、日本のうちで、皆これは共産党の言うことは聞いてはならぬと、こう思うのが今日本人の普通の心理になっておる。(笑声、「それは笑うべき発言だ」と呼ぶ者あり)あなた方はそれは笑うべき発言だとそう思われるでしょう。その通りなんです。それだからこの交渉は、これをお答えをするのは一言にして言えば、私は日本の代表として、日本の利益を中心として交渉を進めるべきだ、それがソ連の利益と合致するところにおいて妥協できるのだ、それをやるのが交渉である。ソ連の言うことを聞かたければすべて日本のためにならぬぞというお話なら、これは私はもう全然立場を異にしている。私はこのソ連のみの言うことを聞くことは、日本の立場としてできない。交渉をもって妥結に導こう、こういうことであることを申し上げて、私のお答えとします。  それから最後に、緒方君がどう言ったというようなお話がございました。これはまあ一つ緒方君の話を聞いてみなければわかりませんけれども、私の意向を御質問になった点は、先ほどから曽祢委員の御質問に対する私の答えでこれはすっかり尽きておりますから、それで御承知を願いたい、こう思います。
  23. 須藤五郎

    須藤五郎君 あなたは一番答えにくい点を故意にその答弁をはずしておると思うのですがね。ごの前の衆議院予算委員会で川上貴一代議士がちゃんと尋ねておる、総理に対して。要するにこの日ソ交渉政府が本腰を入れてやっていないという証拠には、閣議決定を何もしていない、単なる外務省の訓令でこれを処置しておるということを追及しているのです。そこで鳩山総理はまだ閣議決定をやっておりませんということを言っておる。今後あなたたちはこの重大問題を閣議決定で処置していくのか、それとも従来通り外務省の訓令で済ましていこうと、お茶を濁していこうとしているのか、この点を私はやはり質問出しているわけです。これをあなたはことさら答弁をはずしている。
  24. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 私はそれはことさら答弁をしないわけでも何でもない。そんなことはわかり切っておることで、質問に私はならぬと思う。それは政府交渉するのに政府決定方針で、やらぬで、交渉がどうしてできますか。
  25. 須藤五郎

    須藤五郎君 それじゃこれまでどうしていますか。
  26. 重光葵

    国務大臣重光葵君) むろんそれは政府決定でやっております。
  27. 須藤五郎

    須藤五郎君 閣議決定でやっているのか。
  28. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 閣議でも決定してやっておる。しかし今、最近どうして閣議で決定しないかというお話であったのでしょう。それは最近は閣議が決定をしておらぬ。けれども、しかししょっちゅう閣議の了解をもって進んでいるわけだから、政府方針で進んでいる。
  29. 須藤五郎

    須藤五郎君 それじゃ今後閣議の決定によってやるということですね。
  30. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 政府方針には変りはない。問題じゃない。
  31. 須藤五郎

    須藤五郎君 それじゃあなた、さっき日本的でないというとをおっしゃいましたね。
  32. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 申し上げました。その通り
  33. 須藤五郎

    須藤五郎君 日本的というのはどういうことなんですか。
  34. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 日本の国家民族の利益を中心として方針を立てることだと、私はそう考えます。
  35. 須藤五郎

    須藤五郎君 今日、国民はどういうことを希望しているか。一日も早く日ソ国交を回復して平和な日本を作ってほしいというのが国民の世論じゃないですか。それに反しているのがあなたたちの考えじゃないですか。それこそ日本的じゃないじゃないですか。
  36. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 私はまあここでそういう言葉の争いはしません。しませんけれども、私はそう考えます。
  37. 須藤五郎

    須藤五郎君 それはあなたたちの単なる考え方に過ぎないので、日本的という言葉は、そういうふうに解釈すべきじゃないのですね。あなたが日本的でないという言葉を吐かれたから、僕はこういう言葉をもって報いざるを得ない。
  38. 重光葵

    国務大臣重光葵君) そう申しました。
  39. 須藤五郎

    須藤五郎君 あなたたちの考えこそは日本的でないと考えているわけです。ブルガーニンはこう言いましたよ。日本の……(笑声、「それがいけない」と呼ぶ者あり)
  40. 山川良一

    委員長山川良一君) 須藤君、質問かな。
  41. 須藤五郎

    須藤五郎君 これは事実だから僕は述べる。  日本の主権は……さっきアデナウァーの問題が出ましたね。アデナウァーはモスコーに来て、五日間非常な激論をしたそうです。激しい議論があった。これは新聞に発表されておりますが、新聞の発表よりももっともっと激しい議論をした。しかしアデナウァーは、国交正常化、戦犯釈放、あらゆる問題に対して大変な熱意を持っておったから、激論はしたけれども、五日間で話し合いがついた。ところが日本松本全権は四カ月間ロンドンで話し合ったが、お茶飲み話になってしまって、激論もしないかわりに、ものが進展していない。これは一体どういうことか。これは日本政府が国交正常化に対して熱意を持っていないのじゃないか、こういう点を指摘しております。日本国民及び日本国民代表の国会議員の皆さんが来て国交正常化に努力しましょうとおっしゃっても、日本政府代表は一向それに積極的でない。これは一体どういうととか。こういう質問を向うからしておるわけです。これは一体どういうことですか、私も尋ねたい。
  42. 山川良一

    委員長山川良一君) 須藤君、今のは質問ですか。
  43. 須藤五郎

    須藤五郎君 いや、意見としてもいいです。答弁を求める必要ないですね。その点よく考えなくちゃいかぬですね。(「進行」と呼ぶ者あり)
  44. 羽生三七

    羽生三七君 私のお尋ねしたいことはもらほとんど曽祢委員の先ほどの御質問に要約されておるので、ただ一点だけお伺いしておきます。  まあ質問に入る前に、私今のいろいろな質疑を聞いておって、若干意見がましいことになるのですがまあ須藤君は須藤君としての立場があってああいうふうに言われ、重光外相日本的でないというような、これは極端なことを言えば、これも一種のイデオロギー外交かもしれないけれども、政府の方もこれはさっき曽祢委員が指摘されたように、領土問題については国民には何か今の政府だけが領土簡題を言っておってほかの政党は一体領土なんか考えてない。祖国も何もないじゃないかという印象を与えるようなことを政府も言うし、新聞もよく書いております。そのために曽祢委員はそういうととは必ずしも放棄しておるわけでもないし、何も今の外交方式を一擲して、そうしてすぐに暫定取りきめに移れと言っておるわけではない。ただアメリカの方が先ほど二人で申し上げたように沖縄、あるいは小笠原諸島の返還について非常に不熱心だ、こう見ておる、われわれの方から見ると、政府の外交が一種のイデオロギー外交に見える。片方に対しては非常な強い要求をされ、片方に対しては何かそれがバランスがとれていない、こういう問題は、純粋に領土返還ということに強い熱意を持つならば、バランスのとれたかっこうでないと……。私は社会党の考えておることは必ずしも間違っていない。社会党の今の考え方を進めていけば、政府が獲得するよりも少くとも下ではない。そういうことを社会党としては考えておるわけです。私はこの考え方は間違いないと思っております。だから私どもとしては決して、もう一度繰り返しますけれども、領土問題に不熱心なわけでもないし、それから懸案を全部放棄してしまって、暫定協定でいいというわけではないのです。今のようなバランスのとれたものでなければほんとう意味領土の問題についても成果を得られないのじゃないかということを社会党としては言っておるわけですから、これは意見として申し上げておきます。  それからこの問題は全部片づいておりますから、一点だけお伺いしたいととは、今、政府では防衛分担金の削減についての交渉を始められておるようでありますが、この前、外務大臣が向うへ行かれたときに、これはやはり防衛分担金削減の一般方式が確立される過程にこの問題が取り扱われることになっておると思いますが、去年は百五十何億円ですかの削減を受けたかわりに、軍事基地の拡張、つまり飛行場の拡張等の一種の義務を負わされたと思います。今年の一体その削減が一般方式、防衛問題に対する一般方式が完全にでき上らなくても削減ができるのか、かりに削減ができる場合においては、別に、去年と同じような一種の新しい義務を付加されることはないのか、そういうことで交渉されておるのか、どうもその辺がちょっと不明確なので、この経緯をちつと簡単に御説明願いたいと思います。
  45. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 防衛分担金の問題は予算に影響する問題でございます。予算編成期も迫っております。そこでこれは早く解決をしなければならぬ問題であります。そうして防衛分担金の問題はこれは米国との関係でありまするから、米国との話し合いによって解決をしなければならぬ問題であることは言うまでもございません。昨年の分担金の交渉のことについて言及されました。飛行基地などはその条件になっておると。それはそうではありません。防衛分担金の問題が防衛問題全局に関係しておるということは、これは私も認めます。何となれば、防衛力の漸増という、増強ということを前提として分担金の軽減ということになるわけでありまして、防衛力の漸増をやるという日本政府方針によって防衛分担金の軽減は交渉されるわけでありますから、それは全体として関係があることは私も認めます。しかしながらこの防衛力の漸増ということは、これは安保条約及びこれに関連する日本条約上の義務であって、これはいずれにしてもやらなければならぬことなんです。それだから、それをどこまでやったらいいかというようなことになってくると、また政治問題になり、交渉の問題にもなりましょう。しかし今のところでは防衛力はまだ漸増する義務を日本が持っておるということだけは確かであります。それでやるわけでございます。基地の提供ということもそれに関連をして基地を提供しなければならぬ、これは条約上の義務でございます。私は条約上の義務は日本としては忠実にこれを履行して行くことが義務であると、国家の責務であると、こう考えてやっておるのでございます。しかしそれもすべてそれでは無条件に全部向うの言うものは一から十まで聞くべしだと、そういう議論をするわけではございません。日本の利益、利害もよく考えて、そうして一体防衛力の増強ということはそういう条約上の義務に伴うとともに、これは日本の防衛なんだ、日本がやる、日本のために必要なことであります。それですからそういうことをすべてよく考慮に入れて、そうして進むべきだと思っております。去年は幸いにしてあれでうまく片づいたと私は思っておるのでありまするが、相当多額の分掛金の削減を得たわけであります。そして去年もあれで済んだ。今年はそういうことと離れて、新たにスタートする、あの共同声明にもあります通り、あれは去年は去年限りのことである、それはこういうことです。去年が日本の財政当局としては一番、何というか、苦しい時であった。去年の財政困難を分担金の軽減等によって救っていって、そうして緊縮予算を十分それで成果を上げて行くということになれば、将来はやや楽になりはせぬか、今年はこれはどうしてもやはりぜひ分担金は軽減してもらわなければならぬという強い日本側の要請にこたえて、去年はそれでは去年限り、今年限りで一つこうしよう、こういうことに相なりました。しかしそれだからといって、今年新たに始めるのが、去年の分担金の軽減というその度合いを全然無視して行くということは、これは日本も承諾できないし、向うにも去年のことは去年限りであるという、このことは認めなければなりません。そういうことによって交渉を終結せしめて、共同声明をしたのであります。しかしながら、今年は新たに出発しよう、こういうので、新たな見地から日本主張もし、向うも主張してきた、ここに交渉が進んでいく、こういう格好になると思います。その場合に、日本主張としては十分に日本希望をも貫徹するように今後努力をいたさなければなりません。そして予算に間に合わせるようにいたさなければ触りません。そういうことの腹づもりで進んでおるわけであります。これはそういう工合に事態が相なっておるのでございます。それで大体お答え申し上げたと思います。
  46. 羽生三七

