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白波瀬米吉君 私はただいま
議題になっておる
繭糸価格安定法の一部を
改正する
法律案に賛成するものでありますが、この
法律案は確かに一歩前進ではありますけれども、しかし現在の蚕糸業の上においては、この程度のものではほんとうに気やすめにすぎないのじゃないかというような感じを持っておるのであります。それがために二つの
付帯決議案をつけまして賛成するものであります。
その
一つは、
繭糸価格安定法の一部を
改正する
法律案に対する
附帯決議案。
わが国の蚕糸業はその基盤を生糸の海外輸出におかなければならないことは論を俟たない。従つて、生糸はその国内需要の消長如何にかかわらずこれが輸出を優先的に確保する制度を確立することが喫緊の要務である。
然るに今回提出の
法案に依つては未だこの
目的を達成するに充分とは言い難い。
依って、
政府は速かに生糸の輸出増進のため適切強力な対策を確立し斯業の恒久安定を図るべきである。
その二項は、
一、
本法が所期する繭の
価格を維持しその増産を達成するため
本法第十二条の二の
規定によつて
政府がその保有する繭を
処分する場合にはその
処分する
価格は繭の
生産費を下らざるものとし、以て繭の
生産に
悪影響を及ぼさないように
措置すべきである。
以上二項の
付帯決議をつけまして私は賛成するものであります。
その
理由とするところは、大体考えてみますと、この
法案というものが、どういうところがねらいであるかと申しますと、大体は業界の安定と申しますが、あるいは
価格維持ということにあるのでありまして、これは戦前に繭が八千万貫もでき、生糸三十万俵も輸出のできておるときであれば、これは非常な妙案であると実は考えるのであります。しかし今日の日本の蚕糸業の最大かつ緊急な問題は何であるかといったら、生糸の輸出をどうして増進するかということにあるかと思うのであります。もし生糸の輸出を成り行きにまかして、この生糸が国内産業になるということになるならば、もはやあまり増産奨励をする必要はまあないとも極言することができるのであります。
また一歩海外の需要の
状況を考えてみると、われわれの得ておる情報によりますと、以前と用途が違って、交織物がどんどん流行して、そうしてやり方によっては生糸の需要というものは倍にもすることはそうむずかしくないということが伝えられておる。なお一方アメリカは別であるけれども、欧州方面におきましては、近ごろ中共糸というものが盛んに輸出されておる。もしこのままで輸出問題に対して
政府が相当な考えをいたさないということになるならば、私は近い将来はあるいは韓国並びに中共の糸で海外は満たされるのではないかというような危倶を抱くものであります。その中共糸がなぜこんなに出始めたかということを考えますと、二つの
理由がある。その
一つは、戦前のような非常な高級な糸が必要がないということが
一つと、その次は中共の輸出というものは
政府輸出であって、
価格がもう
一定しておる、そこに非常に大きな魅力を持っておって、いわゆる生糸の中共糸というものが最近どんどん輸出されておるのです。こういう現状を目の前に控えておって、そうして今回提出されておる
法律案を見ますとおそらく私は、これはどうも、前回に糸価安定法を非常に業界の要望であるということでやりましたのは、これは二十六年であります。ここに大体五年目になっておるわけでありますが、その間において一回も発動したことがない。ただ一回、おととしでありましたか、禁止
価格を突破したために、それで非常な大騒ぎをしたが、しかし
政府はそれに対してもうやむを得ぬのだというような態度をとって非常に混乱さしたことがある。それが一回、糸価安定法が五カ年間において役立ったというか、あるいは問題になったというかでやっている。今回の、今繊維界は世界的に非常な不況を告げておる、ことに綿糸のごときは近来にない不況である。しかるに生糸は依然として二十万五千を維持している。しかも最近になっては二十二万にもなっておる。こういうものを作りましても、結局から回りしてしまって、この前回の糸価安定法と同様なことになるのではないか、そして一面においては結局中間買入れの機関を、会社を作る、あるいは信用保証協会の機関を作る、それらに対して、結局蚕糸業界におけるいわゆる寄生虫と言ったら語弊があるかもしれませんけれども、いわゆる食うためになるだけのことに終るのじゃないかということを非常に危倶しておる。
