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中山福藏君 刑事
局長のただいまの御
意見に対して、私二、三質疑を試みたいと存じます。
まず第一に、刑法仮案が現在でき上っておるから、それによって一般刑法の改正の場合に、こういう処置をとった方がよいじゃないかという、まあ大体の結論であります。そこで私お尋ねするのですが、大体あなたのおっしゃった、この「営利の
目的をもって」という言葉は、牽連罪かあるいは併合罪か、いわゆる恐喝と略取との併合罪かどうか、あるいは牽連罪かどうかということは、判例がなくお迷いになっておるはずなんです。これは、
裁判所では……。そこでこの仮案の四百二十六条というところをごらんになると、「人ヲ略取シ其ノ釈放ノ代償トシテ財物ヲ得タル者ハ強盗ヲ以テ論ズ」ということが仮案には出ておる、こういう苦しい
立場をおとりにならなければ、これは現在手の打ちようがない場面に遭遇しておられると私は思う。これについては、たとえ住友の令嬢の誘拐事件、横浜の
裁判所の下しました判決、これは併合罪で、恐喝罪と誘拐罪と併合してやっているんですね、このときもその判決の
理由うといものは、窮屈な
解釈をとっておられるわけです。そこで、営利の
目的で、子供を誘拐して、身代金を要求することは、入るかどうかということは、現在の学説の上でも非常に疑問がある。それを、改正刑法ができるまで、三年、四年待って、その空間に生じた事件をどう処理されるのか。模糊あいまいたる理論をつけて、それを御処置なさるということは、それは
法律家のやることなんです。
法律家というのは、仕事の上で理論的に練り回すということだったらそれでいい。しかし私
どもは生きたる社会というものを相手にしておるのですね。生きたる、時間々々の、一瞬々々に起ってくる事犯をとらえて、どう社会の安寧秩序のために処理していくかということが、私
どもの考え方でなければならん。だからこれは
法律家的に、あなたのおっしゃる理論的に全部の刑法の改正ができ上るまで待ったら、おそらく五年かかると私は見ております。これから
審議しなければならん、
逐条審議を……。その間に、こういうことが今度の子供をさらったような事件、あるいはリンドバーグ大佐の子供が誘拐されて、そうして身のしろ金を取られた上に虐殺せられた。そういうことの起った場合は手のつけようがないのじゃないか、やはり雲をつかむような理論をつけて、営利の
目的でこれをやっただろう、恐喝罪と併合罪でこれを処理していって、ほとんどわれわれの首肯に値いするような判定
理由のつかないということは、われわれの悲劇だと思います。これは私はそういうのんきなことは、学者とかあるいは理論家の間にはこれは流行するかもしれませんけれ
ども、現在の政治を取り扱う
立場にある私
どもとしては、あなた方は
法律をりっぱなものをお作りあげになるまでに、一応暫定的な
法律をもってこれに当面しなければならんということが、私はわれわれのとるべき
立場じゃないかと考えているんです。あなたは理論的にそういうことをお考えになっているのか、あるいはまたどういうお考えでそういう御
意見をお出しになるのか承わりたいと思いますが、大体この私の出しておりまする、
提案の
法律案をごらん下さると、これは特例なんです。刑に対する特例の
法律案なんですが、そこで現在この二百二十四条の略取、誘拐というものは三月以上五年以下になっておりますね、これを六月以上十年以下にする、あるいは二百二十五条の営利誘拐罪というのは一年以上十年以下となっているのを一年以上の有期懲役、これは諸外国、フランスでもあるいはアメリカでも、スイスでも、チェコスロバキヤでも、すべての
立法例をごらんになると、
日本よりも重いということをよく御検討になれば、そういうふうなしみったれた私は御
意見は出てこないのじゃないかと思いますがどんなもんでしょう。ただ理論的とか何んとかいうのじゃなくて、現在起らんとする、あるいは起るものを予防するためにはどうすればいいか、これを私
どもは論じているわけです。それらについての御答弁をわずらわしたいと思います。