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1955-10-07 第22回国会 参議院 農林水産委員会 閉会後第9号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十年十月七日(金曜日)    午前十時十九分開会     ―――――――――――――    委員の異動 本日委員鈴木強平君辞任につき、その 補欠として中川幸平君を議長において 指名した。     ―――――――――――――  出席者は左の通り。    委員長     江田 三郎君    理事            白波瀬米吉君            戸叶  武君            千田  正君    委員            青山 正一君            大矢半次郎君            重政 庸徳君            関根 久藏君            田中 啓一君            飯島連次郎君            奥 むめお君            溝口 三郎君            清澤 俊英君            三橋八次郎君            森崎  隆君            東   隆君            菊田 七平君            中川 幸平君   事務局側    常任委員会専門    員       安楽城敏男君   説明員    農林省畜産局長 渡部 伍良君   参考人    名古屋大学農学    部教授     齋藤 道雄君    東北大学農学研    究所      吉田 重治君    草地農業振興促    進全国協議会事    務局長     横地 敬二君    広島県畜産課長 押野 芳夫君    川瀬牧草研究所    長       川瀬  勇君    農林省福島種畜    牧場長     兼松 滿造君    北海道農業協同    組合中央会嘱託 田垣 住雄君    農     業 吉岡 隆治君     ―――――――――――――   本日の会議に付した案件 ○農林水産政策に関する調査の件(草  資源改良造成及び利用増進に関す  る件)     ―――――――――――――
  2. 江田三郎

    委員長江田三郎君) ただいまから農林水産委員会を開きます。  草資源改良造成及び利用増進に関する件を議題にいたします。  わが国の国情からいたしまして、草資源改良造成し、これを高度に利用いたしますことは、まことに必要なことと考えられます。しかしこの問題に関しましては、世間の関心も必ずしも十分とは言いがたく、また国の施策も満足すべきものとは考えられません。ここにおきまして、当委員会は、かねてこの問題に対して多大の関心を払い、検討を続け、同時に政府に対しましても申し入れを行い善処を求めて参りました。最近政府農林省機構の一部を改正して、新たに畜産局草地改良課を設けたのでありまして、今後この問題は、いよいよ本格的に推進されることを期待いたしております。そこで、本日はこの問題を検討する一環として、かねて草の問題について熱心に御研究に相なっております各位をわずらわし、参考人として御出席を願って、草資源改良造成及び利用増進について御所見を伺うことにいたした次第でございます。参考人の皆さん、御多忙中御出席いただきまして、まことにありがとうございました。  それではただいまから、お配りしておきました順序に従って御意見をお聞かせ願いたいと存じます。なお参考人各位の御説明の時間については、せっかくの機会でございますので、十分時間に制約なしにお伺いしたいのでございますが、本日一日で八人の方から御意見を伺うことになっておりますので、その点御勘案いただきまして、適当に御しんしゃく願いたいと存じます。  なお、委員各位の御質疑は、参考人の御説明が全部終ったあとお願いいたしたいと存じます。  それでは、順序に従いまして、最初に名古屋大学農学部教授齋藤道雄さんからお聞きいたします。
  3. 齋藤道雄

    参考人齋藤道雄君) 私は名古屋大学家畜栄養学研究いたしております齋藤道雄でございます。本日はわれわれ専門家をお招き下さいまして十分に意見を開陳さしていただくことができますことを非常に感謝いたしております。実はこういう機会を一日千秋の思いで待っていたわれわれでございます。いろいろ御要望申し上げたいこともたくさんあるわけなんでございますが、今日は専門家がみなお集まりのようですから、私自身の今研究していることの一部を五分ぐらいお話し申し上げて、そうして熱烈な御要望を申し上げたいと思うのであります。  私は栄養学の方の専門をやっておりますものでございますが、この家畜の飼育には草がなければだめだという根本的な理論がいろいろな最近の研究によって証明されて参っておるのですね。ことに草は最も安価な蛋白給源です。たとえばクローバーというものはわずか、日本ではほんのちょびっとしかやっておりませんですが、アメリカドイツのように、クローバーというものが雑草にかわって繁るようになりますれば、これは四%の蛋白質を持っておるのであります。みずからのままで。それが反当り千貫とれるといたしますれば、反四十貫の蛋白質生産されで、一町四百貫の生産になります。これを大豆かすに換算いたしますと、一町千貫の大豆かす生産になるのであります。こういう大きな蛋白質を持つ草が、年々ほとんど労力をかけずして多年生の植物から生産されて行くのでありますが、この草がない日本のような状態では莫大な蛋白給源を国外に仰ぐということになっておるわけです。こういうようなばかげた損失を、今、日本がやっている。これはドイツで二十年前にこのことに気がついております。アメリカでも気がついております。ドイツでは、私が留学しているころでありますが、飼料作物十万町歩を増加しました。その当時百五十万町歩あったわけです。それから牧野開墾二十万町歩、その当時二百五十万町歩あったのですが、熱心にやりまして、そうしてこれは実は優良な家畜を作るという目的もありますが、満州から百五十万トンの大豆かすを買っていたドイツが、これを五十万トン完全に駆逐した。こういうような実績があがっております。ドイツ人は賢明でありますから、空中窒素の固定によって硫安会社をたくさん作るということと同じことが、荒廃しておる山から得られるのであります。こういうような大きな生産をなぜ日本で今までやらなかったか。日本でほおそらく四、五十万トンの蛋白資源も買わなくて済むのであります。しかも太陽の光線によって合成され、しかもあき地の利用によってできるのでありますから、こういうことをもう少し進めたいということを考えるわけです。  もう一つは、草の蛋白質は非常にいい蛋白質である。これは最近ヨーロッパでも草地農業研究し始めて、われわれ栄養学者にいろいろまた諮問が来ているのでありますが、草を食べますと、与えた草の蛋白質の八〇%が乳に出でくる。これは非常に何と言いますか、驚くべき蛋白効果です。しかるに、大豆かすを与えますと六〇%、亜麻仁かすを与えますと四〇%しか乳へ出てこない、こういうように非常に高い蛋白率を持っておるいい草です。雑草ではだめです。こういうような点におきまして、農家が草をうまく利用するような形になりますと、畜産能率が上って参りまして、それこそ牛乳の生産費が安くなり、また家畜が健康になる。こういうような点で、最近英国の酪農研究所では、研究所全員あげて草の蛋白研究しております。非常に能率高い蛋白生産量といいますか、動物体における効果というものが大きいことに驚いた。これは一九五三年に発表したわけです。八〇%出ておりますが、これは驚くべきことです。大したものです。大豆かすでは、わざわざ金をかけて、そうして牛に与えて六〇%しか出てこない。こういうような点におきまして、貧乏な日本がさらに貧乏になるような形でもって家畜を飼っておるという状態であるわけでございます。血粉を与えても六〇%しか乳へ出てきません。ところがこの草ですと八〇%も出てくる。この技術をなぜ日本は入れないか。それから草はビタミンの給源でございますから、草を与えた家畜は非常に健康になる。もう一つ、草の蛋白を与えないと畜産物が高いものにつく。日本畜産物はほかのものに比べて高いです。従って常食としてなかなかこれが利用できない。これは草のない畜産をやるから日本畜産物は高いものになる。こういう面からいいましても、もっと草によって牛を飼うということを勧めなければならぬ。私は栄養学の見地からかく論ずるわけであります。私は今悪い雑草地草地にした場合、どのくらいの蛋白生産からくる農業上の利益というものがあるか、草の評価、あるいは草地評価というものを栄養価で判定しております。たとえば、オーチャード、レッド・クローバーが反当り千貫とれるとしますと、ふすま二百貫に相当するわけです。これは年々ほとんど二、三人の労力です。草地になりますと、少くとも五人ぐらいの農業労働で二万円の生産がある。ほかの農業に比べても農業労働生産性が高いものになる。これは雑草のまま放置しておけば、反当り百貫くらいしかとれない。そうすると、せいぜいうまく利用しても反当り草地生産価というものは千円ぐらいにしか当らない。こうして私は草地改良、進んで草地評価というものを栄養価値で判定する研究をしておるわけです。これに対していろいろなデーターを実は持って参ったのですが、昨日夜行で全部盗難にあいました。実は三十五部を刷ってきたのです。また図表を持って参りましたが、ただスライドだけがこれは別なカバンに入れたので残った。莫大な損失をしたわけです。そういうような面で、盗難というものがない時代がくることを望んでおるわけですが……。時間がございませんので、栄養学的に見て非常に日本はばかげた損をしているということをなるべく農民に知らしたい、こう思うのであります。  そこで、私は要望書として次のことを書いて実は三十五部刷って参りましたのですが、昨日午前中からメモをとってまた思い出して書いたものですが、日本農業技術的にも経済的にも非常にすぐれたものを持っておりますが、経営的に見ますと、非常に大きな欠陥二つある。その一つは、国土の能率的利用が一番低いこと、一六%、他の一つ労働生産性が非常に低いことであります。これは草地農業の発展がなかったからであります。どうしても水源涵養にあまり関係のない低い山とか、傾斜地とか、山すそ地帯、河川敷や堤防、畦畔や農道を極力牧草化する国民運動を興さなければならぬ。そのほか農地の裏作があいておりますので、裏作輪作形態としてレンゲ、ヴェッチ、イタリア・ライグラスというような草を導入して輪作形態をはからなければならないと思っておりますが、これをなすためにいろいろなお願いがあるのですが、草地農業を推進するために、まあ二千年来の日本の因習を打破するため抜本的な政策を確立しなければならない、これに関心がなかったものですから障害二つある。第一は、従来の食糧増産一点張り、もちろん食糧増産は大事だと思います。私は少くとも一億石の食糧が自給されるまでは食糧増産に力を入れなければならない。しかしながら、一点張り農業政策以外に政策改革を与えていない現状でありますから、おそらく従来の農政学者によってかなり反対が行われるだろう、すぐに行くか行かないかという面でかなり反対がある。第二は、非常に長期の予算措置を必要としますので、この政党によって政策が年々激変するようなことがあってはならない、どうしても基本計画として各政党のお話し合いを願って、ある程度受け継いでいただくような形でやっていただきたい、この点において二つの心配がある。対策として私は三つの大きな項目をお願いしたい。第一は、人的対策、これは一番大切なもので、第二は、物的対策、第三は、制度上の対策、こういうふうに分けております。人的対策は、そのうちの一つは、まず農民に新しい分野農業を知らせる、そうしてその活動意欲を盛んにするために現在やっているような次の仕事を、これは小規模にぼつぼつやっておる仕事を本格的にやっていただきたい。第一は、草地農業を盛んにするための講習、講話、座談会、第二は、草地改良共進会、その草地がよくなってきたところに対して指導を与える、その評価を与える、それをもっとよくやってもらう、あるいは草地改良コンクールというものを愛知県でやっておりますが、非常に農民が熱意を持ってコンクール意識によってすぐにやるようになって参っております。第三は、人に対する表彰です。これを第一にお願いしたい。  第二には、草地に関する日本的技術の確立をはかっていただきたい。これは日本の二千年の農業ですから、草地に関する研究がおくれておりますわけです。そのためには第一に国に草地研究所を作っていただくこと、これは仮称でありますが、なぜかというと、現在の農業技術研究所は、養蚕だとか、林業が全然入っておらない、分割された研究体制です。それでこの草地農業を進展するためにどうしても林地傾斜地研究、これを十分やらなければならない、従って林地傾斜地方面にまで研究が伸びるように、いわゆる独立した研究所を作っていただきたいということであります。第二には、地方にある国立並びに地方立試験場草地部を置いていただく、これはかけ声になって大いに地方がやるようになるのじゃないか。それから第三といたしまして、特殊問題につきましては大学研究を委託していただきたい。いろいろな土壌肥料の成分の欠陥によって植物が生えて来ないという場合は、おそらく相当現代的な機械で検定しなければならぬ、こういう問題につきましては大学研究を委託していただきたい。第四としまして日本草地研究会が発足したのですが、この研究会の組織を利用しまして、技術お互い交流をはかっていただきたい。目下困っておるのは印刷物を出す金がないのです。かなり技術が向上されておりますが、これを印刷してお互い研究者同士に配付することが第一、第二には、農民にまで伝達するのに一銭の印刷費もないわけです、われわれの手元に。次には外国との交流を盛んにやりたい。これが第二の要望であります。  第三は農民に対する懇切なる実地指導機関を各地に設けていただきたい。ここに農民を入れまして、一年ないし二年ぐらい農民を入れまして、技術経営の練習をするような機会を作っていただきたい。あるいは草地指導所あるいは農林省でやっておられますような草地改良センター、これをもう少し進めて、この方面農民を入れてしまう。一年間訓練して、そうして実際の技術を覚えた者を自分の畑あるいは山へ持って行ってやっていただく。  第四番目は、国及び地方に、これは仮称でありますが、草地官と言いますか、アメリカではリージョナル・グレイサーという特別な専門家ができて、農業もわかる、畜産もわかる、林業もわかる、こういう各分野調整がありますから、すばらしくいい人を各草地農業建設に当らして行く。これは草地官という仮称でありますが、そういうものを置いていただきたい。これは国あるいは県、そうして指導奨励をやっていただきたい。これが人的対策むしろ人対策を先にやる必要があるのじゃないか。第二には物的対策でありますが、第一に、草地開墾草地造成に対して機械貸付資金貸付などを大幅にしていただきたい。現在各県で非常に希望して熱が非常に出ておりますが、なかなかこの機械を貸してもらえないのですね、足りないのです。反当り場合によっては一万円から二万円もかけておる。溝口先生のお話しによるというと、反二千円で安価に開墾ができる。こういうことを非常に広げてやっていただきたいということを県が非常に要望しております。第二には、牧草種子とか、種苗の配布を拡大するための原種圃採種圃をもっと拡大していただきたい。現在は配給も不円滑でございますから。今年は九月から十月の初めに種をまくのに種がこない、非常に事務的にもあるいは連絡が悪いというのでしょうか、種が来なければ来年になる。こういうようなことが非常に不円滑でありますから、種まきのときに間に合うように牧草種子は十分に配給するような方法をとっていただきたい。第三に、草地維持利用に対する施設補助ですが、たとえば潅漑施設であるとか、索道であるとか、尿を山へ持っていくのにやはり索道が必要ですから、いずれは償還できますから、これは低利資金で貸し付けるとかいうような方法をとっていただきたい。次はイ、ロ、ハのハですが、耕転とか、播種とか、刈り取り、あるいは施肥に対する機械化の問題、この機械の援助をしていただきたい。それから乾草などを作る、日本畜産乾草がないものですから、最近は兼松さんのところでやっておられまするが、いろんな乾草機械、あるいは私どもの発明した生草圧搾器、これをどんどんと農民に安く払い下げるとか、売るなりする、風乾器、こういうような乾草の製造の機械をどんどん出していただきたい。第四番目に、物的対策の第四番目に、草地災害対策ですが、これはあとスライドでごらんに入れますが、コオロギが出るのです。ですから七地帯などはうっちゃらかしてもいいというようなお考えでは非常に困るので、災害が非常に多い。いい牧草になると作物と同じように災冊害があるので、災害に対して農作物と同じような対策を講じてほしい。全山やられた例があるのです。  最後に第三番目に制度上の対策でありますが、これは農林省及び地方庁の機構改革、これは今でもおやりになっておりますが、予算を伴った機構改革をやっていただきたい。第二には、牧野法改正ですが、これはいろんな問題がございますが、林野の開放なども含めた大幅な改正をやっていただきたい。第三番目に、草地造成を盛んにするためのいろんな奨励規定を作っていただく。たとえば草地が非常に遠い所にある、薪炭林が近い所にある。毎日使う草地にも一里も二里も、あるいは五里も行かなければならぬ。草地薪炭林交換分合という形を進めて、そういう面をうまくやって行くような調整の問題。第四番目が、草地農業推進障害になるいろんなことがございますので、その制度を撤廃するなり緩和していただきたい。  こういうような三つお願いがございます。つまり人的対策、これは人の方を先にやっていただきたい。それから人の中には教育も入っております。二は物的対策、第三は制度改革、これを一つお願い申し上げたいと思います。
  4. 江田三郎

