○中田吉雄君 私は、ただいま
提案されております
地方財政再建促進特別措置法案、
地方自治法の一部を
改正する
法律案外一件について、
日本社会党を代表して
総理大臣、
自治庁長官並びに
関係者大臣に対して、その重要な点をたださんとするものであります。
自治庁が最近発表いたしました数字によると、
地方財政の
赤字は、
昭和二十九年度末で五百八十六億の膨大な額に達しています。
地方団体は今やこの膨大な
赤字のため、
地方団体自身の自治
行政の
運営ができないだけでなく、
地方団体の手を通じて行われる国の
行政施策の遂行すら重大な支障を来たしています。従って、
地方財政の
再建整備と
行政の根本的な改革は焦眉の急として久しく要望されていたところであります。しかるに今回
提案されたる
再建促進、
自治法改正の両
法案をつぶさに検討いたしますならば、まことに不十分きわまるものであって、これでもって
地方財政の
再建を望むがごときは、全く百年河清を待つたぐいと言わなくてはなりません。しかも
地方自治は、各国の伝統が示しますように、寛容ある態度をもって年期をかけ、忍耐強く保護育成しなくてはなりません。しかるに
地方団体は、あたかも金を湯水のごとく使う放蕩むすこのように、性急にがんじがらめな諸
規定で縛りつけようといたしております。しかも
赤字の
責任をあげて
地方に転嫁し、あまつさえ増税と首切りによる
再建を余儀なくさせ、
再建促進の美名に隠れて
中央集権化をはからんとしておるのが両
法案の基調である点は、わが党の深く遺憾とし、強く反対するところであります。(
拍手)その
解決案は、あくまでその根本にまでさかのぼってなされなくてはならず、しかも、
自治制度の改革については、その能率化は
民主化をそこなわないように、あくまでも
地方自治の本旨に沿うものでなくてはなりません。そこでまず第一、鳩山
総理大臣に対して、
地方財政の
赤字の
原因とその
責任の所在についてお伺いいたします。
特別
措置法案によりますると、
赤字対策は、
再建債二百億のうち五十億の
政府資金の融通、百五十億の
公募分に対する二分の
利子補給、たった七千五百万円だけであります。五十億の
政府資金は七年間に返すのですから、これは特別な援助ということはできません。しかもこの
公募債も同法第十二条第三項によると、なるべくすみやかに
政府資金に肩がわりされることになっていますから、補給利子の
政府負担は一年間だけだと見ていいでありましょう。従って六百億に及ぶ膨大な
赤字に対する
政府助成は、あとにも先にも本年度一年分の
利子補給七千五百万円だけで、一切の
責任を
地方団体に押しつけているわけであります。これは重大と言わなくてはなりません。果して
地方だけが全
責任を負うべきでありましょうか、決してそうではありません。
民主政治の基盤として新しい理念の下に出発いたしました自治体が、敗戦後の困難な中に、いかに祖国
再建のために協力したでありましょう。供米の割当が完遂できず、あるいはまた六三制学校
建築の
寄付金が集まらないために、いかに多くの人が
責任をとらされたでありましょう。ある郡のごときは、全部のほとんどの
町村長が、その
責任を負って任期の半ばで退陣のやむなきに至った例は少くないのであります。実に
わが国が今日のような段階まで来ましたのは、このような犠牲と献身に負うものであります。従って
地方公共団体に対する国の
財政援助の十分でなかったことこそ問題であり、
地方団体がその責に任ずべき
理由はいささかもないものであります。
赤字といえば、今でこそ
地方財政の代名詞のように言われますが、しかし皆さん、
昭和二十四年までは大体
赤字はなかったのであります。すなわち
昭和二十四年においてドッジ・ラインの均衡
予算のため、
地方配付税が所得税と法人税の百分の三三・一四であったものが半減されて、
地方財政は
赤字の第一歩を踏み出したのであります。さらに
昭和二十五年シャウプ
勧告による税制改革は、
府県財政の弱体化を招き、それが
府県赤字の大きい
原因をなしているわけであります。さらにまた昨年と本年の緊縮
予算と、金融引き締めのデフレ政策、すなわち一兆円
予算のしわの多くが
地方財政に寄せられておるのであります。その結果として、
地方財政の
赤字は、
昭和二十五年五十億、二十六年百一億、二十七年三百億、二十八年四百六十二億、二十九年に五百八十六億と、年とともに増大しているわけであります。しかも二十五年度
