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国務大臣(一萬田尚登君) 私は前
国会におきましてわが民主党内閣が実行すべき財政金融
政策の
基本方針を明らかにいたしました。ここに提出を申し上げる
昭和三十年度
予算は、この
基本方針に即しまして編成したものでありまして、その大綱を説明いたしますとともに、この際
わが国経済の実情を顧みまして今後
政府のとらんといたしまする
施策につきまして
所信を申し述べたいと存じます。
昭和二十九年度の
国際収支じりは、三億四千四百万ドルの黒字となりました。これは主として昨年来の財政金融健全化
政策の効果の現われでありますことは申すまでもありません。しかしながら、昨年度の輸出増加は、
海外諸国の好況や
輸入制限の緩和等、外的要因に基くものが多く、また特殊の輸出助長
措置に基くものが少くなかった面も看過できないのであります。また固定的な債権が累積いたし、短期の流動債務が増加したという実質も
考えねばなりません。また今後特需収入の減少傾向も
覚悟しなければなりませんので、
国際収支の前途は決して気を許すわけに参らないのが実情であるのであります。
最近
海外におきましては、欧米
諸国の好景気も、その行き過ぎ、インフレヘの進行を警戒する空気となっております。英米その他の国におきまして中央銀行の公定歩合引き上げが行われ、また特に
国際収支の困難を感ずる国におきましては、
輸入制限の強化等の
措置もとられるに至っておるのでありまして、今後
海外の需要面は決して楽観を許さないのであります。他面西欧主要国は、
貿易の自由化、通貨の交換性回復を
目標といたしまして、一歩一歩真実な
努力を重ねており、その進展に伴いまして、
各国間の輸出競争は、当然激しくなってくるものと予想すべきであります。従いまして
わが国といたしましては、なお
経済を合理化し、
生産コストの低下をはかり、物価をできるだけ引き下げまして、輸出
産業の対外競争力を強化することが肝要であると申さねばなりません。なお
貿易為替自由化の趨勢に沿った体制を整えて行くために、
政府は外貨
予算の編成に当りまして、通貨別区分を設けない
予算のワクを拡大し、自動承認制の金額を増加する等の
措置を講じました。また為替相場の建て方の簡素化、外貨預金制度の改正等を逐次実行に移して参ったのであります。
ひるがえって国内
経済の動向を見まするに、昨年度の一兆円
予算と、これに関連する金融引締
政策によりまして、
経済は漸次健全化の方向に進んで参りました。金融面におきましては、全国銀行の預金の増加額は、昨年度出ほぼ四千億円に近く、貸出増加額は二千三百億円にとどまり、これらの結果といたしまして、
日本銀行貸出金は年度間一千六百五十億円を減少いたしました。しかしながら、このことは、
国際収支の巨額の受超、その他の理由で、国庫の異常な散超があったことに基因する面も少くないのでありまして、
経済健全化の地ならしができて、正常な預貯金の増加と企業経営が健全化されたことに基くとは言い切れないのであります。
さらに、企業経営の面におきましても、引締
政策が企業の不自然な収益率を是正せしめ、また新規借入を困難にしたことは事実でありますが、その反面、従来のインフレ下におけるがごとき安易な
態度を捨てて、経営を合理化するとともに、自己資本の
充実に努め、極端な借入金依存をみずから是正して行こうという堅実な傾向が見えております。しかしながら、この
努力もまだ十分とは申しがたいのでありまして、あるいは資本蓄積を怠り、あるいは合理化投資が過剰投資となって、真に合理化の効果を発揮し得なかったというような事例を今後なくして行くためには、なお新たなる決意と工夫を要するのであります。
さらに、物価の動きを見まするに、財政金融面の
施策と相待ちまして、昨年度間を平均して卸売物価は二十八年度に比して約三%の低下を見たのでありまするが、
国際物価水準に比しては、なお割高な面があり、消費者物価に
至りましては、昨年八月以来、わずかに下落を示してはおりまするが、年度間を平均いたしますれば、未だ二十八年度より若干高いところにとどまっているのであります。
かように見て参りますると、従来の財政金融健全化の
基調は、なおこれを継続すべきものと信ずるのであります。ことに今後の
経済の拡大
発展を図りますためには、
国民の勤倹による貯蓄の増強と、企業の健全経営によって資本の蓄積を強化することを第一義としなければならないのであります。すなわち消費を節約して貯蓄を増大し、経営を健全にして資本の
充実を図り、これらによって重要な方面に対する資金の供給を確保し、
産業活動を盛んならしめ、もって雇用の増大を図る方向に進むべきであると信ずるのであります。従いまして
政府といたしましては、法人税の軽減等により、企業資本の
充実を図るとともに、さらにこの際、預貯金利子に対する一切の課税を停止いたしまして貯蓄の飛躍的増強を意図いたしておるのであります。金融機関としても、かかる
政策に即応いたしまして、その公共的性格をその経営
態度に反映するよう、常に十分なる自覚を有していなければならないと思うのでありまして、みずからの経営の健全化、合理化をはかるのみならず、進んで貸出金利の引き下げをはかって、企業のコスト低下に