    委員長江田三郎君) ありがとうございました。  次に、東北大学農学研究所吉田重治君。
  5. 吉田重治

    参考人吉田重治君) 東北大学農学研究所におります吉田でございます。私は牧野専門に過去二十年来研究して参ったものでありまして、本日の機会牧野実態研究して参りましたものにつきまして、私の見解を御披露申し上げまして御参考にしたいと思います。時間の関係がありますので、ごく簡単に話を進めますが、私はここで牧野生産機構というものにつきまして簡単に御説明してみたいと思います。  草資源の問題といたしまして、牧野の根本の問題になりますのは生産性の問題でございます。生産性と申しますと、土壌の質だとか、あるいは草の種類、量、そういったものが渾然一体となりまして表に現われてくるのでありますが、牧野生産機構というものは、一口に申し上げますというと、野草、自然発生的な在来草によりまして構成されております。極端な場合には家畜の毒になる草すら入っております。もちろん家畜の食べない草もその中に含まれております。しかもなお土壌に対しましては、土地に対しましては、何らの改良的手段が講ぜられておらないのでございます。そういうような自然発生的な草源、これを畜産の方に使いますと、初めてそこに牧野という概念が生まれて参るのであります。ごく最近になりまして、牧野生産性が非常に低いというふうなことを言われるのでありますが、今申し上げましたような状態でございますので、これは低いのが当りまえ、改良されました牧草を、肥料を使いまして土地を耕やして作る、そういうふうなものと同一には見られない。もちろん田畑生産機構というものと比べますというと非常に違う。ここに牧野の特徴というものがございます。農林省高度集約牧野というふうなお名前をつけられてやっておりますが、学問的に見ますというと、これはもう田畑生産機構の中に入れて差しつかえない。すでに牧野という性質のものではなくなっております。で、牧野と申しますのは、議事録を拝見いたしましたが、天然牧野、あるいは改良牧野といっておられますものがほんとうの意味の牧野である。そういうように私たちは解釈いたしております。で、生産機構がとにかく非常に違っておる。さらに牧野生産性の低い原因といたしまして、従来略奪経営に陥っております。それが長年継続されて参りまして、ますます生産性を低下させておる。その証拠は、牧野植生変遷というものをつぶさに研究して参りますと、これは学術的に立証できるのでございます。  ちょっと余談になりますが、この略奪経営の一端をになうものに、田畑経営におきますところの有機質肥料の大きな給源になっておるということがあります。これは従来とかく忘れられがちになっておりますが、有機質肥料の非常に大きな給源になっております。畜産だけでなく田畑経営にまで牧野というものが寄与しておる、そういうことを一言つけ加えて生産性の低い一つの大きな原因について申し上げてみたわけであります。  以上ごく簡単ではありますが、牧野実態というものと、その生産性が低いということについて御説明したわけですが、それでは現在の牧野の適正な利用基準というものがどこにあるか、どこに置けばいいかという点について、私が過去研究して参りました植生変遷という立場から御説明してみたいと思いますが、実際問題といたしまして、過去にこの利用基準に関する研究というのは遺憾ながらほとんどなかったのであります。もちろん全然なかったわけではございませんが、一つ二つはありました。しかし基礎理論におきまして多少修正を要する点がございました。そのために今日のように略奪経営に陥りましてもやむを得なかった、そういうふうにも考えられるのでございます。私は植生変遷を二十年来研究して参りました。その植生変遷理論に基きまして今日適正な利用基準というものについて考えて参ります。これについては、後ほど申し上げますが、要するに牧野というものは、もう一度申し上げますと、自然草原をそのまま利用する、従いまして、田畑生産機構というものとは根本的に相違するのだ、そういうことを重ねて申し上げておきたいと思うのであります。田畑の方でありますと、耕しまして肥料を入れて米麦を作る。しかしながら、牧野の場合には無肥料経営いたしまして、そうして自然発生的にそこにはえている草を使う。次から次からはえて参りますからして、とかく田畑の取扱い方を牧野にも利用する、そうしてはえてくる草をどんどんとってしまう。そこには略奪経営に陥るとか、陥らないとか、そういうことは全然考慮されておらないのでございます。それで問題の適正な利用基準というものをどこに置くか、これを一口に申し上げますと、植生変遷を起させないような使い方をする。植生変遷理論生産性の変化と同一に解釈してよろしいのでございます。牧野の草が変り、草の種類が変り、量が変ります。従いまして、牧野生産性というものが当然それにパラレルに移り変って参ります。詳しい学術的な理論はここで省きます。植生が安定すれば生産も安定する。こういう基礎理論なのでございます。従いまして、植生を安定させるような消費量、これを私は牧野生産維持限界、あるいはまた限界消費量というような名前で呼ぶことにいたしております。実はこの見解は、今月の末に岡山で開かれます畜産学会で発表したいと思っておったのでございますが、ここでごく簡単に御披露申し上げた次第でございます。こういう理論に基きまして過去に行われました実験例、これはなくなられましたわれわれの先輩の大迫元雄氏がやられた実験でございますが、それを一部修正いたしまして申し上げますというと、大体大家畜で一頭に対しまして二町歩以上の放牧地を要する。これは私は見ておりませんので、どういう状態牧野かわかりませんが、ススや草原というふうに書かれてあります。そういうふうな所で一頭当り町歩以上の計算になります。また理論的に考えましても、生産維持限界というようなものは、それほど大きなものではないというふうに考えられます。しかしこの生産維持限界量を守ります限り、牧野というものは荒廃しない、私はこのような意味の消費量のことを真正な生産量、こういうふうに言いまして、従来の田畑における坪刈り式な生産のはかり方、これを見かけの生産量、こう申しまして区別いたしております。草地というものは六月に刈りましたときと九月に刈りましたときと量はもちろん差がございますが、そのあとの影響が非常に大きいのでございます。九月に刈る場合には植生変遷に対する影響というのは小さいのでございますが、九月に刈ると非常に大きな影響を及ぼす、いろいろな問題がそこに介在いたしますが、とにかく坪刈り式なものでは、略奪しておるか、していないかというようなことをほとんど考慮されていなかったのでありますから、そういうふうな略奪するか、しないかということを考慮に入れた生産量のはかり方をしなけりゃいけない、こういうことを強調したいのであります。  次に、今申し上げましたような利用基準を守った場合に、果して日本畜産というものはどうなるかということについて、これは非常に想像的なものでございます。研究がそこまで遺憾ながら進んでおりませんので、ここで申し上げましてもごく推量的なものというふうに御解釈を願いたいのでございますが、従来牧野利用というのは略奪的でございますから、当然常識的に考えても畜産生産というものは減退する、こういうことが考えられます。従って従来のような畜産生産物の量というものを維持しようとすれば、当然ここで牧野というものに対して何らかの積極的な改良方策をとらなければならぬということが結論的に出て参る。今日のような状態に放置いたしますならば、いわゆるジリ貧的な結末をまつばかり、こういうことが言えるのでございます。どの程度にそれでは適正な利用をした場合に畜産生産が低下するか、これはもうごく、私の推測でございますが、植生変遷の立場からみまして、いかに大きく見積りましても現在の三分の二程度、これ以上は期待できないんじゃないか、すなわち逆に言えば、三分の一以上の生産が低下するというふうに考えられるのでございます。  次にこれは私の研究というものではございませんが、私つい最近まで青森の片いなかに十年間おりまして、実際に農家の牧野利用の仕方なんかを見て参りました。それからまた私は過去二十年間に北海道を除きます全国の牧野かなり多数見て参りました。そういうふうなものを基礎にいたしまして申し上げるのでございますが、草地種類畜産経営種類、これには非常に大きな関係がおのずとできておるようでございます。今日酪農経営が非常に盛んになりまして、牧草の栽培というふうなことが大きく取り上げられて参っておりますけれども、結論的に申しますと、酪農の場合は牧草の栽培地が最も適当しておる。しかしながら、乳牛以外の馬であるとか、和牛であるとか、そういったものの生産育成の場合には、やはり生産性は低いが牧野を使わなければならぬのじゃないか、また事実そうなっております。乳牛がどこまでふえるかということがいわゆる牧野というものの動向を支配する、先ほど申しましたような畑地化された集約な牧草栽培地というふうなものがふえるか、あるいは現在のような牧野、あるいはもう少し改良された牧野と定義される種類草地がどれだけ残るかというのは、一に乳牛の数、今後どれだけふえるかというものに非常に大きな関係があるんじゃないか、かように考えております。なぜこういうふうな状態が出て来たか、その原因は私の見るところでは、結局は経済的な問題、牧草を栽培いたしますのも、現在では国の補助によりまして開墾をし、肥料を入れて牧草の種をまいて作っておりますけれども、そういうふうな集約な経営をいたしますというと、馬産の場合、あるいは和牛を生産育成する場合経済的に成り立たない。牛や馬の販売価格が安いために畜産経営自体が成り立たない。そうなりますというと、もちろん牧野に対する投下資本の還元と申しますか、回収と申しますか、そういうことがほとんどできない。これは今日のような非集約な牧野においてすらその通りでございます。政府の補助があれば牧野改良をやる、なければやらない、略奪経営に終始しておる、これがわれわれの見る現実の姿なのであります。先ほど申しましたように、田畑の方の有機質肥料、自給肥料の源泉になっておりますけれども、いまだかつて田畑のこういう部門から一握りの肥料牧野には還元されておらないのであります。私たちの理想といたしましては、欧米諸国のように、非常にいい草を牧野全面に生育させる。これはわれわれ技術者の最終的な最も大きな念願なのでございますが、理論と現実との食い違いというものがこういうところに出て来まして、非常に困難な思いをいたしております。  もう一つ申し上げておきたいことは、従来の牧野の所有権と使用権の問題でございます。御承知のように、共有地が非常に多い。あるいは入会地が非常に多い。しかもすべてが共同使用で責任の所在が非常に不明確だ、いわゆる取り得だというふうな観念が農家の間にびまんいたしております。そういうふうなこと、これはまあわれわれの専門外のことで詳しいことはわかりませんが、実際に歩いてみてそういうことを痛感する。  それからもう一つ、これも私の専門ではございませんが、ごく最近の農家の実情を申し上げますが、澱粉食糧生産する形になっておる所では、急に酪農を取り入れておる場合、労力的にも資本的にも非常に無理が出て来ておる。私も現実に見ておりますが、労力過重のために家族のものが病気で倒れる、あるいは資金的に行き詰まり、わずかな乳価の低落にも牛を手離す。これは結局は従来の米麦生産生産経営形態の上にこぶのように酪農というものがくっついて来ておる。そこに無理があって、そのしわ寄せが農家の健康なり、資金面の中に出て来ておるのじゃないか、かなり牛が移動しております。また病人なんかも出て来ておる。これはここ終戦後わずかな年月であるにかかわらず、かなりな例がみられるのでございます。  それから最後に、私、大学におりますので、一言お願いしておきたいのは、大へん遺憾な表現でございますが、今日新制大学が各地にできまして、私がこういうことを言うのは遺憾なのでございますが、駅弁大学とまでいわれるぐらいにたくさん大学がございます。草地なり、牧野なりを専攻するところの講座というものがただの一つもないのでございます。私は東北大学農学研究所に籍を置いて、牧野専門研究いたしておりますけれども、私の籍は借りものでございます。従いまして、研究費なども非常に苦しい思いをいたしております。実態を申し上げますと、私の研究室は私に、助手が一人おるだけでございます。文部省からもらいます研究費も、年間にいたしましてわずかに五万円、旅費は五千円農林省からやっと補助をいただきまして、ようやく動いておる、こういうのが実態でございます。私の研究大学に入ってからむしろ低下いたしました。私が五年間農林省におります間にこつこつと出張のひまをみては研究して、植生の変遷を研究して参ったのであります。実際は大学へ行って能率が低下してしまった。これはまことに矛盾したことだと考えております。  以上、時間の都合もございまして、ごく大ざっぱな御説明になりました。以上でございます。
  6. 江田三郎

    委員長江田三郎君) 次に、草地農業振興促進全国協議会事務局長の横地敬二さん。
  7. 横地敬二

    参考人(横地敬二君) 私、草地農業振興促進全国協議会の事務局を担当しておる横地でございます。本席で意見を申し述べさしていただくことを非常に光栄に存ずるものでございます。この機会にむしろ私らの方の、従来、会で活動いたしておりました意味でのお願いもございますし、また合せて個人的な意味をつけ加えて申し上げさしていただきたいと思う次第でございます。  牧野の問題はただいまもお話がございましたように、幾つかの行き詰りに逢着しておるような気がいたしますが、しかしながら、草の問題、また草地の問題という考え方におきましては非常に前途大きなものがあるのではないか、それは進め方によっては日本農業の非常に大きな変革というところまで結果するものであろうというふうに考えておるのでございますが、ただしその大きさでありますとか、あるいは質的な意味での生産性の引上げの可能性というようなことにつきまして、従来研究も少うございますし、説明の基礎になるところの資料がございませんので、正直のところ非常に正確に問題をつかみがたいという状態にあるのじゃないかというふうに常々考えておるのであります。たまたま一、二の場所で調査をいたしました機会がございまして、きわめてこれは学術的には大ざっぱなものでございますが、さような点についての感じと申しますか、体験から申し上げてみたいと思うのでございますが、草をきわめて集約に肥培管理した場合にはどれくらいの生産力があるか、また経済価値があるかという点についてわかりやすい表現をもって申し上げますならば、これは実際に農家の方々がやっておられる実績、すなわちこれは岩手県下におきますものと、群馬県下におきますものと、この二つに過ぎないのでありますが、それらから得られました結論としましては、大体反当二千貫くらいのなま草を生産することが可能であるようであります。一方東北農業試験場で佐々木技官がラデノウクローバーという草を栽培しまして、そこにつなぎ放牧した結果、一定の草からどれだけの牛乳がとれるかという実験をされております。これもきわめて大約な数字でございますが、なま草二貫匁から牛乳が一升とれる、これは濃厚飼料を少しも与えないでそういう成績があがっております。また一年中ラデノウクローバーのなま草とほし草で一斗級の牛が飼えるということを証明されておられるわけであります。先ほど申しました反当二千貫のラデノウクローバーのなま草をとりました場合には、これは牛乳換算いたしまして十石に当ります。これを現在の生産者乳価にかけますと、反当四万円の収入があるということになるわけであります。このことは草の経済性ということをりっぱに物語っておるのではないかと思うのでございます。それでは草の生産がどういう場所でなら行われるかということをつめて参りますならば、草問題に対する一つの経済的な見方というものが浮び上ってくるのじゃないかと考えておるのであります。もちろん先ほど吉田さんから御意見がありましたように、従来の牧野生産力はどんなものかと申しますと、たまたま関連して調査しました長野の例では、五カ所の牧野も平均して、これは八月の下旬に坪刈りしたものでありますが、なま草で一千六百貫というような数字が出ておる。これはただいま申し上げたような高い生産力に比べますると数字的には非常に低いのでありますし、またその草地を人工的にどの程度、しかも経済的に許される範囲で高め得るかということについては相当に疑問がございます。もちろん技術的にいろいろな改良の工夫を講ずる余地があろうかと思うのでありますが、たとえばクズの栽培とか、ハギの栽培とか、導入とかというような問題を進めて行くならば、相当に野草地といえども生産力引き上げの可能性があると思われますが、そういうような場所と、先ほど申し上げましたような、いわゆる耕地に牧草を栽培したというような場合とは、これは分けて考えなければならないというふうに考えます。しかしながら、耕地に人工的に肥培をして草を作るならば、それだけの生産力があがるということは、これは将来のこの草問題の取り上げ方に非常に大きな示唆を与えるものでありまして、たとえば新しい日本の開拓の問題、また従来畑地地帯のいわゆる農業経営のやり方の改善の問題につながる輪作の中の一環として草作を取り上げて参るというような見方からいたしますならば、相当に大きな面積、また相当に大きな生産の基礎になる考え方ではなかろうか、かように存ずるのであります。たまたま従来もいろいろな学説はございまして、いわゆる北欧で行われております飼料単位式の計算法、飼料単位の計算法によりましても、大体優良な草地でありまするならば、一斗級の乳牛が草のみで飼えるというような結論が出ております。それでこれを今後どういうふうに取り上げて参るかという点になりますと、従来の牧野利用が行き詰りを来たしておると言われますが、それらについてきわめて要約してその姿を描いてみますと、牧野の位置の問題、牧野の位置が適当でない。それからこれは、たとえば先ほどお話が出ましたが、森林といわゆる草地との位置が農家の経営の立場から見て適当でない、遠方に草地がありまして手前に林地がある。これは火入れの関係が多分にあるようでありますが、生産性という点から申しまするならば、林地を上に移しまして、そうして手前に草地を新しく作る必要があるというようなことをつくづくと感ずるのであります。岩手の上閉伊地帯においては、特にこういう傾向が顕著であると見て参りました。  それから次に、牧野の配分が適当に行われていない。これはもちろん草地牧野というものが天然地形に非常に多く左右されるという理由によるものと思いますが、草地の豊富な地帯では一戸当りの面積が相当にたくさんあります。しかしながら、やや距離が離れますと、使用権益等の関連もございまして、ほとんど草地を持ち、あるいは使用する権限を持っていない。こういうところにせっかくの土地がありながら利用が十分にいかないという原因があるように思います。  それから第三番目に、牧野の管理形態が適当でないと思われる点が多分にございます。御承知のように、牧野は共同管理しておるものが非常に多いのでありますが、この管理をしておりますところの事業主体と申しますか、団体的な固まり、活動のしぶりというものが十分でないために、牧野に投資をして牧野の肥培をはかるという力が出てこないというような面が相当にあるのじゃないかと思います。その次には、牧野改良に関するところの技術が十分に積み立てられていない。これはもちろん日本が従来米麦等の生産に主力を置いてある関係がございまして、かような点が欧米と比べて力の入れ方が足らなかったわけでありますが、それが牧野利用を進める上に非常な障害になる、その点についてはぜひとも、従来非常に力の入れ方が足らなかったのですから、今後大いに力の入れ方を変えなければいけないのじゃないか、かような感じを持っております。  それからまた牧野制度の問題、これは草地の所在というものがいろいろな行政の範囲にまたがっておる、たとえば林野の部分にまたがる問題がある。また先ほどお話ししましたような、いわゆる農地の一部に草を作るという問題がある、また純粋のいわゆる畜産局で所管する牧野の問題があるという工合に、非常に行政的に多岐に分れておる、このことがすべての行政施策の推進を困難ならしめているというふうに考えるものでございます。  以上のようないろいろな牧野利用障害をなしている問題があると思うのでありますが、その問題を直接にどうするかということが一つございますが、先にも述べましたように、草の利用の将来におきましては、現状の牧野のみに拘泥せずに、日本のいろいろな用途に用いられておる土地の中で、草に利用することが最も生産性を高めるという場所につきましては、これをこの際従来の観念にとらわれることなく、もう一回一つやり直して草地利用という問題を考えてみる必要があるのじゃないか、これは先ほどもお話に出ておりますが、日本の国土の総合的な利用という意味におきまして、特に北海道のいわゆる霧の多い地帯、また内地におきましても、青森とか、岩手とかの相当の部分においては、従来の農業の形態ではとうてい人口もふえませんし、生活も向上しないという地帯がはっきり出ております。これらの地帯は新しく問題を取り上げまして、そうしてそこに人を移して行きながら、この草地問題を考えていく、これは言い方は逆かもしれませんが、草を多分に取り込んだ新しい農業形態、これは主畜農業形態と申せるかと思いますが、そういうものを集団的に作り上げるという必要があるように思います。そうすることによってその地帯に人口がふえ、農業が新しく起り、また他の産業もおのずから大きく起って行くという必然性があると思います。しかるにこれらの点については、たまたま草そのものがいろいろな面で行政的にまたがっておるばかりでなくて、その他のいろいろな問題につながって総合的に行政が進められていないために、少しも前進をしないという形態を明らかに見るのでございます。この点について、主畜営農の開拓事業を推し進めるということはこの草地農業の実体であるというふうに考えて、草地農業の会では昨年からお願いをいたしております。たまたま今回農林省の中で、各局にまたがる協議会ができましたことは非常にけっこうなことだと思うのであります。ただ問題は、先ほども申し上げておりますように、現状の調査すらが十分行われておらないのでございまして、今後まず調査の段階から各関係のお役所が協力されまして、そしてとかくはっきりしていないこの草問題のほんとうの姿、これをまず拾い上げていただくということが第一に必要なことではなかろうか。で、その次の段階といたしましては、相当固まって、先ほど申しましたような、草を多分に取り入れた農業形態というものを新しく導入して行く部分については、きわめて具体的な計画設計をしていただく、そういうことを数カ所やっていただきますことによって問題の性質がいよいよはっきりしてくるのではないか、かように考えております。で、それらのことをすでに会としてはお願いしてあるのでございますが、今後さようの趣旨で御推進をいただきたい、かように考えておるのであります。  実は意見を徴せられまして、十分な数字的なお答えを申し上げることができなかったことは大へん相済まないのでありますが、問題の性質がさようなことにあるのでありますので、今後問題の解明をすみやかにお願いをいたしたい、この点を私らの会から特にこの席でお願いを申し上げたい次第でございます。大へん失礼いたしました。
  8. 江田三郎