赤字団体の数が三百四十六から、
町村合併により
団体数が激減したにもかかわりませず、今や千三百二十三の多きに達し、
府県の約八割、市の約七割、
町村の約二割という工合に、
赤字が一、二の
地方団体の特殊の現象でなしに、全般的な傾向になっているわけであります。これをもって見ましても、放漫
財政や
財政運営の不手ぎわだけによるものでなく、もっぱら
制度的な欠点に由来するものと言わなくてはなりません。従って
赤字の大半は国の施策によるものであって、当然
政府と
国会がその責に任ずべきものと思いますが、これに対する鳩山
総理の御所見をお伺いいたしたい。特に
再建促進に対して一番理解の薄いように感ぜられる大蔵大臣に、この点について、はっきりいたしてもらいたいと思うわけであります。
第二に、
赤字五百八十六億と
再建債二百億との
関係であります。
地方制度調査会は、
昭和二十八年十月その
答申におきまして、
昭和二十七年度
決算による
赤字三百億を基準といたしまして、
昭和二十九年においては二百億の
再建債を起すことを
勧告いたしています。しかるに
赤字は
昭和二十八年百六十二億、さらに昨年度百二十四億と累増し、合計五百八十六億にも達しています。
地方制度調査会は、
赤字三百億のときでさへ二百億の
地方債を
勧告していることを思いますならば、六百億に及ぼうとしていますところの
赤字に対して、二百億の
再建債でもって
地方財政の
再建を云々することは全くできない相談と言わなくてはなりません。いかなる計数的根拠に基いて二百億で事足りるとされたのであるか、詳細に説明を伺いたいと思うわけであります。また、本
法案によるような条件で、どれだけの
府県と市また
町村が指定を求めるかというその推計についてもお知らせ願いたいと思うわけである。わが党は大体四百億程度の
再建債を妥当としているわけでありますが、
再建の促進
状態に応じてさらに二百億の
再建債の
ワクを増額されるか、その点をお伺いしたい。またこれに応じられる用意がおありであるか、その点大蔵大臣にお伺いしておく次第である。
第三に、
財政再建計画の条件が過酷にすぎる点であります。本
法案は
昭和二十六年四月
施行の農林漁業組合
再建整備法、
昭和二十八年八月
施行の農林漁業組合連合会整備促進法にならったものである。まず協同組合のごとき経済
団体である私法人の
再建と
国家統治
機関の
組織の一環として公共の
福祉の増進をその目的とし、
行政の主体として
各種の公権力を付与されたところの公法人であるところの
地方公共団体の
再建を混同したところに、本
法案の致命的な欠点があると言わなくてはなりません。
自治庁内の若い良心的な諸君のうちにも、大きな異論と不満があると言われているのは当然と言わなくてはなりません。農協の
再建整備さえ、
昭和二十六年から本年度
予算計上のものを合計いたしますなら、三十六億の助成を行なっています。また造船融資に至っては論外である。
昭和二十八、九年の両年だけで、すでに四十億九千万円の
利子補給をなし、本年度
予算においてもまた三十五億の補給利子を計上いたして参る。秀駒などが登場し、乱脈をきわめた造船融資に対してさえ、市中銀行に約六分の利子を補給していながら、権威ある
地方制度調査会の
答申は無利子を
勧告しているにもかかわりませず、なぜ利子の補給もいたさないのであるか。
地方団体は造船会社のように選挙のときに
政治献金をしないためにこのような
措置をとっているのか、川島、一萬田両大臣の御説明を承わりたいと思うものであります。(
拍手)本
法案のごとく
政府の助成なしに自力によります場合は、
再建期間が八年では短か過ぎると思いますが、この
期間をきめた基準をお示し願いたいと思うわけである。また本法の第二条第三項には、指定された翌年からおおむね七年以内と
再建期間を定めているが、事情によってはさらに変更を認めるのであるか、認めるとすれば、いかなる場合にお認めなされるのであるか、その点をお伺いしておきたいと思うわけである。
第四に、本
法案は
議会の
審議権を不当に制限している点であります。この
法案の適用を受けて
財政再建を行うかどうかは、
地方団体にとっては真に重大であって、慎重
審議は当然であります。しかるに本
法案の第十一条によりますると、長の提出する
財政再建についての
関係議案の
審議には、長は
審議機関を限定し、あるいは長に解散権を与える等、