    羽生三七君 よくわかりますが、私のお尋ねしておるほんとうのポイントはこういうことなんです。去年は去年限りだと思います。去年は、あの場合には一種の声明が出たわけです。それから外務大臣アメリカへ行かれたときも、やはりこの問題が出たときに、いわゆる先ほど申し上げたように、今後数年間にわたる漸減に関する一般的方式を設定することが望ましいということで、そういう方式ができたときに防衛分担金の漸減ができるわけですね、去年のことば別として、ことしやる場合には一体一般方式ができてできるのか、削減が可能なのか、ことしだけに限定して去年程度の金額の削減が可能なのか、その場合別に新しい何らかの要求が起ることはないのか、そういう点を承わっておるのです。
  47. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 私は去年の交渉は、こちらも実は、組閣早々とは申しませんが、十分すべてのことがよく頭に入っていなかったという点もございましょう。ずいぶんごたごたしておりました。そして結局まあまあということになりました。そこで私は日米関係、これは日本の外交の基調であるとわれわれは考えておるわけでございます。その日米関係において、防衛分担金の問題などについて、このせっぱ詰まったときにごたごたするということは、これは非常にまずい。またそういう重要な国との関係に限らず、すべて他国との関係でそういうふうなやり方は、私はこれはよくない。そこで前もって十分に意見の交換をして、そして分担金の漸減ということも考えてもらわなければならぬ。アメリカ日本の防衛力が増強するに従って地上軍は少くとも少くなるという傾向を持っておるのだから、一つよくその点は考えてもらいたいということを強く実は渡米のときに主張したのでございます。それに応じてアメリカ側日本の防衛力の増強とともに、それは防衛分担金も漸減するというこの考え方は合理約である、ごもっともだからそうしようというので共同声明にそういうことまでうたわれたわけでございます。だからその精神によって、しょっちゅう米国側とはずっと交渉というよりもいろいろ意見の交換をして下地を作って今日まできておるわけでございます。そこで漸減方式です。私は漸減方式が一番いいと思います。毎年心々何というか数字について意見を戦わして、これでよかろうと、こういうよりも、むしろ一般的の漸減方式ができて、そうして数年なり何年なりの後にこの防衛分担金の必要のないようなふうに持ち来たすということが、これは非常に適当なやり方だと、こう思っております。そこでそういう方式も考えていかなければならぬ、それならば、今お話通りにことしはもう予算編成時期も迫っておるのだし、ことしもやらなければならぬ、ことし限りのことをやるのか、将来のことの漸減方式も考えてやるのか、こういう御質疑になりますが、私はこれはできるならば一緒にやりたいと思います。そうしてことしのことも解決し、将来のことも解決し得ればこれにこしたことは実はないと思っております。しかしこれは私だけの考えじゃなくて、米国側もそれに共同声明にはっきりと申しておる通り、そういうことはいいと賛成しておるのでありまして、それで一つやってみようと思います。そうしてその下地を、絶えず意見の交換はいたしておるのでございます。まだ正式の交渉を始めたという段取りには至っておりませんが、そういうことになっていることを申し上げます。
  48. 梶原茂嘉

    ○梶原茂嘉君 簡単に一点だけお伺いしたいのであります。ソビエト、中共、それから北鮮の各国とわが国の民間団体との間に交流と申しますかが相当盛んになってきて参っておる。これは単に調査とか視察とかいう程度ではなくして、ときによって、また問題によっては両者の間にある種の取りきめ的のような事柄が行われているように伝えられておるわけであります。これは広い意味での外交の上にある種の効果を起しつつあることは、私が現実的に否定し得ないところであります。で、そうだとすれば、日本の外交上の観点から見て、外務大臣はこの現象といいますか、この現実をどういうふうに見ておられるか。この現実から生じておる効果に対してどういう見解を持っておられるか。この動きというものが、好ましい一つの動きというふうに見ておられるのか、あるいは好ましくないと考えておられるのか。それらについての一つ外務大臣の所見を伺いたいと、こう思うのであります。
  49. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 今の御質問は共産陣営と自由民主陣営との間の外交一般、広い意味の外交問題の根本に触れる問題だと思います。御承知通りに、共産陣営が平和攻勢というものを始めた。その平和攻勢が何であるかということは、今申し上げることは避けまして、戦争はやらない、その他の方法でもって同じ目的を達しようという方策をとっておることは、もうこれは世界の定説であると言って差しつかえないと思います。そこで日本に対してもどういうふうな方策をやってきて曲るかということを、そういう方面の研究の専門家の定説と申していいようなものを申し上げれば、共産陣営、たとえば中共と日本との間はどうする。中共はこれをどうしようとして考えておるか、こういうと、中共は日本との間にでき得れば承認もしてもらって、国交も回復したい、こういう政策であるととは言うまでもございません。それが中共の国際的の利益になります。日本が、しかし今中共をすぐ承認するということの地位におらないこともまた事実であります。そうであるから、そういう国交回復を意味するような交渉日本政府は応ずるわけにはいかない、いかないから中共としては民間個人の間においていろいろな問題について交渉をし、やりとりをし、でき得べくんば取りきめをして、そうしてそれを積み上げていって、そうして日本の国内の国論を起していって、そうして政府を動かして自分の目的を達しようと、こういう手段をとっておるということが明らかに見られるのであります。そう見ておることが今の定説であります。ただそれだけじゃありません。今の世界の情勢としてジェネバの十月の外相会議が失敗になったその後にどういうような形勢が現われるかということはヨーロッパ、アメリカソ連研究の専門家が、あるいは、オスロにおいて、あるいはミラノにおいて集まって非常に研究をいたしております。たとえば十月の外相会議において討論をされた東西の交流という点であります。つまり共産陣営と自由民主陣営との間の交流であります。貿易もありましょう。人の交流もありましょう。物の交流もありましょう。思想の交流、文化の交流、すべての交流についてこれが論ぜられたのでありますが、どうしてもまとまらない、まとまらんで、これも何と申しますか、結末を得ない、決裂と言うのは言い過ぎましょうけれども、結末を得なかった。それはそういうことに対してソ連側も非常に疑問を持っておるような発言がございました。それは双方そういうことを政治的に利用しようと、こういう考え方があるので、それを双方ともおそれる。自由民主側の方はそういうことにうっかり乗っていくというと、とんでもない政治的の策動に乗ぜられると、こう心配をする。またソ連側もよほど最近は東ヨーロッパ方面の民族運動なんということに、これを刺激されては衛星国が離れるのではないか、こういうような心配があると見られる節があります。そこで容易に話はまとまらん、そうして外相会議はその点においても失敗に終った、こういうことに相なっております。そういうわけでありますから、個人の、たとえば貿易の問題とか、その他学術の問題とか、こういうことについて個人だからこれは個人のこととして差しつかえがないと、こういうふうに簡単に考えることもむずかしいのであります。しかし政府としては個人のことに対して、これは個人がどうするということに対して政府がこれを左右する権限はございません。そうだから個人的にいろいろな話し合いをすると、こういうことは政府としてこれを制するとか、もしくはどうするかということはちょっと差し控えなければならぬと私は考えます。しかしそれを一々どう考えるかというこういう御質問の今度は真髄に触れますが、私は政府としてはそういう話し合いの各個の場合についてこれは考えなければならぬと思います。たとえば政府は今承認をしてないのだから交渉はございません、交渉はございませんから、たとえば抑留者の送還とかいうような問題はこれは政府以外の機関で進めるという、個人の尽力によるということは、これは政府としては実は寛容にしなければならぬことだと思います。それで赤十字社が非常に努力をするとかいうことは、これは効果を上げるように政府としてもでき得るだけの便宜をはかるというようなことはいたさなければならぬ。いわんや人道問題においては、これは政府として直接話合いをするということは何ら差しつかえないという結論のもとに、直接ジェネバにおいてその問題の話を進めている、折衝をいたしていることは御承知通りであります。  そのほかの問題については、問題ごとにこれは判断するのが私は適当であると考えます。たとえば貿易の問題にしても、これは貿易はもう貿易商各個がやるのでございまして、それは政府としては国際義務に反するようなことはやってはならぬということにはっきり線を引かなければならぬ、しかし国際義務に反しない限りにおいては各個人が取りきめをしてやるということは、私はどれも適当なことだと考えます。しかし、ものによってはこれは好ましくないことがある、いたずらに宣伝の材料になるとか、また政治的の意味が非常に多く含まれているというようなものについては、私は政府としてはこれに対してその方向に便宜を与るとかいうことは行き過ぎじゃないかと考えます。まあ、そういうふうに考えて処置はいたしているのでございますが、今それらの両陣営の何と申しますか、そういう方面における作戦と申しますか、これが非常に入り組んでいる、入り組んでおりますから、これは政府ひとりの考え方でもって押すわけには参りかねます。よくそういうことは一般の判断のもとに、国の行き方を誤まらぬように世論を動かしていく、もしくは識者がそう考えるということが私は非常に必要じゃないかと考えるのでございます。
  50. 山川良一