    委員長江田三郎君) では次に、広島県畜産課長押野芳夫君。
  9. 押野芳夫

    参考人(押野芳夫君) 広島県の押野でございます。  国土の利用の増進のために草の改良ということを盛んにするということは、もう今更言うまでもないと私は思っておるのですが、土地生産性を増すということは日本農業のこれは宿命的な問題であるとともに、もう一つ考えなくちゃならないことは、対人口の収入、生産量ということを頭に入れてやらなければ国際の競争に負けるんじゃなかろうか。要すれば、一人当りの収入はどうなっているかということを待たなければならない、こう思うのであります。ところが、土地に制限がある、だから山もまた利用するのだ、あらゆる土地利用するんだということになりますが、幸いなことに、土地は狭くとも日本の気候が非常に高い、高温である、多湿である、そして多照であるというのがまあ私らが現在勤めております方面、関東以西においてこれを見ることができるのであります。で、こういうふうな高温、多湿、多照という典型を利用して、そして地力というものを増して行き、また水というものを十分に与えて行き、そして適当な作物を入れ、そして管理をよくするということになれば非常な大きい収穫を得られる、こう思うのですが、このやり方は今までは特殊な扱い、あるいは特殊農家、篤農家というふうな別扱いにされておったわけであります。しかしこの別扱いにされておるということを、もう目標にして行かなくちゃならないだけの日本は国情ではないであろうというふうに考えられるのであります。これはあの人だからできるのだというような考えを持って漫然としたやり方ではいかないんじゃないかというふうに考えられます。それでこの広島大学の堀川先生がおっしゃるのには、日本は、これは植物学者でありますが、世界に比類のないところの、気候風土にバラエティがある、こう言うのであります。非常に変化がある。そうなって来ますというと、草作りしますのにも、作物を作るにいたしましても、これは所によって違ってくるんじゃないか。だからAの作物が甲地で適さなくても、乙地ではすばらしい成績を上げるということになってくるのであって、たとえば試験場を一カ所に設けて、その成績をもって日本全体にこれを推し進めて行く、あるいはその経営法をもって日本全体に推し進めて行くというようなことは、むしろ慎しまなければならないのじゃなかろうかというふうに考えております。それで草にいたしましても、そこに適当な、適したとこるの草というものを選ばなければならない。そうして適当な管理をしなければならぬ、ということは、所によって違えて行くということは、他の作物や、食糧作物や果樹と同様だと私は思うのであります。で、地力の増進は、私は専門外でありますので、ただ経験や見聞から漫然と申し上げるのでありますけれども、大体において酸性土が非常に多い、それで石灰を用いるということは大体このごろは常識になっております。で、厩肥は絶対にこれは必要なんです。ところが最近肥料なんかにおきましても、酵母肥料なんというものも出て参りました。これは酵母は厩肥の中に無数に、無限に私はあると思っておるのです。この厩肥なんという言葉も、今までは農業指導者から言わせますと堆肥と言い、畜産の方の技術者から言わせるとうまや肥、こういうふうなことを言われます。もう農業技術員の方から言いますと、絶対にうまや肥ということは言わない。畜産の方は絶対に堆肥ということは言いたくないというようなやり方、こんなところももう調整されてもいい時期に来ているのじゃないかと私は考えておるのです。今まで堆肥なんかも、三百貫ないし五百貫反当やるというのが常識になっておったのですが、畑作で飼料作物をやるならば二千貫ぐらいやるのが常識だと思う。やっても差しつかえない、あるいは荒起しした新しい開墾畑、これなんかには一万貫もやった例を見ておるのであります。そうしますというと、もう翌年からりっぱに、最も肥料が要るところのデントコーンなんかが二千貫以上も楽にとれる、一回作にとれる。もちろんこういう場合におきましても燐酸肥料の施肥は忘れてなりませんのですが、こういうことをして地力というものを増して行くということが必要じゃなかろうか、こう思うのであります。ところがわら工品の奨励が水田地帯のまっただ中でやられておる。これはわら工品の奨励なんということは山間部で、他に厩肥資源なり、堆肥資源といいますか、厩肥資源の豊富なところにやるべきだと私は思う。で、わら工品を奨励し、あるいは水田酪農も奨励するなんという誤まった奨励も見受けられるのであります。これは営農方式としては私は落第だと私は思うのであります。そういうふうな地帯もあるのであります。で、水の問題は、山でありますならば山で草を作る、あるいは山の草を保護するという意味でありますれば、庇蔭樹とか、あるいは環状水路ということが必要でありましょうし、牧草畑、潅漑畑、畑地潅漑も今後考えてもらいたいと私は思うのであります。従って耕地整理というようなことが水田に限ってやられておったのでありますけれども、どんな水の不便なところでも、何とかして水田を作ろうというのがこれまでの農業土木であったのでありますけれども、畑地の耕地整理、あるいは畑地潅漑ということをやったならば、非常に畑の能率が上ってくるのじゃなかろうかというふうにも考えられるのであります。で、飼料作物をやりまする場合に、水田の畑地転換も一考さるべき問題でありまするが、稲作の適地であっても営農の改善上一部畑地に転換を考えられてもよいでありましょうし、少くとも慣習と年貢制度上から来たところの自然を無視したところの稲作ということは再考されてもいいのじゃないか、さるべきであると私は思っておるのであります。稲作を飼料作物に変えまして酪農をやって、そして蛋白も、あるいはカロリーの計算におきましても増しております。収益におきましては二倍ないし四倍という上げ方を上げておる例も数多く見るのであります。またこれまで米の多収穫競争で表彰された農家の大半は有畜農家であるという実情を見ましても、今後飼料作物なり、草ということも全技術員が、また全農家が関心を持つべきであると考えております。こういうふうにして農業にバラエティが出て参りますれば、国民の食生活にもバラエティが出て参りましょうし、また長生きもしてくるのじゃなかろうかと思うのであります。で、草作りのことを、行政の先っぽの方をやっておりますので若干申し上げたいと思いますが、昨年までやってこられました牧野法によるところの助成施策ですね、政府政策は飼料木の植栽とか、あるいは炭カリ散布とか、牧草の播種というようなことをやっていただきまして、集約牧野、保護牧野ということをやってもらったわけであります。この成果は、往時の牧野法によりますところの牧棚を作るとか、あるいは障害除去というものより一歩進んだやり方であり、効果も相当に上っておるということを確信いたします。ただ十分これを見きわめないうちに、ことしもう中絶してしまって、その政策政府になくなったというようなことになりますというと、せっかく何とかやろうといって張り切っておったのでありますけれども、もうがっかりしてしまった。これはもう国土の政策が修正されたのだというふうな悲観的な考えを持ったわけでありますけれども、聞きますというと、そうじゃないのだ、もっともっとやるのだというようなことですので、安心したわけでもあり、きょうも喜んで参上させていただいたわけであります。ただ、これまでのわれわれの指導というものも十分でなかったということは率直に認めます。しかしその手不足であった、あるいはその技術が低いということをも考えていただきまして、教育というようなこと、手を増してやろうというような一つ親心を持っていただきたい、こう思っております。  で、この草作りを進めまするにも、先ほど東北大学の先生がおっしゃったように、この現在の日本の営農、米作りの営農から言いますというと、その労働ピークが非常に激しいのであります。それでこのままでは労働労力が許さない、また肥料が、私の申し上げまするのは元肥えのことを言うのでありますが、肥料が、厩肥が手一ぱいである。だからこの労力というものを経営の一部変更によって余すとか、厩肥を余すというようなやり方、あるいは何らかほかの方法を講じて労力を増すとか、厩肥を、前肥えを増すというようなことを考えて、まず手近から仕事をやらなければならぬのじゃなかろうか。草を作る場所が適当じゃないということが、これまでの方々から皆申されておりますが、私もそれを痛感いたします。それで山間地でありますならば、里山を開拓しまして飼料畑というものを個人で持つというところまで行かなくちゃならぬのじゃないか、しかし家畜、私は飼料のことで乳牛だけが非常に草の対象になっておるようでありますが、各種の家畜が必要なのであります。最近は鶏もラジノ・クローバーで飼料を節約されております。また豚も節約されております。また和牛の保育においてもこれを利用することができるのであります。各種家畜のととを申し上げるのでありますが、その育成なり、運動ということが必要なのであります。また畜産農家がほしいのであります。ところが個人ではこれを持つことができない。それでどうしても共同的なものを持たなければならないことは言をまたないのでありまして、これまた共同のいわゆる牧草地といいますか、放牧地といいますか、そういうものを進めて行かなければならぬ。これは土地の獲得の問題につきましていろいろな支障があると思いまするが、これを解決をしなければならない。要すれば個人の経営を増すとともに部落の経営なり、村の経営においても考えて行かなければならない問題だと私は思います。しかし何と申しましても、先立つものは人であります。そういう意味におきまして、人の養成なり農民の知識の向上ということをはかっていただきたい。  最後に申し上げますが、私の県に砂谷村という所があります。そこに久保政夫氏という方がおりまして、この方は非常に不屈なりっぱな人であります。本日そこにプリントを持って参りましたが、詳しくはそれによく書いてあります。それで約十年間孤軍奮闘、村の貧農を率いて、そうして土地の不便とか、あるいは金のないこと、物資のないこと、交通不便、そういうふうなあらゆる難難を克服して現在四百有余頭の乳牛の村になった。ただ一村で四、五百頭の乳牛を飼っておるという例は他にもあると思いますが、久保さんの私が敬服するところは、農業の根底からの経営を考えてやっておるのでありまして、飼料作物におきましても非常な高収量を上げております。普通農家におきましても反当五千貫程度のものは十分取っておると私は思っております。それでこういう飼料代が、いわゆるえさ代が普通われわれが奨励しますところは牛乳代の三割、三〇%で上がればいいというのでありますけれども、ここでは二〇%、二割の購入費用で賄っておりますとともに、酪農家の子弟をプラントに入れまして、労働しながら勉強させ、できるものは東京にまでも派遣しておるというような育英事業もあわせてやっております。よくプリントに書いてありますので、おひまのときに御一読下さるようにお願いいたします。なお本日スライドを持って参りましたので、そこにもよくうつしてありますので、のちほどごらん下されば幸いだと思います。  どうも失礼を申し上げました。
  10. 江田三郎

    委員長江田三郎君) 次に川瀬牧草研究所川瀬勇君。
  11. 川瀬勇

    参考人川瀬勇君) 私は岐阜から参りました川瀬勇でありますが、私はちょっと変ったことを申し上げるかもわかりませんが、お許しを願いたいと思います。というのは、私は草地農業と申しますか、あるいは酪農、自分で牛を飼いながら自分で研究をしている。そうして小さな私設の研究所経営して来たという変った道を歩いておりますので、従って私の申し上げることはいささか変ったことを申し上げるかもわかりませんが、御容赦を願いたいと思います。  私はこういうようなことを専門研究して参りました。小さな研究所を昭和九年から設立いたしまして今日まで来ているのであります。非常におこがましい次第でございますが、これを非常に大きく申し上げますと、私の歩んで来た道というものは、日本草地農業研究の一断面でございます。かつまたここに出席していらっしゃる岡山の吉岡さんとか、あるいは川越付近で大いに努力しておる猶原君というふうな、みずから研究を行なっているものの幾分か代表した経歴であり、また言い分なのであります。私は実は草地農業専門の教育をニュージーランド大学で受けておりまして、一九三一年、三十二年、三十三年、三十四年の四年間ニュージーランド大学の農学部で草地農業専門家として教育を受けたのであります。いよいよ卒業いたしますときに、校長が私を呼びまして、お前これから日本に帰るか、日本に帰るのであれば、日本はおかしい国である。非常に家畜なんかを輸入して大いに畜産改良をはかっているけれども、家畜改良するけれども、草地飼料の改良を少しもやっていない。今から二十数年前のお話でありますから、そういうふうな研究がない。これは日本は非常にアップ・サイド・ダウンする国である。これは間違っている。家畜改良するのは草からやらなくちゃいけない。お前は幸いにしてその専門家として教育を受けた。日本に帰ってこの研究をやれというふうな勧めを受けました。戦前、私はそのころ幾分かけっこうな身分でありましたので、帰って参りましてから小さな研究所を始めて今日に至っておるのであります。その間ニュージーランドで教わりました一つ技術は、野原を焼きまして、そしてそこにいい牧草の種をまく、そうして出て来る、こういうふうな技術でありまして、これを日本に帰りまして、昭和九年ころから盛んに私は研究したのです。窒素をやりましたり、いろいろな草を世界各国から二百何種類という草を有名なところから取り寄せまして、これをまいたのであります。ところがちっとも出て来ない、うまく行かない。もちろん草地を耕さずに草の上にまく方法なのでありますが、うまく行かない。とうとうしまいに日本の土と外国国の土の草というものがうまく行かないのじゃないかというようなことに気がつきまして、分析してみると、非常に日本の山の土というものは燐酸と石灰に欠けているということがわかりました。これは列国の何分の一というふうな貧弱なものでありまして、これはいけない、それで石灰と燐酸をやってみよう。それから時期的にもこれは問題があるだろうということで、一年間の各時期に分けてまいてみたところが、ちょうど大体気温として二十度から十五度を下らざるときに、かつまた秋に草の種をまく、それも石灰をやりまして燐酸を一緒にまけばうまく改良できるということを発見しましたのが昭和十四、五年であります。そのときにその発表を「荳科牧草による野草地改良」という小さな本として発行したのであります。その再版が十五年後にできるようなわけになったのであります。これによりまして、大体野草地というものは耕さないで刈り取りまして、そうして石灰と燐酸をやりましていい種をまく、ことに豊科牧草をまけば収量的には二、三倍になる、栄養的には三一五倍になるというようなことがだんだんわかって来たような次第でございます。そうこうしておりますうちに「牧草講義」というふうな本を出すような機会に恵まれまして、昭和十六年に蒙古から満州あるいは北支那方面の調査を命ぜられまして、それは「家畜と環境」という本にして発行しておりますが、まあいろいろな研究をしておりますときに戦争になってしまった。戦争になりますと、だんだん戦争がひどくなって来たときに、御承知のように、家畜の飼料であるフスマなんかも人間がパンにして食うようになりまして、非常に家畜の、ことに乳牛のえさが減って来た。そういうふうになりましたときに、ちょうど技術院から、これに対する対策研究を昭和十九年に命ぜられました。私は昭和十九年に日本全国を回りまして、いろいろ対策を当局に具陳したのであります。その時分に、すでに私は草ばかりで乳牛を飼うことに成功しておりました。かつまた、先ほど申しましたように、草地改良にもいささか成功しておりましたので、それを日本に全国で実施をして、かつまた木製飛行機のカゼインの増産のために大いにやらなくちゃならない、あるいはまた乳牛を大いに飼育しなくちゃならないというふうな目的のために、技術院から委嘱を受けまして答申しました。そのときに、岐阜県の長良、揖斐、木曽の三つの川の堤防、高水敷を改良するのが最も手っとり早い方法一つでありますということを答申しましたら、すぐに技術院から、私の研究所は兵庫県にあったのでありますが、岐阜県へ移転しようということになりまして、岐阜県へ移転しまして建設にかかりますと、終戦ということにまずなったのであります。その後今日まで、岐阜県の長良川の川敷でそういうふうな草の改良研究して参りました。  その間にどういうふうなことを発見したかということを申し上げますると、要するに牧草によって草地改良するのは、外国において非常に改良せられたよい草を使うというのと同時に、日本の固有のよい草を改良して使わなくちゃならないということでありました。その点留意しまして、現在まで日本の野草であるカモジグサであるとか、あるいはジュズダマであるとか、あるいはカワラケツメイだとかいうふうな草も改良して参りました。最もおもしろいのは、プレーリー・グラスという南米産の草が東京のお堀ばたにたくさんはえているということを昭和十一年に発見しました。それも改良して、オチャード、プレーリー、カモジグサ、ダリス・グラス、ケンタッキー31フェスク、ルサーン、レッド・クローバー、ホワイト・クローバー、ラジノ・クローバー、カラスノエンドウとか、こういうふうな東西相まぜたものを改良すればよくできるということの見解も持っております。かつまた日本の気候というものは夏と冬で非常に違う。けれども冬でも青々とした草がある。結局日本の気候に耐え得るためには冬草と夏草を使わなくちゃならない、こういうことも主張しておるのであります。  一方畑作におきましても、燕麦とベッチをまぜて使う、あるいはその次にトウモロコシと大豆をまぜて使う、その次に大根を用いる、この一年三作で六千貫余りとれる。または菜種、ヒマワリ、日本のキビと大豆、大根、こういうふうなものを用いても六千貫以上とれる。こういうふうな畑作の場合、そうして水田の場合には、レンゲ、稲、大阪白菜及びキャベツ、そして稲、レンゲという、禾本科、豆科、根菜類のこの三つの輪作を用いるということによって非常にたくさん増産できる。こういうふうなもので十分青刈りや草ばかりで酪農というものはできるのだということも非常に経験しているのであります。私の方で草ばかりで乳牛を飼いましたときに、一斗から一斗二升までを生産する牛であれば、もう草ばかりで大丈夫。八時間ないし九時間の放牧で大丈夫それだけとることができる。非常によいものであるならば、四、五時間の放牧と青刈り数貫、それから濃厚飼料を一、二貫、あと、それにわらを補給してやるなれば一斗七升以上はとれる。一斗七升以上のものはよい牛である。よい牛に対しては、そういうふうな飼い方をすれば大丈夫である。ここに一つの問題があるわけですが、一斗から一斗二升ぐらいの乳牛を飼うのが得か、一斗七升ぐらいのよい牛を改良して飼うのが得かということになるのでありますが、私どもの立場から言うならば、草のみで一斗から一斗二升のところが一番大きい効果があるようであります。その間、私たちを中心として考えました草地週間というものを岐阜県に実施いたしました。それをまた農林省で取り上げてくれて、今、草地週間というのができております。齋藤先生や三井先生なんかと一緒に草地協会というものをこしらえまして、今その大いに発展せんとする草地農業の序になりかけているというふうなことが大体私の今まで行なってきたところでございます。  ところで、終戦後十年間堤防の上をお借りしまして私の研究所をやって来たのでありますが、この春にその期限が切れまして、秋まで延長さしていただいておりましたが、とうとう移転しなければいけないということになりまして、今、この問題がちょっと岐阜県でもめているのでありますが、私の移転に関しても、移転費も出してくれないという状態であります。これは技術院というものがなくなりまして、そういうふうなどこにも問題の主管者がないというような状態でありました。またこういうふうな一私人の研究所がこういう状態に置かれているということは、日本における草地農業というものが、あまり尊ばれていないということの私は証拠になるのじゃないか、こういうふうに思っているのであります。  将来、日本草地農業を振興する上については、今まで各講演者がいろいろな点を申し上げられましたので、私がそれを補足するために申し上げるわけでもございませんが、しかしただ私の考えを簡単に申し上げておきますと、やはり私は今、草地農業研究所を設けるべき必要があるかと思います。ことに北海道釧路地方に泥炭地もあります。こういうところにおいては、専門研究所を設けらるべきだと思います。帯広大学には大原君という非常に熱心な方がおります。また北海道の農研には、三肢、村上さんというような勇壮な方がおります。で、北海道に一つ作らなければならない。東北に、吉田さんがここにおられますので、兼松さん、吉田さんを中心にして  一つのものができるだろう。関東につきましては、現在、関東東山農業研究所に三井さんなんかやっておられるし、これは一つの中心になり得る。中部には、八ケ岳で仁木さんなんかが今やっておられる。また岐阜県や愛知県を中心としたところに一つ研究所が必要である。兵庫県、岡山、広島、山口、鳥取、島根地方にも一つ研究所が必要である。これには中国に種畜場の林さんがやっているわけであります。九州には阿蘇山に熊本県の高冷地農業研究所というのがありますが、これをもう少し拡大して、各地方に一カ所づつ地方に応じたところの研究所を設ける必要があるのじゃないかと思います。  その次には、たびたびすでに皆さんも申し上げられている通り、日本草地資源というものにいろいろ徹底的な調査がない。もう少し私はこれを各方面から調査すべきじゃないかと思うのであります。一番私にとって申し上げやすいのは、あぜ道とか、堤防、高水敷というものはすぐによい草地になる可能性がある。こういうふうなところから着手すべきであるが、これに対する徹底的な調査もない。また齋藤先生の指導していらっしゃる愛知県の赤坂の牧草地なんかも、雑木林でありますが、非常によい牧草地になっている。こういうような日本の雑木林を一つ整理する必要があるのじゃないかと思います。これについては非常に地方土壌であるとか、植生であるとか、傾斜というものの徹底的な調査をやらなければいけないと思うのであります。  次には、日本大学草地農業の講座がないということであります。私も方々の大学に招かれて講義をする機会に恵まれているのでありますが、どこの大学に行きましても、ちょっと短期間に少し講義をするだけであります。日本草地農業の振興をする必要があるにかかわらず、この講座がないということが一つの問題ではなかろうかと思います。次には、吉田さんも指摘されたように、日本草地の所有権、利用権というものが非常に複雑である。この点も大いに是正して行くべきじゃないかと思うのであります。  で、要するに、日本におきましては、先ほど来申し上げました通り、なぜ草地農業というものが大いに起らなかったかという原因は、一つは民族の問題であります。大陸を彷徨した経験のある民族は、全部家畜を連れて行きまして、定住するまでその家畜によって食をつないでいたのであります。そういう関係上、大陸を移動した民族というものは非常に家畜関係もあり、草とも非常に関係があります。ところが海洋を渡って来た日本民族というものは、魚を食うものでありますので、草に対してあまり関係がないということが一つ原因でありますが、これはまあ別の問題としまして、次の問題としましては日本の気候ということでありましょうか、同時に土壌の悪いことであります。土壌が悪いからよい草ができない。従って畜産が草に頼らなかったというふうなことが一つ原因になっているのでありまして、この土壌をよくするために私は農林省あたりが大いに補助を出してよくすることを奨励しないと草地の問題もうまく行かないのじゃなかろうか、こういうふうに考えているのであります。現在盛んに酪農というものと草地改良というものが連絡せられて議論せられております。これはその通りであります。酪農を振興しようと思えば草地を大いに改良しなければならないのでありますが、ところが最近におきまして、非常に過去一、二年昔には酪農熱が盛んでありましたが、農民に酪農熱が失せかけているのであります。これは何故にそういうことになったかというと、一つの酪農ブームの後としてそういうふうな結果ができたのかもわかりませんが、要するに夏は非常に売れるのでありますが、冬に余るというふうな問題がここにあるのであります。この点におきまして、私は農林省が非常に酪農を奨励する、あと文部省が中、小学校の給食にそれを引き受けるというふうな問題がこれに伴わないと、どうしてもうまく行かないのじゃなかろうか、そういうふうな点におきましても、の委員会におきまして大いにお考えをこ願いたいと思う次第でございます。日本におきましてだんだん草地農業が盛んに今言われて参りました。来年度におきましては、第七回の国際草地会議がニュージーランドで開かれるのでありますが、この際におきましても専門家をなるべくたくさん派遣して下さいまして、斯界の振興のためにお計らい下さいますように私からお願いする次第でございます。  たいへんおこがましいことを申し上げましたが、お許しを願いたいと思います。
  12. 江田三郎