協力するとともに、資金供給につきましては、
わが国経済の
自立発展に真に寄与する資金を確保することに、なお一層の
努力を傾けられたいのであります。
政府といたしましても、これが所期の効果を収め得るよう期待いたしておるのでありまするが、事態の推移に応じまして、さらに所要の
措置を考慮いたしたいと存じております。
今回提出いたしました
昭和三十年度
予算は、総合
経済六カ年
計画の構想に沿いつつ、前に述べましたような見地から、まず現在の
経済健全化の
基調を堅持し、将来における
経済の
自立、
発展についてその地固めを行うことを眼目といたしましたが、その間、
民生の安定はもちろん、失業等の摩擦的現象に対する
措置につきましても、十分に配慮した次第であります。すなわち本
予算におきましては、第一に、財政収支の均衡を確保し、一般会計
予算の総ワクを一兆円以内にとどめることといたしました。第二に、
国民の租税負担の現状にかんがみまして特に低所得者層の負担軽減を主とする
減税を実施することにいたしました。第三に、限られたる財源の範囲内におきまして、各種の重点
施策の遂行に必要な経費を確保する一方、補助金の整理、物件費の節減等、経費の節約、効率化に一層配意を加えることといたしました。
以上の
方針によりまして編成されました
昭和三十年度の一般会計
予算は、前年度とほぼ同規模の九千九百九十六億円と相なります。
次に、
予算の内容につきまして、その概要を説明を申し上げます。まず歳入面でありまするが、
政府は、
国民生活の安定をはかり、資本の蓄積を促進するため、平年度約五百億円に達する
減税を実行することといたしました。すなわち本年度におきましては、
所得税の
基礎控除額及び給与所得控除の限度額の引き上げ、専従者控除の限度額の引き上げ、税率の引き下げ等によりまして勤労者、中小企業者及び農民等の
低額所得者を
中心とする
所得税の軽減をはかることといたしております。この結果、たとえば勤労者についれて申し上ぐれば、夫婦及び子供三人の場合におきまして給与の平均月額一万九千円程度までは
所得税を負担しないで済むことになるのであります。なお、別途個人の事業税につきましても、
基礎控除額の引き上げによりまして、特に中小事業者の税負担の軽減をはかることといたしております。
資本の蓄積の促進の面におきましては、臨時に預貯金利子に対する課税を免除し、配当所得に対する源泉課税の軽減を行うとともに、生命保険料控除の限度額を引き上げることといたしました。さらに、法人税につきましては、
昭和二十七年以来、百分の四十二に引き上げられました税率を、百分の四十に引き下げることにいたしております。このほか輸出振興をはかるため、輸出所得控除の限度額を引き上げまするとともに、
住宅建設の促進のため、新築貸家に対する特別償却額の引き上げ等、
税制上の優遇
措置を講ずることといたしておるのであります。これらの
措置によりまして平年度において五百十四億円、本年度におきまして三百二十七億円に達する
減税が実現されることとなるのであります。
歳出につきまして、
政府が重点をおきましたのは、まず住宅
対策費であります。すなわち
政府は、財政資金によりまして約十七万五千戸を
建設することを目途といたしまして、一般会計に二百十八億円を計上いたしましたほか、資金運用部資金等の財政投融資を含め、昨年度に比べまして百四十億円を増額して四百二十四億円の資金を振り向けることといたしました。これによりまして
公営住宅のほか、住宅金融公庫及び勤労者厚生住宅の資金の
充実をはかりますとともに、新たに
日本住宅公団を設立し、不燃性集団庶民住宅の
建設を促進することといたしたのであります。なお、これと並行いたしまして、民間における
住宅建設の意欲を促進いたしますために、
さきに金融機関の融資準則について住宅の順位の引き上げを行いましたが、このほかすでに申した
税制上の優遇
措置、住宅融資保険制度等、各種の
施策を講ずることといたしております。これらの
措置によりまして本年度約四十二万戸の
住宅建設を実現できるものと信ずる次第であります。
次に、
社会保障関係費であります。この経費は、本年度におきまして、昨年度に比し五十二億円を増加いたしまして、一千六億円を計上いたしております。生活困窮者の救済等に遺憾なきを期しますとともに、他面
社会保険の
充実をはかっているのであります。特に
失業対策費につきましては、昨年度に比べまして四十六億円増額して二百八十九億円計上いたしましたが、このほか
公共事業、特に道路整備事業及び鉱害復旧事業等におきまして、機動的運営をはかり、
失業者の吸収に遺憾なきを期する
所存であります。
貿易の振興
対策費につきましては、
海外広報宣伝、
国際見本市の開催参加、重機械相談室の
充実等、
海外市場の維持拡大に関する
措置を一層強化することといたしました。なお、
さきに申しました
通り、輸出免税の拡大等、
税制上の配慮を加えるとともに、輸出入銀行に対する財政資金の融資を大幅に増額いたしたのであります。
次に、
防衛関係費について申し上げます。
わが国の自主的な
防衛態勢を整えるため、