    委員長山川良一君) ほかに国際情勢等に関して外務大臣に御質疑のある方はおありになりませんか。……それでは国際情勢等についての外務大臣に対する御質疑は一応これで終りたいと思いますが、大臣にちょっとお願いしておきますが、午後私としては著作権関係条約の審議に入りたいと思っております。なお時日もありませんので、連日外務委員会を開きたいと思いますが、その間ときどき外務大臣の出席を要求されることがあるかと思いますが、日にちも幾らもないことでありますから、円滑に進めるためにできるだけ万障お繰り合せて御出席下さるようにお頼みいたします。  ちょっと速記をとめて。   〔速記中止〕
  51. 山川良一

    委員長山川良一君) 速記を始めて。それでは委員会を休憩いたします。午後は二時から再開いたします。    午後零時五十六分休憩     ―――――――――――――    午後二時二十二分開会
  52. 山川良一

    委員長山川良一君) ただいまから外務委員会を再開いたします。  万国著作権条約批准について承認を求めるの件、万国著作権条約条件附批准、受諾又は加入に関する同条約の第三附属議定書批准について承認を求めるの件、無国籍者及び亡命者著作物に対する万国著作権条約適用に関する同条約の第一附属議定書批准について承認を求めるの件、ある種の国際機関著作物に対する万国著作権条約適用に関する同条約の第二附属議定書批准について承認を求めるの件、以上四件一括。原子力の非軍事的利用に関する協力のための日本国政府アメリカ合衆政府との間の協定の締結について承認を求めるの件、以上五件を議題といたします。  まず政府から提案理由の説明を願います。
  53. 森下國雄

    政府委員(森下國雄君) ただいま議題となりました万国著作権条約批准について承認を求めるの件、無国籍者及び亡命者著作物に対する万国著作権条約適用に関する同条約の第一附属議定書批准について承認を求めるの件、ある種の国際機関著作物に対する万国著作権条約適用に関する同条約の第二附属議定書批准について承認を求めるの件及び万国著作権条約条件附批准、受諾又は加入に関する同条約の第三附属議定書批准について承認を求めるの件につきまして提案の理由を御説明いたします。  これらの条約及び三附属議定書は、ユネスコ主催のもとに昭和二十七年の八月から九月にかけてジュネーヴで開催せられ、わが国も全権委員を派遣した国際会議において作成されたものでありまして、わが国は、昭和二十八年一月三日に特命全権公使萩原徹に署名をいたさせました。  まず、この条約は、著作権の保護に関し、無方式主義を採用するベルヌ条約当事国と方式主義を採用する米州条約当事国の両者間の橋渡しのための条約であり、わが国は、この条約の当事国になることにより、すでに当事国となっているベルヌ条約の当事国以外の諸国との間に著作権の保護関係が生ずることになるばかりではなく、特に、現行の日米著作権暫定取極(平和条約第十二条に基く内国民待遇相互許与の交換公文)が失効する明年四月二十八日以後における両国間の著作権関係を有利に規律し得ることになります。また、これらの三附属議定書は、番号順に申しまして、(一)無国籍者及び亡命者著作物を保擁すること、(二)国際連合、専門機関等の著作物を保護すること、(三)条約の効力発生に一定の停止条件を付することを認めることを内容とするもので、それぞれ、この条約を補足する役割を有しております。従いまして、これらの条約及び三附属議定書批准につき、御承認を求める次第であります。  なお、これらの条約及び附属議定書は、その批准書をユネスコ事務局長に寄託した後、三箇月で効力を生ずることになっているので、日米間の暫定取極の失効する四月二十八日までにわが国について効力を生ぜしめるためには、一月二十八日までに批准書の寄託を了していなればならないという事情があります。右の事情をも了承せられ、慎重御審議の上、本件につきすみやかに御承認あらんことを希望いたします。  ただいま議題となりました原子力の非軍事的利用に関する協力のための日本国政府アメリカ合衆政府との間の協定の締結について承認を求めるの件につきまして提案理由を御説明をいたします。  本年一月米国政府から、日本政府希望するにおいては、わが政府に対し濃縮ウランの提供と、これに伴う技術等の援助を行う用意がある旨の申し入れがあった次第でありますが、政府といたしましては、わが国における今後の原子力の平和利用の研究及び開発の問題の重要性にかんがみ、慎重に検討した上で、適当な条件のもとにこれを受けることとし、これがため、今春以来米国政府との間に、本件に関する日米間の双務協定締結に関する交渉を行なった結果、合意を見るに至りましたので、十一月十四日ワシントンにおいて在米井口大使とシーボルト極東関係担当国務次官補代理及びシュトラウス米国原子力委員委員長との間に、この協定の正式調印が行われたのであります。  この協定は、米国が千九百五十三年十二月の米国大統領の原子力平和的利用計画に基き、二十数カ国との間に締結した協定とほぼ同様のものでありますが、この協定に基いて、わが国は米国から研究用原子炉の燃料として濃度二○パーセント以下の濃縮ウランをU二三五計算で最大限六キログラム貸借することができることになり、また、市場で入手することのできない原子炉用資材を入手し、両国間で原子力の平和的利用に関する情報を交換することができるようになります。このようにして、わが国は原子力の平和的利用の研究及び開発に向って大きな一歩を踏み出すことができるようになると信じます。原子力の平和的利用は、資源に乏しいわが国の将来にとってはかり知れない意義を有するものでありますので、この協定の発効のため必要な手続を早急にとりたいと存じます。  よって、ここにこの協定の締結について御承認を求める次第であります。何とぞ慎重御審議の上、本件につきすみやかに御承認あらんことを希望いたします。
  54. 山川良一

    委員長山川良一君) それでは万国著作権条約関係の四件を一括して質疑に入りたいと存じます。本件に関し、御質疑のおありの方は順次御発言を順います。
  55. 羽生三七

    羽生三七君 これは委員長、どうですか、質問に入る前に、どういうものだということをもう少し詳しく条約局長お話を願ったらどうかと思いますが……。(「賛成」と呼ぶ者あり)
  56. 山川良一

    委員長山川良一君) それでは条約局長からこの際……。
  57. 曾禰益

    曾祢益君 それと関連をして、条約の内容よりも著作権保護に関するいろいろな国際条約、いろいろなタイプのあることがここにも書いてあるのですが、そういう歴史ですね、どういう条約ができて、今度の条約はどういう意義を持つのだという一般的な、概念的な説明を一つ願います。
  58. 山川良一