    委員長江田三郎君) 次に、農林省の福島種畜牧場長兼松滿造君。
  13. 兼松滿造

    参考人兼松滿造君) 兼松でございます。私の立場は現在国立の種畜牧場におりまして、直接農民に接して技術指導をする立場におりますので、農民に実際接しておりまして感じておりますことを申し上げて御参考に供したいと思います。  実は私自身は早生児でございまして、両親が何としても体を丈夫にしたいと申しまして、子供のときから家畜をたくさん飼わしていたのでございます。獣医学を選びましたのもそういうようなことで、たまたま当時鈴木梅太郎先生がまだ大学の教授でいらっしゃいまして、栄養学の講義を受けてまあ家畜のことを、多少勉強したのでありますが、大学に残りたかったのでありますけれども、おやじが左前になりまして農林省に招かれて役人になりました。たまたま当初馬政局、昔の馬の仕事をやっておったのでありますが、当時馬の増産が叫ばれておりましたときに、なかなか日本の馬の妊娠の工合いが悪い、これはどうしたことか、当時の馬の繁殖界の権威者であります佐藤繁雄先生は、兼松君、これはやはりどうしても良質の蛋白が足らぬ。穀物じゃどうにもならぬ。いい草が要るというお話をされたことが耳にはっきり残っておるのでありますが、たまたま駐在員として欧州へ昭和十一年に参りまして馬の勉強をしております最中に、第四回の国際草地会議がございまして、その席で、この会議に突然政府専門員として出席しろという電報を受けた、大へんありがたい機会を与えられたわけでありますが、国際草地会議は、今、川瀬先生が言われましたように、来年第七回がニュージーランドで開催されますが、日本人でこの会議に出たのは私が最初であります。何も知らないで、まあどんなことか、ただ若さにまかして、知識欲に燃えて出たのであります。四百何人かの参加者があって非常な盛会でありまして、私も初めて牧畜をやっておるものとして草に目を開かれたのであります。当時の報告書に、昭和十二年に私は提出いたしましたが、日本畜産を発達させますためには、どうしても草に関する国立研究機関を早急に作らなければいかぬ、なお私のような専門外の者じゃなく、草並びに草地に関する素養のある基礎学識のある専門官を先進国に駐在さして勉強さしてもらわなければいかぬということを報告書の最後に強く要望しておいたのであります。今日非常にそういう問題がやかましくなりまして、曲りなりにも国立の研究所草地部ができ、本省に草地改良課ができたことは、私個人の過去二十年の経験から顧みまして非常にうれしいのでございますが、ただ草の問題が今日大きく取り上げられるに至りましたが、残念なことには国民全般のこれに対する認識はきわめて低いのであります。農業技術界におきましては、もとより日本の水稲農業農業技術でありますから、先ほども川瀬先生からお話ありました大陸を彷徨した民族のような、草を作物と考えるような知識は持っておりませんで、南の端から北の端まで水田を中心とする稲作農業であります。また日本は夏は高温多湿で、こういうことを許す条件を持っておる国でありますし、貴重な単位生産量の多い水稲はわれわれにとってかけがえのない作物であることは間違いないのでありますけれども、今日西南暖地の水田の地力が減退して、だんだん古い田が稲ができなくなり、あるいはある程度取ろうとすると非常に手がかかる、金肥が余計要り、農薬代がかさむというような現状になって、今日水田地力の減退が非常にやかましく叫ばれております。一方今日まで日本の約六百万町歩、三百万町歩の水田、二百五十万町歩の畑の地力を維持して参りました有機物堆厩肥の元は、これは多くは里山から略奪的に利用せられて来たものであります。従って里山が荒れる、極端な例はこの火山灰におおわれた低位生産土壌の多い栃木県では、落葉をさらいますために、耕地十二、三万町歩しかない栃木県が十万町歩の平地雑木林を持っております。これは耕地の地力を維持するための、これは落葉をさらうために持っておる広大な低位利用地であります。こういう日本の既耕地の地力の維持が、私が調べた統計上のこと、その他実際自分が見聞しましたことにおきましても、農産物の生産費を低減する根本は地力の培養だと思うのであります。もろもろの土地改良事業の中に、どうも草の問題、堆廐肥の給源の問題が大きく取り上げられていないことを非常に私は残念に思っておるのでありますが、草地農業の発展すべき要請の第二の観点は、これはもう申し上げるまでもなく、われわれが日本が鉱工業を盛んにして輸出振興をして強い国にならなければいかぬということはわかり切ったことでありますが、国民大衆の体位を向上し、また頭脳をよくするということについては、いつまでも食糧は国民一人当り二千カロリー、蛋白七十グラムでよろしいわけはないので、あくまで、特に不足しておる蛋白その他の栄養素は、われわれの民族の将来の繁栄のためにも、どうしても国民の体位を向上するということが根本的に要請されると思うのであります。平塚水産会長のお話によりますと、魚の資源から蛋白をとるということではとうてい日本人の将来の要請にこたえ得ない。畜産を盛んにしてくれなければ困るというお話を漏れ承わっておりますけれども、先ほど最初に齋藤先生からお話がございましたが、草は最も安価な蛋白給源であります。これはわれわれも実際農家に草を作らしてみて、数字的にはっきり申し上げられる点でございます。蛋白を増産する余地はもういろんな先生方からお話がございましたので、まだまだ日本にあると思うのであります。実際私たちが農家に家畜を飼わすこと、特に従来と違いまして、従来の日本畜産は、これは牛馬、役畜即糞畜と申しますか、堆廐肥を作るというので、それを大きな目的として飼っておったものであります。これは日本の農家経営実態から、年間使役日数というものはきわめてわずかでございまして、主たる目的は、どちらかというと堆廐肥を踏ます、廐肥を作るということが、これはもう必然的に要請されて、長い間の日本の農家の生活に食い入った家畜飼養形態でありますが、こういう役畜から、今日は乳を出す、あるいは肉を作る、あるいは毛を作るという家畜に進んで参りますと、栄養の要求量がまるで変って参ります。特に生産性の高い乳牛その他の改良された家畜は、同じ草でも栄養分の多い草を与えませんと、健康の保持そのものが困難でございますし、その種類家畜本来の経済力を発揮することができないのであります。たとえば乳牛のホルスタインについて申し上げれば、オランダの北の方のフリースランド、あるいはドイツの北西隅のホルスターン地帯に、もう何百年にわたって、草の改良土地改良、特に牛の改良が進んで来てでき上った土地であります。なるほどそういう条件を与えれば、今日進歩した内燃機関のように非常に力を出す。ただその内燃機関に与えるガソリンなり、良質のオイルなりというものが伴いませんと、そういう力は発揮しない。そういういい草は日本にできぬのじゃないかという心配もあるわけであります。こういう問題は、私たち畜産技術者としては一番頭の痛い問題で、この問題に取っ組んで、終戦後時に現地で実際やって参ったんであります。その二、三の例を申し上げます。  私のおります牧場は、那須火山の山ろくで、火山灰におおわれた日本でも典型的な低位生産土壌であります。ところが、これに草を作りまして家畜を飼って参りますと、非常に生産性の高い土に変って参ります。これは牧場の例でありますが、私は牧場へ参りましてから今日まで、もう満七年経過したのでありますが、その間特に予算がふえたわけじゃないんでありますけれども、場内の畑の生産力は、栄養分の生産量は約三倍に向上しております。これはまあわれわれ技術者が集まり、また国の支援があってできたことで、別に自慢にもならないことで、当りまえのことであります。ただ土地をよくすることによって、私も驚いたんでありますけれども、牛の繁殖障害、その他の家畜の栄養失調に基く、あるいは栄養関係に基く病気がほとんど根絶して参ったのであります。わかりやすく申し上げますと、土を健康にすることができた。家畜が従って健康になったということがはっきり申し上げられるのであります。なお、この考え方を、同じく低位生産土壌の開拓地に入植しております開拓者の実際に応用いたしてみますと、私らの付近に入った開拓者では、当初開墾しまして、山の落葉を集め、草を刈って参りまして一生懸命堆肥を作って、その堆肥を入れ、金肥も反当二千円もぶち込んで麦をまきましても、ほとんどまいた種もとれないというような土地があったのであります。このような土地は何とかしなければいかぬというので、幸いに戦後のいろいろ酪農に関する政府の施策援助がございまして、融資を得て乳牛を導入した。乳牛を導入するには結局草を作らなければなりません。幸いにその農家は非常に熱心な人でありまして、私のところに参りましたので、率直に、まあ同じ乳牛で酪農でやって行くんなら、牛をりっぱに育てて行くことが先決問題だと思う。従来の穀畜農業を一てきしまして、ほとんど草をまいた。これはもちろん草も相当のこやしを入れて作ったのでありますが、最初に非常に集約的に作った草地を今度は畑に転換いたしましたところが、一昨年麦を作りまして、昨年春収穫した裸麦が反当十二俵とれるような程度になりました。これは単なる一つの特例じゃございませんで、そういうふうに合理的に草を入れて地力を増進した例はほかにもたくさんあるのであります。それと同じようなことを、世界銀行の借款によって開発をしようとしております青森県の上北の高原、それからやはりその候補にしようと県当局では考えております。岩手県の九戸の高原に頼まれて参りまして、当初、穀物はできないが、草を作って、その草を食う家畜を入れて地力を培養しつつ、将来草を入れた輪作農業をやって行く、こういう想定のもとに、まず草が生えるかどうかという試験を私この春から担当してやっておりますが、上北に入れました分も、それから九戸に入れました分も希望を持てる成績を今示しております。特に九戸の方は、土地がよろしいので、先般行って参りましたが、みごとに牧草地になっております。同じようなことを低位生産の水田土壌についてやった例を申し上げますと、これは火山灰におおわれた土地ですが、豊作の年で六俵とれたのが最高であったという水田でありますが、この水田の五反歩を畑に転換しまして牧草をまいた。これは乳牛を飼っておる家でありますから、農家の採算はちっとも困らないのであります。しかもこの農家は食生活改善をやっておりますので、米穀の自家消費を減らしております。そういう合理的なやり方で進めて参ったのでありますが、二年間牧草を作って、本年水田に返して稲を作りました。稲については専門家の御指導で、肥料についてはまた専門家の御指導を得たのでありますが、おそらく十俵以上は確実にとれるだろう、最初のころのでき工合では十五俵はとれるだろう、本年は非常に異例な好天気に恵まれましたが、土地生産性というものは著るしく向上しておることは間違いがないのであります。これはごく熟畑、熟田に牧草をまいた例でありますが、先ほど書類を拝見しますと、吉田教授のササ地の造成改良の資料を事務局の方に御提出になっておるようでありますが、あの資料を私もいただきまして、これを応用して現地の開拓地に実際やって参ると、ササにおおわれた地帯は非常に楽にりっぱな牧草地になりまして、反当蛋白生産が、百五十キログラムカロリーの牛乳にまで作って行ったカロリーの量が大体四十万カロリーくらいまでこぎつけられるのであります。牛乳は反当四十万カロリーがとれれば、これはほんとうにけっこうなことで、今どんどん付近の農家に普及しつつあります。もちろん先ほど川瀬先生がお話になりましたように、日本の残された原野あるいは火山山ろくの低位生産地帯、森林伐採跡地等は、多くの土壌は燐酸あるいはカルシウムに非常に欠乏いたしております。が、こういう地帯にもわれわれは手を伸ばして実際やっておりますが、適切な管理、技術を適用いたしますれば、もちろん資本の投下も伴うのでございますけれども、低位生産土壌を数段高いものにする確信を得るような経験を積んでおります。ただこういう技術の問題を実際に適用します場合に、非常にわれわれが困っておりますことを二、三率直に申し上げたいと思うのでありますが、由来穀畜農業一点張りであります日本農業界は、あらゆる階層を通じて草に対する認識がない。従いまして、資源研究機関もきわめてみじめな状態にございます。われわれは第一線におって技術者として農民に相談相手になる、すぐいろいろな問題に突き当る。たとえばせっかく原野に手を加えまして造成改良をいたしましても、今度は管理、それからそのあとのいろいろな、あとあとこれをさらに利用度を高めて行くための技術、これを実は非常にわれわれ経験が浅いので、今後技術的にもあるいは資本財としても、どれくらいのものを投じて行かなければ高い生産を維持し、さらに発展させることができるかということについてわれわれいまだすこぶる経験が浅い状態にございます。さらに先ほど川瀬先生からお話がございましたように、日本の野草にも、われわれ川瀬先生から御示唆いただいて、実際自分で種を探して来て栽培してみると、日本の野草にも、日本家畜をりっぱに育てて行くだけの力のある草がたくさんあるのであります。その野草はなかなか種子の採種が困難でございます。また野草の多くは非常に雑種になっておる。あるいは硬実が非常に多くて発芽の適性を期することが困難である、技術的にも根本的に困難な問題が横たわっておる。またわれわれの地帯で、ある程度は西洋で改良されました生産性の高い牧草を栽培してりっぱに成功しつつある例も多いのでありますけれども、この種の再生産、あるいはもう特に植物につきましては環境その他の条件によって常に変異して参りますので、栽培作物として種を取得するためには基本的な研究が要りますし、さらにりっぱな種子を増産して今後の草地改良の進展に即応し得るような態勢がなければならぬのでありますが、そういうきざしは、今日わずかに国立の牧場が飼料作物原種圃に、非常にわれわれのような専門以外の人間が夢中になって取っ組んでおりますが、とうていこれでは草地農業の発展に即応し得るような態勢になり得ない。最後にきわめて率直に申し上げますと、私は今最初に申し上げましたような偶然の機会から草に興味を持ち始めた、今日は追い込められてやっておるというような状態でありますが、それでも何とか過去二十年間関心を持ってやって参りましたので幾らかの経験がございます。が日本全国に、実は第一線で実際牧野改良指導のできる技術者がおるかというと、これははなはださびしいのであります。まず人を作っていただくということが実は非常に大切な問題じゃないかと思うのであります。  それから最後に、私の付近の農家で得ましたきわめてこれは、いずれあらゆる専門家がかかって分析しておりますので、経営全体を通じて草の栽培による農家経営がどういうふうに変って行くか、これは人間の食糧も、家畜の飼料も入れまして、土地の地力の増進も入れましてやっておる例がございます。一部報告はできておりますので、将来お手元に差し上げ、なお四年ぐらい後には一応完結する見込みでありますので、見ていただく機会があると思うのでありますが、この農家がやりましたそれは、水田を引っくり返して牧草を作っておる農家の例でありますが、これは牛乳の生産費、これはほんとうに厳密な意味じゃございませんが、一日の労賃を三百円とみまして、私どもは非常にわれわれの能い得る限りの力を動員して、生産費も計算いたしまして、資本利子ももちろん計算して参りまして一升三十五円でできております。これは土地の地力が造成されたという効果は金で評価することが容易でございませんので、これは省いてございますが、牧草を輪作的に入れて行きますことによって向上します地力の増進と、米の生産費の逓減による純収益の増というようなことをほんとうは詳しく調べなくちゃいけない。なおまた家族の健康の向上その他いろんな付帯的な点がございます。草地農業あるいは酪農が目ざしておる食生活の改善を伴った健康な人を作って、土地生産性を上げて行くというりっぱな手本が今できつつある。わずかに一件でありますけれども、開拓地にも、もう少し粗雑でございますけれども、そういう例がございます。こういうことが結局私は一日でも早く現実に一般の農家に普及し得るような捷径だと信じてやって参ったのでありますが、幸いにして県の農事試験場その他の専門家の方々の非常な協力を得まして、農家自身も非常な張り合いを持ってやっております。また上北、九戸でやっております試験も今後とも継続してやって行く計画でございますが、われわれは戦後特に腰を入れて日本の山野に取り組んでみました。実際の草が、北欧農業の打ち立てた技術、草の土地管理技術がわれわれの国にもやり方によっては十分に入れられるというような明るい大きな希望を持つことができたのであります。ただこれを日本農業の中に大きく一日も早く浸透させますためには、さっき率直に申し上げましたように、人的資源その他がはなはだしく不備だ。国民各階層の草に対する認識というものを非常に低いのであります。私が今申しました農家の耕地に草を作って乳牛とかを飼いました場合の乳牛の蛋白生産費は、米の蛋白生産費よりもだいぶん低くなりますし、それから反当カロリーの生産は大かた三石の白米の約半分のカロリーは牛乳で生産できるのであります。これは労力を非常にたくさん必要とするやり方でも何でもない。少しおしゃべりをし過ぎましたが、私の体験しましたことを申し上げまして責めをふさぎたいと思います。
  14. 江田三郎

    委員長江田三郎君) まだお二人残っておるのでありますが、これは午後に回したいと思います。それで午後はお二人の参考人から意見を聞きまして、それに今度一括して皆さんの方からの御質問があれば御質問をお願いします。  それから名古屋大学齋藤教授と広島県の押野畜産課長からは、特にスライドを持って来ておられますので、これはあと予算委員室でスライドを見ることにいたしたいと思います。  それではしばらく休憩いたしまして、午後は一時半から再開いたします。休憩いたします。    午後零時三十一分休憩      ―――――・―――――    午後一時四十三分開会
  15. 江田三郎

    委員長江田三郎君) それではただいまから委員会を再開いたします。  午前中に引き続きまして参考人のお話を承わりたいと思います。次に、北海道農業協同組合中央会嘱託田垣住雄さん。
  16. 田垣住雄

