○梶原茂嘉君 私は
ただいま上程せられておりまする
農産物に関する日米間の
協定の
締結の
承認について、
緑風会を代表いたしまして、これに
賛成の
討論をいたさんとするものであります。
御
承知のように、
わが国の
食糧事情は、最近かなり改善せられて参ったのでありまするが、
食糧増産への非常なる努力にもかかわらず、いまだ米につきましては消費規正を建前とする全面的管理が行われておるのであります。しかも、
多額の
食糧を海外より
輸入することによって需給のバランスがようやく保たれている状況にあるのであります。
昭和三十年度におきましても、米について百三十万トン、麦、
小麦、
大麦を合せまして二百九十万トンの巨額を
輸入せざるを得ないのであります。この数字は昨二十九年度に比して相当増加をいたしておるのであります。かかる状況のもとにおいて、この
輸入食糧の巨額な代金が、外貨にかえて円をもって決済され得るといたしますれば、
わが国の
経済のために大なる
利益であることは、これは明白であります。さらにまた、その支払うべき代価が
わが国にとって適切な
施策のために有利に活用し得るといたしますれば、これまたきわめて好ましいことと言わなければならぬと思います。一方
アメリカにおきまする
余剰農産物の滞貨が、
アメリカにとってきわめて重要な問題でありますことは御
承知の
通りであります。それだけに、量の多少にかかわらず本
協定によってこの
余剰農産物の一部が処理されるということは、
アメリカにとって
利益であろうことは、これは想像にかたくないのであります。
農産物に関しまする今回の
日本国と
アメリカ合衆国との間の
協定は、私は純然たる
経済的性質の
協定であろうと思うのであります。従ってわれわれはその観点からこれを見ることを
必要とするのであります。本
協定によって日米両国がそれぞれの立場においてともに
経済的の
利益をもたらすことができるのである。両国が
経済的協力の実をこれによっておさめんとするということは、
わが国の立場からいいましても適切なことであり、妥当なことであろうと私は思うのであります。
しかしながら以上のことは、決してこの
協定が
わが国にとって単純に、かつ簡明に、
利益だけであるということを
意味するものでは決してないのであります。むしろこの
協定には
委員長の
報告にありました
通りに、相当複雑な利害を伴うものでありまして、処理いかんによりましては、重要な
影響を
わが国の
経済に及ぼすおそれは多分にあるのであります。すなわち、
国内におきましては、
農民の正しい理解を得る措置を誤まりますならば、本
協定が
わが国の
農業に好ましくない
影響を与えるおそれがありますことは、これはいなみ得ないのであります。
酪農製品の無償
贈与、これが困難な状況のもとにありまする
わが国の酪
農業に及ぼしまする悪い
影響につきましては、何人もこれを否定することはできないであろうと私は思うのであります。さらに、対外
関係においてこれを見ますれば、
わが国の正常な
輸入に支障を与え、ひいては
輸出の増進に悪い
影響を与えるおそれは、これはないとは言い得ないのであります。これらの
影響のあるなしということを軽視するということは、これは私許され得ないことと信ずるのであります。かかる問題を本
協定はその
内容に包蔵しているのではありまするが、これらのことは現在の程度におきましては、
政府の
施策よろしきを得まするならば、おおむねこれを防ぎ得るであろうと私は考えるものであります。半面、本
協定の持っておりまする重要なる意義の一つは、
見返り円資金の利用が
わが国経済自立の上において根本的な要請でありまする資源の
開発、特に農地
開発に寄与することを私は重要視するものであります。
私は以上の観点から、本年度の
農産物の
輸入に関連いたしまする措置としての本
協定の
締結の
承認に賛意を表するものであります。この際、しかしながら私は、
政府に対して以下数点にわたりまして、その慎重な考慮を要請することを
必要と感ずるものであります。
第一は、
見返り資金の円の用途の問題であります。
わが国において
使用いたしまする
借款分二百十四億円のうち、農地
開発に振り向けられますものは先ほど論議のありましたように三十億円であります。これは
輸入総額八千五百万
ドルに対しましては一割にすぎない額であります。そもそも今回の
協定が
農産物の
輸入に
関係する性格からいたしましても、
農家の心理的
影響を考慮いたしましても、さらに
食糧自給度の
向上のための農地
開発の緊急性と、それに対する現在の
政府の
施策の現状からいたしましても、
見返り円資金は
農業資源
開発に当然重点が置かれなければならないということは、これは私、理の当然ではなかろうかと思うのであります。それにもかかわらず、かくのごとくはなはだしくこの点が軽視せられておりますることは、まことに遺憾にたえないところであります。この