    委員長山川良一君) それでは条約局長、ただいま曽祢委員のおっしゃったような内容を一つ含めて御説明を願いたいと思います。
  59. 下田武三

    政府委員(下田武三君) それでは簡単に。いろいろこの御審議を願いますことになりますので、バック・グランドからお話をしましたらおわかりいただけるかと思います。  まず第一に、本件は期限付の案件でございます。と申しますのは、御承知のように、平和条約十二条で、連合国側は日本側に対し最恵国待遇あるいは内国民待遇を与えることにきめますと、日本はそれと同じ待遇を与えなければならないという義務が掲げてございます。著作権という財産権に対する保護も、やはり平和条約十二条の規定の適用を受けることになるわけでございまして、従いまして連合国との間に明年の四月二十八日までは、たとえばアメリカ日本人の著作権に対する内国民の待遇を与えるということになっておりますので、日本側も従って内国民の待遇を与えることを現にやっておりますが、その期限が四月二十八日に切れますので、その二十八日以後の著作権関係を一体どう規律したらいいかという問題があるわけでございます。そこで、たまたまユネスコの主催のもとに、一九五二年にでき上りました著作権関係に関する条約ができておるわけなのです。御承知のように世界に著作権に関する多数国間条約が二つございます。第一は、日本が明治年間からすでに当事国になっておりますベルヌ条約でございます。第二に、ただいま問題になっておりますユネスコ主催のもとに行われたこれが万国条約ということに相なっております。この万国条約批准しましてから、批准書を寄託しましてから三カ月を経過しなければ効力が発生しないということになっておりますので、そうしますと、明年の一月二十八日までに批准書を寄托しなければ、四月二十八日以後は条約書のギャップを発生することを妨げることができないということに相なりますので、例年の例によりますと、一月の二十三、四日ごろ開会されまして、数日間でこの条約の御審議を上げてパリまで文書を発送するということはどうしてもできませんので、やむを得ず短期国会ではございますが、本臨時国会の御審議をわずらわすことに相なったわけでございます。  そこで、この条約だけの御説明を申し上げればいいわけでございますが、先ほど申し上げました二つの条約について簡単に御説明申し上げたいと思うのでありますが、明治年間から日本が当事国になっております著作権保護同盟に関する条約、このベルヌ条約と申しますものは、ヨーロッパの国がほとんど全部入っております。また米洲大陸ではカナダも入っております。これは要するに一口に申しますと、著作物ができた、ある人が本を書いたという事実をもって直ちにそのものに対して著作権を認めまして、そうしてその著作権の保護を与えるという制度でございます。これを無方式主義と申しております。  ところが世界にはそうでなくて、著作者が本を書いたという事実だけではまだ著作権を認められず、従って保護は与えないで、著作者がその本を納本する、あるいは登録するとか、さらに著作権を得るための手数料を払うとかいう手続を経て、初めてそのものに著作権を認め、そうしてその著作権を保護するという制度がございます。これがアメリカ初め米州諸国がとっておる主義でございまして、なぜこういう主義が生まれましたかと申しますと、まあ日本もそうでございましたが、アメリカはイギリス人やドイツ人、フランス人、イタリー人の子孫が国をなした国であって、どうしてもヨーロッパから文物を輸入しなければならない。輸入することになりますると、なるべくその外国の著作物に対しては保護を与えないで、翻訳、複製等が自由にできるようにしなければならない。そうするためには、著作権の保護を与えるために納本、登録、手数料の支払い等の複雑な、手続を課しまして、なかなかそういう手続を、外国にいる者に要求することは無理な場合もありまするが、そうして著作権が与えられない可能性を多くしておいて、そうして自由にまあ翻訳して文物を輸入するという文化輸入国側の立場からして、そういう方式主義というものが生まれたわけでございます。  それで、アメリカは実は従来十九世紀までは文化輸入国で、あったのですが、今世紀になってはもちろん文化の輸出国に相なったわけでありますが、長年の著作権の方式主義の制度というものはなかなか変えることができなかったわけでございます。しかしついにアイゼンハワー政権になりましてから、著作権制度の政策の大変更をいたしまして、一つにはアメリカはこの方式主義をとりながら、外国に対して二国間の条約を別々に締結しておる。四十数個の二国間の著作権条約というものを作っておりまして、相手国の実情に即してその国の著作物に対してはこういう待遇を与えるといって、国別に扱いぶりをきめておったのです。この方式主義と、それに基く国別の取扱いぶりとの差という複雑な著作権の保護体制の煩に堪えられなかったわけであります。そこでアメリカ自身も困ってはおりましたが、一方このベルヌ条約の国側から見ましても、これは実に不便なわけでございます。そこで、ユネスコ主催のもとにまあ行く行くは将来は世界中一つの著作権条約で規律すべきであるけれども、どうもそこまで一足飛びに行けない。そこで米州諸国とベルヌ条約当事国との間の橋渡しをするような条約を作ろうということをユネネスコで発議いたしまして、そこでジュネーヴで会議を開きまして、そうして一九五三年にこの条約ができたわけでありますが、日本はむろん代表が参加いたしまして、萩原公使はたしか法律委員会の委員長になって、非常にリードされたのでありますが、とにかくやっと橋渡しをする条約というものができました。  そこで、この条約の主眼点は、要するに結局はまあ内国民待遇なのでありまするが、内国民待遇を与えるにしましても、各国の法制がまちまちでございまするから、そのためにいろいろな調整の規定を置いたのでありまするが、その最大の主眼は、米州諸国で先ほど申し上げましたような納本、登録、手数料支払い等の手続を要せずして外国人の著作権が保護されるための制度、それには本にコピー・ライトのCをとりまして、Cという字のまわりを丸で包む、〇Cという符号をうけまして、本が発行された年号と著作者の名前だけを本のどこかに書いておけば、もうアメリカでもどこでもそれだけのことが印刷してあれば著作権がただちに発生して、そして著作権者に対する保護が与えられるという簡便な方式を選んだのでございます。これがまあ非常に大きな主眼でございます。  第二の大きな主眼は、著作権の保護期間というものが非常に各国ともばらばらでございます。アメリカは五十六年間保護する、日本は著作者が死んでから死後三十年間保護するというよう宏ことになっておりまするが、この条約では、相手国が自分の国よりも短い保護期間を与ておる場合には、自分の国の方でもその国の著作者に対して著作権の保護期間を相手国と同じにちょん切って同じ期間だけ保護するということを可能ならしめるという点でこの保護期間の不公平をなくすという点をとり入れたのでございます。  それから第三に、橋渡し的の条約の当然の帰結なんでございますが、先ほど申しましたベルヌ条約の当事国は昔から著作権の保護同盟を結成いたしまして、そうして一つ条約関係をなしておったのでありまするから、この万国条約ができたために昔からあった著作権の相互関係に影響を及ぼさせないというための規定を設けたのでございます。つまり日本とフランスの間というものは、長くから著作権の保護についてはベルヌ条約が支配しておったのですから、日仏間には相変らずベルヌ条約の規定が適用される。そのかわりに日本アメリカ、フランスとアメリカというように、米州諸国との間にはこの新しい万国条約の保護関係を作るということで調整をいたしておるわけでございます。  そこでもう一つ、これはまあ国内的には非常に問題になったことなんでありますが、御承知のように日本は明治年間当然文化の輸入国でありましたために、昔のアメリカと同じように翻訳の自由ということを非常に強く主張いたしまして、一九〇五年の日米間の著作権条約というものは、実は両国は互いに相手国の国民著作物を自由に翻訳し得るということに相なっておったのでございます。ところが平和条約の第七条に、連合国側は、戦前の条約のうち、自己の欲するものはその効力を復活せしめ、欲せざるものは失効せしめる、いうことを認めた規定がございます。アメリカは、先ほど申し上げましたように自身が文化輸入国から文化輸出国に変化した当然の帰結といたしまして、翻訳の自由を認めた一九〇五年の日米間著作権条約を廃棄いたして参ったのでございます。そこでどうしても昔の日米間の翻訳自由というものは復活し得ないということに相なった。これはまあ当然の、平和条約の規定でやむを得ないことでございます。そこで日本側は、実はこのベルヌ条約批准いたします際に、日本は文化の輸入国であるから、もう一つは、日本語に翻訳するということは新たに書物を書くぐらい実はむずかしい仕事であるのであるから、どうも一般のヨーロッパ諸国間におけるような関係はそのまま妥当しない。従って、外国の著作物が発行されて十年間の間に日本人が翻訳した場合には、それは契約によってずっと独占的にその著作者に対する権利は認める。しかし十年間たっても翻訳されないような外国の書物、これはもう実はほとんどないのでありますが、翻訳する価値のあるものは九〇%以上は十年間にもう訳されてしまうのでありますが、その残りの一割足らずの外国の著作物が十年間たっても翻訳されないような場合は、日本は自由に翻訳し得るという趣旨の留保をベルヌ条約でいたしたのであります。そこで、できるなら日米間にもこのベルヌ条約に対する留保と同じような内容をとり入れた二国間の協定を締結いたしたいと思いまして、ずっと実は二、三年来アメリカと新しい二国間条約の締結交渉をして参ったのでありますが、これはアメリカの先ほど申しました二国間条約方式を廃棄して、対外著作権関係はすべて万国条約一本でいくというアイゼンハワー政権の政策決定のあった直後でありますので、どうしてもアメリカはこの要望に応じませんで、先月ダレス国務長官から井口大使に公文をもちまして最終的に日本側の提案にどうしても応じられないという回答をいたしましたので、従って同時に日本側万国著作権条約批准することによりまして日米間の著作権関係もこの条約で規律しよう、そうしてこの条約で規律するためには、先ほど申しましたように、明年四月二十八日以後の無条約関係の発生を回避するために至急この条約批准しようということにきめまして、今国会に御提出申し上げたような次第でございます。  そこでこれも国内関係方面にいろいろ議論があったのでございますが、大体学者と申しますか、かくある方が日本にとって利益であろうという推測をなされる立場の方は、万国著作権条約批准はそう急がないでもいいのではないかという御意見であります。もう一つの実際に著作権を扱って仕事をしておられる方面、六大新聞を初め有力新聞のすべて、それから大雑誌社のすべて、あるいはまた文芸家協会、音楽家協会、美術家連盟、そういうような著作権自身で仕事をして、その扱いによっては非常な影響を受けるという実際の利害関係のある方面の民間の御意見は、万国著作権条約を早く批准しなければいけない、日本はすでに外国の書物を自由に翻訳するということに利益を持つよりも、日本はすでに文化の輸出国になっているのだから、日本の映画でも一本で年に一億円の外貨をかせぐというようなものもどんどんできておる。また日本のレコードもどんどんアメリカに行って今勝手に複製されておる。そういうようなことを防止するにもどうしても著作権条約に入る必要があるのだという民間の実利実害に立つところの御意見は、この条約を早く批准すべしという御意見でありました。そこで文部大臣におかれまして、国内の権威者を網羅されました委員会に答申を求められました結果、政府の善処を期待されたわけであります。結局は政府にまあまかされたわけでありまするが、政府側といたしましては、先ほど申しました観点、特にこの万国著作権条約に入ることと、さらにもう少し時間をかけて日米間に二国間条約を締結するという――これはまあ実はわれわれ不可能と思われるのですが――その方法との利害得失を検討いたしますと、どうしてもやはり万国著作権条約によって日米間の関係を律するのが有利だという結論に到達したのでございます。なぜかと申しますと、第一は先ほど申し度したように、現在のままを継続いたしました場合を仮定いたしますと、日本では国内法が無方式主義であります。だからアメリカ人がある本を書いたという事実によって、直ちにアメリカ人に著作権を認めるとか、何らかの保護をしなければならない。しかるに日本人の著作物は、アメリカに持っていって納本、登録、手数料を払わなければ著作権が与えられない。非常に不平等の関係にあります。でありますから、日本の茶の湯の本でも、またいけ花の本でも、どんどんアメリカで翻訳されるという今日でありますから、これは先ほどのマルCと書いて、何年何月何のなにがしと書けば、それがもうすぐアメリカで保護されるという万国条約の方がはるかに有利だという点を認めました点、もう一つ日本ではアメリカ人が書いた著作物に対しては、その人が生きている間、若い人が書けば五十年も保護して、そうしてその人が亡くなってさらに三十年たっても保護しなければならぬという、長い保護期間をアメリカ人に与えなければならぬというのに対して、アメリカの方では二十八年で終ってしまうという関係でございますから、万国条約に入りました場合には、日本アメリカで二十八年しか保護しないなら、わが方でも二十八年しか保護しないということができるわけであります。そういう観点からいたしまして、著作権方面で最も重きを置かれました対米関係からの見地から見ましても、万国著作権条約批准して、すみやかにこれをいたして、四月二十八日以後の関係を律する方が有利なりという結論に到逢いたした結果、今国会に提出いたしまして御承認を仰ぐことに相なった次第であります。
  60. 梶原茂嘉