    参考人田垣住雄君) 午前中にお詳しい御説明がありましたので、私は少し違った観点から意見を述べたいと思います。  終戦以来一番考えましたことは、人口増殖に伴って食糧がだんだん足りなくなって行くということを防ぐにはどうしたらいいかということを研究しておったのでありますが、結局その結果、日本で今まで大きな欠陥である草の生えているところの経営を見落してきたということが、農業経営で、あるいは林業経営欠陥がきたために、ずいぶん長い間農業をやってきたのでありますが、国土の一四%ぐらいの耕地しか持っておりませんし、ほかの農地を入れましても二〇%ぐらいの経営しかいたしておりません。林野を見ましても、汽車から眺めますと、耕度の高いところは多少植林してありますが、大部分は天然造林でありますし、牧野を見ましても、できた草を食わしているだけでありますから、培草はしてありません。従って農業というものは、耕地の農業だけをやっているというのが日本の姿だと思うのであります。これでは農という見解があまり狭いのではないか。農業というのは、木をやったり、草をやったり、耕作物をやったりして、葉緑素を生産業の総体的なものに含めておるのであります。そういう観点から見まして、学界の状態、政治の状態を見ましても、これをやる機関が全くありません。教育する機関も、行政機関も全くないのであります。そういうわけでありますから、見落されて行くのは当然であると思うのであります。私は八年間全国を回り、ことに北海道におります関係上、外国の経営を取り入れまして、草産を取り入れたところの営林営農をやったならば人口問題に対する食糧の解決点を見出すのではないかと、こう考えまして、いろいろ検討した結果、六百万町歩の現在の農地というところで大体六千万人の人口を養うことは、現地の米穀農業、今農林省がやっておりますところの農業であります。その見解で、これは今まで世界的に集約した耕種農業が進んでおりますから、この線はこの状態でだんだん進めて少しでも増産をするようにして、一方において、この点では非常に土地生産力が減退しつつありますから、これを防ぐために草地農法というものを加えまして、林作地あたりを加えてこの地力維持の範囲内においてこれをやって行く。デンマーク農業をやると非常によくなるというので、こういう地帯に普及しておりますが、デンマーク農業をこの六百万町歩に普及しますと、四千万人くらいしか収容できなくなるのであります。そういうことは、これは行き詰るにきまっておるのであります。それでありますから、世界の草地農業の進んでおる酪業形態とか、畜産の進んでおるのは、そんな農地帯ではないのでありまして、御承知の、今までに皆さんが御説明になったように、草を作るところであります。実らなくてもよいところの草を生産するところでありますから、地勢にとらわれない。気候にあまり制限を受けない。今、宗谷の南でりっぱな牧草地ができて営農改善をしておるところがあります。北海道の一番寒いところでありますが、二十種くらいの牧草が何でも十分によく生えるのであります。そういうような地帯がどのくらいあるかということを見当をつけてみますと、約四百万町歩あります。それでありますから、この四百万町歩というところには、非常に有機質が停滞しておるけれども、湿地のために分解をしておらぬから、農産エネルギーになっておらない泥炭地というものと、片方には有機質の堆積が非常に少くて埴土がないために耕作をするとすぐ荒れてしまうという二通りになっておりますが、これらの有機性分の少いところと、あるけれども、土壌関係から植生を確実に上げて行けない、二つの改善方法があるのでありますが、これは草で改良して行くというと、土地がよくなって行くのであります。草を植えて禾本科とか、豆科とかで改良して行くのが草地農業であります。草地農業というのは、草をたくさん作って家畜を飼うだけではないのであります。そういう改良法をとりますと、直接法でおこしてすぐ麦や何かをまくという農業方法と違いまして、だんだん耕地がふえて、増殖して行くのであります。しかし地形その他が悪いから、この生産量を既成耕地の二分の一にみますと、四百万町歩で二千万人の食糧はできると思います。  それからさらに今度はもっと広い見解から見ますと、林野というものが二千五百万町歩ばかりありますが、この三分の一くらいというものは牧草と森林とを経営する地帯に仕立てることができると私は見通しております。よく主畜農業とか、有畜農業といいますが、この八百万町歩くらいのところには主畜林業であるとか、有畜林業経営するのであります。いわゆる草業で畜産をやり、自給作物を作るくらいの耕地はできますから、そういうようなことをして国土の開発をするような基本方針を立てますと、こういうようなところが八百万町歩ありますけれども、太陽のエネルギーは同じように受けておるのでありますが、取り入れ能率の少い経営になりますから、既成農地の八分の一から四分の一の生産しかできません。従って一千万人か二千万人の食糧生産を進めることができるのであります。そういうようなふうにして国土を今までの農業の通りにやる。農業によって六千万人を養い、あとの四百万町歩の相当改良を加えれば耕地化し得るようなところで二千万人の食糧生産し、これが有畜農業、主畜農業の重点地帯になります。そうしてあとの林野の三分の一くらいは主畜林業、有畜林業というものを経営しまして、人煙稀なる経営を昔ながらに続けていないで、平地ばかりにこびりついていないで、もっと葉緑素生産に進むわけであります。こういうような見通しをしてみますというと、一億人の食糧というものを国土で生産する力を持っておるのであります。世界で日本よりも気候も自然も悪いところで、それくらいの生産量を上げておるのでありますから、この最も恵まれた気象環境でこれだけの仕事がなし得ないというような農業では、実に情ないと私は考えております。大体農地という観念がそういう観点から草というものを耕地に入れて、林地の草の経営をして行くということが草地農業の進展を要望しているのでありまして、ただ草を作りて家畜を飼うというような単純な問題では、これは大きな展開はできないと思います。  もう一つ、経済的観念で簡単なお話を申しますと、よく石油、石炭の鉱業に非常な価値があるようにみな考えておりますが、あれももとは葉緑素系の生産物であります。カロリーの点からいいますと、葉緑素が作った澱粉というものは一キロ四千カロリーのエネルギーしか持っておりません。ところが石炭は六千カロリーから八千カロリー一キロで持っております。そうして石油は一万カロリーの熱量を持っております。ところができたところの草は家畜という製造機関を一ぺん通しますと、脂肪、蛋白質に変るのであります。植物生産が動物生産に変って、そうしてできた脂肪、蛋白というものは石油、石炭と同じカロリー値になるのであります。一キログラムが六千カロリーから一万二千カロリーにまでなるのであります。それでありますから、何も石炭や石油の経済価値を論ずるくらいなら、なぜ人間は不可食である、すぐ食えないところのものを家畜に食わして、家畜にストックさせて、そうして石油、石炭と等しいエネルギーを持っておる食糧生産をやらないかということに気づくわけであります。これが草地生産の経済の価値でありまして、石油、石炭は地下に有機物が埋まって、炭化作用を受けてカロリーがああいうふうに高まったのでありますが、草は家畜を通しますと、家畜の力で四千から五千カロリーの澱粉とか、糖類が脂肪、蛋白という六千カロリーから一万二千カロリーぐらいの物質に変るのであります。そういうような高級生産地帯日本に先ほども申しましたように四百万町歩から八百万町歩展開し得るのであります。こんなに展開したら外国よりも大きな農業かというと、決して大きな農業経営ではありません。外国でございましたら、これで国土の五〇プロにしかなりません。国土の五〇プロ以下で百姓をやっている国はありません。日本だけであります。文明国で二〇プロくらいのところで六百万戸くらいの百姓がうようよしているというような状態日本だけであります。山ばかりのスイスでさえ、もう少しうまく展開しております。そういうような展開から見ますと、国土の経営ということが農業の使命でありまして、この国土の経営がおくれているということは何から来たかというと、草をむだにしてきた、草に恵まれておったために、ほうっておいても草は伸びますから、これを食わしてやってきているのであります。今までは重商政策が重点でありましたから、足らぬものは外国へ行ってとるというような観点から、貿易関係によって国の経済を立てるということをやってきましたが、これは非常に危険なことでありますし、困難が非常にあります。またどんなことが起るかわからない。過去のことを考えてみますと、日本ではいまだかって重農政策というものをとったことがありません。で、この際どうしても重農政策を重商政策に織り込んで、そうして日本の国を日本人が開くのでありますから、これこそみんなでやりさえすれば、どこにも差しさわりは起らないのであります。そういうような平和的な食糧の解決策を根本的に立てて推進して行くという力を発揮しない限り、草地問題をとやかく申しましても、今までやっているような北海道の開発の状態、集約酪農地帯の状帯のように、主穀農業の学問をしたもの、主穀農業経営をする役人、指導者というものがそろっているのでありますから、どんな法律を作りましても指導がみな米か麦を作る方へ展開してしまって変なことになってしまうのであります。で、北海道開発というものは、南北海道でありますと、現在やっておる耕地よりも廃棄地の方が多いのであります。その廃棄地にこのごろ二十カ所以上、二十種類以上の牧草を作っておりますが、どこもはえないところはありません。北海道の一番環境の悪いところで作をして、どれもよく伸びる、もう異口同音に成績よく牧草はできるという結論に到達しておるのであります。そういうわけでありますから、農政というものをちょこちょこやらないで、根本的な日本経済の立て直しなり、農政の立て直しなりという観点のもとに、基本方針のもとに農林省機構であるとか、学校の機構であるとかいうものを進めて行くようなことが政策の根底であると私は思います。  で、方策としましては、何しろこういうことは二千年来やったことのない農民を相手にするのでありますから、何としてもこれは普及することがむずかしいです。頑迷な農民に山を開けといいましても到底やりません。山へはしば刈りに行くような考えしか持っておりませんから、山で草を育てるなんということは子供のときから教わってないのです。童話を見ましてもそういうものはない、従ってこの普及というものがむずかしいです。で、先ほども話に出ましたように、いろいろの普及手段を展開しない限り受け入れ態勢というものはいつまでたってもできませんから、上の方の頭を作ったり、法律を作っただけでは、金を使うだけでずいぶんむだなことが起るだろうということを私は予想いたしております。それでどうしてもこれはそういうような結集した力によって、今見通した数字なんかも私が全部踏査したものでありませんから、大体の見通しでありますから、これらは実際に調査するところの機関あたりをしっかり作って、ほんとうにやりやすいところで、金のかからぬところからびしびしやって行くというようなやり方にして行けば、だんだんその経験によって改良されて進歩して行くのではないかと私は考えております。  それから土地の所有権問題などで一番問題になりますのは、農業の法律を見ますと、部分法ばかりありまして母法がないのであります。農業法という法律がないのであります。農業をどういうふうに経営するという法律がありません。国土経営をどうするという法律がありません。林野は林野で勝手に林野にしてしまっておるし、農地は農地で勝手に農地にし、牧野牧野で貧弱ながら維持しておるというような格好で、ばらばらになっております。それでどうしてもこの農政を確立するために、国土の利用面積を上げるためには、この母法を立法しなければうまく行かないのじゃないかと私は考えております。ほかにはみな母法ができております。商法にしろ鉱業法にしろ……、この最も大きい食糧生産という問題に対して基本法律がないということは、これは私は大きな欠陥であると考えております。  その次は、今度は手っとり早く、それならどういうことをやったらいいかということの意見も要求がありましたので簡単に申し上げますと、これはまあ第一、緑の週間に木だけやっておるのはいけないとさっき話がありましたが、私も同感でありまして、国を緑化するということは木だけではありません。それから災害対策も木だけではありません。木というもので全部洪水が防げたら大へんなことであります。土が流れるということは地表に草がはえてないからであります。木なんか何本はえておっても、木の下に草がはえなかったら土は流れてしまうのです。あの流れる土が危険なのでありまして、北海道あたりで石狩川のはんらんを見ますというと、上流から流れてくるのではなくて、開拓した支流から混濁したところの濁流が流れて、毎年々々肥料をやっては川へ流しているというやり方をやっております。集団的土地改良をやったために全部裸にしてしまっておりますから、北海道あたりはそれが洪水の根本原因であります。ああいう所に適当な防風林であるとか、その他の木を植えた方がいいといった所には木をしっかり植える、それから草地にした方がいい所は草地にする。土地の能力によって耕地にするというように組み合せをうまくしさえすれば、洪水も減りますし、風水害の災害が滅ってくるのであります。毎年毎年やられて救済費ばかりたくさん出しておっても、いつまでたってもこれは解決しませんから、少しはしんぼうしてももそういう経費を滅してでも、そういう基本施策の方へ回していただけたら貧乏世帯でもやりくりができるのではないか、こういうふうに考えておるのであります。習慣のない者に普及するにはどうしてもモデルが必要であります。私らも農村講演に回っておりますが、何よりも普及が第一と考えておりますから、モデルを作ることにまず一生懸命やった。それで今北海道の各地にモデルができました。世界調査団が来ましても見せてやれるモデルが、やっと見せられる程度に幼稚ながらでき上ったのであります。そういうわけで、私はこのモデルは各府県にある畜産試験場で家畜改良ばかり試験していないで、総合経営のモデルにしたらいいと思うのであります。山は必要な所は森林経営をやる。それから適当な所には牧草を、放牧地を作る。平地はいろいろ農業をやる、そうしてそこにはもう家畜を飼っておるのでありますから、この受け入れ態勢というものは、家畜がふえなければ草は幾ら作っても何ら経済効果は現わさないのでありますから、そういうものを持っておる所に、そういうものを作って自給策をやるようにすれば国家の経費もはぶけます。草を作り、森林を開発する経費をぶち込んだ方が、家畜の飼料を買ってやるよりも気がきいております。そして各畜産試験場をモデル的に開発してしまったならば、ああいうふうにやるのだといえば、土地を広く持っている人はそういうふうにしましょうし、農業組合あたりでうまくやってない所はそういうふうにしましょう。農業組合をながめてみますと、皆さんは農地農業組合でありまして、森林ですとか、草地というものは農業組合では全然問題になっておりません。私はあれは総合農業組合にしなければ、こういう点は策はつかないものと考えております。農民が私有林の八〇%を所有しておるのであります。その経営というものは、農業組合でなくて林業組合という全く別個のもので木だけ植える経営をしておるのでありまして、そういうものを分離経営と言いまして、そういうことはアメリカではもう二百年前に終って、やめたことなのであります。そうして草地というものはアメリカの国土の半分であります。十一億エーカー、つまりこの六、七割くらいが農民の所有に属しておるのであります。それでアメリカ生産が非常に伸びて来ておるわけであります。そういう草地林地、耕地というものを、大体林民というものはないのでありますから、統計で調べますと一%でありまして、よくよく調べると、きこりとか、そまという、切る方の林民だけでありまして、植える方はみんな農民であります。農民を対象にしておるのであります。営林でも営農でも、それから牧野でも畜産でも対象は一つであります。それなのに上の方でお互いにせり合っておるということが、農民の方ではあの人ににらまれては困る、この人ににらまれては困るといって戸惑いを起すような指導がたびたび見受けられるのでありますが、そういうような形の経営ではなくして、組合あたりももっと皮を脱いで、もっと農業の観念を広くしましてやって行けば、先ほども御意見が出ましたが、国が狭くて生産が出ないのじゃなくて、大体農業をやる観念が狭いために生産力が上らないのでありますから、もう少し見解の広い農業をやれば、私は現在の食糧二割、毎年々々二千億近い金を外国へ支払って八年も経過しておりますが、いまだ何にも、いろいろやっておりますけれども、それを解決するほどの問題は起っておりません。この後何年続けるつもりでおりますか知りませんが、こんなことをやっておったのでは、どんなことをやったってこれを解消するようなものは起ってきません。重商主義的の資源というものは乏しいのでありますから……。そこでこの奨励をやるときに、私は助成というものは金でやることはなるべくやめた方がいいと考えます。現物主義、機械を買ってやる、あるいは肥料をやる、種をやる、種苗をやるというようなふうに、アメリカなんかも現物主義を重点とし、各国とも現物主義であります。大体平地の中へどれだけ金を注ぎ込んだかなんというのは、一ぺん御視察になるとわかりますが、何万石ほど木を伐ったというところを見に行ったってわかるものではありません。それでありますから、そういうごまかされやすいところの助成というものは現物で持って行く。それから金融はどうするかといえば、土地銀行みたいなものを作って、土地以外には貸してやらぬというようなものを作るのであります。北海道の拓殖銀行はおそらく北海道拓殖のために立ったのでありましょうけれども、今や拓殖にはちっとも貸しておりません。商業銀行になってしまって、名前がおかしいのです。そういうことは農工銀行も繰り返しておる。中央銀行でさえそうであります。銀行屋だったら金利のいい方に回すにきまっておる。そういうものを土地銀行というものを作りまして、そうして土地評価委員というものをしっかり作って、評価に応じて貸し付ける。そうしてこれは何もしなかったら再評価のあったときに上らぬでしょうから、生産力は上げないのだから、もう貸付の増加はしないわけです。ところが借りた金で生産力を上げるでしょう。いろいろの仕事をして、そうして再評価委員というもので再評価しまして、その生産力が上っただけまた増加貸付をするというような貸付方法にして行けば、貸しっぱなしで、あとは知らぬというような制度でなくしっかりやる、またしっかりやって生産力を上げなければ、これは借りられぬのでありますから、一生懸命上げるということになりますので、そういうようなものを作っていただいたら、これは進むのでないかと思います。  それからこれは一般の農地の開発でありますが、大きな百万町とか、二百万町とか、あるいは十万町とか、二十万町というような大単位の開発をするためには、とても農民の手で開発がやれるようなところはもう残っておりません。どうしても機械開発で、今度またおかげで機械開発の機関ができまして、われわれは喜んでおりますが、この機械開発のやり方であります。この間の農林省の農地局の機械開発委員の人たちがやっているところを見に行って私は驚いた。大きな機械に運転手一人ついて一日三時間くらいやっておる。そういうことではだめです。データーは出てきません。機械というものは工場を動かすようなものですから、夜昼となしに動かすような、整備もしっかりして機械を持ち込まなければなりません。そういう機械を三年間北大の先生、農林省の方々と研究して相当やぶ地帯を開発する、こういう大きな木をぽつぽつと取って歩く昔の戦車みたいな――製造工場を切りかえて農機具を作る工場が日本三つできております。そういうものは各地方に出て行っておりますが、それを持ち込みますと、どんどんそういう地帯の雑物を除いてしまって開発できるのであります。ところが北海道の人煙まれなところに何万町歩の開発をしようというときに、今だれがこれに金をやってやらせるかという問題になりますと、これは非常な問題でありまして、私はそこで気がついたのは、ソ連のマレンコフの農業政策は既成耕地に対する農業政策であります。牧草を植えて輪作をやって米の生産をあげようという方策をやってきたのでありますが、遺憾ながら失敗しまして、ことしの二月にフルシチョフのウラルの付近の草地開発にかわって、今度の五カ年計画で三千万ヘクタールの開発をやり遂げるようでありますが、これは全く機械開発でありまして、草地開発であります。ステップの開発であります。これが成功するかどうかは見ものでありますが、そういう大きな行政によって首脳者が変っておるわけであります。これは青年を百五十万人も動員して、機械を何万台も持って一挙にやるのでありますが、私はそういうような乱暴なことは望みませんが、ここは一つ町歩、これを一年か二年で起そうというときに、日本で今生かし得るものは予備隊だろうと思うのです。防衛隊であろうと思う。青年を結集して、団結して組織を持っておりますから、あれをその片棒をになわしてしまって、国土開発をやらせればこれは非常に経費がかかりません。予備隊の一億何千万の演習費というのは全部農地開発費になります。これは通信から交通、橋をかけたり、道路を作ること、給与、衛生その他すべてが訓練であります。何もいないところに入って行ってこれをやり遂げるだけの部隊装備ができていない限り、あんなのは国防の力はないのでありますから、どこへでも行ける部隊ができておるわけであります。みずから橋も作れる、直せる、道路も作れる、開墾なんか何でもない。それで機械の運転が主体でありますから、土木機械とか、そういう機械がそろったならば、一個連隊とか、一個師団、そこへ行って練習をやりさえすれば、それは演習費からはみ出したものだけが土地改良費になって、両腰でもって進展するのではないか、これは今中共もそういう方法をとって、二つのダムを作って大農地開発をやっております。それをまねするわけではありませんが、せっかくできたものをじゃまにしないで、あの結集した青年の力をもってこの国土開発をやらしてみたらおもしろくないか、これでもできないものなら、これは国防の役には立たないじゃないか、かように考えております。  それからそんなことして一体乳肉が、皆が食って、大体麦を生産するようになるわけでありますから、米産は現在の六千万石ぐらいできればまあいいわけであります。そうすると、一食一回パン食をやって乳肉食にしますと解決するわけであります。それだけさえできるようになりますと、米はもう六千万石以上は要らぬわけでありまして、あとはその麦を主体にした乳肉食をやって行けば解決する。われわれ子供のころ洋服を着てるとハイカラと申しまして、ほとんど着ていませんが、知らぬ間に羊毛もないくせに皆洋服を着ておるようになりました。洋食は、麦を主食することはこれは劣等感ではありませんで、世界の文化、経済の進んだ国民は皆麦食であります。米食民で一体文明国があるかを探して見れば、まあ日本ぐらいが最高でありまして、そういう最低の食生活に何もかじりついておる必要はありませんから、国土はまだ広いのでありますから、そこでこういうもっと進んだ総合の近代農を展開して食糧の解決をしますと、これが非常に災害対策にもなりますし、また結核病なんというものはばい菌を殺したってこれは直りません。サナトリウム療法といって、そういうような地帯へ転地して体質を変えなければ丈夫にならぬのであります。そういうような今みたいな有機生産を主体とした有機農法に転換するというと病気がなくなりまして、家畜が丈夫になり、農作物も丈夫になり、人間も健康になる。そういうことが解決されるのではないかという見通しを、私は八年間あらゆる面から研究しまして主張しているものであります。どうぞ参議院のこの農林委員会でかような基本的な立場から、農業の百年で本何年でもいいのですが、そういうような長期方針というものをまず把握するようにしていただいて、そうして日本の経費の融通し得る限り、また世界銀行というものが大体そういう未開発地帯の援助のためにできておるものであります。日本草地農業においては遺憾ながら夫開発国でありますから、この方面ならばずいぶん金を出してくれます、もっけの幸いであります。今こそそういうようなことと関連いたしまして、そういう方面改革をして行きさえすれば、国民に明るい見通しができてきます。やみ経済というものの瓦解が起ってくるのでありますから、そこに明るい光明を青年に与える、国民にも与える、そういうことによって食糧が安定して行けば、これはだれにも遠慮しないでやれる政策になるのではないかというふうに考えておる次第であります。  はなはだ勝手なことを申し上げまして失礼いたしました。
  17. 江田三郎