議会の
審議権を大幅に制限いたしております。これでは
議会を
再建整備
期間中の間、長の諮問
機関的な存在として有名無実にすることは明かである。たった七千五百万の
利子補給で自治権の一切を買い上げようとするのが本
法案でありますが、なお、この本条項には
再建に対して
議会の価値をいささかも認めていないだけでなく、これを厄介視し、むしろ
赤字の責めを
議会に転嫁し、
執行部万能、
議会否認の思想を前提としているようでありますが、このことはわれわれ
議会人としてとうてい容認することができないわけである。第十一条を削除して
再建にどのような支障を来たすか、その
理由をお伺いしたいと思うわけである。
第五に、
財政再建と教育
財政の
関係である。最近における
地方財政の
赤字は、教育に重大な影響を与え、今、一学級当り児童数五十人として、小学校一・五、中学校一・八の基準で教
職員を
確保している
府県はほとんどございません。従って一学級当り六十人近い児童数を詰め込んでいる例も決してまれではないわけである。しかるに本
法案によると、
再建計画の策定に当っては、教育
委員会の意向を反映する機会は、全然ないだけではございません。一たんきまった
予算の
執行について長と協議をしなくてはならぬようになっています。また今回の
自治法の
改正により、教
職員の定数等について教育
委員会に対し、長に重大な
勧告権を与えているわけである。すなわち今回の両
法案の
改正によって教育
委員会の
自主性は全くそこなわれ、
権限は弱体化されます。しかも
自治法の
改正法案によると、教育
委員に対する報酬の算定
方式が、公選でないところの他の
委員と同じように日割計算で払うようになっています。これでは教育
委員をして萎微沈滞せしめ、
財政再建の犠牲が教育
財政に怒濤のように押し寄せてくるのを防ぐのに全く無力であると言っても過言ではないと思うわけである。松村文相が原案送付権の
確保に対して、異常な努力をされました点については深く敬意を表するものである。しかし両
法案には教育費の節約で
地方財政の建て直しをやろうとしている不動の決意がみなぎっています。
自治庁は原案送付権の上においては譲りましたが、実をとっています、これで教育の水準を守ることができるとお考えでありますか、お伺いしたいと思うわけである。
なお、この機会に文部大臣にお伺いしておきたいことは、このような
再建の前におびえている教員に対して、保守両党は最近教育二
法案について
行政罰を刑事罰に修正することについての意見の一致を見たということが伝えられています。今
国会あるいは最近の
国会において、そのような
法案の修正を意図される用意があるか、お伺いしておきたいと思うわけである。
次に
自治法の
改正について二、三お尋ねいたします。
第一に、
府県の将来をどういうふうにしようとされているかという点であります。目下大規模な
町村合併が進行いたしています。これが一応完了いたします
昭和三十年ごろに備えて、いちじるしく
行政能力の高まった
町村と国との間にある
府県の性格と
権能をどうするかということは、今後における
地方自治最大の課題と言わなくてはなりません。しからば一体今回の
改正はどのような
府県を理想とし、中間
団体を理想として、それを目ざしての第一歩の
改正であるか、道州制か、
府県の統合か、完全自治体か、国の
出先機関であるか、こういう点について、はっきりとお伺いしておきたいと思うわけである。高橋君に対する川島長官の答弁にもかかわりませず、今回の
改正法案におきまして、
市町村は基礎的な公共
団体とし、
府県は広域の
地方公共団体としておる点は、知事官選への重大な布石ではないかと思うわけである。憲法第九十三条には、
地方公共団体の長は、その
地方公共団体の
住民が直接選挙をすることとし、知事の官選は憲法
改正なしにはできないことになっております。そこで今回の
改正によって、
住民が直接選挙を要する憲法上の
地方公共団体というものは、基礎的な公共
団体である
市町村だけだという概念を導入しまして、保安隊は戦力ではないのである、だから憲法
違反ではないという故智にならって、違法性を阻却して知事を官選にしようとする布石ではないかと思うわけであります。
現行憲法は、はっきりと
府県と
市町村との二重構造を前提とするものであり、自治のためにも絶対官選にすべきではないと思うが、重ねてこの点についてお伺いしておきたい。なおまた