    ○梶原茂嘉君 内容のことは別として、一つ政務次官に伺いたいのであります。先ほどの説明で、調印したのが二十八年の一月ですか、一月に調印をし、今日まで相当の時間が経過したわけですね。そうして現在のアメリカ条約の失効の関係を考慮すれば、来月の四月二十八日までに批准を了しなければならぬということになっておのであります。この最終の期限というものは、これは一応はっきりしておるわけです。従ってどうしても条約のつなぎ方をつけていくとすれば、これは当然にこの前の、国会において審議されるべきことであろうと思う。たまたま……たまたまというと悪いですけども、臨時国会が開かれておるので、この臨時国会承認が済めば、手続はお話通りに進むわけです。しかしもしこの条約のためにだけ臨時国会を開くということは、おそらくなかったであろうと想定すれば、これは来年の通常国会に当然かかる。そうすれば時間的にもちろん間に合わないということだろと思う。なぜ今日までこれがこのままになったのか。先ほどの下田さんのお話では、日米両国間の取りきめを折衝されたように伺った。それはそれで、そういう経過はあったろうと思いますけれども、本来からいえば、来年の四月二十八日までには間に合わない状況にあったと思うのです。それからどうこうというわけではありませんけれども、著作権という一つの財産権の保護に関する条約であって、ベルヌ条約との関係、その他の関係で、相当問題があり得るわけです。なるほど日米間に若干のブランクができるということは、これは決して好ましいことではないわけですけれども、時間的に考えて絶対にいかない、こういうわけでもあるまい、こういうふうにも考えられるのであります。どうしてもこの国会で上げなくてはならぬのか。多少日米間にブランクの時間があっても、これはやむを得ないというふうに考えられるのか。この点を一つお伺いしたいと思います。
  61. 森下國雄

    政府委員(森下國雄君) 条約局長から……。
  62. 山川良一

    委員長山川良一君) ちょっと申し上げますが、外務省からのほかに、政府から、文部省の内藤社会教育局長、大田著作権課長が見えておりますから、御参考のために。
  63. 下田武三

    政府委員(下田武三君) 一九五二年に署名された条約を、なぜ今まで放ったらかしておいて、臨時国会のまぎわになってから提出したかというお尋ねでございましたが、実はその点につきましては先ほどの私の御説明がはなはだ足らなくて申しわけがなかったのでございますが、もともとこの日本の著作権関係の主管大臣であられます文部大臣が、日本の著作権関係の権威を網羅して作られました著作権制度調査会という会がございまして、その会にその意見を求めておられたわけでございます。ところがその会自体が、先ほど申しましたような内部の意見の対立がありましたために、結論が延びに延びまして、政府当局側はむしろやきもきいたしたのでありまするが、その会自身の結論が出るのがおくれましたために、主管大臣たる文部大臣におかれまして、ただちにこの条約批准というところのための措置をおとりになれない事情にあったというのが最大の原因でございます。  それからもう一つは、これは原因ではないのでありまするが、この条約条約所定の当時国数を得まして、発効いたしましたのが、ついことしの九月の十六日なのでございます。そこでかりに日本が早く批准するといたしましても、やはり各国の批准ぶりと足並みを合わせて、大国、主要国が入ることが確実である前に飛び込むわけには参りませんので、ずっと待っておりましたところ、最近に至りましてドイツ、フランス、イタリア、スイス等の日本と同様ベルヌ条約の当事国でありました国々が足並みをそろえて批准してくる。イギリスも今批准のための手続を急いでおりまするが、やはり主要国の批准の雄並みとそろえるという観点からいたしましても、やはりことしの秋になりまして各国の足並みがそろって、やっと九月の十六日に発効するという状態でございましたので、先ほどの国内の意見の分裂ということがなかったといたしましても、やはり批准するということに相触りますと、ちょうどこの国会くらいに提出するという順序に相なったかと存じます。  それから第二の御質問の、そういう意見が分れておるとすれば、多少おくれても、もう少し慎重に検討して、明年の四月二十八日以後、幾分の無条約状態が現出するけれども、それはやむを得ないのではないかという御質問でございますが、実はこの点につきまして、この著作権で仕事をしておられます民間の当事者といたしましては、無条約状態の発生ということを非常におそれておられまして、これだけはもうぜひ回避しなきゃいかぬという御意見でございまして、それからまた文部省の先ほどの著作権制度調査会におきます学者や、著作権関係者の御意見も、無条約状態だけはこれは回避しなければならないという点において、この点だけは完全に意見が一致いたしておったわけでございます。そこでそういう関係者並びに民間の当事者のご意見を尊重いたしまして、政府当局も当初からどうしても無条約関係の発生だけは避けたいという決意で、この条約の扱いを進めて参ったような次第でございます。
  64. 梶原茂嘉

    ○梶原茂嘉君 無条約状態ができるということは、これはいずれにしても好ましくないということであるということは言い得ることだと思います。そうだとすれば、なおさらのことこの前の通常国会において審議されなければいけない。ここまで来たということは、むしろ若干の間無条約状態が出得るということを想定して、考え得ることじゃなかったであらうかと、逆の問題です。従って、まあ私内容のことをよく知らないので、いずれいろいろお伺いすることもあると思いますけれども、ちょうど臨時国会が開かれたので、これ幸いというわけでしょうけれども、一つほんとうに無条約状態が呪われてきて大へんだとすれば、これは前に当然審議されていなくちゃならない。しかも先ほどお活のベルヌ条約加入の大国といいますか、大きな国においては、日本の置かれておるような立場には何もありません。従ってこれは条約局長からお話のように、ほかの国の加入ぶりを見てどうこうという余裕は、日本としてはないわけです。かたがたここまで来て、そうして無条約になると大へんだからということが、私にはもう一つぴんと納得が実はできないのです。
  65. 内藤誉三郎

    政府委員内藤誉三郎君) お尋ねの点まことにごもっともなことだと思っておりますが、何分にも著作権という財産権の問題でございますので、条約も新しい条約でございますので、研究もいたさなきゃならぬというので、著作権制度審議会でも十数回にわたって慎重に審議をしている。その点で大へんおくれましたことは、私ども非常に遺憾に思っておるのでございます。しかし先ほど条約局長お話のように、無条約状態は避けるという点については、皆さんの意見が一致して、ちょうどこの臨時国会にやっと間に合うところまで審議会結論を出して、政府に善処方を要望したので、私どもとしては大へん国会の方に提案がおくれましたことを遺憾に思っておるのでございますが、何分そういう事情でございましたので、御了承いただきたいと考えます。
  66. 曾禰益

    曾祢益君 どうも梶原委員質問に対するお答えにはなっていないようですけれども、文部省に伺いたいのですが、さっき条約局長から御説明があった要するにこの著作権制度審議会ですね、この中で二つの意見があったということですね。その急がなくてもいいという意見の概要と、それから急ぐべしという意見の概要と、それからどういう団体……、いろいろまあ団体があると思うのですが、団体別にしてどういうふうになっておったか、その間の要するに内容的な御説明を願いたい。
  67. 内藤誉三郎