    委員長江田三郎君) それじゃ最後に、岡山県の吉岡隆治さん。
  18. 吉岡隆治

    参考人(吉岡隆治君) 私は吉岡隆治と申します。  私は皆さんに先に申し上げておきませんければなりませんことは、五十才になって酪農を始めまして、そうして失敗しまして、そうして酪農は草を作って、そしてそれから乳牛を飼い、その肥料によって田畑を肥やし、またその草を作るのでも畑や飼料作物を作るばかりでなく、山から草を作って、そうして山から食糧をとるというようなやり方にせねばいけぬというようなことから出発いたしまして、山の研究や草苅り場の研究田畑研究を、もう時間で申しますと午後の五時ごろになって始めておることでありまして、もとより学校も中学校を出ただけでありまして、人が五年かかって卒業せられる中学校を、六年もかかって卒業をしたようなしろものでございますから、ここでお話いたしましても、皆さんが十分御納得して下さるようなことには話はできぬと考えます。がしかしながら、ここにおいでの参考人のお方は、齋藤先生を初め川瀬先生は、私が酪農を着手いたしましたときに直接講話を聞かしていただきましたり、著書で教えていただきましたり、またその他の方々は間接に皆著書等で勉強さしていただいて、おられまする方々はまるで私の先生であります。そこにおられまする押野畜産課長も私に酪農を手にとるように教えて下さった方でありますので、まるで先生であります。がしかしながら、私がここに呼ばれたわけは、まるでお話なすった今までのお方は指導者のような方で、私は一番下の百姓であります。この百姓の声をお聞きになるためにお呼びになったのだろうと、こう思います。そこでまあ私は作州の山の間で、山間の酪農を研究いたしました関係上、私がやりましたことを皆さんに率直に申し上げますれば、あるいは皆さんが今度のこの草資源についてのことに関しましても国政に反映して下さることが、あるいはありはいたしませんか、もしありといたしますれば、大へん幸福と考えまして参りましたわけなんであります。  それで最初言わしていただきたいのは、私がここへ参考人として参りましたのにつきましては、岡山県、また私の村の町長、それから普及所、県等から、いろいろと行ったならばこう言ってくれるようにというような注文があります。酪農協会からも注文を受けて実は参りましたのでありまして、遠慮なく実は頼まれたことから先に申し上げまして、最後に私の言いたいことを言わしていただきたいと思います。今度草地改良課ができましたことは、まことにけっこうなことである、これは行ったらもう一番先にお礼を言ってくれ、こういうことでございます。それから牧野改良事業につきまして、助成を打ち切られたそうであります。よう存じませんが、岡山県といたしましても二千万円からの予算を組んでおったのに、やはり機械を含めての二千万円でありまするが、これらの裏づけがないためにやることができぬようになった、こういうことは不都合である、こういうことでありましたから、そういうことが事実でありましたら、どうぞ一つようそういうことのないようにやっていただきたいと思います。  それから牧野改良というようなことは非常に地方の町村の財政の貧弱なところでとうていこれはまかない切れぬことである。これは大いに一つ国の方の力を借りるように申してくれよ、こういうことでございました。  それから牧野改良につきましても、今まで一年、一カ年の打ち切り事業でありますそうでありますが、これをどうぞ一つ二年にやってもらうように、そのわけは第一年から起して牧草の種をまけ、こういう御指導でありまするけれども、まず第一番に、一年度に起してそうしてライ麦のようなものを作ってそうして地ごしらえしてそうして次に第二年度に牧草を植えるというようなやり方でいくのが一番実際的であってこれは効果が上る。今までの一年打ち切り事業を二年になるようにぜひしてもらうようにいうてくれよ、こういうことでございました。  それからこれは皆さんの畜産関係のお方にはちょっと不向きかもしれませんが、これは今日は林務関係のお方がおられぬかと存じますが、もしおられますならばよく聞いていただきたいと思いますが、私は田畑の解放ができたが、田畑を解放して作物を取っていくためにはどうしても西洋の言葉で申しますように家畜なければ農業なしという農業に牛を飼うのに草を作るところがない。関西のように零細農の多い所であの、急斜面の山を利用するものが、その土地利用者も特定の人に限られておるので、また国有林や共有林では思うように利用はできぬからこの山の解放が一つできるように運んでもらうようによういうてくれということ、それでまた特に林務行政につきましても今まではどうもこの牧野を作るのと、林務の方の木を植えるという方と競合的になりまして思うような伸び方はいたしませんようであります。一つの例をあげて申しますると、けさからお話がありましたごとく、耕地の位置を、耕地と申しますよりも、いろいろ土地の位置をもう少し百姓に適するようにやってもらいたい。これは皆さんも申すまでもなく今から二百七、八十年前に熊沢蕃山先生は、人家の周囲に田畑を設けよ、田畑の周囲に採草地を設け、その奥に薪炭林を設け、用材林を深山幽谷に設けよと熊沢蕃山先生がいうておられます。しかるに現在火入れの関係上採草地は、牧野は山の頂上に上っております。そこで熊沢蕃山先生が言われましたように、まず第一に人家の周囲に耕地を設け、その次に採草地もしくは牧野をこしらえてくれなければこれは利用ができぬ。そうしてその奥に薪炭林、用材林を蕃山先生の言われたようにやってもらってくれよ、こういうことでありました。  それから牧野を設けるにつきましても、中国地方の非常に急傾斜の地形の複雑な山地帯と、東北のような原野地帯とを一律の対象にして牧野の考えをしておられることをこれをぜひ是正してもらって、東北は東北流に、関西は関西流に適するような方法を講じていただきたいという注文でありました。そこでこの牧野改良しますにつきましては、どうしても国土改造の見地に立ってやっていただきたいということでありました。  それから牧草専門の試験研究機関を作ってくれるように、また教育の内容についてももっともっと草が作物であるように学校の生徒から一つ再教育してくれるようにということでありました。そうしてこの草というものの改良についても、これを国民運動として展開してもらうようにぜひお願いしておいてくれということでございました。  それから草の種類についても外国牧草のことばかり考えておるが、どうしても日本牧野改良については日本の在来の野草を肥料を施して改良することを怠ってもろうてはならぬということでございましたからどうぞそういう工合に今後はやっていただきたいと思います。また草の種類に関しましても外国のたくさんな種類もありまするが、今日本にありまして家畜の飼料になりまするものは何万年か何千年かはえる理由があってそこにはえておるのでありますから、その草のいいのを残して悪いのを除去して、そしてまた日本の草で悪い点がありますればそれを品種の改良をしていただいて近代畜産学に合致するような品種を作るような方向にもって行ってもらうようにと、こういうことでありました。それでけさからお話がありましたあの緑化運動でもその緑化運動に牧草を込めた緑化運動をやっていただきたい。今までのような開拓事業にいたしましても起して補助金を取るというような結果になっては失敗するから決して今後はそういうことになってはならぬからということも申されました。  それからこれは、一つ私が申し上げたいことは、全国に集約酪農地帯を設けられまするが、赤子の手を引いてそうしてはえば立て立てば歩めの親心で酪農を盛り立てておりまするが、あまりかわいがり過ぎて、愛が過ぎましてどうぞわがままな酪農家ができ上りませぬようにお願いしておきたいと思います。  それから今度は私の方を申させていただきます。私は最初酪農をやりまして草の問題で失敗いたしまして、そうして飼料を山から取らにゃいけぬ、六百万町歩田畑に依存しておったのではいけぬ。二千三百万町歩のうち一千万町歩家畜のために利用してそうして二十五年度の調査による五百九万町歩の耕地を肥やして食糧の自給のできるようにやらねばならぬ、こういう工合に考えましたので、有畜農業、有畜農業と叫ばれましても、果してどんな有畜農業ということは一体どういうことをいうのかというときわめてぼんやりいたしております。私は少しこり性でありますからよく調べてみましたのに昭和二十五年度の農林省の統計で見ますると田畑合せて五百九万町歩あります。それをこれはいろいろな理屈がありまするが、田を作れば廐肥を三百貫、畑を作れば廐肥を三百貫要る。そうすると年間六百貫の廐肥が要る。私が作っておりますのは一町歩でありますが、そうすると一町歩のものを耕やして行くには六千貫の廐肥が要ります。六千貫の廐肥をこしらえるにはどうしても一頭の家畜から一年に二千貫取れるから三頭おらなければならぬ。そういたしますと、日本の五百九万町歩に三頭かけますと一千五百万頭家畜が要ります。当時の調査によりますと日本家畜が三百七十六万頭――これは下は略しますが――おりますので一千五百万頭の家畜が入用ということになります。それから廐肥にいたしましても毎年六百貫ずつ反に施して行きますると三百五億貫要ります。そうしてその当時の三百七十六万頭から生産します廐肥が七十五億貫、二百三十億貫が不足しております。それで一町歩三頭主義の見地と、六百貫反当入れます見地からいたしますと、廐肥が必要廐肥量の四分の一しか必要家畜がおらぬということでありますので、これであるからこそ私は日本食糧の増産が叫ばれて、自給が叫ばれたときに十分に収穫が上らなんだのはこのためだと思います。そこで私は日本の山を一千万町歩、そうしてこれは一町歩から一頭飼えますから、一町歩の草で、それから一町歩田畑からそれを家畜の飼料に一部分するといたしますと、そうすると五百万頭飼えます。そうすると一千五百万頭の家畜が飼えるということになりまするので、私はこういう計算をいたしておりまして、酪農家に皆話しておりますわけであります。それでここにおられます齋藤先生の本邦飼料の研究の昭和九年度の現在によりますると、日本は六十四億貫の厩肥ができておると、昭和九年の現在でありまするが、私は昭和二十五年に計算いたしましたら七十五億貫、大略似た数字が出ておるなと私は一人考えましたわけなんであります。こういう工合で私は耕地と家畜の結び方を一番大切に考えます。それで私の山には採草地にトゲナシアカシヤ、ネム、ヤシャブシ、シラハギ、クズ、イタチハギ等を植えまして、そうして草の増産をいたしております。その詳細はドイツのエンゲルハルトの記事が北海道のデリイマンに出ておりましたから、日本にもドイツの草作りに負けぬように草を作っておるということを昨年十二月号に私は書いておきました。これは申し上げる時間がありませんから略さしていただきます。それで私は特に耕地と家畜の結び方をやかましく申し上げます。それでここに表を持って来ておりますけれども、時間がありませんから申し上げませんが、スイスにいたしましても四頭一分一町歩に対して家畜を持っております。オランダにしても三頭九分、しかもそれは日本より――日本は〇・六、ハンガリーが〇・八、それでやはり家畜の多いところは小麦にしても、燕麦にしてもバレイショにしても収穫が多くあります。家畜をたくさん飼わねばいけぬ。必要な家畜は必要だという結論になります。それからまた日本一の収穫をとる人も皆家畜をたくさん飼うております。標準の三頭ぐらい皆飼うております。千貫ぐらいの厩肥を入れておる人が多いのであります。とにかく厩肥を離れては日本食糧の増産はできません。その食糧の増産をいたしますのにはどうしても私は山と草刈場が、これは百姓言葉で申し上げます、草刈場、田畑、これらが家畜と一緒になって総合的な経営にならなければいかぬ。それをどれ一つ欠けてもいかぬ。山に肥飼料木を植えまして、そうして山を肥やして、それから林木を得、薪炭をそれから得、山から得たものをもって田畑へ入れ、田畑を肥やしてまたそれを人間がちょうだいするというように、山を肥やし、採草地を肥やして、そうして田畑を肥やして人間が肥えてりっぱな生活をやるようにやらなければ、ただ草地農業草地農業といいましても、私は百姓の言う言葉で言わしてもらいたいと思います、決して切り離したものではありません。草地農業といいますと何か別な農業のように考えますが、私はこれは百姓の言う言葉で言わしてもらったのが適当ではなかろうかと考えております、とにかく私は草を離れた農業をやったのではだめだ、かように考えております。それで草を作りまする間にいろいろ考えてみまして、特に私が研究をいたしましたのは、クズの品種改良をいたしましたが、あのクズと言いますものが、節と節との間が非常に長うありまするから、あれでは刈りにくい、あの節と節との間を短うしてくれたらどうなるという注文がありまして、苦心惨たんいたしまして、ついにつるのずっと短かいクズを完成いたしました。それでここに持って来ておりますクズは写真でありますからあとでゆっくり見ていただきたいと思います。これがツルナシクズであります。こういう植木鉢で遂に実がなりました。花が咲き実がなりました。こういう工合に日本牧草も一生懸命にやってやりますれば専門学者でなくても百姓でもできます。ただ百姓はありがたいことには学問がありませんから直感でいくのでございます。この方法をお教えしておきます。私はツルナシクズを作る時分に、どういう工合にやったらいいか、一本々々はえたものを試験をしてやっておったのでは間に合わぬ。午後五時からの人間がやるのでありますから、それで年々何万という実播してはえた中で自分が描いた理想通りのものができたら引き抜こうと思っておりました。ところがそれを始めてから三年目です、理想のものが一本はえた。そこにおりまするが、あれは私の四番目でございまして今農大へ行っておりますが、これが高等学校の時分に……、これがツルナシクズで三寸鉢に入れてこの中にそれがあるのです。できましたので今後私は百姓でもできる、深淵な学問がなくても必要から研究すれば必要なものができるんだ、かように考えております。それで今言葉が足りませんが、山に肥飼料木を植えまして草を増産いたしまするのも、ここに写真がありまするが、こういう工合に隣の地には手を触れておりませんから足が見えるほどの草がはえております。私がやりましたのはこういう工合に草がおい茂っております。これはここにおられます諸先生のおっしゃる通りに私はやりましたからこういう工合にできましたのであります。それで田畑を作るのでも私は技術員さんに見ていただきまして技術員さんの言われる通りにやります。それでりっぱにできます。先生ちょっとやってみたんですけれども二等になりました。けれども私は競争が目的でありませんから競争するのなら全田でこいと私は言います。どの田も厩肥を同じように六百貫ずつやっておりますから地が肥えております。それで乳牛でも、米がとれないではいけません、そうしてとれた米と山の斜面からとった牛乳とまぜて食べますればここにりっぱな理想の体躯ができるんじゃないかと思います。私の理想の体躯……、五尺六寸で体重は十八貫と思います、私がちょうど……参考に……。(笑声)娘をこの間嫁に一人出しましたが五尺六寸あります。もらってくれ手がないかと心配しておりましたが、近ごろは大きい方がいいから大きいのをくれといってもらってくれてありがたいと思っております。それで栄養学の先生が見えまして講演なさるのに、この間アメリカから、ファッション・ショーにアメリカの娘さんを三人連れてきて日本の服を差せてみたところが実にきれいだ、あのようなりっぱなファッション・ショーを見たことがない、そう言われる娘さんの一番背の低いのが何ぼでしたかと言いましたら五尺七寸、日本の一番りっぱなファッション・ショーに出た人は何ぼですか、五尺四寸です。やはり栄養学の先生がおっしゃるには牛乳を飲まなければ背が伸びぬそうです。胴が長い人間ができるそうです、米ばかり食べたのでは。三合食うたらよろしいそうです。あと畜産物をとったらいいのです。あとは草を一生懸命作って、そうして自分のうちが、からだが皆が元気になって強くなると同時に、田畑が肥えて営農をやるためにはどうしても草を作物と考えてやられはいかぬ、理屈じゃありません。台風の多い年には台風のために稲は減産になりまするが、片一方増産になるものがある。それは何だというと草です。雨を持ってくるから草が伸びる、だから減産になれば増産になるものを考えておかなければいかぬ、そこが日本人の今後の頭の使い方だと思います。それでここにおられまする委員長さんが今食事中におっしゃったのに八ケ岳へ行ったところが草の水掛栽培をやっている、うまいことをやっていると言われますが、ところがこの先生は幼い時分から世界に誇る理想的な水掛栽培を見ておられるのでありますが、それがお気づきにならぬのであります。というのは五百九万町歩畦畔にいい工合に水かけになっております、世界に誇る水掛栽培が行われておる。それがために草が年に三回刈れるのであります。それがために和牛でも養われているのであります。それを忘れていたずらに草地農業草地農業と大きなことを言われるのであります。もう少し足元から研究していただかなきゃいけないのでございます。それでもう私は今までは指導者がこうあれ、こうあれとおっしゃるけれどもが、その通り私はいたしますが、今日ここにおいでになるお方にとやかく言うわけではございませんが、ぜひとも草を作物と思って今後日本の草のためによい政治を行なっていただくようにお互い一つ勉強して今までのように米ばかり食うて中風がつくような不健全な栄養の取り方はいたしませんように、りっぱな健康な土地の上に穀菽の、三角形にして考えると、正三角形の底辺を健康な土地改良いたしましたとしまするならば、その上に今までの穀菽を一辺とし、家畜の飼料を一辺とした正三角形の内にまるい十五夜のお月様のようなまるい大きな円が描かれますように国政の上に反映させていただきたいと思います。これをもちまして私の話を終らせていただきます。  いろいろやりましたことにつきましてここに表を持ってきておりますけれども、時間がございませんからあとで御質問にお答えすることにいたします。ここに鉄道線路をクズで改良いたしました写真もきております。それから繁殖の方法なんかもありまするからごらんに入れます。
  19. 江田三郎

    委員長江田三郎君) それでは以上で参考人からのお話は終りますから引き続きまして委員の皆さんからそれぞれ御質疑のある方は御質疑を願います。
  20. 溝口三郎

    溝口三郎君 齋藤さんにお伺いいたしたいと思います。本朝来貴重な御意見を伺いましてありがとうございました。そのことについて私の名前も出ましたので、この際に一つお伺いをいたしておきたい点があるのでございます。それと関連いたしましてお伺いいたしたいのでございますが、先般日本草地研究会の趣意書を齋藤さんから頂いたのであります。齋藤さんはその会長をしておられる。そして研究会としての研究のテーマ等も選定をされて、そのテーマによって現在農林省関係農業試験場の研究を進めておるようです。ますますこれを発展させていく必要があると私は考えておりますが、その趣意書によりまして草地研究会草地と草類だけに限らなんで自給飼料という意味で耕地に導入する飼料作物をも合せて対象にするという趣旨でございまして、その趣旨に対して私は少しも異存がないのですが、本朝からたくさんの方々からお伺いいたしているのでございますが、私、はなはだ、うかつでございますが、草地農業という概念について、どうも明確を欠く点があるのでございます。それは今の趣旨から出発しているのではないか、ただいま吉岡さんからお伺いいたしまして山の草を農業に入れるのだ、そういう草地農業というような考えを伺ったわけでございますが、これは草地農業農業に山の草を入れて行くということなんでございますが、ほかの皆さんのお話を伺ってみましても、草の重要性については、よくわかるのでございますが、皆さんのお話ができるだけ草の資源を開発して行くためには、その土地はすでに牧野でなく畑地に入っている、畑地の中に草を入れて行くのだ、そうしてそれが輪作形態になって行くならば、将来北海道などの開拓にはむろん必要だ、そういう方向へ行くべきではないか。広島の畜産課長さんのお話と思いますが、これは畑地潅漑までやって行くということであります。大多数の御意見が、畑の改良であります。畑作転換というようなことを主として考える、そうすると一反歩で六千貫とか一万貫とれるということになる、そこに関連いたしまして私は訂正していただきたいのですが、けさほどのお話に、齋藤さんの御経験で現在やっていられる牧草改良については反当事業費が一万円から二万円かかるようなお話であった、溝口はそれも耕地としてやるならば二千円くらいで機械を買ってやればできるのに牧草をこしらえるのには機械を入れて一万円以上かけないと牧草の澱粉価が一万円とれない、高過ぎるから、何とかしてもっと安いようにできる方法がないかということが私は重要な問題だと思う。私の申し上げたのは逆なんです。私は齋藤さんに申し上げたかどうかはっきりしないが、この前の委員会のときは、農林省の方にお伺いをした。先ほど福島の種畜牧場長兼松さんからのお話もあったのでありますが、現在上北平野で指導をなさっておられる、そうしてあすこに機械開墾をやってそうして牧草を入れて非常に成績はいいようなのであります。その点について私はこの前、疑問があったから農林省に伺ったのですが、あすこでやっていますのは農林省の計画で言うと一反歩一万四千円の地ならし費用がかかる、そのまわりの牧場でやるのは牧野改良センターで管理しているのは昨年度は一反歩九百円でやった、本年度はそれが二千円ぐらいになった、また牧草の方は同じ土地で耕地と並んでいて十分の一の費用をかけて実際に千貫、二千貫必ずとれている。そうして牧場の評価になるのか、私はそういう評価齋藤さんは、なさっていたが、実際私は一反歩一万円くらいかけないと、一反歩千貫以上の牧草をとるということはむずかしいのではないか、そうなると今後ぜひとも必要な問題は、将来予算等の措置についても十分に農林省は考える必要があると思うが、具体的の例をとって申し上げたのですが、そういう栄養学の方から牧場の評価をやるのなら、一体一万円二万円というものがかかってそうして牧草は一年の澱粉価で百貫目よりとれないのかどうか、長い経験でやっておられるから具体的にお教えをお願いしたいと思います。重要な問題でございますから……。
  21. 齋藤道雄

    参考人齋藤道雄君) 御質問の点は二つあると思います。草地農業の方を申しますと言葉からくる印象はわれわれでも変だと思うのでございますが、従来外国ではグラス・ランド・ファーミングという言葉になっておりますが、これはどうも日本の言葉としては当っていません。溝口さんの御質問のように、今日の参考人の方々はいろいろの広範囲の草地のことをお話しになっております。外国でグラス・ランド・ファーミングが盛んになってきたのは、一つ農業労働生産性の高い方へ向って行くということが一つ一つは、未開墾地の利用という点もありましょう。日本と違って、非常に広い草地のみを考えておる。耕地農業と相対立したようなことになると考えております。われわれの考えておる草地農業は、そういうのじゃありませんで、まだ非常に耕地の中にあき地、未利用地がたくさんある。そこに草を入れる。集約的な草地形態、輪作形態裏作形態、こういうようなことで、そこに草を入れるというような草地農業が中心になっております。その次に、農家に近い所からだんだんと草を入れて行って、畦畔とか河川敷に草を入れる。更に進んで、今やっておりますような農家に近いところの山すそ、あるいは里山に牧草を入れて行って、木と牧草とを入れた混牧林の設置というような例も含めておりまして、外国の言う草地農業とは違ったものでございます。かなり集約度の高いものです。今日お話の中にございましたが、私は草地というものは飼料を出す草を考えております。家畜を維持したり、わらのかわりに作るための草というものじゃない。こういうように高度の技術を入れた草というものを考えなければならない。そこで草に関する技術というものが世界のそれと非常に違う。たとえば、放牧しますと、一頭当り町歩以上の草地を使うような、いわゆる草地農業という問題は日本農業には適しないんじゃないかと思います。ですから、農家のいろんな副産物を利用しながらやる。レンゲだとか、コンモンヴェッチとか、あるいはイタリアンライグラスのようなものを入れていって、翌年の米の増産に役立つような草が入っていくような形ですと、何も一町歩も二町歩も要らない、あるいは一反歩でも、二反歩の草地でも、非常に乳牛を飼うのに役に立つ。そういうような、いわゆる集約的な、耕地に草を入れる、輪作形態に入れる草、こういうのに草地農業という言葉を使うのは非常に誤解を招く。ある人は草地農法と言いますか、草を入れた農法というふうに言うべきだと言う人もあります。草地農業だと、また大なき意味の放牧もおもしろい点がありますが、そういう意味も入れた言葉がないのでございます。日本的な草地農業というものにつきましては、耕地の生産力を高める意味のものと、それから畦畔とか路傍とか、それから農道とかいうもの、あるいは河川敷というものに全部雑草を駆除して牧草を作るような形のものとして集約的に草を活用しなければならぬ。それからさらに進んで、農家の近くのすそ山とか、あるいは里山に木を植えながら草を作っていく。こういう三段階になると思います。ですから、その三段階の技術が要るのじゃないかと思います。今日お話しになった参考人の方々は皆々それぞれ御専門の方でありまして、吉田さんはむしろ大きな広い草地の生態学的な草を改良するための御努力をなすっておる方でございましょう。それから兼松さんは、むしろ両方のアイデア、牧場のような草地を想像されて改良なすっておる。あるいはまたそれを含めながら、いわゆる輪作形態草地というものを考えて論ぜられた方もありますが、こういうように三つの方向に分れるのでございますが、その点をうまくまとめていくためには、それぞれ違った分野において草地の発展をはからなければならぬと思っております。この点がまた日本草地農業の行き方が世界と違う点だと思います。ですから、日本草地農業技術をほんとうに力を入れて進めさせますならば、あるいは外国にない新しい草地農業というものが生まれるのじゃないかと思うのです。日本は二千年前からりっぱな米作国として世界に冠たるものであります。それに今度は草地が入った米作農業というものを考えますと、今、第二期の出発、農業圏、農業国として世界に冠たるものが出てくるんじゃないかという非常に大きな希望と、また喜びを持っているわけです。また草の非常に適しているのは、日本が湿度が高いということ、それから冬非常に寒い所に牧草が非常によくできますから、それで土地をあかさずに、年がら年中使えるという点、使う牧草も一年生の牧草もあり、多年生の牧草もある。たとえば、レンゲとかコンモンヴェッチとか禾本科のオーチャードのようなものを考えなければならない。それから草地農業については、草たけの違うものを考えなければならぬ。採草地では草たけ三尺ぐらいで差しつかえありませんが、放牧地では草たけ五寸か六寸のものを考えなければならぬ。牧草技術もいろいろ多角的に考えなければならぬわけです。草地農業という言葉につきましては、適当な言葉がありませんから、当分今使っておる草地農業という言葉を使いますが、日本に適したいい言葉がありましたら早く考えなければならぬと思います。それから開墾につきましては、お話の通り、傾斜度によって非常に違います。荒地の開墾と、いわゆる開拓地あたりの開墾と非常に違うので、一律に言えない。地形によって違うことです。それから農家から非常に離れているところ、それから開墾費のほかに、施肥だとか、あるいはいろいろな開墾以外の金が要るわけです。牧草代とかいうものを含めまして、多いところは三万円、もっと以上使っておりましょう。それから人力開墾が今までは中心でございますから、傾斜度が十五度ぐらいで木の根の非常に多いところでは三十人か五十人かかる。どうしても一万円から一万五千円かかります。それからそのほかに今度は肥料をやったり整地費がかかりますから、三万円ぐらいになる。ところがこういう点では、最近ではクロレートソーダを使って、反千五百円ぐらいですむのですが、坪当り二十グラムから四十グラムの薬をまきますと、約十日ぐらいで全部笹類は退治できます。こういう非常なケミカルな簡易開墾というものができるようになった。これを私非常に奨めているのですが、それで草が枯れますが、しかし、根が枯れない。そこで溝口さんの御心配になっておるような機械開墾を加えていきますと、機械能率を非常に上ってくるじゃないか、こういう点も考えまして、二千円ぐらいであがる。薬が千五百円ぐらいかかるらしいです。薬では、地上部は枯れてしまいますが、ただ根が枯れません。根が約三割ぐらいから四割残る。そこを今度機械開墾しますと非常に楽にできますから、非常に根の太いところを、抜根費を入れましてせいぜい五千円以内三千円ぐらいの程度であげることができ、また農家の自家労力を提供していくことができますれば非常にわれわれは幸いと思っております。栄養価値の問題といたしまして、私は牧草千貫と思っているのですが、二千貫から四千貫とれるところもありますが、千貫とれると、窒素だけで二貫目の窒素を奪うわけです。二貫目の窒素を奪うわけですから、硫安としてその五倍として十貫目ぐらいの施肥をしなければなりません。このように大へんな窒素を奪うのみならず、そのほかの土壌成分を奪います。千貫程度の目標にしてやっても非常にきき目がある。千貫はふすまの一万円分になるわけでありますから、それでも十分じゃないかと思っております。ですから一万円毎年飼料代がとれるようならば、一万円かけても引き合うじゃないか、もう少し安くなるならば大へん仕事が進むじゃないかと思っております。
  22. 溝口三郎

