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斎藤参考人 私は
林会長の依嘱によりまして、本年の七月二十日と、それから十月二十四日と十一月六日の三回にわたりまして、この
地帯における
崩壊の状況を
地質学的に
調査いたしました。時間が局限されておりますので、ごく簡単に御説明申し上げたいと思います。
委員の諸
先生方には、私の
調査書が二通お
手元にあるかと存じますので、ごらん願いたいと思います。
私はこの三回の
調査におきまして、
結論としては、
崩壊、
陥没は現に行われている、こう
結論いたしております。従ってこの
結論に達した以上は、その対策として適切な
方法を講じなければいかぬ。その適切な
方法というのは何であるか。それは
ダムの水を排水して原地形に戻して、あらためて厳密な
地質調査をして、その上で
護岸工事の必要があれば
築堤をする、そういう
結論であります。その
結論に達しましたことは、現在
崩壊しているとか、
陥没しているとかいうふうな論争ではないのです。現に
崩壊しており、現に
陥没しておるという事実に対して、これはもう何人といえども否定できないと思う。もちろんどなたかが
現地に行きまして、現場に来られまして、どこが
崩壊しているんだ、どこが
陥没しているんだといっても、それはその瞬間において目撃はできない。これは有名な地動説を唱えた
ガリレオが、ローマ法王に呼ばれたときに、お前は
地球が動いているなどと不
都合なことを言っているが、
地球など動いてはいないじゃないか、こう言ってしかったことがある。ところが
ガリレオは、いや
地球は動いているではないかと言った。これは有名な話であります。しかし現在は小学校の児童といえども、
地球が動いているということ、自転しているということは、だれだってわかっている。と同じようなことになりますが、現在
片掛の
ダムの
沿岸の
地帯は、刻々侵食され、間断なく
陥没が行われており、また
崩壊が行われておる。では何によってそういうことが立証できるか。なぜ
陥没しておるか、なぜ
崩壊しているか、その事実は何によって
結論づけられるかということにつきまして、私は二回の
報告書に大体の要点を申し述べてあります。
この付近の
地質は、基盤と称しますか、
岩磐といいますか、基礎になる岩石が、
中生代の
頁岩層——これは学名で
シェールといっておりますが、
シェール層からできております。この
シェール層というのは、
粘土質の
物質が長い年月の間に固まりましてできた水成岩、それが圧力を受けまして褶曲をしている。その下を
神通川が流れている。ところが、褶曲している
中生代の
頁岩層の上に砂の層が乗っているのです。これはかなり厚いものだと想像されます。
地元の林さんその他の
方々の話によりますと、
湛水する前においては約三十メートル以上の
砂層があった。そこには
たんぼもあった。それが現在は
水底に没しております。私は
地元の方の言われるのを信頼しまして、まず
砂層は三十メートル以上のものがある。そこに水がたまったのだ。そうすれば当然これは侵食されるのであります。御承知のように、砂というものは
粘土物質が入っていない限り、ただ砂である場合には
凝集力というものはゼロである。にぎったら必ず落ちてしまう。中に
粘土の
物質があれば、にぎった場合に固まるのです。でありますから、
凝集力のゼロな
砂層に向って水が入っていけば、これが
崩壊するのは当然なんです。
それからもう
一つ申し上げたいことは、
工業技術院の
調査によりますと、
崩壊個所三カ所、そのうちの二カ所は
岩磐が
湛水面より上に出ているのだという。私は大体六カ所の
崩壊個所を確認し、一カ所の約五百五十メートルにわたっている大
陥没地帯を確認しているのです。これは論より証拠です。
現地をごらんになれば一目瞭然である。
砂層というものは、これは侵食いたしたらゼロに等しいものである。どんどんくずれていく。ではその
岩磐自体はどうか。
岩磐というものは、これは非常にばく然とした言い方でありまして、
岩磐にも非常に弱い
岩磐と非常に堅固な
岩磐とあるのであります。この
地帯の
岩磐と申しますと、いわゆる
シェールでありまして、この
シェールの中に
ブラック・シェールというのがあるのです。黒い
頁岩、これが入っておる。これが
炭質物であって、ちょっと突くと、すぐボロボロと落ちるのです。水にも弱い。現在私が申し上げました六カ所の
崩壊個所のうち、
岩磐の出ているのは二カ所なんです。そこに差し上げてあります四号、五号というのは
湛水面から一メートルないし二メートルほど出ておる
岩盤なんです。その
岩磐の中に