    政府委員内藤誉三郎君) 今この国人芸にあわてて批准しなくてもいいんじゃないかという御意見は、これは二国間条約が必ず成立するだろうという前提なんです。ですから日本が万国条約批准しない場合には無条約状態になる。無条約状態になるということは、日米双方とも非常に著作権行政が混乱いたしまして、今までの著作権の権利は全部なくなってしまいますので、非常に混乱しますから、必ず二国間条約が結ばれるのではなかろうかという前提がある。この内容につきましては学識経験者の方の意見は、問題点は翻訳権の十年、これがベルヌ条約で御承知通り日本とトルコとエヂプト、この三国が翻訳権の十年を留保しております。ですからそれと同じように翻訳権の十年を留保すれば、あとは万国約条の内容そのままでもよろしい。ですから翻訳権十年を留保して、そうして万国条約そのままの形でもって何とか二国間条約の締結ができないかということが意見のようであります。これに対して、私どもも外務省と緊密な連絡のもとに、ずいぶんやったわけですが、おそらく御説明があったと思いますが、アメリカとしては今まで四十数カ国と二国間条約をやっておって、そうして著作権行政の統一ができないので非常に困り抜いておったので、この際万国約条という非常な簡単な方式で、そうして統一したもので……、ですからアメリカ政府の意向としては、二国間条約は結ばない、万国条約一本でやるというような政策を打ち出してしまったので、アメリカとしては二国間条約を結ぶ意思がないということになりますので、わが方といたしましては無条約状態を回避するためには万国条約批准いたしまして、問題のある点については有利な方に解決しろ、こういう答申でございましたので、問題がある遡及法の問題とか、あるいはベルヌ同盟国間とユネスコ条約との関係、こういうような点につきまして、あるいは暫定協定から万国条約に乗りかわるときの混乱の起きないよな措置、こう言う点についてアメリカとの話し合いを進めて、問題の起きないように最善の措置をしたわけでございます。で、万国条約につきまして片方の促進する方については、これは加盟団体がございますのでちょっと読み上げてみますと、教育映画製作者連盟、教科書協会、シナリオ作家協会、児童文学者協会、出仮美術家連盟、新聞通信放送出版懇話会、全国出版協会、全国大学教授連合、全日本工芸美術家協会、日本映画監督協会、日本映画連合会、日本演劇協会、日本音楽著作権協会、日収写真家協会、日本新聞協会、日本宣伝美術会、日本蓄音機レコード協会、日本著作家組合、同美術部、日本デザイナー協会、日本デザイナー・クラブ、日本童画会――子供の画です。日本美術家連盟、日本文芸家協会、日本放送協会。日本翻訳出版懇和会、日本民間放送連盟、演劇関係団体としては松竹、東宝、国際演劇協会、日本センター・こういうのが民間団体として、この方々がこぞって即時批准を要望されておるわけであります。そこで私どもの審議会といたしましては、学識経験者の数人の方と、こういう実際の著作権に関係していらっしゃる業者との間に意見が分れた。それでその意見の全部の一致した意見は無条約状態を回避するという点については一致したけれども、あとは二国間条約でやるか、万国条約でやるかという二つの意見に分れた。かりに万国条約を締結する場合には、日本に有利なように問題を解決して政府に善処を要望された。先ほどもちょっと申しましたように、日本に有利なように話し合いを日米間では問題についていたしたわけでございます。今後なお必要があれば国内法の制定をいたしまして問題の残らないように措置する考えでございます。
  68. 曾禰益

    曾祢益君 大体伺ったのですが、つまりこういう感じがするのですが、しろうとですから教えてもらいたいのだけれども二国間条約の方がいいということは、つまりまず翻訳自由の方がいいのだ、自由でなければ十年間たったら自由だという意味の、どっちかと言えばいわゆる受け入れる方ですね、外国から、特にアメリカ等から受け入れてこれを翻訳する方の自由を確保したいという意味から、その意味から言えば二国間条約の方がいい、十年間を貫き得れば。こういう意見ではないか。一方それがかりに相当困難だということも含めてやはりこの万国条約の方がいいという意味の人は、主として自分のやはり著作権を外国で保護されることに特に興味を持つ人の立場から言っておるのではないか。そういうような関係があるのじゃほいか、どうなんですか。
  69. 内藤誉三郎

    政府委員内藤誉三郎君) この点はお話のようにベルヌの同盟では翻訳権十年でございますので、翻訳権が十年で消滅するととは非常に私どむも率直に有利であると認めるのです。ただ、実益がそれじゃどれくらいあるかという問題でございますが、ベルヌ同盟に入ったころは確かに日本は文化の輸入国でございましたので、その点は相当有利だったと思うのですが、最近十カ年の統計をとってみますと、これは占領中の期間も入っておりますけれども、十年間に大体本は翻訳されるのであります。ことに学術書はほとんど日進月歩の今日ですから、十年以内には翻訳されております。ただ全集等で若干パール・バックの大地が当るとすれば前の作品まで全集で翻訳する傾向がございますので、実益にはなりませんけれども、今までのところ一〇%という統計が出ておるのであります。この統計は占領中の期間を含んでおりますので、正確な統計とは言えませんけれども、私どもの考えではさらに今後十年間に翻訳されないものは非常に少くなってくるのではなかろうか。それから学者の方々も十年たてばこの条約批准してもいいという御意見があったのであります。というのは、十年間たてば相当文化の輸出国になる。今でも少くとも日本では連合軍の占領等によって日本の文化が相当紹介されておるわけであります、各国に。そういう意味で文化の輸出国の立場を今後とらなければならぬと思うのです。こういう点を考えてみますと、そう翻訳権十年にこだわることは実益がないのではなかろうか、こういう点が一点でございます。  それからこの条約によって少くとも日本著作物が外国でマルCという――今までほとんど不可能に近かったアメリカのような方式主義の国で、マルCに年号と姓名を記すれば簡単に保護されるという道ができたという点においては、先ほど条約局長がおっしゃったように、有利だと思うのです。  なお保護期間の問題でも、日本の現在の著作権法ではアメリカの場合に、アメリカ人の著作物でも生きている間はもちろん死んだ後に三十年という長い期間、今度の条約ではアメリカ著作物については発行後二十八年で一応著作権が消滅することになっておりますので、この点もあわせて考えてみると、さらに翻訳権十年の点はもちろんでありますけれども、今度の条約では法定許諾制というのがございまして、七年たてば一定の料金を払えばだれでも翻訳は自由にできる。こういう道があるのですから、いろいろと将来のことを考えてみまして、日本の今後の文化の交流等を考えてみまして、私どもはこの条約批准するととが適当ではなかろうかという結論に到達したわけであります。
  70. 曾禰益

    曾祢益君 大体それでわかったのですが、私のむしろ言いたい点になりますが、お聞きしたい点なんですが、結局結論としては文化の輸入国としても、完全な翻訳自由なんということはできない、十年ということを目途にしておられるのだが、一方においては輸出国としての立場を考えて、万国条約の方が非常に輸出国の方から見れば保護されるし、輸入側に立っても十年であっても今おっしゃったように、今の日本の国内法よりかそう過当に保護をしなくてもいい、いろいろな便法があるから、彼此考慮して、まあ、万国条約の方に賛成だということに識者の意見が傾いたと思いますが、しかしやはり国内的には主として外国のものを翻訳することの立場に立つ人もいるわけなんです。そういう立場の人から言えば、やはりそれじゃ不満だという意見はないのかどうか、その点どうなんですか。
  71. 内藤誉三郎

    政府委員内藤誉三郎君) 外国物を翻訳する方の方々は先ほど申し上げた団体の中に全部入っておりますので、この方は不満じゃないのです。ですからこの方々は翻訳権を利用する方の方なんです。で、もう一つ、要するに学識経験者の方は、使用する方ですね、つまり著作物を読む方の方、一般の国民のためにはその方が有利ではないかという意見なんです。
  72. 曾禰益

    曾祢益君 その方とは。
  73. 内藤誉三郎

    政府委員内藤誉三郎君) つまり十年たてばただになるのですから、一般の国民には安く手に入る、そういう一般の消費者ですね、生産者と消費者のような形になるわけです。しかし今申しましたように、その十年がそれじゃそれほど実益があるかという点を私ども考えております。
  74. 曾禰益

    曾祢益君 それからアメリカとの関係においても有利だというふうに書いてあるのですね、「有利に規律しうる」今の暫定取りきめですね、これは条約局長に聞きますが、暫定取りきめが失効する四月二十八日以後の著作権関係を有利に規律しうる、これはどういう意味ですか。
  75. 下田武三

    政府委員(下田武三君) 日米両国の暫定取りきめのことは先ほど申し上げました平和条約十二条の一般的の内国民待遇の規定をもう少しこまかく著作権について書いてあるものであります。その内容は要するに日本人の著作物アメリカアメリカ法によって保護を受ける、それからアメリカ人の著作物日本法によって日本で保護を受けるという内国民待遇の規定が眼目にねるのでございます。でございますから、日本人の著作物アメリカで保護を受けるためには先ほど申しました納本登録等の手数を要する、それに反してアメリカ人の著作物著作物が作られたという事実だけによって直ちに日本法上の保護を与えなければならないという不均衡と、もう一つは先ほど社会教育局長が申されましたわが方ではアメリカ人の著作物を長い期間保護しなければならない、そういう不均衡、そのいずれもが是正されるという意味で暫定取りきめの延長よりも万国条約で規律する方が有利だというわけでございます。
  76. 曾禰益

    曾祢益君 そうすると簡単に言えば内国民待遇主義であるから待遇が違って、日本の方は無方式主義で、向うは方式主義である、それから相手国に与える保護期間の相違で日本の方が損だ、従って万国条約の方がまだいいのじゃないか、こういう意味ですか。
  77. 下田武三

    政府委員(下田武三君) 仰せの通りでございます。
  78. 曾禰益

    曾祢益君 そこでこの条約の加盟国なんですが、共産圏はどういうふうになりますか。
  79. 森下國雄

    政府委員(森下國雄君) 共産圏は実は入っておらないのでございますが、これはまあ御承知のように共産国における出版というものは、結局政府あるいは政府のお声がかりのオーガニゼーションが著わしておりますので、自由主義諸国におけるような著作権、つまり個人の財産権としての著作権の保護を厚くしてやろうという考え方がどだい共産間にはないためだろうと思います。
  80. 曾禰益