    溝口三郎君 お話を伺いましてよくわかりました。齋藤さんの御意見も、現在日本で言っております草地農業という定義、概念がはっきりしていない。そこで私は皆様の御意見を伺いまして、数日のうちにこの農林委員会でも何かのまた結論も生むような必要があると思います。そのときにちょっと参考にいたしたいと思うのですが、ただいまのお話によりましても、牧草生産するにプラウやハローを使って一反歩一万円程度はかかるじゃないか。現在それじゃ少し高過ぎる、五、六千円ぐらい、その程度ならば一反歩千貫目ぐらいの牧草をとっても草資源の開発に引き合うようなお話でありましたが、そこで、そういうことになりますと、これを強力に推進していくには、農林省予算措置もそれに合うようにしていかないと、現在のような一反歩去年は千円だった、今年は二千円になった、そういうさっぱり根拠のないことではこれはせっかくこういう問題が出ても進展しないのじゃないか、農家はついて行けないのじゃないかと思う。そこで先ほど吉田さんからも御意見があったのですが、牧野実態について吉田さんの御説明では自然草地――これは雑草や毒草も入っておる――自然草地がある、そして現在いわゆる牧野として農林省で開発をやって行こうと考えておるのはこれはもうすでに高度集約農業牧野と言いますか、それは耕地の状態に入っておるのじゃないかということなんです。私はここに重要な問題があると思う。百三十何万町歩牧野のうちで十何万町歩の集約牧野と言いますか、ここにプラウやハローをかけてやって行くならばもっと私はやはり一町歩あたり二十二トンというような草じゃなくてもっとたくさんの草がとれる、そうして輪作ができて行くのじゃないかということになると、それはもう草地農業という範疇に入ってくるのじゃないか。ここをどうしても牧野は百三十三万町歩というワクをもってその範囲内でやって行こうというからこの飼料作物は耕地の方でやらなければならない。現在の百三十三万町歩は宙ぶらりん、できるだけ金をかけて、一反歩二千円ぐらいかけても一町歩当り二十二トンぐらいの草だけこしらえておるというようなことが私は根本的に一つみんなで検討していただいてほんとうに草資源の開発をして行くにはどういうふうに土地利用をやって行けばいいか、金のかかるものはかかる、そうして牧野という定義をはずしてそれは草地農業ということに行くならば草地農業というものの定義をはっきりきめて行くのでないといつまでたってもはっきりしない点があるからちょっとその点齋藤さんどういうふうにお考えになりますか、その点お伺いしておきたいと思います。
  23. 齋藤道雄

    参考人齋藤道雄君) ただいまのまあ用語からくる一つのいろんな政策的な問題がございますが、これにつきましてはこれはやっぱりそういう専門家と、あるいは法制家と集まって一ぺん草地農業なるものの定義をしなきゃならぬと思っております。それから今お話の抜根や、いわゆる開拓開墾ですが、これが非常に傾斜度によって、木の多い所と違うのでしてね、一律の補助金というものはかなり困難ですから、これはそうかといっていろいろ違う補助金も出しにくいかもしれませんが、少くとも委員会でも作って、Aクラス、Bクラス、Cクラスで非常に簡単にいくところも、ただいま、きょうスライドをごらんに入れますが、十町歩の山ですら、傾斜度、十度、五度くらいのところ、これは非常に簡単なんです。それから傾斜度が三十度くらい、これは階段的にいく、やらなきゃならぬ、非常に骨が折れます、そこでそういうような土質と、それから土質が非常にまた固いところ、岩が出ているところで違います、ただしこれは数段階に分けていただくことが、これは私の突然の考えですが、分けていただいておきめいただくことが必要じゃないかと思うのですが、これは私の考え方です。これはまあ専門家と、それから法制家の方で両方集まって、いわゆる草地造成土地によっていろいろな階段を分ける、これは日本の特徴だと思います。いわゆる平坦な土地がないのですから、そういうところをやらなきゃならぬ、数段階に分けて補助金の出し方をお考えいただきたいと思います。草地農業の定義につきましても農業経営から見て私は三つの型に分けられる。高度の肥沃な土地にも草を入れる、輪作の一部として入れる、これは米の増産に必要だ、それから農家に近い畦畔、農道、河川敷など非常に肥えていながら農地でない土地、それから非常に肥えていなくて土地が非常に悪い山ですね、それもまた数段に分れるのじゃないかと思いますが、こういうようなものを言葉で何で表わすか、いわゆる草地という言葉で表わすか否かということにつきましてはいろいろ研究さしていただきたいと思います。いい宿題をいただきましてありがとうございました。
  24. 田中啓一

    ○田中啓一君 ただいま草地農業とは何ぞやというだいぶ御議論でございましたが、まあこの委員会名前は一応草資源改良造成及び利用増進というような名前で今日多数の方においでを願ったのでありますが、そのお話を願いましたことはみないずれもわれわれが聞かんと欲したるところにみんな当っておるのでありまして、あんまり学問的に草地農業の定義などに日を暮さぬように私はお願いをしたいと思うのであります。これはまた草地農業というようなものの定義ができたからといって、それで一体農林省機構問題も、それからまた補助金の系統の問題も解決されるものとは私は思いません。非常にこれは広範なもので日本農業から林業にかけて、まあいわば革命的な行き方にだんだん持っていくのだというようなことじゃなかろうかと、こう思いますので、私の、これは先に意見を申して恐縮でありますが、それぞれその仕事に適したような言葉を使ってわかればよろしいということでまあとにかくこの方向にぐんぐん推進をみんなでしていくというようなことにぜひ願いたいと私は思って実はおるのでございます。そこでこの問題でいろいろこれまで言われておったこと、解決しなきゃならぬことがありますので、まずそういうことからお伺いしたいのでありますが、従来単位面積から人を養うのには今の直接農業が一番よろしい、つまり直接人間の食べるものを作る方式がよろしいので、その間に家畜に食わせて、それを通して家畜生産物で人を養うということは人は減ってしまう、まあことにカロリーの計算などをやられまして、そうしてどうしてもそれでなきゃいかん、こういう論が実は長い間行われていたように思うのであります。それで端的に申しますと、農地局で先般お出しになりました非常にきれいな土地改良のパンフレットを拝見いたしましても、最初に書いてあることが、そういった意味のことが書いてありまして、これはよく読んでみますと、相当気をつけて書いておりますので、含みもありまして、お書きになった方は、いやそうじゃないと言うて必ず弁明ができるような書き方のようにも思いますけれども、しろうとが読むと一応日本にこれ以上家畜を入れたってだめだ、そんなことをすると人間の方が口が干上っちまうぞと、こういうふうにしろうとには、少くとも誤解が非常に起りやすい書き方だと私は思います。でありますからまず第一に私は農林省としましてはこの点を明らかに一つしていただきたいと思うのであります。そこでまあいろいろ齋藤先生やそれから田垣先生、また田垣先生は栄養学なりそういった方面にも触れてのお話がございましたので、その点はどう解釈し、どう表現をすればはっきりいくか、まあ一つのこれは総合的農林業でございましょうが、それのまあ林じゃなしに農草ですか、業でありましょうが、そういうことをやっていこうということにこの点は明らかにしておかぬとなかなか普及はいたさないと思うのです。でありますから御両氏から一つ見解をまず第一に伺いたい。
  25. 齋藤道雄

    参考人齋藤道雄君) はなはだ失礼でございますがもう一度御質問の重点を。
  26. 田中啓一

    ○田中啓一君 これはつまり単位生産面積から、一反から人間を養うのには直接食べるものを作った方が早いのだ。ことに穀作がいいのだと、それはどうだと……。
  27. 齋藤道雄

    参考人齋藤道雄君) つまり草地農業に対するつまり非常な損な面、日本農業として損ではないかという面ですね、というような耕地利用とかに損だと、これはいわゆる外国の草地農業の与える響きでございましてね、非常に広いところに人間が少いとか、狭いところに人間の多い国に対して草地農業が向かないといういわゆる基礎的な言葉がわれわれの耳に入るのです。そこで今の草地農業の定義が必要になってくるのは、われわれはそういうのじゃないのだ、たとえば水田輪作は北陸や東北、新潟等を見ましても二十万坪の土地裏作にあいている。麦を作るためには結実という一つの現象を得るために長い日数がかかる。麦苔を草のようにして栽培するならば四月の初めに刈り取ればいい。われわれは青刈蕓苔やカブラの問題も入れまして反当りおそらく耕地でしたら四千貫もとれる。裏作地帯になぜ畜産をやらなかったか、そういう土地利用度、あいている土地利用するいわゆる草地農業であります。われわれは米を作って非常に高度集約的な農業をやっている。世界的に冠たる日本農業です。その点がいわゆる従来の農政学者が今までの用語は慎しまなきゃならぬ点は、いわゆる米の高度集約の生産というものはこれはもっと盛んにしなきゃならぬ。しかるに高度集約であるかというと集約でない米の生産がしばしばある。これは東北地方に四十万町歩近くの土地があいている。九月から翌年の五月まであいているんです。これはもったいないのです。そこへ草を植えれば主食をそのままにして家畜が飼養でき、かつまた翌年の米の生産に非常に有利になってくる。この蕓苔にしてもクローバーにしても、米の生産が非常によくなる。そういう意味で草を入れるのだという言葉がないんです。いわゆる在来の草地農業という言葉が、そういう意味で解釈されるのです。そこで田中先生の、われわれの用語の用い方、従来の食糧増産一点張りの、食料増産に対することと思うのですが、それ以外の農業を考えないものに対してわれわれはいい意味の言葉が十分ないことを非常に遺憾に思います。それで日本草地農業というものは米の生産のために必要だということ、またこの米を連作している間にだんだん肥料を多給しまして、硫安をやるために硫酸の被害が出てきて、非常に病気が出ます。秋落ちが非常に多い。この場合に畑作に転換しましてそとに一度草を入れるというふうな形、いわゆる輪作が非常に、年間輪作といいますか、こういうことに米の増産あるいは土地の再起をはかるというような意味の草の力というものを日本農業では再認識しなければならぬ。これは外国人がそれをやっておりません。米の生産の再起の力、湿田の土地を乾田化しましてそうして潜在性の地力を出すということは草によって出す、あるいは草を入れると根が非常にこまかいものですから、翌年の米が非常に土地の団粒構造を作るというのが今大きな問題になっております。その問題のために土地改良ができる。その面で草が利用されるというのはおそらく世界にないんです。そういう意味の集約の米生産に対する草の必要性という問題を、従来の草地農業という言葉では説明できない。この点は一つ十分御理解を願って、私ども何という言葉を使っていいか、いわゆる日本草地農業、こういう簡単な言葉しか使いませんが、やはりそこで用語というものが今後行政上に与える影響というものは御熱心にやっていただきましても、日本の国情に合わぬじゃないかという言葉をもっていられると、少し時間を加えて説明しなきゃならぬ。この点は日本草地農業の非常な奨励の言葉がない。しかしほんとうに確立したならばこれはまた大した強いものになると思いますが、こういう点で田中先生もぜひ一般の誤解を解くためのわれわれの行動、努力に対しまして一そうまた御援助をいただきたいと思っております。非常に私どもは苦しんでいる言葉です。  それから草地農業は広い土地を要する。われわれは狭い土地でやるのですから、まず裏作を中心として、東北と北陸で六千万町歩ぐらいあるんです。これはわれわれ湿田を乾田化しなければならぬ、こういう点に草を入れるというような形の草を考えておりますから、ここで水田の生産に非常に役立つ草がある。それから麦の生産に役立つ草、麦の間にレンゲソウを入れる。岡山県でやっておる。麦の生産が非常に盛んになる。こういうような食糧増産を最も援助することのできる草、それから人間の食糧を奪わない草、それから空地が非常に多いこと、これは日本人がつまり気がつかない。低いところでしか農業をやらない民族でありますから、高いところは非常にたくさんの土地が余っている。そこへも入れていくのだと、こういうようなことで従来の食糧生産は微動だにしない、かつまた食糧生産を二割か三割増したいとわれわれは思っております。そういうような努力を加えておりますことを十分御理解下さいまして、それからまた放牧のことですが、放牧は私らもやはり必要だと思っております。これは草を刈り取って与えるよりも、もっと放牧の方が草の栄養価が違う。同じ草でも放牧しますと根とか芽を食うんです。そこで刈り取った草と、放牧した同じ草地の方を食うのと虫の発生が非常に違う。食べる草が違う。これはいろいろ研究してみますと、食べる草を刈ってやりますと全部食うのです。それからその草地を放牧にすると若い芽ばかり食うんです。食ったあとが非常にはえがいい。そこで放牧的なその草の利用ということも集約地帯にできる。たとえば畦畔に牛を持っていって放牧する。放牧なんという言葉は広い草地ならばできるけれども日本で可能かというと、できると私は思う。そこで私はその場合に時間放牧ということを言う。一時間でも三十分でも放放する。それから刈り草も与える、こういうような非常な畦畔とか農道とか輪作地にも、牛をたとえば一時間行って日光に当てながら草を食わせると、非常にビタミンの含量が違う、こういうような集約耕地における放放という問題が十分に日本でできる。これを時間放牧あるいは繋牧という言葉があります。こういう面もやはり専門の用語をもちまして、耕地の高度利用という意味に草が非常に生きてくるというのでございまして、今後これは草地農業の伸展と、非常な農民に対してもあるいは農政者に対しあるいは米増産に御努力なすっておる方に対してもわれわれの言葉をもう少しうまく説明する時間が必要じゃないかと思うのでございます。
  28. 田垣住雄

    参考人田垣住雄君) 経済の問題でありますが、草地経営と耕種農業との経済関係の点を申し上げます。林産というものは一ぺん整地をして植樹をしますと、三十年、五十年という空間時代があるわけであります。それから草作というものは一ぺん植えつけますと、五年から十年そのままでいいのであります。空間が短かいのであります。それだけ林業より草業の方が循環が早いのであります。耕種農業というのは御承知のように、春まいて秋とるという単純な農業でありまして、二毛作、三毛作をやっておる農地帯では一年中使っておりますが、しかしそれだけに肥力を奪うのであります。それから単作地帯では遺憾ながら北海道では三、四カ月農地を使っておるだけであります。それで北海道に八十万町歩の耕地があるといっても内地の四十万町歩以下の生産力しか上らないのであります。そういうのでありまして、さらに毎年々々耕耘をしては種をまいて草をとってやっていくという、この経営というものは金がかかるのであります。草地のように初度費はかかるのでありますが、数年は追肥をやるぐらいで済むのでありますから、これを年割りにしますというと、経費はかからなくなるのであります。一番貧乏な人間はみな木を植えてキリを植えておくと娘が生まれて嫁に行くころはそれが売れるという経済をやったわけであります。しかし使用が多いほどこの循環率の低い産業でありまして、人口吸収力の乏しい産業であります。日本の国土がそんな産業が七、八割を占めておるということが人口過剰に苦んでおる姿が起ってきたわけであります。そこで今まで二千年もかかって田畑を一生懸命作ってみたが、五、六百万町歩しかできてない。そこへ無理してまた皆がそれ造田だ、畑だということをやって増産をはかっておりますから、北海道の状況から申しますと、無理なところに耕種農業を進めておりますから、十年たっても農民がふえるだけで増産は起りません。五年ぐらいは食糧を送ってやらなければならない農民になってしまいます。日本は今六百万戸農家がありますが、商品生産をしておるのは三百万戸しかありません。北海道でさえすでに商品生産のできない農民がおる。こういうような農家をいかにふやしてみたところで食糧問題は解決しないわけであります。それでありますからどうしても農地を拡大しなければならぬ。それで今までの農業では開発できないで、非常に金がかかってもこれはやらなければならぬと思う。先ほど申し上げましたように、石油、石炭のカロリーと同じものを、生産を上げるのであります、家畜の換算によりまして――、澱粉と違って、石油、石炭は今だんだん枯渇して参りまして、あれを掘り出すのにどれだけ金を入れておりますか。一つの炭鉱に三億、五億という増資をしておるじゃありませんか。そうして石炭を掘り出しておるのであります。その原理は同じなんですから、そのくらいの金を草地につぎ込まない限り、石油、石炭とひとしいカロリーの生産というものは上って参りませんということをよく認識していただきたいと思います。  それから太陽のエネルギーというものを基準にして申し上げますと、百平方キロメートルに注がれる太陽エネルギーの地球吸着力を一陽年と大体単位をつけますが、一陽年の太陽エネルギーによって米産が反収が一番多いのであります。これは日本ではどれくらいのエネルギーで米になっていくかということを換算して参りますと、一番いいところで一・六ミリ陽年というものになります。千分の一の零コンマでありますから、太陽年によると、一万分の幾つというものが食糧になるわけであります。それで平均しますと、石数がみな違いますから、日本の反収水田作、稲作の平均吸着能力というものは〇・六ミリ陽年であります。それから森林の吸着力は〇・一ないし〇・三ミリ陽年、草地が現在換算しますと〇・二ミリ陽年くらいであります。そういうことになりますから、先ほど私が申し上げましたように、六百万町歩で六千人養えるのでありますが、あと草地農業を多く加入した種畜、有畜農業地帯では二倍の面積が要ることになります。これはここで耕地もあるし、草地もあるし、森林もできます。それからあとの八百万町歩の種畜農業、有畜農業という山野の開発は四分の一ないし八分の一しか吸着できません。この熱量をもって食糧に換算する態勢が整わない、それが経済の差でありまして、そういう低位生産地帯に投資をして世界の人口の増加に伴う食糧を解決しようというものが世界銀行の使命で立ったものでありますから、それで結局地球の面積に耕地というものは一割しかないわけであります。耕地で地球の人間はもう養えませんから、二〇%ある草地帯の農業というものはヨーロッパでも、ヨーロッパはもうすでにそうなっているかと思ったのでありますが、最近十年か二十年の間に非常な勢いで進歩し、豪州でもニュージーランドでも、アメリカは最も進歩して過剰生産にまでいってしまったのですが、そういうような政策を見ますというと、みな総合農業経営でありますから、私はそういうのを総括して言うときにはこれを近代農法という名前で表現いたしております。それで昔の牧畜文明に還元するのではありません。昔の牧畜文明、木材文明という姿は原始的産業の反射生活であります。しかし今叫んでいるところの草地農業を加えたところの農林業というものは反射経済ではありません。経営的な知能経済になるのであります。その知能によって十本草がはえているところを百本ふやすようにします。一尺しか伸びないところを一尺五寸に伸びるようにしますと、現在の農耕地で一、二割の増産を上げるには非常に費用を要します。しかし草地に少し肥料をやれば、さっきお話がありましたように、石灰とか燐酸とかいうものをやりますと、これは十倍、二十倍というものは世界の、日本より悪い気象地勢でそういう実験ができておりますから、それらを取り入れれば、今専門家がたくさん集まっておられまして研究をし、それらを取り入れさえすればおそらく解決していくのではないか、研究問題も必要でありますが、とにかく差し迫っているのであります。一年おくれれば一千億円か二千億で外国から米を買わなければならぬばかげた話になっておるのでありますから、そういうところを何とか早く解決するように研究をしながら実行のできるところは手を打って、その中の一割使っても二百億ぐらいは出るのでありますから、そういうようなものでそういうところの開発をやって国民に明るい政治を持ち込んでいったならば、これは青年も奮起してどんどんやってくれるのではないかと私は考えておるのであります。経済価値というものがさっきこちらからも御質問があったようでありますが、耕地の経済価値というものは、草地林地の経済価値というものはそういうような観点で見なければなりませんし、草地を開発するというような経費を個人に負担させたならば、これはとうてい現在の農民の段階では実行ができません。会社でもできないと思います。金融の方法なりいろいろの国家の方法によって国民食糧解決という国策の線でこれをやらないと、そういう目立つような解決はあげられないと思います。ニュージーランドでも最近十五年間ほどに七十五万町歩のやぶを牧草地に変えております。それからデンマークはこの二十世紀になりましてから不毛の地を開発して百三十万町歩農地をふやして現在三百五十万町歩になっております。戦争に負けたとき南部の二州を失いまして一番いい所を三分の一取られてしまった。それで一番貧困な生活に入った。これではいけないというので、もう悪い所にまず草を植えて、草を植えると、草そのものが先ほど齋藤先生からお話があったように、草の力でだんだん土地がよくなってくる。北海道の農業が、ここで百姓しておって、そうしてここができなくなるとこっちをやる、十年もたつとまた戻ってくる。この間に自然に草がはえておってよくなる。ましてここで人工で耕作をしたならば早くよくなるという自然の有能生活というのをやっておったわけであります。これを人工でもっと循環速度を速めるというのが経営の力になると私は存じております。外国はみなそういうようなことによって人口の食糧問題を国土内に解決する。国土内に解決するにおいて損になるようなものは、輸入した方がいいものは輸入した方がいいということはもちろんと思いますが、しかし輸入量が過大なほどめんどうなことになりますし、押えられておりますから、そういう関係でやはりこの際は人口増殖に伴う食糧生産政策ぐらいは立てなければならないのではないかと私は考えております。それで大体経済関係の数字的のことと経営関係が御理解願えるかと存じます。
  29. 田中啓一