そこでこの
法案がもし効果が非常にあるということになりますと、それは先に中間買入れが
政府の意図するべくせられた場合においてのみできるのだ。しかしその
チャンスが果して現在の生糸界を見ておると、出てくるかどうかということに対しては非常に疑問がある。というのは、それはどうも昨年には一ヵ年通じて大体生糸が二十万五千から二十二万の間をもうほんとうに釘づけのようになっておる。それがために生糸の輸出が非常に、中共糸が出ておるとはいいながら、日本の生糸も相当出た。一万俵以上昨年一カ年に輸出が増進せられておる。それがためにいわゆる生糸界というものは一そう底力が強いのである。ここにおいて私は
政府は六カ年計画に、三十五年には生糸は十四万俵の輸出をするのだ、絹織物は三万五千俵を輸出するのだ、こういういわゆる六カ年計画をお立てになっておって、その裏づけとしてこの
法案がまあできておるのだ。しかし私は考えますと、今申しました海外輸出の目標は、大体において二十万に近い
数量である。内需というものは、これは生糸がいかに安くても高くても一カ年を平均すると十八万俵から二十万俵の範囲は内需に使われている。そうするとそれを合計いたしますと四十万俵、四十万俵に近いものである。そうすると現在三千万貫にまだ繭がなりかかっている程度なんです。そうすると一千万貫の繭をふやさなければならない。ここで大きな矛盾が、いわゆる蚕糸業の上を見回して、現在
政府がとっている施策の上においては大きな矛盾がある。私はこの蚕糸業の施策の上において非常にむずかしい問題は何であるかというと、どうしても日本の蚕糸業を大きくするのには輸出をしなければいけない。ところが輸出は四ドル五十セントから五ドルの範囲でなければ生糸は出ない。これに安定してくれるならば生糸は倍にしてもいいということを言っている。その四ドル五十セントから五ドルというものは、結局日本の金にすれば二十万円から二十二万円になる。それから一方
養蚕家の立場はどうしても繭をふやさなければならないという立場、
養蚕家の立場は、これは今度米の
価格が一万百六十円になっている。おそらく将来統制が撤廃されたとしても、私は米は一万円を下らないものである、こういうふうに考える。昔から米と繭との関係は昔は繭十貫に米三石といった。最近は非常にこの収繭がふえたので、繭十貫に対して米二石といっている。そうすると、どうしても繭は一万掛以下ではこれは増産を期することはできないと私は思う。一万掛を保証すべきだとこういうふうに考えている。ところが一万掛以上になったときに輸出ができるかという、こういうことになって、ここに大きな
一つの矛盾がある。
そこで内需は先ほども申し上げましたように、要するに生糸がいかに高くても安くても、とにかく一カ年に十八万俵から二十万俵の範囲は、これはもう
価格のいかんにかかわらず消化されている、消費するのだから、この三つのものをほんとうにあんばいしてにらみ合せてここに蚕糸政策を立てるのでなければ、こういうただ単に
価格維持であるとか、あるいは出てくるから、そういう
チャンスが来るか来ぬかはわからないといったような案を作って、そして三十五年には生糸は十四万俵を輸出し、絹織物を三万五千俵輸出するのだというようなことをやることは、私はきわめて架空のことに終りはせんかというような感じを強く持つのであります。
しかしながら、
本法案ができたということは、今日までの蚕糸業のいきさつから考えるというと、一歩前進ではありますが、そういうような危惧が非常にある。
政府はよろしくこの際に繭に対してももっと考えを変えて、九千掛程度で、また九千掛以下で、これで最低保証をしてやるというようなことでは繭の増産を期することはできない。また生糸の輸出に対してももっと真剣な考えをされるのでなければ、私はこの
法案というものはただ単にから回りしてしまって、この前の糸価安定法のときと同じようになるのではないかと思いますので、以上申しました二つの
付帯決議をつけて賛成するわけでありますから、
政府はこの点に対してもっと蚕糸業の現状をはっきり認識して、強力な施策をおとりになることを要望いたしまして、私の討論にかえます。