○
内田政府委員 先ほ
ども申し上げたことでございますが、その出身地ということで画一的に区別できますならば、非常に簡明なわけでございます。しかし、実際問題は、先ほど来申し上げておりますように、
台湾の出身者で
中共の方へ行きたいという人もたくさんございますし、われわれは、そうい
つた今の
状況下におきましては、その出身地だけで画一的にやるということは妥当ではないのではないかと
考えまして、なるべく
本人の
意思を尊重するという
考え方で、現に
台湾出身者の人でも相当
中共へも多数
帰つております。そうい
つた角度から、出身地がこの場合に
中国本土であるからこれを
中国本土に帰すべきではないかという御意見に対しては、それはむろん一つの大きな要素ではございましようが、常にそれだけでは参らないというふうに
考えておるのでございまして、それがまた
本人の利益にも合うのではないかと
考えております。
それから、
華僑総会に手紙を出して、
自分は
中共へ行きたいのだという
意思表示をしたというのは、あるいは事実かもしれません。私はその手紙を見ておりませんから、それはあり得ないとは決して
考えませんが、問題はそれをいつや
つたかということでございます。われわれとしましては、この
送還の問題というものは実はなかなか厄介な問題なのでございまして、たとえば、先般
台湾への
送還が済みました直後に、約八十名の人がおりましたときに
調査いたしてみたのでございますが、そのとき積極的に
意思を表示いたしました者は、たしか
中国本土が十三でございまして、
台湾が十二、香港が五、つまり三十名だけがともかく
意思表示したのでございますが、
あとの約六十名の人はみんな未定とかあるいは
日本に残りだいとかいうような、つまり
送還先の
意思表示をいたさないのでございます。これは一つの例ではございますが、
中国の人の
退去強制者の
実情はこういったことからも現われておるのでございまして、なかなかはつきりした
意思がつかめないのでございます。しかも、われわれは、それでは
意思がつかめないからいつまでも
送還の
手続をやらないというわけには参りません。なぜならば、そういたしますと、今度は
意思のはつきりしない者はいつまでも収容所に置いておかなければならぬということになりまして、これでは収容所としても迷惑でもございますし、また収容が長期になるということの結果、別の形で
人道的な問題も生じて参るわけでございますので、われわれとしましては、ある一定の時期に表明された
意思に
従つて相手国と引き取りをかけ合うというよりいたし方がないわけでございます。
それで、われわれとしましては、積極的に
中国本土に帰りたいという
意思表示をいたしました者は、十分に尊重いたしております。のみならず、この前の
興安丸のときのように、そういう
意思表示をした者以外でも、こういう機会があるのだから
中国本土に行く人は帰りませんか、こういうようなこともや
つておるのでありまして、そうい
つた機会のあるごとに、なるべく
自分の
意思を尊重した形で早期の
送還を実現したいという努力はいたしておるのでございます。しかし、どうしてもその
意思表示をしない、あるいは少くとも
中国本土であるということを積極的に
意思表示をある時期にしない者につきましては、これは、今日
日本が置かれております外交的な状態、つまり
正規に国交を持ち、ここに
大使館なり領事館もある
国民政府というものを相手にこの引き取り方を交渉せざるを得ないというのがわれわれの置かれている
立場だと
考えております。また現にそうや
つて参
つておるのでございます。そうして、約一年来の長い交渉の結果、今年の六月に初めて
台湾の方から直接しの
送還の係員が参りまして、この問題を進捗せしめたのでございますが、そのときの向う側の言い分は、決してわれわれが申しておりますようなことを全面的に承諾をしたのではないのでございまして、
台湾がやはり人口過剰で悩んでいるせいで、向うもなかなか引き取りを喜ばないのでございます。それをわれわれの方でいろいろ苦心交渉いたしまして、それでは
台湾に帰りたいという者は引き取りましょう―。しかし、われわれの方から申せば、
中共に行きたいという者を除けば全部
台湾で引き取
つてもらいたいというのが主張なんでございますが、向うは、その中で
台湾に帰りたいという者は引き取りましよう、その
意思を
自分たちで確認したいからということで申し出がございましたので、それに基きまして、
浜松の収容所で向うの人にその
意思の確認をさせたわけでございます。そうしてその結果百二十四名の
リストが参りましたのは九月の二日でございます。従いまして、その当時もう九月二日には全部わか
つてお
つたのでございますから、どうしても
台湾はいやで
中共へ行きたいというようなことならば、その当時にでも申し出があ
つたならば、これはまたいろいろ考慮の余地もあ
つたかと思うのであります。ところが、実際上、その当時われわれは毎日のように
台湾側とも接触し、また
本人たちとの接触もや
つたのでございますが、一番紛糾いたしました問題は、帰国前にだれを仮
放免してくれるかということであります。いろいろ家事の整理とか何とかで仮
放免をしてもらいたいという希望が強か
つたのでございますが、その点につきましては、前の
興安丸で非常に苦しい経験を持
つているものですから、そうルーズな仮
放免ば今度はごめんだということで、いろいろ
調査などをいたしまして、五十数名に仮
放免の許可者をしぼ
つたのでございますが、そうい
つたいきさつでもめましただけでございまして、本来
中共へ行きたいのに
台湾の
送還の方にな
つておるのは困るとい
つたような申し出は全然なか
つたのでございます。ところが、十月の末に至りまして、突如としてそういうことを申し出て参
つたのでございまして、われわれとしましては、
政府の行為といたしまして、むろん
本人の
意思はできるだけ尊重いたしますが、しかし、それにはおのずから適当な時期に適当な方法でということがやはり問題なのでございまして、船の出港た瞬間にな
つて自分はいやだというようなことまで一々聞いておりましたのでは、これは
送還ということが全般的に実施し得なくなるという角度から、いろいろ検討いたしましたが、結局、先ほど申しましたように、二名につきまして相当な理由があると認めた者の
送還を停止いたしました以外は、
送還を実施いたしたわけであります。