    曾祢益君 うそしますと、現在たとえば日本人がソ連なり中共なりのあれを翻訳しようと思うとどうなるんですか、自由なんですか。
  81. 下田武三

    政府委員(下田武三君) 自由なわけでございます。
  82. 曾禰益

    曾祢益君 それからいま一つ従来でもときどきいわゆる翻訳旋風というような問題が起っておったんですが、あれはどういう原因で起ってどういう事構で、その問題がこの万国条約に加盟することによってどうなるんですか。それから日本の法律なり、あるいは運営において外国側から非常にコンプレインされるような事態が起る可能性がないのか。あるとすればどういう措置をとられるのか、それらの点についてこれは文部省から……。
  83. 内藤誉三郎

    政府委員内藤誉三郎君) 翻訳旋風という意味がちょっとわかりかねておるんですが、占領中外国人が著作権を非常に法外に高い値段で売りつけてそれで迷惑をかけたというようなことはあるそうでございますけれども、この条約に入ってそれではそういうことが防げるかというお尋ねでございますが、占領中のことはともかくとしまして、日本が独立国になった以上ベルヌ同盟国の関係においてはベルヌ条約で規制を受けますし、アメリカ初め米州諸国との関係については主として万国条約適用されますので、その間において翻訳についていろいろ問題が起きることはないかと思いますが、ただそういう点について起きないように必要な分については国内法の改正をいたしたい、ぜひ私どもは通常国会には提案したいと考えておるのでございます。特にこの条約で問題になりますのは先ほど申しました遡及法ですね、この遡及法の関係をどういうふうに、遡及法がないということで私ども了承しておりますが、遡及法がないということでつまり来年の四月二十八日以後に発行された書物から今度の条約適用される、それ以前に発行したものは前の暫定協定適用する、あるいは保護期間を万国条約、ベルヌ条約の場合には日本は死後三十年と申しておりますが、万国条約の該当国の場合には発行後二十八年で打ち切る、あるいはまあ法定許諾制の問題、どの程度の翻訳料を払えば自由に出版できるかというような問題がございますが、こういう点については疑義をなからしめるように通常国会には提案いたしたいと考えております。
  84. 曾禰益

    曾祢益君 今羽生委員から御指摘あったんですが、ソ連圏のあれは署名してないんですか。
  85. 羽生三七

    羽生三七君 今のとこに、この条約にあるのはソビエトその他共産圏各国の名前入っておるんですが、それに署名した人のないのはつまり加盟国でない、こういうことなんです。
  86. 下田武三

    政府委員(下田武三君) ユネスコの会議でございましたためにユネスコ自体には共産圏が入っておりますのでとの会議にも参加しておったのでございます。そこで会議参加者として国名は出ておりますが、この条約の署名はたしか一九五三年の一月三日までが署名期間でその間署名のために開放されておったのでございますが、結局共産圏はその署名期間中に一国も署名いたしました国はございませんで、またそれ以後加入した国もないかと存じます。
  87. 小滝彬

    ○小滝彬君 ちょっと条約局長にお伺いしますが、これは著作権の問題じゃないけれども、平和条約の十二条で、四年間の期限が切れるわけですね。向うの、相手国の措置に対応して、日本で内国民待遇を与えるのだから、こういう著作権のような問題はあまり起るケースはないかと思うのですが、今度措置しなければならないのは著作権だけなんですか。何かこれに、十二条に関連してほかの条約関係もあるかどうか、ちょっとお伺いしたい。
  88. 下田武三

    政府委員(下田武三君) 十二条の関係は、実は著作権はごく一部でございまして、ほかに工業所有権も、あらゆる財産権の扱いというのも当然ワク内に入っておるのでございます。しかし特にまあアメリカは通商航海条約ができておりましていろいろきまっておりますからよろしゅございますが、その他の国も現在平和条約の十二条の期限が切れるまでに交渉中の国もございます。がしかし、別に十二条が切れるからといって、この著作権の問題みたいに特別の取りきめをしようとか、あるいはそのかわりに多数国間の条約に入ることによって解決しようというような問題はただいまのところ起きておりません。
  89. 小滝彬

    ○小滝彬君 それで文部省にお伺いするのですが、文部省であるいはわからないかもしれないのですがまあ伺います。著作権による収入ですね、日本人の収入、それから日本側が外国へ払っている、払っている方は大蔵省の税収――たしか一五%か二〇%差っ引いて送金するわけなんだろうからそれでわかるだろうと思いますが、との著作権に関連する日本の支払い、あるいは日本の収入というものについての何か概略の統計でもあったら知らしていただきたい。……今調べておられるようですからついでにお聞きするのですが、大蔵省の人は見えておりますか。
  90. 山川良一

    委員長山川良一君) ただいま見えておりません。
  91. 内藤誉三郎

    政府委員内藤誉三郎君) 昭和二十九年度の統計によりますと、こちらの方で受け取っておるのは、円に換算しまして二百二十七万六千円、支払いの方が一億八千九百万円払う方が非常にまだ大きいわけであります。
  92. 小滝彬

    ○小滝彬君 これは国際収支は非常にアンバランスの状況のようなんですが、これはしかし果して実相を現わしておるのかどうか。
  93. 内藤誉三郎

    政府委員内藤誉三郎君) これはちょっと非常に申し上げかねるのですが、その点も今御指摘の点ですね、どうも私どもも若干疑義をもっておるのです。と申しますのは、相当たとえば地獄門あたりでも、これは映画でございますけれども、アメリカで非常に収入が入ったのでございますけれども、そういうものが果して統計に出ているかどうか、私どもも実は疑問に思っもおるのでございます。映画ですと、二千五百万円こちらが受け取りになって、払う方が二十一億、こういう計算になっております。映画の関係は……。で、その辺のところがどちらの方に登録しておるものが全部かどうかという点はちょっと疑問に思っております。
  94. 小滝彬

    ○小滝彬君 私はこれは非常に重大問題だと思うのです。プラント・オブ・キャピタルというようなものも向うへ金を積むという場合も出てきやしないか。もう一つは脱税行為も行われやしないか、当然こっちで税として天引きしなければならぬのが天引きされておらぬのではないか。それから向うと特別の契約をして日本の収入として当然入ってこなければならぬものがニューヨークに積み立ててあるとかというような、こういうおもしろくないケースが今後文化の交流が盛んになるに従ってますます発生する可能性がありはしないかと思うのです。こういう点については、今日は大蔵省の方も見えていないのですから、のれんに腕押しになりますけれども、文部省あたりでこういう国家経済の見地からも、との文化財を保護していく上においてよく大蔵省と協議せられて、そういうところをあまりひどいそういう税のイヴェージョソとか、そういう税をのがれるとか、あるいはドル収入として当然日本が獲得し得べき日本の資産が海外へのがれていくということのないような方法を、ぜひ専門家の方が研究していただきたいという私希望を述べておきます。
  95. 梶原茂嘉

    ○梶原茂嘉君 今の受け取りと支払い関係の数字でこのうちアメリカ関係はどれくらいありますか。それだけ一つ
  96. 内藤誉三郎

    政府委員内藤誉三郎君) アメリカ関係は受け取りの方が百十万円ほどです。それから支払いの方が一億三千九百万、これは普通の円で換算して。それから映画の方が、これは別でございますが、映画関係が受け取りの方が二千三百万円です。それから支払いの方が十八億でございます。これは二十九年度の統計でございます。二十七、八年はもっと三十億ぐらいになっております。
  97. 山川良一

    委員長山川良一君) 小滝さん、今の御発言の点は大蔵省の方でも呼んで何かまたお尋ねになりますか。希望をお述べになった程度でよろしゅございますか。
  98. 小滝彬

    ○小滝彬君 私はそういうことをしないで、文部省を信頼いたしまして文部省からお話を願うことにして差しつかえございません。
  99. 山川良一

    委員長山川良一君) そういうことにして……。
  100. 梶原茂嘉

    ○梶原茂嘉君 これは条約局長に伺いたいのですけれども、現在アメリカと二国間の条約を結んでおるところが四十数カ国あるというお話ですけれども、それは今度の万国条約との関係じゃどういうふうに変りつつあるのでしょうか。
  101. 下田武三

    政府委員(下田武三君) 先ほどアメリかが四十数カ国との間に二国間条約を結んでおると申しましたのは、つまり了メリカが万国条約批准いたします前のごとでございます。過去において四十数カ国とバイラテラル・アグリーメントを結んでおりまして、そしてアメリカが万国条約批准いたしました結果、万国条約の中に既存の条約で得た既得権は影響されないという条文がございます。そこでアメリカとたとえばイギリスとの間の二国間条約で得ました権利は、アメリカが万国条約に入った後でもやはり既得権として保護されるという規定を置きまして、その保護関係を続けておるわけでございます。
  102. 梶原茂嘉

    ○梶原茂嘉君 そうすると、日本が万国条約に加入してもそういう留保ができるわけですか。
  103. 下田武三

    政府委員(下田武三君) とれは当然、たしか十九条だったかと思いますが、日米間の暫定取りきめで獲得いたしました権利というものは、そのまま御破算にならないで、依然としてその条約があたかも継続しておるように前の保護関係が継続するということに相なっております。
  104. 梶原茂嘉

