○江口
参考人 ここにありますチャートを使わしていただいて、漁場の実相をとりあえず申し上げさしていただきたいと思います。
李承晩ラインを引きましてから
韓国の艦艇の一番出没するコースといいますのは、大体釜山と済州島を結んだ、いわゆる済州島の東側のラインでございます。この海域は、御
承知のようにサバのきんちやく網、これは長崎県、福岡県、山口県のいわゆる西
日本のサバきんちやくの宝庫でございましたと同時に、千葉県、神奈川県の方から出漁しておりましたサバのはね釣船も、同じようにこの済州島の東側水域に依存度が非常に高か
つたのでございますが、先ほど申し上げましたように、この水域には、釜山及び済州島を結ぶところの艦艇の動きが一番多いものでございますから、時に消長はありますけれ
ども、危険度が一番高い。ことに昨年の秋以後、このコースにおいては、この周辺に出漁すれば必ず拿捕されると言
つていいほど危険な水域になりました。従いまして、はね釣船の、遠く神奈川県あるいは静岡、千葉から出漁しておる船は、もう全然西の方には出漁して参らなくな
つております。しかし宿命的に地域の縛られておりますところのいわゆる西
日本、九州のサバのきんちやく網は、ここの漁場に一番近接しておりますし、根拠地もまた近いものでございますから、この漁場がなければ、これが致命傷になりますので、間々出漁すればまた拿捕というようなことで、まき網漁業につきましては、
李承晩ラインの存在はまさしく致命傷であ
つて、業態が非常に苦況を呈しておるという状況にあるのでございます。
一方済州島の西側の水域でございまするが、この水域につきましては南側の水域と含めて御
説明申し上げます。これは同じ
李承晩ラインがしかれたと申しましても、昨年までの経験からいいますと、大体済州島の西側水域であの百二十四度線に
李承晩ラインがしかれておりますが、あれより約三十マイルないし六十マイルの水域にはあまり
韓国の艦艇は出没しておりませんでした。ことに昨年までは中共との関係が悪くございまして、中共の船が百二十四度線まで来ておりましたから、大部分のトロール、底びきの船というものは百二十四度と百二十五度との間の六十マイルの間で操業する。それから南の方でいきますと、今の
李承晩ラインのうち約三十マイルは大体安全圏と見て操業してお
つたのでございます。ところが今年になりますると全く情勢が一変いたしまして、ことに去る十一月の十八日のいわゆる砲撃、爆撃声明をいたしました日になりますると、この
李承晩ラインの一番南の端のところ、先ほど申し上げましたように、従前比較的安全な水域と思われているところに対して
韓国の艦艇が出撃をしてくる、こういう
事態にな
つたのでございます。そうして
韓国の西側の水域につきましても、同じように
ちようどあのラインを
一つぱい
一つぱいに
韓国の艦艇が出てきております。そうしてそこに使
つておりますものの中には、か
つて日本から取りましたトロール船二はいも、
向うの船としてそこで操業をしておる。われわれは操業をしておるのを確認しておりますが、それが武器を持
つておるかどうかはいまだに確認しておりませんけれ
ども、それが通報すると見えますると艦艇の出撃がある、こういうような状況になりまして、いわゆる砲撃、爆撃声明以後というものは、全
李承晩ラインは完全に締め出されたという状況に相な
つておると見て差しつかえはないのでございます。それでこういう広大な水域でございまするが、もちろん海の上に線が引かれておるわけではございませんから、つい一カ月くらい前の事件におきましては、
李承晩ラインを越えて
韓国の艦艇が
日本の船をとつつかまえた、こういうケースもあるのであります。これに対してこちらの方から全ミッションの方に抗議を申し込みましたが、結局つかまえてい
つてからの話でございますから、これも永かけ論で泣き寝入り、こういうような状況でございまして、御
承知のように百九隻の未
帰還船と六百五十一名の未
帰還者という
状態にな
つております。すなわち四年間
李承晩ラインに苦しめられましたけれ
ども、今日の状況が最悪であ
つて、どん底の
状態であるということ、あのラインの中に、あるいはラインに接近すれば、ラインの中に入らずとも拿捕される状況にな