現行憲法のもとにおいても、知事を官選にするようなことができるかどうかについてもお伺いしておきます。
第二に、
民主化と能率化との調和の問題であります。本
法案の全体を貫きますものは、能率化による安上りな
地方政府を作るために、
民主化を犠牲にしておる点であります。たとえば
議会は
定例会が年四回あったのを
通常会と改め、一年に一回としたような点であり、
議会開会の煩を避けました。これは
執行部の
権限を著しく強化するものである。特にわれわれのような
議会の勢力分野において革新勢力が少いような際におきましては、
臨時会招集の四分の一の法定数を持たないような
議会が多い際において、革新
団体は、ほとんど民意を反映するような機会は失われてしまうものである。かようなおそれはないものであるかどうか、お伺いしておきます。
われわれといたしましては、自治訓練の場としても
定例会制度は存置すべきものと思うわけである。また
常任委員会制度等もますます高度の専門的知識が要請される現在におきましては、
現行方式を可とするものであって、
議員の兼職禁止等の
規定を挿入するだけで十分だと思うわけである。
行政機構の高度化につれて、集権化は時の趨勢でありますが、
わが国のような民主的な洗礼の浅い
現状におきましては、能率化が若干犠牲にされても、
民主化の徹底の道を選ぶべきだと思うが、その
両者をどのような形に調和されようとしておるか、お伺いしておきます。
第三に看過することのできないのは、長の不信任決議の
成立要件を
過半数議決に改めたことである。このことは大統領
制度と議院
内閣制の混同であります。さらにまた革新系
首長の立場をはなはだしく不安定にすることを奥深く意図するものと言わなければなりません。
わが国の
地方制度は、
国会のような議院
内閣制度と違って、アメリカの大統領制をとって、一方では
議員を、一方では
住民が直接
首長を選挙する
制度であります。だから、
議会から選ばれた間接選挙の場合とは違って、その
議員数の三分の二の出席で、四分の三の
議決で不信任決議をするような慎重な
措置が大切なわけであります。これは大統領
制度の当然の要請であります。それを
過半数の出席で、
過半数の
議決で不信任できるようなことになりますならば、特に
議会勢力の分野が少いが、ようやく進出しかけたところの革新勢力の
首長の地位は、きわめて不安定であって、このことは私はやはりたくさん出かけたところの革進系の
首長に対する大きな弾圧と見て、これは絶対許すことができないと思うわけであります。
さらに、最後に鳩山
総理に、このような
地方行財政の重大な危機に際会いたしまして、きわめて近いうちに特別に、
地方自治のための臨時
国会をお開きになる用意はないかということをお伺いするものであります。今回
国会に
提案されました
地方財政再建促進の特別
措置法案、
自治法の
改正等をもって見ましても、とうてい急迫した事態に応ずることはできません。過般、
昭和三十年度の
地方財政計画に対して、
財政審
議会は、給与費と恩給費を別にしても百五十億以上の
歳入欠陥であり、さらにかねて懸案であるところの給与費と恩給費を考慮いたしますならば、四百八十億の
歳入欠陥だと言っているわけであります。従って、大量の
行政整理をしない限り、本年度半年度だけで約五百億の
赤字が出ることは、今や必至であります。このような
状態からいたしまして、近く
地方制度調査会からも
答申があるということであります。その
答申を待って、私はきわめて近いうちにこの
地方自治のための特別
国会を、臨時
国会をお開になることが大切だと思うが、それに対する御所見をお伺いしたいと思うのであります。
さらに、鳩山
総理は過般の参議院
予算委員会において、災害を別にして補正
予算を組むようなときには、
内閣の運命をかけるということを申されています。権威あるところの
地方財政審
議会の
勧告をもって見ても、五百億もあるというのに、
赤字が出ようというのに、このような
措置のために私たちは当然、
地方交付税を百分の二十二から百分の二十七あるいは百分の三十二に引き上げる
措置が必要だと思うが、あのような
総理の御発言を見ると、
地方財政には危機はないと見ておられるのでしょうが、その点についてお伺いいたしまして、私の質問を終るわけであります。(
拍手)
〔
国務大臣鳩山一郎君
登壇〕