ブラック・シェールが入っておる、でありますからこの
ブラック・シェールがちょっとの衝撃を受けますとぼろぼろ落ちるのです。これは最も弱い
岩磐なんです。その上に七十度くらいの傾斜でもって
砂層が二十メートルくらい乗っかっておる。幅も二十メートルくらいのところが二カ所あります。でありますから雨でもどんどん降ってきますと雨がどんどん浸透していく。そうすると
雨水自体の重みがかかる。そこへもっていって六十度、七十度というのはすべるには格好な角度なんです。そこへもっていって、下の
岩磐が底の方からころころと
崩壊していくのですから当然すべるのです。すべるには最もいい
条件なんです。そういうふうな
岩磐なんでありますから絶対に安全だとは言えない。そうしますと
岩磐自体においてもこれは
補強工事をしなければならない、こういうことになると思います。いろいろまだ申し上げたいことはございますが、結局非常に弱い。なぜこういうところに
ダムを作ったかということを私は疑問に思っているくらいです。
それからもう
一つ私が非常に不審に思うことは、こういうふうな地方から見ても、
高山線が通っておりますが、
高山線の通っているところは全部砂なんです。私はいつも山の
調査であそこを歩きますが、下の方に神通の
ダムの
堰堤が見える非常に景色のいいところでありますが、それを見ながら、どうしてこんなところに
ダムを作ったか。何かまた
事件が起るのじゃないかと思っていたやさきに、調べて見ろというので、調べに行ったわけです。そういうふうな
地帯なんです。それで私が今申し上げたように、非常に疑問とするところは、こういう軟弱な
崩壊しやすい
地帯に
ダムを
建設する、
建設するのはいいんですが、なぜ
湛水する前にもっと厳密な
調査をして、そうして
護津築堤工事をして、その上でなぜ
湛水しなかったか、こういう点なんです。これは
通産省が
監督官庁だと思いますし、
北陸電力会社がこれを経営したものと思いますが、
役所にも
会社にも、私などよりもはるかに優秀な
技術者の方がおられると思います。そういう
方々がおるにもかかわらず、十分な
調査もしないで、こういう
事件を起したということは、どう考えても私にはわからないのです。
それで私の
意見としましては、これはまず水を出してしまってもう一度厳密な
調査をして、そうして
築堤、
護岸をしていただきたい。私は
林会長を初め
片掛部落の
農民の
方々に会いまして千数百年来血と汗と涙でこれを維持してきた
土地が、見えざる力でだんだん
崩壊していく、その
人たちの気持を察しまして、われわれはもう損得を超越して私は協力申し上げておるのです。私は
京都大学で
地質を専攻しまして現在まで約三十年になります。その間各所の
鉱山の所長などもしましたし、
北支那政府の顧問として大陸の
地下資源開発にも当りましたし、あるいはまた
坑夫どもと坑内に入りまして苦楽を共にしたりいろいろいたしましたが、私はもう現在野人でありますから何ものもおそれませんが、ただ
一つおそれるのは神なんです。私は
神様を非常におそれる。私の言う神というのは火と水なんです。これは神なんです。この火と水に対してわれわれは敬虔でなければならない。それで
電力会社がこの
神様である水をとめて、その水を利用してそして
電力を起す。これは神の
恩恵であります。これは大いに神の
恩恵を受くべきであって、これによって日本は神国の面目を保つことができる。ところが、
電力会社がただその
神様を利用するだけ利用しておいて、そうしてそのわきに泣いている
農民を見捨てて、知らぬ顔をしている。何ら誠意のある
態度をとらない。
役所もそうである。そういうことでは、これは私に言わせれば
政治ではないと思う。決してりっぱな
政治ではないと思います。私は非常に神をおそれるのです。でありますから、この神は必ず一方には
恩恵を与えているかしらぬけれども、必ずこの
神様は大
崩壊をもたらすようなことになる。私はもう少し
監督官庁なり
北陸電力なりが、神に対して敬虔な
態度をもって反省しなければいかぬと思うのです。現在
崩壊が続いている、
陥没が続いている、これは神の
警告だと思う。すなおにこの
警告を受け入れまして、よく反省されまして、
地元の
方々の要望をよくお聞きなって、そうして円満なる御解決をしていただきたい。
本日は、この最も権威ある
国会の
決算委員会に出席することができまして、各諸
先生方に私のつまらない
意見を申し上げることができましたのは、私はこれは
一つには神のおぼしめしだと思っています。これは神意だと思っています。どうか御多忙だとは存じますが、
現地を一度ごらん願いまして、
実情を十分把握されんことをお願いいたします。はなはだ失礼いたしました。