つておるということは、はつきり申し上げられることだと思います。
そこで私
どもといたしましては、一体これに対する対策ありやなしやということなんでございまするが、これに対して
政府に
日本の巡視船、監視船というものをどう配置を
お願いしたかということを申し上げますと、大体水産庁の巡視船は漁業取締りの面で日中漁業協定の方の線、ずつと中国寄りの線の方に一応回
つていただいております。そうして一番速力の早いところの海上保安庁の巡視船にこの
李承晩ラインの中に入
つていただいて、
向うの艦艇を見つけたら通報していただく、あるいは
向うの電波を捕えてこれを知らせていただく。こういう情勢にな
つて、海上保安庁の船に先月十八日の砲撃、爆撃の声明にもめげずにこの中に入
つて通報していただいておることに対しては、私
ども非常に感謝をいたしておるわけであります。しかし私は今度の十二月三日の
日本の武装船、いわゆる巡視船といえ
ども、これを砲撃あるいは拿捕をするというあの声明以後、一体海上保安庁はどういう方針をおとりになるのか、こういう点については、現地の業者は
政府の方針というものについて一応の危惧の念を持
つておるということもまた争えない事実であると思います。こういうような漁業の実相からいたしまして、漁業者は底びき漁業をきんちやく漁業と同じように非常な苦しみに立
至つておるわけでございます。ことに最近拿捕されました船は李ライン外というようなことでございまして、業者は今このラインの内外の拿捕に対しまして、一応
政府として保険制度でも
つてカバーされておる事実はございますけれ
ども、中には保険金というものは一カ年に大体一組に対して百万円くらいの
程度の金がかかりますから、非常に貧困にあえいでおりますところの西
日本の漁業の実態からすれば、一カ年百万円の支出というのは相当大きな支出になります。従
つて無保険の
状態において船も人も取られておるというケースも非常に多いのであります。そこで私
どもは今度大挙上京いたしまして御存じのような行動を起したわけでございますが、私
どもはこの問題を、いわゆる
国内的な問題と対外的に
処置できる問題の二つに分析をいたしましてそれぞれ
お願い申し上げておるわけでございます。何と申しましてもこの
公海で安全操業ができるということが私
どもの根本のねらいでございます。しかし少くとも四年間苦しみ抜いてきた私
どもから見ますと、
李承晩の現在と
つておる政策については、果して私
どもは
日韓会談というものが言うべくしてできるだろうか、
李承晩政権のと
つておる政策というものは、結局反日政策が彼の政策の基盤にな
つておるのじやないか、
李承晩ラインを認めるなら
日韓会談を再開してもよろしいということは、無条件降伏してこい、財産請求権を全部放棄してこい、それなら
会談を開くという態度、ことに最近相次いで見ます態度、ことにけさの新聞を見ますと、きのうもまた重ねて全
韓国の警備艇を集結させて、
日本の
漁船は追つ払うし、拿捕
抑留するのだと言
つておるようであります。そういう
状態から見ますと、私は言うべくしていわゆる
日韓会談の平和的促進ということは非常に困難である、彼らの政策が
日韓会談を決して
日本に対して友好的に促進するものとは考えられません。しかし私
どもが言いたいのは、あすこで使
つておる武器あるいは油にしましても、ことごとくアメリカから供給されておるのでありますから、私はアメリカが油を止めただけでも
韓国は艦艇の出撃はしないと考えます。私は十月にアメリカの大使館に参りましたときも、そのことを実は率直に申し上げたのでございまして、油がなければ
韓国の艦艇は明らかに動かないのでございまするが、私
ども漁民の狭い見聞からいたしますならば、なぜアメリカがこの問題に対して積極的に援助をしてくれないのか、こういうふうに考えておるわけでございます。もしいかなる形においても百二十四度線という
李承晩ラインが認められますると、これは大
へんなことだと思います。と申しまするのは、ことしの春成立しましたいわゆる民間による日中漁業協定におきまして、中国側が最初に打ち出しました線は、この海洋を三つに分けまして、百二十四度から西は全部中国が漁をする場所だ、それからその隣合