借款の
わが国におきまする用途の
配分につきましては、これは当然わが方の自主的にきめ得る事柄であります。
政府はこの点について慎重な考慮を私は要請したいのであります。
第二の点は、千五百万
ドルの
現物贈与の問題であります。
児童福祉計画を拡充いたしまして、学童に廉価に、また無償で衣料を与え、
わが国の食
生活改善の道場とも申すべき学童給食として
脱脂粉乳を廉価に、また
ただで供給するということは、それ自体格別の異存のないところであります。しかしながら、これを
外国の
贈与に依存するということになりますると、事はおのずから別であります。災害等異変でありますとか、そういう特別の場合における救済の方策としては考え得るところでありましょうけれども、通常の
状態において、かくも安易に
外国の
贈与に依存するということで、果して独立自衛の気概のありまする個性を育てて行く、あるいは将来国家の独立の責任を分担すべき学童の教育をそういうことで全うし得るやいなや、私は憂慮にたえないのであります。かかる
贈与のごときはむしろ特別の救済
事業として社会
政策方面に振り向けることが適当ではなかろうかと思うのであります。いずれにいたしましても、
わが国の繊維産業の現状と繊維産業の力から見まして、あるいは
わが国の酪
農業に対する
政府の格段な
施策等と相待って、
日本自体においてこういう点についての
施策が十分進展されなければならぬことと思うのであります。それは必ずしも不可能なこととは思わないのであります。こういう方法によって、私は決して健全なる
児童福祉計画というものが拡充されようとは思えないのであります。特に私は、松村文部大臣の慎重な考慮を要請したいと思うのであります。
次は、
アメリカ政府によって
使用されまする予定になっておりまする八千五百万
ドルの三割分すなわち約九十億円の
使途に関する問題であります。これらの
使途の中には、
アメリカの
農産物の新たなる
市場を両国の
利益になるように
発展させる
施策に振り向けることが予定されておるのであります。その中には、先ほども御論議がありましたように、
わが国の食
生活改善のためにする
施策も
アメリカの
事業として行われ得ることが、
政府の説明にあるのであります。食
生活改善が提唱されましてから相当長い年月を経ておるものであります。しかも、いまだ十分なる
施策が行われておらない。こういう状況のもとに、
アメリカによって
わが国でこういうことが行われるということは、それ自体けっこうでありましょう。私はあえて独善的に狭量な態度でこれを拒否する気持はないのでありまするが、こういうことは同時に、わが
政府自体が真剣な
施策をあわせて行うことが肝要と思うのであります。そういうことがなければ、とうていこういう
施策からいい結果が期待されるとは考え得ないのであります。むしろ好ましくない結果が生まれるんではなかろうかと憂慮するものであります。これらの
アメリカによりまする
日本国内のこの
見返り円の
使用につきましては、
日本の
経済に与える
影響について妥当な考慮を払うということが
協定上約束されておるのであります。
政府の慎重な私は考慮と善処を期待したいのであります。
最後に、私は米の
輸入に関しまして
政府の考慮を要請したいと思うのであります。米の
輸入は、もちろん、国民の食
生活の面から見まして、
価格低廉にして
品質良好のものを
輸入するということ、それに重点を置くべきであるということは、これは言うまでもないところであります。しかしながら、最近におきましては、この
わが国の米の
輸入というものは、
輸入の持ちまする役割はもはやそういう範囲を越えまして、広くなりつつあります。特に
わが国と
東南アジア諸国との
関係において、相互の連係を強化して物資交流の動脈をなしていくというものは、私は米であると思うのであります。このことは
東南アジアだけにはとどまらないのでありまして、韓国との
関係においても同様であります。さらに、中共との
関係におきましても私は同様と言い得ると思うのであります。しかも、この地域におきまする
食糧の情勢というものは、近年急速に変化を示しつつあるのであります。これらの状況から見まして、
わが国の米の
輸入につきましては、その持っておりまする特別の性格にかんがみて、十分なる考慮が払われなければならないのであります。本
協定は
余剰農産物の取扱いに関して正常な、通常の取引に支障を与えないよう、自由諸国間の
貿易に阻害を与えないということが根本的原則の一つとなっているのであります。私は、
政府が本
協定の実施上、いやしくも米についてその正常な取扱いに支障を及ぼさないよう、十分なる考慮を払われまするよう要請をする次第であります。
以上の要請を付しまして、私は本
協定の
承認に対し賛意を表するものであります。
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