    ○梶原茂嘉君 そうしますると、万国条約に加盟しておるアメリカとの関係においては現在も変更がないと、実質的に。こう解釈していいんですね。
  105. 下田武三

    政府委員(下田武三君) たとえば現在の暫定取りきめのもとでは、日本は国内法によって保護いたしますので、もしアメリカ著作物が十年たってもだれも翻訳する者がなければ、十年後には日本は自由に翻訳し得る権利を得るわけです。そこで今から八年前にアメリカ人が出しました本は、もう二年たつと十年になりますので、もう二年たったら日本は翻訳し得るという関係になっております。従いまして今の条約が発効してからあとでできた著作物についてこの条約適用になるという関係になっております。
  106. 梶原茂嘉

    ○梶原茂嘉君 その留保というのは現在の著作権であって、加入をして発効後は、あとの分はできた条約に規制される、こういうわけですね。
  107. 下田武三

    政府委員(下田武三君) その通りでございます。
  108. 佐藤尚武

    ○佐藤尚武君 つかんことをお聞きするようですが、先ほど共産圏との間の著作権の問題は、かりに翻訳の場合先方のものを日本で翻訳をするのは無償だということでしたね。音楽についても同じことなんでしょうね。つまりたとえばソビエトの音楽を日本で演奏するというような場合に、これもまた無償になろうかと思うのでありますが、そうなりますと、結果は日本の歌劇団が欧米のものを演奏するといような場合には、ずいぶん高い報償金を払わなければならない。それで困っている歌劇団があることを私は承知しているのですが、共産圏のものを演奏するということになる、歌うということになる、その場合には無報償で行ける。結果はどうなるかというと、極端な場合を言えば、日本の歌劇団が共産圏のそういったような音楽ばかりを演奏するとういようなことになるので、もしそうなるとすればこれはずいぶん考えさせられる問題じゃないかと思うのですよ。しかし現行の法律ではそれを極端なところまで行かないように阻止するとか、あるいは調整するとかというようなことはできない立場にあるかと思うのです。そのへんどうなんですか。
  109. 下田武三

    政府委員(下田武三君) 音楽につきましても、この著作物としての扱いは、結局オーケストラならオーケストラの楽譜の著作権の関係になって参ります。そこでソ連が万国条約に入っておりませんので、日本はこの条約に基く保護を与える必要がない。従って、報酬を払うことなくしてソ連の楽譜を演奏し得るということに相なるわけでございます。そこで確かに仰せのようにただだからどんどんソ連の文物が輸入されるということは考えられるのでございますが、しかし文芸にしろ音楽にいたしましても、結局は嗜好の問題でございますから、朝から晩までソ連の音楽を食傷するほど日本の放送会社や音楽家も演奏しない。結局自然の嗜好による統制に待つほかはないわけでございますが、しかし佐藤先生に対してまことに仏に念仏でございますけれども、共産圏におきましては、とのたとえはショスタコウィッチが共産主義のイデオロギーに反した楽譜を作って粛清されたこともございますように、あらゆる芸術がやはりソ連のイデオロギーの伸張の用具にしかすぎないのでありまして、だからとそソ連はそういうものは、財産権としての保護を要求するかわりに、宣伝の具としても広く利用を考えており、そういう共産主義の立場でございますから、おそらく日ソ国交ができましたあとにも、ソ連側からソ連の音楽なりあるいは文物なりの財産権としての保護を日本要求してくるということはまずないのじゃないかと思います。そこで日本の放送会社なり何なりの良識ある選択に待たざるを得ないという面がありますことは、ほんとうに仰せの通りだと思います。
  110. 梶原茂嘉

    ○梶原茂嘉君 今回の条約は内国民待遇のプリンシプルをとっておるもので、国内におけるこれに関連する法律が私きわめて重要じゃないかと思うのです。先ほど社会教育局長はこれに関連して次の国会に法案を出すというお考えを述べられております。大体その法案の重要ね事柄を一つ次の機会にでもお知らせを願いたいと思います。
  111. 内藤誉三郎

    政府委員内藤誉三郎君) 目下この日本の著作権法には二十八条で条約の定めるところによると書いてありますから、まあ必ずしも国内法がいいかどうかという点については問題があるのですけれども、私どもとしてはこの点を明確にするために、著作権法の改正をいたしたいと考ておるわけでございます。その内容は先ほど申しましたように遡及効の問題が一つございます。つまり万国条約をいつから適用するか、来年の四月二十一日以後に発効されたものから適用する、それまでは従来の日米間の暫定協定の効力を認めていく、そういう点が一点でございます。  それから普通の著作物保護期間の問題ですが、死後三十年間保護しなければならない。たとえば十年以内に翻訳したものは著者が死んでから、生存間はもちろんですが、三十年保護しなければならんという国内法でございますが、これを発行後二十八年に打ち切るということは、万国条約の該当国の場合には発行後二十八年に打ち切るということは特別な関係でございますから、これも国内法に規定した方がいいと思います。  それからベルヌ同盟国とユネスコの関係でございます。これも必要があればその調整をはかりたい。ベルヌ同盟国の場合は従来の著作権法が要る、万国条約の該当国の場合には万国条約でいくという点を明らかにいたしたいと考えておりますが、まあ重要な点はただいまも申しましたような点でございまして、なおこれは法律に入れるかどうか疑問でございますが、マルCの記号あるいはこれを表示する場所、こういうような点を明らかにしておかなければなりませんが、これは告示でいいか、法律の中に規定するか、こういう問題がございまして、目下法制局と大体内容については打ち合せをしておるところであります。
  112. 羽生三七

    羽生三七君 この条約の署名国はちょっと今見ると三十六カ国ぐらいのようですが、現在までに批准した国は何カ国ですか。
  113. 森下國雄

    政府委員(森下國雄君) 現在までこの条約批准しました国は十六カ国でございまして、アンドラ、カンボジア、チリー、フランス、西ドイツ、ハイティ、イスラエル、ルクセンブルグ、モナコ、スペイン、米国、ヴァチカン、コスタリカ、ラオス、パキスタン、フィリッピンでございます。在外公館からの報告によりますと現在批准を急いで手続中のものがイギリス、スイス、シリア、イタリア、オランダ、インド、ノールウェー、ポルトガル、メキシコ等の国でございます。、近い将来に半数以上の国がこの条約批准すると思います。
  114. 羽生三七

    羽生三七君 これは全くこの条約関係のないことなんですが、文部省にお伺いしたいのですが、二、三カ月来新聞をにぎわしておった例の外国映画の日本における映画審議会というのですか、あの問題は、どちらがいい悪いということは別として今どういうふうになっておるでしょうか。だいぶ外国映画の中の一部の映画の与える影響でずいぶん論議があったようですが、その取り扱いはどうなっておるのですか。
  115. 内藤誉三郎

    政府委員内藤誉三郎君) ちょっとその前に先ほどお尋ねの件で、国内法の整備の中で法定許諾制の問題が一つあるのです。七年たった場合これも検討しております。それから今のお尋ねの件でございますが、日本の映画の場合には映画倫理規定がございまして、映倫の審査を受けておるわけです。外国映画は全然審査を受けていない。そこで今のところは外貨のワクで制限をしておるので、その点で外貨のワク内でこちらに持って来た場合に、これを日本が拒否するということはちょっとできかねるのでございます。そこで国内的にこれを見せて非常に害があるというような映画については、政府としては今のところ取締りの法的措置がないわけであります。この間ちょっと問題になったのはアメリカの高等学校の学生の映画でございまして、「暴力教室」という非常にちょっと乱暴な風紀的にもあるいは教育的にも好ましくない映画がございました。これについては文部省として審査委員会にかけて皆さんの御意見も尊重して全国の都道府県に流しまして、府県の方ではそういう青少年に不良なものを見せないようにするという条例がございます。その条例を発動して青少年に観覧を禁止した県が相当ございます。そのほかそういう条例のない所では各学校長からこれに準じてこういう映画は見ないようにという取扱いをしております。ただいま申しましたように日本映画の場合は今のところ映倫の審査を受けてパスしたものだけが文部省に行きまして、文部省でそれを教育的にいいものは選定をして府県に推薦をしております。外国映画ももちろん教育上いいものは選定措置をとっております。悪いものを取締るという、今のところ法的措置はないのでございます。外国映画社の方では民間の映倫の審査を受けるのは困る、しかし権威ある官庁の審査なら受けてもいいというようなことも聞いているのですが、今のところこの措置についてはまだ具体的な措置はとっておりません。何か不良出版物、不良映画の対策は講じなければならんかと考えまして、目下検討はいたしております。
  116. 羽生三七

    羽生三七君 それはなかなかそういう問題の取扱いはかなり重要だと思うし、それからさっき佐藤委員の御発言にあったけれども、これは民衆の自由な選択がいいかもしれぬけれども、どちらがいいかは別として外国はどういう取扱いをしているのですか。自由ですか。何か日本の出すものについて輸入上の制限とか、そういうものがあるのでしょうか。外貨の割当だとか純粋の商業上の取扱い、純粋に自由なのか、それはどうでしょうか。
  117. 内藤誉三郎

    政府委員内藤誉三郎君) 外国の事情をそうつまびらかに知っておるわけではございませんが、イギリスでは青少年に不良出版物、不良映画等を禁止するような立法措置が講ぜられようとして議会に提案されるといろ話は聞いております。それからドイツにおいても、フランスにおいても青少年に対する不良な出版物、映画等を禁止するような措置をとっておるようでございます。
  118. 曾禰益

    曾祢益君 認定は誰がするのですか、それが問題です。禁止するにしても認定を誰がするか。
  119. 内藤誉三郎

    政府委員内藤誉三郎君) これはその審議会でやり、あるいは裁判所でやっているところもあるようです。
  120. 山川良一

    委員長山川良一君) それでは本日はこれにて散会いたします。    午後三時五十一分散会