    ○田中啓一君 両先生から伺いまして私はわかりましたが、これはなかなかわからぬと思うのであります。でありますから、やはりこれは農林省が責任だと私は思うのであります。でありますから、一つ現在農林省もいろいろ草地改良課を作られたり、あるいは審議室等でも熱心にこの方向に向って推進をしておられるのでありますが、今の点もやはり書きものにして、あらゆる農業関係者にお出しになる必要があるのじゃないか。どうしてもその迂回生産をやっては損だという頭が私はなかなか抜け切れないと思います。私ども地方を回りましても、その論をいきなり知事さん初めやりまして、それでもう一蹴されてしまう。なかなか一蹴はされませんけれども議論になってしまう。だからこの今農林省が企てておられる向きになかなか向かないと私は思うのであります。でありますから、これを一つお願いしたいと思うのであります。次にこれに関係しまして、農林省としてはそういう着眼で、今度の根釧、上北の開墾計画と申しますか、入植計画ができ上りまして、すでにもう受け持ちの公団までできてやる段階になったのでございますが、その肝心の、一応そのある部分を牧草畑でスタートするわけでありますから、それをするのに金が一体幾らかかるのだということで、溝口さんは先般から非常に御心配で、どうもさっぱりはっきりいかぬじゃないかということで、今も御質問であったと思いますから、それらの点を中心といたしまして、幸いこういったきょうお聞きしましたような、その方面の権威者がですね、日本にはなかなかおられるわけです、これから研究せんでもそこまで相当進んでおると思うのですね。でありますから、新農地局長としましてはですね、さようでありますから、今からでもまだおそくはありませんからね、一ぺんあれをこういう先生方に見せたり、あるいはその現地にも行ってもらうなりして、兼松さんは前から御関係があったと思うのでありますが、私もこの間行って参りましておよそ現地もよくわかりました。結局もとの馬の放牧地か、さもなければ海岸のあまり急傾斜ではない、急傾斜のところはこれは木を植えなければならぬことはわかり切っておりますから問題はございませんが、このなだらかな起伏のところに、今黒松が一あまり大きな黒松ではございませんが、線香を立てたように植わっておるわけであります。それを切って、そして風よけ林だけは残して、そして酪農を主にしたここへ農家を入れようと、こういうまあ、御計画であるんであります。しかもこれは至れり尽せりの一応計画なんであります。これまでのような原始的なやり方ではないので、非常にまあ、機械も使えば資金も使うというやり方でありまして、非常にいいと思いますが、やはりこういうことに、今日ここで御開陳を願いましたような経験、知識を持っておられる方たちの目を通す、そしてまだ足らないところは直すとか、つけ加えるとかいうようなことをなすったならば、非常に有意義じゃないかと、こう私は思うんでございますが、これはもう、かわられたといってもついこの間のことですから、新旧両方の局長から一つ見解を伺えれば非常に、今日は参考人じゃございませんけれども、幸いいらっしゃるから御意見でもお伺いしたいと思います。
  30. 江田三郎

    委員長江田三郎君) 新局長はおられませんから旧局長から……。
  31. 田中啓一

    ○田中啓一君 旧局長でもよろしいです。
  32. 渡部伍良

    説明員(渡部伍良君) 今朝来、諸先生方の、あるいは実地体験せられた方のお話を承わって非常に教えられるところがありました。機械開墾を始めるときにやはりお話のあったようなことがあらゆる方面から問題になりまして、法律御審議の際にも申し上げましたように、相当広い先生方、試験場、大学の方から伺ったのであります。しかし本日はまた違った方面の方々からもいろいろなお話がございました。私今度畜産局長になりますと、牛を入れる担当になりますので、それがこういった機会に本日参考人としておいでになった方々の非常に心強いお話を承わりまして、これは草資源農林省の協議会の中にこの先生方の数人に御助力願っております。できるだけ早い機会に現地等も見ていただくように私どもの方でこの審議会を通じ、あるいはまた局としてもやってみたいと思います。御承知のように法律審議の途中に明確にお答えできなかった点等も今日のお話を聞きまして、あるいはその後、先ほども兼松牧場長からお話がありましたし、それから私数日前に根釧の草改良の今年の試験の結果も伺いました。それについても相当自信をつけて来ております。来年から実際に起しにかかります。その起し方等についても、あるいはこの肥料のやり方等についても今日いろいろな有意義なお話を実地に御体験せられている方から伺いましたので、さっそくこれは私の方でも利用したいと、こういうふうに考えますので、よろしくお願いいたします。
  33. 田中啓一

    ○田中啓一君 大へん私もそういうお考え方を伺いまして喜ぶわけでありますが、そこで農林省としましてはまず隗より始めよという問題が一つあるわけであります。実は私昨年北海道の十勝の試験場を見て痛感いたしたのでありますが、あそこは三千町歩土地がありまして、それから原始林もございますと言って誇っておられるわけであります。十分に土地生産性を発揮しておらぬと私は思うのであります。今日田垣さんでございましたか、あるいはほかの方であったかもしれませんが、モデル地区を作れというお話がずいぶん出ておりました。あそこなどはモデル地区を作るべき一番好適地じゃないか、北海道だけを見ましても十勝のほかに数カ所も農林省の試験場があり、東北にもあり、国内各地幾つか存じませんが、相当な数になると思うのであります。でありますから、一つ農林省は林野庁を初めとして総力をあげてあそこの中に一つ土地区分をやられるのですな。もうそれは木を植えなければならぬところもずいぶんあります。それから原始林だから放って置いてもいいというものじゃないのでありまして、人のところは開発しなければならぬがおれのところはいつまでも原始林でいいということはないと思うのです。やはり土地は経済的に利用すべきだと思います。それですからそれをやるにはもちろん金はかかると思いますが、その投資というものは、おそらくその結果は非常に有効な生産性の発揮として、十分に投下資本に対して経済効果を上げられようと私は思うのであります。でありますからそういうことを一つ着々やっていただきたい。これはどういう御見解になりましょうか、なられたばかりでこれらは私はどんな事情かも御存知ないかと思うのでありますが、これは地図を見てもすぐわかるのです。で、去年私が十勝へ行きましたわけは、北海道の輪作の一環としてもっとビートを入れるべきじゃないかということを考えて北海道に行ったのであります。でありますから、これを一つやっていただきたいと私は思うのでありますが、一つ見解をおっしゃっていただきたい。これが一つと、それから……。
  34. 江田三郎

    委員長江田三郎君) ちょっと田中君、せっかくですから、なるべく参考人の方に御質問がありましたら……。
  35. 田中啓一

    ○田中啓一君 それではそれはあとにいたしましょう。  そうしますと、あとは私は川瀬さんにお伺いしたいのでありますが、川瀬さんは戦争中に河川の堤防とか、いわゆる河川の洪水敷とかいうものを利用して家畜を飼えないか、こういうことの命令を受けて岐阜県へおいで下すったのでありまして、そうしてみずから堤防の小段に家畜を飼う場所を作っておやりになっておったのでございますが、問題は――要するに河川敷でありますから――堤防の洪水敷をいつまでもそんなことをしているのはいかぬという問題も起っているやに聞くのであります。しかし堤防にまず牧草をまく、あるいは洪水敷に牧草をまく。私の方は洪水敷に牧草どころではない、実は耕種農業をやっておるのでありまして、三年に一ぺんでもとれさえすれば得だということで、肥料は要りませんし、それから供出はないし、土地代金は要らんしということで、ただ作りみたいなつもりで大いにやっておる。その面積は、私は木曽川、長良川、揖斐川みんな入れたら数千町歩になるのではないかと思っておりますが、そういうことをやっておるところであります。そうして、その一部で熱心に、まあしかられようがなにしようが、とにかく牧草をまいてやっておる。耕作をするよりは牧草を河川敷でやるならばやかましく言わないというような調子で、農林省も力を入れておられるのでありますが、これは一体問題は堤防でございましょうかね、どういうことになりましょうか。そこへ牧草をまいて、牛を放っておいたならば、非常に堤防というものは悪くなるものでありましょうか、よくなるものでありましょうか、これを一つ承わりたい。これは至るところにあるのです。
  36. 川瀬勇

    参考人川瀬勇君) 今の田中先生の御質問でありますが、第一に、現在堤防というものに建設省の方では禾本科の稲に以た類の草は植えてもかまわないけれども、豆科のものを持ってきてくれるな、こういうことを言っているのであります。豆科と申しますと、大体クローバーでありますとか、そういうような類であります。それではなぜ豆科のものを持ってくれば建設省側としては悪いかということになりますと、建設省側の言い分は、豆科のものはどうも堤防の地盤をゆるめる傾向にある、だからこれを持ってくるな、こういうふうな御意見らしいのであります。ところが、これに関する適切な研究はいまだないのであります。僕らはむしろ豆科を持ってきて根を固めた方が、非常に固くなりまして、かつまた豆科というものは根の張り方が非常にエロージョンコントロールに対していいので、かえっていいのじゃないかと思っておるのでありますが、この見解がどうも反対で、堤防にはそういうふうな護岸の都合上持ってきてくれるな、禾本科だったら許そう、こういうふうなわけでありまして、これはさっき申しましたように、まだはっきりした研究はなく、私らの見解としては、むしろ豆科とか禾本科とかという必要はないんじゃないかと、こう思っております。  それから平らかなところの洪水敷につきましては、これは建設省も豆科を持ってきても禾本科を持ってきてもいいということになっておりますので、これは何にも問題じゃありません。ところが、次の問題といたしまして、牛なんかが堤防に上りますときには相当悪いんじゃないかという問題になりますと、やはりこれはあまり堤防の急傾斜地に上りますと、ひずめで相当やはり堤防が害されます。従って、これをなくしようと思うなれば、堤防のすそに垣をするなり、あるいは万一放牧する場合には、適当なところに牛の歩く道を作るというふうなことを考えるべきだと思うのであります。さてこの問題に関しましても、なかなかむずかしい問題がありまして、私の方でも垣をさせてくれと言って、私はコンクリートの垣を何百本持っておりますし、それから八番線も張るのに用意しておるのでありますが、これを張らしてくれないのであります。ここにはむずかしい問題があると思うのであります。それから牛が上ったり下ったりする道をつける問題でありますが、これもなかなかむずかしい問題で、作らしてくれればいいのに、作らしてくれない、こういうようなことがあるのであります。このところの指導面が畜産課と土木課との間で常にいろいろな点において摩擦を起しておるのではないかと思うのであります。もっと私はこの問題をよく各県において提携されまして、畜産課は一方で奨励しながら、そういうふうに土木部関係で制約するというふうな問題になっておりますので、ここに何度の坂を作れ、それに対しては畜産課はそれじゃ何分の一の費用を出してやろうとか、あるいはコンクリートの何か垣のようなものでも支給してやるとか何とか、そういうような、あまりこうしてはいかぬ、ああしてはいかぬということばかり言わずに、こうしろ、ああしろということをもっと日本畜産課あるいは土木課あたりで大いに奨励すべきであると思うのですが、どうも禁止条例が多くて、奨励条例が非常に少い、こういうふうなことがあるのであります。そういうふうなわけでありまして、今の御質問に対するお答えは、洪水敷の平らかなところはどんなものでもかまわないけれども、堤防の傾斜地に関しましては、豆科、禾本科というのでちょっと土木課側と畜産課側とで意見の合わないところがある。それから堤防の傾斜地に、牛を放しますと、急傾斜地ではやはり悪いように思う。これは適当な便法を講ずべきであろう、こういうようなお答えであります。それから私の問題は、私が現在堤防の小段に住宅並びに試験するところの小屋及び牛舎を持っておりますが、これがまあちょっと問題になっておるというふうな程度でございます。
  37. 齋藤道雄

    参考人齋藤道雄君) 田中さんの御質問の中に、具体的な米を作った方がいいか作らない方がいいかという問題が含まれておったように思いまして、実は計算してみたのです。私は日本のような風土ではやはり米を作らなければならぬと思っております、ことに日本の米の技術というものは世界に冠たるものですから。ただし、米は四カ月から五カ月しか土地利用しておりませんですね。一年は十二カ月でありますから、その間米の前後作に畜産を入れたら有利だというお話を申し上げたのですが、さらに今計算したら、一石五斗しかできないような低位生産地において米を作った方がいいか作らない方がいいかという問題がここにあるのですが、二石、三石とれるようなところはやはり米を作った方がいいと思います。一石五斗の場合、これが目方で七十五貫ということになるのですね。それから乳は、そういうところには乳牛をやったらどうかというのですが、そうすると二反歩の裏作で完全に乳牛一頭飼えます。暖い地方ですと一反歩で乳牛一頭飼えますが、かりに二反歩で飼いますとして、二十石の牛乳を生産するというと、一反歩十石ということになります。これは目方で五百貫で、固形物が五十五貫ございます。米の方は一石五斗の場合に目方が七十五貫ですが、牛乳の場合は十石で目方が五百貫ですから、その中の固形物が一一%として五十五貫になる。ところが、その五十五貫の固形物の中には脂肪が三分の一ありますから、カロリーとしてはほとんど同じくらいになりますが、しかし、米の方だと蛋白質が七十五貫の固形物のうちの十分の一であるから七貫五百しかないが、牛乳の方は五十五貫の固形物のうち三五%くらいあるから二十貫近くあるわけで、そうすると蛋白質が三倍になります。こういう低位生産地の場合乳牛がいいか米がいいかということは相当考えていいのではないかと思います。ただ繰り返して申しますが、私はこの集約な日本の米作に対しては、米をうんと推進するということについては一つも変っておりません。
  38. 江田三郎

    委員長江田三郎君) ほかにございませんか……、私ちょっと吉田さんにお尋ねしたいのですけれども、先ほどのお話の中に、牧草を作っていくということは経済性から見て和牛や馬では成り立たないのではないかと、こういうようなお言葉だったと思うのですが、なお広島の押野課長のお話では、鶏や豚や和牛にも牧草利用できるのではないか、こういう点はもうちょっと詳しくお聞きしたら幸いだと思います。
  39. 吉田重治

    参考人吉田重治君) ただいまの和牛だとか、馬の生産育成の場合に牧草地では不向きではないか、これは理論的にはいい草ほど能率的でありますからしでいいのでございますが、従来の実際面を見て参りますと、やはり今日の、あるいはまた在来の馬の価格、牛の価格、そういったものから割り出しますというと、牧草地を作りますときは国の補助なんかありますからよろしいのでございますが、これを維持していく、これが非常に大へんなのでございます。先ほど齋藤先生もおっしゃったように、かなりな窒素を土地から吸収いたします。そういたしますと、硫安にしまして少くとも十貫ぐらいの窒素肥料を入れなければならない。そういうふうなことは今日まで非集約的な牧野においてすら行われておらない、略奪ばかりやっておる、結局は牧野の犠牲において畜産経営が成り立っておる、こういう実際の状態なんです。そういうところから考えまして、理論的には能率のいい草を作る、集約的な草地を作っていく、これはもちろんけっこうなのでありますが、農家の実際問題としましては非常にむずかしいのではないかと、こういうふうなことでございます。
  40. 押野芳夫

    参考人(押野芳夫君) 私の先ほど申し上げました和牛、豚、あるいは綿羊も同様でありますし、鶏までこれの利用価値があるのではないかと申し上げましたのは、もちろん旧来の牧野と言われるものは、今までの粗放な和牛の飼い方、子供も生産も隔年にやるようなことでありますならば、岡山の千屋というあたりがそういう状況だったのであります。そういうやり方ですけれども、今後の和牛も単に役畜というような考えではだめではないか、むしろ私は和牛は肉牛であるというふうな観点を持っておるのでありまして、今日牛乳のことを非常にやかましく言われるようになりましたけれども、実際の生活を見ましたときに、食肉の国民に与えるところの栄養価というものは莫大なものであります。これの生産をもっと低廉にし、もっと豊富にしなくちゃならないという立場に立たなければならぬと思うのであります。ところが、今までは肥育をやりまするのに麦を食わせ、はなはだしいところでは米までも食わせておる。中には同じ米でももち米の方がいいんだというようなやり方をやっているところもあるのでありまして、そういうふうなやり方は、高価な有閑階級の人が食べるような肉を作る和牛なのでありますけれども、今後の食べものは、ああいうふうなぜいたくなものでなくても、もっといわゆる良質の、そして低廉なものを供給しなくちゃならない。そうしますると、生産費を下げなくちゃならない。従って、これをやるのには濃厚飼料にかわるところのえさを持ってこなくちゃならない。たとえばクローバーというようなものを利用する、良質の飼料を栽培してこれを利用するならば、もっと低廉な肉というものが供給されるであろうという見解を持っておるのであります。それから鶏なんかも、実際において最近は三割程度草を、ミンチにかけまして与える研究が進んでおるのであります。そして卵の生産もほとんど変りなく、そうして内容におきましては、卵黄の薄いものではない、非常に濃い卵を供給して、鶏も常に丈夫であるというようなやり方の研究が進んでいるようであります。豚におきましても、繁殖等はもちろんのこと、クローバーをやりますというと、かつて私が場長生活をしておりましたときに、いつも生産が失敗しない、子供を生ませることが失敗しない、肉を作るにいたしましても、やはりりっぱなビタミンを含んだところの肉を生産することができるのではなかろうかということを考えておるものですから、良質の飼料というものを各家畜にこれを利用しなくてはならぬ。もちろんこれを作りますのには土地を培養しなくちゃなりませんが、その培養源は山から持ってこなければならない。その山の方は、飼肥料木の植栽とか、あるいは今後におきましては、石灰はもちろんのこと、肥料をも山に上げてやらなければならぬじゃなかろうかというふうに思うのであります。日本の耕地に対する肥料の使い方は世界で一番多いのでございます。ざっと見て倍ほど使っておるのじゃなかろうかというふうにも考えられます。これを山の高いところから逐次使ってきて下の方に落してくるという考え方を持たなくてはならぬのじゃないだろうかという見解のもとに申し上げたのであります。
  41. 江田三郎

    委員長江田三郎君) ちょっと速記をやめて。   〔速記中止〕
  42. 江田三郎

    委員長江田三郎君) 速記を始めて。  それでは以上をもちまして本日の参考人を中心としての質疑を終ることにいたします。どうも大へん貴重な御意見を聞かしていただきましてありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。  では本日はこれをもって散会いたします。    午後三時五十九分散会