つているところが日中双方の入会漁区だ、それから
日本に近いところが
日本の漁区だ、こういうふうにして漁場を三分割する案を中国が持
つてきたわけでございます。幸いにこれは
日本側の代表団の努力で、そういうことでなく話は片づきましたけれ
ども、百二十四度線というものがいかなる形において残
つて、その間に入会的な
日韓間の
会談がもしできるとするならば、中国もまた来年日中漁業協定が更新されるときに同じ漁場の分割論が出て参ると思います。そういたしますると、私
どもはやはりどういう形にしろ
李承晩ラインというものは徹底的に排撃していかなければ、西
日本の漁業者の生きる道はないのだ、こう考えて、しかもなおこの外交問題というものが果して平和的に話ができるかどうかということについては、非常な危惧の念を持
つておるわけであります。
何と申しましても、私
ども当面の問題は、六百五十一人の人間の即時送還の問題でございますが、これは次の
参考人から申し上げることとして、もう
一つのと
つておきの手は、これもわれわれの狭い見聞でございますが、やはり
朝鮮に対する経済の断交をするということが民間側として考え得る最大の武器でないかということも一応考えております。たとえば
朝鮮のノリの輸入が御
承知のようにとまりますると、
朝鮮の約十万
——これはもちろん兼業者を含みまするが、その人たちは
朝鮮ではノリがはけませんから非常に苦しむのでしようが、それは結局今の
日韓間の政策が悪いのだといいまするか、
李承晩の政策が悪いのだというようなことになりまして、
日韓間の経済が切れた場合において一体苦しむのはだれかということを考えますると、当然のことながら
韓国側が苦しむ点が多いと思います。そう考えますると、私
どもは最後のと
つておきの手として、国家としてこの手をお考え願うことはまたやむを得ないのだと思いまして、新橋駅頭でこの決議をしたわけでございます。
さて
国内問題でございまするが、特にただいま申し上げたような対外的な問題は相手のあることでございますから、いろいろあと先困難な問題を包蔵いたしましようが、
国内問題はそれはそれなりに当座手を打
つていただきたいのはあとからやはり
参考人として並んでおりまする遺家族及び
抑留家族の援護の手については、早急にこの十二月のうちにあたたかい手を差し伸べていただきたい、こういうことでございます。それと同時に、漁業経営者が極度戸行き詰まりをいたしますると、これがまた
一つの大さな社会問題を引き起すと私
どもは思います。それにつきましては現在の特殊保険いわゆる船が拿捕された場合における特殊保険制度並びに給与保険制度というものについて、もう一ぺん先生方にお考え直していただく段階に来ておるのではないかと思います。と申しまするのは、もし砲撃、撃沈された場合においては、普通保険でも現在の特殊保険でもカバーしてくれません。まして先ほど申し上げましたように、保険料そのものが保険という建前からして、もし赤字にな
つた場合には国の給付をいただいておりまするけれ
ども、原則的にはやはり出入りがペイする勘定で保険料率というものがきめられております。そうしますると苦しい業者のうちには、ことに季節的にはかけないでいくということがあ
つて、拿捕されておるという実例もまた多いのであります。そう考えますると、私
どもとしては国のこの難儀をしわ寄せされた場合において、この保険制度でカバーするという
考え方を抜本的に
一つ考え直していただいて、
韓国の不法行為によ
つて撃沈もしくは拿捕された場合における船体の損害並びに
抑留者の
抑留期間中における
生活保護というものは、保険ということでなしに国がごめんどうを見ていただけるようにぜひ
お願いしたいものだ、こう考えておるわけでございます。
それからそのほかに漁業者がこれだけ行き詰ま
つた問題に対して、サバきんちやく、あるいはサバはね釣、以西底びき漁業というように、直接的に
李承晩ラインの不法行為によ
つて極度の疲弊をいたし、しかもなおかつ国家としてこの産業を助長していかなければならないのだ、こう宿命づけられた産業に対しましては、国の融資なり、部分的の補償なりという問題についてもとくと御配慮を願いたいと私は考えます。総論的なことを申し上げて、次の
参考人とかわりたいと思います。