国力に応じて漸次自衛隊の
充実をはかって参りますることは
政府の
基本方針でありまして本年度は陸上自衛隊二万人の増員を
中心といたしまして自衛隊を強化することとし、
防衛庁費を昨年度に対し百二十五億円増額をいたし、八百六十八億円を計上いたしました。また施設提供等の経費につきましても、昨年度に対し二十七億円増額し、七十九億円を計上いたしました。しかしながら
国民経済の現状を
考えまするとき、
防衛関係費総額といたしましてこれを増額することは困難でありまするので、その増加額の全額を
防衛分担金の減額によることといたしまして
米国政府と
交渉の上、
防衛分担金は昨年度より百五十二億円を減じ三百八十億円といたしました。従って
防衛関係経費の総額は、昨年度の一千三百二十七億円のワク内にとどまったのであります。
地方財政につきましては、赤字累積の現状にかんがみましてその刷新
改善は各方面から強く要請されているところでありまするが、それにはまず地方団体の自主的
努力によって徹底的に経費を節減いたしますとともに、収入の確保をはかることが根本であると
考えるのであります。近時地方公共団体の側においても、財政健全化について真摯な
努力を傾けられる向きもありまして
政府といたしましても積極的にこれを
援助いたしますため、各般の
措置を講ずることといたしました。すなわち
補助金等の整理、合理化を促進し、補助率を改訂する等、地方負担の軽減をはかったのでありますが、他面地方交付税交付金につきましては、定率の増加に伴い、昨年度に比べまして百三十二億円を増額して千三百八十八億円を計上いたしたのであります。このほか地方財源の
充実をはかりますために、専売公社の収益のうちから三十億円を交付いたしますとともに、特に本年度に限りまして入場税の一割相当額を一般会計に帰属させることを取り止めまして、入場税の全額を地方に譲与する等の
措置を講じたのであります。さらに地方道路税を創設して、道路整備五カ年
計画の実施等に伴います地方道路財源を確保することといたしております。また地方財政の再建のため、自主的
努力を進められておる地方公共団体に対しましては、再建整備のため特別の地方債の発行を認め、その
政府の引き受けあるいは民間引受分に対する利子の補給を行う等の
施策を実行する
考えであります。
次に、財政投融資につきましては、一般会計、資金運用部資金等において、ほぼ前年度程度の財源を調達いたしますとともに、新たに砂糖等輸入特殊物資の超過利潤の吸収によりまして七十億円、さらに目下
米国政府と
交渉中の余剰農産物買い入れによる見返資金二百十四億円の借り入れをも見込みまして、総額三千二百七十七億円といたしまして、昨年度に比べまして四百二十七億円の増額を予定いたしたのであります。しかしてその配分につきましては、
民生の安定、輸出の振興及び
経済基盤の育成に特に重点をおくよう配意いたしております。すなわち住宅
対策のための資金を
充実いたしますことにつきましては、すでに述べた
通りであります。
中小企業
対策といたしましては、
国民金融公庫及び中小企業金融公庫に対する投融資総額二百十五億円を予定いたしまして、両公庫の本年度の資金貸出予定額は約七百七億円で、前年度の貸出資金に対しまして八十七億円の増加となっておるのであります。また商工中央金庫に対しましても、金融債の引き受けのほか、新たに十億円の出資を行うことといたしております。輸出の振興のためには、輸出入銀行に対する投融資として、昨年度の五十億円に対しまして百七十億円を増額し、二百二十億円を予定いたしております。開発銀行につきましては、自己資金を合わせ、昨年度とほぼ同額の五百九十五億円の資金を予定いたしておりまするが、その運用に当りましては、特に石炭、鉄、肥料等の重要
基礎産業の合理化に重点を置く
考えであります。電源開発会社におきましては、本年度は事業量が相当増加する時期に当りますので、財政資金の供給は、昨年度の二百四十五億円に対しまして約三百億円を見込んでいるのであります。財政によります投融資につきましては、従来とかく資金の獲得、金利負担の軽減等の立場から、安易にこれに依存しようとの能度が見られないことはなかったのであります。窮屈な資金事情から、特に重点的に配分すべきものであることに思いをいたし、真にこの合理化の
精神に徹し、いやしくも救済融資となり、過剰投資となることなく、
わが国産業全体のコストの引き下げ、
国際競争力の増大に資する
基盤を培うべきものであると
考えております。
以上、
わが国経済の現状と、これに対処いたすべき
施策について申し述べたのでありまするが、これに対し今日巷間には、その
基調を緩和し、何らかの景気
対策を要望する声がないとは申せないのであります。しかしながら、
内外の
経済情勢にかんがみるときに、
わが国経済の拡大
発展は、
経済健全化を
基調とした資本蓄積を
基礎として、初めて
達成されるのでありまして、インフレ的景気
政策はこの際とるべきものでないと思うのであります。このことが、あえて安易を避け困難な道を選ぶゆえんであります。
国民各位もこれを了とせられまして、
経済繁栄の
基礎確立のために、衷心より
協力を寄せられんことを祈ってやみません。